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さいたま地方裁判所 平成11年(行ウ)16号 判決 2005年6月08日

原告

被告

Y株式会社

同代表者代表取締役

同訴訟代理人弁護士

藤堂裕

寺上泰照

岩下圭一

宮川裕光

佐藤水暁

主文

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は、原告の負担とする。

事実及び理由

第3 当裁判所の判断

1  争点1(監査請求期間徒過の有無)について

(1)  地方自治法242条1項は、普通地方公共団体の住民が当該普通地方公共団体の違法、不当な財務会計上の行為又は怠る事実につき監査請求をすることができるものと規定し、同条2項本文は、上記監査請求の対象事項のうち行為については、これがあった日又は終わった日から1年を経過したときは監査請求をすることができないと規定している。一方、上記の対象事項のうち怠る事実についてはこのような期間制限は規定されておらず、住民は怠る事実が現に存する限りいつでも監査請求をすることができると解されるが、怠る事実を対象としてされた監査請求であっても、特定の財務会計上の行為が財務会計法規に違反して違法であるか又はこれが違法であって無効であるからこそ発生する実体法上の請求権の行使を怠る事実を対象とするものである場合には、当該行為のあった日又は終わった日を基準として地方自治法242条2項を適用すべきものである。

しかし、怠る事実については監査請求期間の制限がないのが原則であり、その制限が及ぶというべき場合はその例外に当たることに鑑みれば、監査委員が怠る事実の監査を遂げるためには、特定の財務会計上の行為の存否、内容等について検討しなければならないとしても、当該行為が財務会計法規に違反して違法であるか否かの判断をしなければならない関係にはない場合には、当該怠る事実を対象としてされた監査請求は、地方自治法242条2項を適用すべきものではない(最高裁平成14年7月2日判決・民集56巻6号1049頁参照)。

(2)  そこで、本件をみると、本件監査請求は、和光市が被告に対して有する損害賠償請求権の行使を怠る事実をも対象事項としていると解されるところ、当該損害賠償請求権は、被告らが談合をした結果に基づいて被告が和光市の実施した指名競争入札に応札して落札の上、和光市と不当に高額の代金で請負契約を締結して和光市に損害を与える不法行為により発生したとするものである。これによれば、本件監査請求を遂げるためには、監査委員は、和光市が被告と請負契約を締結したことやその代金額が不当に高いものであったか否かを検討せざるを得ないが、和光市の上記契約締結やその代金額の決定が財務会計法規に違反する違法なものであったとされて初めて和光市の被告に対する損害賠償請求権が発生するのではなく、被告らの談合、これに基づく被告の入札及び和光市との契約締結が不法行為法上違法の評価を受けるものであること、これにより和光市に損害が発生したことなどを確定しさえすれば足りるのであるから、本件監査請求は和光市の契約締結を対象とする監査請求を含むものとみざるを得ないものではない。とすれば、本件監査請求には地方自治法242条2項の適用がないものというべきであり、その適用を前提として本件監査請求は不適法なものとする被告の主張は採用できない。

したがって、本件監査請求が適法である以上、適法な監査請求を経た本件訴えも適法なものというべきである。

2  争点2(談合行為の有無)について

原告は、被告らによって談合が行われた結果として本件契約が締結されたとするが、本件全証拠によっても、被告らの談合行為の存在を証明するに足りる証拠はない。

原告は、本件契約による工事と同時期、同規模、同仕様の新潟県南魚沼郡の施設の総工事費は約12億8000万円であり、それと比較すると本件契約は21億2000万円という高額なものとなっていることや本件契約の入札価額は予定価額と同額であること等を理由として談合の存在は明らかであると主張する。具体的には、原告は、概ね「昭和63年契約の和光市施設の落札価格は21億2000万円、昭和57年契約の南魚沼郡施設の場合は12億8000万円である。ところで、〔証拠略〕から窺える和光市清掃センター(昭和63年建設当初のもの)の内容と〔証拠略〕から窺える南魚沼郡のごみ処理施設の内容を比較すると、ほとんど処理施設の内容は共通している。すなわち処理能力はともに40t×16h×2基であり、ごみ投入扉、ごみ投入クレーン、ホッパー、炉形式(連続燃焼式ストーカー炉)、乾燥・燃焼火格子、グレートカッター、ガス冷却室、電気集塵機、送風機、有害ガス除去装置、灰出しコンベアー、排水処理施設(クローズドシステム)、破砕機等のシステムも共通している。そして、プラントの機械部分は、システムが同じであれば、能力差で価額が変化するが、能力が同じであれば、価額に大きな差異はない。ただ、和光市の場合、事務所床(959m2)とごみ選別広場(644m2)等を含んでいるため建物の総床面積が4520m2で、南魚沼の場合はこれらがないから1960m2との差があり、この部分は補正する必要があるが、和光市施設の事務所床(959m2)とごみ選別広場(644m2)の建築費相当額は建築費単価を15万円/m2とすると2億4045万円に過ぎない。そうすると、本来であれば、和光市施設は、少なくとも南魚沼郡施設(12億8000万円)+建物補正分2億4045万円=15億2045万円で建設し得たはずである。ところが、被告はこれを5億9955万円も上回る21億2000万円で落札している。また、〔証拠略〕添付の入札経過調書によれば、和光市予定価額が21億2000万円であるところ、被告は1回の入札で、予定価額に100%一致した同額で落札しているが、このようなことは普通あり得ず、これは予定価額が漏洩していることを示す。これらから本件で談合があったことは明らかである。」とする(原告の平成17年3月10日付け準備書面)。

しかし、南魚沼郡の施設(〔証拠略〕)と本件契約に基づいて建設された和光市清掃センター(〔証拠略〕)とでは、建築工事を含めたプラント全体の諸設備の規模、仕様等が異なり、単純に横並びの比較はできないし、また、契約金額、応札金額は、工事の規模、仕様のみならず、景気全体の動向、その時々の工事や製品の原価、個々の業者の思惑、営業姿勢、今後の受注見通し等様々な要因により左右されることは公知の事実である。そこで、南魚沼郡の施設と和光市清掃センターの工事費だけを比較して本件契約金額が不当に高額とまで断ずることはできないし、そのことだけでは談合の存在を裏付けるものではない。また、入札価額が予定価額と同額であることは談合の存在を疑わせる一つの事情といえないこともないが、そもそも談合行為については、少なくとも、各契約ごとの個別具体的な談合の主張、立証が不可欠であるが、原告からは、被告が、いつ、誰と、どのような形で談合したのか等の個別具体的な主張、立証は全くなされておらず、具体的な談合行為を認めるに足りない(原告は、あるいは、談合は極めて秘密裡に行われるから、いつ、誰が、どこで、どのような話し合いをしたか等の具体的指摘はなくとも、当時の一般的な資料による積算価格、他の同種施設との価格の比較等から、当該落札金額が業者が談合したことによる結果と推測されれば足りると主張するかもしれないが、採用できない。)。

そうすると、結局、被告らが談合した結果として本件契約がなされたと認めるに足りる証拠はなく、原告の請求には理由がない。

3  結論

以上の次第で、原告の請求は理由がないから棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 豊田建夫 裁判官 富永良朗 松村一成)

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