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さいたま地方裁判所 平成12年(ワ)2710号 判決 2001年5月29日

原告 X

同訴訟代理人弁護士 森田茂夫

同 榎本誉

被告 新洋信販株式会社

同代表者代表取締役 A

同代理人支配人 B

主文

1  原告と被告との間で、貸主を被告、借主をC、借主の連帯保証人を原告として平成7年12月12日に締結された金銭消費貸借契約及び連帯保証契約に基づく原告の被告に対する131万4,160円の保証残債務が存在しないことを確認する。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

事実及び理由

第1原告の請求

主文同旨

第2事案の概要

1  本件は、原告が、その妻であったCと被告との間の金銭消費貸借契約に基づくCの被告に対する借入金債務につき、Cのために連帯保証契約を締結したが、Cの被告に対する既払金の利息制限法所定の制限超過利息の元本充当により当該借入金債務は消滅していると主張して、これと異なり、なお131万4,160円の残債務があるという被告に対し、当該残債務に係る保証債務が存在しないことの確認を求めている事案である。

2  本訴請求に対する判断の前提となる事実は、以下のとおりであって、当事者間に争いがないか、あるいは、弁論の全趣旨によってこれを認めることができ、この認定を妨げる証拠はない。

(1)  Cは、平成7年12月12日、被告との間で締結した金銭消費貸借契約(以下「本件消費貸借契約」という。)に基づき、被告から250万円を借入れ、原告は、被告との間で締結した連帯保証契約に基づき、Cの被告に対する当該借入金をCと連帯して支払う旨を保証した。

(2)  本件消費貸借契約では、元金は、平成12年12月26日に一括弁済する旨、それまで年29.2パーセントの割合による利息を平成7年12月26日を第1回目として、以後、毎月26日に1か月分を後払いする旨、その支払を1回でも怠るときは、被告から通知催告を要しないで当然に期限の利益を喪失する旨(以下「本件過怠約款」という。)、この場合には、元金に対して年36.5パーセントの割合による損害金を支払う旨の約定があった。

(3)  Cは、被告に対し、別紙借入金返済表の返済額欄記載のとおり、被告に対する支払(以下「本件支払」という。)をしたが、そのうち、返済額欄に記載のある第5回目の平成8年4月分の支払(以下「第5回目の支払」という。)は、約定期限の同年4月26日に行われたものではなく、これを経過した同年5月7日に行われたものであった。

3  本件訴訟の争点は、要するに、第5回目の支払は、本件過怠約款に従い、期限の利益を喪失させるものであって、それ以後の本件支払について利息制限法所定の制限を超過した利息ないし損害金の元本充当計算を行うに当たって、利息としてではなく、損害金として充当計算することが許されるか否かであるが、この点に関する原・被告の主張は、要旨、以下のとおりである。

(被告)

本件消費貸借契約では、前記のとおり、利息の支払を1回でも怠るときは当然に期限の利益を喪失する旨の本件過怠約款があったので、約定期限を経過した第5回目の支払によって、Cは、被告から通知催告することなく、期限の利益を失い、元金及びこれに対する約定損害金を支払うべきものであったところ、それ以後の本件支払につき、利息制限法で許容される損害金の割合で充当計算を行えば、現在、なお113万3,400円の残債務があるから、原告の被告に対する保証債務も、その限度で存続している。

(原告)

本件過怠約款は、被告主張の趣旨ではなく、被告の通知によって期限の利益を喪失させることができる趣旨に限定的に解釈されるべきものであるところ、被告からその旨の通知はなかった。

仮にそのような限定的な解釈が認められないとしても、被告は、第5回目の支払以後も、Cから本件支払を受け続けていたのであって、Cに対し、改めて期限の利益を付与したと認められるべきものである。

また、期限の利益の付与が認められないとしても、第5回目の支払以後も本件支払を受け続けた被告が、原告からそれ以前の支払を含む本件支払の制限超過利息の元本充当計算を前提にした保証債務の不存在確認を求める本件訴訟を提起されるに至ってから、本件過怠約款に従い、Cが第5回目の支払をもって期限の利益を喪失していたと主張するのは、信義則に反し、権利を濫用するものというべきであって、許されるべきではない。

第3争点に対する判断

1  本件支払のうち、第5回目の支払が約定期限を経過して行われたものであることは、前記したとおりであるところ、Cと被告との間の本件消費貸借契約では、前記した本件過怠約款があるので、その時点で、被告からCに対して期限の利益を喪失させる旨の通知催告がなかったとしても、Cが期限の利益を喪失するに至ったことは否定できない。

この点につき、原告は、本件過怠約款をもって、被告がCに対して期限の利益を喪失させるためには、その旨の通知を要するように限定的に解釈されるべきであると主張するが、期限の利益の喪失の形態としては、いわゆる当然喪失約款と請求喪失ないし通知喪失約款とが存在し得るのであって、前者である旨を明記している本件過怠約款の解釈として、その文言から遊離することになる原告主張の限定的な解釈を採ることはできない。

そして、本件において、Cが約定期限を徒過した第5回目の支払によつて期限の利益を喪失したとの前記認定判断を覆すに足りる証拠はない。

2  しかしながら、Cにおいて、第5回目の支払によって期限の利益を喪失するに至った以上、それ以後は、被告に対し、元金を一括弁済し、かつ、前記約定損害金の割合が利息制限法(当時)によって許容される範囲内の年3割の割合による遅延損害金を支払うべきものであって、また、被告においても、Cに対して元金の一括返済及び遅延損害金の支払を求めることができたのに、本件においては、前記借入金返済表の返済額欄記載のとおり、第5回目の支払を含め、以後、3年9か月余りという長期間にわたり、44回に及ぶ合計311万9,200円の本件支払が続けられ、しかも、その支払には、第5回目の支払と同様に、約定期限を経過した支払も少なくないのである。そのような第5回目の支払以降も本件支払が続けられてきた背景には、Cにおいて、約定期限の支払が時に遅延することがあっても、被告から元金の一括弁済を求められることはないと期待するのが当然ともいえる状態に置かれていたからであることは明らかであって、被告において、本件過怠約款に従った期限の利益の喪失を前提に、Cに対して元金の一括弁済及びこれに対する遅延損害金の支払を求める措置を講じていれば、そのような状態は容易に解消され、その時点で、利息制限法所定の制限超過利息の元本充当計算が問題となって、以後、Cの被告に対する本件支払も中止され、当該充当計算に基づく清算及び残元利金の支払が行われていたであろうと推認し得るところである。そして、被告において、第5回目の支払によってCが期限の利益を喪失したことを前提に、前記した措置を講ずることに特に支障があったというような事情は何ら窺われない。

以上のようにいうことができる本件において、被告の意思解釈としては、原告主張のようにCに対して改めて期限の利益を付与したとまで認めるには躊躇せざるを得ないが、被告において、本件過怠約款を盾に、第5回目の支払が行われた平成8年5月7日の時点で、Cが既に期限の利益を喪失していたことを前提に、卒然として、それ以後の本件支払につき、利息制限法所定の制限利息としてではなく、同法で許容される範囲の損害金として受領し得るものであったと主張し、その損害金計算をした残額を元本に充当するというのは、本件消費貸借契約の相手方であるCの前記した期待を著しく裏切る一方的な措置であって、C本人に対する関係のみならず、その連帯保証人である原告に対する関係においても、信義則に反し、その権利を濫用するものとして、許されないといわざるを得ない。

そうすると、Cの被告に対する本件消費貸借契約に基づく借入金債務は、別紙借入金返済表の返済額欄記載の返済金につき、いずれも利息制限法所定の制限超過利息の元本充当を行うべきものであるところ、これによれば(平成7年12月26日の3万円の返済に対する制限利息の計算に際しては、日数を貸付日を含む15日として計算すべきであるのに、これを14日として計算しているが、この点を考慮しても、ほぼ)、同表の残高欄記載のとおり、既に元本が消滅していることが明らかであるから、Cの連帯保証人である原告が被告主張の131万4,160円(但し、本訴提起後の被告の主張では、113万3,400円である。)の保証残債務が存在しないことの確認を求める本訴請求は、理由がある。

3  よって、本訴請求を認容し、主文のとおり判決する。

(裁判官 滝澤孝臣)

<以下省略>

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