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さいたま地方裁判所 平成12年(行ウ)4号 判決 2005年11月30日

主文

1  被告は,上尾市に対し,8億8580万円及びこれに対する平成12年3月17日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

2  原告らのその余の請求を棄却する。

3  訴訟費用は,これを4分し,その1を被告の負担とし,その余を原告らの負担とする。

事実及び理由

第1請求

被告は,上尾市に対し,34億4000万円及びこれに対する平成12年3月17日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

第2事案の概要

1  事案の要旨

本件は,埼玉県上尾市の住民である原告らが,上尾市が被告との間で締結した西貝塚環境センター建設工事請負契約は,被告を含む入札参加業者らが談合した結果被告が応札して落札した上で締結されたものであり,上尾市は,これにより談合がなければ形成されたであろう適正価格と契約代金額との差額相当額の損害を被ったから,被告に対し不法行為による損害賠償請求権を有しているにもかかわらず,その行使を違法に怠っていると主張して,平成14年法律第4号による改正前の地方自治法(以下「地方自治法」という。)242条の2第1項4号に基づき,上尾市に代位して,怠る事実に係る相手方である被告に対し,損害賠償を求めた事案である。

2  基本的事実関係(当事者間に争いがないか,証拠及び弁論の全趣旨によって容易に認定できる事実)

(1)  当事者

ア 原告らは,埼玉県上尾市の住民である。

イ 被告は,鉄鋼の製造及び販売等を営む株式会社であり,平成15年4月1日付けで日本鋼管株式会社よりJFEエンジニアリング株式会社へと商号変更したものである(以下において,事案明確化のため,被告のことを「被告日本鋼管」ということがある。)。

(2)  ごみ焼却施設の概要

ア 地方公共団体が整備するごみ焼却施設は,ごみの処理方法により,ごみ焼却施設,ごみ燃料化施設,粗大ごみ処理施設,廃棄物再生利用施設及び高速堆肥化施設に区分される。

ごみ焼却施設は,燃焼装置である焼却炉を中心に,ごみ供給装置,灰出し装置,排ガス処理装置等の焼却処理設備を配置し,ごみの焼却処理を行う施設であり,その施設には,灰溶融設備や余熱利用設備が付帯している場合がある。また,地方公共団体は,ごみ焼却施設を建設するに当たって,粗大ごみ処理施設及び廃棄物再生利用施設を併設することもある。

イ ごみ焼却施設は,1日当たりの稼働時間により,①24時間連続稼働する全連続燃焼式(以下「全連」という。),②16時間稼働する准連続燃焼式(以下「准連」という。),③8時間稼働するバッチ燃焼式に区分される。

また,ごみ焼却施設は,採用される燃焼装置の燃焼方式により,①ストーカ式燃焼装置(ごみをストーカ上で乾燥して焔燃焼させ,次に,おき燃焼させて灰にする装置をいう。)を採用する焼却施設(以下「ストーカ炉」という。),②流動床式燃焼装置(けい砂等の不活性粒子層の下部から,加圧した空気を分散供給して,不活性粒子を流動させ,その中でごみを燃焼させ,灰にする装置をいう。)を採用する焼却施設(以下「流動床炉」という。),③ガス化溶融式焼却施設(以下「ガス化溶融炉」という。)がある。

(3)  プラントメーカー

被告日本鋼管,日立造船株式会社(以下「日立造船」という。),株式会社タクマ(以下「タクマ」という。),三菱重工業株式会社(以下「三菱重工」又は「三菱重工業」という。)及び川崎重工業株式会社(以下「川崎重工」又は「川崎重工業」という。)の5社(以下,これら5社を単に「5社」と表記する。)は,ストーカ炉を採用する全連及び准連ごみ焼却施設を構成する機械及び装置の製造業並びに建設業法の規定に基づき建設大臣の許可を受け,清掃施設工事業を営む者である。

ごみ焼却施設は,焼却処理設備,電気・計装設備,建築物及び建築設備並びに外構施設から構成されるが,5社は,全連及び准連ストーカ炉を構成する機械及び装置を製造し,これらを有機的に機能させるための据付工事を行うとともに,設備機器を収容する工場棟その他の土木建築工事も行って,当該ごみ焼却施設の建設を行う者であり,プラントメーカーといわれている。

プラントメーカーは,5社の他に,株式会社荏原製作所(平成6年10月に荏原インフィルコ株式会社を吸収合併した。以下「荏原製作所」という。),株式会社クボタ(以下「クボタ」という。),住友重機械工業株式会社(以下「住友重工」という。),石川島播磨重工業株式会社(以下「石川島播磨重工」という。),ユニチカ株式会社(以下「ユニチカ」という。),株式会社川崎技研(以下「川崎技研」という。),三機工業株式会社(以下「三機工業」という。)等がある。

(4)  ごみ焼却施設の一般的な発注方法等

ア 発注に至るまで

地方公共団体は,ごみ処理施設を建設する実行年度の前々年度以前にごみ処理基本計画を策定する。ごみ処理基本計画において,地方公共団体は,将来の人口の増減予測に基づいてごみの種別ごとの排出量を推計し,リサイクルできるごみの量や地域内で処理が必要なごみの量などを把握した上,その処理のために設置すべき施設の整備計画の概要をまとめている。

地方公共団体は,その後,ごみ処理施設の建設用地を選定,環境アセスメント,都市計画の決定等の手続を経た上,実行年度の前年度にごみ処理施設整備計画書を作成し,都道府県を経由して国に同整備計画書を提出する。その際,工事費用を把握するため,将来の入札に参加させられる施工業者を選定し,工事の仕様を提示して参考見積金額を徴している。そして,国が国庫補助事業として予算計上した地方公共団体のごみ処理施設整備事業については,予算計上後に内示が行われ,当該地方公共団体は,この内示を受けた後に一般競争入札,指名競争入札,指名見積り合わせ(業者から見積書を提出させ,比較審査した上で,業者と契約すること)又は特命随意契約(発注者の判断で特定の業者を選定し,当該業者と協議して契約を締結すること)のいずれかの方式により,発注している。

地方公共団体は,整備すべきごみ処理施設が焼却施設である場合,通常,ごみ処理施設整備計画書の作成時点までに,あらかじめ当該施設の燃焼方式をいずれとするか定めているが,燃焼方式を1つに定めずに発注手続を実施する場合もある。

イ 発注方法

地方公共団体は,全連及び准連ストーカ炉の新設,更新及び増設工事(以下「建設工事」という。)を指名競争入札,一般競争入札,指名見積り合わせ又は特命随意契約の方法により発注しているが,ほとんどすべては指名競争入札,一般競争入札又は指名見積り合わせの方法によっている。

また,地方公共団体は,ストーカ炉の建設工事の発注に当たり,ほとんどの場合,ごみ焼却施設を構成する機械,装置の製造及び据付工事並びに土木建築工事を一括して,5社らプラントメーカー又はプラントメーカーと土木建築業者による共同企業体(以下「JV」という。)に発注しているが,ごみ焼却施設を構成する機械,装置の製造及び据付工事と土木建築工事を分離して,前者を5社らプラントメーカーに,後者を土木建築業者に,それぞれ発注する場合もある。

地方公共団体が,指名競争入札又は指名見積り合わせの方法で発注する場合には,入札参加資格申請をした者のうち,地方公共団体が競争入札参加の資格要件を満たす者として登録している有資格者の中から指名競争入札又は指名見積り合わせの参加者を指名している。

(5)  本件工事の入札及び契約

ア 上尾市において,以下の内容の西貝塚環境センター建設工事(以下「本件工事」という。)が発注されることとなり,上尾市は,平成6年4月13日,上尾市環境センター建設委員会から本件工事を5社による指名競争入札とするよう答申を受けた(甲4,5)。

工事名   西貝塚環境センター建設工事

工事場所 上尾市大字v,大宮市大字w地内

工事概要 ゴミ焼却施設処理施設 300トン/日(100トン/日×3基)

粗大ごみ処理施設 70トン/日(70トン/5h×1基)

上記施設の建設工事(同一建屋)

4か年継続事業

上尾市は,本件工事について,川崎重工,タクマ,被告日本鋼管,日立造船,三菱重工の5社を指名業者として選定し,5社にその旨を通知した(甲6,7)。

イ そこで,上尾市は,平成6年8月11日,本件工事に係る指名競争入札を行った(甲7,以下「本件入札」という。)。

本件入札は,最低制限価格を定めず,設計額178億0046万円,予定価格177億1600万円,工事価格172万8200万円,入札書比較価格172億円として行われた。本件入札の結果は以下のとおりであり,被告日本鋼管が172億円で落札した。

入札業者名

第1回

第2回

結果

川崎重工

182億円

172億7500万円

タクマ

190億円

172億5000万円

被告日本鋼管

173億7000万円

172億円

落札

日立造船

178億円

172億8000万円

三菱重工

205億円

172億7000万円

ウ 上尾市は,平成6年8月17日,請負者被告日本鋼管及び工事完成保証人川崎重工との間で,以下の内容の請負仮契約を締結した(甲8)。

工事名     西貝塚環境センター建設工事

工事場所   上尾市大字v,大宮市大字w地内

工期      平成6年9月21日から平成10年3月10日まで

請負代金額  合計177億1600万円

契約保証金  免除

その他     議会の議決に付すべき契約及び財産の取得又は処分に関する条例(昭和39年上尾市条例第7号)2条の規定による市議会の議決を経たときは本契約とみなされる。

上記仮契約は,平成6年9月21日,上尾市議会による議決を経て本契約とされた(甲9,以下「本件契約」という。)。

エ 本件工事は,平成10年3月10日完成し,上尾市は,平成6年から平成10年にかけて,被告日本鋼管に対し,本件契約に基づき,請負契約代金合計177億1600万円を支払った(甲10)。

(6)  公正取引委員会における審判手続等

公正取引委員会は,平成10年9月17日,被告日本鋼管を含む16社に対し,私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(以下「独占禁止法」という。)違反の疑いで立入検査を行い,同年12月18日,5社に対し,再度立入検査を行った。

公正取引委員会は,平成11年8月13日,5社に対し,独占禁止法48条1項に基づく,排除勧告を行ったが,5社は,上記勧告を拒否したため,以後,公正取引委員会の審判手続(平成11年(判)第4号。以下「別件審判事件」という。)が開始された。なお,本件口頭弁論終結時においても上記別件審判事件による審決は出されていない。

平成6年4月1日から平成10年9月17日(公正取引委員会の立入検査の日)前までにおいて,指名競争入札,一般競争入札,指名見積り合わせの方法により発注されたストーカ炉の建設工事は別紙1のとおり合計87件存在するが,そのうち公正取引委員会審査官が違反行為の対象として主張しているものは,合計60件(別紙1の網掛けがなされているもの)である。なお,本件工事は,別紙1の番号17の工事である。

(7)  本件訴訟に至る経緯

ア 原告らは,平成11年11月10日,上尾市監査委員に対し,本件入札において被告らによる談合という共同不法行為が行われたため,受注者間の公正な競争が排除され,もしも受注業者間に公正な競争が確保されていたならば契約金額は本件契約の価格より20%以上低くなっていたはずであり,その差額に相当する損害が上尾市に発生しているところ,上尾市長は被告らに対して有する損害賠償請求権の行使を怠っていると主張して,監査請求を行った(甲1,以下「本件監査請求」という。)が,上記監査委員は,平成11年12月27日付けで,談合の事実は認定できないとして本件監査請求を棄却した(甲2)。

イ そこで,原告らは,平成12年1月26日,本件訴えを提起した。

3  争点

(1)  監査請求期間徒過の有無(争点1)

(2)  談合行為の有無(争点2)

(3)  損害額(争点3)

4  争点に関する当事者の主張

(1)  争点1(監査請求期間徒過の有無)について

(原告らの主張)

ア 本件において,原告らが主張している実体法上の請求権は,被告を含む本件入札参加業者らによる談合という共同不法行為に基づく損害賠償請求権であり,財務会計行為の違法性に基づく損害賠償請求あるいは原状回復請求という主張とは異なるものである。

本件の場合,被告を含めた入札参加業者の談合によってストーカ炉建設工事の請負契約の契約金額がつり上げられ,上記金額が最終的には地方公共団体によって負担させられているという因果関係が存在すれば,不法行為による損害賠償請求権は成立する。この場合,地方公共団体の長や職員が談合の存在を知っていたかどうか,すなわち,長や職員の側に地方公共団体に対する義務違反があったかどうかという点は不法行為の成否とは全く関わりがない。とすれば,本件において原告らが主張する「被告らの共同不法行為に基づく損害賠償請求権」という実体的請求権は,客観的にみても地方公共団体の財務会計行為の違法を前提とするものではない。

したがって,本件はいわゆる真正怠る事実に関する事案であり,相手方に対する損害賠償請求の不行使についての監査請求は,地方自治法242条2項の監査請求期間の制限を受けず,本件監査請求が適法であることは明らかである。

イ そして,最高裁平成14年7月2日判決(民集56巻6号1049頁)(以下「最高裁平成14年判決」という。)は,「怠る事実については監査請求期間の制限がないのが原則であり,・・・その制限が及ぶというべき場合はその例外に当たることにかんがみれば,監査委員が怠る事実の監査を遂げるためには,特定の財務会計上の行為の存否,内容等について検討しなければならないとしても,当該行為が財務会計法規に違反して違法であるか否かの判断をしなければならない関係にはない場合には,・・・当該怠る事実を対象としてされた監査請求は,本件規定を適用すべきものではない。」とした上で,談合という共同不法行為に基づく損害賠償請求は,財務会計行為の違法に基づく請求とは別個独立の請求であるものとした。

本件も,上記最高裁平成14年判決と同様の事案であり,地方自治法242条2項の適用はない。

ウ 仮に,本件監査請求には地方自治法242条2項本文の期間制限がかかるとしても,原告らには同項ただし書の「正当な理由」があるから,本件監査請求は適法に行われたものである。

まず,公正取引委員会の処分を受けて地方公共団体が損害賠償請求権を行使するには,課徴金納付命令によって対象工事が特定し,かつその命令が相手方事業者によって応諾され,その上で執行機関が損害の程度を把握するということが客観的に必要であり,これらの要件が備わって初めて損害賠償請求権を行使しないという事実が不当評価を受けるのであって,本件監査請求が遅きに失したと評価される余地はない。

また,原告らは,公正取引委員会の排除勧告と排除勧告のマスコミの報道によって,ごみ焼却炉施設に関する全国的談合事実を知り,そこらから該当工事を調査し,その調査によって原告らの居住する上尾市における平成6年の本件工事が談合によって行われたと強い疑いを持ち,その結果,上尾市に損害が発生していることを認識したので,公正取引委員会が排除勧告を行った平成11年8月13日から3か月以内である同年11月9日に本件監査請求を行ったものであり,原告らの本件監査請求は地方自治法242条2項の「正当な理由」があることは明らかである。

エ したがって,本件訴えは適法な監査請求を経た適法なものである。

(被告の主張)

ア 原告らの本件監査請求によれば,原告らは,上尾市が被告に対する損害賠償請求権の行使を怠っている旨主張しており,そのような怠る事実に係る監査請求の期間については,「普通地方公共団体において違法に財産の管理を怠る事実があるとして法242条1項の規定による住民監査請求があった場合に,右監査請求が,当該普通地方公共団体の長その他の財務会計職員の特定の財務会計上の行為を違法であるとし,当該行為が違法,無効であることに基づいて発生する実体法上の請求権の不行使をもって財産の管理を怠る事実としているものであるときは,当該監査請求については,右怠る事実に係る請求権の発生原因たる当該行為のあった日又は終わった日を基準として同条2項の規定を適用すべきものと解するのが相当である。」(最高裁昭和62年2月20日判決・民集41巻1号122頁)と解されている。

原告らは,上尾市が本件契約に基づき被告に対して現実に支払った請負代金と本件入札に関する他の入札参加業者との間での談合行為がなければ予定されていたであろう適正な請負代金との差額に関する損害賠償請求権を行使することを求めて監査請求を行っているのであるから,本件においては,上記損害賠償請求権の発生原因である本件契約の締結日(平成6年9月21日)から監査請求期間を起算しなければならない。

したがって,原告らは,上記起算日から1年後の平成7年9月21日の経過をもって監査請求することができなくなっているから,原告が平成11年11月10日に上尾市監査委員に対して行った監査請求は法律上適法になされたものといえない。

イ 原告らは,入札参加業者の談合によってストーカ炉建設工事の請負契約の契約金額がつり上げられ,上記金額が最終的に地方公共団体によって負担させられているという因果関係が存在すれば,不法行為による損害賠償請求権は成立すると主張するが,被告ら企業の間で仮に原告ら主張のような談合が行われていたとしても,地方公共団体とは何ら関係なく業者たる企業間で行われるものであり,談合が行われたことのみによって,地方公共団体に損害が発生したり,地方公共団体が不法行為による損害賠償請求権を取得するわけではない。談合に基づき不正な入札価格が形成され,かかる価格で落札されてその落札した業者が入札に係る工事を発注することにより,地方公共団体にその契約に係る代金支払義務が生じるのであるから,上記受注行為によって初めてその地方公共団体に損害が発生するのである。そして,この落札者である業者と地方公共団体との間の契約締結は,地方自治法242条1項にいう,地方公共団体の財務会計行為にほかならない。上記契約締結は,入札を前提としているが,談合に基づき行われた入札は違法というほかなく,当該契約締結も違法又は無効と解される。

このような理解に立つ限り,本件監査請求は,請負契約締結という財務会計上の行為が違法,無効であることに基づき発生する実体法上の請求権の行使を怠る事実とするものにほかならないから,地方自治法242条2項の規定が適用され,監査請求期間の制限が及ぶこととなる。

また,財務会計行為の違法性は客観的に判断すべきとされており,原告らの主張を前提とすれば,上尾市における契約締結の担当者が談合の事実を知っていたか否かの主観に関わらず,本件契約の締結は客観的に違法ということになるから,本件監査請求は財務会計上の行為の違法性を問題とするものにほかならない。

ウ 最高裁平成14年判決は,独占禁止法違反の談合行為が行われたことを電気設備業者が争っていないことが明らかであるという事実関係があるために,地方公共団体が電気設備業者らに対する損害賠償請求権を行使することが可能であったにもかかわらずこれを行使していなかったのであり,この点に「怠る事実」に該当することが明らかに看取できる事案であった。

しかし,本件においては,被告を含めた各社が談合の存在を否認し,現在公正取引委員会における審判手続において係争中であって,公正取引委員会の最終判断である審決も下されていない状況にある。そして,独占禁止法は,専門機関たる公正取引委員会の判断及びその手続を尊重した制度構造をとっており(同法25条,26条,80条等),かかる独占禁止法が本来予定した制度に従えば,本件のような事案については談合の存在を認定する審決が確定してから地方自治体が独占禁止法25条に基づく損害賠償請求をすれば足りるのであって,そうであるからこそ,本件のような事案では地方自治体としても公正取引委員会の審決を待って対応を決めるのが通例となっている。審決も下されていない現時点では地方自治体がかかる損害賠償請求権を有するのか否かも明らかではない以上,地方自治法242条1項の規定する「怠る事実」はなく,地方自治体のかかる対応が違法とされる余地はない。

このように解釈したとしても住民側に実質的な不利益を及ぼさないのみならず,却下されないと地方自治体が将来審決確定後に行使するかもしれない損害賠償請求権の存否につき既判力が及ぶことになりかねない。

以上のような本件事案の特殊性に鑑みれば,最高裁平成14年判決の射程が本件にまで及ぶと解することはできない。

エ 次に,地方自治法242条2項ただし書の「正当な理由」の判断基準については,最高裁昭和63年4月22日判決(裁判集民事154号57頁)は,①普通地方公共団体の住民が相当の注意力をもって調査したときに客観的にみて当該行為を知ることができたかどうか,②当該行為を知ることができたと解されるときから相当な期間内に監査請求をしたかどうかという2つの基準を判示している。

そして,本件において監査請求の対象となる財務会計行為は本件契約の締結であり,当該行為は何ら秘密裡に行われたという事情がないから,上記基準はそもそも妥当しない。

また,本件では,地方公共団体発注のごみ焼却炉に関する談合疑惑で平成10年9月17日に公正取引委員会が被告外10数社に立入検査を実施したことに関する新聞報道がなされ,さらに,同年10月29日に5社が中心となり昭和55年から18年の間に全連ストーカ炉を対象に談合を継続していた旨の新聞報道がなされているのであるから,平成10年10月29日の時点において,相当な注意力を有する住民が本件工事の建設請負工事契約について談合がなされたのではないかと疑いの存在を客観的にみて知ることができたことは明らかである。

そうすると,原告らは,これら報道された内容を基にして,本件入札という監査対象事実を特定した上で,本件入札において談合がなされた事実があったか否かについて監査請求を申し立てることは可能であったのであるから,原告らが監査請求書を提出した平成11年11月10日は合理的な期間を経過しており,地方自治法242条2項ただし書にいう「正当な理由」があるということはできないことは明らかである。

オ したがって,本件監査請求は不適法なものであり,適法な監査請求を経ていない本件訴えは不適法である。

(2)  争点2(談合行為の有無)について

(原告らの主張)

ア 基本合意の存在

(ア) 談合行為の合意・実施方法

a 合意

5社は,遅くとも平成6年4月以降,地方公共団体が指名競争入札等の方法により発注するストーカ炉の建設工事について,受注機会の均等化を図るため

① 地方公共団体が建設を計画していることが判明した工事について,各社が受注希望の表明を行い,

Ⅰ 受注希望者が1名の工事については,その者を当該工事の受注予定者とする。

Ⅱ 受注希望者が複数の工事については,受注希望者間で話し合い,受注予定者を決定する。

② 5社の間で受注予定者を決定した工事については,5社以外の者が指名競争入札に参加する場合には,受注予定者は自社が受注できるように5社以外の者に協力を求める。

③ 受注すべき価格は,受注予定者が定め,受注予定者以外の者は,受注予定者がその定めた価格で受注できるように協力する。

旨の合意(以下「本件基本合意」という。)をしていた。

b 実施

そして,5社は,次の方法で本件基本合意を実施していた。

① 受注予定者の決定は,地方公共団体が建設を計画していることが判明した工事を3つに区分して行う。区分は規模別に「400トン以上の大型」,「200トン以上400トン未満の中型」,「200トン未満の小型」とする(平成8年末ころより以前は,「400トン以上の全連工事」,「400トン未満の全連工事」,「准連工事」としていた。)

② 受注予定者の決定は,各社が受注を希望する工事を表明して行う。これに先だって,地方公共団体が建設を計画している工事について各社が把握している情報を明らかにしあい,情報交換を行って各社の認識を一致させる。

③ 各社は,情報交換によって明らかになった工事の中から受注を希望する工事を表明する。各社が受注希望を表明した工事について,希望者が重複しなかった工事はその希望者を受注予定者とし,希望者が重複した工事は希望者間で話し合い,受注予定者を決定する。

④ 受注予定者は各社の受注が均等になるようにすることを念頭において決定する。これは,各社が受注する工事のトン数の合計が均等になるようにし,各社の受注実績等を基にあらかじめ算出した数値を勘案して行う。

⑤ 5社以外のプラントメーカー(以下「アウトサイダー」という。)が入札に参加することとなる場合,受注予定者は,自社が受注できるように協力を求め,その協力を得る。時には,相当受注に協力したアウトサイダーに受注させることもある。この場合は,4社に了解を得る。もとより,アウトサイダーが入札参加者にならないように,発注者に対して5社のみを指名するように働きかける。

⑥ 受注予定者になった者は,自社の受注価格を定め,他社が入札する価格も定めて各社に連絡する。受注予定者以外の者は,受注予定者から連絡を受けた価格で入札し,受注予定者がその定めた価格で受注できるように協力する。

c このような本件基本合意の事実は,甲サ28,46の三菱重工のaの供述調書,甲サ35,44の被告日本鋼管のbの供述調書から認められる。

(イ) 受注予定者の決定

5社は,受注予定者を決定するに当たり,5社の会合において,各社が収集した地方公共団体のごみ焼却施設の建設計画に関する情報から,ストーカ炉の建設計画が判明したものについて,受注予定者を決定する区分に応じて,各社が受注希望表明を行う際の対象とする工事のリストアップを行っていた。5社は,リストアップの会合において,各社が把握している建設計画に関する情報を開示しあい,その情報交換を通じて,地方公共団体が,いつごろ,どの程度の規模のストーカ炉の建設を計画しているかを明確にし,各社の認識を一致させていた。

リストアップされた工事は,建設計画の具体性に応じて加除訂正の見直しが行われ,受注希望工事を表明して受注予定者を決定する会合(張り付け会議)に先だって,各社が受注希望を表明することができる対象工事として確定されていた。

(ウ) 受注希望工事の表明

5社は,自社が受注を希望する工事について,張り付け会議と称する会議において,受注希望表明を行っていた。

5社は,張り付け会議を,原則として,受注予定者を決定する大型工事,中型工事及び小型工事(平成8年末ころより以前は400トン以上の全連工事,400トン未満の全連工事及び准連工事の区分)ごとに,毎年1回開催することとしており,その時点で建設計画が判明している工事について,あらかじめ,区分ごとのリストアップによって,各社が受注希望を表明することができる対象工事として確定した中から,自社が受注を希望する工事について受注希望表明を行っていた。

5社は,張り付け会議に先立って,各社が受注希望表明できる工事の件数を定めており,張り付け会議では各社順番に一件ずつ受注を希望する工事を表明し,あらかじめ定めた件数分の周回を繰り返し行っていた。なお,5社は,受注希望表明が重複することを予定しており,その場合の対処についてもあらかじめ決めていた。

5社は,受注希望表明が行われなかった工事を,次回以降の受注希望表明に向けて引き続きリストアップの対象としていた。

(エ) 選定に当たり勘案していた事情

受注希望工事の表明は,各工事が実際に発注される以前の段階で行うため,5社が受注希望表明を行おうとする工事は,トン数や機種,発注年度など未確定要素があり,必ずしもその時点で判明している計画どおり発注されないリスクを伴っていた。このため,5社は,受注を希望する工事の選定に当たり,リストアップまでに収集した情報,リストアップで確定した段階のトン数,発注年度を基に,社内で情報を再確認し,建設計画が順調に進むかどうか,発注される見込み,その時期だけでなく,トン数の変更やストーカ炉から他機種に変更される可能性がないかなども慎重に検討し,確実性の高い工事を選定するようにしていた。

また,自社が受注予定者になったとしても,当該工事がストーカ炉の建設工事として発注され,入札に参加できなければ受注することができず,さらに,アウトサイダーが入札に参加することになればその協力が得られないときは容易に受注することができないことから,5社は,受注希望表明を行うまでの自社の営業活動の状況から,発注者に対して,自社を指名し,ストーカ炉を採用し,アウトサイダーではなく5社を指名するように働きかけ,これらを支援してくれる有力な人脈があり,活用できるかどうか,これらを達成できるかどうかも十分考慮して,自社が入札に参加できる確率が高く,かつ有利に営業を進められる工事を選定するようにしていた。

(オ) 張り付け会議の開催

5社は,工事の区分ごとに,毎年1回張り付け会議を開催することとしていたが,実際は,建設計画が判明した件数に応じて年に複数回開催すること,また,中型工事と小型工事を同日に行うこともあった。

(カ) 受注希望者の決定

5社は,各社が受注希望表明を行った工事について,受注希望者が1名の場合にはその希望者を受注予定者とし,受注希望者が重複した工事については,受注希望者間で話し合い,受注予定者を決定していた。

受注希望者が重複した場合における受注予定者の決定は,原則として希望者間の話合いによることとされており,決着がつかない場合には,各社の受注実績等を基にあらかじめ定められた一定の方式により算出した数値を勘案して決定することとしていたが,平成6年4月以降,受注希望者間の話合いによって受注予定者が決まらなかったことは一度もなかった。そして,希望者間の話合いの結果は各社に周知されていた。

(キ) 5社が各社の受注実績等を基にあらかじめ定めた一定の方式により算出した数値を勘案して,受注予定者を決定していたことについて

5社は,受注希望の表明を行い,受注予定者を決定した工事(以下「受注調整物件」という。)について,当該工事の指名競争入札等に参加した会社又は参加が見込める会社については,受注調整物件のごみ処理能力であるトン数の数値を当該事業者ごとに加算・累計して数値(以下「参加数値」という。)を算出し,受注者又は受注予定者については,受注調整物件のごみ処理能力のトン数の数値を当該事業者ごとに加算・累計して数値(以下「受注数値」という。)を算出して,参加数値を分母,受注数値を分子とする分数で表していた。また,5社は,各社ごとに,参加数値で受注数値を除した数値(以下「指数」という。)を算出していた。

この場合において,5社は,上記のごみ処理能力のトン数の数値について,当該受注調整物件がプラントメーカーと土木建築業者による共同企業体(JV)に発注される工事又は土木建築工事と分離発注される工事である場合には,当該工事のごみ処理能力のトン数に0.7を乗じた数値とし,更新工事のうち焼却炉の入替工事の場合には,0.5を乗じた数値としていた。

なお,5社は,上記のごみ処理能力のトン数の数値の加算を,当該受注調整物件の入札日又は入札日より前に行っており,加算の時点でいまだ入札が行われていない工事も加算する対象に含めていた。また,5社は,未入札工事について,加算したごみ処理能力のトン数の数値が入札時の数値と異なった場合には,入札時の数値に修正していた。

5社は,前記によって算出した各社の指数が均衡化するように,すなわち5社間の受注機会が均等化するように,受注予定者を決定していた。

(ク) 会合の開催

5社は,毎月1回程度,各社の持ち回りで会合を開催していた,開催日は,出席者の都合がつく日が適宜選ばれており,持ち回りで当番となり,持ち回りの順は50音順として,川崎重工,タクマ,被告日本鋼管,日立造船,三菱重工の順になっており,当番となった会社の会議室で開催されていた。平成6年4月1日以降平成10年9月17日までの会合出席者は,日立造船のc(環境事業本部営業本部東京営業部長),被告日本鋼管のd(環境エンジニアリング本部環境第一営業部第一営業室長),タクマのe(環境プラント本部東京環境プラント第一部第二課長),三菱重工のa(機械事業本部環境装置第一部環境装置一課長),川崎重工のf(機械・環境・エネルギー事業本部環境装置営業本部営業開発第二部長。平成8年4月以前は環境装置第一営業部長のg)であった。

イ 本件基本合意に関する被告の主張について

(ア) まず,被告は,基本合意に関する原告らの立証内容及び信用性に多くの疑義があると主張するが,審決案(甲11)では概ね次のように述べている。

a aの供述調書の任意性については,三菱重工の建物と公正取引委員会までの距離は徒歩25分程度の距離であること,取調べ時間も午前中から午後8時ころまでであったこと,aが審査官から読み聞かせをされた後に自ら調書に署名押印していること,被告日本鋼管のdが所持していた文書に記載されたaの取調状況と見られる質問や回答に関するメモによればほぼaの供述調書の内容に沿った事実が記載されていること等からすれば,任意によるものではなかったということはできない。

b 次に,aの供述調書の信用性については,aが立入検査の当日の調べで任意に述べた内容を記載したものであり,その供述内容は,ストーカ炉の受注予定者を5社が決め,これらを実施するための仕組みについての基本的な事実関係であり,これに沿う各社の営業担当者等の供述や社内資料等の証拠が存在することからすれば,bの作成したメモ等の記載と齟齬する点があること,その供述内容に秘密の暴露がどの程度あるか判然としないなどその信用性を減殺し得る事情があることを併せ考えても,相当程度信用できるものといえる。

c また,bの供述調書及び同人作成のメモについては,bはストーカ炉の営業担当者であり,入札に関する事実について関心があったこと及びh(当時環境エンジニアリング環境第二営業部長)らの話を理解する上での業務上の知識を有していたであろうことからすれば,その聞き取ったとする内容には,相当程度の信用性があるものといえる。

d そして,aの供述とbの供述及びメモと対比すると,たしかに,受注調整の方法,受注対象物件の区分,アウトサイダーとの関係等についてその供述に相違がみられるが,これは,aが5社の会合の出席者として自ら体験した事実に基づいて供述しているのに対し,bの供述及びメモはb自身が体験した受注調整にかかる事実を供述等したものではなく,hらからの再伝聞であり,これを話したとされるh等もまた5社の会合の出席者ではないことからすれば,その正確性には限界がある。そして,いずれにしても,両者とも,5社間でストーカ炉について会合等で5社が平等になるように受注予定者を決定していたとの事実について供述しているところ,その信用性は,これを裏付けるに足りる各社の社内資料の証拠の有無等を検討してされるのであり,両者の供述が整合しないことをもって信用性がないとか,証拠価値がないということはできない。

(イ) 次に,被告はアウトサイダーへの協力要請やアウトサイダーからの協力は存在しないと主張するが,審決案(甲11)では概ね次のように述べている。

ユニチカのエンジニアリング事業本部のiが所持していた平成9年7月1日付けの社内検討メモ(甲サ109)には,ユニチカが南河内清掃施設組合の工事について受注予定者である日立造船から受注の協力要請を受けていたものと推認することができ,甲サ29,111,112,114ないし118によれば,石川島播磨重工が日立造船等との話合いによって,受注に関して調整がなされ,他社が協力することが確認されたことが認められるのであり,このような事実からすれば,アウトサイダーへの協力要請やアウトサイダーからの協力があったといえる。

ウ 受注調整が平成6年4月以前から行われていたこと

5社が談合行為を行っていた平成6年4月1日以降平成10年9月17日までの間に,地方公共団体が指名競争入札等の方法により発注したストーカ炉の建設工事の総発注数件数は87件である。

公正取引委員会審査官が違反対象工事として主張したのは60件であり,うち40件については個別証拠の存在を指摘した。

これに対し,審決案(甲11)は,具体的な証拠から,5社が受注予定者を決定していたと推認される工事として30工事を認定した。

本件工事は,審決案(甲11)で認定された工事に含まれていないが,これは,公正取引委員会の強制捜査で押収した資料その他から収集した資料の期間的限界によるものであり,一部を除き平成6,7年の工事が除かれたのである。

しかし,甲サ33,47の三菱重工のjの供述及びメモには平成6年以前から受注調整が行われていたことを直接認める記述があり,甲サ81,甲サ107によれば,平成6年,7年の工事についても談合対象工事とされていたことが認められるのである。

審決案(甲11)は,認定した工事以外の工事についても,5社は,地方公共団体が発注するストーカ炉の建設工事の過半について受注調整があったとしているのであり,平成6年,7年の入札については,具体的な価格調整の事実を認定できる証拠が存在するものを除いて認定から除外したにすぎず,審決案が具体的に認定しなかった平成6年の入札についても本件基本合意の実施がなされていたことが確認できる。

エ 本件工事における談合行為の存在について

(ア) 本件工事における個別談合

被告ら5社は,平成6年4月以降上記入札期日前又は平成6年4月以前の近接した時期に,東京都内ないしその近傍において,開催した5社の受注調整のための会合の際,本件工事をリストアップし,被告は,本件工事について受注希望を表明し,5社は本件工事について被告を受注予定者として決定した。

上尾市は,5社のみを指名業者とすることとし,5社は上尾市による本件工事の入札参加業者としての指名を受け,その入札に参加する際,被告が本件工事を落札することに協力する意思で,被告が入札価格を決定し,被告を除く他の4社は,被告からの連絡を受けた価格で応札し,被告がその定めた価格で受注できるように協力した。

被告は,そのような経過で,本件工事を落札した。

(イ) 個別談合の主張と立証について

個別談合の主張の特定性は,既判力の対象を区切るものとして必要十分であるかどうか,被告に攻撃防御を尽くさせるために必要十分であるかどうかという観点から判断されるべきものである。とすると,原告の主張の範囲で特定は十分である。

そして,経験則に照らしても,基本合意が存在し,その後に入札が行われ,基本合意を行った企業が落札をしたということであれば,基本合意に従って,当該工事の落札者が落札できるような個別合意がなされたと判断するのが常識的であり,基本合意の存在と基本合意が継続して実際に実施されていた事実が立証されれば,本件工事について直接の証拠がなくとも談合して落札していたと認めることができる。

したがって,談合があったとされている工事について特段その合意に従わなかったという事実を被告が主張立証しない限りは,基本合意どおりに実行されたと推定されるべきである。

(ウ) 基本合意の存在とその実行

5社は,ストーカ炉の建設工事の施工実績の多さ,施工経歴の長さ,施工技術の高さからストーカ炉の建設工事についてプラントメーカーの中にあって「大手5社」と称される存在であり,5社は,平成10年9月17日までの間,ストーカ炉の建設工事について,その情報収集力,製造能力,指名実績及び受注実績において5社以外のプラントメーカーに比べて優位にあった。

このような5社は,地方公共団体が指名競争入札等の方法により発注するストーカ炉の建設工事の市場において,5社の意思によって同工事に対する事業活動の在り方を変化させることにより,同工事の価格,建設計画の内容(ストーカ炉の規模,品質,仕様)を相当程度までコントロールすることが可能であったといえる。

そして,被告ら5社で業界を相当程度支配できることから同業界の優越的地位を利用し,長期間談合が続けられてきた。ごみ焼却施設が1基数十億円から数百億円となる大型プロジェクトである一方,計画からその実施まで長い工事で10年を有するものもあって,それに要する営業費用,受注準備費用も多額に上る上,仮に受注できない場合には,巨額の経費を無に帰すこととなるのは,大きなリスクを負担することとなるため,そのリスクを受注調整により回避することは5社にとってお互いの利益となる。そのため,被告ら5社は談合して受注調整を図るための基本合意を行ってきたのである。

そして,5社が実質的には平成6年4月以前からごみ焼却施設の受注においてその調整を行っていたこと,本件工事も時期・機種・規模において受注調整の対象となっている工事であること,5社はそれぞれ毎年1回ないし数回の会合をもって,受注希望を表明し,基本合意に従って受注調整していたこと,本件工事は5社のみが指名された工事であること,落札率は100%と異常に高率であること等が認定できるのであり,本件工事も被告らの受注調整の結果,被告が受注した工事であると認めることができる。

(エ) まとめ

したがって,被告は,談合行為により被った上尾市の損害を賠償する責任があるといわなければならない。

(被告の主張)

ア 総論

(ア) 原告らの請求原因事実(個別談合)の不特定

原告らは,本件訴訟において,5社が談合を行ったなどとして不法行為に基づく損害賠償請求をしているが,主張書面における記載をみる限り,原告らが主張する談合行為の内容は全く具体的に特定されていない。原告らの主張は本件訴訟の請求原因事実たる個別談合に関してその具体的内容・方法,その日時・場所等の具体的内容に関して,請求原因事実として最低限の特定すらなされていないものである。

したがって,不法行為に基づく損害賠償請求において原告側が主張立証すべき要件事実としての具体的事実主張が欠如しており,主張自体失当といわざるを得ない。

(イ) 個別談合に関する立証の欠如

原告らの主張は,本件訴訟の請求原因事実とは全く異なる基本談合に関する主張にすぎず,それも,被告を被審人の1人として公正取引委員会において現在係争中である独占禁止法違反審判事件(別件審判事件)における当事者の一方にすぎない公正取引委員会審査官が行った主張を引き写したものにすぎない。

別件審判事件の審査官の主張立証についても,別件審判事件において被審人らが既に反論反証しているとおりであり,実質的な証拠はおろか何ら証拠も存在しない事柄について憶測に憶測を重ねた空疎な主張を展開したものにすぎない。かかる審査官の主張に全面的に依拠した原告の主張立証も極めて不十分なものといわざるを得ない。

そもそも原告らは,上尾市の本件工事について原告らの主張するような談合行為がいつ,どこで,誰によってどのような内容で行われたかについて何ら具体的な主張立証を行っていないのである。

イ 本件基本合意に関する反論

(ア) ごみ焼却炉建設工事及びその営業の特殊性

原告らの本件基本合意に関する主張は,ごみ焼却炉の営業実態を全く理解せずになしたものといわざるを得ない。

まず,ごみ焼却炉建設工事は,物件ごとに機種や発注形態(JV,分離発注,一括発注)が異なるのはもちろん,同じ機種・発注形態であっても,処理能力が同じであれば同じ工事がなされるというものではない。特にごみ焼却炉の建設工事は,材料や工法は指定せずに基本的な性能等のみを規定するいわゆる性能発注の方法によってなされるため,発注条件において規定されていない点については,メーカーごとの裁量の幅が大きく異なる。

また,工事期間については,工事は個々の地方自治体により発注されるものであって,その時期は当然様々なものとなり,決して定期的に発注されるような性質のものではない。のみならず,建設が計画されても,それから実際の発注までに長期間かかるのが通常であって,加えて発注までにかかる時間は物件ごとに大きく異なり,計画がもち上がったにもかかわらず発注されずに計画がつぶれることすら少なくない。

さらに,発注されるとしても,その機種や発注形態も直前まで決定されない。同様に,入札における指名メーカーも,物件ごとに異なり,大手メーカーといえども指名からもれてしまうことがないわけではない。特にごみ焼却炉の建設工事は性能発注であり,メーカーが設計から担当することとなるため,メーカーごとの技術の特徴や差が焼却炉の建設に大きく反映されることとなる。各地方自治体は,メーカーごとに技術力の違いがあることや,焼却炉の構造がメーカーごとに異なることを把握しており,指名競争入札における指名業者の選定に際しては各業者の技術力や設計内容を重要な判断材料としている。このため,いくら各メーカーの営業担当者が受注に向け努力しても,地方自治体が技術力や炉の構造などの条件で指名業者を決定してしまうこともあり,必ずしも営業活動だけで指名が獲得できるというものではない。

以上の事情に加え,ごみ焼却炉の立地条件も多様であり,その建設工事は,メーカー側にとってみれば,物件ごとの個別性と受注までの不確定要素が非常に大きいものということができる。その上,ごみ焼却炉建設工事は,物件ごとの受注金額が巨額となるだけでなく,その費用もまた巨額となるため,一件一件の受注の成否が会社経営に大きな影響を与えるものである。その影響の大きさを考えあわせれば,別件審判事件において審査官の主張するような「普遍的な基本合意だけを決定する」とか,「被審人間で処理能力トン数を基礎とした『指数』が均等化すれば,被審人間の公平が図られることになる」とか,このような「基本合意に基づいて数年先に発注が予定されている物件についてまで受注予定者が決定されていた」などということは,営業実態に照らしても実際問題として想定できない。仮に,本件に基本合意や「指数」が存在したとの前提をとったとしても,そのような基本合意や指数が実際に拘束力あるものとして機能し得たとは到底考えられないのである。

(イ) 本件基本合意に関する原告らの立証の内容及び信用性に多くの疑義があること

a 原告らは,本件基本合意を立証する証拠として,甲サ28及び甲サ46(三菱重工のaの供述調書)並びに甲サ35(被告日本鋼管のbのメモ)及び甲サ44(bの供述調書)を挙げている。

b しかし,基本合意があったとされるからには,当然のことながらその内容が一致していなければならないが,上記証拠の記載内容は一致していないことは一見して明白である。例えば,物件の分類基準について,aの供述調書とbのメモ及び供述調書との間に相違がみられる。

c また,bの供述調書及びメモは,原告らが主張する5社の会合の出席者でもない被告日本鋼管の社員らから聞いた話を,5社の出席者でもなく,ごみ焼却施設の営業経験すら乏しいbが審査官に対して供述した又は書面化した再伝聞証拠で,その証明力は極めて乏しいものである。すなわち,bは,被告日本鋼管の大阪支社の一営業担当者にすぎず,また,bが被告日本鋼管の大阪支社機械プラント部環境プラント営業室長に就任したのは平成8年7月のことであり,bは上記室長就任前は専ら下水道の営業に携わってきたのであって,ごみ焼却炉の営業については全く経験がなかったのである。のみならず,甲サ44の作成に至った取調べも午前9時30分ころから午後10時ころまで,途中に昼食のための休憩を1時間程度入れたほか,休みなく続けられたものであり,非常に過酷なものであり,また,取調べにあたった審査官は「この調書は裁判に提出しない」,「b室長に対する取調べは今後行わない」などといってbに対し調書に押印するように申し向けたのであるから,bに対する取調べが不当なものであったことはいうまでもなく,そのような取調べの結果作成された供述調書の証明力には重大な疑義があることは明らかである。

また,甲サ44を作成した審査官によれば,bの供述調書の内容は,被告日本鋼管の社員らがbに飲み屋で一杯やりながら話したものであるとするが,自分の会社が関わっている談合についての情報について酒席で話すことが不自然かつ非常識であることは論をまたない。

さらに,bのメモ及び供述調書は,その内容自体にも矛盾がある。

このように,bメモ及び供述調書は信用性には大きな疑問がある。

d また,三菱重工のaの供述調書については,別件審判事件において審査官が開示・提出した甲サ161ないし176により,その信用性が疑わしいものであることが明らかとなった。

すなわち,甲サ161ないし176によれば,甲サ28及び46の供述調書が作成された平成10年9月17日のaに対する事情聴取は到底適切なものとはいえないものであったこと,及びaはその後の取調べにおいて,甲サ28及び46とは異なる供述をしており,受注調整行為の存在を一貫して否定しているのである。

そもそも原告らが依拠する2通のaの供述調書(甲サ28及び46)は,いずれも審査官が本件について立入検査を行った平成10年9月17日当日に,aを公正取引委員会に半ば強制的に同行して作成したものであり,その頁数としてもそれぞれ6頁程度の短い内容にすぎない。その後に作成された多数のaの供述調書に照らしても,当初の2通の調書において具体的な事実関係をaが任意に述べたものとは解せず,その後に作成された多数のaの供述調書の内容こそ,落ち着きを取り戻したaの認識を録取したものである。

以上のように,本件基本合意の存在を裏付けるものとして原告らが依拠する中心的な証拠自体,その内容及び信用性の両面において多くの疑義が存するのである。

(ウ) 本件基本合意に関する原告ら主張の「指数」論が破綻していること

原告らは,本件基本合意において,「受注予定者は各社の受注が均等になるようにすることを念頭において決定する。これは,各社が受注する工事のトン数の合計が均等になるようにし,各社の受注実績等を基にあらかじめ算出した数値を勘案して行う。」と主張している。

しかし,別件審判事件において審査官自らこの主張を撤回しており,また,実際に「指数」を勘案して受注予定者を決定した事例がないことも審査官は自認している。

また,そもそも,ごみ焼却炉が建設されるまでには,計画から数年,数十年とかかるものすらあり,その方法も,地元有力者等の支援者のルートを作るなどして,第三者の協力も得ながら展開していくものであり,メーカー各社とも長期にわたって多大の手間と費用をかけて,いくつもの物件についての営業活動を粘り強く行っている。そのため,一件の工事の受注までに要するコストも必然的に多額になる。にもかかわらず,原告らの主張によれば,各物件の受注予定者は,入札直前に行われるたった数回の話合いや,その時点の「指数」を勘案して決まるということになる。これは,それまでに各社が要したに違いない費用と時間を考えると,あまりにも経済的合理性を欠く行動であって,到底想定できない。

以上のとおり,原告らの主張する「指数の均等化」について,その核となる「指数」について,根本的な点が依然として不明のままで何ら立証されていない。

また,原告らは,張り付け会議と称する会合を開催して受注予定者を決定していたとも主張するが,ごみ焼却炉メーカーの営業担当者は,ごみ焼却炉メーカー等で構成する社団法人全国都市清掃会議及び社団法人日本環境衛生工業会(当時)の賛助会員幹事会等の会合において打合せ等を行う機会があり,また,こうした公的機関での会合以外にも打合せを業務上の必要性に応じて行っていたものであり,原告らが主張するような受注予定者決定等を目的とする会合ではない。

(エ) アウトサイダーへの協力要請及びアウトサイダーからの協力など存在しないこと

さらに,原告らは,本件基本合意の内容として「5社以外のプラントメーカー(アウトサイダー)が入札に参加することとなる場合,受注予定者は,自社が受注できるように協力を求め,その協力を得る。」と主張している。

しかし,別件審判事件において審査官は,結局アウトサイダーの誰が被審人らからの協力要請を受けたのかは不明であることを自認している。

アウトサイダーたるクボタ及び荏原製作所が,5社から協力要請を受けた事実も協力に応じた事実もなく,5社の協力を得て受注に成功した事実もないことについては乙審C5及び6からも明白である。

また,原告らは,5社は,「アウトサイダーが入札参加者にならないよう,発注者に対して5社のみを指名するよう働きかける」と主張するが,指名競争入札において指名業者をできるだけ絞る方向で営業活動を行うことは,入札における落札の可能性を高めるために通常行われていることである。

現に,別件審判事件において対象工事とされた60工事のうち,過半数を占める31件もの物件についてアウトサイダーが入札に参加しているのであって,この数字を見ても本件基本合意を実効性のあるものとするために指名業者を5社に絞り込むようにしていたとする主張が机上の空論であることがわかる。

(オ) 小活

以上述べたとおり,原告らが主張するような本件基本合意が存在した事実すらなく,これに関する証明力ある証拠は一切存しないのであり,この点に関する原告の主張は失当である。

ウ 本件工事が談合対象工事であったとする原告らの主張について

(ア) 本件入札の立証に関する原告らの主張について

上述したように,5社が本件基本合意をしたとする原告らの主張は失当であるから,本件基本合意に基づいて本件工事の入札においても談合が行われたなどという原告らの主張が前提からして失当であることは明らかである。

原告らが不法行為として主張する独占禁止法上の入札談合は,受注予定者及び受注予定価格の決定を意味するものであって,談合参加者において,①まず,受注予定者の選定方法等を定める基本ルールを合意し(基本合意),②続いて,基本合意を実行するに当たり具体的な入札案件ごとに指名業者間で個別に落札予定者を決め,他の指名業者の入札価格を調整し(個別談合),③最後に,個別談合の実行として受注予定者が落札して,発注者と契約を締結する(実行)という3つの段階を経ることになる。

そして,原告らが談合の存在を主張するごみ焼却炉建設工事の入札手続はそれぞれの案件ごとに行われたものであり,仮に基本合意が存在したとしても,個別談合が行われない限りは当該案件に関する談合行為の実行があり得ないこと,また,必ずしもすべての入札で個別談合が行われるとは限らないものであることから,原告らが主張立証責任を負う不法行為としての具体的事実は,契約締結により上尾市に生じたとする損害と因果関係のある違法行為,すなわち,別件審判事件において独占禁止法上審理の対象とされている本件基本合意の存在ではなく,民法上の不法行為となり得る本件入札に対応した個別談合行為の存在である。

そもそも公正取引委員会が行う審判とは,公正取引委員会が,競争秩序の回復ないしは形成という公共の利益の保護を目的とした行政処分を行う手続であって,地方公共団体が被った損害の回復を図ることを目的とした私法上の救済を求めるための損害賠償請求訴訟とは全く性質を異にするものである。審理対象についても,別件審判事件においては,基本合意の事実の有無であるのに対し,本件訴訟においては,特定の入札に関する不法行為たる談合行為とその実行の有無なのであって全く別個の事実なのである。

この点,原告らから提出されている書証のどこを見ても,上尾市が発注した本件契約に係る本件入札における談合に関する直接証拠は一切存在しない。本件工事は単に違反対象とされた60件の工事に含まれているというだけであって,本件入札について,談合によって被告が受注したものであることを示す具体的かつ実質的な根拠は全く存在しないのである。

以上のとおり,別件審判事件における審理対象事実と本件訴訟における審理の対象事実とはそもそも全く別個の事実であって,かつ,別件審判事件においても,基本合意と個別合意が同一の機会に形成されたとの事実や主張すらないのであるから,原告らは,本来,あくまでも上尾市が発注した本件入札についての受注予定者及び受注予定価格の決定,すなわち個別談合を主張立証しなければならないのである。

(イ) 落札率に関する原告らの主張について

原告らは,本件入札の落札率が予定価格の100%であったなどとして,これが談合の存在を推認させる事実であるなどと主張するようである。

しかし,仮に本件入札における落札率が高率であったとしても,一般に,予定価格については入札当日に作成されて直ちに封緘され開札の際に開封されるという手続が取られ,事前に予定価格が漏れるということはないのであるから,5社の競争に基づく適正な入札が行われたことを前提として結果的にそのような事実が生じたにすぎないのであり,本件入札に際して原告らが主張するような談合行為が行われたことを推認させる間接事実になり得るものではなく,特に,最近は各社の価格積算制度が向上しており,そのような競争も激化する中で,いかに予定価格に近い金額で,かつ,予定価格をオーバーせずに一番近い札を入れるかについては,まさに営業担当者の経験と手腕によるものであり,他者との熾烈な競争を行っているのが実態なのである。

したがって,原告らの上記主張は単なる想像にすぎず具体的な証拠となり得るものではない。

エ まとめ

以上述べたとおり,原告らが主張するような本件入札に先立つ受注調整が行われた事実はなく,またこれに関する実質的な証拠は一切存在しないのであるから,原告らの主張は失当である。

(3)  争点3(損害額)について

(原告らの主張)

ア 予定価格とは,個々の工事費用について具体的積算により算出される実勢価格のことであり,他方,最低制限価格とは,その価格以上であれば手抜き工事がなされることなく当該工事に必要な質が確保できる最低限度の額のことである。そして,最低制限価格ないしそれに近い額で落札したとしても,落札業者にとっては,利益のある落札なのである。そうだとすれば,入札に参加し落札を目的とする以上,個々の入札参加業者は,できるだけ落札価格を値引きしていくのが当然の事柄であって,その結果は落札価格は最低制限価格に近づいていくはずである。

ところが,談合行為とは,談合に参加した業者の利益を確保していくために,価格を調整し,談合行為により落札予定業者となった業者において入札価格を予定価格の上限近くに設定し,入札参加業者に対しては,落札予定業者を通じて,各社の入札価格を協議決定し,もしくは指定して,必ず落札予定業者が落札できるように調整を行うのである。

その結果,落札価格は,入札予定価格の上限に近づき,本来入札制度が予定している公正な自由競争が阻害され,公正な自由競争に基づいて入札が行われたならば得られていたはずの適正価格を大きく上回ることとなる。その本来予定されている適正価格と現実の落札価格との差額が上尾市の被った損害である。

イ 談合による入札の結果地方自治体が被った損害額を認定するについては民事訴訟法248条による「相当な損害額」の認容が認められる。

そして,その損害額は請負代金の20%を下らない。

また,競争が成立したと推定される同種の工事の落札率(入札予定価格に対する落札価格の比率)をみると以下のとおりである。

発注元地方公共団体名等

落札率

北信保健衛生組合

75.97%

加茂衛生施設利用組合

50.24%

知多南部衛生組合

73.69%

有明広域行政事務組合

80.17%

児玉郡市広域市町村圏組合

89.86%

広島市

88.78%

下関市

88.71%

尼崎市

90.37%

大月都留広域事務組合

74.33%

ストーカ炉の入札のうち,公正取引委員会の対象となり談合が推定される工事60件については大半が落札率94%以上であり,特に40件は98%以上であるのに対し,談合がないと推定される入札の結果は上記のとおりであり,仮に入札参加業者間に談合がなく,競争が実質的に成立したとすれば,落札率が90%以上あるいはそれよりはるか下の水準まで低下したであろうことが明らかである。

さらに,談合防止策を講じて成果が上がったとされる地方自治体の例をみても,10%から25%の低減効果があったとされている。

ウ そうすると,本件の談合行為によって上尾市が被った損害は本件契約価格の10%ないし20%であり,談合に参加した被告らは,談合という共同不法行為を通じて契約金額を不当につり上げることによって,工事発注者である上尾市に対し,10%ないし20%相当の損害を与えたのである。

仮に,20%と想定すると,本件契約代金は177億1600万円であるので,消費税を除いたその20%相当の差額金は34億4000万円であり,上記金額が談合行為によって上尾市が被った損害である。

(被告の主張)

まず,原告らは,最低制限価格ないしそれに近い金額で落札しても落札業者は利益を得られるなどと主張するが,最低制限価格は手抜き工事・不良工事防止の観点から定められる一定の目安金額にすぎず,落札者が利益を得られるための最低限の価格を意味するものではないから,その主張に根拠はない。

また,原告らは,入札参加業者はできるだけ落札価格を値引きしていくのが当然であるなどと主張するが,入札参加業者にとっては,他の入札参加業者の入札金額を予想しつつ,自社の利益を確保するためできる限り予定価格に近い入札金額を決定することこそが企業経営上当然の合理的経済行動であって,原告らの主張は実務を知らないでなした空論であり失当である。

さらに,原告らは,損害額は請負代金の20%を下らないと主張するが,具体的に20%という数値を導いた根拠は不明であり,この点に関する立証も何らなされていない。原告らが挙げる例は公正取引委員会審査官の一方的な主張・憶測にすぎない。上記審査官の主張も,単に落札率90%を基準にして,それより高ければ談合が行われていた,それよりも低ければ談合が行われていないと決めつけているのであって,何の根拠もない主張であって,結局原告らの主張も何の根拠もないのである。

第3当裁判所の判断

1  争点1(監査請求期間徒過の有無)について

(1)  地方自治法242条1項は,普通地方公共団体の住民が当該普通地方公共団体の違法,不当な財務会計上の行為又は怠る事実につき監査請求をすることができるものと規定し,同条2項本文は,上記監査請求の対象事項のうち行為については,これがあった日又は終わった日から1年を経過したときは監査請求をすることができないと規定している。一方,上記の対象事項のうち怠る事実についてはこのような期間制限は規定されておらず,住民は怠る事実が現に存する限りいつでも監査請求をすることができると解されるが,怠る事実を対象としてされた監査請求であっても,特定の財務会計上の行為が財務会計法規に違反して違法であるか又はこれが違法であって無効であるからこそ発生する実体法上の請求権の行使を怠る事実を対象とするものである場合には,当該行為のあった日又は終わった日を基準として地方自治法242条2項を適用すべきものである。

しかし,怠る事実については監査請求期間の制限がないのが原則であり,その制限が及ぶというべき場合はその例外に当たることに鑑みれば,監査委員が怠る事実の監査を遂げるためには,特定の財務会計上の行為の存否,内容等について検討しなければならないとしても,当該行為が財務会計法規に違反して違法であるか否かの判断をしなければならない関係にはない場合には,当該怠る事実を対象としてされた監査請求は,地方自治法242条2項を適用すべきものではない(最高裁平成14年7月2日判決・民集56巻6号1049頁参照)。

(2)  そこで,本件をみると,本件監査請求は,上尾市が被告に対して有する損害賠償請求権の行使を怠る事実を対象事項としているところ,当該損害賠償請求権は,被告らが談合をした結果に基づいて被告が上尾市の実施した指名競争入札に応札して落札の上,上尾市と不当に高額の代金で請負契約を締結して上尾市に損害を与える不法行為により発生したとするものである。これによれば,本件監査請求を遂げるためには,監査委員は,上尾市が被告と請負契約を締結したことやその代金額が不当に高いものであったか否かを検討せざるを得ないが,上尾市の上記契約締結やその代金額の決定が財務会計法規に違反する違法なものであったとされて初めて上尾市の被告に対する損害賠償請求権が発生するのではなく,被告らの談合,これに基づく被告の入札及び上尾市との契約締結が不法行為法上違法の評価を受けるものであること,これにより上尾市に損害が発生したことなどを確定しさえすれば足りるのであるから,本件監査請求は上尾市の契約締結を対象とする監査請求を含むものとみざるを得ないものではない。とすれば,本件監査請求には地方自治法242条2項の適用がないものというべきであり,その適用を前提として本件監査請求は不適法なものとする被告の主張は採用できない。

したがって,本件監査請求が適法である以上,適法な監査請求を経た本件訴えも適法なものというべきである。

2  争点2(談合行為の有無)について

(1)  前提事実

基本的事実関係に加え,証拠(適宜掲記する。)及び弁論の全趣旨によれば以下の事実が認められる。

ア 5社の位置づけ

5社は,ストーカ炉の建設工事の施工実績の多さ,施工経歴の長さ,施工技術の高さからストーカ炉の建設工事について,プラントメーカーの中にあって「大手5社」と称されていた(甲サ14,18,20,28,31,33)。

5社は,ストーカ炉を製造する技術も高く,特に1炉につき1日当たりのごみ処理能力トン数が200トン以上の焼却炉を製造する能力については他社に比べて優位性を有していた(甲サ29,34,45)。

イ 5社の情報収集力

5社は,地方公共団体のごみ焼却施設の建設計画や保有するごみ焼却施設の稼働状況等の情報が掲載された業界紙等を基に,各地方公共団体ごとのごみ焼却施設の建設計画の有無及びその既存施設の耐用年数による概ねの更新時期を把握していた。

さらに,5社は,これらの情報を基に本社及び支店等の営業担当者が,地方公共団体のごみ処理施設建設に関係する部署の担当者,地方公共団体がごみ処理基本計画などの作成を委託しているコンサルタント会社,建設計画に影響力のある政治家や地元の有力者等から,あるいは関連会社及び代理店を介して,地方公共団体のごみ焼却施設の建設計画について情報収集をしていた。また,地方公共団体のごみ焼却施設整備計画書を作成するに当たり,当該計画に係る参考見積書又は見積設計図書の作成依頼を受けることにより,ごみ焼却施設の建設計画についてより詳細な情報を把握していた(甲サ13,18,24,42,47,50ないし53,120,123,156ないし159)。

ウ 指名実績

5社を含むプラントメーカーが,平成6年4月1日から平成10年9月17日までの間,地方公共団体が指名競争入札の方法により発注したストーカ炉の建設工事につき指名を受けた実績(一般競争入札に参加した実績を含む。)については,タクマが95.4%,三菱重工が93.1%,被告日本鋼管が94.25%,川崎重工が89.7%,日立造船が89.7%,クボタが54.0%,荏原製作所が50.6%,住友重機械工業が17.2%,ユニチカが16.1%,川崎技研が10.3%,三機工業が10.3%,石川島播磨重工が6.9%であり,5社と5社以外のプラントメーカーとの間の指名実績には格差があった(甲サ29)。

エ 受注実績

5社を含むプラントメーカーが,平成6年4月1日から平成10年9月17日までの間,地方公共団体が指名競争入札等の方法により発注したストーカ炉の建設工事につき受注した実績については,タクマが4733トン,日立造船が4680トン,三菱重工が4198トン,被告日本鋼管が3811トン,川崎重工が3042トン,クボタが900トン,住友重機械工業が795トン,荏原製作所が697トン,三機工業が319トン,川崎技研が134トン,ユニチカが60トンであって,5社と5社以外のプラントメーカとの間の受注実績には格差があった(甲サ29)。

(2)  5社の基本合意の存在を示す証拠について

ア a供述及び他の会社関係者等の供述等の存在

(ア) a供述(甲サ28,46)

a 三菱重工の機械事業本部環境装置第一部環境装置一課長の職にあったaは,公正取引委員会における事情聴取において,概ね次のとおり供述している。

「私は,昭和61年10月に三菱重工の本社環境装置一課に異動し,平成8年4月に環境装置一課長に就任し,ごみ処理プラントの官公需部門の営業の実質的な責任者として受注物件,販売価格を決めていた。私が営業を担当しているごみ処理プラントはストーカ炉と呼ばれるごみ焼却炉が主である。

自治体のごみ焼却プラントの物件の発注等の情報は,営業で自治体を回ったりする中で聞くほか,各自治体が厚生省(当時)に対して提出する整備計画書で知ることができる。ごみ処理プラントの種類,ストーカ炉か流動床炉かのどちらかもこの整備計画書で決まる。

5社の営業責任者クラスの者が集まる会合があり,私は,課長職となった平成6年4月以降,その会合に出席するようになった。その会合は,特に名称はないが,私は,単に「会」と呼んでいる。

この会合では,ごみ処理プラントの物件に関する受注調整を行っており,発注予定物件について各社が受注希望を出し,5社が平等になるような方向で各物件の受注予定者を決めている。この会で決めた受注予定者を『チャンピオン』と呼んでいる。5社は,ごみ処理プラントが発注される都度,チャンピオンが受注できるように協力している。5社以外のごみ処理プラントメーカーが一緒に指名を受けた場合は,チャンピオンが個別に当該プラントメーカーに協力を求めて,チャンピオンが受注できるようにしている。」(甲サ28)

「私は,5社の営業責任者クラスの者が集まる会合に出席している。5社は毎月1回くらい,出席各社持ち回りで各社の会議室で会合を開催することとなっていた。各社の持ち回りは50音順で,川崎重工,タクマ,被告日本鋼管,日立造船,三菱重工の順であった。5社の出席者は日立造船がc部長,被告日本鋼管がd次長,川崎重工がf部長,タクマがe課長であった(なお,甲サ46自体は人物の名前について黒塗りがなされているが,その記載内容については甲11,甲ア21等参照。)。5社は,会合を開催し,ごみ処理プラントの発注が予想される物件の受注調整を行っている。会合の出席者は,発注が予想される物件について,大分前から情報をつかんでおり,どのような物件があるかについて出席者全員が共通の認識をもっている。会合では,ごみ処理プラントの発注が予想される物件について,各出席者が,それぞれ受注を希望するか否かを表明し,受注希望者が1社の場合は,当該社が受注予定者つまりチャンピオンとなり,受注希望者が2社以上の場合は,希望者どおしが話し合って,チャンピオンを決めている。チャンピオンを誰にするかを決める基本は,各社が平等に受注するということである。ごみ処理プラントの場合,1日のごみ処理能力で計算しており,各社が受注するごみ処理プラントの処理能力の合計が平等になるようにチャンピオンを決めるという方法で行っている。受注希望者が2社以上になって話合いをしても決められない場合は,最終的には,どちらが多く受注しているかで判断することになるが,私が会合に出席するようになってから受注希望がかち合っても希望者どおしの話合いですべてチャンピオンが決まっていた。会合で話し合って,ごみ処理プラントの発注予定物件のチャンピオンを決めるに当たっては,ごみ処理プラントの処理能力によって1日400トン以上の大,200トン以上の中,200トン未満の小の3つに分けており,大,中,小それぞれに分けて,受注希望物件を確認して,チャンピオンを決めている。会合で決めたチャンピオンは,物件が発注された時点で会合のメンバーである5社以外の者が一緒に指名された場合は,相指名業者と個別にあって,自社が受注できるように協力を求めている。また,かなりの回数相指名となって自社が受注できるように協力させていた相指名業者には,時には物件を受注させる必要が生じ,このような場合は,チャンピオンが会合に諮って了承を受けた後,メンバー以外の相指名業者に受注させている。チャンピオンは指名を受けた物件について積算し,メンバーの5社を含めた相指名業者に入札の際に書き入れる相手方の金額を電話等で連絡して協力を求めている。この金額の連絡は,会合の出席者どおしで行っており,会合のメンバー以外の相指名業者に対しては,各社の営業責任者クラスの者に連絡している。私が会合に出席するようになってからは当社がチャンピオンとなった物件のほとんどすべては予定どおり当社が受注している。」(甲サ46)

b a供述の任意性

被告は,a供述について,aは具体的な事実関係を任意に述べたものではないとしてその任意性を争っている。

しかし,証拠(甲11,サ165,166,183)及び弁論の全趣旨によれば,公正取引委員会が三菱重工ら5社等に立入検査を行った平成10年9月17日に,公正取引委員会審査官がaに対し,話を聞きたいので来てほしい旨告げたため,aは審査官らとともに,歩いて20分から25分程度の距離にある公正取引委員会まで行ったこと,公正取引委員会における同日のaに対する取調べは,間に昼食を挟んで午前中から午後8時くらいまで行われたこと,aは,審査官から調書の内容を読み聞かされた上で調書に署名押印したことが認められる。

また,甲サ36及び80は,被告日本鋼管のdが所持していたノート及びメモであるが,甲サ36については「file_2.jpg」以下,甲サ80については「9/17file_3.jpg2人vs1人」以下の各記載は,会合の存在や会合の出席者について聞かれたことに答えた内容を記載したものとみられるところ,その内容はa供述の内容と類似するのみならず,甲サ36,80において「コーヒーをとりましたか。」や「たまには飲みますか→飲むこともあります。」などといった会合に関する細部の問答に関しても記載されている一方,甲サ46のa供述も会合においてコーヒーを飲んだことやたまに飲んだりしたことを述べているなど,dの上記ノート等(甲サ36,80)とa供述は,その内容の細部において一致していることから,dの上記ノート等(甲サ36,80)は,dがaの取調べの様子を聞き取ってメモしたものと推認できる。そうすると,aはその取調べの内容や自らの発言内容について理解し,記憶していたものと考えられるところ,dの上記ノート等(甲サ36,80)には,公正取引委員会審査官の取調べが不当であったことを窺わせる記載は何ら存在しない。

以上から,aの供述調書(甲サ28,46)は,取調べ初日に作られた調書であって,aは,自らの発言内容を理解し,審査官から調書の内容を読み聞かされた上で調書に署名押印したものと認められ,その取調べ時間や取調べに至る過程を考慮したとしてもその供述が任意でなかったものとはいえないし,その他,審査官の取調べがaの意思を抑圧するような不当なものであったとか,aが調書の内容も理解できないような状況にあったことを窺わせる事情を認めることはできない。なお,甲サ186,188等によれば,aは甲サ28,46に署名・捺印したのは長時間の取調べで早く帰りたいという気持ちがあり,署名しなければ帰してもらえないという圧迫感からやむなく調書に署名した旨供述するが,これらのことを考慮しても前記判断を左右するものではない。

c a供述の信用性

次に,a供述の内容は,5社の集まりに出席した者でなければ到底開示できない具体的なものであることに加え,後記のように,その供述内容に沿う他の多くの供述や各社の社内資料等が存在することから,その信用性は優に肯認し得るというべきである(なお,a供述の信用性については後に別途述べる。)。

(イ) 他の者の供述証拠等

a b供述等(甲サ35,44)

(a) 被告日本鋼管のbは,平成8年7月から大阪支社機械プラント部環境プラント営業室長であったものであるが,公正取引員会の事情聴取の際に,概ね次のように述べている(甲サ44)。

「私は,平成8年7月に大阪支社機械プラント部環境プラント営業室長として,ごみ処理プラントの受注業務の責任者として,5社がどのように受注予定者を決めているのか疑問に思っていた。平成8年の秋から冬にかけて本社環境プラント営業部の第二営業部長(h),第二営業室長,第一営業室係長から飲み屋でいっぱいやりながら聞いた。その内容は大手5社がチャンピオンを決めるルールの内容などについてであり,この話を取りまとめた上,メモに取りまとめた。甲サ35は,平成8年の秋から冬にかけて作成したメモであり,部下を指導するために作成したものである。甲サ35のストーカ炉の記載部分については,第二営業部長らから聞いた話を1週間後くらいにまとめたものである。

私が3人から聞いた内容は次のようなものであった。

『5社のみで指名競争入札が行われる場合には,5社のルールによってあらかじめ物件ごとにチャンピオンが決められる。5社に荏原とクボタの2社が加わって指名競争入札が行われる場合には,当社がチャンピオンとなっている物件についても,2社と話合いを行うが,必ずしもすべて受注できるかどうか分からないので,その物件を発注する自治体に対して,荏原とクボタの2社が指名通知を受けないように大阪支社が働きかけてくれ。これら7社に住友重機とユニチカが加わった9社で指名競争入札が行われる場合にも,住友重機とユニチカとも話合いを行う。5社の担当者が集まる張り付け会議と呼ばれる会議を年1回開催して,5社が情報としてもっているストーカ炉の物件について,5社が平等に分け与える形で,物件ごとにあらかじめチャンピオンを決めている。その会議で5社の各社から,チャンピオンになりたい受注希望の物件を述べて,その物件が1社の場合にはそのメーカーがチャンピオンになり,複数メーカーの場合にはそのメーカー間でその場でチャンピオンを決める。また,ストーカ炉物件ごとに400トン以上の大規模物件,100トン以上400トン未満の中規模物件,准連である100トン未満の小規模物件にそれぞれ分けて,5社の担当者が物件ごとにチャンピオンを決めていると聞いている。この会議でチャンピオンが決められた物件については,そのチャンピオンになったメーカーがその物件を受注する権利を持つとともに,5社以外の他のメーカーが入札に参加しないように発注先の自治体に働きかけるという義務を持つ一方,実際の指名競争入札が数年後に行われた場合でも,チャンピオンとなったメーカーは,その物件を受注する権利を持つ。5社以外の他メーカーが入札に参加する場合には,一部でたたき合いという事態が起こることも考えられ,チャンピオンとなったメーカーが必ずしも受注できるとは限らないので,その分については補填といった面倒はみない。』」

また,bが,h(当時環境プラント営業部第二営業部長)らから聞き取った話をメモした甲サ35には,概ね次のような記載がある。

「※ストーカ炉大手5社のルール

①大(400t以上),②その他全連(399t以下),③准連の3項目に分けて張り付け会議を行う。1年に1回その時点で明確となっている物件をだいたい各社1個づつ指定する。その後は,その物件は100%その会社が守る権利と義務が発生する。その物件が何年先かは関係ない。同年度に重なったりゼロであったりする。比率は5社イーブン(20%)。

その物件に5社以外のメンバーが入った時はたたき合いとなる。業界は補填等一切行わない。

20%のシェアを維持する方法は受注トン数/指名件数でありそのために指名は数多く入った方がベター。

指定する物件は,故に,最も5社指名が守りきれる営業力の強い地域を優先するため支社間のばらつきが発生する。」

(b) b供述等の信用性

被告は,b及びhらは,いずれも受注調整に関わる行為を直接体験した者ではないから,bの供述は再伝聞にすぎず,信用性がない旨主張する。

しかしながら,hは,5社の会合の出席者ではないものの,当時被告日本鋼管本社の環境プラント第二営業部長の立場にあり,主として西日本地区における営業活動を管理していた者であり,被告日本鋼管が「賀茂広域行政組合」工事について他の入札参加業者4社の1回目から4回目までの入札価格等を算出した資料(甲サ124)を所持していたこと(甲サ140参照。なお,詳細は後述する。)からも,受注調整に関わる諸々の情報を十分入手し得る立場にあったということができる。

また,bも,被告日本鋼管の大阪支社において,近畿一円の官公庁が発注するごみ処理プラントの受注業務等の責任者であった者であり,職務の性質上,かねてから各社の受注状況等に関心を持ち,業務上の知識も有していたことを勘案すると,bがhらから聞き取った内容には,相当程度の信用性を認めることができるというべきである。

なお,被告は,bとaとの供述内容は,受注予定者を決める基本受注の対象物件の区分等について相違し,矛盾している旨主張するので検討するに,受注予定者を決める基準として,aは,各社が受注するごみ処理施設の処理能力の合計が平等になるようにチャンピオンすなわち受注予定者を決める旨述べるが,bは,5社のシェアは平等の20%であり,これを維持する方法は受注トン数を指名件数で除したものであるとする。また,受注対象物件の区分についても,aは,ごみ処理施設の1日の処理能力が400トン以上を「大」,200トン以上を「中」,200トン未満を「小」として3つに区分してチャンピオンすなわち受注予定者を決める旨述べるが,bは,ごみ処理施設の1日の処理能力が400トン以上を「大規模物件」又は「大」,100トン以上400トン未満を「中規模物件」又は「その他全連」,准連である100トン未満の「小規模物件」又は「准連」に分けて,その区分ごとにチャンピオンすなわち受注予定者を決めるとするなど両者の供述等の間には,受注予定者を決める基準,受注対象物件の区分について若干の相違がみられる。

しかし,a供述,b供述は共に,5社が情報としてもっているストーカ炉の物件について,物件ごとにあらかじめチャンピオンと呼ばれる受注予定者を決めていること,5社はストーカ炉の建設工事の対象物件を3つに区分して,区分ごとにチャンピオンを決めていること,5社の会議(会合)において,各社から受注希望の物件を述べて,その物件が1社の場合にはそのメーカーがチャンピオンになり,受注希望者が2社以上の場合にはそのメーカー間でチャンピオンを決めるという方法により受注予定者を決定していることなどを述べており,まさに談合の核心的部分について共通する供述をしているのであり,a供述とb供述の間に上記のような若干の相違点があるとしても,a供述及びb供述の信用性がないということはできない。

b k供述等(甲サ42,43,49,102)

三菱重工のkは,平成8年3月中国支社機械一課に配属され,同年4月から同課課長となったものであるが,甲サ42の供述調書,甲サ43の審訊調書,甲サ102の供述調書において,概ね次のように供述している。

「私は,平成8年3月又は4月の前任者から業務の引継ぎを受けた際に,引継事項の一つとしてごみ焼却施設については業界の中で仲良く受注していくという慣行があることを聞かされた。つまり,当社を含む大手5社が機会均等に受注するために受注予定者を決めて受注予定者が受注できるようにするということである。通常業界では受注予定者のことをチャンピオンと呼んでいる。実際の入札でこの物件はどこの業者が受注予定者となるかについては各社の本社レベルで話合いが行われていることも聞かされた。」

また,kが前任者からの引継ぎ事項をメモしたとするノート(甲サ40)には,「MHI,川重,NKK,日立造船,タクマ」と5社の名称ないし略称と容易に推測できる記載の上部に「file_4.jpg5社 機会均等」との記載が,また同様のkのノート(甲サ41)に「業界で決まったことが最優先」と記載されていることが認められるところ,これらの記載は,kが前任者から5社が仲良く機会均等に受注するために受注予定者を決めているとする慣行について聞かされた旨の供述に沿う記載である。

c j供述等(甲サ47,108)

三菱重工のjは,昭和62年ころに中国支社化学環境装置課(後に機械一課と名称が変更された。)に配属されたものであるが,甲サ47及び甲サ108の供述調書で,概ね以下のように述べている。

「5社はごみ焼却施設の受注に際して受注調整を行っている。

私は,前任者の引継ぎにより5社間の受注調整が行われていることを知った。甲サ37は平成元年4月ころに前任者から引き継いだ文書であり,同文書の「file_5.jpg有 受注機会均等化」とは,5社間には受注調整のための協定が存在し,それによって,5社が自治体等が発注するごみ焼却施設を受注する機会を均等化していることである。私がごみ処理施設の営業を担当するようになってからも受注調整行為は行われており,現在も行われなくなったとは聞いていない。そのような受注調整行為は支社レベルではなく本社レベルで行われている。

本社からは,自治体等に対する営業活動に当たっては『大手5社に絞り込め。』と言われている。具体的には,指名を受ける業者を5社とさせるような営業活動を行えということである。そのため,私も自治体等の行う指名を5社に絞らせるような営業活動を行っている。

中国支社では各年度において営業目標として必注案件を設定し,これを本社に報告している。5社の間には,指名を得た件数又は処理トン数を分母とした一定の計算式があるのではないかと考えられる。」

そして,jが前任者から引き継いだ文書(甲サ37)には「※全連:大手5社file_6.jpg有 受注機会均等化(山積)・・極力5社のメンバーセットが必要(他社介入の時は条件交渉を伴う。)」と記載されている。

d l供述(甲サ45)

タクマのlは,平成10年6月から,環境プラント本部取締役本部長を務め,ごみ焼却炉の営業責任者であった。

lの公正取引員会審査官に対する供述調書(甲サ45)には,「私は,タクマの環境プラント本部営業部長から,受注獲得のための営業方針として,『1番目はコストである,2番目は当社の焼却炉の技術がまず発注者に認められる,3番目は発注者に認められたことをメーカー各社に認知していただければ,協力を得られるチャンスがある。』という話を聞いた。発注者に認められたことをメーカー各社に認知していただければ,協力を得られるチャンスがあるというのは,何としても当社が受注したい物件については,当社が他社との間で話合いを行い,当社の入札価格よりも高い価格で他社が入札することについて応じてもらい,他社の協力を得て受注するということである。他方,他社がどうしても受注したいという物件については当社が協力するということになる。」旨の供述部分がある。

e k,j,lの供述等の信用性

上記の者らの供述調書やノート,メモの作成経緯や記載内容についても何ら不自然かつ作為的なところはない。そして,その内容は,前記a供述やb供述に沿うものといえる。特にこれらの供述は希望するごみ処理施設の物件は会社間で話合いで決めるあるいは他社の協力を求める(l)という部分については共通しており,相互にその信用性を補完しているというべきである。

イ 5社の会合の存在

被告日本鋼管のdの供述調書(甲サ33),タクマのeの供述調書及び陳述書(甲サ104,乙審A8),川崎重工のfの供述調書(甲サ105)並びに日立造船のcの供述調書(甲サ139)によれば,5社の本社課長クラス又は部長クラスの者が集まっていたこと,具体的には,日立造船の環境事業本部営業本部東京営業部長のc,被告日本鋼管の環境エンジニアリング環境第一営業部第一営業室長のd,川崎重工の機械・環境・エネルギー事業本部環境装置営業本部営業開発第二部長のf(平成8年4月まではg),タクマの環境プラント本部東京環境プラント第一部第二課長のe,三菱重工の機械事業本部環境装置第一部環境装置一課長のaが集まって5社の会合を開催していたこと,これらの集まりは持ち回りで開催され,集まる場所については,基本的に,当番となっている会社に集まっていたことが認められ,これらのメンバーによる5社の会合が開催されたこと自体は被告も特に争っていない。

ウ 受注調整のための会合の存在を窺わせる証拠

(ア) 三菱重工のaが所持していたノート(甲サ67)には,400トン未満のごみ処理施設を列挙したとみられるリストのわきに,「1巡目は自由12/9,2巡目は自由,3巡目は200t/日未満」,「バッティングしたら12/18までに結着」と記載されているところ,その手帳の「12/9」は,甲サ180(aの供述調書)によれば平成8年12月9日を指すものとみられる。一方,被告日本鋼管の環境エンジニアリング環境第二営業部第二営業室統括スタッフのmが所持していた平成8年の手帳(甲サ76)には,ごみ処理施設を列挙したとみられるリストの下に,「①200t/日以上,②200t/日未満」,「12/92件 ①,②双方から,さらに1件 ②から,合計3件」,「粕屋5町はトン数確定せず 最初2件で選択されず残った場合は最後の1件(②区分)で選択可」との記載がある。これらの三菱重工のaのノートの記載と被告日本鋼管のmの手帳記載は,内容,日付が一致するものであり,前記a供述を勘案すると,平成8年12月9日に,400トン未満200トン以上の工事及び200トン未満の工事について,最初は自由に2件ずつ選択し,さらに200トン未満工事について1件選択するという受注調整のための会合が開かれたことを窺わせるものである。

(イ)a 被告日本鋼管は,工事を「全連400トン以上」,「全連200トン以上400トン未満」及び「全連200トン未満」に区分したリスト(甲サ57ないし62)を所持していた。そのうち平成9年9月1日ころ作成されたと認められる甲サ60の2枚目には「全連小型(200t未満) 9/29 2~3件 大型10/16,1件,中型10/29,2件? 9/11 大,中,小 対象物件確定」,「一緒になった場合,規模,管理者,建設用地(企業城下町) これらの指標をみて話し合い」,「救済措置あり 同規模追加できる 増えた会社次回調整」などの記載がある。また平成9年9月11日作成と思われる甲サ62,63のリストの表紙にはいずれも「全連200t未満 3件 9/29(月) 200t以上~400t未満 2件 10/29(水) 400t以上 1件 10/16(木)」との記載がある。

b また,被告日本鋼管の文書で平成9年12月17日ころ作成されたと認められる甲サ58のリストの右下隅には「file_7.jpg張付け」との記載がある。一方,日立造船の文書で平成10年1月27日に作成されたものと認められる甲サ55のリストには「中型の対象物件送付します。1/30ハリツケする予定です。」との記載がある。

c さらに,被告日本鋼管の環境エンジニアリング環境第一営業部長であるnの手帳(甲サ73)の平成10年3月26日の欄には「file_8.jpg<中小型物件はりつけ>」との記載があり,三菱重工の機械事業本部環境装置第一部環境装置部次長であるoの手帳(甲サ79)の平成10年3月26日の欄には「最終決定」との記載がある。

d そして,三菱重工の社内文書である甲サ96の平成10年3月26日における記載として「file_9.jpg会合で中国五県の話は出なかった。引き続き営業強化宜しく。」と記載があるところ,上記記載をした三菱重工の中国支社機械一課長のkは,「甲サ96の『file_10.jpg会合』との記載は三菱重工の環境装置一課長のaから聞いた言葉をそのままメモしたものであり,東京での受注調整のための会合であると認識していた。」旨述べている(甲サ102)。さらに,甲サ96の文書を受け取った三菱重工の中国支社機械一課主任のjは,上記文書について「3月26日の『file_11.jpg会合』,いわゆるごみ処理施設の受注調整を行う会合において島根県,鳥取県,岡山県,広島県,山口県の中国5県の話はでなかったというように読める。」旨述べている(甲サ103)。

e 前記のように,aは,「5社において,受注調整のための会合を開いており,発注予定物件について各社が受注希望を出し,5社が平等になるような方向で各物件の受注予定者をきめております。」と供述しているところ,被告日本鋼管や日立造船の文書に共通して,平成10年1月30日に張りつけをする旨の記載があり,被告日本鋼管のnの手帳の平成10年3月26日欄には「<中小型物件はりつけ>」の記載があること,三菱重工の社内文書(甲サ96)で「3/26日file_12.jpg会合」旨の記載があり,三菱重工のk,jはそれは受注調整のための会合と認識できると供述していること等に照らすと,上記証拠の各発注予定のリスト,「file_13.jpg会合」,「増加した会社次回調整」,「張りつけ」,「ハリツケ」,「はりつけ」などの記載は,a供述に示されているとおり,受注調整のための会合やそこにおける受注希望表明ないし決定(あるいはそのための社内準備)を意味するとみても不自然ではない。

エ 5社の間で将来発注予定の工事に関し,受注予定者の決定が行われたことを窺わせる証拠の存在

(ア) 甲サ89

a 川崎重工の機械・環境・エネルギー事業本部環境装置営業本部西部営業部参事であったpが所持していた「年度別受注予想」と表題が記載されたリスト(甲サ89)は,同文書のリスト欄外上部に「H07.09.28」と記載されていることから平成7年9月28日ころ作成したものと認められ,その1枚目の記載内容は別紙2のとおりである。上記リストは,平成7年9月28日ころ,平成8年度から平成12年度以降に発注が見込まれる工事を年度別に「K」,「M」,「H」,「N」,「T」と大きく5つに分類した上でそれぞれのアルファベットごとに「-S」,「-F」の2つに分類して記載したものと認められる(そして,甲サ87や弁論の全趣旨によれば,「K」は川崎重工,「M」は三菱重工,「H」は日立造船,「N」は被告日本鋼管,「T」はタクマを示すものと認められる。)。

これらの工事のうち「-S」欄に記載された79工事について実際に平成10年9月17日までに指名競争入札等によって発注されたストーカ炉の建設工事(別紙1参照)とを比較すると,甲サ89の以下の工事が実際に発注された以下の22工事と対応することがわかり,甲サ89の1枚目の「-S」欄は発注が見込まれるストーカ炉の建設工事について記載したものと推認することができる。

別紙1記載の工事

甲サ89の1枚目の記載

年度

工事

受注業者

番号

工事

縦列

年度

H8

三原市

三菱重工

45

三原市

M-S

H8

日南地区衛生センター管理組合

クボタ

46

日南市

N-S

H8

苫小牧市

被告日本鋼管

(JV)

49

苫小牧市

N-S

H8

宇城八か町村清掃施設組合

川崎重工

50

宇城七

K-S

H8

置賜広域行政事務組合

タクマ

51

置賜市

T-S

H8

久居地区広域衛生施設組合

クボタ

52

久居

M-S

H8

尼崎市

日立造船

(JV)

53

尼崎市

H-S

H8

福岡市(臨海工場)

日立造船

54

福岡市

H-S

H8

熱海市

被告日本鋼管

55

熱海市

N-S

H8

湖北広域行政事務センター

三菱重工

56

湖北広域

M-S

H10

京都市(東北部清掃工場)

川崎重工

58

京都市-北

K-S

H8

龍ヶ崎地方塵芥処理組合

被告日本鋼管

59

竜ヶ崎

N-S

H11

H9

札幌市(第5清掃工場)

タクマ

60

札幌市

T-S

H9

名古屋市(猪子石工場)

タクマ

61

名古屋猪子

T-S

H9

福知山市

三菱重工

62

福知山市

M-S

H11

函南町

クボタ

71

函南

N-S

H10

佐世保市(新東部クリーンセンター)

川崎重工

74

佐世保市

K-S

H9

いわき市(南部清掃センター)

三菱重工

76

いわき市

M-S

H8

児玉郡市広域市町村圏組合

川崎重工

77

児玉郡

K-S

H8

新城広域事務組合

三菱重工

(JV)

79

新城市

M-S

H9

東京都(中央地区清掃工場)

日立造船

(JV)

80

東京-中央

T-S

H9

H10

名古屋市(五条川工場)

三菱重工

85

名古屋五条

M-S

H9

上記比較によると,22工事のうち日南地区衛生センター管理組合の工事(別紙1の番号46,クボタ受注,甲サ89の記載はN-S),久居地区広域衛生施設組合の工事(別紙1の番号52,クボタ受注,甲サ89の記載はM-S),函南町の工事(別紙1の番号71,クボタ受注,甲サ89の記載はN-S)及び東京都の中央地区清掃工場の工事(別紙1の番号80,日立造船受注,甲サ89の記載はT-S)の4件を除く18件について,甲サ89のアルファベットの略称から推察される業者と実際の受注業者が一致している。そうすると,川崎重工の社員が平成7年9月28日の時点において,平成8年のみならず,平成9年,10年に発注がなされた22のストーカ炉建設工事のうち18もの物件についてその落札業者を的中させたことになる。そして,これらの工事はほとんどが指名競争入札(一部については一般競争入札又は指名競争入札を経た随意契約)によって業者と契約を締結したものであり,各社の価格の自由競争によって契約締結業者たる落札業者が決定される競争入札制度のもとにおいては,川崎重工の優れた情報収集能力によって落札が見込まれる一定の有力業者を予測することは可能であるとしても,22工事中18工事もの高確率でその予測を的中させることはまず不可能であるというべきであり,このような高確率で将来の発注予定物件の受注業者を的中させているという事実は単なる予測や予想というものではなく,業者間であらかじめ受注予定者を決定しそれを記載していたと考えるほかない。

b さらに,甲サ89の1枚目は,5社間で受注予定者を決めた工事リストではないかということは,以下の事実からも窺える。

すなわち,日立造船,被告日本鋼管,川崎重工,三菱重工は,平成7年9月から平成10年9月ころにかけて,それから3,4年先までの将来発注される予定のストーカ炉の建設工事についてまとめたリストを作成していたことが認められる(日立造船について甲サ54ないし56,被告日本鋼管について甲サ58,59,61ないし63,川崎重工について甲サ65,153,155,三菱重工について甲サ66,67等)。ところが別紙3「日立造船,日本鋼管,川崎重工業,三菱重工業のリストの工事の記載状況一覧」(同表は公正取引委員会審査官作成の表と同じものであるが,同表中の号証の表示として「査」とあるのは,本件訴訟中の「甲サ」と対応する。)をみると,別紙2の甲サ89の1枚目において記載された79工事については甲サ89より後に作成したと思われる他社の主なリストには記載がないか甲サ54(甲サ54は,甲ア21の98頁によれば,左上の蛍光ペンの9/14の記載から平成10年9月14日ころ作成されたものと認められる。),55のリストのようにその工事の記載が抹消されている。そして,甲サ89の1枚目に記載され,かつ,他社のリストで記載がないか抹消されている工事は,福岡市(福岡市臨海工場,処理能力900トン),札幌市(札幌市第5清掃工場,処理能力900トン),東京中央(東京都中央地区清掃工場,処理能力600トン)などといった処理能力の大きい大規模工事も含まれているのであるが,優れた情報収集力を有する前記4社が将来の発注予定物件のリストを作成するに際してそのような大規模工事の情報をつかめなかったということは想定し難いし,4社がそのような大規模で受注金額も巨額となると思われる工事について早期に自社の営業活動の対象から除外したとかいうことは考え難い(甲サ29によれば,現に上記3工事のうち福岡市臨海工場と東京都中央地区清掃工場の工事の入札においてタクマを含む5社は指名を受け入札に参加しており,札幌市第5清掃工場の工事の入札についても川崎重工を除く4社が指名を受け入札に参加していることがわかる。)。とすれば,甲サ89の1枚目に記載された工事については,受注予定者が決まり,今後獲得を目指して受注調整を行う必要がない物件として各社の主なリストから外されたか又は削除されたものとみても不自然ではない。

c 以上のような検討からすれば,甲サ89の1枚目のリストは平成7年9月28日ころの時点で,平成8年以降の各年度ごとに発注が見込まれるストーカ炉建設工事について業者間で決められた受注予定者を記載したものとみることができる。

(イ) 甲サ155

川崎重工の社内資料のリスト(甲サ155)は,ごみ処理施設の件名ごとにその機種,規模等を記載し表にしたものであるが,この「見積」の欄の記載は,実際に発注者からの見積りが行われた日を記載しているものと思われるところ,その記載は最も遅い日付で平成9年9月であり,その後の年月の記載がないことから平成9年9月ころに作成したものと考えられる。

そして,このリストのいくつかの物件には工事名の左の空欄部分に5社を示すとみられるアルファベットが記載されており,それらは八千代,西村山の工事を除き,いずれも平成11年以降に発注が予定されていた以下の物件である(なお,小樽市の物件,恵那郡南部の物件は全連又は准連ストーカ炉ではないことは明らかであるからここでは言及しない。)。

県名

顧客名

機種

H10

H11

H12

H13以降

M3

北海

江別市

全未

200(150)

N2

岩手

北上地区広

准未

100

M2

秋田

横手平鹿広

准未

100

K1

福島

福島市

全未

240(180)

N1

茨城

高荻市・十

准未

100(80)

T1

茨城

常陸太田地

准未

90(100)

K3

埼玉

久喜宮代衛

全未

150(120)

H3

東京

国立市

全未

140

M1

愛知

江南丹羽環

全未

270(180)

T2

三重

松阪市

全未

100

H2

奈良

上牧・河合

全未

104(100)

N3

広島

坂町熊野町

全未

100

K1

千葉

八千代市

H1

山形

西村山

ところで,甲サ29によれば,上記工事のうち西村山広域行政事務組合の工事は日立造船が受注者となっていること(平成10年5月25日入札,別紙1の番号81),同様に八千代市の工事は川崎重工が受注者となっていること(平成10年5月25日入札,別紙1の番号82)が認められる。また,別紙3「日立造船,日本鋼管,川崎重工業,三菱重工業のリストの工事の記載状況一覧」の比較によれば,甲サ155より前かほぼ同時期に作成されたとみられる被告日本鋼管の社内文書である甲サ57,60,62には,全連200トン未満として上記の江別,北上市,横手平鹿,高荻十王,常盤太田,久喜,国立,江南,松阪,上牧河合,坂野(甲サ62のみ),八千代(甲サ57,60のみ),西村山(甲サ57,60)の記載があるが,甲サ155作成より後の平成9年12月以降に作成された被告日本鋼管のリスト(甲サ58,59,61)及び平成10年3月以降に作成された日立造船のリスト(甲サ54,56)には,上記14工事の記載がないか又は抹消されていることが認められる。このことは,甲サ89の場合と同様に,甲サ155にアルファベットが付された工事は,受注予定者の決定があり,今後の工事獲得のための受注調整を行う必要のない物件として上記リストから外されたか又は削除されたものとみても不自然ではない。

(ウ) 甲サ85

甲サ85は,被告日本鋼管の環境エンジニアリング環境第一営業部長のnが所持していたノートであり,甲サ145の被告日本鋼管のnの供述調書によれば平成10年1月ころに記載されたものであるが,そのノートには「津島」との記載の下に「元々Mのはりつけ物件」と記載されている。上記「M」は三菱重工を示すものとみられるところ,津島市ほか十一町村衛生組合が発注した物件(平成10年6月10日入札,別紙1の番号84)は三菱重工が実際に受注した物件であること,nは甲サ73の手帳の平成10年3月26日の欄にも「<中小型物件はりつけ>」の用語を用いており,前記の「はりつけ」の意義は受注予定者の決定を意味すると考えられることを総合すると,上記ノートの記載は三菱重工が受注予定者として決定されていたことを記載したものである可能性がある。

(エ) 甲サ82,84

また,甲サ82,84は,川崎重工の機械・環境・エネルギー事業本部環境装置営業本部九州環境営業グループ参与であったqが所持していた文書であるが,甲サ84には「国分については,過去数年前から,業界で,当社がチャンピン(注・「チャンピオン」の誤記と思われる。)ということであった。」,「更にストーカになっても,クボタ,住重の7社が参考メーカーであり,当社がチャンピオンで受注するためには,競合2社への当社のインパクトが必要であり・・・」と記載されており,甲サ87によれば,qは,上記文書のチャンピオンという言葉は,現時点では常識的に考えて建設業者の談合によって決められる受注予定者のことであると理解している旨供述している。また,甲サ82には,「今回は松浦方式で裏形営業はKG,表営業はKHI。しかし当社大手5社では認知物件であり,KGのルートとは別の裏形ルートで営業展開」との記載がある。上記のような甲サ82,84の記載は,国分地区衛生管理組合発注の工事について川崎重工が受注予定者として業界内で決まっていたことを窺わせるものといえる。

オ 5社間で入札価格等の連絡が行われたことを窺わせる証拠

(ア) 甲サ124

甲サ124は,被告日本鋼管の環境エンジニアリング本部環境第二営業部長であったhの所持していたメモであるが,同メモには,次のような記載がなされている。

file_14.jpgH o @ 62. Sie (6.14) 65 RILEY 700 07FE 67 » 4000mHale 69 » so00mPMale = » s000mHaleこのように甲サ124には最上部,「M」,「K」,「H」,「T」の5つそれぞれにつき金額や「辞退」等の記載がなされているものであり,この金額の記載自体からは比較的大規模な工事等の5社の入札状況を記載したものと推察されるところ,甲サ29の平成6年4月1日から平成10年9月17日までの全連及び准連ストーカ炉の受注状況及び入札結果に照らすと,甲サ124の上記①の記載と賀茂広域行政組合の工事(平成10年8月31日入札,別紙1の番号87)の第1回目の入札金額は極めて類似したものとなっていることが分かる(なお,それ以外に平成6年4月1日から平成10年9月17日までの間で甲サ124の記載と金額が類似する工事の存在は窺われない。)。そして,甲サ29によれば,賀茂広域行政組合の工事の5社の入札結果は,被告日本鋼管が62億円,三菱重工が65億円,川崎重工が67億円,日立造船が69億円,タクマが69.5億円で入札し,結果的に被告日本鋼管が落札したものと認められるところ,甲サ124の①のうち被告日本鋼管の額を示すと思われる最上部が62.5億円と記載され,実際の賀茂広域行政組合の入札における被告日本鋼管の入札金額(62億円)と0.5億円の差異は存在するものの,それ以外の4社の入札額と甲サ124の①の4社の略称と思われるアルファベットに記載された金額は完全に一致している。そうすると,甲サ124の上記①の5つの金額の記載は,賀茂広域行政組合の工事の入札金額を示した可能性が極めて高いというべきである。

そして,賀茂広域行政組合の工事の入札については被告日本鋼管が1回目の入札で落札しているにもかかわらず,甲サ124には,②ないし③にそれぞれ最低より数千万円を引いて修正する旨の記載がなされ,さらに,④においては被告日本鋼管と思われる最上部のみ空欄であとの「M」,「K」,「H」,「T」については「辞退」又は「辞」と記載されているのであるから,甲サ124は,被告日本鋼管が他の4社の入札金額の結果を記載したものとか単に4社の予想入札金額を記載したものとみることは困難であり,甲サ124は,被告日本鋼管が受注予定者と業者間で決定していた賀茂広域行政組合の入札に際し,あらかじめ5社の間で入札金額を決定し,それを書きとめておいたものとみるのが相当である。

(イ) 甲サ125

甲サ125は,川崎重工の機械・環境・エネルギー事業本部環境装置営業本部東部営業部参事のrが所持していたメモであるが,上記メモは,1枚目の日付の記載から平成7年5月2日ころ作成したものと認められるところ,同メモには,焼却炉工事の見積原価額が積算過程とともに示されており,「出し値」として第1回から第3回目までの入札価格が記載され,「不調の場合の予定価格と最低入札額の想定」がなされ,「入札結果に至る過程」として2つの案が示された上で最終案が示されている。そうすると,甲サ125のメモは,川崎重工の工事の入札前の価格検討を記載したメモと推察されるところ,上記メモの4枚目には次のような記載がある。

①6,220,000,000

②6,150,000,000

③6,050,000,000

①6,460,000,000

②6,190,000,000

③6,100,000,000

①6,310,000,000

②6,195,000,000

③6,105,000,000

①6,600,000,000

②6,200,000,000

③6,125,000,000

①6,690,000,000

②6,215,000,000

③6,140,000,000

そして,甲サ125の4枚目の上記記載と,甲サ29の平成6年4月1日から平成10年9月17日までの全連及び准連ストーカ炉の建設工事の受注状況及び入札結果に照らすと,甲サ125の4枚目の上記記載は,佐渡広域市町村圏組合の工事(平成7年5月9日入札,別紙1の番号26)の第1回目から第3回目までの5社の入札金額と一致する。すなわち,佐渡広域市町村圏組合の工事の入札状況は次のとおりであり,甲サ125の4枚目の上記記載のアルファベットを5社の略称としてみると,5社の実際の入札金額と完全に一致することになる。

第1回

第2回

第3回

川崎重工

6,220,000,000

6,150,000,000

6,050,000,000

落札

日立造船

6,460,000,000

6,190,000,000

6,100,000,000

タクマ

6,310,000,000

6,195,000,000

6,105,000,000

三菱重工

6,600,000,000

6,200,000,000

6,125,000,000

被告日本鋼管

6,690,000,000

6,215,000,000

6,140,000,000

そうすると,川崎重工は,入札前に,佐渡広域市町村圏組合の工事における実際の5社の入札金額を検討し,受注予定者を川崎重工とした上で,川崎重工が落札するようにあらかじめ各社の入札金額を連絡し,そのとおり各社が入札したものと推認できる。

なお,甲サ125のメモは6枚つづりであるところ,4枚目のみ紙の種類が異なることから4枚目の上記記載の記載時期や他のメモと同一の工事に関する記載であるかどうかという点について疑問の余地もあり得るが,甲サ125の3枚目の入札価格の検討結果の最終案と思われる「最終6,133,000千円」の下に「6,220」「6,150」「6,050」と記載され,これが100万単位での記載とみると4枚目の「K」すなわち川崎重工の金額と一致することからすれば,甲サ125の1ないし3枚目に続くものとして甲サ125の4枚目が作成され一体の文書となっているとみるのが相当であるから,結局上記の点についてもこれまでの説示を左右するものではない。

したがって,このような甲サ125の記載は,チャンピオンは指名を受けた物件について積算し,メンバーの5社を含めた相指名業者に入札の際に書き入れる相手方の金額を電話等で連絡して協力を求めているとするa供述を裏付けるものである。

(ウ) 甲サ128

甲サ128は,被告日本鋼管の環境エンジニアリング本部環境第二営業部第一営業室統括スタッフであったsが所持していたメモであるが,甲サ128の1枚目に「米子市の件」と題した上で,「K社へ指示した灰溶融炉の金額(50t/日) 4,000,000千円(@80,000千円/t」と記載され,2枚目には,「NKK」,「川重」「三菱」,「タクマ」,「日造」及び「荏原」の記載の横にそれぞれの業者ごとの焼却炉及び灰溶融炉の金額などが記載されており,「川重」の欄の50トン灰溶炉の値は,「4,000,000千円(80,000千円/t)」と1枚目の金額と一致している。そして,被告日本鋼管は米子市の270トンの焼却炉の落札者となっている(甲サ29)。そうすると,甲サ128は,いかなる時点での米子市工事の入札ないし積算価格を示すのか明らかでない部分はあるが,被告日本鋼管において,川崎重工の見積額について指示していた可能性がある。

(エ) 甲サ129

甲サ129は,平成10年9月16日に日立造船の環境事業本部東京営業部のcから川崎重工の環境装置営業開発第二部の部長fに宛てて送られたFAX送信書とその送信文書である(甲11の169頁参照)が,上記送信書には「西海岸の件」として記載され,送信文書は「サンプル」と表示された上で見積金額が記載されている。ところで,三菱重工の機械事業本部環境装置第一部環境装置一課主務のuが所持していたメモ帳(甲サ77,78)のうち甲サ77には「N」として「西海岸」,「バン南」,「H」として「西海岸」,「恵庭(北海道)」,「T」として「沼津」,「M」として「県央」,「豊田加茂」と記載されている。また,甲サ78には「N」と「H」がともに「青森西海岸」に矢印が付された記載があり,「次回 6/12 10時-13時 6/25 15時-」と記載されている。

これらからみると,甲サ129は,平成10年6月末以降の時期に,青森西海岸工事について受注予定者となった日立造船においてあらかじめ川崎重工に対し,青森西海岸の工事について見積金額を連絡していたことを示す可能性が高い。

(オ) 甲サ130,131,132

甲サ130は,平成10年9月16日付けで川崎重工環境装置営業本部からタクマ環境本部に送られたファックスであるが,件名は「大宮市/西部の件」となっており,タクマ名義で大宮市長宛の大宮市西部環境センター工事について1億4200万円の見積書が添付されている。これは,その内容,体裁からして,川崎重工が大宮市西部環境センター工事に関しタクマに川崎重工の希望する金額での見積書作成を依頼した文書とみるほかない。

甲サ131は,平成10年9月4日付けで川崎重工中国支社から他社に送られたファックスであるが,件名は「萩見積の件」となっており,「首記に関する見積内訳書を送付しますので,指示お願いします。」とされ,萩清掃工場の工事に関し,「KHI 1,390,000,000」,「A 1,460,900,000」,「B 1,543,000,000」,「C 1,631,000,000」,「D 1,570,000,000」と4つの見積りを並べた集計表1枚と上記「A」,「B」,「C」,「D」の4つの金額の見積内訳区分の書面4面が添付され,集計表には「萩清掃工場 排ガス高度処理施設基幹的施設整備工事 本書は集計表です。各々ABCDを印刷の上指示を出して下さい」との記載がある。

そして,甲サ164(aの供述調書)によれば,萩清掃工場は平成11年3月24日の時点で発注が予定されていたものであるところ,萩地区広域市長村圏組合は,日立造船,川崎重工,三菱重工,被告日本鋼管,タクマの5社に見積書の提出を求めたこと,これに対して川崎重工は甲サ131の「KHI」と記載されたものに,三菱重工は甲サ131の「A」に,日立造船の金額は甲サ131の「B」に,タクマは甲サ131の「C」に,被告日本鋼管は甲サ131の「D」に,それぞれ項目,金額とも完全に一致したものを提出していることが認められる。これからすると,甲サ131は,川崎重工が萩のごみ工場に関し,いわゆるチャンピオン(受注予定業者)として,円滑に受注ができるよう見積金額を他の4社に指示していたことを示すというべきであり,まさに「大手5社は,ごみ処理プラントが発注される都度,チャンピオンが受注できるよう協力しております。」等のa供述を裏付けるものというべきである。

次いで,甲サ132は,平成10年9月14日付で川崎重工中国支社から他社に送られたファックスであるが,件名は「防府市クリーンセンター 各社見積の件」となっており,防府市クリーンセンター工事に関し,「KHI 2,100,000,000」,「A 2,210,000,000」,「B 2,250,000,000」,「C 2,370,000,000」,「D 2,460,000,000」と4つの見積を並べた集計表1枚と上記「A」,「B」,「C」,「D」の4つの金額の見積内訳区分の書面4枚が添付され,集計表には「防府市クリーンセンター 排ガス高度処理施設基幹的施設整備工事 本書は集計表です。各々ABCDを印刷の上指示を出して下さい」との記載がある。

上記甲サ132の内容と体裁は全く甲サ131と同様であって,川崎重工が防府市クリーンセンターに関し,いわゆるチャンピオン(受注予定業者)として,円滑に受注ができるよう見積金額を他の4社に指示していたことを示すというほかない。

カ ストーカ炉受注状況に関する5社の指数を把握していた者の存在

(ア) 三菱重工の機械事業本部環境装置第一部環境装置一課主務であったuのノート(甲サ106)には,工事名と思われる記載と数値及び5社の略称と思われるアルファベットの記載と数値等が記載されている箇所が存在する。甲サ106の2枚目の記載内容は概ね以下のとおりである。

file_15.jpgae(このうち,甲サ106の留置された平成10年9月17日の段階では,千葉,富山,春日井の工事は未発注であり,平成11年に入札が行われた。乙審A4,5,甲11。)

上記記載をみると,「新城」,「中央」,「千葉」,「富山」,「賀茂」,「米子」,「春日井」,「名古屋」までに付された数値を合計(△は減算)すると,

-18+420+283+810+150-30+280+392=2287

となり,分母「+2287」と記載された数値と一致する(なお,「高知」には数値の記載がなく,最初の「秋」には日付がなく,その2つについては上記の合計する数値の対象から外している。)。

そして,甲サ29によれば,甲サ106の工事名と思われる名称に付された数値(「×0.7」との記載がある「中央」と「名古屋」については0.7を乗ずる以前の数値。「×0.7」の意味は後述する。)は,実際の発注工事の処理能力と一致していることから,甲サ106の2枚目の中央「420/420」等の記載は,工事名と処理能力の数値を記載したものであると推認し得る。また,「K」,「T」,「N」,「H」,「M」のアルファベットの振られた欄をみると,左欄の分母にそれぞれ2287を加えると右欄の分母となること,左欄の分子については,「K」の分子に283,「T」の分子に810,「N」分子に400,「H」の分子に420,「M」の分子に374を加えるとそれぞれ右欄の分子の数値になることが認められる。そのことに加え,甲サ29によれば実際に新城広域事務組合の工事(別紙1の番号79)と名古屋市(五条川工場)の工事(別紙1の番号85)については三菱重工が,東京都(中央地区清掃工場)の工事(別紙1の番号80)については日立造船が,賀茂広域行政組合の工事(別紙1の番号87)及び米子市の工事(別紙1の番号83)については被告日本鋼管がそれぞれ受注していることに鑑みると,「K」の分子に加えた283は「千葉」の283トン,「T」の分子に加えた810は「富山」の810トン,「N」の分子に加えた400は「賀茂」の150トンと「春日井」の280トンを足して「米子」の30トンを減じた400トン,「H」の分子に加えた420トンは,「中央」の420トン,「M」の分子に加えた374は「名古屋」の392トンから「新城」の18トンを減じた374トンがそれぞれ対応するものと推認し得る(なお,「米子」と「新城」に減算する数値が記載されている理由は,甲サ106の3枚目との対比から以前の計算を修正するためと考えられる。)。

(イ) 次に,甲サ106の3枚目のメモには,5社並びに荏原製作所及びクボタ(以下,これらを併せて「7社」という。)の略称と解される記号及びそれぞれに対応する分数値が記載されている。

上記メモには,「5/25 西村山 100/100」,「6/2米子 270/270」,「津島 330/330」といった記載があり,これを甲サ29と対比すると,西村山広域行政事務組合の工事(平成10年5月25日に日立造船が落札,処理能力100トン,別紙1の番号81),米子市の工事(平成10年6月2日に被告日本鋼管が落札,処理能力270トン,別紙1の番号83),津島市ほか11町村衛生組合の工事(平成10年6月10日に三菱重工が落札,処理能力330トン,別紙1の番号84)とそれぞれその内容が一致することが認められる。

そして,分母の数値には,これらの各工事の処理能力(合計700トン)が加算され,落札業者に相当する「N」(被告日本鋼管),「H」(日立造船),「M」(三菱重工)の分子の数値には,当該落札工事の処理能力に相当するトン数が加算されていることが認められる。

(ウ) ところで,甲サ35,44によれば,被告日本鋼管の大阪支社のbは,本社環境プラント営業部の第二営業部長のhらから「20%のシェアを維持する方法は受注トン数/指名件数であり,そのために指名は数多く入った方がベター」と聞いた旨供述する。

また,三菱重工の中国支社機械一課主任であったjが所持していた文書(甲サ37)においても,「※全連:大手5社file_16.jpg有 受注機会均等化(山積)・・極力5社のメンバーセットが必要(他社介入の時は条件交渉を伴う。)」の記載の後に「他社案件でも指名入りで分母積み上げを図る要有り」との記載があり,その記載についてjは,5社の間には,指名を得た件数又は処理トン数を分母とした一定の計算式があるのではないかと考えられる旨供述している(甲サ108)。

以上の供述内容と甲サ106の記載内容を勘案すると,甲サ106の2枚目の「K13099/68332」や3枚目の「K1884/12611」等の分数式の分母は,ある一定の期日から甲サ106が留置された平成10年9月までの5社それぞれの指名又は指名見込みの自治体発注のゴミ処理施設の能力トンの積み上げ(累計)を示し,分子はそのうち受注又は受注見込みのゴミ処理施設の能力トンの積み上げ(累計)を示すとみる余地が十分にある。なお,甲サ106の2枚目の「×0.7」の意義については,uの手帳(甲サ95)と川崎重工社員の所持していたメモ(甲サ107)によれば,ごみ処理施設が5社のいずれかと他の業者との組合せ又は焼却炉の工事と土木建築工事が分離して発注又は発注が予定された工事(JV工事や土建分離工事)については,基本トン数に0.7を乗じるという算定方法を採用していたものと理解し得る。また,新城,米子について「△18」「△30」と減算が行われているのは,平成9年12月24日に入札のあった新城広域事務組合の工事,平成10年6月2日に入札のあった米子市の工事について,甲サ106の2枚目が記載されるまでに計画トン数の変更等何らかの事情が生じたため減算すべきものとなったためと推定される。

そして,甲サ106は,未だ入札が実施されていない将来の物件についてまで受注予定者を想定して5社の「受注トン数/発注予定トン数」の割合を算出しているのであり,以上から,甲サ106は,「5社は『受注トン数/指名件数又はトン数』を一つの指標として受注調整に用いていた」旨の被告日本鋼管のb供述や三菱重工のj供述を補強する有力な証拠となるというべきである。

キ まとめ

以上をまとめると,次の事実が認められる。

(ア) まず,a供述は,平成6年4月以降出席した5社の営業責任者クラスが集まる会合において,将来ごみ処理施設発注が予想される物件について,各社の出席者がそれぞれ受注希望を表明し,受注希望者間の話合いで受注予定者を決めていたこと,受注予定者はごみ処理施設の処理能力によって3つに区分してそれぞれの区分ごとに受注予定者を決めていたこと,受注予定者は指名を受けた物件について積算し,相指名業者に入札の際に書き入れる相手方の金額を連絡していたこと等の供述をしている(甲サ28,46)。

(イ) a供述に沿うものとして,①5社の担当者が集まる張り付け会議と呼ばれる会議において,ごみ処理施設の処理能力によって3つに区分した上で,受注予定者を決めていたことなどを本社の営業担当者から聞いたとする被告日本鋼管のbの供述及びメモ(甲サ35,44),②本社レベルで,業者間で受注予定者を決めるなどの受注調整が行われていることを業務引継ぎ等により認識していたとする三菱重工のk,jの供述(甲サ42,43,47,49,108),③営業方針の1つとして,どうしても受注したい物件は,他社の協力を得て受注する旨環境プラント本部営業部長から聞いたとするタクマのlの供述(甲サ45)が存在する,

(ウ) 受注予定者を決定する会議や張り付け会議の存在を窺わせるノートやメモ類が存在する(甲サ55,58,60,62,63,67,73,76,79,96,102,103),

(エ) 入札実施前にあらかじめ業者間で受注予定者を決定していたことを窺わせる物件リスト等が存在する(甲サ82,84,85,89,155),

(オ) 入札実施前に5社間で入札価格や見積価格の連絡が行われていたことを窺わせるメモ等が存在する(甲サ124,125,128,129,130ないし132,164),

(カ) ストーカ炉の処理能力を基準として将来の受注予定を含めた5社の受注割合を計算してその数値を把握していた者が存在する(甲サ106)。

以上によれば,a供述(甲サ28,46)は,上記(イ)ないし(カ)の事実及び証拠により十分裏付けられるというべきであって,aが供述するとおり,少なくとも平成6年4月以降,被告日本鋼管のd,三菱重工のa,川崎重工のf(平成8年4月まではg),タクマのe,日立造船のcら営業責任者が集まり,発注が見込まれるストーカ炉建設工事について,5社の間で各物件ごとに受注予定者を決定し,そして,入札前に受注予定者が,各社の入札価格を連絡するなどして協力を求め,受注予定者が落札できるように入札価格を調整する方法によって入札が行われてきた事実が優に認められるというべきである。

(3)  本件契約における談合行為の有無

平成6年4月から公正取引委員会による立入検査が行われた平成10年9月17日までの間に地方公共団体等により発注され,指名競争入札等の方法により入札が行われたストーカ炉建設工事(別紙1の87工事)のうち,これまでに検討した各証拠において特定され,上記のような方法による談合が行われたことと窺われるのは,以下の26の工事である。

file_17.jpgrea Cr * Tiそして,被告が指摘するように上尾市における本件工事について談合行為があったことを直接的に示すような証拠は存在しない。

しかしながら,aが平成6年4月以降出席した5社の受注調整のための会合は,事柄の性質上それ以前から行われており,aは本社主務ないし課長として三菱重工を代表して出席し,aが前任者を引き継いだとみるのが自然である(そうでなければ,5社の間で,平等となるよう,どういう工事をどういう方法で分け合うか,希望表明はいつどのような形で行われるか,希望がかちあったときはどうするか等についていきなり平成6年4月の段階あるいそれ以降の近い段階ではじめて5社の合意ができたなどとすることは到底考え難い。)。そして,甲サ125によれば,平成7年5月9日に入札が行われた佐渡広域市町村圏組合に係る工事では,入札予定者とされたと考えられる川崎重工において,残りの指名業者である日立造船,タクマ,三菱重工,被告日本鋼管に対し,1回目から3回目までの入札金額を連絡していたとみられ,同様の見積金額や入札金額の教示や指示をしていたことの証拠は,平成10年8月31日入札の賀茂広域行政組合(甲サ124),同年6月2日入札の米子市(甲サ128),同日以降の青森西海岸(甲サ129),大宮(甲サ130),萩(甲サ131),防府(甲サ132)にもみられるところ,このような工事の見積金額や入札金額まで5社間で打ち合わせるなどの緊密かつ周到な協力関係は到底一朝一夕の間に形成され得べきものでないこと等に照らすと,5社のストーカ炉に関する談合は,少なくともaが会合に出席した平成6年4月以降はもちろん,それ以前の一定の時期から継続的に行われてきたことと推認しても不合理とはいえない〔前記のとおり,甲サ37は三菱重工のjが平成元年4月ころに前任者から引き継いだ文書であるが,それには「file_18.jpg有 受注機会均等化(山積)・・極力5社のメンバーセットが必要(他社介入の時は条件交渉を伴う。)」との記載がある。〕。

そうであるとすれば,少なくとも平成6年4月以降平成10年9月17日までの間のストーカ炉の建設工事については,極めて規模が小さい場合は例外として,原則的に5社の受注調整の対象となったとみるのが相当であって,特に入札に5社のみが参加して5社のいずれかが落札した工事については,前記26工事のような個別的な特定に係る証拠がないとしても,入札金額等からその工事について結果的に談合による落札でないと窺われる特段の事情がない限り,5社はあらかじめ受注予定者を決め,その受注予定者が落札できるよう入札金額を連絡して協力するなどの行動を取り,その結果受注予定業者が落札したと推認するのが相当である。

しかるところ,本件工事は処理能力300トンの全連ストーカ炉の建設工事であり,5社は受注調整の対象としていた工事とみられること,指名を受けた業者は5社のみであることからすれば,本件工事についても受注調整の対象とされ個別談合が行われたものとみるべきであって,本件工事について,受注調整の対象から外されたとか,被告は元々受注予定者ではなかったのに独自の判断で入札し落札した(いわゆる談合破り)等の特段の事情は本件証拠上全く窺うことはできない。

しかも,本件工事では,5社のみが入札に参加し,予定価格(なお,本件入札においては入札書比較価格)172億円のところ,2回目の入札で被告日本鋼管172億円,タクマ172億5000万円,三菱重工172億7000万円,川崎重工172億7500万円,日立造船172億8000万円の入札の結果,被告日本鋼管が落札業者となったことが認められるところ,落札率100%すなわち落札価格と地方公共団体の一応の基準たる予定価格が完全に一致し,被告日本鋼管と他の4社の価格差は2回目の入札で最大8000万円にとどまっていたということは,5社が見積価格や入札価格を連絡していたことを窺わせる1つの事情といって差し支えない。

とすれば,本件工事の入札においても,遅くとも本件入札以前において5社間で被告日本鋼管を受注予定者と決定し,入札価格を連絡するなどして被告日本鋼管が落札し得るように相指名業者たる三菱重工,タクマ,川崎重工,日立造船が協力し,そのような談合行為の結果として被告日本鋼管が落札し,本件契約がなされたものと認めるのが相当である。

(4)  被告の主張について

ア a供述(甲サ28,46)の信用性について

被告は,三菱重工のaの供述調書(甲サ28,46)については,その信用性が疑わしいとして,概ね,「甲サ161ないし176によれば,甲サ28及び46の供述調書が作成された平成10年9月17日のaに対する事情聴取は到底適切なものとはいえないものであったこと,及びaはその後の取調べにおいて,甲サ28及び46とは異なる供述をしており,受注調整行為の存在を一貫して否定していることが明らかとなった。甲サ28及び46は,いずれも公正取引委員会審査官が本件について立入検査を行った平成10年9月17日当日に,aを公正取引委員会に半ば強制的に同行して作成したものであり,その頁数としてもそれぞれ6頁程度の短い内容にすぎない。その後に作成された多数のaの供述調書に照らしても,当初の2通の調書において具体的な事実関係をaが任意に述べたものとは解せず,その後に作成された多数のaの供述調書の内容こそ,落ち着きを取り戻したaの認識を録取したものである。」等と主張する。

しかし,甲サ28,46の調書が作成されるに至るaの聴取及び供述過程に不自然,不合理な点は認められず,上記供述調書は,公正取引委員会が三菱重工への立入検査を実施した平成10年9月17日当日に作成されたことからすると,最も記憶が鮮明で,かつ他の者と相談したり他の者から示唆又は指示を受けることのない状態で,自己の記憶ないし認識していることをそのまま述べたものと解することができる。

そして,甲サ184,186等によれば,aは,甲サ28,46の調書作成時に読み聞けをされた上で署名押印したことを認めており,甲サ28,46の調書の署名押印欄のすぐ上には「大手5社以外のごみ処理プラントメーカーが一緒に指名を受けた場合は,チャンピオンが個別に当該プラントメーカーに協力を求めて,チャンピオンが受注できるようにしております。」(甲サ28),「このようにして,会のメンバーは,チャンピオンが受注できるように協力しています。私が会に出席するようになってから当社がチャンピオンとなった物件のほとんどすべては予定通り当社が受注しております。」(甲サ46)と記載されているから,aが甲サ28や46の供述調書の内容が全く分からずに署名押印したとは到底考え難い。

さらに,甲サ36及び80は,被告日本鋼管のdのノートであるが,甲サ36については「file_19.jpg」以下,甲サ80については「9/17file_20.jpg2人vs1人」以下の記載は,上記ノートの記載は,会合の内容のみならず,「コーヒーをとりましたか。」や「たまには飲みますか→飲むこともあります。」などの会合に関する細部の質問に関しても記載されており,甲サ28及び46のa供述の内容と類似しているものであるから,dがaの取調べの様子をa本人又はaから話しを聞いた者から聞き取ってメモしたものと認められるところ,このように,aが公正取引委員会の取調べを受けた後にその内容を細部にわたり他人に報告していたということからすれば,aは,甲サ28,46(a供述)の供述調書に署名押印する際に,その取調べの内容や自らの発言内容について十分理解し記憶していたとみるのが合理的である。そうすると,aは平成10年9月17日の取調べ時において,自らの発言内容を理解し,その調書の記載内容も概ね理解して署名押印したものというべきである。

そして,先に認定したとおり,a供述(甲サ28,46)は,その主要な点において被告日本鋼管のbの供述,三菱重工のk,jの供述,タクマのlの供述や他の多くの証拠ないし間接事実と矛盾なく合致するものであって,その他a供述が客観的事実に反しているという事情も窺えず,a供述は,全体的にみて信用性が高いものというべきである。そうすると,この点の被告の主張は採用できない。

イ(ア) 次に,被告は,概ね,「ごみ焼却炉建設工事はメーカーごとの裁量の幅が大きいこと,工事期間も建設計画がなされてから実際に発注するまで長期間かかること,ごみ焼却炉は性能発注であるから営業活動だけで指名が獲得できるものではないこと,その他ごみ焼却炉建設工事各種の特殊性からすれば,不確定要素が大きく,基本合意だけで決定するとかあらかじめ数年先の受注予定者を決定するなどといったことは営業実態からしてあり得ない。」旨主張する。

(イ) そこで検討するに,甲サ12ないし22,乙審A9,10,乙審B19,乙審C9及び弁論の全趣旨によれば,各プラントメーカーは,工事の受注に向けて,営業担当者等により様々な情報収集活動を行い,多大の費用と時間をかけて発注元の地方公共団体への営業活動を行っており,これにより,各工事の入札参加資格を得て入札に参加していること,地方公共団体のごみ処理設備の整備計画は,発注の数年前から判明することもあるが,様々な要因により基本計画の見直し等が行われることも少なくないこと,また,整備計画に基づく機種の選定は,性能発注によることも多く,地方公共団体においてあらかじめ見積設計図書による技術審査を行い,これに合格した者につき,当該工事の入札参加資格が与えられ,この者との間で指名競争入札等の入札手続が行われること,したがって,地方公共団体発注にかかるごみ焼却炉建設工事については,地方公共団体の計画の見直しや技術審査等による業者の選定等業者が受注するに際しその受注の可否に関して不確定要素があることが認められる。

(ウ) しかしながら,5社が,地方公共団体発注に係るストーカ炉建設工事において,その製造能力,指名実績等において5社以外のプラントメーカーに比べて優位にあることは前記認定のとおりであって,ストーカ炉が発注される場合5社のみあるいは5社に他のプラントメーカー1,2社が加わって入札が行われるケースが数多くあり,そのことは被告ら5社も予想しているところで(例えば甲サ89),被告主張のような不確定要素があるとしても,およそ将来の工事を含めた談合が不可能であるとか意味をなさないということはできず,前記判断を左右するに足りない。

また,乙審B3ないし13から認められるように受注予定者がタクマと決定していたとされる札幌市第5清掃工場の工事について被告日本鋼管が多額の費用をかけて営業活動を行っていたとしても,指名業者に入るかどうかはその後に行われる工事に係る受注調整において各社がいかなる規模の工事について希望表明し得るか等について大きな影響を及ぼすものであり,既に他社が受注予定者であることが決まっていたとしても指名を求めて営業活動を行うことが談合と矛盾しているとまではいえない。

ウ さらに,被告は,概ね,「仮に基本合意が存在したとしても,個別談合が行われない限りは当該案件に関する談合行為の実行があり得ないこと,また,必ずしもすべての入札で個別談合が行われるとは限らないものであることから,原告らが主張立証責任を負う不法行為としての具体的事実は,契約締結により上尾市に生じたとする損害と因果関係のある違法行為,すなわち,別件審判事件において独占禁止法上審理の対象とされている本件基本合意の存在ではなく,民法上の不法行為となり得る本件入札に対応した個別談合行為の存在であるところ,本件入札について,談合によって被告日本鋼管が受注したものであることを示す具体的かつ実質的な根拠は全く存在しない。」旨主張する。

しかし,上尾市の被告日本鋼管に対する損害賠償請求権は,被告日本鋼管らの談合,これに基づく被告日本鋼管の入札及び上尾市との契約締結によって,上尾市に損害が発生したことが認められれば足りるのであって,上述したように,本件工事の入札において,遅くとも本件入札以前において5社間で被告日本鋼管を受注予定者と決定し,入札価格を連絡するなどして被告日本鋼管が落札し得るように相指名業者が協力するという談合行為が行われ,その結果として被告日本鋼管が落札し,本件契約がなされたという具体的事実を合理的に推認し得るから,損害に関する部分は後述するとして上尾市の被告日本鋼管に対する損害賠償請求権の発生原因事実としてはそれで十分足りるものといえ,原告らの主張立証に欠けるところはない。

そうすると,結局被告の上記主張も採用できない。

3  争点3(損害額)について

本件工事における5社の談合行為の基本は,指名競争入札前に落札予定者を決め,その者が落札できるように互いに入札価格を調整する等して,落札予定者に当初の取決めどおり落札させようとするものであるから,個別の工事について,入札談合が行われた場合には,当該工事の発注者である地方公共団体は,談合が行われなかった場合に形成されたであろう公正な競争を前提とする価格よりも高額な金額で請負契約を締結することを余儀なくされる蓋然性が高いといわざるを得ず,本件の場合にも発注者である上尾市は,その高額な契約金額の支払をすることによって,公正な競争を前提とする価格との差額相当分の損害を被ったと認められる。

そこで,本件において,上尾市が被った損害を確定するためには,本件工事の指名競争入札において談合行為がなければ公正な競争により形成されたであろう契約金額(想定落札価格)について検討しなければならないが,上記想定落札価格なるものは現実には存在しないものである。そして,自由競争が行われた場合の落札価格は,入札に係る工事の規模・種類や特殊性のほか,入札指名業者の数や各業者の事業規模,入札当時の社会経済情勢,地域特性等種々の要因が複雑に影響し合って形成されるものであるから,これを正確に把握することは困難であって,談合がなく適正な競争がなされた場合の契約金額(想定落札価格)を立証することは,損害の性質上極めて困難であるというべきであるから,本件では民事訴訟法248条を適用して,上尾市が被った損害額を認定するのが相当である。

ところで,別紙1の平成6年5月から平成10年8月末までに入札が行われた87件の工事のうち,5社のみが入札に参加し5社のいずれかが落札した案件で予定価格が判明しているもの(25件。別紙1番号1ないし5,10,11,13,15,17ないし19,26,27,32,35,38,39,43,54,56,57,73,82,87の各工事)の落札価格の契約価格に占める割合(落札率)は平均98.6%であるところ,5社以外の者が入札に参加し5社以外の者が落札した工事(21件。別紙1番号7,8,12,16,23,25,30,37,42,46,48,52,63ないし65,68ないし72,78の各工事)の落札率は平均89.8%であり,前者の方が明らかに高いことが認められる。

また,弁論の全趣旨によれば,公正取引委員会の立入検査が行われた後の入札工事である広島市発注の中工場新築焼却炉設備工事(平成11年5月10日入札)は落札率(入札予定価格から落札価格を除したもの)88.78%,下関市発注の奥山工場ごみ焼却施設建設工事(平成12年5月26日入札)は落札率88.71%,尼崎市発注のごみ焼却施設プラント建設工事(平成12年8月22日入札)は落札率90.37%,大月都留広域事務組合発注のごみ焼却施設建設工事(平成13年3月7日入札)は落札率74.33%であると認められる。

これらを考慮すると,損害額を少なくとも契約金額の10%を下回ることはないとする原告らの主張も考慮に値し得ないものではない。

しかしながら,5社以外でもクボタの平均落札率は98.6%となっており,5社以外が落札した工事でも落札率の低いものは52.32%(別紙1の番号12番),高いものは100%(同23番)と落札率については個別の工事ごとにかなりの差があることが認められ,損害の算定が困難な中で被告に損害賠償義務を負わせる以上,賠償責任を問う金額としては手堅く控え目な認定とすることもやむを得ないと考えられること,その他本件に顕われた一切の事情を考慮すると,被告の談合により発注者である上尾市の被った損害は,本件契約金額の5%に相当する8億8580万円と認めるのが相当である。

4  結論

(1)  これまで検討したとおり,上尾市は,被告日本鋼管らの談合行為に基づく本件入札及び本件契約によって,落札した被告日本鋼管に対して損害賠償請求権を有していると認められるところ,弁論の全趣旨によれば,上尾市長は今日までその損害賠償請求権を行使をしていないと認められる。ところで,地方公共団体が債権を有している場合,地方自治法施行令171条の5に定めるような事由がないのに相当期間その請求権を行使しないときは,それを正当とする特段の事情がない限り違法というべきであり,本件にはそのような特段の事情は認め難い(なお,本件口頭弁論終結時においても本件工事を違反対象に含めた公正取引委員会における別件審判事件の審決が出されていないが,公正取引委員会における審決の有無と上尾市長が被告日本鋼管に対して有する損害賠償請求権の行使をするかどうかは,その制度趣旨も異にするものであって,公正取引委員会において本件工事に関する審決が出されていないとしても前記判断を左右するものではない。)。

(2)  以上によれば,原告らの請求は,被告日本鋼管に対し,上尾市に8億8580万円及びこれに対する平成12年3月17日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金を支払うことを求める限度で理由があるから認容し,その余の請求は理由がないから棄却することとし,主文のとおり判決する(なお,仮執行宣言は不相当と認める。)。

(裁判長裁判官 豊田建夫 裁判官 富永良朗 裁判官 松村一成)

添付ファイル参照(省略)

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