さいたま地方裁判所 平成12年(行ウ)24号 判決 2003年2月26日
原告
株式会社県西環境サービス
同代表者代表取締役
A
同訴訟代理人弁護士
木村孝
被告
埼玉県知事 土屋義彦
同訴訟代理人弁護士
関口幸男
同指定代理人
谷戸秀昭
大和田有
寺田賢
金子昌一郎
相澤隆
斉藤龍司
主文
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は、原告の負担とする。
事実及び理由
第3 当裁判所の判断
1 廃棄物処理法7条3項4号ホ該当性について
(1) 廃棄物処理法7条3項4号ホの解釈
ア 廃棄物処理法は、廃棄物の排出を抑制し、及び廃棄物の適正な分別、保管、収集、運搬、再生、処分等の処理をし、並びに生活環境を清潔にすることにより、生活環境の保全及び公衆衛生の向上を図ることを目的とするところ(同法1条)、許可申請者の欠格事由を定めた同法7条3項4号イないしチの趣旨は、産業廃棄物の処理が生活環境と公衆の衛生に関わるものであることから、産業廃棄物の処理全般の過程において、その処理に従事する業者の資質を一定の水準に保つことにより、不法投棄等の違法・不適正な処理を防止するとともに、将来の適正な処理に支障をきたすことがないよう、法に従い適正に業務を運営・継続する姿勢のある産業廃棄物処理業者を育成することにあり、上記規定は、産業廃棄物処理業者に対し、自己の経営責任のもとに利潤を追求するという姿勢だけでなく、その公共的性質に見合った姿勢・資質を要請しているものとみることができる。
イ そして、廃棄物処理法7条3項4号ホは、申請者の資質及び社会的信用の面から適切な業務運営が初めから期待できないことが明らかな者を排除するために設けられたものであり、同条項の許可事務の運用基準として、本件取扱要領第二の4が定められたものである。
ウ そうすると、廃棄物処理法7条3項4号ホ所定の「その業務に関し、不正又は不誠実な行為をするおそれがあると認めるに足りる相当の理由がある者」という要件については、申請者に産業廃棄物処理業の許可を与えた場合において、申請者の姿質及び社会的信用性等の面から、将来、その業務に関して不正又は不誠実な行為をすることが、相当程度の蓋然性をもって予想される場合をいうものと解するのが相当である。
(2) そこで、このような見地から、原告が廃棄物処理法7条3項4号ホに該当する者であるか否かについて以下考察する。
ア 無許可で焼却炉を設置した点
(ア) 〔証拠略〕によれば、次の事実が認められる。
a 原告は、平成10年3月ころ、本件土地上に、本件焼却炉を設置した。
原告は、平成8年6月6日、埼玉県に産業廃棄物処理業計画書(〔証拠略〕)を提出し、本件土地において木屑及び紙屑を焼却炉で焼却することを内容とする産業廃棄物処理業許可申請の事前協議を始めたが、埼玉県から地元住民(大字佐左エ衛門地区、大字広戸沼地区)との間で公害防止協定を締結するように指導されていたものの、地元住民の強い反対で同協定を締結することができず、締結の目途も立たない状況であったことから、平成10年2月、本件土地にダイオキシン除去装置のない焼却炉を設置し、許可を得るまでゴミの焼却を行うなどと記載した本件通知書(〔証拠略〕)を近隣住民に送付した上、同年3月ころに、上記のとおり、本件土地上に本件焼却炉を設置したものである。
b 本件焼却炉は、平成8年6月6日付け原告作成の産業廃棄物処理業計画書(〔証拠略〕)に記載された焼却炉と同様のものであり、処理量は、1時間当たり350キログラムであった。
c 本件焼却炉は、廃棄物処理法15条の規定により、設置に当たり、都道府県知事の許可を受けなければならない施設であったが、原告は、本件焼却炉設置当時、埼玉県知事の許可を受けていなかった。
d 本件許可手続について代理していた行政書士のBは、本件焼却炉設置当時、本件焼却炉が埼玉県知事の許可を受けなければならない産業廃棄物処理施設であることを知っていた。
(イ) 以上によれば、原告は、本件焼却炉を設置するためには、埼玉県知事の許可が必要であり、かつ、そのことを知っていたにもかかわらず、本件焼却炉を無許可で設置したということができ、遵法精神に乏しいことが明らかである。
(ウ) これに対し、原告は、本件焼却炉を設置したのは、鹿久保運輸であると主張し、証人Bの証言はこれに沿うが、原告の決算報告書の記載からすると、本件焼却炉の所有者は設置当時から原告であることが明らかであり、本件通知書においても、原告が焼却施設を設置することを明言していること、原告代表者は名目上の存在で、原告の実質的代表者は、鹿久保運輸の代表者で原告代表者の夫のCであること(〔証拠略〕)からすれば、原告自身が、本件焼却炉を設置したというべきであり、証人Bの証言中、上記認定に反する部分は信用することはできず、他に、上記認定を覆すに足りる証拠はない。
イ 本件通知書の送付
(ア) 前記認定した事実によれば、原告は、産業廃棄物処理施設の設置に地元住民が反対し、公害防止協定締結の目途が立たない状況であったことから、強引に計画を実現する意図で近隣住民に本件通知書を送付したものと認められるところ、同通知書は、本件土地上に産業廃棄物処理業の許可の不要な自社ゴミの焼却炉を設置するとした上、廃棄物処理業の許可が出るまでは粗悪な焼却炉を設置し、ダイオキシンを発生する焼却を行うこととし、許可が出るまでの期間が長引く程この状態が続くため、許可が出なければ、ゴミの焼却によって、直接近隣住民の健康に影響を及ぼすという内容のものである。
(イ) 本件通知書は、産業廃棄物の処理施設の設置によりダイオキシンが発生し、健康に重大な影響を及ぼすことになることを危惧し、施設の設置に反対する近隣住民の不安を煽り立てることによって、住民の反対を押さえ込み、公害防止協定を締結させ、早期に許可を取得しようと企図するものというべきであり、許可を得るためには、自己の主張を押し通し、周辺住民の健康への影響などを全く配慮しないという原告の自己中心的な姿勢を如実に示すものであって、廃棄物行政の適正な運営を阻害することにつながる極めて悪質なものというべきである。そして、前記のとおり、実際に設置された本件焼却炉は無許可のものであったことにも照らすと、原告は順法精神が乏しい上に、企業の姿勢や社会的信用の面でも問題があり、産業廃棄物処理について円滑な業務執行を期待することはできないものといわざるを得ない。
ウ 以上によれば、本件申請に対し許可を与えた場合、原告が、将来、産業廃棄物収集運搬業及び産業廃棄物処分業に関して、不正又は不誠実な行為をすることが、相当程度の蓋然性をもって予想されるということができるから、原告は、廃棄物処理法7条3項4号ホ所定の「その業務に関し、不正又は不誠実な行為をするおそれがあると認めるに足りる相当の理由がある者」に該当すると認められる(被告が、厚生省との協議を経た上で本件各処分を行ったことは前記のとおりであり、上記認定判断は、本件取扱要領に定める基準に照らしても相当性を有するものと解される。なお、被告は、原告が本件土地の使用権を取得した経緯等についても、おそれ条項適用の一事情として主張しているが、原告が、同土地の使用権を取得した経緯において、特に悪質と認めるに足りる事情があることまでは、証拠上これを認めることはできない。)。
エ そうすると、原告は、廃棄物処理法14条3項2号、6項2号により、廃棄物収集運搬業及び産業廃棄物処分業の欠格事由とされている同法7条3項4号ホに該当することが認められるから、その余の点を判断するまでもなく、本件各処分は適法というべきである。
2 よって、本件各処分の取消しを求める原告の請求は理由がないから棄却することとし、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 寺尾洋 裁判官 松田浩養 菱山泰男)