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さいたま地方裁判所 平成12年(ワ)1281号 判決 2002年5月15日

原告

甲野太郎

同訴訟代理人弁護士

野本夏生

被告

埼京タクシー株式会社

同代表者代表取締役

乙山次郎

同訴訟代理人弁護士

安西愈

外井浩志

渡邊岳

岩本充史

近藤麻紀

主文

1  原告の請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第1請求

1  原告は,被告の従業員としての地位を有することを確認する。

2  被告は,原告に対し,平成10年9月から毎月28日限り月額35万5631円を支払え。

第2事案の概要

本件は,被告に雇用されていた原告が,被告のした解雇は無効であるとして,被告に対し,雇用契約上の地位を有することの確認及び同地位に基づく賃金の支払を請求した事案である。

1  当事者間に争いがない事実(以下「争いのない事実」という。)

(1)  被告は,一般乗用旅客自動車運送事業等を目的とする株式会社である。

原告は,平成5年12月ころから被告に雇用され,平成10年7月当時被告の戸田営業所においてタクシー乗務員として勤務していた。

(2)  被告は,平成10年7月22日,原告に対し,同人を同年8月20日限りで就業規則19条及び労働基準法20条に基づき解雇する旨の意思表示し(ママ)た(以下「本件解雇」という。)。

(3)  被告における賃金は,稼働手当,割増手当等から成り立っており,毎月20日締めで当月28日に支払われる。

原告が平成9年度の1年間に被告から支払われた給与の合計額は426万7576円であるから,1か月の平均賃金は35万5631円である。

(4)  被告の就業規則には,次のような規定がある。

ア 19条(解雇)

従業員が次の各号の1に該当したときは,30日前に予告するか,または30日分の平均賃金を支給して解雇する。但し,解雇予告の日数は,平均賃金支給日数分だけ短縮することがある。(略)

(略)

(イ) 勤務成績または労働能力が著しく低劣,もしくは性行が業務に支障あると認めたとき

(ウ) 懲戒解雇事由に該当し解雇を相当とするとき

以下略

イ 43条(懲戒の種類)

懲戒は,その情状に応じて,次の区分により行う。

(ア) けん責(略)

(イ) 減給(略)

(ウ) 出勤停止(略)

(エ) 降格・降職(略)

(オ) 停職(略)

(カ) 諭旨解雇(略)

(キ) 懲戒解雇

行政官庁の許可を得て予告期間を設けないで,解雇もしくは第19条の規定による手続きを準用して解雇する。

この場合退職金は支給しない。(略)

ウ 第46条(懲戒解雇)

従業員が次の各号の1に該当する場合は,懲戒解雇する。

(略)

(ウ) 故意に自己の業務を怠りもしくは他人の業務を妨げたとき。

(エ) 正当な事由なしに会社の指示命令を拒否または違反したとき。

(略)

(カ) 職務を利用して不当な金品を受取りもしくは与え,または不正に自己の利益をはかる行為をしたとき。

(略)

(ケ) 業務上の怠慢または素行不良で業務に対する誠意を認め得ないとき。

(略)

(タ) 他の従業員に対し暴行,脅迫を行ったとき。またはその業務を妨害したとき。

(チ) その他の諸規則に違反し,または前各号に準ずる行為をしたとき。

(略)

エ 第49条(懲戒手続き)

従業員に懲戒すべき行為があるとみとめたときは,所属長は直ちに本人から顛末書をとり,かつ行為の事実等を調査して具申しなければならない。

(5)  被告の乗務員服務規律には,次のような規定がある。

ア 第12条(営業上の遵守事項)

乗務員は特別な契約を除き,メーター器を使用しないで営業してはならない。運賃料金は,現金,未収を問わずメーター器の表示金額によって収受し,その額以上を要求したり収受したりしてはならない。

イ 第14条(禁止行為)

乗務員は次にあげる行為をしてはならない。

(略)

(ク) メーター不倒

(略)

ウ 第16条(不正禁止行為)

乗車待機中,または帰庫の途中,私用あるいは他の依頼で業務以外の目的のために車両を運行及び放置しないこと。

エ 第21条(乗務記録の記入義務)

(ア) 乗務員は乗務記録(運転日報)の記載事項を確認するとともに営業のつどボールペンで必要事項を記録し,汚損,破棄,紛失等をしてはならない。

(イ) 営業終了後は乗務記録の記載事項記入漏れ等がないか次の事項を確認すること。

<1> 車両の出入庫時刻

<2> 乗務開始および終了地点と時間

<3> 休憩または仮眠をした場合はその場所と時間

<4> 料金メーター指数の記入

<5> 走行メーターの記録

<6> 給油量の記入

<7> 事故,違反,異常等があった場合の記録

<8> 回送を使用した時はその内容,時間および区間

<9> 領収書を発行した時はその回数欄に○印を付す

(ウ) 乗務記録は終業点呼の時提出をし,管理者の点検,および検印を受けなければならない。

2  争点

被告は,本件解雇について,解雇事由があり,また解雇を相当とすると判断するに至った事情があると主張し,原告は,本件解雇は無効であると主張した。それぞれの主張の要旨は以下のとおりである。

(1)  メーター不倒

(被告の主張)

原告は,以下のとおり,メーターを倒すことなく送迎し,その対価として金銭を受領・取得する,いわゆるメーター不倒行為を行っており,これは乗務員服務規律14条(ク)に違反し,就業規則46条(ウ)(エ)(チ)の懲戒事由に当たるものといえる。

ア タクシー会社にとってメーター不倒は,その収入源を奪う重大な行為である。被告は,乗務員服務規律14条(ク)において(ママ) メーター不倒が禁止行為であることを規定し,乗務員に対し周知徹底させている。

イ 原告のメーター不倒行為

(ア) 原告には,以前から,西川口の特殊風俗営業店に勤める女性が深夜帰宅する際,メーターを倒さないで自宅まで送り届け,受け取った金銭を被告に納金せず自らが取得しているのではないかという噂があった。

(イ) 実際,原告は,納金指示書中の営業明細書からすると,比較的継続して乗車になる稼ぎ時の時間帯である午前0時ころから2時ころまでの間,全く乗客を乗車させていないことが頻繁にあった。

(ウ) 原告は,平成10年6月8日,午後11時35分に営業した後,翌9日午前3時30分に帰庫するまでの約4時間にわたり,全く乗客を乗車させていなかった。当時被告の戸田営業所長であったA(以下「A所長」という。)は,同月10日,原告にこの点を問いただしたところ,原告は仮眠をとっていたと弁解したが,どこで仮眠していたのか聞かれても答えなかった。

(エ) 被告の乗務員であったB(以下「B」という。)は,平成10年7月5日午前1時20分ころ,業務を終えて帰宅する途中,埼玉県川口市<以下略>川口神社付近路上において,「予約」の表示を出して女性の乗客を乗車させている被告のタクシーを目撃した(以下目撃したとする場所を「本件現場」という。)。Bは,同車の識別番号を確認して即時に無線配車係に連絡したところ,原告が運転しており,かつメーターを倒していない状態にあることが確認された。Bは,翌日右の出来事を被告のC社長室長に報告した。

(原告の主張)

ア 乗務員服務規律においてメーター不倒行為が禁止されているのは認める。

イ 営業の空白について

納金指示書中の営業明細書に打刻されている時刻は,乗客を降車させて料金を収受した時間であるから,次に打刻された時刻との間には,次の乗客を乗せるまでの回送時間,待機時間,さらに次の乗客の営業時間が含まれている。

原告は,午前0時15分ころの東日本旅客鉄道(以下「JR]という。)埼京線の大宮駅行最終電車の発車時刻まではJR戸田公園駅を中心として営業を行い,それが過ぎると,JR西川口駅に移動して同駅構内で客待ちをしたり,軽食を購入するなどして短い休憩を取得してから同駅周辺の繁華街を流して長距離の客を狙うことがしばしばあった。したがって,債権者の納金指示書中の営業明細書に打刻される時刻の間隔が2時間程度空くのは不自然ではない。さらに,原告は,毎日,営業終了後ガソリンスタンドに立ち寄り洗車をしていたが,これも被告の主張する時刻の間隔に含まれることもある。

ウ 平成10年6月8日について

原告が,同日最後の乗客を降車させた時刻が午後11時35分であったことは認めるが,その余の事実は否認する。

営業終了の時刻は,通常,納金指示書の打出時刻であり,同月9日における原告の同時刻は午前2時24分である。原告は,午後11時35分に乗客を降車させた後,翌日午前2時24分に営業を諦(ママ)めるまでの約2時間半にわたり,乗客を得られなかったにすぎない。

上記のとおり,原告に4時間の空白時間はなく,この点をA所長に注意されたこともない。

エ Bによる現認について

原告は,Bが原告のメーター不倒を現認したとする時刻には休憩をとっており,本件現場付近にはいなかった。また,そもそも同人が見たという原告タクシーの識別番号は,当時使用されていなかったものであるから,同人が目撃したというのは完全に虚偽である。

(2)  始業時間不遵守,勤務離脱

(被告の主張)

原告は,以下のとおり,始業時間を遵守せず,また勤務時間から離脱する行為を行っており,これは,就業規則19条(イ)の解雇事由に該当し,また就業規則19条(ウ),46条(エ)(ケ)の懲戒事由に当たるものといえる。

ア 始業時間不遵守

被告においては,平成7年9月以降,出庫時間は午前6時と定められ,各乗務員に対し,掲示によって告示されていた。また,被告は各乗務員に対し,出社時間について,出庫時間から3時間以内,すなわち午前9時までに出社して営業に就くよう指示していた。

しかし,原告は,午前9時までに出社したことはわずかであり,A所長は,数回にわたって出社時間を遵守するよう注意したにもかかわらず,原告の出社時間は改善されなかった。

イ 勤務離脱

被告は,午前6時を出庫時間,午前3時を帰庫時間と定め,各乗務員に対し,出庫から帰庫までの間に,一回2~3時間の休憩を2,3回,合計5~6時間程度取るよう指示している。

原告は,出庫後帰庫までの間に,長時間にわたって全く乗客を乗せていないことがしばしばあった。この時間が休憩を含むものであるとしても,上記のような取得方法の制約を越えた休憩を取ることは,それ自体業務命令に対する違反である。

A所長は,アと同様,数回にわたって注意したにもかかわらず,長時間にわたって乗客を乗せていない状況は解消されなかった。

(原告の主張)

ア 始業時間不遵守について

被告戸田営業所において,被告が主張するような始業時間の定めはない。被告戸田営業所においては,出番の日に午前9時以降に出勤する場合には,その日の乗務予定(出勤または欠勤の予定)を電話連絡するよう指導しているだけである。

また,被告が主張するような出庫時間の定めが戸田営業所内に掲示されたこともない。

原告は,A所長から出社時間の定めを遵守するよう注意を受けたことはない。但し,午前9時までにその日の乗務予定を連絡しないと欠勤扱いとされる可能性がある旨の指導を受けたことはある。

イ 勤務離脱について

被告は,各乗務員に対し,乗務中,少なくとも3時間の休憩を取るよう指導していただけで,休憩時間の限度や取得方法を制限する旨の指導はしていなかった。

原告が乗客を乗せていない時間には,休憩のほか,その前後の回送時間や待機時間も含まれており,営業明細書に営業記録がないことのみから勤務離脱をしているとするのは不当である。

また,原告は被告から休憩の取得方法に業務命令違反があるとして注意されたことはない。

(3)  他の社員に対する暴言

(被告の主張)

原告は,平成10年6月19日午前3時ころ,戸田営業所内において,被告の配車担当従業員であるD(以下「D」という。)に対し,「不正な無線配車をしている証拠をつかんでテメエなんか辞めさせてやる。」「無線室の中で女とイチャイチャして何やってんだ。」「フザケンジャネエヨ。」と暴言を吐いた。

これは,就業規則19条(ウ),46条(タ)の懲戒事由に当たるものといえる。

(原告の主張)

原告は,平成10年6月19日,Dに対し,かねて同人が被告社内において,携帯電話を用いて不正な配車をしているとして問題になっていたことから,「八百屋(ママ)ばかりやって。」と述べたに過ぎず,Dの業務を妨げたということはないし,解雇事由にもならないものである。

(4)  長時間にわたる車両放置

(被告の主張)

被告は,乗務員服務規律16条において車両を放置することを禁止している。

原告は,平成8年12月5日午前10時ころから午後8時ころまで,同日原告が担当した車両をJR川口駅前構内待機場に放置し,そのため,被告は同駅から注意を受けた。

被告は,同月7日,原告に対し,戸田営業所内において注意をした。

第3争点に対する判断

1  争点(1)(メーター不倒)について

(1)  各項末尾記載の証拠によれば,以下の事実が認められる。

ア 本件現場は,JR川口駅の南東方向に所在する川口神社の南東角にある交差点である。同交差点は,信号機により交通整理が行われているが,さらに,同交差点北方から進入する車両に対しては右折指示の,西方から進入する車両に対しては左折指示の交通規制が行われている。本件現場付近には,照明灯が,交差点の北東角,南東角及び北西角から西方にやや離れた場所に各1基ずつ設置されている(<証拠略>,証人B)。

イ 被告の乗務員であるBは,平成10年7月5日午前1時20分ころ,業務を終えて,自家用自動車(日産キャラバン,RV車)を運転して帰宅途中,北方より本件現場にさしかかった。同人は,交差点の対面する信号機の赤色表示に従い,同交差点の横断歩道直前の停止線付近で車両を停止させたところ,同交差点から右方(西方)3台目の位置で,Bの停止場所から約15メートルほど離れた先の路上に,「予約車」の表示を掲げた被告のタクシーが停止しているのに気づいた。Bは,対面信号機が青色表示に変わったので同交差点を右折した後,同人の後続車両がなかったことから上記タクシーにゆっくり近寄り,一旦車両を停止させて車両前部のライトで照らしながらタクシーの中をのぞき込んだところ,運転席に原告が,その後部座席には女性の服装をした人物がそれぞれ座っているのを目撃した。さらにBは,上記タクシーとすれ違う際,そのナンバーが「大宮○○い○○○○」であり,後部窓ガラスに貼付されているタクシーの識別番号のシールが「○○○○」であるのを確認した(<証拠略>,証人B)。

ウ 被告において,タクシーに「予約車」の表示をすることは,被告の指示または客からの依頼により同車を一定時間貸切にすることを意味する。その場合,乗務員は,貸切状態に入る時及び終了時に,債務者の無線本部に対しその旨の連絡を入れて,貸切の時間を報告しなければならないものとされている。

そこで,Bは,被告の無線本部に対し,電話で「川口神社の前で,乗客は乗っているが料金メーターを作動させていないと思われる,登録番号大宮○○い○○○○の被告車両を目撃したが,誰が乗っているのか確認してください。」と問い合わせたところ,同乗務室のDは,原告である旨回答した。さらにDは,Bの求めに応じて,上記タクシーの営業状況を無線装置で確認したところ,空車となっていたことがわかった。Dは,そのころ,原告から,貸切に入る旨または終了した旨の連絡を受けたことはない。(<証拠略>,証人B,被告代表者)

エ 原告の平成10年7月4日付運転日報及び納金指示書中の営業明細書には,原告が,JR戸田公園駅前から浦和市(現さいたま市)南浦和付近まで乗客を乗せて運行し,同月5日,午前0時43分ころ乗客から2260円を収受した後,同駅前から戸田市笹目付近まで乗客を乗せて運行し,同日午前2時35分ころ1220円を収受した旨が記載されているが,その間の営業状況についての記載はない。

さらに上記運転日報には,原告が自宅において同月4日午後2時から5時までの3時間休憩した旨の記載はあるが,その他の休憩についての記載はない。(<証拠略>)。

オ Bは,平成10年7月6日,被告の社長室長であったCに対し,原告のメーター不倒を目撃した旨を口頭で報告した。

そこで,A所長は,同日午後4時30分ころから約20分間にわたって原告から事情を聴取したところ,原告は,メーター不倒はしていない,Bが見たとするころ川口神社付近には行っていない,営業のない時間があるとすれば休憩していたと思うという趣旨の弁解をしたが,具体的な休憩の時間及び場所を明らかにしなかった。

(<証拠略>,証人B,被告代表者)

(2)  (1)で認定した事実を総合すると,原告は,平成10年7月5日午前1時20分ころ,本件現場付近において,「予約車」の表示を掲げながら,料金メーターを作動させないでその運転するタクシーに乗客を乗せていたこと,及び原告は,同乗務によって乗客から収受したであろう料金を被告に対し納金しなかったことが認められる。

なお,原告は,Bが見たとする時刻ころ川口神社付近には行っていないし,営業していない時間があるとすれば休憩していたと思うという趣旨の供述をするが,休憩の時間及び場所を明らかにしないし,その証拠も提出しない。

さらに原告は,原告の乗務していたタクシーの車両番号は80号車であり,平成10年7月当時,タクシーに表示されていた車両の識別番号(無線番号)は「○○○○」であったが,その後識別番号の末尾2桁を車両番号と一致させることになり,現在の「○○80」と改められたにもかかわらず,Bは,「○○80―80」を目撃したと供述したものであるから,Bの証言は虚偽であって,信用できないと主張する。しかし,(証拠略)及び証人Bによれば,本件現場付近の見通しはよく,深夜でもある程度の明るさがあるうえ,B運転車両の座席が地上約170センチメートルと高く視界も広いことが認められるから,この事実に照らせば,Bの供述内容が不合理であるということはできないというべきである。当庁平成10年(ヨ)第501号地位保全仮処分申立事件の決定(<証拠略>)においても,実施した現地見分の結果をふまえて,同様の結論を導いている。また,Bが,当時被告のタクシーの識別番号を「○○80―80」として問い合わせをしたと供述したことは,同人の言い間違いであるとの弁解(<証拠略>)は,同号証によれば本件における目撃と識別番号の改定が同年のできごとであるというのであるから,前後を錯覚したという可能性も否定できないこと,Bは,本件解雇直後の仮処分事件の際には識別番号のことまでは陳述していなかったところ,本訴において原告代理人の反対尋問を受け,Dに問い合わせをしたときの言葉を供述する際に識別番号に言及したものであるが,その経緯からすると言い間違えたとする余地もなくはないこと,Bは,原告のタクシーのナンバーも見ており,これをDに告げたということは仮処分段階から陳述しているが,番号を見間違えてはいないこと(<証拠略>)からすると,あながち不自然な弁解であるともいえない。そして,前記のとおり,Bの目撃状況が不合理とはいえず,原告の運転日報の記載内容や納金指示書の内容に空白の時間があり,これについて原告が合理的な説明をし,それを裏付ける証拠を提出しない以上,原告の供述は信用できないし,他方でBの供述を信用できないとして排斥することもできないといわざるをえない。

(3)  そこで,以上認定した事実に基づき,解雇の相当性につき判断する。

メーター不倒行為は,乗務員服務規律12条,14条(ク)で禁止された行為であるところ,原告の行為は上記各規定に違反するものであり,就業規則46条(ウ)(エ)(チ)の懲戒解雇事由に該当するものであると認められる。

次に,メーター不倒行為は,タクシー会社の収入源を奪う極めて重大な行為であること,及び原告が一貫してメーター不倒行為を否認していることからすれば,原告は,就業規則19条(ウ)の解雇事由に該当するものというべきである。

そして,前記(1)オで認定のとおりの聴取手続が取られ,その結果に基づいて,A所長から当時被告の常務取締役であった乙山次郎に対し,原告から再度事情聴取の上厳正な処分を求める旨の意見書が提出され(<証拠略>),被告において,争いのない事実(2)記載のとおり解雇の意思表示をしたものであるから,本件解雇は,争いのない事実(4)エに記載した就業規則49条所定の手続要件を満たしているものと認められる。

2  以上のとおりであるから,被告の主張する解雇事由のうちメーター不倒以外の事由に関して,その事実の存否及び解雇の相当性について判断するまでもなく,本件解雇は社会通念上相当なものとして是認することができるというべきである。

よって,被告は解雇権を濫用したものであり,本件解雇は無効であるとする原告の請求は,その余の点を判断するまでもなく理由がないから,棄却することとし,主文のとおり判決する。

(裁判官 木本洋子)

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