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さいたま地方裁判所 平成11年(行ウ)12号 判決 2003年5月28日

原告

X1

(ほか1名)

原告両名訴訟代理人弁護士

青木孝明

池本誠司

佐々木新一

城口順二

立石雅彦

中山福二

南雲芳夫

難波幸一

新穂正俊

野本夏生

深田正人

福地輝久

牧野丘

被告

マコト建設株式会社

同代表者代表取締役

同訴訟代理人弁護士

藤原寛治

大杉智子

被告

株式会社カタヤマ

同代表者代表取締役

被告

株式会社ケイワールド日清

同代表者代表取締役

被告

株式会社エム・テック

同代表者代表取締役

被告

株式会社ユーディケー

同代表者代表取締役

上記4名訴訟代理人弁護士

田島久嵩

佐世芳

安藤拓郎

被告

三ツ和総合建設業協同組合

同代表者代表理事

同訴訟代理人弁護士

西坂信

渡部朋広

桝田裕之

浅野貴志

主文

1  原告らの請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は、原告らの負担とする。

事実及び理由

第3 当裁判所の判断

1  事実関係

〔証拠略〕によれば、次の事実が認められる。

(1)  事前の談合情報

浦和市に以下のとおりの内容の談合情報が寄せられた。

ア  平成10年7月1日の談合情報〔証拠略〕

談合情報調書によれば、浦和市に対して、平成10年7月1日午後4時55分に、次のような談合情報が寄せられた(以下「本件情報1」という。)。

「(1) 入札対象工事等の名称 7月2日入札の5件

(2) 入札(予定)日時 7月2日

(3) 発注課等 下水道部

(4) 落札業者 下記(9)のとおり

落札予定金額 被告エム・テックの件は7250万円

(5) 談合が行われた日時 不明

(6) 談合が行われた場所 不明

(7) 談合に関与した業者 複数

(8) 談合の方法 話し合いによる。(詳細は不明)

(9) その他(墨塗り)のその他の情報内容(談合情報のみ記録)

<1> 落札予定業者 下水道工事で入札順に下記のとおり

ⅰ 被告三ツ和総合

ⅱ 被告マコト建設

ⅲ 被告ケイワールド日清

ⅳ 被告カタヤマ

ⅴ 被告エム・テック

<2> 2時20分通報の5件(被告エム・テックの入札参加)と一致。

<3> 2時20分の通報者とは別の人物(匿名)からの通報である。」

浦和市は、本件情報1の真偽を確認するため、平成10年7月2日執行予定であった本件工事<1>ないし<6>及び名称「浦和市下水道事業芝川排水区第5分区汚水その6(3)」(以下「その6(3)の工事」という。)の工事の入札を延期することとし、本件工事<1>ないし<6>の入札参加(指名)業者(別紙「工事別・入札参加者一覧表」の「事業者」欄1ないし19記載の業者)のみならず、その6(3)の工事の入札のみ参加する(指名された)業者(同21及び22記載の業者)をも含めて、悉皆的に事情聴取を行った。

しかしながら、浦和市は、事情聴取において、(ア) 他社からの働きかけ等談合の事実の有無につき、対象業者20社全てが否定していること、(イ) 入札金額(見積額)の算定方法及び体制につき、対象業者20社全てが、工事部積算課の担当者が行う等の積算を行う体制をとっており、また、現実に積算しているとの回答であったこと、(ウ) 談合の防止に対する取組みにつき、対象業者20社全てから、社員に業者間での飲食等をしないよう呼びかけている、公正取引委員会から講師を招き研修会等を開催している、県建設業協会主催の研修会に参加している等、何らかの対応策を採用しているとの回答を得たことから、本件情報1のみでは談合の確証を得ることができなかったとし、更に誓約書の提出を求めた上で、平成10年7月14日、延期していた本件工事<1>ないし<6>を含む工事の入札を執行した。

イ  平成10年7月28日の談合情報(〔証拠略〕)

談合情報調書によれば、浦和市に、平成10年7月28日午後1時35分に次のような談合情報が寄せられた(以下「本件情報2」という。)。

「(1) 入札対象工事等の名称 大門中継ポンプ場場内整備工事

(2) 入札(予定)日時 7月28日

(3) 発注課等 東部下水道事務所

(4) 落札業者 被告ユーディケー

落札予定金額 2300~2400万円

(5) 談合が行われた日時 不明

(6) 談合が行われた場所 不明

(7) 談合に関与した業者 不明

(8) 談合の方法 不明

(9) その他(墨塗り)の話

<1> 前回(7月1日の談合情報)の入札が延期になり、「入札を妨害する意向があるのでは」ということも考慮したが、談合情報なので連絡した。

<2> 通報者は匿名である。」

本件情報2の通報を受けた浦和市職員(契約課長)は、上記(9)<1>記載のとおり、入札を妨害する意図のもとの情報であることの可能性も感じていたものの、本件情報2の真偽を確認するため、入札参加(指名)業者である被告ユーディケー、同エム・テック及び三和工業(株)、(株)サイドー、ブロックスター建鉄(株)、細渕建設(株)、(株)武蔵野技建、(株)吉野建設につき、事情聴取を行った。その事情聴取の結果、浦和市は、(ア) 他社からの働きかけ等談合の事実の有無につき、対象業者8社全てが否定していること、(イ) 入札金額(見積額)の算定方法及び体制につき、対象業者8社全てが、技術担当が現地確認後積算する等の積算を行う体制をとっており、また、現実に積算しているとの回答であったこと、(ウ) 談合の防止に対する取組みにつき、対象業者8社全てから、営業担当に積算金額を直前まで教えないことで積算金額が漏れないよう配慮している等、何らかの対応策を採用しているとの回答を得たことから、やはり、本件情報2のみでは談合の確証を得ることができなかったとし、更に誓約書の提出を求めた上で、平成10年8月4日、本件工事<8>の入札を執行した。

ウ  平成10年9月8日の談合情報(〔証拠略〕)

談合情報調書によれば、浦和市に、平成10年9月8日午前9時30分に次のような情報が寄せられた(以下「本件情報3」という。)。

「(1) 入札対象工事等の名称 道路の工事(工事名は不明)

(2) 入札(予定)日時 9月8日

(3) 発注課等 不明(道路の工事で、下水道の工事ではない)

(4) 落札業者 被告ユーディケー

落札予定金額 7300万円程度

(5) 談合が行われた日時 不明

(6) 談合が行われた場所 不明

(7) 談合に関与した業者 不明

(8) 談合の方法 不明

(9) その他(墨塗り)との電話(会話)内容

(墨塗り) 匿名で、談合情報(上記)あったので連絡する

田島 道路の工事の指名業者に被告エム・テックが入っている。飯能土木も県企業局。浦和市の談合情報すべてに被告エム・テックが入っている。被告エム・テック指名に対する「いやがらせ」ではないか。

(墨塗り) 落札業者が被告エム・テック以外なのに何故そう思うか。

田島 被告エム・テックを指名すると談合情報を流し、入札妨害をするという匿名者の意思の表れではないか。自治体によっては、被告エム・テックの指名を控えるなども有り得る。それが匿名者のねらいではないか。」

しかしながら、本件情報3の通報を受けた浦和市職員(契約課長)は、上記(9)記載のとおり、本件情報3の信憑性につきかなりの疑念を抱いたため、本件工事<9>の入札は、平成10年9月8日、予定どおり執行された。

(2) 被告らと落札した工事の関連性

被告カタヤマは、本件工事<3>、<4>につき指名を受け入札に参加し、本件工事<3>を落札したものであるが、前年(平成9年)、本件工事<3>の現場付近において下水道工事を担当したことがあり、現場の土質をはじめ作業条件等に習熟していた(〔証拠略〕、証人G)。一方、被告カタヤマは、以前、本件工事<4>の現場付近において下水道工事をした際、水道管を破損し、付近住民に迷惑をかけたことがあるため、本件工事<4>を受注しても、住民の工事に対する協力を得るのが難しく現場条件が相当に悪いと判断し、落札に消極的であった(証人G、H)。

また、被告ケイワールド日清は、本件工事<1>、<2>、<4>、<5>につき指名を受け入札に参加し、本件工事<4>を落札したものであるところ、前年(平成9年)、本件工事<4>の近辺において同じく浦和市下水道事業芝川排水区に係る下水道工事を行った実績があり、近辺の土質を把握していたため、工程管理や作業手願がやりやすいという利点があった(〔証拠略〕)。

そして、被告ユーディケーは、本件工事<2>、<3>、<5>、<7>ないし<9>につき指名を受け入札に参加し、本件工事<2>、<7>ないし<9>を落札した。そのうち、本件工事<8>すなわち大門中継ポンプ場場内整備工事は、いわゆる外構工事であって、造園、U字構、フェンス等の細かい工事の集積工事であり、利益の薄い工事であったが、被告ユーディケーは、斎藤工業(株)とのJV企業体により、大門中継ポンプ場の本体工事を請け負っており、当該工事現場において、ポンプ場建設のため、搬入路、保安設備、敷鉄板を既に設置済みであったことから、これらを新たに設置しなければならない本件工事<8>の他の入札参加(指名)業者7社より、入札価格競争力において有利な地位にあった(〔証拠略〕)。また、本件工事<9>は、被告ユーディケーが前年(平成9年)において行った道路整備工事に隣接する場所のもので、続きの工事ともいうべきものであった(〔証拠略〕)。

(3) 被告らの浦和市公共工事の実績等

ア  被告マコト建設は、平成10年当時、受注した公共工事のうち、浦和市発注によるものが9割程度を占めており、落札件数でいえば、17、8件程度という状況であった(証人I)。

そして、これらの被告マコト建設の落札価格の予定価格に対する割合は、95%から97%であることが通常であった(証人I)。被告カタヤマも公共工事を落札した場合、落札価格は予定価格に近く、仮に本件各工事の落札価格が予定価格の85%程度のものであるとすると、被告カタヤマとしては営業が成り立たないものであった(証人H)。

イ  被告エム・テックは、平成10年当時、年間売上高は40億円ほどであり、その主たる受注物件は橋梁であった(証人J)。そのような業務状況において、平成10年当時、被告エム・テックが浦和市から入札参加業者として指名された公共工事は20件前後であったが、浦和市の工事はほとんど受注しておらず、受注実績がなかったため、1個は落札したいとの意向であった(証人K)。

また、被告三ツ和総合は、平成10年当時、公共工事の年間売上高に占める割合は98%ほどであり、そのうち、埼玉県内の公共団体発注工事の割合は45%ないし50%ほどであるところ(証人L)、浦和市発注の割合は1、2%ほどに過ぎなかった(証人L)。しかしながら、本件各工事のうち、入札参加業者として被告三ツ和総合が指名されたのは本件工事<5>のみであったため、被告三ツ和総合は、これを落札したい意向を強く持っていた(〔証拠略〕)。

被告ケイワールド日清は、本件工事<5>につき入札参加業者として指名されており、その工事仕様も被告ケイワールド日清が得意とする開削工事ではあったが(証人M、同N)、本件工事<5>の現場付近は湧水が多いとの認識であったため(〔証拠略〕、証人N)、その落札には積極的ではなかった(ただし、被告三ツ和総合が本件工事<5>を実際に施行したところ、湧水が出ることはなかった。証人L)。

2  原告らの主張の検討

以上の認定事実及び基本的事実関係に照らし、原告ら指摘に係る間接事実によって、本件各工事の入札において談合が行われたものと推認できるかにつき検討する。

(1)  事前の談合情報と落札結果の一致

ア  浦和市に寄せられた談合情報について

(ア) 原告らが主張する事前の談合情報について、

本件証拠関係上認定できる内容は、認定事実のとおりである。

まず、本件情報2は、本件工事<8>の入札につき、落札業者を被告ユーディケーと特定し、更に、落札金額をも2300万円から2400万円の範囲であると特定した内容である。しかし、a 落札業者の特定の点についてみれば、被告ユーディケーは、既に大門中継ポンプ場の本体工事を請け負っていたところ、本件工事<8>は、その場内整備工事であるから、ポンプ場建設のための搬入路設置等各種工事準備を整えた被告ユーディケーが、競争力において客観的に有利な立場にあり、このようなことはその性質上、浦和市付近における土木事業者の間においては十分に知られ得るものである。b また、落札金額を2300万円から2400万円の範囲であると特定してある点については、本件工事<8>は、いわゆる外構工事で積算が困難な事情は窺えない。c そして、本件工事<8>につき談合がされたことを知った者からの情報にしては、落札金額に幅があることを暫くおくとしても、談合の日時、場所、関与した業者、談合の方法のいずれもが不明であり、漠然としたものに過ぎる嫌いがある(現に、本件情報2の通報を受けた浦和市職員は、入札を妨害する意図のもとの情報であることの可能性を感じさせるとしている。)。

以上によれば、本件情報2と本件工事<8>の落札結果から、直ちに、被告ユーディケーを含む本件工事<8>の指名入札業者の間で談合が行われたとまで推認することは、困難といわざるを得ない。

(イ) 次に、本件情報3についてみると、本件工事<9>の入札につき、落札業者を被告ユーディケーと特定し、更に、落札金額をも7300万円程度と特定した内容である。しかし、a 落札業者の特定の点についてみれば、本件工事<9>は、被告ユーディケーが前年(平成9年)において行った道路整備工事の隣接場所の道路整備工事であるから、いわば、続きの工事ともいうべきものであるところ、そのような工事に関しては、被告ユーディケーが競争力において客観的に有利な立場にあり、このようなことはその性質上、浦和市付近における土木事業者の間においては十分に知られ得るものである。b また、落札金額を7300万円程度と特定してある点についてみれば、被告ユーディケーによる落札価格は4700万円であってかなりの違いがある。c そして、談合の日時、場所、関与した業者、談合の方法のいずれもが不明であって、本当に本件工事<9>につき談合がされたことを知ってされた情報提供であるか疑念を持たざるを得ない(実際にも、本件情報3の通報を受けた浦和市職員は、被告エム・テックの指名に対する嫌がらせではないかと、信憑性につきかなりの疑念を抱き、本件工事<9>の入札はそのまま執行された。)。

そうすると、本件情報3と本件工事<9>の落札結果から、直ちに、被告ユーディケーを含む本件工事<9>の指名入札業者の間で談合が行われたとまで推認することは、困難というほかない。

(ウ)そして、本件情報1についてみると、平成10年7月2日入札の5件につき、落札予定業者を入札順に被告三ツ和総合、被告マコト建設、被告ケイワールド日清、被告カタヤマ、被告エム・テックと特定したものである。ところで、同月14日に延期された入札において同月2日予定のとおりの入札順で執行されたかにつき証拠上不明であるため、本件工事<1>ないし<6>との対応関係を明確にすることが困難であるが、これを暫くおき、仮に予定のとおりの入札順であるとすると、本件工事<5>(被告三ツ和総合落札)及び本件工事<3>(被告カタヤマ落札)につき、落札結果と一致する情報ということができる。

しかしながら、本件工事<5>についてみれば、その入札参加業者である被告エム・テックは他の本件工事7件、被告ケイワールド日清は他の本件工事3件、被告マコト建設は他の本件工事3件、被告ユーディケーは他の本件工事5件、三貴建設(株)は他の本件工事4件、三和工業(株)は他の本件工事5件、ブロックスター建鉄(株)は他の本件工事3件につき、それぞれ指名されていたのに対し、被告三ツ和総合は、本件工事<5>のみ指名されたに過ぎず(別紙「工事別・入札参加者一覧表」参照)、本件工事<5>を落札する意向を強く持っていたことは前記のとおりである。また、本件工事<3>についてみれば、被告カタヤマは、本件工事<3>、<4>につき指名を受けたものの、前年(平成9年)、本件工事<3>の現場付近において下水道工事を担当したことがあり、現場の土質をはじめ作業条件等に習熟しており、その分、本件工事<3>につき競争力において客観的に有利な立場にあったが、他方、本件工事<4>については、付近住民の工事に対する協力を得るのが難しく現場条件が相当に悪いと判断し、落札に消極的であったことが認められる。これらからすると、本件情報1と本件工事<5>、<3>の落札結果との一致につき、格別証明力の強いものと評価することはできない。

また、仮に入札順が予定のとおりとは変えて執行されたものとすると、本件情報1が本件工事<1>ないし<6>のいずれの落札結果と一致したものか必ずしも確定できないが、本件監査結果が本件各工事中5件につき事前情報のとおりの落札結果であるとしていることからすれば、本件情報1は、多く見積もっても、本件工事<1>ないし<6>のいずれかの落札結果3件と一致したものに過ぎない。

そして、本件情報1は、談合の日時、場所につき不明というものであるのみならず、談合関与業者は不明、談合の方法は「話し合いによる」といったものであって、同日に入札が行われる本件工事<1>ないし<6>につき談合がされたことを知った者からの情報にしては、漠然としたものに過ぎる嫌いがある。

そうすると、本件情報1と本件工事<1>ないし<6>の落札結果から、直ちに、本件工事<5>につき被告三ツ和総合を含む本件工事<5>の指名入札業者の間で談合が行われたとまで推認することは、困難といわざるを得ないし、このことは、本件工事<1>ないし<4>、<6>についてみても、同様である。

イ  本件記事について

本件記事の内容は、基本的事実関係のとおりであるところ、(ア) 事前情報における落札予定者を摘示することもなく、単に落札結果と一致したという程度であり、しかも、本件工事<1>ないし<6>の入札日は平成10年7月14日、本件工事<7>の入札日は同月30日、本件工事<8>の入札日は同年8月4日、本件工事<9>の入札日は同年9月8日であるところ、本件記事が報道されたのは、本件工事<9>の入札日から遅れること20日ばかりの同月28日であること、(イ) 情報源のみならず、情報が寄せられた日すら明らかではないこと、(ウ) 談合行為の具体的な摘示に欠けること、(エ) そもそも、情報内容自体が明らかではなく、その正確性を検証することができないから、談合を推認させる程度の証明力評価を行うことのできない類のものといわざるを得ない。

そうすると、本件記事をもって、本件各工事の入札につき談合が行われたと推認することは、困難というほかない。

ウ  これに対し、原告らは、本件各工事の入札中5件につき事前の談合情報と落札結果が一致しており、その確率は8の5乗分の1(3万2768分の1)である等縷々主張する。しかし、確率とは、起こり得る全ての事象(入札に参加した業者のいずれかが工事の落札をすること)において、どの事象も同様の確からしさをもって生じる場合に求めることの意味があるものであるところ、現実の入札においては、場所、工期、具体的工事内容等のみならず、入札参加業者の得意とする工事の種類、その落札意欲、積算予測能力のほか工事受注余裕も様々であるから、これらを捨象し、どの指名入札業者がどの本件各工事を落札するかは同様の確からしさがあるとの前提をもって、確率を論じてみても限界があり、原告ら主張の談合情報と落札結果の一致の確率的稀少性を考慮したとしても、それのみから直ちに談合の存在を肯認することはできない。

(2)  落札価格と予定価格の近接性

原告らは、本件各工事の落札価格が全て予定価格に対して96%から99%の範囲内に集中していることを指摘し、自由競争が行われたとすれば、本件各工事の落札価格は現実のそれではあり得ない(現実の落札価格は高額に過ぎる)から、本件各工事の入札において談合がされたことが推認される、と主張する。

しかしながら、積算技術の進歩により事前にある程度予定価格を予測することが可能であり、業者はできれば高額で落札を望むから、各入札価格が予定価格付近に集中し、結果的に落札価格が予定価格に近接したものになることはあり得ることである(現に、被告マコト建設は、平成10年当時、その受注した公共工事の落札価格の予定価格に対する割合は、95%から97%であることが通常であったとしている。)。また、本件各工事の落札価格が他の入札事例に比べて不当に高額に過ぎるという証明もない。もっとも、〔証拠略〕によれば、本件各工事の各業者の入札価格はいずれも予定価格付近に集中し、飛び抜けて安い或いは高い入札をした業者が存在した形跡がなく、結果的に本件各工事の落札価格が予定価格に近接していることは事実であり、このことは原告らの主張するように談合があったとすれば、その特徴の一つであるから、談合の可能性が皆無とまではいえない。しかし、被告らは談合の事実をいずれも強く否認するところであり、前記のように各業者の入札価格が予定価格付近に集中したり、落札価格が予定価格に近接することも実務上あり得ることであり、他に談合が存在したことを直接的に窺わせる証拠も見出せない以上、原告ら主張の事実からのみでは本件各工事の入札が談合によるものであったとまでは断定できない。

3  小括

(1)  以上を総合すると、原告らの指摘にかかる諸事実のみをもってしては、本件各工事の入札につき談合がされたものであると推認することは困難である。

(2)  他方、証拠及び弁論の全趣旨によれば、被告マコト建設(〔証拠略〕、証人I)、被告カタヤマ(〔証拠略〕、証人G、同H)、被告ケイワールド日清(〔証拠略〕、証人O、同N)、被告エム・テック(〔証拠略〕、証人K、同J)、被告ユーディケー(〔証拠略〕、証人Q、同P)及び被告三ツ和総合(〔証拠略〕、証人L、同M)は、いずれも、入札参加業者として指名された本件各工事につき、市による現場説明会、工事仕様書の貸与等を経て、これらに基づき、建設大臣官房技術調査室監修・建設物価調査会発行の土木工事積算マニュアル、同建設省土木工事積算基準、同発行の建設物価、土木工事積算研究会編・建設物価調査会発行の諸経費早見表、同発行の積算資料及び建築技術研究センター発行の下水道工事歩掛代価表等市販された資料をいずれも参考にして、現実に積算を行い設計価格を推計した上、入札価格を決定したと述べているところ、これら供述内容等に不自然性があるとは評価できない。

また、前記のとおり、浦和市においても本件情報1、2を受け、当該入札参加業者につき事情聴取を行ったが、談合の確証を得ることができず、当該入札参加業者から誓約書を徴した上で入札を執行し、本件監査請求を受けた監査委員も、本件各工事の入札参加業者22社に対し文書調査を行い、また、本件各工事の契約担当部署及び支出命令所管課の責任者を含む関係職員計13名の事情聴取も行ったが、談合の事実を認めるに至らなかったところである。

(3)  そうすると、本件全証拠関係をもってしても、被告三ツ和総合につき、落札した本件工事<5>の入札において、他の本件工事<5>の指名入札業者との間で談合をしたものと認定することはできないし、このことは、本件他の工事の入札や落札をした他の被告らについてみても同様である。

4  結論

以上の次第で、原告らの請求は、その余の点を判断するまでもなく、理由がないから、いずれも棄却することとし、訴訟費用の負担につき行訴法7条、民訴法61条、65条1項を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 豊田建夫 裁判官 都築民枝 渡邉健司)

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