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さいたま地方裁判所 平成13年(わ)1476号 判決 2002年11月27日

主文

被告人を懲役12年に処する。

未決勾留日数中300日をその刑に算入する。

押収してあるカッターナイフの刃1枚(平成14年押第68号の1)及びカッターナイフ1本(同号の2)を没収する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は,

第1帰宅途中のA(当時25歳)を認めるや,強いてわいせつな行為をする目的で,平成13年2月6日午後7時35分ころ,埼玉県a市内のマンションの同女方に,鍵のかかっていない玄関から侵入したが,顔を見られたことなどから強いて姦淫しようと考え,その顔面に所携のカッターナイフ(平成14年押第68号の2は,刃を付け替えた後のもの)を突き付け,「静かにしていれば,殺さない。」などと語気鋭く申し向けるなどの暴行・脅迫を加え,反抗を抑圧した上,強いて同女を姦淫し,

第2帰宅途中のB(19歳)を認めるや,強いてわいせつな行為をしようと企て,同年6月21日午後3時5分ころ,a市内の同女方玄関前において,背後からその口を塞ぎ,頸部に所携の前記カッターナイフ(同号の1,2。同号の2は刃を付け替えた後のもの)を突き付け,「大声を出すなよ。」などと語気鋭く申し向ける暴行・脅迫を加え,反抗を抑圧して強いて同女にわいせつな行為をしようとしたが,抵抗されたためその目的を遂げず,抵抗された際,その胸部を前記カッターナイフで1回突き刺すなどし,同女に全治約10日間を要する右前胸部刺創等の傷害を負わせ,

第3帰宅途中のC(当時16歳)を認めるや,強いて姦淫しようと企て,同年7月5日午後4時30分ころ,a市内のマンションの同女方に,鍵のかかっていない玄関から侵入し,顔面に所携の前記カッターナイフ(同号の2)を突き付け,「てめえ,殺すぞ。」などと語気鋭く申し向ける暴行・脅迫を加え,反抗を抑圧して強いて姦淫しようとしたが,姦淫を止めるよう哀願されたため自己の意思により姦淫を中止し,口淫させるなどしたにとどまり,その目的を遂げず,さらに,前記日時・場所において,同女が前記暴行・脅迫により極度に畏怖しているのに乗じて,金員を強取しようと企て,「幾らあるんだ。」などと語気鋭く申し向けて脅迫し,更に反抗を抑圧した上,D管理に係る現金約2万3000円を強取し,

第4同月19日午後8時35分ころ,a市内のマンション北側出入口付近において,E(当時67歳)の腹部等を数回足で蹴り,頭部,顔面,胸部,腹部等を手拳等で多数回殴打するなどし,よって,同人に対し全治約2週間を要する頭部・胸部・右手打撲,顔面挫傷等の傷害を負わせ,

第5帰宅途中のF(当時31歳)を強いて姦淫しようと企て,同月24日午後7時25分ころ,a市内の同女方に,鍵のかかっていない玄関から侵入した上,顔面に所携の前記カッターナイフを突き付け,「騒ぐと殺すぞ。」,「やらせろ。」などと語気鋭く申し向ける暴行・脅迫を加え,反抗を抑圧して強いて同女を姦淫しようとしたが,生理中であったため,胸を触るなどしたにとどまり,その目的を遂げず,

第6金員を強取しようと企て,同年8月8日午後10時10分ころ,a市内のアパートのG方玄関において,H(当時24歳)の顔面付近に所携の前記カッターナイフを突き付け,「金を出せ。」と語気鋭く申し向ける暴行・脅迫を加え,反抗を抑圧した上,同女所有に係る現金1万3000円を強取し,

第7帰宅途中のI(当時27歳)を認めるや,強いて姦淫しようと企て,同日午後11時6分ころ,a市内の駐車場付近において,頸部に所携の前記カッターナイフを突き付け,「静かにしろ。」,「旦那に会えないようにするぞ。」などと語気鋭く申し向け,同女が着用していた衣服を脱がせ,前記カッターナイフで下着を切り裂くなどの暴行・脅迫を加え,反抗を抑圧して強いて姦淫しようとしたが,抵抗されたため,陰部をなめるなどしたにとどまり,その目的を遂げず,その際,同女に全治約2週間を要する左Ⅰ,Ⅲ指切創の傷害を負わせ,

第8業務その他正当な理由による場合でないのに,第7記載の日時・場所において,前記カッターナイフ1本(刃体の長さ約7.5センチメートル)を携帯し

たものである。

(証拠の標目)

省略

(法令の適用)

被告人の判示第1,第3及び第5の各所為のうち,住居侵入の点はいずれも刑法130条前段に,強姦(判示第1)の点は同法177条前段に,強姦未遂(判示第3及び第5)の点はいずれも同法179条,177条前段に,強盗(判示第3)の点は同法236条1項に,判示第2の所為は同法181条(179条,176条前段)に,判示第4の所為は同法204条に,判示第6の所為は同法236条1項に,判示第7の所為は同法181条(179条,177条前段)に,判示第8の所為は銃砲刀剣類所持等取締法32条4号,22条にそれぞれ該当するところ,判示第1の住居侵入と強姦,判示第3の住居侵入と強姦未遂及び強盗,判示第5の住居侵入と強姦未遂との間には,いずれも手段結果の関係があるので,刑法54条1項後段,10条によりいずれも1罪として,判示第1の罪については重い強姦罪の刑で,判示第3の罪については最も重い強盗罪の刑で,判示第5の罪については重い強姦未遂罪の刑でそれぞれ処断することとし,各所定刑中判示第2及び第7の各罪についてはいずれも有期懲役刑を,判示第4及び第8の各罪についてはいずれも懲役刑をそれぞれ選択し,以上は同法45条前段の併合罪であるから,同法47条本文,10条により刑及び犯情の最も重い判示第3の罪の刑に同法14条の制限内で法定の加重をした刑期の範囲内で被告人を懲役12年に処し,同法21条を適用して未決勾留日数中300日をその刑に算入することとし,押収してあるカッターナイフの刃1枚(平成14年押第68号の1)は判示第2の犯罪行為の用に供した物,カッターナイフ1本(同号の2)は判示第3の犯罪行為の用に供した物で,いずれも被告人以外の者に属しないから,同法19条1項2号,2項本文を適用してこれらを没収し,訴訟費用は,刑事訴訟法181条1項ただし書を適用して被告人に負担させないこととする。

(量刑の事情)

本件は,被告人が,平成13年2月から同年8月までの間に行った合計6名の女性に対する住居侵入,強姦,強制わいせつ致傷,強姦未遂,強盗,強姦致傷の事案(判示第1ないし第3,第5ないし第7)と,傷害(判示第4),銃砲刀剣類所持等取締法違反(判示第8)の事案である。

まず,女性を被害者とする一連の犯行をみるに,被告人は,犯行の動機として,かねてから女性を憎む気持ちがあり,女性が一番傷つくことをしようと思ったなどと述べており,性格の強い偏りを露わにしている。その犯行態様をみると,帰宅途中の被害者を追尾した上,夜間人気のない路上を通行していた被害者を羽交い締めにしてその頸部にカッターナイフを突き付けるなど判示の暴行・脅迫を加え,執拗に胸や陰部を弄んだ挙げ句,強姦しようとしたが,抵抗されて未遂に終わったものの,被害者に全治約2週間の傷害を負わせ(判示第7),被害者らが自宅に帰り着く機会をねらい,他に家人がいないのを見届けた上,顔面等にカッターナイフを突き付けるなどの暴行・脅迫を加え,口淫させるなどした後,姦淫したり(判示第1),被害者から懇願されて姦淫することは断念したものの,陰部をなめるなどした上,被害者が極度に畏怖しているのに乗じて現金約2万3000円を強取し(判示第3),わいせつ行為をしようとして,被害者の抵抗に遭い,胸部にカッターナイフを突き刺して傷害を負わせる(判示第2)などしているのであって,いずれの犯行も女性の人格を蹂躙する卑劣な犯行というほかない。被害者らは,被害に遭った後,夜になって物音がしたり,ドアのインターホンが鳴ったりすると,また犯人が来たのではないかと思って怖くなると述べたり,精神的疾患の悪化を訴えるなどしているほか,転居や休業を余儀なくされているのであって,肉体的苦痛はもとより,精神的,経済的な被害も深刻である。傷害の犯行(判示第4)についても,バスの中で見かけた女性にわいせつ行為をしようとしてそのマンションまで追尾したところ,その父親である被害者に気付かれ,尾行した理由を詰問されるなどしたことに憤激し,頭部等を清涼飲料水の空き缶や手拳で多数回殴打したり,顔面を足でけるなど,激しい暴行を一方的に加えて判示の傷害を負わせているのであって,これまた甚だ犯情悪質な事案である。被告人が平成9年8月に強制わいせつ罪で懲役1年6月(3年間執行猶予)に処せられていることなどをも併せ考えると,その刑責は重いといわざるを得ない。

そうすると,被告人が,判示第3の犯行においては被害者から哀願されて姦淫するのを中止していること,本件各犯行を概ね認め,被害者らに対し謝罪の手紙を書くなど反省の念を示していることなど,被告人のために斟酌すべき事情を十分に考慮しても,被告人に対し,主文程度の刑を科すことはやむを得ない。

よって,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 若原正樹 裁判官 大渕真喜子 裁判官 小笠原義泰)

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