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さいたま地方裁判所 平成12年(行ウ)50号 判決 2002年1月23日

原告

真言宗B寺派(仮名)

同代表者代表役員

甲野太郎(仮名)

同訴訟代理人弁護士

横山勝彦

被告

埼玉県知事 土屋義彦

同指定代理人

中園浩一郎

白井ときわ

安部憲一

金谷滝夫

北田聖一

小野塚仁

松島利夫

今井道郎

岡本好徳

主文

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は、原告の負担とする。

事実及び理由

第1  請求

被告が平成12年4月24日付けでA寺(主たる事務所・埼玉県比企郡川島町〔番地略〕)に対してした宗教法人「A寺」規則変更についての認証処分を取り消す。

第3  当裁判所の判断

1  宗教法人の規則の変更及びその認証についての法の定め(本件申請ないし本件処分当時)は、別紙のとおりである。

2  これらの各規定及び法1条2項・85条等の諸規定に照らせば、所轄庁が、規則変更の認証をする際の審査は、受理した規則及び添付書類の記載によって、当該申請に係る規則変更が法28条1項各号に掲げる要件を備えているかどうかについての審査をすれば足りるのであって、それ以上に、例えば、原告が指摘する、規則変更の理由が、信仰上、教義上のものであるか否かというような、当該規則の変更の理由やその無効事由の有無については、いわゆる実質的審査権限を有するものではなく、かえって、そうした審査をすることは許されないと解するのが相当である(最高裁第三小法廷昭和37年6月26日判決・裁判集民事61号409頁参照)。

すなわち、法は、上記のような事由につき実質的審査をすべき旨を明文上要求しておらず、かつ、上記のような規則変更の事由が真実信仰上、教義上のものであるか等の実質的審査権限を所轄庁に認めるならば、所轄庁に対し、規則変更認証の審査に名を借りて、当該宗教法人の宗教活動の自由等に介入する契機を与える危険性があり、かえって、法の趣旨に反する結果となるからである(憲法20条、法1条2項、85条参照。)。

3  原告は、規則変更(被包括関係の廃止)の理由が、信教の自由の範囲内のものである場合かそうでない場合かで、認証の要件を異にすると主張するが、そのように解すべき明文上の根拠はなく、原告主張のように、規則変更の理由が信教の自由の範囲内であるか、これを逸脱したものであるかを判断するには、当該被包括宗教法人と包括宗教団体との関係、両者間の紛争の実体、教義の違いなど重大な宗教上の問題について、所轄庁及び裁判所という国の機関が関与しなければならなくなるのであって、憲法及び宗教法人法の上記規定に照らし、相当でないものというべきである。

そして、以上説示のことは、原告が主張する、A寺がした本件申請ないし本件規則変更が権利の濫用に当たるか否か、包括宗教団体である原告に被包括法人に対する信頼関係を破壊する行為があったか否か、についての判断を所轄庁に義務付けるとした場合においても、同様に妥当するものというべきである。

したがって、本件において、被告は、原告主張事由について審査すべき義務はないというべきであるから、本件処分に取消事由があるとする原告の主張は、いずれも採用できない。

4  そして、前記基本的事実関係に〔証拠略〕を総合すれば、本件規則変更の内容は、A寺が原告との間の被包括関係を廃止し、宗教団体信貴山真言宗との間で被包括関係を設定することを内容とするものであるところ、A寺は、本件申請の2か月以上前の日である平成11年12月20日、その旨の公告をし、同月28日、原告に対し、その旨の通知をし(法28条1項2号、26条2項、3頁参照)、かつ、本件申請に当たり、上記公告及び通知をしたことを証する書類等の必要書類を添付したこと(法27条参照)が認められる。

そうすると、A寺は、本件申請をするに際し、法26条以下に定める手続を履践し、これらに定める書類を添付して本件申請を行っているものであり、これらの資料によれば、本件規則変更が法令等に違反しているとの事実は窺えず、かつ、原告が主張する本件処分の取消事由に関する主張が採用できないものであることは、前記のとおりであるから、本件処分に違法な点はない。

5  よって、原告の請求は理由がないので棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 田中壯太 裁判官 松田浩養 渡邉健司)

参照条文

・宗教法人法(昭和26年法律第126号)

(規則の変更の手続)

第二十六条 宗教法人は、規則を変更しようとするときは、規則で定めるところによりその変更のための手続をし、その規則の変更について所轄庁の認証を受けなければならない。この場合において、宗教法人が当該宗教法人を包括する宗教団体との関係(以下「被包括関係」という。)を廃止しようとするときは、当該関係の廃止に係る規則の変更に関し当該宗教法人の規則中に当該宗教法人を包括する宗教団体が一定の権限を有する旨の定がある場合でも、その権限に関する規則の規定によることを要しないものとする。

2 宗教法人は、被包括関係の設定又は廃止に係る規則の変更をしようとするときは、第二十七条の規定による認証申請の少くとも二月前に、信者その他の利害関係人に対し、当該規則の変更の案の要旨を示してその旨を公告しなければならない。

3 宗教法人は、被包括関係の設定又は廃止に係る規則の変更をしようとするときは、当該関係を設定しようとする場合には第二十七条の規定による認証申請前に当該関係を設定しようとする宗教団体の承認を受け、当該関係を廃止しようとする場合には前項の規定による公告と同時に当該関係を廃止しようとする宗教団体に対しその旨を通知しなければならない。

4 宗教団体は、その包括する宗教法人の当該宗教団体との被包括関係の廃止に係る規則の変更の手続が前三項の規定に違反すると認めたときは、その旨をその包括する宗教法人の所轄庁及び文部大臣に通知することができる。

(規則の変更の認証の申請)

第二十七条 宗教法人は、前条第一項の規定による認証を受けようとするときは、認証申請書及びその変更しようとする事項を示す書類二通に左に掲げる書類を添えて、これを所轄庁に提出し、その認証を申請しなければならない。

(1) 規則の変更の決定について規則で定める手続を経たことを証する書類

(2) 規則の変更が被包括関係の設定に係る場合には、前条第二項の規定による公告をし、及び同条第三項の規定による承認を受けたことを証する書類

(3) 規則の変更が被包括関係の廃止に係る場合には、前条第二項の規定による公告及び同条第三項の規定による通知をしたことを証する書類

(規則の変更の認証)

第二十八条 所轄庁は、前条の規定による認証の申請を受理した場合においては、その受理の日を附記した書面でその旨の当該宗教法人に通知した後、当該申請に係る事案が左に掲げる要件を備えているかどうかを審査し、第十四条第一項の規定に準じ当該規則の変更の認証に関する決定をしなければならない。

(1) その変更しようとする事項がこの法律その他の法令の規定に適合していること。

(2) その変更の手続が第二十六条の規定に従つてなされていること。

2 第十四条第二項から第五項までの規定は、前項の規定による認証に関する決定の場合に準用する。この場合において、同条第四項中「認証した旨を附記した規則」とあるのは、「認証した旨を附記した変更しようとする事項を示す書類」と読み替えるものとする。

(規則の認証)

第十四条 所轄庁は、前条の規定による認証の申請を受理した場合においては、その受理の日を附記した書面でその旨を当該申請者に通知した後、当該申請に係る事案が左に掲げる要件を備えているかどうかを審査しこれらの要件を備えていると認めたときはその規則を認証する旨の決定をし、これらの要件を備えていないと認めたとき又はその受理した規則及びその添附書類の記載によつてはこれらの要件を備えているかどうかを確認することができないときはその規則を認証することができない旨の決定をしなければならない。

(1) 当該団体が宗教団体であること。

(2) 当該規則がこの法律その他の法令の規定に適合していること。

(3) 当該設立の手続が第十二条の規定に従つてなされていること。

2 所轄庁は、前項の規定によりその規則を認証することができない旨の決定をしようとするときは、あらかじめ当該申請者に対し、相当の期間内に自ら又はその代理人を通じて意見を述べる機会を与えなければならない。

3 第一項の場合において、所轄庁が文部大臣であるときは、当該所轄庁は、同項の規定によりその規則を認証することができない旨の決定をしようとするときは、あらかじめ宗教法人審議会に諮問してその意見を聞かなければならない。

4 所轄庁は、前条の規定による認証の申請を受理した場合においては、その申請を受理した日から三月以内に、第一項の規定による認証に関する決定をし、且つ、認証する旨の決定をしたときは当該申請者に対し認証書及び認証した旨を附記した規則を交付し、認証することができない旨の決定をしたときは当該申請者に対しその理由を附記した書面でその旨を通知しなければならない。

5 所轄庁は、第一項の規定による認証に関する決定をするに当り、当該申請者に対し第十二条第一項各号に掲げる事項以外の事項を規則に記載することを要求してはならない。

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