さいたま地方裁判所 平成10年(行ウ)38号 判決 2003年5月21日
甲事件原告
X1
乙事件原告
X2
上記2名訴訟代理人弁護士
柴崎栄一
同
椿正隆
同
井上清彦
同
山﨑祐史
甲・乙事件被告
さいたま市長 相川宗一
同訴訟代理人弁護士
馬橋隆紀
同
岡本弘哉
被告補助参加人
Z
同訴訟代理人弁護士
河原勢自
同
辻村公寛
主文
1 甲事件原告及び乙事件原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用(参加によって生じた費用も含む。)は、甲事件原告及び乙事件原告の負担とする。
事実及び理由
第1 当事者の申立て
1 請求の趣旨
(1) 埼玉県知事が別紙物件目録記載1及び2の土地につき昭和33年9月18日に行った道路位置指定処分(指定番号第54号)が無効であることを確認する。
(2) 訴訟費用は被告の負担とする。
2 請求の趣旨に対する答弁
主文同旨
第2 事案の概要
1 事案の要旨
本件は、原告らにおいて、埼玉県知事が建築基準法(昭和34年法律第156号による改正前のもの)42条1項5号に基づき昭和33年9月18日にした道路位置指定処分(指定番号第54号。以下「本件指定処分」という。また、本件指定処分により位置指定された道路を「本件位置指定道路」という。)は、範囲が不明であり、かつ、本件位置指定道路の敷地所有者である原告らの被相続人Aの承諾を欠いてされたものであり、その結果、原告らは、本件指定処分により自己の所有地の一部について違法に道路位置指定がされているとして、同処分の無効の確認を求めた事案である。
2 争いのない事実等
以下の事実は、当事者間に争いがないか、証拠及び弁論の全趣旨によって容易に認定できる(証拠により認定した事実については、その末尾の括弧内に認定に用いた証拠を適宜掲げる。)。
(1) 当事者及び本件土地等
ア 本件土地145
(ア) Aは、昭和33年9月18日当時、別紙物件目録記載1の土地(以下「本件土地145―1」という。)及び同目録記載2の土地(以下「本件土地145―2」という。)を所有していた。
なお、上記当時は、本件土地145―1、と本件土地145―2は1筆の土地であった(以下、本件土地145―1と本件土地145―2を併せた1筆の土地を「本件土地145」ということがある。)。(〔証拠略〕)
(イ) 甲事件原告X1及び乙事件原告X2は、父Aと母Bらの子である。(〔証拠略〕)
Aは平成4年2月9日に、Bらは平成9年12月24日に死亡した。原告X1及び原告X2を含むBらの相続人は、遺産分割協議により、平成11年2月9日に本件土地145を本件土地145―1と本件土地145―2の2筆に分筆し、原告X2が前者を、原告X1が後者を相続した。(〔証拠略〕)
イ 本件土地146
Aは、昭和33年9月18日当時、別紙物件目録記載3ないし5の土地(当時、これらの土地は1筆の土地であり、以下、同目録記載3ないし5を併せた1筆の土地を「本件土地146」、ということがある。)を所有していた。(〔証拠略〕)
同人は、上記当時、本件土地146及び本件土地145の一部(別紙図面3のabcdefgaの各点を結んだ線で囲まれた部分)をCに賃貸し、同人はその借地上の居住建物において、その子であるDらと居住していた(以下、CないしDがAから賃借していた土地を「本件借地」という。)。
なお、現在の本件借地の範囲は、本件土地146及び本件土地145の一部(別紙図面3のabcdehgaの各点を結んだ線で囲まれた部分91.72平方メートル。)である。(〔証拠略〕)
ウ 被告補助参加人Z及び本件土地149
被告補助参加人Z(以下「参加人」という。)は、昭和33年5月19日、別紙物件目録記載6の土地(以下「本件土地149」という。)を、Eから買い受けた。(〔証拠略〕)
参加人はFの子である。
エ 本件土地150
別紙物件目録記載7の土地(以下「本件土地150―1」という。)及び同目録記載8の土地(以下「本件土地150―2」という。)は、もと1筆の土地であり(以下、本件土地150―1と本件土地150―2を併せた1筆の土地を「本件土地150」ということがある。)、Eが所有していた。(〔証拠略〕)
Eは、昭和34年10月16日、Gに対して、本件土地150―1を売却した。(〔証拠略〕)
また、Eは、かねて本件土地150―2をHに貸して、Hは畑として耕作していたが、昭和32年11月14日、Hに対して、同土地を売却した。EとHの妻は兄弟であり、Hは間もなく同土地上に建物を建てた。さらに、同土地は、昭和60年12月16日、HからIに相続され、昭和63年12月31日、Iから千代本興業株式会社(以下「千代本」という。)に譲渡され、平成11年3月1日、千代本からJに譲渡された。(〔証拠略〕)
オ 位置関係
本件土地145―1、本件土地145―2、本件土地146―1、本件土地146―2、本件土地146―3、本件土地149、本件土地150―1、本件土地150―2の位置関係は別紙図面4のとおりである。
(2) 本件指定処分
Fは、参加人名義で、昭和33年9月12日、道路位置指定申請図(〔証拠略〕。その中心的部分は本判決添付別紙図面1)及び道路位置指定変更申請書(〔証拠略〕)を埼玉県大宮市役所に提出し、埼玉県知事(大宮市及びその周辺市町村を管轄していたのは浦和土木事務所である。)は、同月18日、建築基準法(昭和34年法律第156号による改正前のもの)42条1項5号に基づき、本件指定処分をした。
本件指定処分がされた後、Fは、本件土地149上に居住建物を建築した。
(3) 「特定行政庁」(建築基準法42条1項5号)
昭和46年4月1日、大宮市に建築主事が置かれたことにより、建築基準法42条1項5号所定の道路の位置の指定をする「特定行政庁」は、埼玉県知事から大宮市長に承継された。
さらに、平成13年1月25日付け総務省告示第18号に基づき、浦和市、大宮市及び与野市は廃され、その区域をもってさいたま市が置かれ、これに伴いさいたま市に建築主事が置かれたことにより、「特定行政庁」は大宮市長からさいたま市長に承継された。
3 争点
(1) 本件指定処分は、位置指定された道路の場所あるいは範囲が特定されているといえるか。(争点1)
(2) 道路位置指定処分につき、道路の敷地となる土地の所有者の承諾がないことは同処分の無効事由に当たるか。(争点2)
(3) 本件指定処分に先立ち、本件位置指定道路の敷地となる土地の所有者Aの承諾があったか。(争点3)
(4) A、原告X1あるいは原告X2の事後の承諾ないし追認により事後的に瑕疵が治癒されたといえるか。(争点4)
(5) 事情判決の法理が適用されるか。(争点5)
4 争点に関する当事者の主張
(1) 争点1(本件位置指定道路の範囲即ち処分の内容の特定性)について
(原告らの主張)
本件指定処分は、以下の理由により、位置指定道路の場所あるいは範囲が一義的に定まっているとは言えず、このように処分の内容が特定されていないことは重大かつ明白な違法であり、無効である。
ア 道路位置指定申請図(〔証拠略〕。別紙図面1)によれば、本件位置指定道路の奥行きは東西に16メートルで、公道と本件土地149とに架かっているが、公道から本件土地149までの実測の距離は16メートル以上ある。
イ 本件土地145と本件土地149及び本件土地150の境界線が、道路位置指定申請図(〔証拠略〕)と実際の地形図(〔証拠略〕)とで異なっている。
ウ 本件位置指定道路の場所あるいは範囲について、被告は本件土地145と本件土地150及び本件土地149の境界線から北側に4メートルと主張するのに対し、参加人は本件土地145と本件土地150及び本件土地149の境界線から北側に3メートル、南側に1メートルと主張し、申請図面を見る者によって、その解釈が分かれている。
(被告の主張)
道路位置指定申請図(〔証拠略〕)と公図(〔証拠略〕)とを照合すると、本件位置指定道路の南側の境界は本件土地145と、本件土地149及び本件土地150の境界線を公道の方に延長した直線であって、本件指定処分の内容は特定されている。
(参加人の主張)
道路位置指定申請図(〔証拠略〕)と承諾書(〔証拠略〕)とを照合し、下記のア及びイも考え併せると、本件位置指定道路は、本件土地145と本件土地150の境界線を基準にして、前者の方向(北)に3メートル、後者の方向(南)に1メートルの範囲であるといえるから、本件指定処分の内容は特定されている。
ア 本件土地145と本件土地150―2の境界にはJの居宅の塀があるが、その境界には黄色線が書かれており、また、Fは、本件土地150―2の元所有者であるEから土地の境界の場所を聞いて確認した。
イ 道路位置指定申請図(〔証拠略〕)に記載されているとおり、元々は本件土地145と本件土地150の境界線を基準にして本件土地150の方向(南)1メートルのところに生垣があったが、間もなく、当時の本件土地150―2の所有者であったHが1メートルだけ本件土地145の方向(北)に出っ張って塀を建てたので、Aが同人の家の生垣を自分の家の方向(北)に1メートルだけ引っ込め、現在の状態に至っている。現に、Jの居宅の塀とその建物本体との間の地面(南北に約1メートルの範囲)の地下には、公設の水道管、配水管が埋設されている。
(2) 争点2(所有者の承諾の欠缺が無効事由に当たるか。)について
(原告らの主張)
道路位置指定処分の申請には、道路の敷地となる土地の所有者の承諾が必要とされ、この承諾を欠いていることは重大かつ明白な違法に該当する。
(被告の主張)
本件指定処分がされた昭和33年当時は、道路位置指定申請書添付の図面に基づいて道路位置指定処分がされるのであり、図面が条件を具備していればよく、埼玉県知事(浦和土木事務所管轄)は、不動産登記簿謄本や公図による確認、土地調査等は行っていなかった。
そして、本件においては、申請書(〔証拠略〕)添付の図面において幅員4メートルの道路が示され、その対象部分が特定されており、関係各土地には隣家として個人名が示され、当該各個人の署名押印があり、また、申請者が「この申請書及び添付図書の記載事項は事実に相違ありません」と、その図面が真正なものであることを認めており、外形上、客観的に誤認が一見して看取されるような事実は認められなかったのであるから、承諾書と条件を具備した図面が添付されていたといえ、処分庁としての重大かつ明白な誤認があったとは認められない。
(参加人の主張)
当時の道路位置指定処分の通常の方法として、周辺住民の申請だけで、現地調査をせず、書面審査のみで同処分をしていたのであるから、たとえ、道路の敷地となる土地の所有者の承諾がないとしても、当時の道路位置指定処分の手続としては一般的であって、無効とされるほどの瑕疵ではない。
(3) 争点3(所有者Aの承諾の有無)について
(原告らの主張)
道路位置指定処分の申請には、道路の敷地となる土地の所有者の承諾が必要とされ、この承諾を欠いていることは重大かつ明白な違法に該当するところ、下記の理由により、本件指定処分は、本件位置指定道路の敷地となる土地の所有者であるAの承諾を欠く。
ア 本件土地145は、参加人及び被告の主張いずれによっても位置指定道路の敷地に含まれており、その所有者であるAの承諾が必要であるところ、Fが提出した道路位置指定申請図及び道路位置指定変更申請書(〔証拠略〕)には、本件土地145の記載がないうえに、承諾書の欄にAの署名及び押印がない。
イ 道路位置指定申請図(〔証拠略〕)のCの署名はFによるものであり、また、その印影は「C」ではなく、Cの兄Kの「K」印によるものであり、Cの承諾も得ていない。
ウ 公道から本件土地149までの距離は16メートル以上あり、本件位置指定道路(奥行きは東西に16メートル)では公道から本件土地149まで届かない。これは、FがAから土地の実測に関する承諾を得られなかったためであり、そうだとすれば、なおさら、道路位置指定処分についての同人の承諾を得ていないと考えられる。
(参加人の主張)
下記の理由により、本件指定処分に先立ち、Aの承諾を得ている。
ア FはAから直接承諾を得た。
道路位置指定申請図(〔証拠略〕)にA及びその所有する本件土地145を記載していないのは、Fが、県あるいは市の職員の指導に従って、位置指定を申請する道路に面して土地を使用している関係者を列記したためである。
イ たとえ、FがAから直接承諾を得ていないとしても、本件借地をAから賃借しているCの承諾を介してAの承諾があったと考えられる。
なお、本件指定処分の承諾に関してCは、同居していた同人の実兄Kに話合いを任せていたので、FはKに道路位置指定申請書を手渡し、KがC家を代表して押印した。
(4) 争点4(事後の承諾あるいは追認による瑕疵の治癒)について
(参加人の主張)
仮に本件指定処分に先立ち、Aの承諾がなかったとしても、下記の事情にかんがみれば、事後的にその承諾ないし追認があったものとみることができる。
ア 私有地通行承諾
本件指定処分がされた約2か月後、昭和33年11月23日、AとF(参加人名義)は、本件位置指定道路のうちの一部(10坪。幅員が南北に1間、奥行きが東西に10間の部分)につき私有地通行承諾書(〔証拠略〕)を作成した。
イ Dによる建物の建替え
昭和52年9月20日、本件借地上の建物の建替えにつき、D名義で建築確認申請がされ、その計画概要書(〔証拠略〕)には、本件指定処分の存在が記載されている。
このとき、AはC及びDに対して本件借地を賃貸しており、同人らはAから上記建物建替えの承諾を得ており、かつ、Aは本件借地が公道に接していないことを知っていた。
ウ 原告X2夫婦による建物の増築
昭和56年8月26日、本件土地145―1上の建物の増築につき、原告X2の夫であるL名義で建築確認申請がされ、その計画概要書(〔証拠略〕)には、本件指定処分の存在が記載されている。
上記当時、本件土地145―1はAが所有しており、原告X2とAは親子関係であり、建築計画概要書(〔証拠略〕)は建物を増築する者にとっては重要な事項に関する書面である。
エ 原告X2による本件位置指定道路の確認
平成10年7月ころ、本件位置指定道路の幅員は現況約2.7メートルであったが、原告X2は、G、C、原告X1、千代本、参加人らに書面(〔証拠略〕)を配布し、その幅員を4メートルにするための提案をした。
(原告らの主張)
A、原告X1及び原告X2は、本件指定処分を知らなかったし、同処分につき事後的な承諾ないし追認はしていない。
ア 私有地通行承諾について
私有地通行承諾書(〔証拠略〕)記載の私道の範囲(幅員は南北に1間、奥行きは東西に10間。1間は約1.82メートル)は、道路位置指定申請図(〔証拠略〕)記載の道路のうちA所有部分(幅員は南北に3メートル、奥行きは東西に16メートル)と異なっている。
また、Aは事前に本件指定処分を承諾しているのであれば、同承諾書で重ねて承諾して通行料の合意をする必要はなく、むしろ通行料を要求するならば、本件指定処分を承諾する際に要求していたはずである。
イ Dによる建物の建替えについて
Aは、Dが本件土地146上の建物を建て替えることを承諾したが、本件指定処分の存在を知らなかった。
また、本件借地は本件土地146及び本件土地145の一部であるが、本件土地145が公道と接しているので、本件指定処分がなくとも、Dは建物を建て替えることができた。
ウ 原告X2夫婦による建物の増築について
昭和56年8月26日、本件土地145―1上の建物の増築につき、L名義で建築確認申請がされた際、L及び原告X2は、設計会社の担当者Mから、「消防法の規定上、建物の南側に幅4メートルの通路が必要である」との説明は受けたが、建築計画概要書(〔証拠略〕)は見せられておらず、本件指定処分があるとは聞かなかった。よって、Aも本件指定処分の存在を知らなかった。
また、本件土地145―1は、その西側が公道に面しているので、南側に本件位置指定道路がなくとも建物を増築することができた。
エ 原告X2による本件位置指定道路の確認について
平成10年7月ころに本件指定処分のことを初めて知った原告X2は、同月8日、大宮市役所で同処分の存在を確認し、これを知らせるために書面(〔証拠略〕)を作成し、G、C、原告X1、千代本、参加人らに同書面を配布したもので、平成10年7月以前、本件指定処分のことを知らず、もちろんこれを追認したこともない。
(5) 争点5(事情判決の法理の適用)について
(参加人の主張)
本件指定処分につき、仮に無効事由が認められるとしても、下記の事情を考慮すれば、無効確認請求を認容することは公共の福祉に適合しないから、行政事件訴訟法31条1項の基礎に含まれている一般的な法の基本原則に従って、請求は棄却されるべきである。
ア 本件指定処分は約44年も前にされたものであり、長期間の経過による記録の散逸、記憶の鈍麻により事実認定が困難である。
イ 本件指定処分がされてから、その対象地付近に道路が存在し、原告らを含む関係者が道路として利用してきたのであり、また、本件位置指定道路の存在を前提にした建築確認が少なくとも4回はされている。
ウ 本件指定処分が無効とされれば、本件位置指定道路を前提にしてされた建築確認も無効とされ、本件位置指定道路の利害関係人に多大な損害を与え、さらに今後、本件位置指定道路に接する土地や、同土地上の建物の売却に大きな影響を与える。
(原告らの主張)
下記の理由により、本件指定処分の無効確認請求を認容したとしても公共の福祉に反しないので、本件は行政事件訴訟法31条1項の基礎に含まれている一般的な法の基本原則に従って請求を棄却すべき事案ではない。
ア 本件位置指定道路の敷地の面積は約64平方メートルであり、その利害関係人は6名に過ぎない。また、本件位置指定道路と現実に存在する通路とでは、幅員及び奥行きの長さにおいて一致していない。
イ 本件指定処分の無効が確認されることにより、G、D、参加人らが所有する建物が建築基準法上不適格となる可能性はあるが、それらの建物を収去しなければならなくなるわけではない。
ウ 原告らは、本件指定処分の無効と矛盾するような取引をした等というような事情はなく、また、本件においては農地改革等といった背景事情もない。
第3 当裁判所の判断
1 争点1(本件位置指定道路の範囲即ち処分の内容の特定性)について
原告は、本件指定処分において本件位置指定道路の場所あるいは範囲が一義的に定まっているとは言えず、このように内容が特定されていない行政処分には重大かつ明白な違法があり無効であると主張するので、この点について判断する。
(1) 前記争いのない事実等に加え、〔証拠略〕によれば、以下の各事実が認められる。
ア もともと現在の本件土地150―2に当たる部分の土地は、HがEから借りて畑として耕作していたが、同土地の北側には土地境界より約1メートル下がって生垣があった。Hは、昭和32年にEから同土地を買い受けた。昭和33年当時、現在の本件土地145―1に当たる部分の土地はN氏がAから借りて畑として耕作していたが、その土地の南側には土地境界より約2メートル下がってやはり生垣が設置されており、南北2つの生垣の間は幅3メートル程の通路様の状態となっていた。そして、昭和33年当時、Cは本件土地146や本件土地145の一部をAから借地して家を建てていたが、同居していた息子のDは三越デパートに洋服を納入していたため、上記通路様土地を車で通行することがよくあった。
イ 昭和33年頃、参加人は銀行に勤めていたが、参加人の父Fは参加人のために家を建てることとし、昭和33年8月本件土地149をEから購入した。参加人が建築依頼した大工は、建築基準法等の法律知識に疎かったため、Fが建築確認を得るため、所轄の官庁に出向き、その指導を受けて参加人の名義で道路位置指定申請の手続をした。
ウ 本件道路位置指定申請は、昭和33年9月12日頃なされ、申請には道路の位置を示す図面が添付されているが、その図面(〔証拠略〕。本判決添付別紙図面1)によれば、幅員は4メートルで本件土地150と本件土地146の境界を挟んで北に3メートル、南に1メートル幅となっている。また、奥行きは本件土地150と本件土地149の境界を北に延長した線までとなっており、公道からの距離は16メートルと表示されている。そして、その図面に示されたとおりの範囲で本件指定処分が行われた(なお、本件処分をするに当たり、行政庁の側では実地検分をしていないと推認される。)。
エ 昭和33年9月25日に参加人の建物につき建築確認が下りたが、参加人(その代理人F)は、参加人の土地(本件土地149)から公道に出るためにはA所有である本件土地145の南側を通行しなければならないため、Cの勧めもあってAに挨拶に行ったところ、無料というわけにはいかないという話になり、昭和33年11月23日、参加人とAは、X1が同人所有の本件土地145の南境界から幅1間、奥行10間、坪に換算して10坪の土地を月額100円で通路として通行承諾する旨の「私有地通行承諾書」(〔証拠略〕)を作成した。この契約の際、参加人の側では、Aに別途謝礼及び挨拶の意味で1000円を支払った(その後使用料は逐次値上げされ、現在は月額1000円となっている。)。
オ 本件指定処分がされた後も、現場の状況はしばらく変わらないでいたが、昭和48年頃、当時本件土地150―2の所有者であったHは、同人の建物の塀を本件土地145の方向(北)に約1メートル出て境界ぎりぎりに建てたため、通路の幅員が狭くなった。そして、借地人Cの車の通行ができなくなったため、Aは同人の家の生垣を自分の家の方向(北)に約1メートル引っ込めて、従前の幅員を維持するよう配慮した。それ以後、塀あるいは生垣の位置は変わっていない。
カ 本件土地150―1の所有者Gは、Hが境界ぎりぎりに塀を建てたためA所有の土地を通行せざるを得なくなったことから、昭和48年8月31日、A所有の本件土地145上の通路を利用することの承諾を求め、同人との間で「私有地通行承諾書」(〔証拠略〕)を作成した。なお、同書面では、本件土地145の南側の通路が、Gが居住を開始した昭和34年11月当時と異なり、現在は境界から北に1.5間、奥行き10間の範囲であるとされている。Gはその頃から、Aに月額1000円を支払うようになった。
キ 実際の本件土地145と、本件土地150及び本件土地149の境界は、東西にほぼ一直線である(〔証拠略〕)。現在、本件土地150―1の北側境界上にはJの居宅の塀があるが、Jの居宅の塀とその建物本体の間の空間(南北に約1メートルの範囲)の下には、参加人らのための公設の水道管等が埋設されている。
(2) 以上の認定事実、すなわち、本件道路位置指定申請は、参加人の建物建築に当たり接道義務を満たすために参加人の父Fが行ったもので、その申請図面(〔証拠略〕、別紙図面1)によると奥行きは本件土地149と本件土地150の境界線を北に延長した付近までとされ、幅員は本件土地150と本件土地145(同図面では146番地)の境界線の南側1メートル、北側3メートルの4メートルとされていること、実際には昭和33年当時、もとE所有の本件土地150の北側には境界から約1メートル下がって生垣があり、A所有の本件145の南側には境界から約2メートル下がって生垣があり、約3メートル幅の通路のような状態が形成されていたと推認されること、Aと参加人の私有地通行承諾書(〔証拠略〕)や、AとGとのそれ(〔証拠略〕)では私道の奥行きは10間とされていること等に照らせば、本件位置指定道路の場所あるいは範囲は、当時の現況とは異なるものの、幅員は本件土地145と本件土地150の境界を北へ3メートル、南へ1メートルの4メートル幅(別紙図面2のロ点とニ点の幅)、奥行きは本件土地149と本件土地150―1の境界の北側延長までと解するのが相当である(被告や参加人が主張するところも上記の認定範囲とほぼ同一と解せられる。)。なお、申請図面(〔証拠略〕、別紙図面1)によれば、奥行きは16メートルと記載されており、公道から本件土地149の西側境界までは実際には約18メートルあって、同図面と実際とが符合しないことになるが、同図面によれば、申請道路の奥行きは明らかに本件土地149と本件土地150の境界線を北側に延長した付近までとなっており、参加人の側で接道義務を満足しないような道路位置指定申請をするはずはないと考えられるから、同図面記載の申請道路の奥行き16メートルとの記載は正確な測量をしないまま大体の奥行距離を記載したに過ぎないか、誤記と認めるべきであり、前記認定を左右するものではない。また、原告らは、参加人の申請ではいずれにせよ参加人の土地と本件位置指定道路とでは接道義務を満足しないとの主張もするが、弁論の全趣旨によれば、参加人は本件土地150―1の所有者からほぼ別紙図面1に示す東北隅の三角部分の所有権を得ているか使用許諾を得ていることが認められるから、この点の原告らの主張も理由がない。
(3) 小括
したがって、本件位置指定道路の場所及び範囲は特定しているものと認められ、本件指定処分において本件位置指定道路の場所あるいは範囲が特定されていないから無効であるとの原告らの主張は採用できない。
2 争点2及び3(所有者の承諾の欠缺が無効事由に当たるか及びAの承諾の有無)について
(1) 建築基準法施行規則(昭和34年建設省令第34号による改正前のもの)7条(現行規則9条に対応する。)は、道路位置指定の申請時に道路の敷地となる土地の所有者等の権利者の承諾書の添付を要求しているが、その趣旨は、道路位置指定処分を受けた後、その土地の所有者等は、その指定部分に建物を建築することができなくなったり(建築基準法44条1項)、当該指定道路の廃止、変更の自由が制限されたり(同法45条1項)する等、その有する権利に重大な制約を受けることになるので、それらの者の承諾を得ることとして、その保護を図ったものであると解される。
同法施行規則7条の上記の趣旨にかんがみれば、上記承諾は道路位置指定処分の処分要件と解すべきであり、それを欠く道路位置指定処分は、事柄の性質上、処分の根幹にかかわる重大なものというべきであり、かつ、その瑕疵が明白な場合には、その道路位置指定処分は無効になると解するのが相当である。そして、ここで瑕疵が明白な場合とは、道路位置指定を受ける敷地の公簿上の所有者とされている者の承諾を欠くなど、行政庁がその職務の誠実な遂行として当然要求される程度の調査ないし手続を行えば事実関係が容易に判明するはずであったのにそうしなかったために誤認を生じたと認められる場合等を含むものと解する。
(2) 本件において、前記争いのない事実等及び上述1で認定した本件位置指定道路の場所及び範囲によれば、本件位置指定道路の敷地となる土地は、本件土地145及び本件土地150の各一部分であるから、本件指定処分の前提として、少なくとも本件土地145の所有者Aの承諾は必要不可欠のものであったというべきである。
(3) しかしながら、本件全証拠によっても、本件指定処分に当たり、本件土地145の権利者Aの承諾があったと認めるに足りない。
これを敷えんして説示すると、以下のとおりである。
すなわち、〔証拠略〕によれば、
ア 道路位置指定変更申請書及び道路位置指定申請図(〔証拠略〕)には、「指定の地番146、150」、「関係土地の地番146、149、150」とのみ記載され、本件土地145の記載がなく、また、承諾書の欄にも本件土地146の権利者としてC、本件土地149の権利者として参加人、本件土地150の権利者としてEの署名・押印はあるが、本件土地145の権利者Aの署名・押印がない(なお、上記申請書には、本件土地150―2の所有者であったHの署名・押印もないが、EとHとの親密な関係からして、Eは、Hの部分も合わせて承諾の権限を与えられていたとみても不合理ではない。)、
イ 本件指定処分がされた後、Fは、本件土地149上の建物の建築につき、建築確認申請をし、同土地上の建物の土台ができた頃、Cに対して、通路の通行を申し出たところ、同人は、本件土地145の所有者であるAに挨拶に行くよう告げた。そこで、FがAにかけあったところ、無料というわけにはいかないという話になり、AとFは、本件指定処分の2か月余り後に、本件土地145上にある通路部分(10坪。幅員は南北に1間、奥行きは東西に10間。)につき月額100円の通行料を支払うという、私有地通行承諾及び通行料支払の合意をした、との各事実が認められる。
これらからすると、参加人の本件道路位置指定申請についてAの承諾があったとは認め難い。すなわち、仮に、参加人が本件道路位置指定申請の際に本件土地145の権利者であったAの承諾を得ていたとすれば、参加人において申請図面(〔証拠略〕)にAの承諾をもらうのに支障はなかったはずであるし、建築確認の約2か月後に改めて私有地通行承諾書(〔証拠略〕)のような書面を取り交わす必要もなかったはずである。それにもかかわらず、申請図面(〔証拠略〕)にAの署名・押印がなかったり、同図面記載の位置指定道路の範囲と異なる範囲で私有地通行承諾書(〔証拠略〕)が作成されていることは、Aの承諾なしに本件道路位置指定申請がされたとみざるを得ないのである。
(4) これに対し、参加人は、道路位置指定の申請図面(〔証拠略〕)に本件土地145の記載及びAの署名・押印がないのは、通路に面して土地を使用している関係者を列記したためであって、FはAから直接承諾を得たものであり、仮にFがAから直接承諾を得ていないとしても、本件借地をAから賃借しているCの承諾を介して間接的にAの承諾があったと考えることができると主張し、参加人はこれに沿う供述をしている。
しかしながら、参加人の供述は、Fから聞いた断片的な事実をつなぎ合わせた伝聞的な部分が多く、それのみによって参加人の主張を認めるに足りず、他にFが本件指定処分に先立って直接あるいはCの承諾を介して間接的にAの承諾を得たとの事実を認めるに足りる証拠はない。
(5) そして、前記争いのない事実等に加え、〔証拠略〕によれば、本件指定処分の申請にかかる道路付近に本件土地145が存在すること、本件土地145の所有者はAであること、同人の署名・押印ひいてはその承諾がないことについては、公図や土地登記簿等を提出させたり、関係者に照会したりすれば容易に判明した事実であると認められる。しかしながら、本件指定処分に際し、行政庁の側で公図や土地登記簿等を申請人に提出させたり、関係者に対する照会や確認等をした形跡はなく、埼玉県知事(浦和土木事務所管轄)が本件指定処分を行うにつき、その職務の誠実な遂行として当然要求される程度の調査ないし手続を行っていたとは認められない。そうすると、本件指定処分の瑕疵は明白であると言わざるを得ない。
(6) 小括
以上より、本件指定処分においては、本件位置指定道路の敷地となる本件土地145の所有者であるAの承諾を欠き、かつ、その瑕疵は明白であると認められるので、同処分は無効であると解するのが相当である。
なお、被告及び参加人は、本件指定処分がされた昭和33年当時、不動産登記簿謄本や公図による確認、土地調査等は要求されておらず、そのような手続が一般的であったこと、本件指定処分の申請手続においては、外形上、客観的に誤認が一見して看取されるような事情は認められないので、処分庁としての重大かつ明白な違法があったとはいえないと主張する。
しかしながら、上記被告及び参加人の主張は、道路の敷地となる土地の所有者の承諾の重大性及び同人が被る不利益を軽視するきらいがあり、建築基準法施行規則(昭和34年建設省令第34号による改正前のもの)7条の趣旨を没却するものである。そして、道路位置指定を受ける土地として本件土地145が存在することや権利者Aの承諾がないことについては、土地登記簿や公図を提出させたり、申請人に確認したりすれば、容易に判明し得たことは前記のとおりである。
したがって、上記被告及び参加人の主張は採用し得ない。
3 争点4(事後の承諾、追認による瑕疵の治癒)について
(1) 道路の敷地となる土地の所有者等の権利者の承諾を求める趣旨は前記のとおり当該権利者の保護にあるが、他方、いったん道路位置指定処分がされると、それを前提として種々の権利関係が形成されることになり、法的安全及び第三者の信頼の保護が要請されることになることを考え併せると、道路位置指定処分について申請時に当該権利者の承諾が欠けていたとしても、後日その者が明示又は黙示に同処分を追認又はこれを承諾し、あるいはこれと同等の事情があると認められるような場合には、上記無効の瑕疵は事後的に治癒したものと解するのが相当である。
参加人は、本件において、少なくともAは本件指定処分を事後的に追認したと主張するので、以下、これを検討する。
(2) 前記争いのない事実や1(1)アないしキで認定した各事実に加え、〔証拠略〕によると、本件の経緯として以下の各事実が認められる。
ア 前記のとおり、昭和30年代初め頃は、A所有の現在の本件土地145―1付近はN氏が借りて畑として用い、本件土地145の南境界から北に約2メートル下がって生垣があり、現在の本件土地150―2付近はHが借りて畑としており、同土地の北側には境界から約1メートル下がって生垣があり、約3メートル幅の通路のような状態となっていて、Aから本件土地146や本件土地145の一部を借地して家を建てていたCの息子Dはその通路を車でよく通行していた。
イ 本件道路位置指定申請は、昭和33年9月12日頃なされ、その申請図面(〔証拠略〕)では、幅員は本件土地146と本件土地150の境界を挟んで北に3メートル、南に1メートルの4メートル幅となっており、そのとおり道路位置指定処分がされたが、現場において新たな道路の築造が行われるなどのことはなかった。
ウ 昭和33年9月25日に参加人の建物につき建築確認が下り、参加人(その代理人F)は、参加人の土地(本件土地149)から公道に出るためにはA所有の本件土地145の南側を通行しなければならないため、Aに挨拶に行ったところ、無料というわけにはいかないという話になり、昭和33年11月23日、参加人とAは、X1が同人所有の本件土地145の南境界から幅1間、奥行10間、坪に換算して10坪の土地を月額100円で通路として通行承諾する旨の「私有地通行承諾書」(〔証拠略〕)を作成した(その後通行料は逐次値上げされ、現在は月額1000円となっている。)。
エ 昭和48年頃、当時の本件土地150―2の所有者Hは、家を建てるに当たり、北側の塀を境界ぎりぎりに建てたため、通路の幅員が狭くなり、借地人Cの車の通行が困難となったたため、Aは、従前あった本件土地145の南側の生垣を北側に約1メートル下げ、従前の通路幅員約3メートルを確保するようにした。以後、現在まで現場の塀や生垣の位置に特段の変化はない。
オ 本件土地150―1の所有者Gは、隣家Hが塀を北側の境界ぎりぎりに移動させ、A所有の土地を通行せざるを得なくなったため、昭和48年8月31日、Aとの間で、X1が同人所有の土地の通行を承諾する旨の「私有地通行承諾書」(〔証拠略〕)を作成した。その承諾書では、通路の幅は本件土地145の南境界から1.5間、奥行き10間とされている。そして、それ以来GはAに月額1000円の通行料を支払うようになった。
カ C及びDは、かねてからAから借地して家を建てていたが、昭和52年当時の本件借地の範囲は、本件土地146及び本件土地145の一部(別紙図面3のabcdefgaの各点を結んだ線で囲まれた部分)であった。昭和52年9月20日、本件借地上の建物の建替えにつき、D名義で建築確認申請が出されたが、その建築概要書(〔証拠略〕)では、建物の敷地の範囲としては上記土地の範囲が示され、公道への接道義務を満足させるための道路として本件位置指定道路の存在が記載されている。
C及びDは、本件借地上の建物を建て替えることにつき、Aの承諾を得るために、同人に建築確認の図面を見せたと推測されるが、AはCの建物建替えに当たり、本件土地145上の土地の一部が位置指定道路として使用されていることにつき異議を述べた形跡はなく、Cらは建物建替え後今日まで、本件借地上の建物に居住し、公道に出るための現況通路を使用してきた。
キ 原告X2及びLは、従前、公団住宅等に住んでいたが、昭和48年ころ、原告X2の父Aから本件土地145―1を借り受けて同土地上に自宅建物を新築した。その後、昭和56年8月26日、本件土地145―1上に建物を増築することにつき、L名義で建築確認申請がされ、その建築計画概要書の配置図(〔証拠略〕)には、敷地に接する道路の位置及び幅員として本件位置指定道路の存在が幅員4メートル、現況2.7メートルとして記載されている。なお、上記配置図には、本件土地145―1の西側には公道幅員約4.5メートルとの、北側に公道幅員2.18メートルとの記載もある。
原告X2夫婦は、本件土地145―1上に自宅を新築、増築した後、現在に至るまで、その自宅建物に居住している。
ク 現在の状況等
原告X1は、現在、Cに対して本件借地を賃貸しており、その範囲は本件土地146及び本件土地145の一部(別紙図面3のabcdehgaの各点を結んだ線で囲まれた部分91.72平方メートル)であり、本件借地の範囲は公道に接していない。
本件土地145の一部(別紙図面3のefgheの各点を結んだ線で囲まれた部分)は、現在、原告X2の子が駐車場として使用している。
本件土地145上の通路は、原告X2の子、C、参加人、Gらが使用しており、幅員は約2.7メートルである。
(3) 以上によれば、<1>もともと本件土地145と本件土地150の間には昭和33年以前から生垣により約3メートル幅の通路様の状態が形成されており、<2>Aは、昭和33年11月23日には参加人に対し本件土地150の南側1間幅を有償で通路としての使用することを許諾し、昭和48年8月31日以降は同土地南側1.5間幅(約2.7メートル)についてGに対し有償で通路として使用することを許諾し、<3>Aは、昭和52年の借地人Dの借地上建物建替え承諾に当たり、本件位置指定道路が公道への接道要件満足のために用いられることを認識したと考えられるのにそれについて特段の異議を述べた形跡がなく、<4>原告X2の夫名義で昭和56年に本件土地145―1上の建物増築の建築確認申請がされるに当たり、敷地に接する道路の一つとして本件位置指定道路が記載されていることが認められる。
ところで、本件指定処分の対象となる本件土地145の範囲は南側3メートルであるが、一方AはGや参加人には同土地南側1.5間(約2.7メートル)について私道としての使用を有償で許諾しており、現況通路の幅員と塀の位置は昭和48年にAの側で生垣を北側に移動させて以降今日まで変わっておらず、現実にはA側の負担は本件指定処分の存在によりほとんど変化していないものである。そして、前記事実によれば、Aや原告X2は、遅くとも借地人Cの借地上建物の建替えや原告X2の自宅増築の際に何らかの形で本件位置指定道路のことを認識したとみるのが相当で、Aや原告らがそれにもかかわらず本件指定処分について特段の異議を述べた形跡がなく、ことに借地人Cが本件借地上の建物建替えに当たり本件位置指定道路をもって接道義務を満足させるための道路としたことは、借地人は土地利用の上からは地主に準ずる者であるから、全体としてAにおいて本件指定処分の存在を知りつつそれを黙認したと評価されてもやむを得ない。そうすると、本件土地145の権利者Aについては事後的な承諾があったと同等の事情が存在すると認めるのが相当である。
なお、原告らは、本件借地は本件土地145の一部を含む土地であるところ、本件土地145が公道と接しているので、借地人Cは本件指定処分がなくても建物を建て替えることができると主張するが、〔証拠略〕によれば、Dは本件借地の範囲内で建築確認申請しており、本件借地は公道に接しておらず、本件位置指定道路を接道対象としているのであるから、原告らの主張はその前提を欠き、採用できない。
(4) 小括
ア そうすると、Aは、本件指定処分を事後的に承諾したと評価し得るので、本件指定処分の申請時にAの承諾を欠いていたという同処分の瑕疵は、事後的に治癒されたというべきである。
イ なお、原告らは、本件指定処分の申請時に、本件借地の借地権者であるCの承諾もなかったと主張するが、前掲証拠によれば、Cは、当時同居していた兄のKに本件道路位置指定の件を全面的に委任しており、KはCを代理して本件道路位置指定申請に同意したとみるのが相当であるから、この点の原告らの主張は採用できない。
4 結論
以上のとおりであって、本件指定処分は無効なものとはいえず、原告の請求は理由がないので、いずれもこれを棄却することとし、訴訟費用の負担については行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条、同法66条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 豊田建夫 裁判官 都築民枝 馬場潤)
別紙 物件目録〔略〕
別紙 図面1~4〔略〕