さいたま地方裁判所 平成12年(ワ)261号 判決 2004年12月22日
本訴原告・反訴被告(以下「原告」という。)
学校法人X学園
代表者理事
A
訴訟代理人弁護士
竹内桃太郎
同
中野裕人
同
岡村勲
同
京野哲也
同
北尾哲郎
同
内田清人
訴訟復代理人弁護士
手島厚
同
森川紀代
本訴被告・反訴原告(以下「被告」という。)
Y
訴訟代理人弁護士
斉藤豊
同
金久保茂
主文
1 原告の本訴請求を棄却する。
2 被告の反訴主位的請求のうち,給与及び賞与請求にかかる請求部分(反訴主位的請求第1ないし第3項)をいずれも棄却する。
3 原告は被告に対し,平成11年1月1日以降本判決確定に至るまで毎月25日限り,1か月金34万1428円及びこれらに対する各支払日の翌日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
4 原告は被告に対し,平成10年12月1日以降本判決確定に至るまで,毎年7月31日及び12月31日限り各金34万1428円及びこれらに対する各支払日の翌日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
5 原告は被告に対し,金27万8634円及びこれに対する平成10年12月26日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
6 原告は被告に対し,金44万円及びこれに対する平成14年11月21日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
7 被告のその余の反訴主位的及び予備的請求をいずれも棄却する。
8 訴訟費用は,本訴・反訴を通じてこれを5分し,その1を被告の負担とし,その余を原告の負担とする。
9 この判決は,第3ないし第6項に限り,仮に執行することができる。
事実及び理由
第1請求
(本訴)
原告と被告との間に雇用契約関係が存在しないことを確認する。
(反訴主位的請求の趣旨)
1 原告は,被告に対し,平成10年12月1日以降本判決確定に至るまで毎月25日限り,1か月金39万9120円及びこれらに対する各支払日の翌日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 原告は,被告に対し,平成10年12月以降本判決確定に至るまで毎年12月15日限り金59万1686円,平成11年7月以降本判決確定に至るまで毎年7月15日限り金55万5033円及びこれらに対する各支払日の翌日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3 原告は,被告に対し,金5万2590円及びこれに対する平成10年11月26日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
4 原告は,被告に対し,金110万円及びこれに対する平成14年11月21日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(反訴予備的請求の趣旨)
1 原告は被告に対し,平成11年1月1日以降本判決確定に至るまで毎月25日限り,1か月金34万1429円及びこれらに対する各支払日の翌日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 原告は被告に対し,平成10年12月以降本判決確定に至るまで毎年12月31日限り金34万1429円,平成11年7月以降本判決確定に至るまで毎年7月31日限り金34万1429円及びこれらに対する各支払日の翌日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3 原告は被告に対し,金27万8637円及びこれに対する平成10年12月26日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
4 原告は被告に対し,金110万円及びこれに対する平成14年11月21日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2事案の概要
本件は,経営が破綻した訴外学校法人d学園(以下「d学園」という。また,「旧法人」ということがある。)が設置運営していた専門学校の経営を,新しく設立された学校法人である原告(以下「新法人」ということがある。)が引き継いだ際,旧法人に専任教員(以下,特に断らない限り,「教員」は専任教員,「職員」は専任職員を指す。)として雇用されていた被告を原告が雇用(採用)しなかったことが不当労働行為に該当し,不採用行為は無効であるとして,被告が原告に対して雇用関係を主張したのに対し,原告がこれを争って,本訴として被告との間に雇用関係が存在しないことの確認を求め,被告は,これに対し反訴として原告との間の雇用関係の存在を主張するとともに,新法人における雇用開始の日からの給与及び賞与の支払,並びに不当労働行為により精神的損害を被ったとして,不法行為に基づく損害賠償(慰謝料)を請求した事案である。
1 争いのない事実等(争いのない事実のほか,後掲の証拠等による。)
(1) 当事者等
ア 原告は,教育基本法及び学校教育法に従い,私立専修学校を設置することを目的とする学校法人で,平成10年10月1日,東京都知事から設立認可を受け,e専門学校,f専門学校を設置・運営しているものである。
イ 被告は,訴外学校法人法商学園(昭和54年4月16日設立,平成10年10月1日解散。解散時の理事長は訴外B〔以下「B」という。〕。以下「d学園」という。<証拠省略>)に教員として雇用されていた者である。d学園は,被告に対し,平成10年9月30日付で被告を解雇する旨の通知をし,同年10月1日,東京都知事から解散の認可を受けて解散した。
(2) e専門学校ほか2校の設置者変更
ア d学園は,平成10年9月30日まで,前記e専門学校(東京都千代田区所在,昭和54年認可開設。以下「e専門学校」という。)及びf専門学校(東京都北区所在,昭和60年認可開設。以下「f専門学校」という。)のほか,e1専門学校(東京都新宿区,以下「e1専門学校」という。平成11年4月以降閉鎖された。)の3校を設置・運営していたものである。平成10年8月末の時点で,これら3校には,1年生約1800名,2年生約2500名の合計約4300名の生徒が在籍していた。
また,これら3校では,次のとおり校舎を使用していたほか,平成元年ころにはアメリカのオレゴン州に,平成5年ころには北海道にそれぞれ研修センターが設置された。
e専門学校 d学園が土地建物を所有…本部校舎,新校舎
賃貸物件…御茶ノ水校舎,東校舎,東校舎別館
f専門学校 d学園が土地建物を所有…本部校舎,東校舎
賃貸物件…東校舎別館
e1専門学校 d学園が土地建物を所有…本部校舎,北新宿校舎
イ 原告は,平成10年10月1日,東京都から,d学園に代わってこれら3校の設置者となる旨の設置者変更の認可を受けた。原告は,平成11年4月以降,e1専門学校を閉鎖したため,その設置・運営する学校は,e専門学校及びf専門学校のみとなった。なお,原告が設置運営する,ないしは設置運営していた学校は,前記3校以外にはない。
ウ 設置者変更にあたり,前記3校の名称,生徒に変更はなかった。
(3) 原告設立の経緯と原告の教職員の採用
ア(ア) 訴外aメンテナンス株式会社(代表取締役は訴外C〔以下「C」という。〕)は,学生寮事業,不動産管理業等を主な事業とする株式会社であるが,同社とd学園は,同社がd学園の設置していた専門学校の学生を,同社の経営する学生寮に受け入れていた関係にあった。
(弁論の全趣旨)
(イ) d学園は,平成10年に入り,経営が悪化し,同年3月ころ,Bが,訴外学校法人b学園(仙台市所在。以下「b学園」という。)に対し,前記3校の買い取りを打診したところ,同年5月ころ,条件付きで前向きに検討するとの返答がされたことから,以後,b学園を売却先として交渉が進められた。
(弁論の全趣旨)
イ d学園は,平成10年7月17日,教職員に対して説明会を開き,法人が解散する予定であること,同年8月31日付けでd学園に在籍する全教職員を解雇すること,及び,d学園が設置運営していた前記3校の経営は,b学園が引き継ぐことを発表した。その際,d学園の理事者は,教職員に対し,解散の理由は多額の債務があり経営が困難になったためであると説明した。
ウ(ア) d学園は,平成10年7月27日,教職員に対し,再び説明会を開き,d学園及びb学園の関係者から説明がされた。
(イ) b学園は,d学園の教職員に対し,b学園への雇用を希望する者を募り,d学園の教職員の一部はこれに応募した。その後,b学園は,臨時雇用者名簿を発表した。
(ウ) b学園は,平成10年8月下旬,d学園の設置運営していた前記3校の承継計画から撤退することになった。
(エ) 同月31日,d学園の教職員に対し,b学園の撤退がそれぞれの管理職から伝えられ,予定されていた同日付けの解雇は延期された。また,d学園の総務部人事課から,設置者変更手続が完了するまでの暫定的組織体制が発表された。
(オ) d学園は,平成10年9月1日付で,d学園の教職員に対し,改めて解雇予告通知を発した。
エ(ア) 平成10年9月4日,d学園において教職員会議が開かれ,Cらが発起人となって,新法人(原告)を設立すること,新法人(原告)が,東京都の認可を受けて前記3校の経営を行うことが発表された。
また,それと同時に,新法人(原告)の教職員は,d学園の教職員の中から採用されることも発表され,原告の採用手続が説明され,採用を希望する教職員については,同日中に応募書類(履歴書)の提出が求められた。
これに対し,専任教職員のうち183名が履歴書を提出した。また,非常勤講師については,面接は行われず,全員が原告に採用された。なお,一般募集は一切行われていない。
(イ) その翌日である平成10年9月5日から同月8日にかけて,応募者183名全員が,訴外D(原告設立時に原告の理事長となった。以下「D」という。),訴外E及び訴外F(いずれも原告設立時に原告の理事となった。以下「E」,「F」という。)の面接を受けた。
同面接においては,学生募集や学内の現状に関し,上記Dらから質問がされた。
(ウ) 面接の結果は,平成10年9月9日,Fから各応募者に通知された。また,その際,採用された者に対しては,新法人(原告)における同年10月1日付けの組織表が交付された。
オ 被告は,平成10年9月当時,e専門学校のg学科において,情報処理等の授業を週に12コマ担当し,2年生のクラス担任をしていた。
被告は,上記エ(ア)の募集に応募したが,原告は,被告を採用しなかった。
なお,g学科において不採用となったのは被告のみであり,不採用者の教員のうちクラス担任をしていたのは被告のほか1名のみで,当時のクラス担任のうちこの二人だけが原告に採用されなかった。
カ(ア) 原告が採用した教職員は,応募者183名中154名であり,29名が不採用となった。また,平成10年10月1日時点で原告への採用が決定した者は全員,d学園の教職員であった。
(イ) 不採用となった者に対し,その理由は,特に説明されなかった。
キ 元d学園総務部長であった訴外G(以下「G」という。)は原告の管理部長として,同広報部長であった訴外H(以下「H」という。)は原告の入学相談部長として,同経理部長であった訴外I(以下「I」という。)は原告の経理部長として,それぞれ原告に採用された。また,G及びHは,原告の理事に就任した。
(4) 被告の労働組合活動
ア 被告は,東京私立学校教職員組合連合(以下「私教連」という。)の,専修各種学校支部(私教連の専門部の1つである専修学校・各種学校部内の,個人加盟者対象の単組〔弁論の全趣旨〕。以下「専各支部」という。)d学園分会に所属し,その分会長を務めていた労働組合員である。
イ 平成10年8月6日,私教連,同専各支部及び同支部d学園分会は,d学園に対し,連名で,第1回目の団体交渉の申し入れをした。その申入書には,被告のほか,いずれもd学園の教職員であった訴外J(当時,e専門学校マルチメディアビジネス学科在籍。以下「J」という。)及び訴外K(当時,f専門学校公務員学科在籍。以下「K」という。)の名前が,組合に加盟した者として記載された。
また,その後,訴外L(当時,e専門学校マルチメディアビジネス学科在籍の教員で,後に専各支部X学園分会を結成し分会長となった。以下「L」という。)も専各支部に加盟していた。(弁論の全趣旨)
ウ J及びKは,被告同様,原告に採用されなかった。一方,Lは,原告に採用された。
(5) 被告は,原告に対し,原告との雇用契約関係の存在を主張し,争っている。
2 争点及び当事者の主張
本件の争点は,(1)原被告間に雇用関係が認められるか(争点1),(2)被告の原告に対する給与及び賞与請求権の存否とその金額(争点2),(3)原告が被告を採用しなかったことが不当労働行為であり,不法行為を構成するか(争点3)の3点であり,これらに関する当事者の主張は,別紙記載のとおりである。
第3当裁判所の判断
1 当裁判所の認定した事実(略)
2 当裁判所の判断
(1) 争点1(原被告間の雇用関係の存否)
ア 原告による教職員不採用行為の法的性質
(ア) 本件の基本的事実経過は,d学園においては経営に行き詰まったことからe専門学校等の3専門学校の運営を断念し,他法人への引継を企図して当初b学園と交渉したが,合意に至らなかった結果,3校の受け皿として原告が設立されるに至ったものであること,原告は,その3校の運営のために,校舎等の不動産をd学園から買い取り,あるいはaメンテナンス及びその関連会社が買い取ったものを賃借したほか,什器備品はC,aメンテナンス及びその関連会社等の出捐でその譲渡を受け,学納金の残りを引き継ぎ,教職員については一般公募をすることなく,d学園の教職員の中から原告の教職員としてその大半を採用して,3専門学校の運営を開始したが,その際労働組合員4名のうち被告ら3名を含む教職員29名を採用しなかったというものであることは,前記のとおりである。
(イ) そして,前記認定にかかる原告設立の経緯からすれば,d学園と原告との間には出資を共通にする関係も理事の重複もなく,法人格を完全に異にする別法人であることは明らかであるが,原告においては,d学園の運営していた3専門学校の運営のみを目的として設立され,学生との在学契約関係におけるd学園の地位を何らの手続をとることなく当然に承継して,実際にそれに当たっていることを自認しているものである。
そうすると,d学園から原告への権利関係の移転を,単なる個々的な財産関係・法律関係の移転と捉えるのは相当ではなく,原告は,学校経営という事業の目的のため組織化され,有機的一体として機能するd学園の財産の譲渡を受け,これによりd学園の学校経営という事業を受け継いだものと解するのが実態に合致し,商法上の営業譲渡に類似するものということができる(以下,d学園と原告との間における,3専門学校の運営を目的とした財産関係,法律関係の移転を「本件譲渡」という。)。そして,営業譲渡の場合,譲渡人と従業員との間の雇用関係を譲受人が承継するかどうかは,原則として,当事者の合意により自由に定めるべきものと解されるので,雇用関係を承継しないとの合意もまた可能であり,このことは,営業譲渡に類似する事業の譲渡についても同様に妥当する。
(ウ)a 他方,原告による教職員の採用は,d学園と教職員らの雇用関係において,原告がd学園に代わってその契約当事者となるとの法形式すなわち雇用関係の移転(承継)ではなく,教職員の原告に対する採用申込み及び原告の承諾により,新規に労働契約を締結する形式(新規採用)によるものであるところ,ある法人格主体が事業を営む場合,誰を雇用するかしないかということについては採用の自由を有すること,また,経営の自由の一環として,雇入れや,法律上許容される解雇等の手段により,当該事業に必要な労働力を制御する自由を有することは自明のことである。
b ところで,本件譲渡の目的となった事業は,専門学校の学生に対する教育であり,授業を持つ教員は,特段の事情のない限り,少なくとも学期の間は継続的に学生に教育を施す主体として,学生との間で,知識経験の教授のみならず,人格的な関わりも多分に持つことになることから,教育能力が同等であるからといって,やむを得ない事情がない限り,特に学期中に変動することが望ましくないことは論を待たない。したがって,学生とは何ら関係のない設置者変更という事情に伴い,全教員を完全に新たな一般公募の方式で採用し,教育に当たる教員の全部または一部を入れ替えるという事態は,単に設置者変更の諸手続に時間的余裕がないという理由からだけでなく,学校設置主体の在学生ないしはその保護者に対する責務である教育の継続という観点からも問題があり,本件譲渡の目的からしても現実的かつ合理的な選択とはいえないものであったことは明らかである。
また,原告(正確には原告設立発起人会)が「新規採用」として行った選考手続は,前記認定のとおり,新法人の理事長,理事及び校長候補の3名による面接と,現d学園の管理職で,当該応募者の上司で構成された業務遂行委員会による選別により実質的内容が決定され,原告理事長候補であったDの承認を経るという過程で行われたものであった。しかしながら,面接において,その資料となったものは,身上関係と,「あなたはX学園で何をやりたいですか。」,「なぜそのように考えましたか。」及び「具体的手法があれば記述してください。」との質問に対する回答を,面接開始の前日に用紙を配布し,当日のうちに提出を求めた履歴書が唯一のもので,面接官はこれを面接の直前の数分に目を通しただけで面接に臨んだものであること,面接は,教職員を区別せず4ないし5名を1グループとして,1グループ当たり約20分程度で行われたが,その内容は,自己紹介のほかは,応募者に学生募集についての考え方と,当該応募者の仕事の現況を若干述べさせただけであったこと,評価においては,専門学校におけるカリキュラム,教育内容,及び当該教職員が担当し,又は,担当できる職務内容等の具体的な業務上の必要性は考慮されず,履歴書の記載内容,書き方のほか,面接における立ち居振る舞いや受け答えの内容及び態様全体から受ける印象等が,1,1△,2,2△,3の5段階に点数化され,被告に対するDのコメントは「暗い」,「第三者的」といったものに止まったこと,業務遂行委員会には業務上の必要性があれば面接結果に反する選別を許す裁量が与えられ,専門学校の運営に現実に影響する業務上の必要性等の実質的判断は,専門学校の実情を知る業務遂行委員会に委ねられていたこと等の事情に照らすと,純粋に新法人側の人間により行われた選抜は形式的なものに過ぎず,それ自体が,労働者としての教職員の能力・必要性等に対する客観的・合理的審査としての実質的意義を有するものではなかったものと認めるのが相当である。
これに加え,前記認定のとおり,教職員の大半が採用内定とされ,設置者変更後も,平成10年度4月と殆ど同じ部署に所属したままで,継続して3専門学校において教育等の業務に従事したこと,学期中に行われた3専門学校の設置者変更の前後を通じ,退職,採用辞退又は不採用となった教員の担当していた授業の担当教員に変更があったのみで,カリキュラムも変更されず,1日の中断もなく授業が継続されたこと,教育に使用した校舎,施設設備,什器備品,教材等には何らの変更もなく,d学園及び原告はともに,学生の父母や高等学校に対し,設置者変更があっても3専門学校の実態は何ら変化しないので安心してほしい旨説明していたこと,また,非常勤講師については,設置者変更が完了した後である平成10年10月16日に至るまで何ら法律的手続がされないまま,設置者変更を挟んで非常勤講師による教育は継続して提供されていたこと,平成10年9月9日の採用内定通知時に,各教職員に通知された給与額及び原告における地位・所属は,基本的にはd学園における職位・経歴を原告の給与基準や組織表にスライドさせて決められたものであることなどの諸事実に照らすと,原告においても,d学園教職員を譲受対象である専門学校における教育という事業の有機的一部をなすものとして扱っていると認められる。
これらの事実関係によれば,原告による教職員の採用は,真正な新規採用とは到底評価することができず,d学園と教職員との雇用関係を,賃金等の雇用契約の内容を変更しつつ,事業と有機的一体をなすものとして承継したに等しいものであると解するのが相当である。
c この点につき,本件覚書第5条<3>には,原告は,d学園からの「退職者のうち,本件専門学校の運営に必要な教職員を(中略)(設立)認可の日から雇用するとし,甲(d学園)はこれに協力する。」との定めがあって,文言上は,原告が主張するとおり,教職員の必要性の判断及び採否の決定を原告の専権とする内容の合意となっている(別紙(争点及び当事者の主張)1(原告の主張)(1)ウ,同(2))。
しかしながら,上記bの事情からすれば,本件覚書における教職員の採用に関する原告・d学園間の合意は,実質的には,d学園の労働力を専門学校事業と一体として,新規採用の法形式のもとにd学園から原告に移転させることを意図しつつ,原告がd学園との関係では一部の教職員を雇用しないことを正当化するため,原告がその判断において「必要な」教職員を雇用するとの文言を入れたものと認められる。
そして,上記bで指摘したような事情の下で,事業の全部譲渡に伴い,雇用関係が事業と一体として承継されていると評価できる場合には,事業に現に従事する労働者が事業の譲受人に採用されないということは,事業に従事する当該労働者にとっては,実質的に解雇と同視すべきことであり(逆に,譲受人に採用された労働者にとっては,単なる労働条件の変更に過ぎない。),事業譲受人の採用の自由を理由に,事業譲渡の当事者間の合意のみ,あるいは譲受人の意思のみによって,いかようにもその処遇が決められること,すなわち事業の譲受人による事業に従事する労働者に対する完全に自由な採否を容認するのは,雇用関係の承継を含む事業譲渡において,恣意的な解雇を許すのと同様の結果を招き,労働者保護に欠けると言わざるを得ない。
他方,譲受人は,事業をその労働力とともに譲り受け,それを使用した運営によって利益を享受することになるのであるから,労働力を使用する立場をも承継した者として,労働者保護法理に基づく一定の責任は当然負担すべきであり,新規採用との法形式を採用したとの一事をもってかかる負担を免れることは,それらの法理の不当な潜脱として許されないと言うべきである。
したがって,労働力と一体として行われたと認められる事業全部の譲渡において,事業の譲受人が,当該事業譲渡時点において譲渡人と雇用関係にあり,かつ,譲受人との雇用関係のもとに引き続き当該事業に労働力を提供することを希望する労働者を,当該事業における労働力から排除しようとする場合には,解雇権濫用法理に準じ,当該排除行為が新規採用における採用拒否,あるいは雇用契約承継における承継拒否等,いかなる法形式でされたかを問わず,それについて客観的に合理的な理由を要し,かかる理由のない場合には,解雇が無効である場合と同様,当該労働者と事業譲受人との間に,労働力承継の実態に照らし合理的と認められる内容の雇用契約が締結されたのと同様の法律関係が生じるものと解するのが相当である(これに反する当事者間の合意は,その限りで効果を制限される。船員法43条参照。)。
そして,本件において,原告の被告に対する不採用に合理的理由があるか否かは,本件で一部の教職員が不採用とされたのが,経営合理化のための人員削減を目的として行われた経緯があって,整理解雇の実質を有するというべきであることから,いわゆる整理解雇法理を参照の下で判断するのが相当である。
イ 以上を前提に,原告による被告の不採用が,合理的な理由に基づくものであったと言えるか否かにつき,整理解雇法理の要件を中心に検討する(別紙(争点及び当事者の主張)1(原告の主張)(3)オ,同(4)ウ(ア)ないし(ウ))。なお,いわゆる整理解雇の4要件は,解雇権濫用の判断における考慮要素を類型化したものと解すべきである。
(ア) 人員削減の必要性
原告は,d学園から,d学園がすでに一部を費消した学納金の残りとともに,3専門学校の運営を引き継いだものであるが,d学園の経営していた3校における平成9年度の人件費比率は,同年度の専修学校・各種学校全体の平均値が50.9パーセントであったのに対し,約29パーセントであったこと,平成9年度の3校全体の学生数は約6800名,平成10年度は約4300名であり,平成11年度の新入生は約570名(平成11年度以降e1専門学校は新入生を募集していない。),学生総数は約2100名であり,3専門学校(平成11年度以降は2専門学校)の学生数が現実に急激に減少していること,18歳人口全体の減少傾向,及び,専門学校の中でも商業実務分野への進学者数の減少傾向もまた顕著であったが,平成10年7月25日を始めとするd学園破綻報道の影響により,3専門学校への平成11年度の入学者数は,それらの傾向以上の減少が予測されたこと,d学園においては,一時の拡大政策時に雇用した教職員に対し,人員整理等の積極的な措置は採らないで自然減に任せていたこと,原告は,d学園の所有していた校舎等の不動産を全て買い取ったわけではなく,一部はaメンテナンス等から賃貸を受けて校舎等を確保したことは,前記認定のとおりである。
これによれば,平成11年度以降の3専門学校の運営に当たり,教職員を削減することの必要性がないと一概にいうことはできない。
もっとも,Aが,原告への教職員の採用人数の決定の根拠としたものは,その出所が明確ではない上,学生数減少のシミュレーションを行うなど財政的見地から客観的検証を行っていない点や,どの部署にいかなる経験・能力を有する教員が何人必要かという検討を行っていない点,職員数が3専門学校の学則に定める人員数を下回っている点等において,Aによる「教員120名,職員30名」との決定が,直ちに具体的に妥当なものとして首肯しうるとも言い難いが,上記のような急激な学生数の減少からすれば,少なくとも抽象的な人員整理の必要があったことは明らかである。
被告は,原告がd学園から金銭債務を承継せず,また,平成9年度の人件費率が低かったことからしても,健全な経営ができる状態にあったと主張するが,上記のとおり,d学園が原告に引き継ぐべき学納金の一部を費消していたことや,諸事情による学生数の顕著な減少傾向からすれば,原告への収入が大幅に減ることは明らかな上,原告の財政事情が潤沢であったとも認められないし,それにもかかわらず人員整理をせずに3専門学校を運営することが可能な程度の経済的余裕が原告に存したと認めるに足りる証拠もないので,被告の上記主張は採用できない。
なお,原告は,設置者変更時点におけるd学園及び原告の財政事情につき,別件都労委事件及び本件訴訟を通じ,一切明らかにしないため(<証拠省略>),具体的数字に基づくその検討はされていないが,学生数減少という客観的事実関係から一定程度人員削減の必要は推認できるので,それをもってしても上記判断は左右されない。
(イ) 不採用(解雇)によることの妥当性
人員整理の必要性が肯定できる場合でも,前記のとおり,新法人への不採用は労働者にとって解雇と同様であって生活の基盤を失うことに他ならないから,労働力を事業と一体として承継する新法人は,雇用関係の維持が可能か否かを十分に検討するべきである。
しかしながら,本件において,原告における教職員の採用手続を主導したAは,当初から全教職員の雇用は考えず,学生数の減少を具体的に想定したシミュレーションや,各部署においていかなる能力を有する教員が何人必要となるか,任意退職者を除いた後の教職員全員を雇用することが可能か否か等の検証も行わずに,「教員120名,職員30名」として,人数のみを大枠で決定し,その下にd学園に勤務していた教職員の一部を削減する方針で臨み,これを業務遂行委員会のリストアップ担当者に伝えたこと,リストアップ担当者はこれに対し特段の異議を述べることなく,120名を3系列に割り振り,その中でリストアップを行い,その結果がそのまま原告の教職員の採否の判断とされたことが認められ,原告において,不採用者を出さずに3専門学校を承継することが可能かにつき,具体的に検討した形跡は認められない。
この点につき,原告は,業務遂行委員会に対し,120人の教員で教務の運営が可能か否かを確認したとするが,証拠(<証拠省略>)を総合すると,Mらは,Aに提示された120人との人数で運営が可能かどうかをまず検討したというよりは,むしろそれを所与の前提として割り振りを行ったものと認められ(これに反し,実質的なコマ数を計算して検討をしたとのMの中労委審問における供述〔<証拠省略>〕は,Mの別件都労委における最初の審問期日〔平成12年12月12日〕から相当後〔平成16年7月8日〕にされたものであること,別件都労委審問〔<証拠省略>〕及び陳述書〔<証拠省略>〕の記載では「120名を超えるわけにはいかない。」とか,「(Aから)指示を受けた。」としており,学校運営の可否について検討を求められたのとは趣旨を異にすること,供述の内容自体も曖昧であること,Aは中労委審問において,Mらから120名の教員で運営が可能との返答を得た時期について曖昧な供述しかしていないこと〔<証拠省略>〕から,採用できない。),人数の適正を学科の実務担当者の審査に委ね,実質的な判断を仰いだものとは認められず,MらがAの決定に異議を述べず,それに基づいてそのままリストアップを進めたことは,教員の人員数の適正を示す事情とはいえない。このことは,平成10年10月以降,教員の減った3専門学校において,担任の複数クラスの兼任や非常勤講師の雇い入れが必要になったことなど,学校運営に諸般の不都合が生じた事実からも明らかである。また,もとよりかかる検討は,雇用の維持という観点に基づくものでないことも明らかであって,「教員120名,職員30名」という規模に人員を削減することの合理的必要性をいう原告の主張は,採用することができない。
(ウ) 被解雇者選別の妥当性
a 本件における採否決定の経過のうち,面接は,その結果の善し悪しに労働力選別基準としての実質的合理性が認められないことは前記のとおりであるが,次に,業務遂行委員会における選別に合理性が認められるか検討する。
b 業務遂行委員会で情報系学科教員の採否を担当したMの選別方法は,応募者の個別の能力等を審査してリストアップするというのではなく,逆に採用すべきでない者をリストアップしないとの形式を採ったことが明らかであるから,かかる選別方法の場合には,当該人員を採用しないとの判断に合理的な理由があるかどうかが問題になる。
しかしながら,被告は,d学園に教員として勤務していた全期間を通じ,学校当局から業務上の指導・注意等を受けたことはなく,また,学生やその保護者から教育指導,就職指導等についてクレームを付けられたこともなかったことは,前記認定のとおりであり,他に本件全証拠を総合しても,教員としての能力,あるいは勤務成績,勤務態度等の観点から,被告を採用しないことに合理的な具体的理由は見当たらない。
この点につき,原告は,被告がd学園入校後の8年間,主任にも昇進していなかったり,平成7年度以降担任を持たされていなかったこと等から,被告の学生指導能力に何らかの問題があったと推測されると主張するが,昇進基準の内容,被告が昇進しなかった理由等,それらが被告の教員としての能力が低いことを示す具体的な根拠は明らかではなく,教員としての能力の観点から被告を不採用とする理由としては薄弱に過ぎる。
c 次に,原告は,被告がDらによる面接において得点が最低であったこと(別紙(争点及び当事者の主張)1(原告の主張)(3)オ(ア)ないし(ク),同(4)ウ(ア))をMの判断の合理性の一根拠として挙げるが,前記のとおり,面接自体,その審査対象が,履歴書上の字の書き方,ふりがなのふり方や立ち居振る舞い等を判断材料とした,「情熱」の有無,協調性・積極性・自主性等抽象的で,20分間という短時間に判断するには主観的・感覚的な事項にすぎなかったこと,教員としての能力,各部署ごとの教員の過不足等は考慮されていなかったことから,排除すべき労働力提供者の選別の基準として,客観的かつ合理的な審査であるとは言い得ないものであることは前記のとおりであり,かかる面接の結果が悪かったことを労働者を排除する根拠とすることは相当ではない。
この点につき,原告は,平成10年9月4日の全体会で教職員全員に対し,新法人として「求める人物像」を説明して認識させた上,面接官らは,各応募者が「求める人物像」に合致するかを面接を通じて真摯に検討したのであって,この面接は単なる形式ではないとか,行政庁に認可を得なければならない関係上,タイトなスケジュールの中では悠長に筆記試験などを実施している余裕がなかったため,d学園の教職員からの人選は面接によることにした等と主張する。
しかしながら,上記のとおり,本件で行われた面接において各応募者につき得られる情報は,いわば各応募者に対する抽象的・感覚的な印象を主とするものに過ぎないものであって,いかに面接官らが面接に真摯に臨んだとしても,その結果得られるもののみでは,学校の運営上必要な労働力を選別する上で,客観的・合理的な基準であるとは認められない以上,それを唯一の,あるいは最重要基準とすることの合理性をいう原告の上記主張は採用できない。また,新法人設立及び設置者変更手続において時間的余裕がなかったからといって,労働力を事業と一体として承継した以上,労働力の排除を回避する何らの努力もせず,また,排除すべき労働力の選択を何ら客観的合理的理由なく恣意的に行ってよいことはないのであって,原告の主張は採用することができない。
d さらに,原告は,被告が情報系学科内で必要とされていなかったと主張するので,この点についても検討する。
<1> 被告は,平成10年10月以降,編集出版ビジネス学科,マルチメディアビジネス学科,コンピュータインストラクション学科において,初級シスアド試験の対策授業を担当する予定となっていたこと,マルチメディアビジネス学科において実習を担当する予定であったこと,平成10年10月の初級シスアド試験対策授業は,新たに雇い入れた非常勤講師が行ったことは,前記認定のとおりであり,被告を不採用としたことによって現実に教務に不都合が生じていることから,少なくとも平成10年10月の時点において,被告がこれらの学科において必要な人材であったことは明らかである。
原告は,初級シスアド試験の対策は別の教員でも対応が可能であって,被告を不採用としたことに不都合はないと主張し,証拠(<証拠省略>)にもこれに副う部分が存在するが,上記のとおり,原告に採用された教員だけでは,被告の不採用によって生じた欠員を補充することができなかったことが明らかであり,また,リストアップ当時,被告の担当していた授業を含め,教員の代替性のない職務は情報系学科内ではなかったのであって,他の教員で代替が効くからといって現に授業を持っている教員を外して何ら不都合はなかったとする原告の主張は失当である。
<2> また,原告は,平成11年度以降,上記3学科は新入生を募集しないことが平成10年8月の段階で決まっていたことを,被告の必要性がないことの事情として主張する。
しかしながら,編集出版ビジネス学科のN,マルチメディアビジネス学科でLが各採用されていること,原告は,平成11年4月に学科の編成を変更したが,平成11年度以降も,e専門学校の情報ビジネス学科,経営ビジネス学科,レジャー・観光学科,クリエイティブビジネス学科の各学科においてコンピュータの授業が予定されていたこと(<証拠省略>),Lは被告同様コンピュータを教える教員であり,同人が採用されていることの各事情に照らせば,これら3学科の廃止は,学生数の減少を示唆することはあり得ても,直ちに被告が教員として担当すべき仕事がなくなることを意味しないし,逆に,その後新たにコンピュータの教員を平成11年4月及び8月に各1名採用している事情からして,コンピュータを教えることのできる教員としての被告の必要性はむしろ高まる傾向にあったと認められるのであって,原告の上記主張も失当である。
(エ) 手続の妥当性
労働者との雇用関係を解消するに当たっては,雇用関係を解消せざるを得ない事情を真摯に説明するなど,誠実な対応が求められるというべきであるが,前記認定のとおり,原告は,平成10年9月4日の全体会で,抽象的に「手弁当でもやろうという意欲のある人を採用していきたい。」と述べるにとどまり,不採用とする予定の人数及び人員削減の必要性を教職員に説明していないこと,不採用者に対し,不採用の事実を通知したのみで理由の説明は行っていないこと(「求める新法人(ママ)」を基準にした面接だけが根拠にされているのではなく,業務遂行委員会の各担当者による,各応募者の能力を含む業務上の必要性の判断も採否の理由となっている以上,平成10年9月4日に「求める人物像」が説明されていたことのみをもって,不採用の理由の説明に代えることはできないというべきである。),FやAは,自らが不採用になった理由を尋ねてきたKに対し,不採用の理由を説明する必要はないとの態度で対応したこと,原告は,原告への教職員の採用が新規採用の形式を採っていることを理由に,被告の不採用理由を議題とする団体交渉に応じなかったことの各事実が認められるところ,原告は,新規採用との法形式を根拠に一切の説明,交渉を拒否する態度に終始し,労働力を事業と一体のものとして引き継いだ者として,できる限り誠実な態度で臨んだとは言い難いものである。
ウ 以上ア,イにおける検討によれば,原告による被告の不採用には,客観的,合理的な理由を認めることができない。
かえって,次の事実関係及び判断によれば,原告が被告を不採用としたのは,被告が組合に所属する労働組合員であるところからそれを嫌悪して,不当労働行為意思に基づいて,主として組合の弱体化を図る目的でなされたものであると判断するのが相当である。
(ア) aメンテナンスのCは,平成10年2月ころの時点から,d学園の経営危機に伴い,Aに経営関係資料の作成を行わせたり,3専門学校の受け入れ先を探すなど3専門学校の処理に深く関与していたこと,被告は,d学園解散発表後の平成10年8月6日,K及びJとともに,氏名を明らかにして団体交渉を申し入れ,その後,組合ニュースの学園内配布あるいは教職員の自宅への送付や,度重なる団体交渉要求など活発な組合活動を開始したが,Lは設置者変更が完了するまで表立った活動はしていなかったこと,同月12日,被告らの組合結成が新聞で報道されたころから,b学園が3専門学校の継承に消極的な姿勢を示し始めたこと,同月中旬ころ,Mは被告に対し,「個人的な話」と断った上,自らの前職では組合は何もしてくれなかったと前置きし,組合活動の動機を尋ねたこと,同月20日,被告,K,J及びLの4名は,d学園に対し直接団体交渉を申し入れるため,理事長室を直接訪れてBとの面談を要求したがOに追い返されたこと,同月21日,Gは,経理課長と共に,被告に対し,「一緒に仙台へ行って,(b学園に)組合は解散しましたと言いに行こう。」等と発言したこと,そのころCは,b学園の撤退を引き留めるために自ら仙台へ赴いたが,結局同月26日にb学園の撤退が確定的になり,その理由の1つとして組合結成が考えられたこと,同月27日,Cは,自らが中心となって新法人を設立することを決意し,知己であったF,D及びEその他の者に,新学校法人の運営の中心になってくれるよう依頼し,Dらは,同月28日から,急遽学校法人の設立に向けて準備を始めたが,Dは,組合員が誰であるかについては知らされなかったこと,同月28日の団体交渉には,被告,K,J及びLの4名とも出席したが,Lは「J」と誤って紹介され,訂正されることもなかったこと,同月29日ころ配布された組合ニュースには,被告,J,K及びLほか2名の集合写真が掲載されたが,個々の組合員の氏名はなかったこと,被告に対する面接の結果は,Dが2,Eが1△,Fが3の合計6.5点であり,Lの面接結果は3点,Jの面接結果は3.5点であったこと,Mは,リストアップを完了させるまでに,被告及びJが組合員であること,及びLがそれに準じる立場にある者であることを認識していたこと,Mは,情報系学科での不採用候補者として被告及びJを挙げて,平成10年9月8日の夜開催された業務遂行委員会で,被告については面接結果が最低であり,授業の面でも被告がいなくても特に支障はないという理由を,Jについては同年7月17日のMに対する発言等からして教員として不適格であるとの理由を述べたところ,同委員会は,特に異議もなくそれを承認したこと,業務遂行委員会のメンバーは,Aを除いてd学園の教職員であり,Aを含め,同日の会議において,被告,K及びJが組合員であると認識していたこと,Gは,同年8月28日の第1回団体交渉においてd学園側の要員として出席し,被告及び上部団体を含む組合に要求されて,「確認書」に署名を求められ,これに応じたこと,同年10月5日,Lが原告に対して団体交渉を申し入れたのに対し,同月26日,AはLをCの下へ連れて行きCと面談させたが,その際CはLに対し,「私が責任者だったら君はクビだよクビ。Lさんは話がわかる人だから,よく考えて行動してください。」と発言したこと,Cは,理事でないにもかかわらず,原告の経営に関する実質的な議論をする場として設けられた経営会議に出席していること,原告は,Lの団体交渉申し入れに対し,被告の不採用問題を議題にするならば応じないとの姿勢を示して,団体交渉を拒否していたこと,同年12月から平成11年2月ころにかけて,MはLに対し,複数回にわたり,就職内定率が悪いと指摘し,それがLが組合活動をしているせいであるかのような発言をしたり,「特別に注目されている人でしょう。」等と発言したことがあること,Lは,平成12年4月以降,担任やコンピュータの授業から外され,サポート担当と称して,教室の美化や他の教員の使用する教材の印刷等の雑務を命じられたり,同年9月からは上司の授業の見学や,自らの授業の講評を受けることを内容とするOJTの研修を指示されたが,翌月からは退職した非常勤講師の後任を命じられ,多いときで週16コマもの授業を担当させられたことは,前記のとおりである。
(イ)a 上記(ア)の各事実によれば,Mは,平成10年8月中旬から,被告の組合活動に疑問を投げかける旨の発言をし(なお,原告は,この点につき,「b学園のOから,被告に組合結成の理由を聞くように指示されたからであって,M自身の意思によるものではない」とするが,Mは,平成13年1月29日に実施された別件都労委の審問において,組合などに興味はないという理由からかかる発言をしたか記憶がない旨供述し,Oの指示によるなどとは供述しておらず〔<証拠省略>〕,その後の同年10月に作成した陳述書〔<証拠省略>〕で初めてかかる内容の記載をしていることからすると,上記陳述書の記載内容等は信用することはできない。),被告及びJの両名を組合員であると認識しつつ,両名を情報系学科から排除すべき合理的理由はないにもかかわらず,両名を不採用としたものであり,かつ,リストアップ時にその作業が原告への採用者を決めるためのものであることを認識していたこと,さらにその後MがLに対して取った言動をも考え合わせれば,Mは,被告を,組合活動のゆえに排除する意思をもって,リストアップしなかったものと推認される。
b また,b学園は,被告らの組合活動を理由にd学園の承継に消極的な姿勢を示し,結局撤退するに至り,その過程の中で訴外Cはb学園を引き留めるため自ら仙台へ赴いたが,b学園を引き留めることはできなかったこと,さらに,Cは,その後Lに対し,組合活動に圧力をかける発言をしたことなどがあったのであるから,Cにおいて,組合活動に嫌悪感を抱いていたものと推認される。
そして,業務遂行委員会のメンバーは,各学科,あるいは各部署の管理職層に属する教職員であり,平成10年9月8日の時点で,被告,K,Jが組合員で,活発な組合活動を行っていたことを組合ニュース等を通じて認識し,またAも同様に,上記3名が組合員であることを認識していて,被告らを残留させた場合には,活発な組合活動をすることを危惧したことが容易に推認できること,それと同時に,新法人(原告)の実質的出資者がCであることを認識していたこともあって,業務遂行委員会全体が,組合員として公然と活動していた3名の採用に消極的であったために,Mが同日の会議で述べた理由を口実として,被告及びJを採用しない内容のリストアップ案を承認したものと推認される。
c さらに,Dは,A及び業務遂行委員会による選別の結果につき,実質的に何ら手を加えずに承認したものであるところ,これらの過程に照らすと,被告に対する不採用は,全体として,被告の組合活動に対する嫌悪を主たる動機としてされたものであると認めるのが相当であり,このことは,原告が,被告の不採用問題を議題として取り上げるよう求めた団体交渉要求に一切応じようとしないことからも裏付けられる。
d なお,上に指摘した事実を含む前記認定によれば,新法人として面接を行ったD,E及びFの被告に対する評価は,それぞれ,2,1△,3とばらつきがあること,また,Lの面接結果は3点,Jの面接結果は3.5点であることから,上記3名が意思を通じて,被告が組合員であることを理由に面接の評価を意図的に低くしたと認めることはできず,他に,上記3名が面接の評価に被告の組合員であることを反映させたと認めるべき具体的証拠はない。
また,被告は,Gの関与を主張するが,前記認定のとおり,被告の所属する情報系学科のリストアップを担当したのはMであってGではなく,業務遂行委員会の一員として,被告を始めとする組合員の採用に消極的であったという以上の関与を認めるに足りる証拠はない。なお,Gは,平成10年8月21日,被告に対し,「一緒に仙台に行って組合をやめましたと謝りに行こう。」との発言をしているが,証人Gは,当裁判所証人尋問において,これをBの命令に基づくものと供述し,当時の状況からして同供述が必ずしも不合理とは言えないことから,同供述は信用できないものではない。
e しかしながら,上記aないしcのとおり,被告に対する不採用が,不当労働行為意思を主たる動機とするものであると推認するに十分な事情があり,以下に検討するとおり,原告の主張する各事実も,これを覆すに足りるものではない。
(ウ) 原告は,被告の不採用は不当労働行為意思に基づくものではないと主張する(別紙(争点及び当事者の主張)1(原告の主張)(4)ウ)ので,以下検討する。
a 原告の財政状態からして人員削減の必要性があったこと及び被告の原告における必要性について
原告は,d学園において,教員に余剰があり,職員への職務変更等によりこれを吸収していた実態があったとするが,これを裏付けるに足りる証拠はない。また,平成10年10月の時点で,学生数の減少傾向により抽象的な人員削減の必要性が一応肯定できることは前記のとおりであるが,被告を削減すべき人員として選定したことに合理的理由が認められないことも,前記のとおりである。
b Lに関する事情
<1> Lが採用されていることについて
原告は,Lを組合員又はそれに準じる立場にある者であることは知っていたが,同人を採用したことからして,組合排除の意思はなかったと主張する。
この点につき,Lは,平成10年10月5日に至るまで公式に組合員として名前を出したことはなく,また,Mは,平成10年12月ころ,「あなたが9月ころPさんとよく話をしていたので,組合に入らないか心配していた。」旨発言していること(この点に関するLの証人尋問における供述,陳述書等の記載〔<証拠省略>〕は具体的であるのに対し,Mは別件都労委審問においてこれを問われた際,記憶がないとして消極的に否定するにとどまっていたもので〔<証拠省略>〕,その他これに反する証拠はLの供述を覆すには足りない。),Lを正式な組合員として認識した時期に関するMの陳述書等の記載(<証拠省略>)は必ずしも明確かつ一貫しているとはいえないことから,Mが,リストアップ作業を行う時点までに,Lが組合に加盟し,正式に組合員となっていたことを認識していたとは認めることができないが,Lは,平成10年8月20日,他の3名の組合員とともに,d学園理事長室を訪れたり,d学園と組合との第1回団体交渉に出席したり,平成10年8月29日付の組合ニュースに写真が掲載されたりし,また,Lに対する上記発言によれば,Mは,Lが被告と接触していることは認識していたのであって,少なくともLが組合員に近い立場であることは認識していたことは認めることができる。しかしながら,平成10年9月8日までのLの組合活動は,氏名も明らかにすることはなく,表立った活動も行ったことはなく,おのずから他の3名の組合員とは異なって認識されていたものと考えられ,業務遂行委員会のメンバーの中でも両者の違いは認識されていたものと推認されることから,Lについては,M及び業務遂行委員会において,組合と親和性があるとしても,不採用とするほどのことはないとされたと考えられるので,Lが採用されたことをもって,被告を不採用としたことが組合嫌悪に基づくものでないとすることはできない。
<2> Lが原告において受けた処遇について
ⅰ 平成10年12月以降のMのLに対する注意指導等及び平成11年2月のQのLに対する発言
前記認定の,平成10年12月11日以降のMのLに対する「注意・指導」は,いずれも,マルチメディアビジネス学科の就職内定率及び卒業研究におけるトラブルをLの業務上の成績と組合活動を結びつける形で行われているところ,Lの業務成績が,前年度と比較して急激に低下したとか,Lが以前から同様の問題について度重なる指導を受けていたと認めるに足りる証拠はないし,むしろ,その趣旨からして,単なる業務上の指導,あるいは組合活動への抗議に過ぎないものではなく,組合活動を敵視し,Lの組合活動を萎縮させようとする意図を含むものであることが明らかであるから,この点に関する原告の主張は採用できない。
また,Qの発言は,「ますますLさんの立場が悪くなるんじゃないですか。」というものであり,組合活動の正当性を認めた上で,その度が過ぎた部分について抗議をするというのではなく,組合活動それ自体により,原告内での立場が悪化することを示唆するものであって,原告が組合を嫌悪していることを示しているというべきである。
ⅱ Lの査定及び年俸額引き下げについて
この点につき,原告は,Lの勤務成績等に照らしてやむを得ないと主張するが,Lの直属の上司で査定権者であるMに,上記のとおり組合嫌悪意思及びそれに基づくと認められる発言が認められ,他方,Lの業務成績が以前に比べて低下したと認めるに足りる証拠はないので,Lの査定及び年俸額の引き下げは,むしろMを始めとする原告の組合嫌悪意思に基づく評価によるものと推認される。
ⅲ CのLに対する発言について
原告は,CがLと面談したのは,組合がCとの面談を強く希望していたからであるとするが,前記認定のとおり,組合がCとの面談を求めていたのは,d学園と組合との団体交渉の席上のことであって,設置者変更後の組合員がL1人となったからといって,L1人とCとを面談させることと,上記の組合の要求とは,自ずから趣旨が異なることが明らかである(<証拠省略>)。また,AがLをCの下へ連れて行った際の状況は,Lに対し,前もってCに会う機会を作る旨を告知し,面談をするかしないかをLの自由な選択に委ねたというのではなく,むしろLを不意打ち的にCの下へ連行したものというべきであったこと,さらに,Lに対するCの発言は,「クビ」との脅迫的言辞を用いたもので,団体交渉の開催までに時間的余裕を求める単なる要請とは言えないものであるので,原告の上記主張は,採用できない。
ⅳ 平成12年4月以降の業務命令
Lは,平成8年の入校以来,コンピュータの授業を担当し,継続して担任をしていたものであり,その業務成績に特段問題と認めるべき点はなかったものであるところ,Lを担任やコンピュータの授業から外したり,教室の美化や印刷作業をさせたり,前職から通算して10年以上の教員の経歴のあるLにOJTの研修をさせるといった処遇は,Lの教員としての経歴からは理解が困難であり,業務上必要かつ合理的な命令とは認められない。
この点につき,原告は,Mは平成12年4月以降,情報系学科の学科長の職位を離れたので,同人がかかる措置に関与していないと主張し,Mの別件中労委審問速記録(<証拠省略>)にもこれに沿う記載があるが,平成12年3月の時点でLを「サポート」とする計画が完成していることから(<証拠省略>),同年4月以降Mが異動している事実は,必ずしもMの関与を否定するに十分とは言えず,むしろ,Qや,原告の経営に,経済的にも設立当初から深く関与しているCが,前記のとおり組合を嫌悪する意思をもっていることからすれば,M以外にLの処遇に影響を及ぼしうる者が組合を排除する意思をもってLを処遇したのではないかと容易に推認できるところである。
c Jの不採用理由について
原告は,MがJをリストアップから外した理由について,平成10年7月17日にJがMに対し「こんなゴタゴタした会社いやだからやめます。」等と自分勝手な発言をしたことから,採用しても学生や生徒に迷惑をかけるであろうと考え,リストアップしなかったと主張するところ,Mは,Jを不採用とするにつき,上記発言を第一の理由として挙げ,それ以外の理由としては,平成10年8月下旬の有給休暇取得等学生に対する態度が無責任と思われる旨を述べるにとどまり(<証拠省略>),Jの学科内における教員としての実際の能力や必要性を検討した結果として,Jを不採用としたのではないことは,証拠上明らかである。
前記認定のとおり,JがMに対して上記の発言をしたことから,Mは,平成10年8月の段階ですでにc言語の授業の後任を手配しており,c言語に関する限りJの教員としての必要性は消滅していたこと,Jは,同年9月4日に至るまで学校に残る意思を表明しなかったことが認められるが,他方,Mは,平成10年8月31日の朝礼では,「辞めると言った人でも戻れる。」として,b学園に応募しなかった者でも原告に応募することは可能であり,ぜひ残って一緒にやってほしいとの趣旨の発言をしたこと,学校に残るべきか否かを迷っていた訴外Rに対しては,その意思が不確定であったにもかかわらず説得を続けるとともにリストアップしたこと,Mは,Jが勤務していたe1専門学校をほとんど訪れたことがなく,Jと日常の仕事を共にしていたわけではないこと,Jが担当していた授業はc言語のみではなく,Jが不採用となった後,Jが担当していた卒業研究をLが担当することになったこと,Jの教員としての能力に問題があると認めるべき証拠はない一方,前記のとおりコンピュータの教員の必要性は高まる傾向にあったこと,平成10年7月10日の時点で就職部の職員であった訴外Sが,コンピュータの教員としての能力を有していたことの裏付けとなる証拠はない上,同人は1年間足らずのうちに職員職に戻っていること等からすれば,Jを採用しないことが学科の実情からして合理的な選択であるとは認められないし,むしろ,Mの前記陳述書等の記載,Mが同年8月中からJを被告及びKとともに組合員であると認識していたこと,被告に対し組合活動に関して圧力的発言をしていたこと,Mのその後のLに対する言動を考え合わせれば,Mは,Jの上記発言によりJに個人的に悪感情を抱くとともに,Jが公然と組合活動をしていたことから,同人を学科に残すとその後学科の運営に支障が出ることを予想・嫌悪して,これをリストアップしないこととしたものと推認される。
d 団体交渉拒否について
前記認定のとおり,原告は,被告の不採用を議題にした団体交渉要求に対し,原告の回答すべき問題ではないとして一切これに応じてこなかったものであり,単に就業規則の原案の作成に時間を要していたというだけでは説明のつかない態度であって,原告の主張は採用できない。
エ 以上,上記アないしウの判断等によれば,原告と被告との間には,d学園から原告への労働力の承継の実態に照らして合理的と認められる内容の雇用関係が,具体的には原告の就業規則を内容とする雇用関係が,原告の設立認可の日から成立しているものと認められる。
よって,原告の雇用関係不存在確認請求は,理由がない。
(2) 争点2(被告の原告に対する給与・賞与支払請求)
ア 前記のとおり,原告と被告との間には,平成10年10月1日以降,原告の就業規則を内容とする雇用契約関係が成立しているところ,原告は,不採用を理由として被告の就業を拒み,賃金を支払っていないことが認められるので,被告は,原告に対し,同雇用契約関係に基づく平成10年10月1日以降,給与・賞与請求権を有し,かつ,本件事案の内容及び原告の態度からすれば,本判決確定に至るまでに支払期が到来する分につき,あらかじめその請求をする必要があると認められる。
そして,前記のとおり,原被告間の雇用契約関係は,d学園のそれとは異なり,労働力承継の実態に従い新たに生じたものであるので,被告の主位的請求のうち,d学園と被告との雇用契約に基づく給与・賞与請求は理由がない。
そこで,被告の予備的請求について,原告の就業規則に基づき,被告の給与・賞与請求権の内容を検討する。
イ 原告の就業規則(<証拠省略>)によれば,前記認定(第3の1の(16))のとおり,教員は,教務を中心に学校の運営・経営(担任,学生募集)を職務内容とし,期限の定めがない契約に基づく総合コースと,担当する教務を契約で定め,期間を1年間とする契約に基づく専門コースに分けられているものであるが,d学園から原告への労働関係の承継の際,業務遂行委員会は,各採用予定者の賃金額につき,d学園における経歴・職位を資格給・職位給のテーブルにスライドさせ,それに多少の調整を加えて決定しており,d学園と期限の定めのない雇用契約を締結していた専任教職員のうち,その全部または一部について,何らかの基準に基づき,その雇用契約を1年契約の専門コースに変更すべく検討した形跡は認められないこと,Lが総合コースでの契約を提示され,実際にそれで稼働していることから,被告が原告に雇用された場合には,総合コースの教員としての契約を締結したものと認めるのが合理的である。
次に,具体的な賃金額について検討すると,職位給は職務の質・量,役割,責任,マネジメントの大小等の要素により15に区分され,資格給は個人の能力を評価して当てはめると定められているところ,業務遂行委員会が,各採用予定者につき,いかなる基準の下に,各応募者の「職位・経歴」をこれらの職位表,資格テーブルに当てはめたかは必ずしも判然としないが,平成10年9月1日の時点で,被告は8年5か月d学園で常勤教員として勤務していたのに対し,Lは同様に2年8か月勤務していたことから,仮に被告が原告に雇用された場合には,職位・資格について少なくともLと同等の評価を受けたものと考えられ,被告の賃金は,少なくともLの賃金額と同等かそれ以上と決定された蓋然性が高いと認められ,それを左右するに足りる証拠はない。
そして,Lが原告への採用内定時に通知を受けた賃金は,前記認定のとおり,年功給6万円を含む年額460万円であり,就業規則上,年功給が勤続1年間につき3万円と定められていること,平成10年9月1日時点におけるLのd学園での勤続年数が2年8か月であったことから,被告の年功給は少なくとも24万円(3万円×8年)となることが合理的に見込まれる。
そうすると,被告が原告に雇用された場合に,その雇用契約の内容として合理的と認められる賃金年額は478万円となる。
そして,被告においては,これを14等分し,月次給与としてその1が毎月25日に支給され,その1が毎年7月に,残りの1が毎年12月に,それぞれ賞与として支給されることになっていることから,被告の原告に対する月次給与請求権は,平成10年10月1日以降,毎月25日限り金34万1428円,賞与請求権は,平成10年12月以降,毎年12月31日及び毎年7月31日限り金34万1428円となる。
ウ 被告は,d学園から退職金として受領した金員につき,平成10年10月1日以降原告から受けるべきであった賃金に充当するとし,その金額を74万5650円と主張している。
d学園から支給された退職金は,d学園と原告が,本件覚書において,労働力の承継を,d学園からの解雇及び原告への新規採用という法形式で行ったことから,原告への採否を問わず,d学園に勤務していた全教職員に支払われることになったものであり,原告による就労拒否によって得られた収入とは性質を異にすること,原告とd学園の法人格は別個であることから,d学園から支給された退職金は,原告から支払を受けるべき賃金から控除を要するものではないと解すべきである。
もっとも,被告の反訴請求の趣旨によれば,被告は原告に対し,給与については平成10年12月25日支給分(同月分については一部)以降,賞与については平成10年12月支給分以降に限って支払を求めるものと解される。
よって,被告が原告に対して有する給与請求権は,平成10年12月25日限り金27万8634円,平成11年1月以降毎月25日限り金34万1428円となり,賞与請求権は,平成10年12月以降毎年7月31日及び12月31日限り金34万1428円となる。
(3) 争点3(不当労働行為による不法行為に基づく損害賠償請求)
ア 原告において被告を不採用とした前記行為は,被告が組合員であるところからそれを嫌悪してなされた不利益な取り扱いであるので,不当労働行為であると認められることは前記のとおりであるので,労働組合法7条1号,憲法28条により違法であって,被告に対する不法行為に該当する。
イ 被告は,原告による不採用により,精神的損害を被ったものと認められるところ,それを慰謝するに足る金額としては40万円を下回らないものと認めるのが相当である。
さらに,被告は,本件訴訟の提起追行を被告訴訟代理人に依頼し,報酬等の弁護士費用の支払を約したことが認められるところ,本件事案の内容,審理経過,認容額等の諸事情に照らすと,その弁護士費用のうち4万円について,本件と相当因果関係のある損害として認める。
第4結論
以上によれば,原告の本訴請求及び被告の得べかりし給与・賞与にかかる反訴主位的請求はいずれも理由がないからこれらを棄却し,被告の得べかりし給与・賞与にかかる反訴予備的請求及び不法行為に基づく慰謝料請求(主位的請求)は,それぞれ上記判断の限度で理由があるからこれらを認容することとし,訴訟費用の負担につき,民事訴訟法64条本文,同61条を,仮執行宣言につき同法259条1項をそれぞれ適用して,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 廣田民生 裁判官 中山幾次郎 裁判官 上原三佳)