さいたま地方裁判所 平成11年(ワ)2296号 判決 2001年8月10日
主文
1 被告は,原告に対し,4億7628万円及びこれに対する平成11年10月6日から支払済みまで,年5分の割合による金員を支払え。
2 原告のその余の請求を棄却する。
3 訴訟費用はこれを5分し,その1を原告の負担とし,その余を被告の負担とする。
4 この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。
事実及び理由
第1請求
被告は,原告に対し,6億1590万4800円及び内金5億7750万円に対する平成11年10月6日から,内金3840万4800円に対する平成11年12月11日(訴状送達日の翌日)から支払済みまで,それぞれ年5パーセントの割合による金員を支払え。
第2事案の概要
本件は,被告から別紙物件目録記載の土地(以下「本件土地」という。)を交換により取得した原告が,被告に対し,被告が本件土地に産業廃棄物を埋めていたとして,継続的な不法行為に基づき,同産業廃棄物の撤去費等の損害賠償を請求した事案である。
1 当事者間に争いがない事実及び証拠により容易に認定できる事実(以下「争いのない事実等」という。)
(1) 当事者
原告は,製紙業を営む株式会社である。
被告は,地方自治法284条1項に基づき,蓮田市及びf町の事務の一部にあたる一般廃棄物処理を目的として,埼玉県の許可を得て設立された地方公共団体の組合であり,蓮田市及びf町の市民が排出した一般廃棄物の処理事業を行っている。
(2) 本件土地所有権
原告は,昭和49年3月11日,本件土地を交換契約により取得した(以下「本件交換契約」という。)。
原告は,Aに対し,平成9年10月,本件土地を含む土地13筆(約6万平方メートル)を代金総額35億0731万6689円で売った(証拠略)。
(3) 本件土地中の廃棄物の撤去
ア 被告は,昭和45年から本件交換契約締結時ころまでの数年間,一般廃棄物の焼却処理に際し発生した塵芥の燃え殻を本件土地上に堆積させていた。
イ Aは,本件土地上に物流センターの建築を開始したところ,平成11年7月,本件土地中に,上記アの燃え殻の一部6771.5立方メートル(以下「本件廃棄物」という。)が埋まっているのを発見した(証拠略)。
Aは,原告に対し,同発見後直ちに,平成11年9月15日までに本件廃棄物を撤去するよう請求し,物流センターの完成予定は平成12年3月末日であるところ,同撤去により物流センターの完成が遅延した場合には,約4億円~約20億円の損害賠償を請求する予定である旨通知した(証拠略)。
ウ 原告は,被告に対し,平成11年7月19日,上記アの事実を通知し,同日以降複数回にわたり,本件廃棄物の早期撤去を求め,被告と交渉したが,被告は同撤去を行わなかった(証拠略)。
エ 原告は,平成11年9月ころ,Bに対し,本件廃棄物を早期・安価に撤去する方法及び手続の検討を依頼し,Bは,原告に対し,撤去業者としてCを紹介した。
同紹介に基づき,Aは,Dに対し,本件廃棄物の撤去を注文し,Dは,Cに対し,同撤去を下請注文した。Cは,本件廃棄物について,同年9月21日,撤去を開始し,同年10月5日,いったんBの用意した土地に搬出した後,同月25日,更に処理場へ搬入した。(証拠略)
オ Aは,原告に対し,次の金員を請求した(証拠略)。
(ア)
処理場の処理費用
4500万円
(イ)
本件廃棄物撤去費用等
a
撤去費用
3億7992万8400円
b
物流センター建設工事遅延対策費
1億4502万円
c
諸経費
5249万1600円
d
消費税
2887万2000円
e
小計
6億0631万2000円
(ウ)
合計
6億5131万2000円
カ(ア) 原告とAとは,平成11年10月25日,上記オについて,原告が,Aに対し,5億6700万円(うち消費税2700万円)を支払う旨の和解をした(証拠略)。
(イ) 原告は,Aに対し,上記(ア)の和解金の弁済として,合計5億6700万円を支払った(証拠略)。
2 争点
(1) 権利侵害
(原告の主張)
原告は,被告に対し,昭和49年6月27日ころ,本件土地に被告が堆積させていた一般廃棄物の焼却処理に際し発生した塵芥の燃え殻について撤去を求めたところ,被告は,原告に対し,同燃え殻を同年11月30日までに撤去する旨回答した(以下「本件撤去合意」という。)。しかしながら,被告は,昭和50年3月7日ころ,被告が本件土地上に堆積させていた燃え殻のうち,山積みされていたもののみを撤去し,本件土地の窪地に埋まっていた本件廃棄物については,上から土を盛って埋め立て(以下「本件埋立工事」という。),本件土地中に埋伏させ続けたことにより,原告の本件土地所有権を侵害した。
(被告の主張)
(ア) 本件埋立工事当時,本件廃棄物に対する原被告及び一般人の認識は通常の土と同様であったし,原告は,本件廃棄物を本件土地中に埋め立てることを了承していたのであるから,本件埋立工事によって原告の本件土地に関する所有権が侵害されたということはなかった。
(イ) 本件廃棄物は,堆積時又は本件埋立工事時において,本件土地に附合したから,原告には,本件土地の所有権に基づく本件廃棄物の妨害排除請求権はなく,原告が本件交換契約当時,本件廃棄物を撤去する旨の合意もなかった。
(ウ) 原告は,被告が廃棄物処分場として現に使用していた本件土地を,無理を言って被告から取得したこと,原告は,本件交換契約当時,本件土地が廃棄物処分場として使用されていた事実を知っていたこと,被告に対し,代替地整地費用を支払う旨約しながら,本件廃棄物の撤去について何ら請求していなかったこと,本件廃棄物を撤去すると本件土地は窪地になるところ,原告にとっては本件土地が平坦に整地してあった方が利用価値が高かったこと,原告が示した本件廃棄物の撤去期間,被告が本件廃棄物撤去のために組んだ予算の額,本件撤去合意に関する書類が簡素であったことなどからすると,本件撤去合意は,本件土地上に堆積された燃え殻のうち,山積みされていたもののみを撤去する旨の内容にとどまるものであった。
(2) 損害
(原告の主張)
ア
Aに対する和解金
5億6700万円
イ
(ア)Bに対する報酬金
1000万円
(イ)
(ア)に対する消費税
50万円
(ウ)
合計
1050万円
ウ
(ア)
弁護士費用
3657万6000円
(イ)
(ア)に対する消費税
182万8800円
(ウ)
合計
3840万4800円
エ
以上合計
6億1590万4800円
オ
遅延損害金
原告は,被告に対し,平成11年10月5日,上記ア,イ(ウ)の合計5億7750万円の支払を催告した。
(被告の主張)
ア 原告の損害額は,本件土地が毀損された本件廃棄物堆積時ないし本件撤去合意時の本件土地の交換価値である,808万2000円にとどまる上,原告は,Aに対し,本件土地価格全額を賠償すれば,本件土地所有権を取得でき,被告が,原告に対し,上記808万2000円を賠償すれば,被告が本件土地を取得できたにもかかわらず,原告は,Aから本件土地の所有権を取得していないから,被告の負担すべき損害額は,上記808万2000円から本件廃棄物の埋設された状態における本件土地の価格を控除した価額に限られる。
イ 原告がAに支払った金員のうち,工事遅延損害金1億6800万円,埋戻土代金2098万0800円,物流センター建設工事遅延対策費1億4502万円,及び,Bに対する報酬金1050万円は,被告の行為と因果関係がない。
また,昭和51年以降,廃棄物処理に対する法規制が強化され,それに伴い廃棄物処理の費用も格段に上昇したが,同上昇は通常の物価変動の範囲を超えており,予測不可能であった。
(3) 時効消滅の有無
(被告の主張)
本件撤去合意に基づく被告の本件廃棄物撤去義務は,債権的な作為義務であるところ,本件撤去合意時から5年又は10年が経過したから,被告は,同時効を援用するとの意思表示をした。
(原告の主張)
被告の不法行為は,本件廃棄物を撤去することなく,本件土地中に埋伏させ続けたという継続的なものであるから,原告の損害は,時の経過,累積により一挙に発生したものである。したがって,原告の被告に対する不法行為に基づく損害賠償請求権の消滅時効の起算点は,早くとも本件廃棄物が本件土地中から発見された平成11年7月10日ころである。
(4) 除斥期間の成否
(被告の主張)
原告の,不法行為に基づく損害賠償請求権は,本件埋立工事時以後20年の除斥期間が経過したことにより,消滅した。
(原告の主張)
被告の不法行為は,本件廃棄物を撤去することなく,本件土地中に埋伏させ続けたという継続的なものであるから,除斥期間の起算点は,早くとも本件廃棄物が本件土地中から発見された平成11年7月10日ころである。
(5) 信義則ないし権利濫用
(被告の主張)
原告は,本件土地取得時に本件廃棄物が埋め立てられた状態のままでの引渡を許容していたのであるから,原告が,被告に対し,本件廃棄物の完全な撤去を要求することは信義則に反し,又は権利濫用となる。
(原告の主張)
原告は,地方公共団体の組合である被告が,文書により,本件廃棄物を撤去した旨の通知をしてきた上,被告が本件廃棄物を本件土地中に埋伏させたため,本件土地上にも廃棄物が堆積している様子を看取できなかったのであるから,本件廃棄物が発見されたときに,原告が,被告に対し,その撤去を要求することは何ら信義則に反したり,権利濫用となるものではない。
(6) 過失相殺
(被告の主張)
原告は,本件交換契約の際,何らの条件も付しておらず,本件土地引渡後も20年以上にわたり何らの検査もしなかった上,本件土地に関する書類を保存しておらず,同検査をしないまま本件土地をAに転売した等原告の多数の過失により損害が拡大したから,被告は過失相殺を主張する。
(原告の主張)
原告は,地方公共団体の組合である被告が,文書により,本件廃棄物を撤去した旨の通知をしてきた上,被告が本件廃棄物を本件土地中に埋伏させたため,本件土地上にも廃棄物が堆積している様子を看取できなかったので,本件土地中を調査することもなかった。
第3争点に対する判断
1 争点(1)(権利侵害)について
(1) 前記争いのない事実等,証拠(略)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。
ア 被告は,昭和45年から数年間,一般廃棄物の焼却処理に際し発生した塵芥の燃え殻(プラスチック,金属,ガラスを含む。)を本件土地上に堆積させていた。本件土地は,昭和45年当時,大量の土が掘り出された状態であったため,被告は,当初,土の掘り出された窪地において一般廃棄物を野焼きしていたが,燃え殻によって窪地が埋まると,本件土地全体において一般廃棄物を野焼きし,燃え殻を山積みしていた。
イ 原告は,昭和49年3月11日,本件土地を本件交換契約により取得した。
ウ 原告と被告は,昭和49年6月27日ころ,本件撤去合意をしたが,同年12月4日ころ,同燃え殻の撤去期限を昭和50年2月28日に延期した。
被告は,昭和50年3月ころ,本件埋立工事を行い,原告に対し,同月11日ころ,本件土地上の燃え殻の撤去を同月7日までに終了した旨報告した。
エ 原告は,Aに対し,平成9年10月,本件土地を含む土地13筆(約6万平方メートル)を代金総額35億0731万6689円で売った。
(2) 以上の事実によれば,被告が本件埋立工事を行い,本件廃棄物を本件土地中に埋伏させ続けたという一連の行為により,本件廃棄物という瑕疵の負担なく本件土地を使用・収益・処分する利益,すなわち原告の本件土地所有権が侵害されたと認められる。
(3) これに対し,被告は,①本件埋立工事当時の本件廃棄物に対する原被告及び一般人の認識は通常の土と同様であり,本件土地所有権の侵害にはならない,②本件廃棄物は本件土地に附合しており,原告に所有権に基づく妨害排除請求権はなかったし,本件交換契約当時も,本件廃棄物を撤去する旨の合意はなかった,③本件撤去合意の内容は,本件土地上に堆積された燃え殻のうち,山積みされていたもののみを撤去する旨の内容にとどまるものであった旨主張する。
しかしながら,①について,本件埋立工事当時の本件廃棄物に対する原被告又は一般人の認識が通常の土と同様であったことを認めるに足りる証拠はない。
次に,②について,本件廃棄物についての所有権の帰属は,不法行為責任の成否とは直接関係しない。また,証拠(略)によれば,本件交換契約の内容は,本件土地と,本件土地より約2割広い土地(以下「代替地」という。)及び同土地の造成費用300万円とを交換するとの合意であったことが認められるところ,交換契約は,当事者が授受すべき目的物の等価を前提とするのが原則であって,本件交換契約についても,原被告双方に等価交換の意思があったものと推認されるから,本件交換契約には,本件廃棄物を撤去する旨の合意が当然に含まれていたと解するのが相当であり,本件撤去合意は,本件廃棄物撤去についての期限を定めたものと解すべきである。
更に,③について,証拠(略)及び弁論の全趣旨によれば,原告が本件土地を取得する際に,交換契約の対象とすべき土地や交換契約の条件等について複雑な交渉があったこと,原告は,本件交換契約当時,本件土地が廃棄物処分場として使用されていた事実を知っていたこと,同契約において,代替地整地費用を支払う旨を明文化しながら,本件土地上に堆積された燃え殻の撤去について何ら明文化していなかったこと,本件廃棄物を撤去すると本件土地は窪地になること,本件撤去合意において,原告は,本件土地上に堆積された燃え殻の「撤去」を求めていること,本件撤去合意に先立ち原告が示した,本件土地上に堆積された燃え殻の撤去期間は1か月であったこと,被告が,内部的に,本件土地上に堆積された燃え殻の撤去のために組んだ予算の額は約100万円であったことが認められる。しかしながら,以上認定の事実によっては,本件土地上に堆積された燃え殻のうち,山積みされていたもののみを撤去し,その余は埋め立てる旨の合意があったと推認するには足りず,単に,同燃え殻のすべてを撤去するとの合意があったにすぎないと推認するのが相当であり,他に被告主張の事実を認めるに足りる証拠はない。
2 争点(2)(損害)及び争点(6)(過失相殺)について
(1) 前記争いのない事実等,証拠(略)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。
ア 原告は,本件交換契約後,本件土地上に工場建設を予定したが,埼玉県の承認を得られなかったため,同工場建設に着手せず,Aに対し本件土地を売却するまで,本件土地を利用することなく放置していた。
イ Aは,本件土地上に物流センターの建築を開始したところ,平成11年7月,本件土地中に,本件廃棄物が埋まっているのを発見した。
Aは,原告に対し,同発見後直ちに,平成11年9月15日までに本件廃棄物を撤去するよう請求し,物流センターの完成予定は平成12年3月末日であるところ,同撤去により物流センターの完成が遅延した場合には,約4億円~約20億円の損害賠償を請求する予定である旨通知した。
ウ 原告は,被告に対し,平成11年7月19日,上記アの事実を通知し,同日以降複数回にわたり,本件廃棄物の早期撤去を求め,被告と交渉したが,被告は同撤去を行わなかった。
エ 原告は,平成11年9月ころ,Bに対し,本件廃棄物を早期・安価に撤去する方法及び手続の検討を依頼し,Bは,原告に対し,撤去業者としてCを紹介した。
同紹介に基づき,Aは,Dに対し,本件廃棄物の撤去を注文し,Dは,Cに対し,同撤去を下請注文した。Cは,本件廃棄物について,同年9月21日,撤去を開始し,同年10月5日,いったんBの用意した土地に搬出した後,同月25日,更に処理場へ搬入した。
オ Aは,原告に対し,次の金員を請求した。
(ア)
処理場の処理費用
4500万円
(イ)
本件廃棄物撤去費用等
a
撤去費用
3億7992万8400円
b
物流センター建設工事遅延対策費
1億4502万円
c
諸経費
5249万1600円
d
消費税
2887万2000円
e
小計
6億0631万2000円
(ウ)
合計
6億5131万2000円
カ(ア) 原告とAとは,平成11年10月25日,上記オについて,原告が,Aに対し,5億6700万円(うち消費税2700万円)を支払う旨の和解をした。
(イ) 原告は,Aに対し,上記(ア)の和解金の弁済として,合計5億6700万円を支払った。
(ウ) 原告は,Bに対し,上記ウのコンサルティングに対する報酬として,1050万円を支払う旨の合意をし,平成12年1月28日,内金525万円を支払った。
キ 原告は,被告に対し,平成11年10月5日,上記カ(ア)の5億6700万円及び同(ウ)の1050万円の合計5億7750万円の支払を催告した。
(2) 被告の負担すべき損害額
ア Aに対する和解金
以上の事実によれば,原告がAに対し支払った和解金は,被告の不法行為により原告が被った損害というべきであり,被告の負担すべき損害額は,同和解金5億6700万円全額であると判断する。
イ Bに対する報酬金
前記(1)エの事実によれば,原告がBを利用したことにより,本件廃棄物の処理に要する期間を短縮し,原告がAに対して支払うべき損害の額を一定程度にとどめたものと認められるが,被告の本件不法行為と,原告がBに対して支払い,又は,支払うべき報酬との間に相当因果関係があると認めるに足りる証拠はない。
ウ 過失相殺
前記認定の事実,証拠(略)及び弁論の全趣旨によれば,一方で,本件廃棄物は,地方公共団体の組合である被告の処理した一般廃棄物の燃えがらであること,被告は,本件埋立工事において,本件廃棄物上に土も盛って埋め立てたこと,被告による本件埋立工事の際,被告は,原告に対し,文書で,本件土地上の廃棄物の撤去を終了した旨通知したことが認められ,他方,原告は,本件交換契約当時,本件土地上に被告が廃棄物を堆積させていたことを知っていたこと,本件交換契約当時,本件土地上に堆積された廃棄物は,約5メートルほどの高さになっていたこと,原告は,本件埋立工事後,20年以上に渡り,本件土地を実質的に放置していたことも認められる。
以上の事実からすると,被告による本件埋立工事によって容易には本件廃棄物を発見できなかったとはいえ,本件廃棄物の発見が遅れ,本件廃棄物処理にかかる損害額が拡大したのは,原告の過失にも依るところがあるというべきであり,その割合は2割と認めるのが相当である。
エ 以上合計 4億5360万円
5億6700万円×(1-0.2)=4億5360万円
オ 弁護士費用
認容額の約5分に当たる2268万円が相当である。
カ 総計 4億7628万円
(3) 以上に対し,被告は,原告の損害額は,本件撤去合意当時ころの本件土地価格である808万2000円から本件廃棄物の埋設された状態における本件土地価格を控除した価額に限られる旨主張する。
しかしながら,所有権侵害による損害の範囲が当該所有権の目的物の価額に限定されるとするのは,代替性のある不特定物には妥当しても,代替性のない特定物には妥当せず,被告の独自の理論であって,採用することはできない。
3 争点(3)(時効消滅の有無)及び争点(4)(除斥期間の成否)について
前記認定のとおり,本件における被告の不法行為は,被告自身が本件埋立工事を行い,本件廃棄物を本件土地中に埋伏させ続けたという一連の行為であると認められるから,本件における被告の不法行為は,Cによって本件廃棄物が処理されるまで継続していたというべきである。
したがって,作為義務の消滅時効及び除斥期間に関する被告の主張は,理由がないから,採用できない。
4 争点(5)(信義則ないし権利濫用)について
被告は,本件廃棄物が埋め立てられた状態のままでの引渡を原告が許容していたのであるから,原告が,被告に対し,本件廃棄物の完全な撤去を要求することは信義則に反し,又は権利濫用となる旨主張するが,被告の同主張を認めるに足りる証拠はない。
5 結論
よって,原告の請求は,以上の限度で理由があるから,4億7628万円の限度で認容する。
(裁判長裁判官 草野芳郎 裁判官 木本洋子 裁判官 樋口正樹)
別紙 物権目録 省略