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さいたま地方裁判所 平成11年(行ウ)49号 判決 2003年9月10日

原告

社会福祉法人A

同代表者理事

同訴訟代理人弁護士

蔭山好信

浅見雅士

被告

上尾税務署長 藤井正信

同指定代理人

古川忠雄

引地俊二

石川利夫

内田健文

山畑正

若山政行

大沼利光

仲村勝彰

主文

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は、原告の負担とする。

事実及び理由

第1請求

被告が、原告に対して平成10年1月26日付けでした平成6年4月分ないし同年7月分及び同年9月分の各月分の源泉所得税の各納税告知処分並びに平成6年4月分ないし同年6月分及び同年9月分の各月分の重加算税の各賦課決定処分(ただし、平成11年9月13日付け審査裁決により一部取り消された後のもの。)をいずれも取り消す。

第2事案の概要

1  事案の要旨

原告の代表理事であった乙(以下「乙」という。)が、原告の特別養護老人ホームの施設新築工事にあたり、設計業務の請負人である丙に支払うべき設計料について、合計金額2620万円(以下「本件金員」という。)、を水増し請求していたことから、被告は、本件金員が原告から乙へ支給した給与等(賞与)に該当すると認定し、原告に対し、平成10年1月26日付けで、平成6年4月分ないし同年7月分及び同年9月分(以下「本件各係争月分」という。)の源泉所得税の各納税告知処分(以下「本件納税告知処分」という。)並びに平成6年4月分ないし同年6月分及び同年9月分の重加算税の各賦課決定処分(以下「本件賦課決定処分」といい、本件納税告知処分と併せて「本件各処分」という。)をした。本件は、原告が、被告に対し、本件各処分(ただし、審査裁決による一部取消後のもの)の取消しを求めた事案である。

本件の主要な争点は、原告が本件工事の設計料名で支払った3530万円のうち、本件工事の真実の設計料であった910万円を控除した残額の2620万円(本件金員)が乙の課税所得となるか否か(争点1)、課税所得となる場合、本件金員が原告から乙に支払われた臨時の給与等(賞与)に該当するか否か(争点2)、当該賞与について原告が源泉徴収義務を負うか否か(争点3)である。

2  法令等の定め

(1)  源泉徴収制度について

ア 国税に関する法律の規定により国税(源泉徴収による国税を除く。)を納める義務がある者(納税義務者)及び源泉徴収による国税を徴収して国に納付しなければならない者(徴収納付義務者)を納税者とする〔国税通則法(以下「通則法」という。)2条5号〕。

イ 所得税法28条1項(給与所得)に規定する給与等の支払をする者その他第4編第1章から第6章まで(源泉徴収)に規定する支払をする者は、同法により、その支払に係る金額につき源泉徴収をする義務がある(所得税法6条)。

居住者に対し国内において所有税法28条1項に規定する給与等の支払をする者は、その支払の際、その給与等について所得税を徴収し、その徴収の日に属する月の翌月10日までに、これを国に納付しなければならない(同法183条1項)。

ウ 源泉徴収による所得税を徴収して国に納付する義務(納税義務)は、利子、配当、給与、報酬、料金その他源泉徴収をすべきものとされている所得の支払の時に成立し(通則法15条2項2号)、上記納税義務の成立と同時に特別の手続を要しないで納付すべき税額が確定する(同条3項2号)。

エ 源泉徴収の規定により所得税を徴収して納付すべき者がその所得税を納付しなかったときは、税務署長は、その所得税をその者から徴収する(所得税法221条)。

オ 源泉徴収による国税でその法定納期限までに納付されなかったものについて、税務署長が国税に関する法律の規定により徴収しようとするときは、納税の告知をしなければならず(通則法36条1項2号)、この納税の告知は、原則として、税務署長が、納付すべき税額、納期限及び納付場所を記載した納税告知書を送達して行う(同条2項)。

(2)  給与所得等の意義

ア 給与所得とは、俸給、給料、賃金、歳費及び賞与並びにこれらの性質を有する給与(以下「給与等」という。)に係る所得をいう(所得税法28条1項)。

イ 役員とは、法人の取締役、監査役、理事、監事及び清算人並びにこれら以外の者で法人の経営に従事している者のうち政令で定めるものをいう(法人税法2条15号)。

ウ 賞与とは、役員又は使用人に対する臨時的な給与(債務の免除による利益その他の経済的利益を含む。)のうち、他に定期の給与を受けていない者に対し継続して毎年所定の時期に定額(利益に一定の割合を乗ずる方法により算定されることとなっているものを除く。)を支給する旨の定めに基づいて支給されるもの及び退職給与以外のものをいう(法人税法35条4項)。

(3)  重加算税の意義

納税者が納付すべき税額の計算の基礎となる事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺいし又は仮装したところに基づき、過少申告(通則法65条)・無申告(同法66条)又は不納付(同法67条)がされた場合には、過少申告加算税・無申告加算税又は不納付加算税の代わりに、重加算税を課され又は徴収される(同法68条参照)。

(4)  社会福祉事業法(ただし、平成9年法律第74号による改正前のもの。以下「旧社会福祉法」という。)

社会福祉法人には、役員として、理事3人以上及び監事1人以上を置かなければならないとされ(旧社会福祉法34条1項)、理事は、すべて社会福祉法人の業務について、社会福祉法人を代表するが、定款でその代表権を制限することができるとされている(同法36条)。また、社会福祉法人の業務は、定款に別段の定めがないときは、理事の過半数をもって決するとされている(同法37条)。そして、社会福祉法人は、その経営する社会福祉事業に支障がない限り、公益を目的とする事業(公益事業)又はその収益を社会福祉事業に充てることを目的とする事業(収益事業)を行うことができるとされ(同法25条1項)、公益事業又は収益事業に関する会計は、それぞれ当該社会福祉法人の行う社会福祉事業に関する会計から区分し、特別の会計として経理しなければならないとされている(同条2項)。

3  基本的事実関係

(1)  当事者等

ア 原告は、平成6年3月10日、所在地を埼玉県北足立郡吹上町とし、社会福祉事業を行う目的で社会福祉法人A(以下「A」という。)として設立され、同所において特別養護老人ホーム「B」(以下「B」という。)を経営していた。原告は、平成10年3月23日、名称をAから社会福祉法人Aに変更し、同年4月6日付で名称変更の登記をした。

イ A設立当時の代表理事は乙であり、乙は、理事長としての職務に従事していたが、平成8年12月19日に理事を解任された。

ウ 蔭山好信弁護士が、平成8年12月20日に原告の代表理事に就任し、平成9年10月28日に辞任した。さらに、甲が、同日に原告の代表理事に就任し、理事長としての職務に就いている。

エ 原告は、平成7年5月16日、原告の設立に伴い同年3月1日に給与支払事務所を開設した旨の所得税法230条(給与等の支払をする事務所の開設等の届出)に規定する届出を被告税務署長宛てに提出し、同年3月分から源泉所得税の納付を開始した。

(2)  本件金員の支出

ア C銀行鴻巣支店の「D建築設計事務所丙」名義の普通預金口座(口座番号 、以下「本件口座」という。)への入金

(ア) 原告は、Bの新築工事(以下「本件工事」という。)に関して、平成6年5月30日、E株式会社との間で、原告を発注者、Eを請負人とし、本件工事に係る建築工事の請負代金額を4億5500万円とする工事請負契約(以下「本件請負契約」という)を締結した(乙4)。

(イ) 原告は、本件工事の設計について、丙との間で、設計料を本件工事の請負工事代金の2%相当額(910万円)とする契約を口頭で締結し、平成6年8月12日に中間金300万円を、平成7年3月30日に残金610万円をそれぞれ支払った(乙11、15)。

(ウ) 他方、原告は、本件工事の真実の設計料は、上記のとおり910万円であったにもかかわらず、平成6年1月14日付けで本件工事の設計料を3530万円とする建築士事務所業務委託受託書(以下「本件設計契約書」という。乙5)を作成した上で、本件工事に係る設計料名目で、本件口座に、平成6年3月30日に706万円、同年4月28日に1824万円、同年8月8日に300万円及び同年9月5日に700万円の合計3530万円を振り込んだ(乙6ないし8の2、12)。

イ 本件口座からの出金(出金額合計2974万5270円)

本件口座からの出金状況は、以下のとおりである。

(ア) 平成6年4月11日 150万円

本件口座から、同日、F名義で、乙が主宰していた医療法人G病院(以下「G病院」という。)に対し、乙の同病院に対する貸付金として150万円が送金された。

(イ) 平成6年5月2日 1800万円

本件口座から、同日、乙の親戚である丁名義で、G病院に対し、乙の同病院に対する貸付金として1800万円が送金された。

(ウ) 平成6年5月31日 100万円

本件口座から、同日、戊名義で、乙の妻であるHが取締役であった株式会社I(旧商号は株式会社I、以下「I」という。)に対し、乙の同社に対する貸付金として100万円が送金された。

(エ) 平成6年6月30日 100万円

本件口座から、同日、乙が代表取締役であった有限会社Jに対し、乙の同研究所に対する借入金債務の返済のために、100万円が送金された。

(オ) 平成6年7月11日 24万5270円

本件口座から、同日、戊名義で、乙が代表取締役であった株式会社Kに対し、乙の同社に対する貸付金として、24万5270円が送金された。

(カ) 平成6年9月14日 200万円

本件口座から、同日、戊名義で、乙が代表取締役であったL株式会社に対し、乙の同社に対する貸付金として、200万円が送金された。

(キ) 平成6年9月22日 100万円

本件口座から、同日、戊名義で、Iに対し、乙の同社に対する貸付金として、100万円が送金された。

(ク) 平成6年9月29日 500万円

本件口座から、同日、丁名義で、G病院に対し、乙の同病院に対する貸付金として、500万円が送金された。

(3)  本件各処分等の経緯

被告は、本件口座から乙に支払われた本件金員が、原告からの乙に対する給与等(賞与)に該当すると判断し、平成10年1月26日付けで本件各係争月分の源泉所得税の各納税告知処分(本件納税告知処分)及び平成6年4月分ないし同年6月分及び同年9月分の重加算税の各賦課決定処分(本件賦課決定処分)をした。

原告の本件各処分に関する異議申立て、異議決定、審査請求、審査裁決の経緯は別表のとおりである。

4  当事者の主張

(被告の主張)

(1) 「課税所得」該当性(争点1)

ア 納税者の得た経済的利得は、仮にそれが横領による不法利得であったときにも、課税所得である「所得」は、その不法利得を法律上有効に保有できるか否かに関係なく、経済的に見て利得者が現実にそれを支配管理し、自己のためにそれを享受している場合か否かによって判定されるべきものであるから、詐欺、脅迫による利得や不法原因給付に該当する利得のように一応所有権の移転するような利得に限られることなく、法的権利の裏づけがない窃盗や横領による「経済的利得」も、経済的に見て利得者が現実にそれを支配管理し、享受している限りは課税対象となる(最高裁昭和46年11月9日判決、民集25巻8号1120頁参照)。

イ 所得税法の解釈

所得税法152条、同法施行令274条及び通則法71条は、「無効な行為により生じた経済的成果が、その行為が無効であることに基因して失われた場合」について定めており、その返還債務の履行によって経済的利益が失われたときに更正の対象となることを明らかにしていることから、その行為が無効であっても返還債務等の履行によって経済的成果が失われることがない限り所得を構成すると解すべきである。

すなわち、所得税は、納税者に経済的利益が発生して担税力が増加したという事実に着目して課せられるものであり、経済的利益の発生原因となった行為が違法・無効であったとしても、その経済的利益は所得税法上の所得になるのであって、これに対応する返還債務等が発生したとしても、その履行によって経済的利益が失われない限りは課税所得を構成する。

ウ 実務における取扱い

課税実務においても、横領により取得した財物には所得税は課さないとしていた旧所得税法通達(昭和26年直所1-1)が昭和45年7月に改正され、収入金額の認定については収入原因は問われていない(所得税法基本通達36-1)。

エ 本件について

本件は、現時点において、原告から乙に対する不当利得返還請求が確定していないため、乙の得た利得が直ちに違法なものということはできないが、仮に違法な利得であったとしても、我が国の所得課税においては、収入(利得)の起因となる行為が適法なものであるか違法なものであるかにかかわらず、それが現実に利得者の管理支配の下に入っている場合には課税所得を構成することとされているのであるから、当該行為の違法性ないし適法性は、そもそも課税処分の権利発生要件ではないし、また、納税者の権利障害要件ともなり得ないのであり、本件金員が課税所得を構成することは明らかである。

それゆえ、所得の計算の基礎となった経済的成果が失われた場合における更正の請求(所得税法152条、同法施行令274条1号及び通則法71条1項2号)についてなされた更正をすべき理由がない旨の通知処分(通則法71条1項2号)の取消請求訴訟の場合は格別として、所得の起因となった行為の適法性ないし違法性は、課税処分の取消訴訟における要証事実とはなり得ないものであり、原告から乙に対する不当利得返還請求等の民事訴訟が確定して、乙が違法・不当な利得を返還するまでの間は、本件金員が乙の所得を構成するものであることに変わりはない。

(2) 「給与所得」該当性(争点2)

ア 給与所得の範囲

所得税法28条1項は、給与所得について、「俸給、給料、賃金、歳費及び賞与」と規定し、各種の名称の給与を例示している。そして、同条同項は、各種名称の給与の例示に続けて、「並びにこれらの性質を有する給与(以下「この条において「給与等」という。)に係る所得をいう。」と規定している。これは給与所得が各種の性格をもった諸給与を含む包括的な内容のものであることを示している。

給与所得が包括的な内容のものであるところ、一般的には、単に雇用関係に基づき労務の対価として支給される報酬よりは広く、雇用又はこれに類する原因(例えば、法人の理事、取締役等にみられる委任又は準委任等)に基づいて提供した労務の対価として、使用者から受ける報酬並びに実質的にこれに準ずべき給付を意味するものと解される。

そして、給与所得は、給与支給者との関係において、何らかの空間的、時間的な拘束を受け、継続的ないし断続的に労務又は役務の提供があり、その対価として支給されるものであるかどうかが重視される(最高裁昭和56年4月24日判決、民集35巻3号672頁参照)。

イ 労務・(役務)対価性について

(ア) 上記最高裁判例によれば、「給与所得」の一つのメルクマールとして、「労務(役務)対価性」が挙げられているが、提供される労務(役務)の質又は量について、それに明瞭に見合った付加的給与のみに限定されるかどうかが問題となる。

一般に、給与として支給されるものの中には各種名目の手当等があるが、それが勤務の対価としての性格を持つものである限り、名目のいかんを問わず給与所得に該当するものであるが、各種手当等のうちには超過勤務手当、休日出勤手当、役付手当、職務手当等、いわば労務提供の質と量に見合った対価と見られるものがある一方で、その関係が不明瞭な家族手当、住宅手当等の生活給的なものもある。後者の場合、労務の提供との直接的な対価性があるとは必ずしもいえないものの、しかし、それらは労働者としての地位に基づいたものであって、上記最高裁判例が指摘しているところの、給与支給者との関係において、一定の空間的・時間的な拘束を受け、継続的ないし断続的に労務又は役務の提供がなされていることから認められるものであり、広い意味での労務提供に対する報酬、すなわち給与所得に含まれるとみるべきものである。

(イ) また、所得税法28条1項における例示からも分かるように、給与所得は、雇用契約に基づいて被用者が雇用主から受ける報酬に限らず、広く雇用契約又はそれに類する関係その他一定の勤務関係に基づいて受ける報酬を内容としており、そのうちには、法人の代表取締役の報酬はもちろん、国権の最高機関を構成する国会議員の職務の報酬である「歳費」まで含まれている。

したがって、所得税法上の給与所得の範囲は、非独立的、従属的勤労の対価に限定されず、「一定の勤務関係に基づき、その勤務に対して受ける報酬」と解すべきである。

ウ 役員に対する給与

(ア) 法人の役員が法人から支給を受ける報酬(給与)も給与所得に含まれると解されており、この解釈は、上記の給与所得の意義とも一致する。

そもそも役員の業務内容は、極めて包括的かつ広範であり、法人の業務全般に及ぶものであることから、その給与の支給は指揮命令を受けて労働する従業員の賃金とは性格を異にし、必ずしも明瞭な対価性は認められないため、その役務提供の対価性の判断に当たっては、具体的かつ個々的な業務を観念することは、極めて困難である上、非現実的でもある。

(イ) 法人税法35条4項は、役員報酬か役員賞与かは、定期の給与か臨時の給与かという支給形態ないし外形を基準として区別すべきものとされており、現実に役員に支給される給与が具体的な業務執行の対価か否かにより区別すべきとはされていない。このような区別基準については、裁判例(最高裁平成5年9月28日判決)でも是認されているところであり、同判決は、「職務遂行の対価性などの実質を区分の基準に区別することは容易ではなく、必要もない。」とした原判決を正当として是認している。

(ウ) 代表取締役や理事長のように当該法人の代表権を有する者は、定款の定めや株主総会の決議等による限度額の範囲で、自己の報酬の支給方法を決定する権限を有しており、さらに、定款の定めや株主総会決議が元来予定していない経済的利益の享受によって利得を得ることも可能であり、このことは法人の経営(特に経理関係)の実権を代表者が掌握し、法人を事実上支配している等の事情があれば、一層容易に起こり得ることである。

(エ) そうすると、代表取締役や理事長のような権限のある法人代表者が、自己の権限を濫用して、当該法人の事業活動を通じて得た利得は、それが役員の立場と全く無関係であり、法人からみて純然たる第三者との取引ともいうべき態様によるものであるなどの特段の事情がない限り、その支給は給与であるとみるべきである。

エ 本件について

(ア) 本件金員の支払が原告の行為であること

本件金員の支払は、原告の当時の代表者乙の指示に基づいて、事務長が行ったものであり、その支払については、原告の会計帳簿に記載され、事後的にではあるが原告の理事会総会においても承認されているのであるから、形式的にも実質的にもまさに原告の行為というべきものである。本件は、この点で法人の経理処理を経由せずに行われた不正支出と異なり、本件金員の支出について原告の経理処理を経ているものとして適法性の推認が働くというべきである。

また、仮に本件金員が乙らによる横領行為等によって領得されたものであったとしても、原告においては、代表者に対する監督機関の理事会構成員全員が乙の人選にかかる者で、当初から名目的で形骸化したものであって、代表者乙に対する監督機関として機能していない状況下で、代表者乙が原告理事長として唯一包括的な代表権を有していたのであり、いわゆる同族法人と同視し得る実体を有していたといえる。

この場合、理事長である乙の行為は、原告の行為と同一視できるものであり、本件金員の支出は原告の行為として評価されるべきである。

(イ) 本件金員の支払が乙に対する給与等の支払に該当すること

a 本件において、原告は、本件工事の真実の設計料が910万円であるにもかかわらず、3530万円である旨の本件設計契約書を作成した上、原告の管理する本件口座に、本件工事に係る設計料の名目で3530万円を振り込んだものである。そして、その差額である2620万円は、乙らの判断によってその使途や金額を決められるものであり(乙証人調書2-2・9行目、2-9・2行目)、このことは、設計料の支払先である丙も了解していたところである(乙証人調書1-8)。

これら一連の事実からすれば、原告及び乙の真意は、乙が自由に使うことのできる金員を同人に対し支給する趣旨であり、本件設計料を水増しすることで本件金員を工面して、その分を乙に支出することが実体であったとみるべきである。

b 本件における乙の利得は、その理事長たる地位・権限と無関係には存在できなかったものであり、同人が理事長たる地位・権限に基づき、原告の設立準備、Bの新築工事等、原告の業務全般を専ら一人で遂行したことに対する労務の対価として、原告が支出し、乙がこれを取得したものにほかならない。

c したがって、原告は、本件金員が代表者乙の自由に処分し得る金員という認識の下で、所定の経理処理を経て支出したものであり、また、その性質は、乙の理事長としての地位に基づくものであることはもちろんのこと、乙の労務に対する対価としての性質を有するのであるから、これを前述の給与所得の意義に照らすならば、本件金員は、原告が乙に対して支給した臨時の給与等に該当するというべきである。

(3) 源泉徴収義務の有無(争点3)

ア 認定賞与とされる利得について

(ア) 法人役員等の利得の実態について

現実の法人の経営においては、給与支出の外形を伴わずに、役員等が法人から利益を取得することが稀ではない。特に、法人の代表者は、その資産を自由に処分し得る地位、権限を有することから、簿外資産を捻出し、これを当該法人の事業とは無関係に利得し、費消する場合が現実に多数発生しており、しかも、そのような利得はしばしば仮装・隠ぺい手段を伴ってされ、使途不明金となっている場合も少なくない。また、給与支出という形式を採らず、法形式上は、売買、抵当権設定、消費貸借、賃貸借等の契約を通じて、代表者等が利益を取得する場合も多い。

そして、このような事態は、いわゆる同族の会社組織に事実として多くみられるところであるが、それ以外の組織でも稀なことではなく、公益法人であっても例外ではない。

(イ) 代表者等の行為が法人の行為と同視し得ること

上記のような利得が発生する背景には、次に述べるように、法人の代表者に包括的な権限が認められ、それを専権的・独占的に行使し得ることが挙げられる。

a 株式会社の代表取締役は、会社の営業に関する一切の裁判上裁判外の行為をなす包括的権限を有し、これは対外的に制限できない(商法261条3項)。また、客観的に代表権の範囲内に属する行為であれば、主観的にはその権限を濫用した場合でも、代表行為自体は有効である(最高裁昭和38年9月5日判決・民集17巻8号909頁参照)。法人との関係では、横領、背任に該当する行為であっても例外ではない。

b また、公益法人の場合も同様に、理事の代表権の制限は善意の第三者に対抗できず(民法54条)、その権限は包括的である。

すなわち、公益法人の理事の代表権は、株式会社の代表取締役と同様、包括的で、その制限は第三者に対抗できないものであり(民法53条、54条)、社会福祉法人や学校法人等の公益法人においても、当該法人の理事が法人の業務を代表すると規定されている(旧社会福祉法36条、私立学校法37条等)のであるから、代表者の権限という面において、株式会社等と何ら異なる点はない。

(ウ) 上記利得が認定賞与に該当すること

役員等が法人から得る上記のような利得は、代表取締役や理事長のような権限のある法人役員等が、自己の権限を濫用して当該法人の事業活動を通じて得た利得であり、その支給が役員等としての立場と全く無関係であるなどの特段の事情がない限り、臨時の給与等、すなわち賞与として認められるべきものである。

イ 認定賞与課税について

(ア) 認定賞与の意義について

既に述べたとおり、所得税法における「給与所得」の範囲は、法人からその代表者に対して供与された経済的利益をも含み、給与所得に該当するかどうかは必ずしも供与された経済的利益について個々的な業務を観念する必要はなく、あくまでも法人の代表者たる地位に基づく給付を前提にし、さらに、役員報酬と役員賞与の区分はその支給形態の外形により行うべきである。

その上で、役員賞与には、法人が役員賞与という会計処理をしているものと、法人がかかる会計処理をしていないため、課税庁が税法上の役員賞与に該当すると認定し、課税を行うものとがあり、後者を課税実務上認定賞与という。

なお、認定賞与課税は、いわゆる同族会社に事実として多くみられるところであるが、このことは、監査役等による執行機関への内部牽制や公認会計士等による外部監査等のチェック機能が、非同族会社においては有効に働いているの対して、同族会社においては代表者等に権限が集中して、これらのチェック機能が有効に働いていないことが多いことの結果である。したがって、非同族会社においても、役員等に対して臨時の給与等を支給したと認められる事実があれば、認定賞与課税が行われることも実務上稀なことではない(新潟地裁昭和45年4月14日判決参照)。

(イ) 認定賞与課税の類型

認定賞与課税を類型化すると、

a 課税庁が、法人税法132条に基づき、法人の行為計算を否認し、当該法人税法の関係においてのみ否認された行為計算に代えて課税庁の認定するところに従い課税する場合

b 法人が役員に対し臨時的に経済的利益の供与(例えば法人資産の低廉譲渡)を行った際、帳簿上は、かかる臨時的な経済的利益の供与も賞与とする旨規定されている(法人税法35条4項括弧書参照)ことから、課税庁がかかる低額譲渡による時価との差額を役員に対する賞与と認定する場合

c 法人の不正な帳簿(架空経費、使途不明の交際費等)を否認することとの関連で、会社の役員に対する賞与の支給があったと認定する場合

に分類することができる。

(ウ) 賞与支給事実を認定することの合理性

a 本件は、上記類型のc、すなわち事実上の推認として、代表者が代表者たる地位に基づいて利得した経済的利益が、当該法人から「供与」されたことを間接事実の積上げによって認定すべき事例である。

元来、賞与の支給は金銭の給付であるところ、現実の法人の経営においては、給与支給の外形を伴わずに、役員等が法人から利益を取得することが稀ではない。特に、法人の代表者は、その資産を自由に処分し得る地位、権限を有することから、簿外資産を捻出し、これを当該法人の事業とは無関係に利得し、費消している場合が現実に多数発生しており、しかも、そのような利得は仮装・隠ぺい手段を伴う場合や、法形式上、売買、抵当権設定、消費貸借等の契約を通じて、代表者が利益を取得する場合も多い。

これらの利益は、給与たる名目ないし支給の外形等の帳簿等の記録あるいは関係者の供述等が得られなければ、個々に給付方法等を具体的に特定することは極めて困難であり、法人の代表者がこのような利得により担税力を増加させているにもかかわらず、課税を免れるとすれば、課税負担公平の原則に反する不当な結果を招来することは明らかであり、許されない。

b また、賞与であることが肯定されるには、法人の意思に基づく給付であることが肯定される必要があると考えられるが、前述したような法人の代表者の権限に照らせば、法人から代表者等への利益の供与は、代表者の権限内のものであり、代表者の意思に基づく給付は、法人の意思に基づく給付であると認められる。

そして、既に述べたとおり、代表者の行為が、刑法等の法令に違反し、あるいは、権限を濫用したものである場合であっても、代表者の権限内のものであることには変わりがなく、その結果、代表者が法人に対して返還義務を負うとしても、課税所得を構成することが否定されるものでない。

c そうすると、代表者が法人から利得し、その趣旨が明らかでない場合、相当な価格での資産の売買代金であることなど特別の事情があれば格別、そうでなければ、代表者の地位にあること以外に、そのような利益を得る理由はないから、その利得は、法人の代表者であるという地位に基づいて取得した利益であるといえる。そして、法人から代表者への利益の供与は、法人の代表者の権限内のものであり、代表者の意思すなわち法人の意思に基づく給付であると認められるべきものであるところ、かかる利益の供与をもって、所得税法183条にいう「給与等の支払」の事実があったと認定することは合理的である。

ウ 認定賞与課税と裁判例

間接事実から賞与の支給、すなわち当該経済的利益が役員に帰属した事実を推認することについて、裁判例においては事実上立証の必要を納税者側に転換している例が多く、このような手法は最高裁判所においても是認されているところである。

そして、多数の裁判例を検討した場合

<1> 法人の簿外所得(資金)の存在

<2> 法人の簿外所得(資金)の社内留保と社外流出

<3> 法人の同族性

<4> 簿外所得(資金)の使途についての合理的説明の欠如

<5> 簿外所得(資金)の支配管理者による費消

<6> 法人資金の私的費消

の6要素について、認定賞与課税の適法性の審理がなされているが、賞与支給事実の認定に当たっては、支出の名目や形式、利益取得行為の適法性如何にかかわらず、宗教法人や学校法人等の公益法人についても同様の認定手法によっているのであり、法人の設立形式のみに注目するにとどまらず、代表者等による簿外所得の実質的支配管理の有無に重点が置かれているのは明らかであり、これら複数の間接事実の総合判断により認定賞与に当たるか否かが判断されている。

エ 公益法人の認定賞与に関する裁判例

(ア) 賞与は、法人の利益処分であることを要件としておらず、損失が生じている法人であったとしても賞与の支給があり得るし、株式会社等が、商法に違反して、株主総会の決議を得ずに役員賞与を支払った場合も、税法上賞与とされる。そして、このことと同様に、法律上は利益を観念し得ない公益法人が、その役員に対して法的に取得し得ない違法な利得を与えた場合においても、税法上賞与となることに何ら変わりはない。

裁判例上も、社会福祉法人、宗教法人、学校法人などの公益法人において、代表者等が利得した事例について、賞与であると認められており、公益法人であることを理由としてこれを否定した事例は見当たらない。

(イ) この点について、東京地裁平成14年6月21日判決(乙18)は、設立中の社会福祉法人の設立代表者が社会福祉法人への寄附金の財源を捻出するために、施設の工事費用を過大計上する等の方法により簿外資産を作出し、個人的に費消したという、本件と極めて類似した事案について、社会福祉法人が代表者に対して経済的利益を供与したと認められ、社会福祉法人の代表者に対する賞与と認定されるべきであると判示している。

すなわち、上記事案の設立代表者は、個人的な借入れの返済に当たり、設立中の法人財産からこれを返済させ、あるいは、設立代表者が役員を務める団体名義の預金を設立中の法人にさせるなどしており、これが代表者の権限を濫用した違法なものであることには疑いがないところ、上記東京地裁判決は、設立中法人における代表者の地位等を総合考慮し、賞与と認定しているのであり、これは、代表者の包括的権限及び代表者の得た経済的利益が代表者の地位に基づくものと推認されることを正当に評価したものであり、その考え方は、これまでの裁判例に沿う妥当なものである。

(ウ) 上記東京地裁判決のほかにも、宗教法人の代表者等(住職又は副住職)が利得を得ている事実を前提に代表者等に対する賞与と認定した告知処分を適法とした裁判例(前掲大阪地裁平成8年9月6日判決、札幌地裁平成12年10月26日判決、控訴審である札幌高裁平成13年6月14日判決)、学校法人の不正経理により生じた簿外資金を理事長への賞与と認定した告知処分を適法とした裁判例(福島地裁平成5年7月19日判決、控訴審である仙台高裁平成7年7月31日判決、上告審である最高裁平成8年3月5日判決)等の裁判例が存するが、公益法人であることを理由に認定賞与課税を取り消した事例はない。

(エ) なお、京都地裁平成14年9月20日判決(平成11年(行ウ)第27号。国側控訴。以下「京都地裁判決」という。)は、法人の代表者が当該法人の会計担当者に命じて自己の口座に金員を移動させた事実を認定し、これが、当該法人から代表者が得た所得となることを認めながら、当該所得が給与所得であることを否定した。

しかしながら、京都地裁の判断は、法人の代表者等が法人から経済的利得を得た場合の給与所得(賞与)該当性について、これまで蓄積されてきた判例の認定判断に反するものであって、給与所得に関する法解釈を明らかに誤ったものである(乙19・M意見書)。

オ 源泉徴収義務者が最終的に負担するものではないこと

上記のような認定賞与課税が行われる場合において、認定賞与に係る源泉徴収義務を負う法人は、民事上は横領等による被害者であるというのが大半である。このことから、課税庁が、横領等の被害者たる法人に対して、その被害額を加害者に対する認定賞与とみて納税告知処分を行うことが、一見すると、被害者である法人にとって酷な処分であると受け取られかねない面があることも否定し得ないところである。

しかしながら、源泉徴収に係る所得税の徴収納付においては、国と源泉徴収義務者(支払者)との間の法律関係と、源泉徴収義務者(支払者)と納税義務者(給与の受給者等)との間の法律関係が同時に存在し、前者は公法上の債権債務関係であり、後者は私法上の債権債務関係であると解されている。そして、源泉徴収が過少になされ、後に源泉徴収義務者が差額を追加納付又は徴収された場合は、源泉徴収義務者は、その差額について納税義務者に対して求償することができることとされている(所得税法222条。最髙裁昭和45年12月24日判決・民集24巻13号2243頁)のである。

したがって、納税告知処分によって納付すべき源泉徴収税額については、本来、源泉徴収義務者が加害者たる代表者等に求償すべきものであって、被害者たる源泉徴収義務者が最終的に負担すべきものとされてはないのであり、納税告知処分が横領の被害者たる源泉徴収義務者にとって酷であるという価値判断は、判断の先後関係を誤ったもので、成り立ち得ない。

また、源泉徴収義務者が上記の求償権の行使を怠って、被害者に対する課税が酷であるということを理由に納税告知処分の取消しを求めることは、実質的には自らの代表者の行為の結果をそれと無関係な我が国の他の善良な納税者の負担に帰する、すなわち国民一般に転嫁しようとしているに等しく、到底許されるものではない。

カ 本件について

(ア) 前述のとおり、原告は、乙に対する臨時の給与等として本件金員を支給したものとみるべきであって、かかる支払について、所得税法183条等の規定に基づいて所得税を源泉徴収し、国に納付すべきであったことは明らかである。

なお、源泉徴収義務の存否は、徴収の難易によって左右されるものではないが、仮に、源泉徴収義務の存否がそのような事情に影響されるとの考えに立ったとしても、本件の場合、原告は、本件金員が乙らの判断によってその使途や金額を決められるものであることを認識した上で支出したものであって、支払者がその支払の事実や趣旨を認識し得ないというような事情は認められないのであるから、本件は、原告が給与の支払を認識し得ず、源泉徴収をすべき機会がなかったとは到底いえない事案である。

(イ) また、本件の場合、仮に本件金員が乙の横領行為によって領得されたものであったとしても、本件各納税告知処分によって納付すべき源泉徴収税額については、本来、原告が乙に求償すべきものであって、原告が最終的に負担すべきものではないから、本件納税告知処分が原告にとって酷であるという価値判断が成り立ち得ないことはいうまでもない。

(4) 給与所得の収入すべき時期について

ア 所得税法36条は、その年分の各種所得の金額の計算上収入金額とすべき金額又は総収入金額に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、その年において収入すべき金額(金銭以外の物又は権利その他経済的利益をもって収入する場合には、その金銭以外の物又は権利その他経済的な利益の額)とする旨規定し、さらに、同条の取扱いを定めた所得税基本通達36-9は、給与所得の収入金額の収入すべき時期について、「契約又は慣習により支給日が定められている給与等についてはその支給日、その日が定められていないものについてはその支給を受けた日」による旨定めている。

また、同通達は、「いわゆる認定賞与とされる給与等で、その支給日からあらかじめ定められているものについてはその支給日、その日が定められていないものについては現実にその支給を受けた日(その日が明らかでない場合には、その支給が行われたと認められる事業年度の終了の日)」を収入すべき時期としている。

したがって、法人が売上等を除外し、代表者等がこれを代表者等の預金通帳に預入し、又は、代表者がこれを個人的経費に支出した場合においては、当該預入又は支出があった日が給与所得の収入すべき時期となる。

イ これを本件についてみるに、乙が本件口座から、本件金員に係る利得を得た日が、本件金員に係る給与等の支給を受けた日となる。

(5) 原告の主張に対する反論

ア 原告は、社会福祉法人の理事らによる不正経理は本件以外にも存在するとして、事例を掲げ、その事例においては、所得課税がなされていないものが少なからずあり、本件各処分は、税の公平性に反する旨主張するが、被告は、上記のとおり、本件各処分の根拠及び適法性について適切に主張しているものであり、そもそも、事実関係の詳細が何ら明らかでない他の事例との比較に基づく主張は、それ自体失当である。

また、原告は、本件各処分が妥当であるというのであれば、「世の総ての横領事犯に対して源泉徴収義務を課すのでなければ、税の公平さは保てない」と主張するが、横領等の違法行為が、労務提供等と無関係になされ、不法利得が生じた場合、当該利得は、給与所得に当たるとは解し得ず、これを雑所得に含めるほかはないが、当該利得が、法人の実質的経営者において、その地位、権限に基づき自ら支給したものである場合、仮に同行為が違法と評価されたとしても、同利益は、なお同経営者の労務提供の対価たる性質を失わないというべきであって、これを「世の総ての横領事犯」による利得と同視することはできない。

本件における乙の利得は、乙の理事長たる地位、権限と無関係に取得されたものではあり得ず、乙が、理事長たる地位、権限に基づき、原告の設立準備、Bの新築工事等、原告の業務全般を専ら1人で遂行したことに対する労務の対価として、支出し、取得したものにほかならない。

したがって、原告の上記主張は前提を誤るものであって失当というほかない。

イ 原告は、原告の定款(甲5)によれば、理事長は日常の軽易な業務しか専決できず、原告の意思決定は理事会によって決せられることとされている(5条)から、理事会の決定のない本件設計料の支払は、付与された権限を逸脱した乙の個人的な行為にすぎず、原告の指揮命令に基づくものではないから、給与所得ではない旨主張する。

しかしながら、社会福祉法38条は「理事は、すべて社会福祉法人の業務について、社会福祉法人を代表する。ただし、定款をもって、その代表権を制限することができる。」と規定するところ、原告の定款(甲5)4条3項によれば、「理事長のみが、この法人を代表する。」と規定していることから、他の理事は代表権を有しておらず、理事長のみが包括的な代表権を有している。

したがって、乙が理事長として原告を代表して行った行為はすべて原告の行為とみなされる。そのほか、上記定款によれば、原告の資産は理事長が管理する(14条)との規定が置かれており、また、実体としても、乙の権限は、包括的で、その資産に対する全面的な支配権を有したものであるというべきである。そして、乙は、原告の設立代表及び理事長として、原告の設立、施設建設の事前準備と契約及び会計処理等を管理統括しており、実質的に原告の運営及び経理を独裁的に行っていたことが認められ、当時の原告の意思と乙の意思はいわば一体であったことは明らかであり、乙の行為は原告の行為と同一視できるというべきである。

したがって、原告の上記主張は失当である。

ウ 原告は、本件口座への水増し設計料の入金及び同口座からの各出金は、理事会の決定等の所定の手続がとられておらず、原告に無関係の状態で行われたものであり、このような原告に無断で乙が不法に両得した場合にまで源泉徴収義務を課すのは、およそ法人の役員や従業員が法人に無断で法人の金銭を盗んだり横領したりした場合と同様、徴収義務者である原告に不可能ともいえる過大な義務を課すことになり、憲法違反である旨主張する。

しかしながら、原告の理事長として包括的代表権を有していた乙にとって、自己に対する認定賞与について所得税の徴収納付義務を果たすことは何ら困難なことではないから、原告の源泉徴収義務を課すのが不可能を強いることになるとする原告の主張は失当というほかない。もとより、乙が自ら不正行為の発覚につながりかねない源泉徴収義務を果たすことを期待することが困難であることは否定しないが、それは乙の主観的な問題であり、原告にとって徴収納付義務の履行が客観的に不可能かどうかとは無関係というべきである。仮に乙のように不正行為を行う者に対しては正当な行為を期待し得ないとの理由で義務を課し得ないとすれば、脱税を企てる者に正しい申告を期待することはできないとの理由で加算税を課することもできないこととなり、不合理である。

そもそも、同族法人等においては、実質的経営者が簿外資産等を作出してこれを支配し、自由に資金を出し入れしている場合が多く、決算に表れた名目上の支出とその実質が一致せず、給与以外の名目、外形の支出が給与の実質を有することが通例である(したがって、課税庁が当該支出が事業遂行に関連するものか、それとも法人役員等に対する賞与等に該当する支出かを判別するに当たっても、当然に困難が伴う。)。かかる実態に鑑みれば、法人の資産に起因する役員の経済的利益の享受が役員に対する何らかの給付行為の外形を伴っていないからといって、直ちに給与性を否定することは相当でない。

のみならず、前述のように、同族法人等においては、役員の業績評価や給与支給の実権がもっぱら実質的経営者に委ねられているから、同経営者が事業と無関係の支出をし、これを自ら取得、費消している場合は、当該利得が法人役員たる地位や労務提供とおよそ無関係に引き出されたものであるとは解し得ない。当該給付が給与として支給されたという外形を伴う場合はもとより、かかる外形を伴わない場合にも、法人役員自らの実権に基づき、いわばお手盛りで法人の利益を取得、費消したと推認すべき事実関係が認められる以上、当該法人の役員としての地位に基づき利益を取得したとみざるを得ないのであり、その適法、違法を問わず、これをもって給与所得とみるべきことは当然である。

したがって、原告の上記主張は失当である。

エ 原告は、本件の場合、原告ないし乙が所得を隠匿したものではなく、かつ、原告は源泉所得税を納付したとしても乙から回収することは極めて困難であるから、本件各処分は原告に過大な負担を課すものである旨主張する。

しかしながら、源泉徴収による所得税の納税義務は、給与等の支払の時に成立し(通則法15条2項2号)、納付すべき税額の確定は、納税義務の成立と同時であり、特別の手続を要しない(同法15条3項2号)。そして、源泉徴収による国税でその法定納期限までに納付されなかった場合には、税務署長は、その国税を徴収しようとするときは、納税の告知を要することになる(同法36条1項2号)。すなわち、このような源泉徴収制度の性格からしても、源泉徴収の対象とされる給与等に該当するか否かは、その支払の時点で判断されるべきであり、原告の主張のごとく、納税告知処分時において、実質的経営者が当該法人の経営に関与しているか否かが、その判断材料になることなどあり得ない。

逆に、処分時において実質的経営者が当該法人の経営に関与していないことにより、法人が源泉徴収義務を免れる理由となるとすれば、法人と当該役員が結託することにより、容易に源泉徴収義務を免れることが可能となり、ことに我が国に極めて多い同族法人の場合、かかる結託、共謀が容易であり、反面、これに対する課税庁側の内部事情を明らかにするという反証が極めて困難であることから、源泉徴収制度を設けた趣旨が実質上没却されかねない弊害が生じることは明らかである。

また、乙の本件利得が給与(賞与)である以上、その支払者である原告は源泉徴収義務を負うのであり(所得税法183条1項、186条1項)、支払者である原告が徴収を怠った場合は、徴税の追及を受けるのは、徴収義務者たる原告であって、受給者である乙ではない(同法221条)。そして、支払者である原告が源泉所得税を納付した場合は、その相当額を受給者である乙に対して求償すべきものとされている(同法222条)。

この点、支払者の受給者に対する求償が不能であるからといって支払者が源泉徴収義務を免れるものと解すべき規定はない。すなわち、支払者である法人が受給者である役員の無資力、所在不明等により事実上上記求償権を行使し得ない場合が生じたとしても、このような危険負担は、かかる役員を選任し、それに対する監督権を十分に行使し得なかった法人が自ら負うべきものであり、その危険を課税庁に負担させるべきいわれはない。

したがって、仮に、原告が被告の納税告知処分に従い未徴収の源泉税相当額を納付したとしても、乙の資産が不明な状況下において、当該金額を回収することは極めて困難であったとしても、そのような乙を選任し、それに対する監督権を十分に行使し得なかった原告が自ら負うべきものであり、その危険を課税庁に負わせるべきいわれはなく、原告の上記主張は、乙の本件利得当時の原告自身の責任回避のため以外の何ものでもない。

(6) 本件各納税告知処分の計算根拠

本件係争月分における原告が乙へ支給した臨時の給与(賞与)の額及び源泉徴収すべき税額は、次のとおりである。

ア 原告が乙へ支給した臨時の給与支給総額 2620万0000円

(ア) 平成6年4月11日 150万0000円

(イ) 平成6年5月2日 1800万0000円

(ウ) 平成6年5月31日 100万0000円

(エ) 平成6年6月30日 100万0000円

(オ) 平成6年7月11日 24万5270円

(カ) 平成6年9月14日 200万0000円

(キ) 平成6年9月22日 100万0000円

(ク) 平成6年9月29日 145万4730円

上記金額は、本件工事の設計料の水増しに係る利得の額2620万円から、上記(ア)ないし(キ)の合計額2474万5270円を控除した残額145万4730円である。

イ 源泉徴収税額総額 918万0366円

(ア) 平成6年4月11日 23万8800円

(イ) 平成6年5月2日 801万3000円

(ウ) 平成6年5月31日 8万3400円

(エ) 平成6年6月30日 8万3400円

(オ) 平成6年7月11日 1万7166円

(カ) 平成6年9月14日 43万4400円

(キ) 平成6年9月22日 8万3400円

(ク) 平成6年9月29日 22万6800円

上記金額は、所得税法186条1項2号ロに基づき、前記アの(ア)ないし(ク)のそれぞれの金額の6分の1に相当する金額に応ずる所得税法別表2の乙欄に掲げる税額に6を乗じて計算した金額に相当する税額である。

(7) 本件各納税告知処分に係る納付すべき税額は、別表記載のとおりであり、上記イとそれぞれ同額であるから、本件納税告知処分は適法である。

(8) 本件各賦課決定処分について

ア 本件各賦課決定処分の根拠

原告は、本件設計料に関し、仮装することにより捻出した本件金員相当額を、乙へ臨時的な給与等として支給していたにもかかわらず、その支払について源泉所得税をその法定納期限までに納付しなかったのであるから、通則法68条3項所定の重加算税を徴収する要件を充たすというべきである。

イ 重加算税の計算根拠

通則法68条3項の規定に基づき重加算税の額を計算すると、以下のとおりである。

(ア) 重加算税の基礎となる税額 915万0000円

a 平成6年4月分 23万0000円

b 平成6年5月分 809万0000円

c 平成6年6月分 8万0000円

d 平成6年7月分 1万0000円

e 平成6年9月分 74万0000円

上記金額は、本件各納税告知処分により納付すべき本件各係争月分の源泉所得税の額(通則法118条3項の規定に基づき1万円未満の端数切り捨て後の金額)である。

(イ) 重加算税の金額 319万9000円

a 平成6年4月分 8万0500円

b 平成6年5月分 283万1500円

c 平成6年6月分 2万8000円

d 平成6年7月分 0円

e 平成6年9月分 25万9000円

上記金額は、通則法68条3項の規定に基づき、不納付加算税に代え、前記(ア)の金額に100分の35の割合を乗じて算出した金額(通則法119条4項の規定に基づき100円未満の端数切り捨て後の金額)である。

ウ 本件各賦課決定処分の適法性

本件賦課決定処分は、上記イ(イ)aないしeの金額と同額であるから、本件各賦課決定処分は適法である。

(原告の主張)

(1) 「課税所得」該当性(争点1)

ア 本件口座は原告設立前の平成5年11月25日に開設され(乙16の1)、その通帳や印鑑は、原告の設立以前は社会福祉法人N事務所内において、原告設立後はO福祉グループにおいて〔戊(以下「戊」という。)の供述調書1-12、1-13〕、乙が管理していたものである(乙13)。

本件口座に入金された金員は、乙の専断によって自由に使途や金額を決めることができ(乙13)、本件口座からの出金や使途について原告の理事会が開かれることはなく(乙の供述調書2-9)、かつ、社会福祉法や原告の事業目的にも反した出金がなされていた(同調書2-3、甲5)ものであり、以上の事実関係及び本件口座が「埼玉県内の社会福祉法人の設立に係る準備資金を作るために乙が戊に指示して設定した口座」(乙13)で、原告の運営資金等に資するためだけに開設されたものではないこと等をも考え合わせると、本件預金の所有者は乙であり、原告ではない。

被告も、本件口座は、乙が戊に指示し、開設させ、管理していた口座である旨主張し、本件口座は乙が開設し、管理していたことを認め、本件C銀行の預金(以下「本件預金」という。)が原告のものではなく、乙の所有に属するものであることを認識していたものである。

イ したがって、原告の資産が乙に移転したのは、原告のC銀行鴻巣支店の(福)A施設設備会計預金口座(以下「本件施設会計口座」という。)から本件口座へ、平成6年3月30日に706万円、同年4月28日に1824万円、同年8月8日に600万円、同年9月5日に700万円の各送金がなされた時点であり、同各送金日以降、前記各金員は、乙の管理する乙個人の資産となっており、乙の利得も上記各送金日に発生したと考えるべきである。

被告は、乙の利得の発生時期は、本件口座から乙が出金した時点において、各出金額に相応する利得が乙に発生した旨主張し、これに基づいて本件各処分をしているが、前述のように本件預金は乙の所有物であるから、既に乙が所有している金員を乙が本件口座から出金したとしても乙に利得が生じるものではなく、被告の主張は論理的に破綻している。

また、被告は、本件金員の支払は、原告の当時の代表者乙の指示に基づいて、事務長が行ったものであり、その支払については、原告の会計帳簿に記載され、事後的にではあるが、原告の理事会総会においても承認されているものであるから、形式的にも実質的にもまさに原告の行為というべきであるとも主張しているが、そこでいう「本件金員の支払」とは、本件施設会計口座から本件口座への送金であり、本件口座からの本件各出金ではないのであって、かような誤認に基づいた本件各処分が重大な瑕疵を帯びていることは明らかであり、本件各処分は速やかに取り消さなければならない。

原告としても、本件施設会計口座から本件口座への送金が、原告の行為によるものであることまでも否定するものではないが、本件施設会計口座から本件口座への各送金と本件口座からの本件各出金とは、基本的事実関係が全く異なり、課税根拠事実を異にするのであって、同一年度内に本件施設会計口座からの上記送金が存在することをもって本件各処分の瑕疵が治癒されるものではない。

(2) 「給与所得」該当性(争点2)

ア 仮に本件口座が原告の所有に属すると評価できるとしても、本件各支出は、所得税法183条所定の「給与」に該当するものではない。

(ア) いわゆる給与所得とは、雇用契約又はこれに類する原因に基づき使用者の指揮命令に服して提供した労務の対価として使用者から受ける給付をいい、とりわけ、給与支給者との関係において何らかの空間的、時間的な拘束を受け、継続的ないし断続的に労務又は役務の提供があり、その対価として支給されるものであるかどうかが重視されなければならないものである。

(イ) そこで本件についてみるに、原告は、社会福祉事業法に基づいて設立された社会福祉法人であるが、社会福祉法においては、社会福祉法人には、役員として、理事3人以上及び監事1人以上を置かなければならず(社会福祉法36条1項)、理事は、すべて社会福祉法人の業務について、社会福祉法人を代表するが、定款でその代表権を制限することができるとされている(同法38条)。また、社会福祉法人は、その経営する社会福祉事業に支障がない限り、公益事業又は収益事業を行うことができるとされ(同法26条1項)、公益事業又は収益事業に関する会計は、それぞれ当該社会福祉法人の行う社会福祉事業に関する会計から区分し、特別の会計として経理しなければならないとされている(同条2項)。

そして、原告は、定款(甲5)によって、理事長のみが原告を代表するとされ(定款4条3項)、日常の軽易な業務は理事長が専決し、これを理事会に報告するものとされ(同5条1項)、理事会の議事は、原則として理事総数の過半数で決し(同5条6項)、特別の利害関係を有する理事は、その議事の議決に加わることができないとされている(同5条7項)。また、基本財産の処分は、理事総数の3分の2以上の同意を得て、埼玉県知事の承認を得なければならず(同13条)、法人の資産は、理事会の定める方法により、理事長が管理することとされている(同14条1項)。

(ウ) 本件口座からの出金の対象となった各貸付や返済は、社会福祉法及び原告の定款に反する行為であり、そもそも原告が行うことすら許されないもので、原告の意思に担われた行為と評価することはできない〔乙自身、上記各送金が乙の個人的な所為であって、乙が原告を代表して、原告の行為として行ったものではないことを認めている(乙13の問7)。〕。

したがって、本件各出金は、乙が原告の理事長として、空間的、時間的な原告の拘束下において、継続的ないし断続的に原告に提供した「労務又は役務」として評価することはできず、もっぱら乙の個人的な用途に使用する目的で、それぞれの送金を行ったものであり、そこには原告の事情は一切関係していないのであって、このような本件各出金を理事長としての乙の労務又は役務の提供と対価関係に立つと評価することはできず、本件各出金を「給与」と評価した被告の認定は誤りである。

また、被告は、「乙が原告の設立準備、Bの新築工事等、原告の業務全般をもっぱら1人で遂行したことに対する労務の対価として、原告が支出し、乙がこれを取得した」として、対価性、給与該当性を理由付けるが、そもそも原告には理事に対する報酬規定が存在しないことを無視し、報酬等の受領権限を有する株式会社の取締役等との異同を全く考慮しない主張であり、到底首肯できるものではない。

(エ) 被告は、本件出金が「給与」に当たるとして、いくつかの判例を掲げているが、そこに表れた事例は、不正か否かはともかくとして、当該法人自身若しくは当該理事長において行うことの可能な所為を捉えたものばかりであり、本件のように原告が本来行うことの許されない所為に対する課税ではなく、なおかつ、上記判例は、個人会社か同族会社で代表者の行為が即法人の行為と捉えられるものばかりであって、理事長の行為に前述のような厳格な制限の伴う本件とは全く事例を異にしており、その理を本件に当てはめることはできない。

(オ) なお、理事長の行為を原告の行為と同視できるといえるか否かについて、民事法上「取引の安全に対する配慮」から、表見法理等によって法人の行為とみなすことがあるが、納税問題については、「取引の安全」という概念は不要であることから、表見法理等を用いる必要はないのであり、結局、乙の行為を原告の行為と同視することはできないというべきである。

(カ) 以上の次第で、仮に本件口座の所有者が原告であると評価できるとしても、本件口座からの本件各出金は、原告の意思に基づくものではなく、原告の利益に反した乙の個人的な横領行為そのものであり、これを原告から乙に対する「給与」と評価することは法常識に反する(本件各出金は、原告の利益処分でもないことから「役員賞与」にも当たらず、強いていえば、乙の一時所得その他の所得として認定すべきものであったと考えられる。)。

イ 仮に、本件口座が原告の所有に属すると評価され、かつ、本件各出金が乙の労務又は役務の提供と対価関係に立つと評価できるとしても、そこには所得税法183条1項に定める「支払」の事実がない。

(ア) 所得税法183条1項は、支払者は、その支払の際、その給与等を受給者から、天引によって徴収し、その徴収の日の属する月の翌月10日までに、これを国に納付しなければならないと規定しており、これを受けて通則法2条5号は、支払者は納税者とし、その場合の納税義務を、受給者から徴収して納付する義務と定義している(同法15条1項)。そして、そのような特殊な納税義務は、当該所得の支払時に成立し(同条2項2号)、その成立と同時に特別な手続を要しないで納付すべき税額が確定するものとされている(同条3項2号)。

そして、源泉徴収による所得税は、いかなる場合でも、支払者のみから徴収され、実質的所得者である受給者が課税庁から直接に追及されることはないことや源泉徴収の対象となる所得については、他の各所得とは異なる取扱いをしていること等を勘案すれば、所得税法は、源泉徴収手続をするのに相応しい内容の所得を念頭に置いているのであって、同法183条1項所定の「支払の際」の意味も、このような観点を加味して考えなければならない〔京都地裁平成14年9月20日判決(甲19)参照〕。

さらに付言すれば、最高裁が源泉徴収制度が憲法29条等に違反しない理由として掲げているのは、「国は税収を確保し、徴収手続を簡便にしてその費用と労力とを節約し得るのみならず、担税者の側においても申告、納付等に関する煩雑な事務から免れることができる。また徴収義務者にしても、給与の支払をなす際所得税を天引して翌月10日までにこれを国に納付すればよいのであるから、利するところ全くなしとはいえない。・・・源泉徴収制度は、給与所得者に対する所得税の徴収方法として能率的であり、合理的であって、公共の福祉の要請の応えるものと言わなければならない。」とのことであるが(最高裁昭和37年2月28日判決)、逆に、当該徴収義務者とされた者に対して、徴収義務を課すことが過大な負担となる場合には、憲法29条に違反することを意味しているというべきである。

(イ) 所得税法183条1項は、「給与」という概念の他に「支払の際」という源泉徴収義務発生の行為及び時期を定めているのであるから、これを「給与」の説明を持って代替することはできず、この点も明確にしなければならないところである。

また、被告が掲げる判例は、前述のように個人会社ないし同族会社と目される法人における代表者若しくは代表者と同様の立場にある者の横領行為に関する事例のみで、法人とその代表者の行為とを一体的に見ることのできるものばかりであるとともに、そこには、「仮装」ないし「隠匿」という当該法人自身の行動が存するのであるが、前述のように、原告は、法人自体の行為も理事長としての行為も種々制限されており、かつ、同法54条によって所轄庁の監督に服するほか、同法54条による事業の停止命令、同法44条による解散命令にも従わなければならない等法律的な制約を受けている存在であって、被告が原告を一般的な私法人として、しかも個人会社若しくは同族会社と同様に取り扱おうとすること自体誤りであり、掲記の判例と事例を異にする本件に当てはめることはできない。

(ウ) 前述のように、本件口座は、原告設立前に開設され、その通帳や印鑑は、原告の設立以前は、社会福祉法人N事務所内において、原告設立後はO福祉グループにおいて、乙が管理していたものであり、乙の専断で自由に使途や金額を決めることができ、本件口座からの出金や使途について原告の理事会が開かれることはなく、原告の事業目的にも反した出金がなされていたのであり、本件各出金に原告が関与できる余地は皆無であり、かような場合にまで、乙の所得税相当額分を天引せよというのは、原告に不可能を強いるものであって、前記源泉徴収制度の趣旨や特殊性に勘案すれば、本件各出金が、所得税法183条1項の「支払」及び「支払の際」に該当しないことは明らかである。

(3) 源泉徴収義務の有無(争点3)

仮に被告の主張する各時期に原告の源泉徴収義務が発生するとしても、本件において、原告に源泉徴収義務を課すのは、以下の2点により、妥当でない。

ア 乙に担税力がないこと

(ア) 本件各出金は乙個人の銀行口座へ送金されたものではなく、乙の個人資産が増加したものではない。

本件各出金当時における乙の経済的状態は、P病院経営の失敗から約17億円の負債を抱え、乙の個人的資産も存在しなかったことから破綻状態にあったものであり(甲18・34頁)、本件各出金があっても、全体として実質的所得者である乙には担税力はなく、実質的所得者である乙に所得税を課すことはできないのであり、原告に源泉徴収義務を課すことはできない。

(イ) 仮に本件各出金当時に乙の担税力が認められるとしても、本件納税告知処分がなされた平成10年1月26日の時点及び現在において、乙は経済的に破綻しており(乙の供述調書2-14、2-15)、到底本件源泉所得税をまかなえるだけの資力はない。

このような担税力の欠如した実質的所得者から、所得税相当額を求償することは不可能であり、結局のところ、原告がすべて負担することとなるのであって、本件には、かような状況にある乙の所得税相当額を原告に納付せよと命じるだけの合理性は存せず、本件納税告知処分及び本件賦課決定処分は、原告に対して憲法18条に定める意に反する苦役を求めるものであり、違憲となる。

イ 他の類似事案と比較し、課税の公平性を欠くこと

(ア) 社会福祉法人Qの件(甲22)

本事案は、Qの理事がQから貸付を受けたとする9400万円を給与の支給と認定し、館林税務署長から源泉所得税の納税告知処分等を受けたものであり、本件訴訟より内容が簡明なものである。

Qは、かかる処分を不服として審査請求を行い、館林税務署長からは、審査請求を棄却すべき旨の答弁書が提出されたが、その後、課税庁から、Qに対し、何の理由も示すことなくQに対する納税告知処分を取り消す旨の通知がなされ、Qは既に支払った本税の還付を受けるに至った。

本件で原告が争っている事案に比較しても簡明なQの事案においてすら、一旦なされた納税告知処分が取り消されている。

(イ) 社会福祉法人Wの件(甲23)

本事案は、課税庁から理由を示されないまま賦課決定が取り消されたものである。

上記Qの件と同様、本件事案も理由が示されないままの取消処分であるが、本件各処分の取消しが認められないとすると、上記2例と著しく均衡を失することとなる。

被告は、租税負担の公平をいうが、そうであるならば、本件原告の請求が認められてこそ公平が維持されるといわなければならない。

第3当裁判所の判断

1  前記基本的事実、証拠(甲5、乙4、6ないし8の2、11、12、15、乙証言、戊証言)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。

(1)  原告の定款(甲5)

原告においては、定款の定めにより、原告の業務は、理事会が決定するが、日常の軽易な業務は理事長が専決し、これを理事会に報告するものとされ(定款5条1項)、理事長のみが、原告を代表するとされている(同4条3項)。理事会の議事は、理事総数の過半数で決定し(同5条6項)、特別の利害関係を有する理事は、その議事の議決に加わることができないとされている(同条7項)。

また、基本財産の処分は、理事総数の3分の2以上の同意を得て、埼玉県知事の承認を得なければならず(同13条)、法人の資産は、理事会の定める方法により、理事長が管理することとされている(同14条1項)。

(2)  原告の運営状況等

ア 乙は、埼玉県に原告の設立認可申請書を提出し、平成6年3月にその設立認可を受けたことを含め、平成5年8月から平成7年12月までの間に埼玉県から6社会福祉法人の設立認可を受けたが、乙は、当該6社会福祉法人の各主たる事務所の所在地とは異なる大宮大門町の乙が統括しているグループ法人(通称、O福祉グループ)の本部において、当該6社会福祉法人の施設建設の事前準備及び会計を一括処理し、それを統括管理していた(甲3、弁論の全趣旨)。

イ 乙は、原告の設立代表者として、設立に関する企画、立案等の準備を主宰した者であり、乙が原告の代表理事に就任することは、設立準備段階から内定していた。設立後におけるAの運営は、すべて乙に委ねられ、これをチェックすべき原告の他の理事は、すべてが乙の意に従う者として自ら人選した者らで占められており、理事会の裁決で乙の意向に異議を唱える理事は当初からいないという状況であった(乙証人調書)。

ウ 平成6年から平成7年当時、原告が経営する特別養護老人ホームの建物は建築されておらず、原告の実際の事務運営は、北本市所在のNで行われていた(戊証人調書)。

(3)  本件口座開設の経緯

乙は、上記のとおり、複数の社会福祉法人の施設を設立したが、その設立する段階において、自由に融通できる資金を捻出するため、乙は、社会福祉法人Nを設立した際、事務長の戊に指示し、平成5年11月25日、本件口座を開設した(乙証人調書)。

なお、乙は、本件口座開設前に、袴に対し、社会福祉法人設立前の準備資金及び設立後の追加工事など不足金を賄うため、本件口座を開設する旨伝え、丙から包括的な承諾を得ていた(乙証人調書)。

(4)  本件金員の支出

ア 本件口座への入金

(ア) 原告は、本件工事に関して、平成6年5月30日、E株式会社との間で、本件請負契約を締結した。

(イ) 原告は、本件工事の設計について、丙との間で、設計料を本件工事の請負工事代金の2%相当額(910万円)とする契約を口頭で締結し、平成6年8月12日に中間金300万円を、平成7年3月30日に残金610万円をそれぞれ支払った。

(ウ) 本件工事の真実の設計料は、上記のとおり910万円であったにもかかわらず、原告は、平成6年1月14日付けで本件設計契約書を作成した上で、本件工事に係る設計料名目で、事前に原告の理事会の議決を経ることなく、原告が開設し管理する本件口座に、平成6年3月30日に706万円、同年4月28日に1824万円、同年8月8日に300万円及び同年9月5日に700万円の合計3530万円を振り込んだ。

イ 本件口座からの出金

原告は、本件口座から、平成6年4月11日に150万円、同年5月2日に1800万円、同月31日に100万円、同年6月30日に100万円、同年7月11日に24万5270円、同年9月14日に200万円、同月22日に100万円、同月29日に500万円の合計2974万5270円の金員を出金し、当該金員をもとに、乙は、乙が主宰していたG病院(4月11日分、5月2日分、9月29日分)、乙が代表取締役であった有限会社J(6月30日分)、株式会社K(7月11日分)、L株式会社(9月14日分)及び乙の妻訴外Hが取締役であった株式会社I(5月31日分、9月22日分)に対し、貸付金等の名目で送金した。

(5)  理事会総会の承認

原告の理事会総会は、原告の丙に対する設計料として、3530万円を支払うことを、事後的に承認した(弁論の全趣旨)。

(6)  乙の刑事事件

(ア) 乙を被疑者とした贈賄被疑事件において、平成8年11月19日にBの会計関係の書類が押収された(甲10)。

(イ) 乙は、<1>平成6年8月から平成8年8月ころ、埼玉県生活福祉部高齢者福祉課長ないしは厚生省年金局企画課課長補佐の地位にあったRに対し、その職務に関して、前後5回にわたり現金合計1102万円を供与し、<2>平成6年7月から平成7年7月ころ、厚生大臣官房老人保健福祉部長、同官房長ないしは厚生省保険局長の地位にあったUに対し、その職務に関して、前後3回にわたり、現金合計6000万円及び普通乗用自動車1台のリース料相当額(253万9980円)の利益を供与した贈賄事件において、懲役1年6月の実刑判決を受けている〔東京地裁平成10年6月24日判決、その控訴審である東京高裁平成12年11月10日判決(甲18)〕。

(7)  別件課税処分〔当庁平成11年(行ウ)第51号事件〕

被告は、本件と同様にして、乙が理事長であった社会福祉法人S(以下「S」という。)が、Sの特別養護老人ホームの施設新築工事にあたり、建築工事の請負人であるT株式会社及び設計業務の請負人である丙に支払うべき設計料について、合計8910万円を水増し請求しており、上記金員がSから乙への給与等(賞与)に該当すると認定し、Sに対し、平成10年1月26日付けで、平成5年11月分、12月分及び平成6年3月分の源泉所得税の各納税告知処分及び重加算税の各賦課決定処分をした。

2  争点に対する判断

(1)  「課税所得」該当性(争点1)について

ア 上記の認定事実によれば、乙は、原告の管理する本件口座から本件金員を取得したことにより、経済上の利得を得たことは明らかであるから、課税庁との間の課税関係においては、本件金員は所得税法上の所得に該当し、乙の所得として課税対象となるというべきである。

なお、課税の所得の対象となるべき所得を構成するか否かは、必ずしもその法律的性質によって決せられるものではない(最高裁昭和46年11月9日判決参照)ことからすれば、仮に本件金員の移動が不法、違法な利得であっても、また、その原因となった法律行為が無効であっても、上記の判断を左右するものではない。

イ 原告は、本件口座が乙個人の口座であることを前提にして、原告の資産が乙に移転したのは、本件施設会計口座から本件口座へ各送金がなされた時点であり、送金後の各金員は、乙の管理する乙個人の資産であったのであるから、乙の利得は、上記各送金日に発生したとして、本件口座からの出金時には、乙の利得がないとし、このことは、原告の理事会総会において承認されたのは、本件口座からの本件各出金ではなく、本件施設会計口座から本件口座への送金であることからも裏付けられる旨主張する。

しかしながら、本件口座の通帳や印鑑は、本件口座への入金時には、原告の監事である戊らが、O福祉グループ(通称)において管理していたものであること、本件口座から平成6年8月12日に300万0720円が出金され(乙12)、同日、Bの真実の設計料の内訳として、V銀行みずほ台支店の丙の預金口座へ送金されるなど、本件口座の預金から原告の経費の支払がなされていることからすれば、本件口座は、丙名義を借りた、原告の、いわゆる裏預金口座であるとみるのが自然である。以上によれば、本件口座が、乙の個人口座であることを前提とした原告の主張は相当でない。

(2)  「給与所得」該当性及び源泉徴収義務の有無について(争点2、3)

ア 上記のとおり、本件金員の移動が、乙の所得として課税対象となるとしても、当該所得が、所得税法所定の給与所得に該当するかを判断するにあたっては、所得を10種類に分類し、所得の種類に応じた課税を定めている所得税法の趣旨、目的に照らし、更に検討する必要がある。

前記のとおり、俸給、給料、賃金、歳費及び賞与並びにこれらの性質を有する給与(給与等)に係る所得である給与所得は、雇用契約又はこれに類する関係において、非独立的労働ないし従属的労働の対価として他人から受ける報酬及び実質的にこれに準ずる給付に係る所得であると解するのが相当であり、その判断にあたっては、給与支給者との関係において何らかの空間的、時間的な拘束を受け、継続的ないし断続的に労務又は役務の提供があり、その対価として支給されるものであるかどうかを重視すべきものと解される(最高裁昭和56年4月24日判決参照)。

そして、法人の役員に対し一定の利益が当該法人から支給された場合には、一般的に給与(賞与)所得とみるのが相当であると考えられる。なぜなら、法人の役員は当該法人と委任関係にあり、法人に従属し、委任事務処理に関し善管注意義務を負っているものであり、当該法人から一定の利益が支給された場合には、特段の理由がない限り、その趣旨は役員としての空間的・時間的拘束、継続的ないし断続的な労務又は役務の対価とみるのが社会通念上相当であるからである。換言すれば、法人の役員が当該法人から一定の利益を支給され、担税力を増加させたとみられる場合、その支給が役員の立場を離れて全く無関係になされるというケースも考えられないではないが、そういった特段の事由がない限り普通はそのような利益支給は、まさに当該法人の役員としての地位や仕事に対する広義の見返りとして支給されたとみるのが自然であるからである。

そして、本件金員の支払も乙の原告代表者としての地位や役務に関連して行われたものであり、それと無関係に行われたとは到底評価できないから給与(賞与)所得であったというべきであり、原告には所得税法28条1項、183条1項に従い、源泉徴収義務が生じるというべきである。

イ これに対して、原告は、法人の代表者が権限を濫用し、自己の利益を図る目的で法人の資産を横領する等不法行為によって、当該所得を得たことが明らかな場合には、労務又は役務の提供と対価関係には立たないものであるから、当該代表者の所得は、給与所得には該当しないというべきであるとする。

しかし、本件のような場合でも、原告から本件口座に設計料の水増しとして3530万円が支出され、乙が本件口座から乙の経営するG病院等への貸付金などの名目で合計2974万5270円を出金することができたのは、まさに乙がその当時原告理事長の職にあり、乙以外の原告関係者、職員は乙の意向に逆らえなかった故であるから、乙の得た利得は理事長としての職ないし役務に関連し、正規の手続を経ないで行われるいわゆる裏給与ないし裏賞与と同視して差し支えないというべきである。

以上のことは、原告から本件口座への出金につき理事会の議決等法令や寄付行為で定めた内部手続を何ら履践していないとしても変わるものではない。なぜなら、法人の代表者の行為は包括的に法人の行為とみなされるから、それが法人の代表者の意思に基づく限り、権限濫用または内部制限の逸脱があったとしても、法人の意思に基づく行為とみるに妨げないからである(このことは、原告のように理事長である乙が原告の業務を独断専行的に行っていたような場合は、一層言い得ることである。また、原告が会社などの営利法人でなく社会福祉法人であることを考慮しても上記判断を左右するものではない。)。

また、本件のように乙が理事長の権限を濫用して原告の資金から2620万円相当の金員を利得したと認められる場合、客観的にそれが役員賞与と判定される以上、原告に法律上所定の源泉徴収義務を課すことが不相当ともいえない。

ウ 以上のような結論を採用すると、法人の代表者が自己の私益を図るため法人の資産を横領するなどした事案においては、法人は被害者であり、これに源泉徴収義務を課することは、不当ではないかとの議論もあり得よう。

しかしながら、横領等の被害者たる法人は代表者に対して不法行為、不当利得又は債務不履行を原因とする損害賠償請求をすることにより損害の回復を図ることができ、その損害回復が実現したときは給与(賞与)の支払はなかったものとして源泉徴収にかかる租税について更正請求ができると考えられる。また少なくとも、源泉徴収義務者は国に源泉徴収の差額を追加納付又は徴収された場合、その差額について所得の受給者に求償することができる(所得税法222条)。そして、安価な徴税費により公平・漏れなく確実に所得税の確保を図るという源泉徴収制度を定めた所得税法の趣旨に徴すると、法人から法人の役員等に対し利益の移動があり、給与(賞与)の支払があったと認定される場合、支払者に原則的に源泉徴収義務を課し、支払者と受給者との清算の問題は両者の私法上の措置に委ねるということはそれなりに合理性があると認められる。なぜなら、法人から役員等に利益移動があったと認められる場合においても、それが横領等の不法行為となるかどうかは代表者や役員の権限行使の実情、利益移動の内容等にしたがい個々の事例ごとに千差万別であり、法人が役員に対する当該支出を追認したり和解したりすることもあり得る。そこで、このように法人の意思で役員等に対し利益移動が行われた場合でありながら、それが横領であるから等の理由から源泉徴収義務を猶予するのを認めるのは他の場合と比べて税負担の不公平を招きかねないし、仮に法人が被害者的立場に立つとした場合にも、当該法人に源泉徴収義務を課すのが必ずしも酷な結果をもたらすともいい難いから、上記議論は採用できないというべきである。

(3)  乙の利得の発生時期

ア 認定賞与に係る給与等の収入すべき時期は、「その支給日があらかじめ定められているものについてはその支給日、その日が定められていないものについては現実にその支給を受けた日(その日が明らかでない場合には、その支給が行われたと認められる事業年度の終了の日)」とされており(所得税基本通達36-9(4))、本件の場合、乙に対する当該給与等の支払があった日は、代表者の個人資産が増加した日、すなわち、乙の個人資産である関連法人に対する貸付金の発生の日(本件C銀行口座からの出金の日と同日)とみるのが相当である。

イ 原告は、原告から本件口座に対し平成6年3月30日から同年8月8日にかけて逐次合計3530万円が振り込まれたそれぞれ当該の日に乙の利得が発生したとみるべきであると主張する。

しかし、前述したように本件口座は原告に帰属していると推認され、実際にも口座の管理は原告が行っていたところであり、そして、同口座からは真実の設計料の支払も行われていたのであるから、上記時点において、乙がその利得を確定的に得たとみることはできない。

このようにみると、原告が本件金員を出捐したとする時点と、乙が経済的利益を得た日(認定賞与の支給日)に時期的ずれが生ずることとなるが、このことは前記判断を左右するものではない。

3  重加算税について

前記のとおり、本件工事の真実の設計料は、910万円であったにもかかわらず、原告は、平成6年1月14日付けで本件設計契約書を作成した上で、本件工事に係る設計料名目で、本件口座に、平成6年3月30日に706万円、同年4月28日に1824万円、同年8月8日に300万円及び同年9月5日に700万円の合計3530万円を振り込み、乙は、本件口座から、平成6年4月11日に150万円、同年5月2日に1800万円、同月31日に100万円、同年6月30日に100万円、同年7月11日に24万5270円、同年9月14日に200万円、同月22日に100万円、同月29日に500万円の合計2974万5270円の金員を出金し、当該金員をもとに、乙が主宰していたG病院(4月11日分、5月2日分、9月29日分)、乙が代表取締役であった有限会社J(6月30日分)、株式会社K(7月11日分)、L株式会社(9月14日分)及び乙の妻Hが取締役であった株式会社I(5月31日分、9月22日分)に対し、貸付金等の名目で送金したことが認められる。そして、前記3530万円の振込は原告代表者の乙が原告職員に指示して行ったものであり、原告の行為と認められる。

そうすると、原告は、本件設計料に関し、仮装することにより捻出した本件金員相当額を、乙へ臨時的な給与等として支給していたにもかかわらず、その支払について源泉所得税をその法定納期限までに納付しなかったのであるから、通則法68条3項所定の重加算税を徴収する要件を充たすというべきである。

4  結論

よって、被告の行った本件各処分は適法なものと認められ、原告の請求は理由がないので棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 豊田建夫 裁判官 都築民枝 裁判官 菱山泰男)

(別表)

本件各処分の経緯

<省略>

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