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さいたま地方裁判所 平成13年(わ)1063号 判決 2002年6月19日

主文

被告人を懲役5年に処する。

未決勾留日数中250日をその刑に算入する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は,

第1a市内の当時の被告人方において,A(当時16歳)が18歳に満たない者であることを知りながら,

1  平成11年11月下旬ころ,現金5000円の対償を供与するなどして,同女と性交するなどし,

2  同年12月7日ころ,携帯電話機使用の対償を供与して,同女と性交するなどし,

もって,それぞれ児童買春をし,

第2平成12年6月19日午後5時55分ころから午後6時15分ころまでの間,前記の当時の被告人方において,B(当時19歳)に対し,抱きつき,覆い被さるなどの暴行を加えて,同女の陰部に指を挿入するなどし,もって,強いてわいせつな行為をし,

第3平成13年4月30日午前零時すぎころ,b町内の路上において,通行中のC(当時17歳)を認めるや,同女を略取して監禁した上,わいせつな行為をしようと企て,その手首を掴んだ上,背中を手で押して自己の運転する普通乗用自動車の後部座席に連れ込み,同車を発進させてa市内の資材置場まで連行し,同日午前1時28分ころ,同所において,同女が逃げ出すまでの約80分間,同女を自己の支配下に置くとともに車内から脱出することを不能ならしめ,もって,わいせつ目的で略取し,かつ不法に監禁したものである。

(証拠の標目)

省略

(事実認定についての補足説明)

判示第3の事実について,被告人は,捜査段階から一貫して,自動車でJRc駅付近に出かけたところ,既に終電の時刻を過ぎた平成13年4月30日の午前1時ころ,東京都f区gに向かう足がなく,困っていたCと出会い,gまで送るために好意からCを自己の自動車に同乗させたのであって,わいせつ目的で略取したり,監禁したことはないと供述し,弁護人も,この供述等に基づいて被告人は無罪であると主張するので,以下検討する。

一  被害者であるCは,当公判廷において,本件被害状況等について,大要,次のとおりの証言をしている。

1  当時,高校3年生であったが,事件前夜の平成13年4月29日(日曜日)は,午後9時30分ころ,スーパーマーケットでのアルバイトを終えて帰宅し,午後11時30分ころまで,テレビで格闘技の番組などを見たりして過ごした。入浴した後,飲物が欲しくなり,自宅の冷蔵庫には好みの飲物がなかったため,歩いて5分くらいの所にあるコンビニ「K」に買いに行こうと考えたが,自宅の鍵を持っておらず,父母ももう寝ていたので,弟に,自分が出たら鍵をかけ,戻って電話をしたら鍵を開けるよう頼んだ上,同月30日午前零時過ぎころ,徒歩で「K」に向かった。服装は,パジャマとして着ていた服の上に茶色のハーフコートを羽織り,ジーンズ地のズボンという普段着の姿,化粧は,まゆ毛をかいた程度,所持金は,1,000円以下だったように思う。

2  家を出て3,4分歩いていると,背後から自分の左側に自動車が来て,運転席にいた被告人から,「何しているの。」などと話しかけられた。軟派目的なのだろうと思い,無視して歩いていると,被告人は,こちらの歩くペースに合わせて,ゆっくり車を走らせ,しつこくつきまとった上,さらに,「どこ行くの。」とか,「乗せていくよ。」などと話しかけてきたが,「いいです。」と断って道路の右端を歩き続けた。すると,併走していた被告人の自動車が,行く手を遮るように自分の左斜め前に出て止まった。道路の左側には別の自動車が2台止めてあったので,左側に回り込むことはできないし,断れば被告人も立ち去るだろうと考え,そのまま直進しようとしたところ,降車した被告人が,右後部座席のドアを開け,「乗っていきなよ。」と言った。これを断ると,被告人は,やにわに右か左の手首を掴み,背中を手で押して自動車の後部座席に押し込んでドアを閉めた。あっという間の出来事で,助けを求める余裕はなかった。すぐに逃げようとしてドアを開けようとしたが,何か仕掛けがあるのか,ドアロックの装置を上に上げてもロックを解除することができず,そのうち,自動車は発進してしまった。

3  車から降ろすように何度も頼んだが,被告人は,「ちゃんと送っていくから。」とか,「ドライブだから。」などと言って聞き入れず,その後も,「幾つなの。」とか,「処女なの。」,「いつやったの。」,「俺がレイプでもすると思った。」などと,いやらしいことばかり言ってきた。レイプ目的だと思ったが,被告人を挑発して怒らせたりしないよう,大声を出さないで適当に相づちを打つ一方,現在の状況を知らせるため,被告人にばれないよう,持参していた携帯電話のリダイヤルボタンを適当に押して通話状態にしたりした。

4  1時間くらい走ると,自動車がたくさん止めてある,人気のない暗い廃車置場のような場所に着いた。被告人は,「1分待ってて。物を持ってくるから。」と言って自動車を降りてどこかに行ったので,凶器を持ってきたり,仲間に連絡したりするのではないかと思い,運転席のドアから脱出し,人家のある方に向かって走って逃げた。逃げている最中,知らないうちに携帯電話のボタンを押してしまったらしく,当時交際中のIから折り返し電話がかかってきたので,地元からa辺りまで連れてこられたことを訴えた。Iから,とりあえず人家に逃げ込むようにとの助言があり,付近の人家に逃げ込んでインターホンで助けを求めていると,追ってきた被告人が玄関先まで来て,「まだ何もやってないじゃないか。」とか,「それじゃ,俺が悪いみたいじゃないか。」などと怒鳴ったが,その家の人がドアを開けてくれたので,中に入っていきさつを話し,30分ほどして自動車で迎えに来たIと帰途についた。途中,被告人が自動車で追いかけてきて,信号か何かで止まると,自動車を降りて何か話しかけようとしてきたので,それを振り切り,110番に連絡して警察に向かった。

二  被害者の上記供述は,具体的で詳細なものであり,迫真性を備えた合理的な供述と認められる上,関係証拠から認定することができる客観的状況,殊に,ら致現場であるとして指示説明した道路の左側には,被害申告を受けた警察官が実況見分をした当日の午前5時18分ころ,現に2台の自動車が路上駐車されていたと認められることや,犯行に使用された自動車(マツダ・カペラ)にはチャイルドロック装置が装備されていたこと,被害者の携帯電話の通話状況等ともよく符合している。被害者が,被告人と何ら面識がなく,被告人を罪に陥れるために殊更虚偽の供述をする事情が何ら見当たらないことなどをも総合すると,被害者の証言は十分に信用することができるものといえる。

三  ところで,弁護人は,主として次のような根拠を挙げて,被害者の供述は信用できないと主張する。

1  まず,弁護人は,被害者は,「K」に向かおうとしていて被告人の自動車に行く手を遮られた際,それまでに被告人からしつこく軟派されていたというのであるから,被告人車の左側に回り込もうとせずに直進しようとしたのは不自然であり,また,自動車に押し込まれる際被告人に掴まれたという自己の手首について,警察における取調べの際には「左手首」と供述していたのに,公判廷においては「右手首」とか,「どちらかはっきりしない。」とか証言し,供述を変遷させている,という。

しかし,被害者は,直進した理由について,先にみたとおり,道路の左側に自動車が2台止めてあったため,被告人車の左側には通り抜ける余地がないと考えた旨,及び,断れば被告人が立ち去るだろうと考えた旨を証言しており,それまでの被告人が被害者につきまとった状況を考慮に入れても,その証言内容に特段不合理な点はないといえる。また,自動車に押し込まれる際被告人に掴まれた手首が右か左かについては,被害者は,いったん「右手首」と証言したものの,その後,警察の取調べの際は「左手首」と述べていることを告げられて,「はっきり覚えてないが,どちらかの手首を掴まれたことは間違いない。」と証言していることが認められる。自動車に連れ込まれる際の一瞬の出来事について,この程度の記憶の混乱があったとしても,何ら不自然なこととはいえず,この点が被害者証言の全体の信用性に影響を及ぼすものとは考えられない。

2  次に,弁護人は,被害者は,コートの下はパジャマを着ただけの普段着で外出したと証言したが,事件直後に捜査に当たった警察官のJは,当公判廷において,コートの下はパジャマではなかったと明確に証言しており,また,被害者が,当夜,アルバイトから戻った際の靴である「ミュール」からわざわざ「パンプス」に履き変えて外出していることも考え併せると,被害者の服装は,よそ行きのものとみるのが自然である,という。

しかし,コートの下の衣類に関する被害者の証言を子細にみると,被害者は,「パジャマに着ていたやつ」と証言しているのであり,「パジャマ」とは証言していないのであるから,J証言と被害者の証言が矛盾するとはいえない。また,被害者が「パンプス」を履いた点については,被害者証言を精査しても,玄関にあった自分の靴を履いていったという以上に,意図的な選択をしたことを窺わせる形跡はなく,靴の点も含めて当夜の被害者の服装を全体としてみると,格別,よそ行きのものであるとは認められない。

3  次に,弁護人は,自動車の中は脅迫文言や怒号が飛び交うような状況ではなかったから,携帯電話を通話状態にしても意味はないし,危機的状況をまず第一に伝えるべき自宅や交際相手のIらには電話がかけられていないことにも照らすと,被害者が車内の状況を聞かせるために電話をかけたというのは合理的でない,という。

しかし,結果はともかくとして,ら致された被害者が,そのことを伝えるため,とっさに持っている携帯電話を通話状態にして車内の様子を伝えようとすることは極めて自然な行動であって,特段疑義を容れる余地はないし,被害者が自宅や交際相手に電話をしなかった点についても,当時,被害者は,被告人にばれないように注意しつつ,一刻も速く誰かに連絡しようと考えていた旨証言しており,緊急状態のもとでは,手間のかかる操作をしていて,被告人に発覚し,携帯電話を取り上げられてしまう危険を考え,適当にリダイヤルボタンを押して通話状態にするという選択をすることも十分にありうることといえる。

四  一方,被告人は,本件について,捜査段階から一貫して否認しているが,当公判廷においては,大要,次のとおりの弁解をしている。

1  平成13年4月30日は,暇つぶしに軟派でもしようと考え,午前零時ころ埼玉県a市内の自宅を出て,自動車(マツダ・カペラ)に乗ってcに向かった。c市内に入り,商店街である「L」の辺りを走っていると,コンビニの店内に20歳くらいの女の子(被害者)が一人でいるのを見かけたので,声をかけてみようと考えて自動車を止めた。外に出てきた被害者に,「これからどこへ行くの。」などと話しかけると,被害者は,gのクラブで知り合いのパーティーがあって,どうしても行かないといけないが,電車がないので困っている旨答えたので,「gだったら,用事があるから,乗っけていってあげようか。」ともちかけてみた。すると,被害者は喜んでいたものの,いざ後部ドアを開けて乗せようとすると,警戒したのか,乗り込もうとしないので,「じゃあいいや,またね。今度遊ぼうか。」と言って被害者と別れ,自動車に乗ってその場を離れた。

2  Lの出口に向かうと,顔見知りの「Dちゃん」と名乗る女性(E)の姿を見かけたので,自動車を止めてEに近寄り,「よかったら遊ぼうよ。」などと誘った。Eから,F鉄道のd駅前まで母親が迎えに来るので送ってくれないかと頼まれ,送ることにしたが,Eと話している最中,振り返って見ると,道路の向かい側で先ほどの被害者が携帯電話をかけているのが見えたので,Eに,「gまで行くというかわいい女の子を軟派したら,車に乗りかけて結局乗らなかったんだけど,君が一緒ならば乗るかもしれない。」などと言って,被害者のそばに歩み寄り,もう一度誘うと,今度は被害者も応じる姿勢を見せた。Eは既に助手席に座っていたが,その後被害者も乗り込んだので,午前1時ころ発進した。被害者は,「困っていたんだ。」とか,「今日中に行く足がつかまってよかった。」というようなことを言って,大喜びしていた。

3  d駅前でEを降ろした後,gに行く前に,a市内の自宅近くの資材置場に寄り,そこに止めてある自動車(BMW)のトランクに入れてあった,女友達が以前置き忘れていったヴィトンのシガレットケースを,知人を通じて持ち主に返そうと考え,被害者にもその旨説明した上でa市に向かったが,被害者は,途中から寄り道をすることに強く文句を言い,口喧嘩になった。資材置場に到着して,自動車を降り,付近で立ち小便をしていると,背後からドアがバタンと閉まる音や足音が聞こえたので,振り返ると,被害者が走って逃げていくのが見えた。資材置場に到着したころ,「まわすんでしょう。」とか言い出していたし,人気のないところに止めたので,輪姦でもされると勘違いして逃げたのだと思い,誤解を解いておかないと,後日男にでも話されて,車を壊しに来たりするかもしれないとか,cでタクシーに乗ろうとしていたのに,それよりも遠い所に連れてきてしまって,結果的に悪いことをしてしまったかもしれないので,途中まででも車に乗せてあげようとかいうことを考え,被害者のあとを追いかけるなどした。

4  当日乗っていたカペラの中には,被害者を乗せてcからa市に向けて走行中,gに送って行くように要求する被害者の声を録音したカセットテープが置いてあったが,そのテープは,本件後,カペラを「G」という自動車修理業者に渡す前に,車内の他の私物と一緒に,ブローカーをしている知人の「H」に預けた。このテープは,自己の話が真実である一つの証拠になると考えていたが,捜査段階で話してしまうと,嘘つきの被害者が,gまで乗っけてってくれと言わされた旨言い逃れをすると思ったので,裁判のときの切り札にとっておこうと思い,捜査官にはそれがあることを話さなかった。

五  しかしながら,関係証拠を精査しても,被害者が,日ごろgのクラブなどに出入りして,夜間遊興をしたり,また,深夜の足を確保しないまま,成り行き任せに,とりあえず自宅を出るというような無謀な行動をとったりすることを窺わせるだけの事情は全く認められないのであって,被告人の上記弁解は,まず,普段着の姿で自宅を出た高校3年生の被害者が,午前1時前後ころにgのクラブに行くなどという目的でJRc駅付近にいる可能性がほとんどないという点で,信用することができない。また,被告人の弁解によると,gまでの足として喜んで乗車したはずの被害者が,a市内の資材置場に到着するや,降雨の中を,突然,走って逃走し,付近の民家に駆け込んで助けを求めた理由や,また,それを被告人が執ように追いかけ回した理由などが不可解といわざるを得ない上,そもそも被告人が資材置場に寄り道することを考えた理由として述べるところのシガレットケース返還の話も,現実味を欠く不自然なものであって信用し難い。さらに,被告人は,自己の話が真実であることを証明する証拠として,gに送っていくように要求する被害者の声を録音したカセットテープがあるとも言うが,その存在を公判に至るまで明らかにしなかった理由として述べる内容は,全く荒唐無稽で理解することができない。結局,被告人の弁解は,その骨格をなす重要な部分において,不自然であったり,合理性を欠いたりしており,甚だ信用性に乏しいものというほかない。

六  なお,被告人の知人のEは,捜査段階及び当公判廷において,大学時代のテニスサークルの仲間とgで飲んだ後,平成13年4月30日深夜,JRc駅付近で被告人と会い,被告人が軟派した10代か20代の若い女の子と一緒に被告人の自動車に同乗した旨述べるところ,同乗した女性の年齢,容貌,服装等についての供述は極めて漠然としていて,それが被害者であるかどうかおよそ判定できない状況にあること,また,それが4月30日である点については,Eは,その後,被告人の弁護人だという女性弁護士から,被告人と会ってF鉄道d駅まで送ってもらった日にちは4月30日ではないかとの問い合わせがあった際,それが何日という具体的な記憶はなかったが,被告人と会う前に大学時代の仲間との飲み会があった記憶があり,その会に出席していた友人に尋ねて,同日であることを確認したと述べるにとどまり,それ以上にこれを裏付ける特段の事情も認められず,他方で,証言時点では,この飲み会との結びつきを除けば,被告人と会ったのが同日のことであるかどうかは全く分からないと述べていること,被告人と出会った時間についても,それについての絶対的な記憶があるわけではなく,g駅を午後11時59分に出るJRの終電(M線)で自宅最寄りのe駅(N線)に向かったが,乗り過ごしてJRc駅まで行ったので,到着は午前零時45分ころの予定であり,それから30分以内で被告人に出会った旨,相当幅のあるあいまいな表現をしていること,さらに,母親にF鉄道d駅前まで迎えに来てもらったことはこの他にも多数回あると証言していることなども併せ考えると,その供述をたやすく信用することはできないものといわざるを得ない。

七  以上のほか,被害者を連行した先の資材置場に止めてあった被告人の自動車(ニッサンキャラバン)に手錠や性具が積み込んであったことや,日ごろの被告人の女性関係など,関係証拠によって認められる諸事情を総合すると,被告人がわいせつ目的で被害者を略取,監禁したことは明らかというべきであり,弁護人の前記主張は採用できない。

(法令の適用)

被告人の判示第1の1,2の各所為はいずれも児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律4条に,判示第2の所為は刑法176条前段に,判示第3の所為のうちわいせつ略取の点は同法225条に,監禁の点は同法220条にそれぞれ該当するが,判示第3のわいせつ略取と監禁は1個の行為が2個の罪名に触れる場合であるから,同法54条1項前段,10条により1罪として重いわいせつ略取罪の刑で処断することとし,判示第1の1,2の各罪について所定刑中懲役刑をそれぞれ選択し,以上は同法45条前段の併合罪であるから,同法47条本文,10条により最も重い判示第3の罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲内で被告人を懲役5年に処し,同法21条を適用して未決勾留日数中250日をその刑に算入し,訴訟費用は,刑事訴訟法181条1項ただし書を適用して被告人に負担させないこととする。

(量刑の事情)

本件は,被告人が,16歳の児童を2回買春し(判示第1の1,2),当時の自宅で女性に強いてわいせつな行為をし(判示第2),さらに,路上において,わいせつ目的で女子高校生を車に連れ込み,自宅近くの資材置場まで連行した(判示第3)という事案である。

まず,判示第3の犯行についてみるに,被告人は,たまたま年若い被害者が一人で歩いているのを見かけるや,軟派を試み,これを拒否されると,性的欲望の赴くままに犯行に及んだもので,その動機は身勝手かつ短絡的であるというほかない。犯行態様も,深夜,人通りのない路上で,被害者の傍らに自動車を停止させるや,その手首を掴み,背中を押すなどして一瞬のうちに後部座席に押し込み,直ちに自動車を発進させ,それから1時間以上もの間被害者を車内に監禁し,約30キロメートルも離れた人気のない資材置場まで連行しているのであって,大胆で悪質な犯行というほかない。被害者は,自宅近くのコンビニまで買物に出たところ,突然,本件被害に遭い,強姦されるかもしれないとの恐怖にさいなまれながら,長時間,車で見ず知らずの被告人に連れ回されたもので,本件後は,通学やアルバイトの往復にも必ず親の付き添いが必要な状態で,精神的被害は相当に強く,被告人の厳罰を求めるのも当然といえる。判示第2の犯行については,共通の趣味であるジェットスキーの話題を用いて言葉巧みに被害者を誘って自宅に連れ込み,嫌がる被害者にわいせつ行為をしたり,被害者が着替えるところをビデオカメラで隠し撮りしたりしており,また,判示第1の各犯行については,判断能力の未熟な16歳の被害者が現金や携帯電話を欲していたことにつけ込み,これらを与えるのと引き替えに被害者と性交し,その後も電話をかけて会うことを要求したりしており,年若い被害者に対する今後の悪影響も懸念されるところであって,これら各犯行もいずれも許し難い悪質な犯行といわざるを得ない。その他,判示第3の犯行について,被告人が,被害者に謝罪し,慰謝の措置をとるどころか,逆に被害者を嘘つき呼ばわりした上,虚偽の弁解を述べ立てて刑責を免れることに汲々としており,真の反省悔悟の情が認められないこと,平成11年6月に強制わいせつ罪で懲役1年6月(4年間執行猶予)の刑に処せられたのに,それからほどなくして本件各犯行に及んでおり,性犯罪に対する抑制が著しく欠けていることなどに照らすと,被告人の刑責は重く,長期間服役させることでその改善更生を図るほかはない。

そうすると,被告人が,判示第1及び第2の各犯行を認めていること,判示第2の被害者に対して30万円を支払い,示談が成立していること,被告人の母親が出廷し,今後の指導監督を申し出ていることなど,被告人のために斟酌すべき事情を十分に考慮してみても,被告人に対し,主文程度の刑を科すことはやむを得ない。

よって,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 若原正樹 裁判官 大渕真喜子 裁判官 小笠原義泰)

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