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さいたま地方裁判所 平成13年(わ)1865号 判決 2002年5月13日

主文

被告人を懲役7年に処する。

未決勾留日数中140日をその刑に算入する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は,

第1  A,B,C及び甲組合の職員であるDと共謀の上,同組合が現金輸送車で輸送中の現金等を車ごと強取しようと企て,平成13年7月10日午前10時30分ころ,神奈川県a郡b町c番地先路上において,Dが運転し,同組合職員Eが同乗する現金等輸送中の現金輸送車を待ち伏せ,同所を通り掛かった同車の前に自転車に乗って飛び出してわざと転倒し,これに呼応してDが同車を停止させて降車し,続けて降車してきたEに対し,所携の催涙スプレーをその顔面に吹き付け,手拳でその顔面を殴打するなどの暴行を加え,さらに,所携の刺身包丁(刃体の長さ約21.2センチメートル)を突き付けながら,「殺されたいのか。」などと申し向けて脅迫し,その反抗を抑圧した上,同車に乗り込み,同車を発進させて乗り去って,同組合所有又は管理の現金7860万6000円及び小切手22枚(額面合計80万8016円)外1点を積載した普通乗用自動車1台(時価合計60万3000円相当)を強取し,その際,上記暴行によりEに対し全治約17日間を要する鼻骨骨折等の傷害を負わせ,

第2  大韓民国の国籍を有する外国人で,平成5年9月30日,同国政府発行の旅券を所持し,d県所在のe空港に上陸して本邦に入った者であるが,その在留期間は同13年3月30日までであったのに,在留期間の更新又は変更を受けないで,同年9月26日までf市g区hi丁目j番k号等に居住し,もって,在留期間を経過して本邦に残留した

ものである。

(証拠の標目)

(法令の適用)

被告人の判示第1の所為は,刑法60条,240条前段(236条1項)に,判示第2の所為は,出入国管理及び難民認定法70条1項5号にそれぞれ該当するところ,各所定刑中判示第1の罪については有期懲役刑を,判示第2の罪については懲役刑をそれぞれ選択し,以上は,刑法45条前段の併合罪であるから,同法47条本文,10条により重い判示第1の罪の刑に同法47条ただし書の制限内で法定の加重をした刑期の範囲内で被告人を懲役7年に処し,同法21条を適用して未決勾留日数中140日をその刑に算入し,訴訟費用は,刑事訴訟法181条1項ただし書を適用して被告人に負担させないこととする。

(量刑の理由)

本件は,被告人が,共犯者と共謀の上,現金輸送中の甲組合の現金輸送車を襲撃し,同車に積載された現金等を車ごと強取し,その際,助手として乗車していた同組合の職員に傷害を負わせたという強盗致傷(判示第1の事実)及び不法残留(判示第2の事実)の事案である。

判示第1の犯行は,甲組合の職員で現金輸送車の運転を担当していたDが,その従兄弟で暴力団組員のAに現金輸送車襲撃の話を持ちかけ,元暴力団組員で同人の配下の韓国人B,同国人のC及び被告人が実行部隊として本件を敢行したもので,日本人と外国人が手を組んだ組織的犯行である。被告人らは,Dが職務上現金輸送車の巡回経路等を熟知していたことから,同人の情報を基に,最も多額の現金を積載した日時に襲撃することとし,予め2回に亘って巡回経路を実際に走行するなどして襲撃地点を選定し,又その下見をし,犯行手順を綿密に打ち合わせ,予め,犯行に使用する自動車,自転車,セーフティコーン,催涙スプレー,刺身包丁等を準備しており,計画的な犯行である。その態様は,他の通行車両の現場への接近を阻止すべく,対向車両については,セーフティコーン等を使って対向車線の通行を一時的に遮断した上で,道路を走行中の現金輸送車の前にCが自転車に乗って飛び出してわざと転倒し,Dが車を停止させて様子を見に行く振りをして降車し,Dが催涙スプレーを吹き付けられるなどしたことから,助手が降車したところ,催涙スプレーを吹き付け,顔面を手拳で殴打し,刃体の長さ21.2センチメートルもの刺身包丁を突き付けながら,「殺されたいのか。」などと脅迫し,その反抗を抑圧してCが同車を強奪している。財産的被害は,現金7800万円余及び小切手22枚(額面合計約80万円)外1点積載の普通乗用自動車1台(時価合計60万円相当)と非常に多額であり,内部者が関与していることから保険金が支払われず,約7800万円もの実損が生じている。また,被害職員は全治約17日間を要する鼻骨骨折等の傷害を負ったもので,被害者らの処罰感情は大変に厳しい。しかるに,何らの被害弁償,慰謝の措置も講じられていない。

被告人の個別的役割をみると,被告人は,事前にBから言われて催涙スプレーを購入して同人に渡し,自車を使って現金輸送車の後続車の進行を妨害する役割を割り当てられ,事前に下見の際撮影したビデオを見て犯行の概要を理解し,当日は現場付近にBらと赴いて待機し,同人と携帯電話で連絡を取り合い,打ち合わせどおり後続車の通行を妨害すべく自車を発進させており,本件犯行の遂行に重要な役割を果たしている。本件の分け前としてBから現金約110万円を取得した。

被告人は,犯罪の成立自体は認めているものの,催涙スプレーを何に使うかは知らなかった,現金はBの自分に対する借金の返済として受け取ったなどと,にわかに信用し難い供述をしており,真摯な反省の情は窺えない。

以上によれば,被告人の刑責は相当に重い。

他方,被告人は,他の共犯者と比較すれば犯行への関与の度合いは低いことなど,被告人にとって酌むべき事情もある。

よって,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 金山薫 裁判官 山口裕之 嘉屋園江)

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