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さいたま地方裁判所 平成12年(行ウ)36号 判決 2002年5月29日

原告

高田昌彦(X)

(ほか9名)

上記10名訴訟代理人弁護士

保田行雄

被告

所沢市固定資産評価審査委員会(Y)

同代表者委員長

渡部照夫

同訴訟代理人弁護士

橋村昭紀

主文

1  原告らの請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は、原告らの負担とする。

事実及び理由

第3 当裁判所の判断

1  「適正な時価」と登録価格の違法について

(1)  「適正な時価」(法341条5号)の意義

固定資産税は、固定資産課税台帳に登録された固定資産の価格を課税標準とすることを原則とし(法349条1項、349条の2)、固定資産の所有の事実に着目して課される財産税の性質を有するものであるから、その課税標準又はその算定基礎となる土地の「適正な時価」(法341条5号)とは、正常な条件の下に成立する当該土地の取引価格、すなわち、客観的な交換価値(客観的時価)をいうものと解される。

そして、法は、土地課税台帳等に登録すべき価格を基準年度に係る賦課期日における価格としているから(法349条1項)、この登録価格を算定すべき基準日は、賦課期日である当該年度の初日の属する年の1月1日であり(法359条)、本件についていえば、平成12年1月1日時点における客観的時価をもって登録価格とすることになる。

この点、賦課期日における価格算定の資料とするための標準宅地等の価格評定については、賦課期日からこれらの評価事務に要する相当な期間を遡った時点をもって価格調査の基準日とすることは許容されるものであるが、価格調査の基準日における価格を基礎として算定した価格では、賦課期日における適正な時価を上回ると見込まれるときは、予め想定される価格下落率を折り込んで各固定資産の価格評定事務を遂行すべきものというべきである。むしろ、実際の評価手続上、賦課期日における時価は、このような予測値にならざるを得ないものということができるが、前記説示のとおりの現行地方税法の解釈上、現実の価格下落率が予め想定した価格下落率を上回るものであった場合には、結局、平成12年1月1日時点における客観的時価を超える価格をもって、固定資産の価格を固定資産課税台帳に登録し、課税標準としたことに帰するから、当該登録価格の決定は、違法というべきこととなる。

そうすると、このような観点からは、固定資産を評価するに当たり、少なくとも評価額が客観的時価を超えることがないように、予め減額した数値をもって計算の基礎となる標準宅地の適正な時価として扱うことは、合理的な方法ということができ、また、課税処分の謙抑制の見地からも是認されるものというべきである。

前記固定資産評価基準が、その経過措置(第1章第12節)において、「標準宅地の適正な時価を求める場合には、当分の間、基準年度の初日の属する年の前年の1月1日の地価公示法(昭和44年法律第49号)による地価公示価格及び不動産鑑定士又は不動産鑑定士補による鑑定評価から求められた価格等を活用することとし、これらの価格の7割を目途として評定するものとする。」(いわゆる7割評価)と規定していることは、このような評価の謙抑制に配慮したものとして理解することができるものというべきである。

(2)  登録価格の違法に関する判断方法

以上の説示に照らせば、違法判断の対象は、7割評価を経た後の価格をもって、賦課期日における標準宅地、ひいては、本件各土地の適正な時価(すなわち、客観的時価の範囲内)ということができるかどうかにあるが、ア 評価方法の選定、標準宅地の評価額及び標準宅地の評価額から本件各土地への比準の方式等が固定資産評価基準等に従ったもの(基準適合性)であること、イ これら固定資産評価基準等が一般に合理性を有するもの(基準の一般的合理性)であること、ウ そして、固定資産評価基準等による評価の基礎となる数値、すなわち、標準宅地の価格が賦課期日における適正な時価である(標準宅地の価額の適正性)ことが認められる場合には、当該評価価格は、客観的時価の範囲内にあると一般的に推認されるものと解するのが相当である。

けだし、本件各土地につき、一般的合理性を有する上記基準に従って評価されたものとすれば、当該基準において用いられた本件各土地に係る標準宅地の賦課期日(平成12年1月1日)における適正な時価(客観的時価の範囲内)が確保されている限り、本件各土地に係る本件各登録額も同様に賦課期日(平成12年1月1日)における適正な時価(客観的時価の範囲内)が確保されるものとみることができるからである。

もっとも、この場合でも、本件各登録額が客観的時価を超えるときは、法のいう「適正な時価」ではないことになるから、上記事実にかかわらず、当該価格が客観的時価を超えることを窺わせる事実が立証されれば、上記の推認は許されないものというべきである。

2  本件各登録額と「適正な時価」

ア  基準適合性について

本件各登録額に関する評価(評価方法の選定、標準宅地の評価、標準宅地の評価額から本件各土地の評価への比準方法等)が固定資産評価基準等に従って行われるものであることは、前記の基本的事実関係に照らし肯定することができる。

イ  基準の一般的合理性について

固定資産評価基準によれば、市街地的形態を形成する地域における宅地については、市街地宅地評価法(いわゆる路線価方式)により、これに至らない地域における宅地については「その他の宅地評価方法」(いわゆる標準地比準方式)により評価する旨定められているところ、これらの評価方法自体は、その内容に照らし、全体として「適正な時価」を評価する方法として一般的に合理性を有するものということができる。

なお、原告らは事前記のとおり、本件各登録額算出に当たり、平成11年7月1日から同年12月31日までの価格、下落率が考慮されていない点を違法と主張するが、前記説示に照らし明らかなとおり、固定資産評価基準は、その経過措置に定めた前記の7割評価をもって、原告ら主張の点につき考慮したものと理解できるのであり、かつ、この7割評価をもってしても「適正な時価」を評価することができない事情のあることを窺うに足りる証拠は見当たらない。

そうすると本件において固定資産評価基準に従って評価をすることは、一般に合理性を有するものというべきである。

ウ  標準宅地の価額の適正性

(ア)  そこで、本件各土地に関する標準宅地の賦課期日(平成12年1月1日)における適正な時価(客観的時価の範囲内であると認められるか)につき判断する。

(イ)  〔証拠略〕によれば、本件各登録額算出の基礎となった本件各土地に関する標準宅地の所在(a)、価格調査基準日(平成11年1月1日)における不動産鑑定士による鑑定評価額(b)、平成11年1月1日から同年7月1日までの地価の下落傾向を反映した修正率(c)、本件各登録額(1ないし18)算出の基礎とされた標準宅地の価格(d)は、別表標準宅地価格一覧表記載のとおりと認めることができる。

(ウ)  そして前記証拠及び弁論の全趣旨によれば、bの鑑定評価額は、当該標準宅地の価格調査基準日における時価を反映していること、cの修正率は、前記期間内における地価の下落傾向を合理的に反映していることをそれぞれ認めることができ、しかも、平成11年1月1日から賦課期日(平成12年1月1日)までにcの修正率を乗じた上でなお3割を超える土地価格の下落があったことを認めるに足りる証拠はないから、dの本件各登録価格の算出の基礎とされた標準宅地の価格は、賦課期日における本件各土地の客観的な時価の範囲内という意味における適正な時価を確保するに足りるものと認めるのが相当である。

3  以上説示したところからすれば、本件各登録額は、客観的時価の範囲内にあるものと推認されるものであるところ、本件全証拠関係に照らしても、これを左右するに足りる事情は何ら見当たらない。

そうすると、本件各決定がした価格評価による本件各登録額は、いずれも客観的時価の範囲内にあるものと認められるから、適法なものというべきである。

以上の説示に反するに帰する原告らの主張は、いずれも採用できない。

4  結論

以上の次第で、本件各請求は、いずれも理由がないから、棄却することとし、訴訟費用の負担につき行訴法7条、民訴法61条、65条1項本文を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 田中壯太 裁判官 松田浩養 渡邉健司)

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