大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

さいたま地方裁判所 平成12年(わ)1549号 判決 2002年1月22日

主文

被告人を懲役2年6月に処する。

未決勾留日数中300日をその刑に算入する。

訴訟費用中,証人V,同A及び同Bに支給した分は被告人の負担とする。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は,自己が雇用していたBと交際中のV(当時16歳)を強いて姦淫しようと企て,平成12年8月3日午後6時29分ころから同日午後6時45分ころまでの間,埼玉県c市(以下地番略)aビル3階空室内において,同女に対し,その両手を押さえ付け,その両下肢の間に膝を押し入れるなどの暴行を加えてその反抗を抑圧し,強いて同女を姦淫したものである。

(証拠の標目)省略

(争点に対する判断)

1  被告人は,Vを強いて姦淫しようと企てたことはなく,Vに対して公訴事実記載のような暴行を加えたことも,姦淫した事実もなく,犯行時刻とされる時間帯に犯行現場とされる公訴事実記載のaビル3階の空室にいたこともないと述べて弁解し,弁護人も被告人の弁解供述に依拠して,本件は,Vの狂言によるえん罪事件であり,被告人は無罪であると主張するので,以下,検討する。

2  Vの供述の信用性について

(1)  証人Vに対する受命裁判官の尋問調書によれば,Vの供述の要旨は,おおむね以下のとおりである(以下,供述を引用する場合は,公判廷及び公判準備におけるものを含めて,公判手続の更新の前後を問わず,単に「供述」という。)。

自分は,携帯電話のメールで知り合ったBから旅費を出してもらって平成12年8月1日(以下,特に記載しない限り,年度は平成12年である。)に上京し,翌2日の朝,Bに駅まで車で迎えに来てもらい,当時,Bが居候していた被告人方に連れて行ってもらった。被告人方に着いた後,居間で被告人にあいさつをして,Bが寝泊まりしていた部屋(以下「Bの部屋」という。)に入り,東京にいる間世話になるお礼としてBにマッサージをしてやった。マッサージをしている途中,被告人が部屋をのぞき,いやらしいことをしていると勘違いされて「お楽しみのところを邪魔したね。」と言われたので,Bがマッサージをしてもらっていたと説明すると,被告人から,妻の体調が悪いので,妻にもマッサージをしてくれるように頼まれたので承諾した。その後,Bは,被告人から依頼されてノートか何かを買うために外出し,自分は,被告人の妻が入浴している間に,被告人から頼まれて6畳間の布団の上で被告人にマッサージをしてやった。自分が,うつ伏せになっている被告人の上にまたがり,背中の方からふくらはぎや太股,腰をマッサージしてやったところ,被告人は,うつ伏せのまま腰を上下に揺すっていたが,やがて起き上がり,両膝で立って,膝から上をまっすぐ起こしているような格好で,正座のような座り方をしていた自分と正対した。被告人は,ランニングシャツとトランクスを着ていたが,自分と向かい合ったときには,トランクスを太股の中間くらいまで脱ぎかけていた。被告人は,向かい合っていた自分の頭をつかみ,勃起した被告人の陰茎をなめろと言った。自分は,「嫌だ」と言ったが,髪の毛をつかまれて口の辺りに被告人の陰茎を押しつけられたので,口を固く閉ざし,顔を左右に振って抵抗したため,陰茎が口やほおにあたった。その後,被告人は諦めたのか,「だれにも言うなよ」と言って陰茎を押しつけるのをやめた。それから5分もしないころ,自分が居間にいると,被告人の妻が風呂から上がってきた。Bもまもなく帰ってきたが,自分は,だれかに言ったら被告人に何かされると思い,また,Bが被告人の下で働いていて,被告人の家に住まわせてもらっていたので,Bが追い出されて迷惑がかかると考え,だれにも言えなかった。Bが帰ってきた後,自分は,被告人の妻にマッサージをしてやった。その後,自分は,昼食を食べにBと被告人とその妻の4人で車で外に出掛け,ファミリーレストランで食事をした。食事をした後,被告人の妻を途中で車から降ろし,3人でファックスを買ってから,被告人が経営するパブbのホステスが住んでいるマンションに行き,部屋にファックスを取り付けた後,ホステスを2人車に乗せてc市のaビルの4階にあるbに向かった。bには,従業員が既に来ていた。その日か又はその次の日のどちらかに店にいた3人のお客にマッサージをしてやった。8月2日の日は,翌3日の午前1時か2時ころに店を出るまでずっと4階の店内にいたが,被告人は,途中でどこかに出掛けた。自分は,店を出てから,Bがホステスをマンションに送り届けるのに同行し,そこで被告人とその妻と合流して被告人方に戻った。被告人方に戻るのは嫌だったが,急に被告人方に行くのが嫌だと話すと,Bにその理由を話さなければならなくなると考え,被告人方に帰るのが嫌だとは言えなかった。自分は,上京したばかりで,Bのほかに頼る相手も余りいなかった。被告人方に帰ってから,Bの部屋で寝たが,Bから求められ,好意を持っていたので,セックスをした。自分は,8月3日午前10時過ぎから11時ころに目を覚ましたが,Bが入浴をするために部屋から出ていくと,被告人が部屋に入ってきた。自分は,そのときブラジャーとパンツの上にTシャツという姿で布団に横になっていたので,下着姿を見られないようにするため,正座するように座って掛け布団を羽織った。被告人は,自分の目の前まで近づいてくると,ズボンと下着を下ろして陰茎をむき出しにした。そこで,自分は,すぐに顔まで掛け布団をかぶったが,被告人は布団をはいで自分の顔を出させ,髪の毛をつかんで「なめろ」と言って,陰茎を顔に近づけてきた。自分は,何回も「嫌だ」と言って首を左右に振って抵抗したが,被告人が髪の毛を強く引っ張って,陰茎を口に押しつけてきたため,自分が「嫌」と言ったり,髪の毛を引っ張られる痛さで口を少し開けたときに,勃起した陰茎が口の中に入ってしまった。被告人は,腰を振っており,自分は,陰茎をのどの奥まで入れられて気持ちが悪くなった。しばらくして,被告人は,自分から離れると,「だれにも言うなよ。」と言って,また口止めをしてきた。自分が,被告人からこのようなことをされている間,被告人の妻がどこにいたか分からない。その後,Bが部屋に戻ってきたが,Bに迷惑を掛けられないと思ってこの話はしなかった。自分は,被告人の家を出たいと思ったが,東京の地理が分からなかったため,出て行かなかった。自分は,その日も,被告人やBと一緒に車で支払先関係などを回ってから,夕方,bに行ったが,何事もなかったかのように振る舞っていた。この日,自分たちがbに着くと,若い従業員が既に来ていた。自分は,店の中で座っていたが,従業員は,c駅にちらしを配りに行き,Bは着替えをしてホステスを迎えに行き,被告人は開店の準備をしていた。Bがホステスを迎えに行く前に,被告人は,Bの前で,自分に対し,「今日は3階にいろ」と言っていた。被告人は,Bが出掛けると自分を連れて,エレベーターで3階に下り,かぎを開けて店舗の出入口から室内に入って物置の方まで案内した。物置の出入口の辺りで,被告人は,一,二回電話をかけていた。自分は,ソファーに座っていて,電話の内容はあまり聞こえなかったが,被告人が「今どの辺にいる」などと電話の相手に聞いていたので,相手はBだと思った。自分が,自分の持っている携帯電話(番号略)の着信履歴を見ると,Dから着信があったことが分かったので,自分の携帯電話は当時着信しかできない状態だったため,被告人の携帯電話を借りてDに電話をしたところ,Dから「今日は仕事だからもう寝る」と言われ,自分は,電話を切って,別のソファーに座った。すると,被告人が近づいてきて自分の両肩をつかんで体の向きを被告人と正対するように変えさせたので,自分は,足をソファーに上げて後ずさりした。被告人は,自分の両手首を重ねるようにして片手でソファーの背もたれ部分に押さえつけ,自分がはいていた膝丈のジーパンのボタン様のものを外してチャックを開け,ジーパンと一緒にパンツをずり下ろした。左足の方は全部脱がされ,右足の方はふくらはぎのあたりまで脱がされた。自分は,「やめて」と10回くらい言って足をバタバタさせた。被告人は,ズボンやトランクスを下ろして,自分の体にかぶさるようにしてソファーに膝をつき,無理やりセックスした。被告人は,自分から離れると陰茎を白いタオルのようなもので拭きながら「いっちゃった」と言っていたので,射精したと思った。その後,自分の携帯電話に地元の中学の同級生であるEから電話がかかってきて,何をしているのか聞かれたが,そのとき,被告人は,ズボンやトランクスを上げており,自分はまだ下着を脱がされたままの状態だったので,「今は話したい気分じゃないから」と言って,Eからの電話を切った。すると,被告人から,「誰から電話がかかってきたのか」と聞かれ,「やけに短かった。かけ直してちゃんと話せ」と言われたが,自分は,Eにすぐ電話をかけ直すのはおかしいと思って,被告人にDの電話番号を教えると,被告人は,被告人の携帯電話でダイヤルをして自分に渡した。電話に出たDが「もう眠いから切る」というので,自分は,Dに謝って電話を切り,携帯電話を被告人に返した。その後,被告人は,「だれにも言うなよ」とまた口止めをし,駄賃だと言って,お札を二,三枚渡そうとしたが,自分は受け取らなかった。被告人が,4階に上がっていくとき,「おうB」と言っていたので,Bと電話で話をしていたと思う。自分は,そのまま20分くらい3階にいて,その後4階に上がっていった。被告人は,店の中でも自分が洗い物をしたお礼だと言って5000円札か1万円札を2枚くらい差し出してきたが,自分は受け取らなかった。その日は,午後12時か翌日の午前1時ころまで店にいて,その後ホステスを送ってBや被告人と一緒に午前2時ころ被告人方に戻った。被告人方に帰ってきてから,自分は,Bと一緒に買い物に行ったが,そのとき,「被告人と2人きりにしないでくれ」とBに頼んだ。Bからどうしたのかと聞かれたので,「3階で変なことをされた」と話した。買い物から帰ってきてから,寝る前に,被告人から無理やり強姦されたことを話すと,Bは,「どうしてもっと早く言わなかったのか」と言って怒り,「明日警察に行く」と言っていた。自分は,両親や学校に連絡が行って,事情が分かってしまうので,警察に行くというBの話を聞いて驚いた。翌4日の朝9時過ぎころ,Bと一緒に被告人の保護司の所に行き,被告人に強姦されたことを話し,Bは,「これから警察へ行って被告人を訴える」と話していた。その後,Bと一緒にdの交番に行ったが,cの警察署に行くように言われてc警察署に行き,被害状況を説明した。自分は,学校や親に知られるのが恐かったため,強姦の被害届はその日には出さず,告訴もしなかった。その後レンタカーを借りてBと一緒に被告人方にBの荷物を取りに行き,翌5日に両親に連絡して事情を説明して,その後,同月8日に上京した母親と警察署で会って被害届を出して告訴をした。Bは「告訴した方がいい」と言っていた。その後,1週間くらい東京にいてから母親と一緒に広島に帰った。

(2)  Vの公判段階における供述の概要は,上記のような内容であるところ,Vの供述は,強姦の被害に遭った状況及び強姦の被害に遭った当日とその前日に被告人からわいせつ行為をされた状況すなわち,Vが家出をして上京した後,Bと会って被告人方に行き,Bの部屋で同人にマッサージをしてやっていたところ,部屋をのぞいた被告人から,VがBと性的行為をしていると誤解されたこと,その後,Bが被告人の所用で外出し,被告人の妻が入浴中に被告人からわいせつ行為をされ,そのことをBにも言えずにいたこと,翌日もBの入浴中に被告人からわいせつ行為をされたが,そのことも黙っていたこと,その日の夕方,被告人とBに連れられてbに行き,Bがホステスを迎えに行って,被告人と2人きりになった際に,同じビルの3階にある空室で被告人から強姦されたこと,その後,被告人方に帰ってきてから,VがBに強姦の被害に遭った事実を訴え,翌朝,Bと一緒に被告人方を出て,警察に被害の申告をしたことなど,本件犯行前後の状況を含めて,当時の客観的状況やV自身の心理状態を具体的に,また迫真性をもって述べており,臨場感にも富んでいて,内容も自然で,不合理な点は見受けられない。また,Vは,捜査段階から,ほぼ一貫した供述をしているのであり,犯行時刻や犯行前後のVの行動,被告人の携帯電話の通話状況,犯行当時の被告人の位置関係や具体的に衣服を脱がされた状況などについては,記憶があいまいである旨公判段階で供述し,供述内容にも幾分変遷ないし円滑さを欠く部分も見られるが,Vが,本件被害当時,田舎から上京したばかりの16歳の高校生であり,Bの供述やVの母親の供述からもうかがわれるとおり,自分を女性として見られることを嫌がって虚勢を張るなど幼稚な側面が見られる上,本件被害に遭ったことで非常に大きなショックを受け,しかも,物事を正確に把握して的確に表現する能力が未熟であることをも考慮すると,事件から7箇月余り経過した後に行われた証人尋問の時点において,ある程度の記憶の欠落や供述の混乱があったとしても特に不自然とはいえず,供述の根幹部分は,弁護人の執ような反対尋問に対しても全く動揺していない。

(3)  こうした事情に加えて,Vの供述内容は,当時16歳の女子高生であるVにとっては本来恥ずかしく,他人に知られたくない事柄であり,本件強姦被害に遭ったことが表ざたになったことにより在籍していた高校を退学することを余儀なくされるに至っているのであるから,あえて虚偽の内容の事実を作出して供述すべき特段の事情が存在しない限り,その供述の信用性は一般的にみて高いといってよいと考えられる。

この点につき,被告人は,本件は,Bが被告人に求めていた出資金の返還等の金銭問題を解決するために仕組み,Vがこれに協力したとか,Vが被告人から化粧の仕方を中傷されたことから,恨みに思って被告人を陥れようとしたなどと供述している。

しかしながら,Bの公判供述によれば,Bは,本件被害事実をVから告白され,それが契機となって被告人の下での仕事を辞め,それに伴って出資金の返還を求めようとしたというのであり,Bが仕事を辞めて被告人に出資金の返還を求めるに至ったいきさつには何ら不自然なところはない。また,本件犯行前の8月3日当時,仕事を始めたばかりのBが,仕事を辞めたがっていたという事情は認められず,仮に,Bが,Vの協力を得て,強姦被害の事実をでっち上げたとしても,これによって金銭的な請求を行い得るのはVであって,Bではないから,Bが金銭的な利益を得ることにはならないし,また,Bが,Vが慰謝料等名下に得た金員を取得することを目論んでいたり,あるいは出資金返還等の交渉材料に本件を利用しようとしてVがこれに協力したとすれば,Vが,本件犯行後間もない時期に,郷里にいる母親に対して,わざわざ本件被害事実を打ち明けていることは不自然といわざるを得ない。さらに,V及びBの供述内容を見ても,BとVが,相互に相手の供述に合わせているような形跡も認められない。また,本件被害があったとされた後,Vが化粧をしていたことは,V及びBは否定しているところであるが,仮にそのような事実が存在し,被告人がVを侮辱するような発言があったとしても,その場限りの1回の発言に対して,その報復として,本件犯行のわずか2日前に会ったばかりの当時16歳の女子高生が,自らを強姦のVとして,捜査機関に訴え出るということはいささか考え難く,他に,Vが被告人を強いて陥れるような事情はうかがわれない。

(4)  Vは,被告人に強姦される直前に知人であるDからの着信履歴があることに気が付き,被告人の携帯電話を借りてDと話をし,また,強姦された直後に友人のEから電話を受け,話をする気分になれないことからすぐに切ると,被告人から電話をかけ直すよう言われて,仕方なく,Dに電話をしたと供述している。

関係証拠によれば,被告人は2台の携帯電話を常時使用しているところ,そのうちの1台(電話番号略)の通話記録によると,8月3日の午後6時29分及び午後6時45分にそれぞれ被告人の携帯電話からDの携帯電話に1分13秒ないし25秒間発信されており,上記2回の通話が行われた間の時間帯には,被告人の2台の携帯電話から発信されていないことが認められる。この事実は,上記2回の通話時刻の間に強姦されたというVの供述に符合するものであり,本件被害の前後に被告人の携帯電話を借りてDに電話をしたというVの供述を裏付けている。Vは,このDとの通話状況につき,捜査段階では,上記通話記録が捜査機関によって把握された後の10月30日の検察官調書において,新たに思い出したこととして初めて供述しているが,被害に遭って動揺していたVが,後に通話記録を見せられて犯行前後のことを思い出したとしても不自然ではなく,本件被害に遭った直後にEから電話がかかってきたが,話ができる状態ではなかったのですぐに切ったとの点については,犯行後間もない8月8日の警察における事情聴取の際に既に述べていることであり,Eとの通話時間が短すぎるとして,被告人がVにもう一度電話をかけ直させようとしたが,VはEではなくDの電話番号を被告人に教えてかけさせたというVの供述は,具体的で,話の展開として自然で無理がなく,作為があるとは思われない。被告人は,捜査段階から,Vに電話を貸した事実はなく,Vが使用しているとすれば無断借用である旨供述しているが,Vの上記供述に照らして信用できない。

(5)  さらに,Vの捜査段階及び公判段階の供述を除く,その余の関係証拠によれば,Vは,当時16歳の高校2年生で,7月30日に広島県山県郡の実家から家出をし,Bを頼って8月1日に上京してきたが,初めての東京で地理が不案内であり,Bとの待ち合わせ場所にもたどり着くことができなかったこと,8月2日早朝,Bと落ち合い,同人に連れられて同人が居候をしていた被告人方に行ったこと,被告人方には,被告人とその妻がいたこと,Bは,被告人の依頼により近くのコンビニエンスストアに買い物に行き,同日午前9時07分飲み物等を購入し,同日午前9時46分同じ店で電話料金の支払いをしていること,被告人の妻は,朝起床後に入浴する習慣があること,Vは,同月2日と3日はBとほぼ行動をともにし,被告人やその妻とも食事を一緒に取り,被告人方に宿泊するなどしていたが,Bや被告人の妻等に被告人からわいせつ行為をされた旨の話をしていなかったこと,同月3日夕方,Vは,被告人及びBに連れられてbに行き,Bは,同日午後6時ころから7時ころまでの間,ホステスを迎えに出掛けたが,同人は,被告人から連絡を取るように指示されており,この間の午後6時17分と6時47分にBが被告人に電話をかけ,午後6時18分と6時47分に被告人がBに電話をし,Bの所在や店に戻る時間の確認をしていること,bには他に従業員がいて出勤していたが,上記の時間帯には被告人の指示によりエレベーターの掃除やビラ配りのために店の外に出ていたこと,同月4日の未明,店が閉店した後,VはBとともに被告人方に戻ったが,BとVは,同日の朝,被告人方を出て,被告人の保護司や警察に本件強姦の被害を申告し,その後,Vの母親にも電話で被害事実を話して,同月8日に被告人を強姦罪で告訴していること,以上の事実が認められる。

上記事実は,Vの前記供述と符合するところ,本件犯行時刻とされる時間帯にBともう1人の従業員がbの店の外に出ており,来客がない限り,Vと被告人が二人で店内にいたことが客観的に明らかであり,その上,被告人は,Bが不在となる時間帯を把握していたのであるから,このことは,Vの供述の信用性を補強するものといえ,また,Vは,本件犯行直後に,Bに対して被害に遭った事実を打ち明け,その後,間もなく,警察や母親に被害の申告をしているのであり,これも被害事実の存在をうかがわせる事情といえる。また,後記4で詳述するとおり,Vが被告人からわいせつ行為をされたという8月2日の午前中についても,被告人の指示によりBが外出していることが明らかであり,被告人の妻が入浴中にわいせつ行為に及ぶ機会があったことも明らかである。なお,Vは,被告人から,わいせつ行為を2度にわたってされたにもかかわらず,被害事実をBに打ち明けることもせず,被告人らと行動をともにしているが,地方から上京し,B以外には頼る者がいない16歳の少女が,被告人がBの上司であることを慮って,被告人を恐れ,あるいは虚勢を張って,被害に遭った事実を話さなかったとしても,必ずしも不自然であるとはいえない。

(6)  Bは,後述するとおり,8月2日の午前中に買い物や電話料金の支払いを被告人に頼まれたこと,Vが8月3日の日あまり元気がなく,カラオケを歌ったのは自分が無理に勧めたためであること,Vが化粧していたことには気づかなかったこと,被害に遭ったことを話したときのVはショックを受けているようで,あまり話したがらない様子であったこと,その他告訴に至る経緯など,Vの供述内容におおむね沿う供述をしている。

(7)  当時,bで歌手として稼働していたFは,公判廷において,8月3日午後7時ころ,店に出勤すると,Vが店にいて歌っていた,その時,Vは似合わない化粧をしていたので,Vを笑った,被告人もVを笑っていた,Vは,全く暗い様子はなく,飲酒をして喫煙しており,よくしゃべり,何曲もカラオケを歌い,客のマッサージをしていたなどと供述し,bの共同出資者であるGも,公判廷において,同日午後9時ころ,bに行くと,Vは,店内でふんぞり返ってたばこを吸っており,変なメイクをしていたなどと供述している。

上記両名の供述は,本件被害に遭ったとVが供述する時間帯が経過した後の,店内でのVの様子について,被告人の供述に沿うものであり,これらの供述を前提とすると,Vは,犯行後も特に変わった様子はなく元気に振る舞っており,強姦の被害を受けたことをうかがわせるような様子は見られなかったということになる。しかしながら,Fは,7月から12月までの間,被告人に雇われてbで歌手として働いており,来日当初は被告人の自宅で世話になったり,その後も店のホステス用のマンションで生活しており,一方,Gは,bの共同出資者で,現在は被告人の跡を継いで同店を経営しているものであって,両名とも,いずれも被告人とは極めて親密な人間関係にあるといえるから,その供述の信用性を判断するには慎重な吟味が必要であると考えられる。また,Bの公判段階の供述によれば,当日,Vがカラオケで歌っていたことは間違いないものの,Vが元気のない様子であったので,Bが指示して歌わせたというのであり,Vは,本件強姦の被害に遭う前に,わいせつ行為をされたことについても,親しいBに対しても隠していたのであるから,本件強姦の被害について,これを隠そうとしていたとしても,特に不自然ということはできず,犯行後のVの挙措動作,言動などが,仮に,前記F及びGの供述するとおりであったとしても,Vの前記供述の信用性は左右されない。

(8)  以上検討したところによれば,Vの前記供述は十分信用できる。

3  被告人の供述の信用性について

(1)  被告人は,公判廷において,本件犯行当時の自己の行動について,要旨,以下のとおり供述している。

8月3日は,ホステスの名刺等の作製を依頼していたHと打合わせをする予定があったが,買い物に行くために午後6時ちょっと過ぎころ,ホステスを迎えに行くBとともに店を出て,e金物店に行き,午後6時20分ころ店に戻ったと思う。店で待っているとHが車で来たので,4階の店の中で打ち合わせをした。それが8月3日のことだと分かるのは,その日にホステスのFとIの名刺とビラを受け取ったからである。その日には英文のポスター,写真付きの名刺及び案内状の作製を依頼した。Hとの打合わせは15分から20分くらいかかった。Hは,午後6時40分ころに帰ったと思う。Hが帰るとき,駐車場まで一緒に行って,電話ショップに寄ってから,店に戻った。Bは午後6時50分ころから午後7時の間に店に帰ってきたと思う。

(2)  本件犯行当時の自己の行動に関する被告人の公判段階における供述の要旨は,以上のようなものであるところ,被告人の上記供述は,本件犯行時刻ころには,Hとaビル4階のbの店内で打合せをしていたから,同ビル3階の本件犯行現場には行っていないというものであるが,被告人は,自己のアリバイともいうべきこのような重大な事柄を,捜査段階においては,全く供述することがなく,公判段階に至って初めて述べているのであり,供述経過に不自然さが残ることが否めない。被告人は,捜査段階でHと打合せをしていた事実を思い出せなかった理由として,10月2日に逮捕され,当時の自己の行動を思い出そうとしたが約2箇月も以前のことで,記憶が鮮明でなく思い出せなかった,当初の被疑事実が午後6時50分ころの犯行とされており,また,捜査段階では携帯電話の発信記録を見せられなかったからであるなどと説明しているが,一方,被告人の公判供述によれば,被告人は,本件犯行の2日後である8月5日に,Bから電話でVが被告人から強姦されたと言っているということを妻から聞かされており,同月12日に保護司と会った際にも,Vが強姦されたとBが言っているといって相談しているのであるから,逮捕されるよりもかなり以前の段階から,Vが強姦されたとして警察に被害の申告をしたり,告訴するかもしれないということは容易に予想し得たと考えられる。そうすると,被告人としても,Vと会った後の8月2日から翌3日の自己の行動について,さほど時間が経過しないうちに記憶を喚起しておくことも十分に可能であったと考えられるから,逮捕された時期が,犯行が行われたとされる日から約2箇月後であるからといって,当時の自己の行動を思い起こせない理由とはいえない。また,被告人は,捜査の当初から無実を主張しているところ,逮捕された段階では,被疑事実の記載によれば,犯行時刻が午後6時50分となっていたから,午後6時29分から午後6時45分までの自己の行動に思い至らなかったというのは,それがほぼ同時刻といえる時間帯であることを考えると,余りにも不自然である。また,被告人の携帯電話の発信記録によっても,8月3日午後6時から午後7時にかけてHと会っていたことをうかがわせる記載はないのであるから,携帯電話の発信記録によって記憶を喚起したというのも不自然というほかない。そうすると,被告人の公判供述の信用性は乏しいといわざるを得ない。

(3)  Hは,第3回公判期日において,被告人の上記供述に沿った供述をしているが,その要旨は,おおむね次のとおりである。

b関係の印刷物の打合せをしたのは,8月1日ころからであり,それ以降1週間くらいは平日ほぼ毎日打合せをしており,いつも午後6時ころから7時ころの間,長くなると午後7時半ころまでやっていた。打合せの時間は短いときで5分くらい,長いと30分くらいであった。8月上旬の打合せでは,案内状(実際には挨拶状という表題)の作り直しとホステスの顔写真付きの名刺の作成を依頼された。案内状と名刺の打合せは同じ日に行い,その日は30分以上打合せをした。打合せの間,被告人はかなり頻繁に電話で話をしていたが,店の電話はあまり使っていなかった。打合せの後,車で文房具店fへ行き,まず2階で名刺の台紙を購入し,領収書(弁9号証)を受け取り,次に,案内状の台紙を1階で購入して,領収書(弁12号証)を受け取った。

Hは,上記供述において,打合せをした日が8月3日であると考えた理由について,記憶していた被告人の服装が,当日,被告人に会っているというGの話と一致したこと,及び8月1日は小学校の仕事をし,2日は家のことをしてパソコン指導用の教材を作っていたこと(ただし,その資料作成は結局お盆明けもずっとやっていた),被告人と打合せをした後にfで台紙を購入した際の領収証(弁9号証)に8月3日という日付が入っていることなどを挙げ,打合せをした後にfへ行って台紙等を購入した状況について,極めて詳細かつ具体的に述べていた。

ところが,Hは,上記供述後,新たに8月3日にfにおいて名刺の台紙が2100円で販売されたのが午後5時24分ころであったことを示す証拠(甲58ないし62)の存在を,検察官から明らかにされるや,第7回公判期日において,従前の供述を翻し,その日は打合せの前にfに行った,8月3日に買ったのは名刺の台紙だけで,手書きの領収書は8月3日のものかどうかは分からない,1日のうちに2回(打合せの前後)fに行くことも一,二回あったと思うなどと,被告人と打合せをした時間と,fへ行った時間の前後関係について,従前の供述とは全く逆のことを述べる一方,8月3日の打合せの時間帯が午後6時以降であることは間違いないと供述している。

しかしながら,Hの供述は,先の供述において,被告人と打合せをした後にfに行ったと詳細に供述しておりながら,fで買い物をした時刻が午後6時より以前であったことが判明するや,被告人との打合せの時刻は変わらないが,fに行ったのがそれ以前であったと供述を変更させるなど,余りにも場当たり的といわざるを得ない。Hが,真実,被告人と打合せをした事実やfで買い物をした事実について,具体的な記憶を保有していたとするならば,その前後関係について記憶違いをするということは通常考え難いのであり,その上,打合せと買い物との時間の前後関係について記憶があいまいであるにもかかわらず,打合せの行われた時間帯についてのみ具体的な記憶を保有しているというのは,一層不自然の感を免れない。加えて,Hの供述によれば,当時,同女は,かなり頻繁に被告人の依頼を受けて印刷物の作製をしていたことがうかがわれるところ,8月3日の自己の行動については具体的な供述をするものの,その前後の日にちの行動については,記憶があいまいになっているのであるから,こうした事情を考慮すると,被告人と打合せをしたという8月3日についてのみ明確な記憶を保有しているとは到底考えられない。以上の次第であって,Hの公判供述によっても,Hが被告人と打合せをした時間帯が午後6時以降であることが明確であるとはいえず,被告人と打合せを行った日にちが8月3日であることについても,一義的に明らかであるとはいえないから,Hの公判供述によっても,本件犯行時刻に被告人がHと打合せをしていたと認めることはできないのであり,被告人の前記供述を裏付けているとはいえない。

(4)  以上検討したところによれば,被告人の,本件犯行時刻ころにはaビルの3階にはおらず,同ビル4階のbの店内でHと打合せをしていたという前記供述は,それ自体信用性が高いとはいえない上,他にこれを裏付ける証拠もなく,信用性の高いVの前記供述に反していて,信用できない。

4(1)なお,Vは,本件犯行前日の8月2日午前中,Bが買い物に出掛け,被告人の妻が入浴している間,及び同月3日午前中,Bが入浴している間に,被告人方において,被告人からわいせつ行為をされたと供述しているところ,弁護人は,Vがわいせつ行為をされたという時間帯には,いずれも被告人の妻やBが在宅しており,狭くて遮音性の乏しい家屋内で,わいせつ行為ができるはずがなく,その上,8月3日には午前10時30分ころにGが被告人方を訪れて風呂上がりのBと会っており,被告人の妻もリビングか寝室にいたはずであるから,そのような状況下で被告人がわいせつ行為をするのは客観的に不可能であると主張する。

Vの上記供述は,本件犯行につながる一連の行為として述べられているのであるから,本件犯行前にVがされたという各わいせつ行為が客観的に不可能であるとすれば,Vの供述中に虚偽が含まれていることとなり,そうすると,本件犯行に関するVの供述全体の信用性にも疑問が生じ得る。そこで,被告人が,上記各わいせつ行為を行う客観的可能性があったか否かについて,更に検討を加える。

(2)  8月2日午前中のわいせつ行為について

被告人からわいせつ行為をされた時期について,Vは,8月2日の午前中にBが被告人に依頼されてノートなどの買い物のために外出していた間であると供述しているところ,Bは,公判廷において,8月2日か3日に被告人に頼まれてコンビニエンスストアにジュースを買いに行き,ノートを買ったかも知れないこと,また,同月3日に電話料金8万円くらいをコンビニエンスストアに支払いに行ったことがあると供述している。

関係証拠によれば,8月2日午前9時07分に被告人方付近のコンビニエンスストアでジュース等を買った際のレシートが被告人方に存在し,同日午前9時46分に,同じコンビニエンスストアで8万円余りの被告人の電話料金が支払われていることが認められる。

こうした客観的事実を前提に,Bの上記供述を検討すると,電話料金の支払いをしたのが8月2日であったか,3日であったかというBの記憶があいまいであったとしても,時間の経過を考えるとあながち不自然であるとはいえず,さらに,Bが被告人の電話料金の金額をある程度具体的に記憶していることをも考えれば,Bは,被告人の依頼により,8月2日午前9時07分にコンビニエンスストアでジュース等を購入し,同日午前9時46分に同じコンビニエンスストアで電話料金を支払ったものと認められる。したがって,電話料金は,被告人自身が,犬の散歩がてら支払ったもので,Bが支払ったのではない旨の被告人の公判供述は信用できず,また,被告人の妻の,8月2日,Bは,朝食の後,コンビニエンスストアにジュースなどを買いに行っており,同女自身は,朝食の後,Bが帰ってきてから風呂に入った旨の公判供述も,同女は,いつも午前中に入浴するというのであり,入浴と他の日常の出来事との前後関係についての記憶があいまいなまま,夫である被告人の弁解に沿った供述をしている可能性も否定できないから,たやすく信用できない。そして,被告人の妻は,家の中に家人以外の人がいて入浴する場合には,台所と居間の間の引き戸は閉めていると供述しているから,同女が入浴中に,被告人がわいせつ行為に及ぶことが不可能であるとはいえない。

そうしてみると,8月2日午前中,Bがコンビニエンスストアに買い物などに行った間に,被告人の妻が入浴していた可能性は十分にあり,被告人がVに対してわいせつ行為をすることが客観的に不可能であったということはできない。

(3)  8月3日午前中のわいせつ行為について

Gは,公判廷において,8月3日は,被告人方の最寄りの駅であるg駅から,駅に着いたという電話を被告人に入れてから,同日午前10時30分ころに被告人方を訪れ,その後,被告人らと車2台で出かけ,ガソリンスタンドで給油した後,静岡にタレントを迎えに行くために被告人と別れているから,被告人がVに対してわいせつ行為を行うことは不可能であったと供述している。

そして,関係証拠によれば,8月3日午前10時22分ころ,Gが被告人に架電して2分近く通話していること,及び同日午後零時13分ころ,2台の自動車に給油した際のレシートが存在することが認められる。

しかしながら,被告人は,捜査段階において,8月3日当日,Gが静岡にタレントを迎えに行くために,車を貸したことなどは供述しているにもかかわらず,Gが被告人方を訪れたことについては全く供述していなかったばかりか,Bも,公判廷で,Gが当日被告人方へ来ていたことは記憶していない旨供述している。また,上記認定事実によれば,当日の昼ころ,被告人が2台の車に給油をした事実はあるものの,仮に,Gが,その給油された車のうち1台に乗っていたとしても,Gと被告人が合流した時刻や場所については明らかではない。Gは,被告人方を訪れる際には,いつもg駅から電話をしているから,午前10時22分ころの通話がそれであり,その数分後には被告人方に到着したと供述しているが,上記通話時間は約2分間近くあって,これから数分後には直接会って話をできる者同士が単に駅に到着したことを知らせるための通話としては長時間すぎて不自然というほかなく,加えて,Gは,被告人の15年来の友人であり,被告人に誘われてbに出資し,被告人が逮捕されてからは,被告人の代わりに中心となって店を経営する傍ら,被告人のために,資料を集めるなどして弁護人に積極的に協力するなどしており,被告人と親密な人間関係を有するものであることを考えると,Gの上記供述は信用できない。なお,この点については,被告人の妻も,Gが来訪したと供述しているが,Gと同様に被告人の妻の供述も第三者性を欠くといえるから,信用性は乏しい。

また,Vの供述によれば,Bの部屋でわいせつ行為をされている間の被告人の妻の動静が明らかでないが,被告人の妻の供述によれば,Bの部屋には,掃除のとき以外には入らないというのであり,また,被告人の妻が就寝中であった可能性も否定できないから,被告人の妻が在宅している間にわいせつな行為に及ぶことが不可能であるとまではいえない。

そうすると,8月3日の午前中,Bが入浴している際に,被告人がVに対してわいせつ行為をする機会がなかったとはいえない。

(4)  以上の次第で,8月2日及び同月3日の午前中に,被告人がVに対してわいせつ行為を行う機会が客観的になかったということはできず,この点に関するVの供述の信用性は動かないから,本件強姦の被害に関するVの供述の信用性に疑いを差し挟む余地はない。

5  以上検討したところによれば,Vの供述は十分に信用でき,他方,これに反する被告人の弁解供述は信用できないから,弁護人の主張は理由がなく,本件公訴事実について,犯罪の証明は十分である。

(法令の適用)

罰条  刑法177条前段

未決勾留日数の算入  刑法21条

訴訟費用  刑事訴訟法181条1項本文(負担)

(量刑の理由)

本件は,被告人が,自ら経営する飲食店の共同出資者であり,店長として雇い入れていた従業員である男性を頼って上京してきた当時高校2年生の女子生徒を強姦した事案である。

被告人は,家出をして地方から上京し,被告人方に住まわせていた上記男性以外には頼る者がいないVの境遇を知った上で,被告人方に迎え入れた当日から,わいせつ行為を行い,Vがこれを口外しないことをよいことに,その翌日にもわいせつ行為を重ね,本件犯行に及んでいるのであり,自己の欲望の赴くままに,Vを性欲のはけ口として扱ったものであって,犯行の動機に酌量の余地はない。被告人は,Vが,度重なるわいせつ行為に対して被害を訴えることがなかったことから,Vと行動をともにしていた上記男性に対して,店の開店に遅れないように早めにホステスを迎えに行くように命じ,その間,携帯電話で連絡を取って所在を明らかにするように指示し,他の従業員に対しても用件を言いつけて外出させるなどし,Vと二人きりになる機会を作り出した上,店の入っている同じビルの3階の空室に言葉巧みに連れ込んで犯行に及んでいるのであり,犯行態様は,計画的で巧妙である。Vは,家出をしていたとはいえ当時16歳の女子高生であり,地方から上京して頼りにしていた男性の雇用主である被告人から,本件被害を受けたのであり,その精神的苦痛は大きかったと推測され,本件被害に遭ったことが学校側にも発覚したことから,在籍する高校を中途退学することを余儀なくされたばかりか,その後も証人として尋問にさらされるなどの苦痛を味わっているのであって,Vとその保護者が被告人に対して厳重な処罰を求めているのも当然である。ところが,被告人は,これに対し,何ら被害弁償,慰謝の措置を講じることなく,公判廷においても,自己の罪責を免れるために不合理な弁解に終始し,その上,Vを誹謗中傷するような言動にも及んでいるのであり,反省の態度は全くうかがわれない。加えて,被告人が,やや古いものであるが,昭和57年に大麻取締法違反罪により懲役1年6月に,昭和61年には銃砲刀剣類所持等取締法違反罪により懲役15年に処せられて服役し,本件が前刑の仮出獄中の犯行であることを考慮すると,被告人の刑事責任は重いといわざるを得ない。

そうすると,家庭には妻と生後8箇月の乳飲み子を抱えていることなど,被告人のためにしん酌し得る事情を十分に考慮してみても,主文掲記の科刑は免れない。

(求刑 懲役3年)

裁判長裁判官 川上拓一 裁判官 根本渉 裁判官 蛭田円香

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例