さいたま地方裁判所 平成12年(行ウ)41号 判決 2001年8月27日
原告
伊達精行
被告
(加須市長) 髙瀬一太郎
同訴訟代理人弁護士
石津廣司
主文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は、原告の負担とする。
事実及び理由
第3 当裁判所の判断
1 本件公金支出の違法性の判断基準
(1) 原告は、本件組合が本件施設を建設するために支出した費用のために、加須市が、本件組合規約に基づき、本件経費負担割合に従って支出した組合経費負担金である本件公金支出が、違法な公金の支出に当たると主張するが、その理由とするところは、基本的には、本件公金支出における財務会計法規上の違法を具体的に主張するものではなく、加須市による本件公金支出の原因である本件組合の本件施設建設という政策判断が、地方財政法4条1項、同条の2及び地方自治法2条13項に違反すると主張するものである。
ところで、加須市は、前記基本的事実関係に認定したとおり、地方自治法287条1項7号、本件組合規約12条に基づき、本件組合議決によって定められた本件経費分担割合に従い、本件組合に対し、法的な義務として組合経費の4分の3を負担すべきものであり、本件公金支出は、このようなものとしてされたものであるから、本件公金支出に先行する組合の前記判断に前記の違法があるとしても、このことから直ちに、本件公金支出が違法となるものではなく、その違法性の判断については、自ずから別個の判断基準が必要である。
しかしながら、本件公金支出自体に上記の別個の判断基準からみて財務会計法規上の違法があるとされる前提として、まず、本件組合が本件施設を建設するとの判断をして公金を支出したこと自体が、前記各条項に違反することが必要となるというべきであるから、以下では、この点につき検討することとする。
(2) 本件で問題とされた余熱利用に関する事務を含むごみ処理施設に関する事務は、地方公共団体において処理することが一般的に許されたものであるから、その性質上、それを具体的にどのような方法によって処理するかの判断を当該地方公共団体の裁量に委ねるのでなければ、到底適切な事務処理を期待することができないものというべきである。
そうすると、このような事務の処理及びそのための費用支出については、その事務の具体的な処理方法について当該地方公共団体のした判断が、全く事実の基礎を欠いたり、又は、その判断が社会通念上著しく妥当性を欠くことが明らかである等の理由で、地方公共団体に対し与えられた裁量権を逸脱又は濫用してしたものとされるような場合でない限り、財務会計法規上違法とされることはないものと解するのが相当である。
(3) そこで、以下においては、まず、本件公金支出が違法とされる事由のうち、本件組合の判断の違法が前提とされている主張について検討し、次いで、その余の主張につき判断を加える。
2 本件公金支出の違法事由のうち組合の判断を前提とするものについて
原告の主張のうち、上記事由に係る主張につき、前記基準に照らし、以下、検討する。
(1) 本件施設と供給を受ける余熱の量等について
ア ごみの量と新焼却炉の能力
(ア) 前記認定事実のとおり、平成7年度整備計画と本件基本計画においては、新焼却炉施設の場内暖房・給湯用として消費される熱量が、平成7年度整備計画では毎時15万キロカロリーであり、本件基本計画においては、7万5000キロカロリーとされている違いがあるが、〔証拠略〕によれば、それは、場内暖房・給湯用としての場内熱消費量を過大に見積もると本件施設の補助熱源の規模も過大となり不経済となるため、本件基本計画において、専門家の推定を踏まえた上で再検討した結果であることが認められる。
(イ) さらに、原告は、新焼却炉1基から、本件基本計画の想定するとおり、毎時32万5000キロカロリーの熱量を回収するためには、新焼却炉の定格焼却能力に相当するだけのごみ量が必要であるとし、前記のとおり主張するが、前記証拠等によると、新焼却炉に設置された温水発生器(熱交換器)は、新焼却炉の定格焼却能力である毎時4.5トン(72トン/16時間)の80パーセント、すなわち、毎時3.6トンの処理によって、前記の所定熱量である毎時32万5000キロカロリーの熱量を回収することができるものであることが認められ、これに反する原告の主張は、何らの証拠にも裏付けられていない。
(ウ) 以上のほか、前記証拠等によれば、本件基本計画が、<1>新焼却炉から回収する熱量を毎時32万5000キロカロリー、<2>場内暖房・給湯用の熱損失量を毎時7万5000キロカロリー、<3>本件施設までの配管による熱損失量を毎時4000キロカロリー、<4>平成10年度稼働実績を基にした本件施設への供給熱量を毎時24万6000キロカロリーと想定したことが、全く事実の基礎を欠いたり、又は、その判断が社会通念上著しく妥当性を欠くものということができないことは明らかというべきであるから、これに反する原告の主張は、採用することができない。
イ 余熱利用の経済性
本件施設に供給される余熱は毎時11万2900キロカロリーにすぎず、この程度の余熱を灯油により発生させるに必要な代金は1日当たり6046円程度であるとする原告の主張は、前記の説示に照らし、既に理由がないものであるが、焼却施設から排出される余熱を有益な目的のために利用することの意義は、その熱量を得るための灯油代金に換算するという単純な経済的意味にとどまるものではなく、地方公共団体の行う施策としての社会的、政策的意味を有するものであることをも合わせて考慮すれば、原告のいう経済性によって説明しきれない部分があったとしても、それのみでは、本件組合が新焼却炉から排出される余熱を利用した本件施設を設置することにつき、裁量的判断の逸脱濫用があったものということはできないものというべきである。
ウ 余熱と本件施設の規模
原告は、本件基本計画が予定する本件施設への熱供給は、毎時24万6000キロカロリーであるから、これに相当する施設規模は50人規模のものというべきで100人利用規模の本件施設は過大に過ぎ、地方財政法4条1項及び地方自治法2条13項に反すると主張する。
しかし、前記のとおり、本件組合は、本件基本計画において、本件施設の必要とする熱量のすべてを新焼却炉の余熱により賄うとの前提で計画したものではなく、地方公共団体の施策としても新焼却炉から発生する余熱を、住民福祉のために設置される本件施設において有効利用するという観点から、本件施設の設置を決定したものであり、本件施設が最も熱源を必要とする冬期において、その必要とする熱量の約48パーセントが、新焼却炉1基運転時において供給しうるものであると判断したものであり、前記の証拠等によると、この計算には事実的裏付があると認めることができるから、このような判断が、全く事実の基礎を欠いたり、又は、社会通念上著しく妥当性を欠くことが明らかであるといえないものというべきである。
(2) 本件施設の赤字について
ア 原告は、本件組合の推計するとおり、本件施設の年間収入6359万円が得られたとしても、推計維持管理費9287万6000円との差額2928万6000円がいわゆる赤字となるし、この赤字は、1日当たり利用者数の予想がはずれれば、更に増大すると主張する。
イ 本件組合が、1日当たりの利用者数を400人と見込んだ上、本件施設の年間収入を6359万円、維持管理費を9287万6000円と推計したことは、原告主張のとおりである。
そして、前記の証拠関係等によると、本件組合のした上記推計には一応の合理性が認められるところ、本件組合は、前記認定事実及び別紙6「入館料」欄記載のとおり、その400人のうち50人を、無料となる幼児及び公用・公共用利用部分と推計して、入館料推計の基礎人数としては350人とするとともに、確実に歳入を見込む見地から、350人全員について加須市、騎西町住民利用料金により入館料を算出するなど、控えめに算定する方向をもって、年間収入を6359万円と推計したものであるから、これが全く事実の基礎を欠いたり、又は、その判断が社会通念上著しく妥当性を欠くことが明らかであるということはできない。そして、本件施設利用者数の正確な推計は、事柄の性質上困難な面があることは認めなければならないから、仮に利用者数が1日当たり400人に至らず、現実の年間収入が推計額である6359万円に及ばない事態が生じ、いわゆる赤字が本件組合の想定した年間2928万6000円より増大したとしても、本件組合の上記判断が、結果的に違法と評価されるべきではない。
なお、原告は、本件組合がいわゆる赤字を想定した上で本件施設を設置したこと自体をもって違法と主張するもののようであるが、いわゆる赤字額を年間2928万6000円程度とする本件組合の判断には、前記のとおり合理性が認めうるものであり、かつ、本件施設が、そもそも利益をあげることを目的として設置されたものではなく、むしろ、<1>新焼却炉の地元地域からの周辺環境整備の要望に応じる、<2>ごみ処理施設等がもつ迷惑施設的イメージを払拭し、地元還元を図る、<3>本件施設によって住民の福祉を増進するため、焼却炉から排出される余熱を無駄にすることなく利用する施設を設置する等、社会的施策としての多面的意義を有することを考慮すると、2928万6000円程度の想定年間赤字額を生じることが、社会通念上著しく妥当性を欠くことが明らかであるとすることは困難というべきである。
原告の主張は、採用することができない。
(3) 予想利用者数と加須市民について
原告は、前記のとおり、本件施設の1日当たり予想利用者数中の加須市民数は40人ほどにしかすぎず、本件施設は加須市民の住民福祉を増進させるものではないと主張するが、本件施設は、加須市内に設置されているのであるから、加須市民がその利用客に占める割合は、16市町村から構成される利根行政圏と加須市との人口比率に一致しないことが経験則上明らかであるだけでなく、本件施設の性質上、その利用者として、加須市、騎西町以外の住民も予定されることは当然であること、前記認定事実のとおり、加須市及び騎西町の住民から健康センター的施設設置の請願がなされていたこと、本件施設の基本理念が「地域住民のコミュニティー活動の拠点」であること及び本件施設利用客数に占める加須市民の割合を正確に予測することは不可能を強いることになりかねないことからすれば、本件施設利用客数に占める加須市民の割合如何の点で、本件組合がした本件施設設置の裁量的判断に逸脱濫用を認めることは相当でないものというべきである。
これに反する原告の主張は採用することができない。
3 その余の事由に基づき本件公金支出の違法をいう主張について
(1) 加須市の財致について
原告は、加須市の財政事情の下では、本件公金支出は地方財政法4条の2に違反すると主張するので、これについて判断する。
加須市は、本件公金支出として、平成10年度は2047万5000円、平成11年度は1918万7250円、平成12年度は9039万4650円を支出し、また、今後、本件施設の推計維持管理費と推計年間収入との差額のうち、4分の3に相当する約2200万円を組合経費負担金として支出することとなり、さらに、別紙4記載のとおり、本件施設建設のための組合起債の償還費用及び土地取得代金の4分の3を負担金として支出すべきものであり、その額は最大で6792万7590円(平成14年度)である。
しかしながら、前記の証拠等によれば、加須市の平成11年度末普通会計の決算における歳入総額は約222億4000万円規模、歳出合計は約212億5000万円規模であり、経常収支比率は74.3パーセントであること等が認められるのであるから、前記程度の支出が、地方財政法4条の2に違反し財務会計上違法と評価すべきほどに財政上の支障となるものということはできず、原告の主張は採用することができない。
(2) 本件施設の運営委託について
原告は、本件施設の運営委託につき、加須市議会の議決がされておらず違法の疑いがあり、更に、本件施設は、いわゆるハコモノ行政により金儲けすることのみを目的として建設されたもので違法であるとも主張するので、これについて判断する。
日本美装に対する本件施設の業務委託は、前記のとおり、支援財団が行ったものである上、そもそも前記業務委託契約は、地方自治法96条1項5号ないし9号、同法施行令121条の2、別表第3及び第4のいずれにも該当しないものであって、議会の議決を必要としないものである。
また、本件施設は、被告がいわゆるハコモノ行政により金儲けすることのみを目的として建設したものである等のその余の原告の主張は、本件全証拠に照らしても、認めるに足りないから、採用することができない。
4 結論
以上のとおりであるから、本件公金支出に違法があるとする原告の主張は、その前提をなす本件組合の裁量判断の逸脱又は濫用があるということのできないものであり、その余の点を含め、すべて失当というべきである。
よって、本件請求は、理由がないから、棄却することとし、訴訟費用の負担につき、行訴法7条、民訴法61条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 田中壯太 裁判官 都築民枝 渡邉健司)