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さいたま地方裁判所 平成13年(わ)1261号 判決 2002年5月17日

主文

被告人Aを懲役20年に,被告人Bを懲役15年に処する。

被告人両名に対し,未決勾留日数中各180日を,それぞれその刑に算入する。

理由

(判示第3の犯行に至る経緯)

1  被告人両名の身上経歴等

被告人Aは,高校卒業後,はんだの製造販売等を業務とする株式会社C(以下,単に「C」という。)に勤務し,平成3年からは同商店の代表取締役としてその経営に当たっていた。被告人Bは,大学卒業後,会社員として働いた後,平成12年9月ころからは,塵芥車を購入して廃棄物回収作業に従事していた。被告人Aと同Bは,幼なじみで,昭和46年ころから仕事や麻雀などを通じて親しくなり,飲み友達として交際を続け,被告人Aは同Bに勤め先の世話をするなどしていた。

一方,被告人Aは,昭和55年ころa市内の居酒屋でD(昭和30年11月2日生。判示第3の犯行の被害者)と知り合い,その後も飲み屋で度々顔を合わせたりするうちに年下の同人から慕われるようになり,以前から仕事に就いていなかった同人にはんだの運搬を月2,3回程度手伝ってもらう代わりに,酒をおごったりするなど,飲み友達として交際を続けていた。

2  被告人Aの犯意の形成等

Cは,被告人Aが代表取締役に就任した数年後から赤字が続くようになり,同被告人は,銀行からの融資を受けたりするために,いわゆる粉飾決算をするなどしてその経営状態を取り繕っていたものの,平成11年ころにはその累積赤字は粉飾決算を前提としても4000万円近くにも達する状態となったため,同被告人は,取引先と融通手形を出し合ったりして,資金繰りを手当てするようになった。平成12年になっても,Cの自転車操業状態は続き,その負債は増加し,倒産の危機にさらされるようになった。このため被告人Aは,Cが倒産しても家族を路頭に迷わせたりするようなことは何としてでも避けたいと考え,同年4月下旬に至って,保険会社の外交員に依頼して,それまで自分に掛けていた経営者大型保険の契約期間を短縮するなどして,同じ掛け金でより多くの保険金(死亡時5000万円,災害死亡特約5000万円)を受け取れるようにしたが,その際,前記Dにも生命保険を掛けておけば,いざとなれば同人を殺害して保険金を取得できると思い,上記外交員に対して,DがCで役員待遇を受けているから自分が入っているのと同内容の保険に入れたいなどと嘘を言い,Dを被保険者,Cを保険契約者兼保険金受取人として,死亡保険金5000万円,災害死亡保険金5000万円(災害死亡時の合計保険金1億円)とする掛け捨ての生命保険を申し込み,同年7月に至ってその契約が締結された。

そして,被告人Aは,その後もCの経営のやり繰りを続けていたが,平成13年に入ってからは売上が減少していき,同年3月ころには更に売上げが先細りとなったため,このままではCが近いうちに倒産することは間違いないと考えるとともに,そうなれば全てを失い,債権者が押し掛けてきて家族は離散状態になってしまうだろうから,何としてでもそのような事態を阻止したいと考え,こうなればいっそDを殺害して上記保険金(合計1億円)を取得し,倒産の危機を回避しようと決意するに至り,またDを自ら殺害したのでは真っ先に犯人と疑われるであろうから,第三者にDを殺害させ,自分はそれとは無関係であるように装って保険金を騙し取ろうと考えた。

3  被告人Bとの謀議形成状況等

そこで被告人Aは,以前から親しく付き合っている被告人Bであれば,多額の借金を抱えている上,自分から就職の口利きを受けるなどして恩義を感じているはずだから,Dの殺害を引き受けるのではないかと考え,同年3月初旬ころ,a市内の寿司屋で,同被告人に対し,実際にはDを殺害すればCが保険金として合計1億円を取得する筈であるのにその事情を秘し,Cが災害死亡時に4000万円が支払われる生命保険を掛けており,そのうちの1000万円を報酬として支払うからDを殺害して欲しいと依頼したところ,被告人Bは,その場では返答を留保したものの,同被告人も数百万円以上の借金を抱えてその返済に追われていた上,現在の廃棄物回収の仕事を体力的にいつまで続けられるのかと不安に思っていたことから,1000万円も入手できれば借金を清算して貯蓄ができるなどと考えて,そのことが念頭から離れなくなり,数日後に至って,前記依頼を引き受けることを承諾した。

4  犯行前における被告人両名の行動等

その後被告人両名は,電話等で殺害方法について話し合い,同年4月初旬ころ,Dを,飲み屋に誘って酔い潰した上,被告人Bの廃棄物運搬の手伝いを頼んで人気のない場所まで連れ出して鈍器等で撲殺することにし,同月上旬から同年6月中旬ころまでの間,再三にわたってDを殺害しようとしたが,被告人Aにおいては同Bに単独で実行させようと目論んでいたのに対して,被告人Bにおいては,単独でDを殺害するのは無理だと考えて,その実行を躊躇していたことなどから,同人を殺害するには至らなかった。その間被告人Aは,同B1人では実行できないと考え,20年ほど前から自分やDと交際していたEを犯行に誘ったが拒否され,また既に保険金を手に入れたも同然と思っていたのに未だDを殺害できないことに焦り,こうなれば被告人Bと一緒にDを殺害してその遺体を被告人Bの運転する車に積み込み,同被告人に他の場所に運搬遺棄させ,Dが通り魔にでも遭って殺害されたように偽装しようと考えるに至った。

この間,被告人らは殺害のための道具を用意することになり,被告人Bは,塵芥車を駐車していた駐車場で,普通貨物自動車の荷台に大型のバールがあるのを見つけ,これを盗んで使おうと考えて,判示第1の犯行に及び,被告人Aは金物屋でハンマーを購入し,それぞれ準備を進めた。また被告人両名は,犯行の発覚を免れるために,盗んだ車を使って死体を運搬しようと考え,判示第2の犯行に及んだ。

5  犯行当日の状況等

被告人Aは,同年6月下旬に至って,殺害の具体的手順として,Dにゴミを塵芥車に積むように頼んで同人がそのゴミ投入口の方を向いた隙に被告人Bに殴り掛からせようと考え,この計画を同被告人に電話で説明した。そして被告人Aは,同月29日,Dに電話を掛け,翌日に,被告人らやDが常連客となっているb市内のサウナ店「F」に行った後,Dがひいきにしている同市内の居酒屋「G」で飲もうと誘った。

そして被告人Aは,同月30日午後1時過ぎころから,Dと「F」で時間を潰し,そこに被告人Bが合流した後,3人で「G」に赴いたが,そこで被告人両名は,かねて準備してあった睡眠導入剤の溶液を密かにビールに入れてDに飲ませたりした。そして,被告人両名は,Dが前記Eと飲みたがったことなどから,b市内のEの行きつけの居酒屋「H」などを訪ね,同日午後8時30分ころ,同店を出た。被告人両名は,いよいよDを殺害することにし,被告人Aの運転する普通乗用自動車にDを乗せ,被告人Bは自分の塵芥車に乗り,殺害場所を探すため一緒に車を走らせた。そして被告人両名は,同日午後8時40分ころ,b市内の路上に差し掛かり,同所がトタン塀の陰で人目に付かず,人通りもなかったことから,そこで殺害を実行することとした。そして被告人Aは,自分の車に用意していた空き缶入りゴミ袋をDに渡して塵芥車のゴミ投入口に入れるように頼み,同人がゴミ袋を投入口に入れたと見るや,「まっちゃん。まっちゃん。」と声を掛け,Dが振り向いてその場にいた被告人Bに背を向けると,同被告人は,両手に持ったバールを頭上に振り上げた。

(犯罪事実)

第1被告人Bは,平成13年4月26日午前零時ころ,b市内の月極駐車場において,同所に駐車中の普通貨物自動車の荷台から,I所有のバール1本(時価約2000円相当。平成13年押第278号の1)を窃取した。

第2被告人両名は,共謀の上,同年6月15日午後11時ころ,c市内のJ駐車場において,K株式会社L管理に係る普通貨物自動車1台(時価約60万円相当)を窃取した。

第3被告人両名は,前示のような経緯から,共謀の上,D(当時45歳)を殺害しようと企て,同月30日午後8時40分ころ,b市内の路上において,同人に対し,殺意をもって,被告人Bにおいて,第1記載のバール(長さ約89センチメートル,重さ約2.35キログラム。)でその頭部等を多数回殴打し,被告人Aにおいて,Dの頭部付近めがけて所携のハンマー(重さ約2.9キログラム。前同押号の2)を数回振り下ろした上,その場に倒れ込んだDを被告人B所有の普通特種自動車(前記塵芥車)に乗せ,被告人Bがこれを運転し,同日午後11時ころ,d町内の路上まで運び,同車から引きずり下ろし,そのころ,同所において,被告人Bにおいて,ハンマーでDの頭部等を更に数回殴打し,よって,そのころ,同所において,同人を頭蓋骨骨折を伴う頭蓋内損傷により死亡させて殺害した。

(証拠)

省略

(法令の適用)

1  被告人Aについて

罰条

第2の行為  刑法60条,235条

第3の行為  刑法60条,199条

刑種選択(第3の罪)  有期懲役刑

併合罪の処理  刑法45条前段,47条本文,10条,14条

(重い第3の罪の刑に加重)

未決算入  刑法21条

2 被告人Bについて

罰条

第1の行為  刑法235条

第2の行為  刑法60条,235条

第3の行為  刑法60条,199条

刑種選択(第3の罪)  有期懲役刑

併合罪の処理  刑法45条前段,47条本文,10条,14条

(最も重い第3の罪の刑に加重)

未決算入  刑法21条

訴訟費用  刑事訴訟法181条1項ただし書

(量刑の理由)

1  本件は,被告人両名が,共謀の上,生命保険金を取得する目的で共通の知人である被害者を殺害し(判示第3の犯行),殺害した被害者の死体を運ぶ目的で予め普通貨物自動車を窃取し(同第2の犯行),また被告人Bにおいて凶器とするためのバール1本を窃取した(同第1の犯行)という事案である。

2  まず,本件において量刑の中心となる判示第3のいわゆる保険金殺人の犯行(以下「本件犯行」という。)について,被告人両名の刑責を検討する。

(1)  被告人らが本件犯行に及んだ経緯・動機は,その犯行に至る経緯欄に記載したとおりであって,被告人Aにおいては,被害者に対して何の恨みも利害関係もなかったにもかかわらず,自らの経営する会社を受取人として被害者に多額の生命保険を掛けた上,専らその保険金(合計1億円)を取得する目的で本件犯行に及んだのであり,被告人Bにおいても,被害者には何の恨みもなかったのに,被告人Aから報酬として1000万円を支払うという約束のもとで被害者殺害の話を持ち掛けられるや,報酬欲しさからこれを承諾し,いわゆる「殺し屋」として本件犯行に加担したのであって,いずれもその経緯・動機において酌量すべき事情は全く存しない。

(2)  また,本件は,強固かつ継続的な殺意をもってなされた計画性の極めて高い犯行である。被告人Aは,当初から被害者を殺害する意図のもとに保険契約を締結したとまではいえないにせよ,いざCが倒産を免れないような逼迫した状態となれば,被害者を殺害して多額の保険金を入手することをも念頭に置きつつ被害者に生命保険を掛けたものと認められ(もっとも同被告人は,捜査段階においては,被害者が不健全な生活をしていて早死にすることが予想されたので,生命保険を掛けておいて損はないと思っただけで殺害することは考えていなかった旨弁解し,また公判廷においては,被害者がCにとって重要な人物であり,また被害者自身も保険契約の継続を強く望んでいたから生命保険を掛け続けていたのであって,不正あるいは邪悪な目的で被害者に保険を掛けたのではないなどと弁解するが,その弁解内容はいずれも極めて不自然なもので,関係証拠に照らして到底信用することはできない。),それから数か月後には現にその実行に取りかかっているのであって,当初から殺害目的で生命保険を掛けたのとさして変わるところはない。また被告人両名は,被害者を殺害するための計画を練った上,実際に数回にわたって計画の実行に取りかかっており,更に犯行当日も,確実に被害者を殺害するため,睡眠導入剤入りのビールを被害者に飲ませるなどした後,人気のない場所にまで被害者を車で連れて行った上,被告人Aが被害者にゴミを塵芥車に積み込むように頼み,被害者が塵芥車のゴミ投入口付近まで来るや,待ち構えていた被告人Bがバールで殴打するという,かねてから打ち合わせていた計画に基づいて犯行に及んでいるのである。

その殺害態様を見ても,被告人両名がそれぞれ殺害のための凶器を準備した上,被告人Bが大型のバールで被害者の頭部等を数回殴打して被害者を昏倒させ,更にその後頭部等をバールで多数回殴打した上,被告人Aがハンマーをその頭部付近めがけて数回振り下ろし(もっとも被告人Aが振り下ろしたハンマーが現に被害者の身体に命中したかどうかは証拠上定かではない点もあるが,そもそも被告人両名間においては被告人Bが中心となって被害者殺害を実行することが決められていたのであるから,上記の点は被告人Aの刑責を何ら軽減するものでないことは明らかである。),被害者がまだ生きていると見るや,被告人Bが更にその顔面等を多数回バールで殴打し,2人で被害者を塵芥車のゴミ投入口に積み込み,被告人Bが同車を運転して死体を遺棄する場所を求めつつ移動し(被告人Aは,その途中で,アリバイ作りのためだとして,被告人Bと別れて帰途についている。),遺棄するため被害者を引きずり下ろしたところ,まだ被害者が生存していたことから,その頭部等を前記ハンマーで数回殴打して止めを刺しているのであって,残忍冷酷極まりない。

(3)  被害者は,長年にわたる交際を通じて被告人Aを慕い,同被告人に頼まれてその仕事を手伝うなどし,被告人らを信用して交際していたのが仇となり,もとより何の落ち度もないのに,被告人両名から再三にわたって命を狙われた挙げ句,被告人らの奸計にかかり,凶器で滅多打ちにされ無惨な最後を遂げるに至ったのであって,その衝撃や苦痛,無念さは察するに余りあるものがある。突然凶報に接した被害者の遺族らの受けた衝撃は大きく,その悲しみもこの上なく深く,特に被害者の妻は,本件後に持病が悪化するなど,深刻な打撃を受けており,当然のことながら,被害者の遺族らの処罰感情は極めて厳しいものがある。更に,被告人らの本件犯行は,何の落ち度もない被害者を殺害して多額の保険金を詐取しようという,強盗殺人にも匹敵する冷酷非情かつ重大凶悪な犯罪であり,一般社会に与える影響も大きく,生命保険制度を根底から揺るがしかねないものであることも十分考慮されなければならない。

3  また被告人両名の判示第2の犯行については,本件殺人の発覚を免れるため他から車を盗み被害者の遺体を運ぼうと考えて犯行に及んでいるのであり,また被告人Bの犯した同第1の犯行も殺人の犯行に用いる凶器を調達するために行ったもので,いずれも悪質である。

4  更に,被告人両名の個別的情状について検討する。

(1)  被告人Aは,前記のとおり,自ら経営する会社の経営が傾き,資金繰りに苦しんでいたことなどから,被害者を殺害することをも念頭に置きつつ多額の生命保険を掛けた上,それから1年もたたないうちに被害者を殺害してその保険金(合計1億円)を入手しようと目論むに至り,被告人Bに対して,取得できる保険金額は4000万円であるなどと嘘を言いつつ,その中から報酬として1000万円を支払うことを約して同被告人を殺害の実行役として引き込み,同被告人に殺害行為を担当させることとし,自らはその陰に隠れて嫌疑をそらそうと画策しつつ被告人Bに早く実行するように迫り,同被告人が度々被害者の殺害に失敗すると,友人を犯行に誘ったりし,また被告人Bからの強い求めがあったとはいえ,自らも殺害の実行現場に立ち会い,殺害行為にも関与したりしているのであって,被告人Aが本件犯行の首謀者であることは明らかである。そして,既に述べたような本件犯行の動機の利欲性,計画性,態様の残忍性,結果の重大性,被告人Aの果たした役割等に照らすと,同被告人の刑事責任は誠に重く,検察官が同被告人に対して無期懲役を求刑しているのも当然であるようにも思われる。

(2)  また被告人Bは,多額の借金を抱えてその返済に追われ,将来に不安を覚えていたことなどから,被告人Aから1000万円の報酬を提示されて犯行に誘われると,結局その報酬を得る目的で「殺し屋」としてこれに加担することを決意し実行するに至ったもので,もとよりその経緯・動機において酌量の余地などある筈もなく,また自ら凶器を準備し,自分の車を犯行に供した上,確定的殺意をもって被害者の頭部等をバールやハンマーで多数回にわたって殴打するなど冷酷非情な殺害行為に及んでおり,犯行後も,凶器を遺棄し,被告人Aに対し被害者のバッグを処分するよう伝えるなど,犯行全体に深く関わっていたのであって,被告人Bが本件で極めて重要な役割を果たしていたことは明らかである。また,被告人Bは,同Aとともに判示第2の窃盗の犯行に及んだほか,被害者殺害の凶器を準備するために同第1の犯行にも及んでいるのであってその犯情も悪質である。更に被告人Bは,平成9年に恐喝未遂罪で懲役1年6月,4年間執行猶予(保護観察付き)の判決を受けて執行猶予中であったのに,本件各犯行に及んでいるのであって,規範意識の欠如は甚だしいものがある。これらの事情に鑑みると,被告人Bの刑事責任もまた非常に重いものがあるといわなければならない。

5  しかし他方で,本件保険金殺人の犯行については,前記のとおり,計画的,執拗かつ誠に冷酷非情な犯行ではあるが,その反面,真犯人が誰であり何の目的で犯行に及んだかが容易に発覚してしまうような粗略な点が随所に存在しており,このため,被告人らが本件犯行に及んだ唯一最大の目的である保険金(あるいはそれによる報酬)の取得という観点から見ると,その実現可能性は殆どなかったのではないかという特殊な事情が存在する。即ち,被告人両名は,本件犯行終了後僅か1日そこそこで逮捕され,しかも逮捕前から既に保険金を騙し取るために被害者を殺害したという本件の基本的かつ最も重要な事実関係を認めるに至っているのであるが,その経過等を子細に検討すると,被害者の遺体は,犯行終了後数時間を経過した7月1日午前4時30分ころ,通行人によって発見通報され,その状況等からして殺人事件の疑いが強かったことから,通報を受けたe警察署では直ちに捜査に着手し,ほどなく被害者の身元が判明したため,その妻から事情聴取したところ,被害者が当日被告人Aと会ってサウナや居酒屋(前記G)に行くと言っていたことが判明し,また被害者が被告人Bと付き合っていたことも突き止められたため,その日の午後に捜査員がそれぞれ被告人両名方に赴いてe警察署への任意同行を求め,犯行当日の行動や本件殺人事件との関係等について別個に事情聴取をしたところ,被告人Bにおいては,当初の数時間は,被告人Aや被害者とともに飲み歩いた後同人らと別れて帰宅したなどと弁解していたものの,その詳細について問い質されるうちに観念し,同月2日午前零時ころには本件犯行の概要をほぼ全面的に自白するに至っているのであり,一方被告人Aにおいては,捜査官に対して当日の行動等を一通り説明した後,同月1日午後8時ころ帰宅したが,捜査官が,その説明内容に不審な点があるとして,約2時間後に再度同被告人方を訪れて近くのa警察署への任意同行を求め,同署で事情聴取を開始したところ,その後まもなく本件犯行の概要をほぼ全面的に認めるに至っているのである。そして被告人らは,保険金取得の前提として,被害者の遺体が早期に発見されることは当然念頭に置いており,また自分達が犯行直前まで被害者と飲み歩くなどしていたことなどから,早い段階から警察に呼ばれて詳細に事情聴取されるであろうことは当然予期していたのであり,更に被害者に対して被告人らとの交遊関係等を家族等に話したりしないよう口止め工作等をした形跡もなく,当日のみならず以前から被害者を連れて度々飲み歩くなどしており,まして被告人AがCの仕事を月に数回手伝っていたにすぎない被害者に多額の生命保険を掛けるという極めて不審な行為に及んでいたことなどからすれば,自分達が本件犯行の犯人であると疑われることも当然予期していた筈であり,そのためにも一応口裏合わせをしたり,証拠隠滅工作を施したりしていたのである。しかし上記のような被告人らと被害者の交遊状況等からすれば,早い段階から被告人らが本件の犯人ではないかという強い疑いを掛けられることは必然ともいうべき状況にあったのであり,しかも被告人らは,いわば予期したとおりの事情聴取が始まったにすぎないのに,上記のとおり,いずれも取調開始後半日も経たずしてほぼ全面的に自白するに至っているのであって,そのことは被告人らの犯行発覚防止(隠滅)工作等がいかに非現実的で粗略だったかを如実に示しているのである。そして,本件が保険金殺人という極悪非道で極めて利欲性が高い犯罪であることからすれば,実際には被告人らが意図したところの多額の保険金(あるいは報酬)を取得できる見込みは殆どなく,それどころか,いわば当然に予想された警察からの事情聴取が始まるや否や,たちまち観念して犯行の根幹にわたる部分を殆ど全て自白するに至ったという事実は,被告人らの刑事責任を決するに当たって,決して軽く見ることはできないと考えられるのである。

6  また更に,被告人Aについては,前科はなく,Cの経営者としてそれなりの苦労を重ねながら社会生活を営んできたこと,被害者に保険を掛けた経緯や自己が本件犯行で果たした役割等について自己防御的かつ著しく不自然な弁解を繰り返しているのはやや遺憾ではあるが,本件犯行自体については逮捕当初から一貫して認めており,被害者及び遺族に対する反省の念を示していること,被告人Bにあっては,前述したとおり,金目当ての「殺し屋」として本件犯行に加担するなど,本件で重要かつ不可欠な役割を果たしていたことは事実であるが,首謀者である被告人Aと比較するとかなり従属的な立場にあったと解されること(なお検察官は,被告人Bは「殺し屋」として本件犯行に加担したものであり,現に被害者殺害について主要な役割を果たしていることなどからしても,被告人両名の刑責に主従軽重の差異はないと主張し,被告人Aの弁護人らも結論的に同趣旨の主張をしているが,当裁判所はそのような見解に賛同することはできない。),逮捕当初から本件犯行を全面的に認めており,深く反省悔悟していることが窺われることなど,被告人両名のためにそれぞれ酌むべき幾つかの事情も存在する。

7  そこで当裁判所は,これら一切の事情を総合検討した結果,被告人Aに対しては,有期懲役刑の最高刑をもって処断するのが相当であり,被告人Bに対しては,主文のとおりの有期懲役刑を科するのが相当であると判断した。

(求刑 被告人両名につきいずれも無期懲役)

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