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さいたま地方裁判所 平成13年(わ)1884号 判決 2002年1月23日

主文

被告人を懲役6年に処する。

未決勾留日数中50日をその刑に算入する。

押収してある文化包丁の刃1枚及び柄1本(平成13年押第338号の1,2)を没収する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は,

第1生活費に窮し,タクシー強盗をしようと企て,A運転のタクシーに乗車して走行させた上,平成13年10月19日午後8時ころ,埼玉県a市先路上に停車中の同車内において,同人に対し,所携の文化包丁(刃体の長さ約18.2センチメートル,平成13年押第338号の1,2)を顔面付近に突き付け,「金を出せ。」と語気鋭く申し向けた上,その顔面を手拳で殴り,頸部を手で絞めるなどの暴行を加えるとともに,「騒ぐと殺すぞ。」などと申し向けて脅迫し,その反抗を抑圧して金員を強取しようとしたが,同人に抵抗されたため,その目的を遂げず,その際,同人に加療約15日間を要する両手部刺傷等の傷害を負わせ,

第2業務その他正当な理由による場合でないのに,上記日時,場所において,上記文化包丁1丁を携帯した

ものである。

(証拠の標目)

(法令の適用)

被告人の判示第1の所為は,刑法240条前段(236条1項)に,判示第2の所為は,銃砲刀剣類所持等取締法32条4号,22条にそれぞれ該当し,所定刑中判示第1の罪については有期懲役刑を,判示第2の罪については懲役刑をそれぞれ選択し,以上は,刑法45条前段の併合罪であるから,同法47条本文,10条により重い判示第1の罪の刑に同法47条ただし書の制限内で法定の加重をし,なお犯情を考慮し,同法66条,71条,68条3号を適用して酌量減軽をした刑期の範囲内で,被告人を懲役6年に処し,同法21条を適用して未決勾留日数中50日をその刑に算入し,押収してある文化包丁の刃1枚及び柄1本(平成13年押第338号の1,2)は,判示第1の強盗致傷の用に供した物で被告人以外の者に属しないから,同法19条1項2号,2項本文を適用してこれを没収し,訴訟費用については,刑事訴訟法181条1項ただし書を適用して被告人に負担させないこととする。

(量刑の理由)

本件は,被告人が,タクシー強盗をしようとしたが,被害者に抵抗されたため,目的を遂げず,その際同人に傷害を負わせたという強盗致傷(判示第1の事実),その際,文化包丁1丁を携帯したという銃砲刀剣類所持等取締法違反(判示第2の事実)の事案である。

被告人は,定職に就くことなく,ギャンブルに溺れ,親族から渡された金員や受給した生活保護費までギャンブルで使ってしまい,生活費に窮し,本件に及んだものであるが,被告人の無計画で自堕落な生活態度に起因しているのであって,動機に酌むべき点はない。以前タクシー運転手として稼働した経験から,タクシー強盗を思い付いたものであるところ,予め,文化包丁,ガムテープ,手袋,スカーフや眼鏡を準備して犯行に及んでおり,計画的である。夜間,人気のない場所までタクシーを走行させた上,停車中の車内で,被害者に対し,いきなり刃体の長さ約18.2センチメートルもの文化包丁をその顔面付近に突き付け,「金を出せ。」と言った上,顔面を手拳で殴り,頸部を手で絞めるなどの暴行を加えるとともに,「騒ぐと殺すぞ。」などと言って脅迫したもので,被害者が,刺されまいと,必死に包丁を掴み,これを取り上げたため,強盗は未遂に終わっているが,そうでなければ既遂に達した可能性が高く,その態様は危険かつ凶暴である。その際,被害者は判示の傷害を負っており,現に生じた結果も相当に重い。被害者は多大の恐怖を感じたもので,その処罰感情も大変厳しい。被告人は,公判では,自己の責任軽減を図るべく,不自然不合理な供述をしており,真摯な反省の情は窺われない。加えて,被告人には,昭和51年に強姦致傷罪で執行猶予付きの懲役刑に処せられた前科がある。

以上に鑑みると,被告人の刑責は相当に重い。

他方,被告人は,事実を大筋で認めていることなど,被告人にとって酌むべき事情もある。

よって,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 金山薫 裁判官 山口裕之 嘉屋園江)

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