大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

さいたま地方裁判所 平成13年(わ)1913号 判決 2002年5月23日

主文

被告人を懲役16年に処する。

未決勾留日数中140日をその刑に算入する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は,いわゆる風俗店のマネージャーをしていたが,知人の風俗店従業員A,客引きのB及びCを介して暴力団員のD,同人の兄弟分で元暴力団員のEと知り合い,交際中の風俗嬢のFを介して風俗嬢のGとも知り合っていたところ,

第1E,D,C,A,F及びGと共謀の上,

1  Hが未成年のGといわゆる援助交際をしていたことの弱みにつけ込み,HがGに対して有する貸金債権を放棄させるとともに,金品を喝取しようと企て,平成13年7月8日午後8時30分ころから同日午後11時ころまでの間,埼玉県a市所在のレストラン「I店」店内及び同店駐車場に駐車中の普通乗用自動車内において,Hに対し,Eにおいて,「未成年と知っていたろう。淫行罪だ。金融業の許可を持っているのか。公務員だろう。お前は,いろいろ罪を犯している。職を失いたくないだろう。携帯を預かる。金を持っているか。家に行けばあるだろう。」と,Cにおいて,「あの人には嘘をつくな。俺はあの人の命令は聞く。殺せと言えば殺す。」などと語気鋭く申し向けて金品の交付を要求し,上記要求に応じなければ,その生命,身体,名誉等に危害を加えるかのような気勢を示して脅迫し,Hをしてその旨畏怖させ,よって,同人から,そのころ,a市所在の同人方に向かう途中の同車内において,携帯電話1台を,同日午後11時30分ころ,同人方において,預金通帳1通,印鑑1本及びキャッシュカード1枚を,同月9日午前2時10分ころ,東京都b区c所在の「ホテルJ」204号室において,現金1,2万円及びキャッシュカード等数枚在中の財布1個,同人方の鍵1個ほか数点を各交付させてそれぞれ喝取し,同月10日午後1時ころ,同ホテル909号室において,上記脅迫等により畏怖しているHに対し,Eにおいて,「Gの借金の話はなしだ。今後,一切Gに関わるな。」などと語気鋭く申し向け,よって,即時同所において,同人をして,Gに対する120万円の貸金債権の放棄を約束させ,もって,Gに上記貸金額相当の財産上の不法の利益を得させ,

2  Hを不法に監禁しようと企て,同月9日午前2時10分ころ,E及びCにおいて,Hを上記「ホテルJ」204号室まで連行した上,そのころから同月10日午後1時ころまでの間,その両手両足を紐で縛り,あるいは交代で監視するなどして,同室,502号室及び909号室から退去することを不能にし,もって,同人を不法に監禁し,

第2上記のとおり喝取したH名義のクレジットカードを使って人を欺いて購入名下に商品を交付させるなどしようと企て,

1  E及びBと共謀の上,平成13年7月10日,東京都b区c所在の株式会社K紳士用品売場「L」店において,同店店員M外1名に対し,Eが同カードの正当な使用権限を有しておらず,かつ,同カードシステム所定の方法により代金を支払う意思もないのに,これらがあるように装い,同カードを提示して商品の購入方を申し込み,Mをしてその旨誤信させ,よって,そのころ,同所において,同人らからスーツ1着外6点(販売価格合計11万5000円)の交付を受け,もって,人を欺いて財物を交付させ,

2  E,A及びBと共謀の上,同日,上記K紳士用品売場「N」店において,同店店長O外1名に対し,前同様に装い,同カードを提示して商品の購入方等を申し込み,Oをしてその旨誤信させ,よって,そのころ,同所において,同人らからスーツ1着外11点(販売価格合計44万8100円)の交付を受けるとともに,代金合計2200円相当のズボン3点の裾直しの便益を受け,もって,人を欺いて財物を交付させ,かつ,財産上不法の利益を得,

第3E,D,C,A,B及びFと共謀の上,上記監禁から解放されたHが被害を警察に届け出たことなどを知って,口封じのため,同人を逮捕監禁した上殺害し,併せてその際同人から金品を強取しようと企て,

1  同月16日午前3時40分ころ,Fにおいて,同都d区f所在のカラオケルーム「P」にHを言葉巧みに誘い込んだ上,E及びCにおいて,その顔面を殴打し,胸部を足蹴にし,所携のナイフの刃先を突き付けるなどの暴行,脅迫を加え,E,C及びBにおいて,Hを上記ビル前路上まで引きずるなどして連行し,同所に停車中のA運転の普通乗用自動車後部座席に押し込み,C及びBも同乗し,同車を発進させ,途中車を換えるなどしながら,同区f所在のQビル前路上,同都g区所在の駐車場「R」,静岡県h郡i町所在の東名高速道路下り線Sサービスエリアを経由して,同日午後11時ころ同県j郡k町所在のTに至るまで疾走させ,その間両手,両足に手錠をかけるなどして,同日午後11時30分ころまでの間,Hを車から脱出することを不能にし,もって,同人を不法に監禁し,

2  同月16日午前3時40分ころ,上記カラオケルームにおいて,Hに対し,上記のとおり暴行,脅迫を加え,その反抗を抑圧した上,同人から携帯電話1台,手錠2個及び自動車の鍵1個等数点を強取し,さらに,同日午前6時30分ころ,上記「R」に停車中の普通乗用自動車内において,その反抗を抑圧された同人から現金約3万円在中の財布を強取し,

3  同日午後11時30分ころから同月17日午前零時30分ころまでの間,上記Tにおいて,H(当時37年)に対し,Eにおいて,その上半身及び大腿部などをナイフで20数回突き刺し,Cにおいて,その背部を所携の日本刀で3回突き刺すなどし,よって,そのころ,同所において,Hを臓器等損傷により死亡させて殺害し,

第4法定の除外事由がないのに,同年9月下旬ころから同年10月12日までの間,東京都内又はその周辺のいずれかの場所において,覚せい剤であるフェニルメチルアミノプロパン又はその塩類若干量を自己の身体に摂取し,もって,覚せい剤を使用した

ものである。

(証拠の標目)

(補足説明)

1  弁護人は,判示第4の事実について,被告人には,その身体に摂取された物が覚せい剤であるとの認識がなかったので,故意がなく,無罪であると主張し,被告人もこれに沿う供述をするので,以下,有罪と認めた理由について,補足して説明を加える。

2  関係各証拠によれば,平成13年10月12日に採取された被告人の尿から覚せい剤反応が検出されたことが認められる。上記事実は,被告人が故意に覚せい剤を体内に摂取したことを強く推認させる。

被告人は,平成13年10月初めころDから覚せい剤と注射器を預かったことがあるが,覚せい剤を使用することには反対であり,これを使用したことはない,被告人が住んでいたアパート内の薬箱に前住者が置いていった赤い錠剤があり,これを尿採取の前日に安定剤と思って飲んだので,これに覚せい剤が含まれていたかもしれない,この錠剤を飲んだ際特段の変化はなかったと供述している。

しかし,もともと得体の知れない物を精神安定剤と思って飲むこと自体不自然であるし,覚せい剤特有の反応もなかったというのであるから,被告人の弁解を前提としても,被告人が覚せい剤と知らずに覚せい剤を摂取したものとは解し難い。 結局,被告人の供述は,覚せい剤を使用していないということ以上のものではなく,何ら尿中から覚せい剤反応が検出された理由を合理的に説明するものではなく,上記推認を破るものではない。

したがって,被告人が故意に覚せい剤を使用したものと認められる。

(法令の適用)

被告人の判示第1の1の所為は,包括して刑法60条,249条に,判示第1の2,第3の1の各所為は,同法60条,220条に,判示第2の1の所為は,同法60条,246条1項に,判示第2の2の所為は,包括して同法60条,246条に,判示第3の2の所為は,包括して同法60条,236条1項に,判示第3の3の所為は,同法60条,199条に,判示第4の所為は,覚せい剤取締法41条の3第1項1号,19条にそれぞれ該当するところ,判示第3の3の罪について所定刑中有期懲役刑を選択し,以上は,刑法45条前段の併合罪であるから,同法47条本文,10条により最も重い判示第3の2の罪の刑に同法14条の制限内で法定の加重をした刑期の範囲内で被告人を懲役16年に処し,同法21条を適用して未決勾留日数中140日をその刑に算入し,訴訟費用は,刑事訴訟法181条1項ただし書を適用して被告人に負担させないこととする。

(量刑の理由)

本件は,いわゆる風俗店のマネージャーをしていた被告人が,仕事先を探していたGから援助交際をしていたHからの借金120万円を返済しなかったため,Hにつきまとわれて困っているとの話を聞き,これを知人の暴力団員のDに伝えたことから,これを種に金を稼げると考えた同人及び同人の兄弟分のEを中心として同人らの配下のC及びA並びに被告人と交際していたGの友人のFらと共に,判示第1,第2のとおり,被害者を監禁するとともに,同人方の鍵やキャッシュカードを喝取し,これらを利用して詐欺の犯行に及んだところ,約1週間後,居酒屋で被告人,C,F及びDの配下でいわゆるキャッチをしていたBが飲食中,Fから被害者が警察に被害申告したと聞知した被告人が殺すと怒鳴り出し,Eを呼び出し,その間にFに被害者を呼び出す電話をかけさせ,Aと共にやってきたEやその後やって来たGを交え,話し合った結果,Fが被害者をカラオケ店に連れ込んだところを,Eらにおいてさらい,口封じのために殺害することに話がまとまり,判示第3の犯行に及んだものである。

このように,本件は,暴力団員らが被害者の弱みにつけ込んで,監禁,恐喝等の犯行に及び,被害者が警察に被害届を出したことを知るや,被害者の口を封じ,自己らの刑責を免れるために,殺害を決意したもので,自己保身のためには他人の生命を奪うことに何らの躊躇も感じないその態度は,極めて反法的であり,強い非難に値する。

その態様は,Fが詐言を用いて言葉巧みに深夜a市の自宅からfに呼び出した被害者をカラオケ店に連れ込み,E及びCにおいて,殴る蹴るの暴行やナイフを突き付け,Bも加勢して,助けてと叫ぶ被害者を無理矢理A運転の普通乗用自動車後部座席に押し込み,C及びBも乗り込み同車を発進させ,その後両手両足に手錠をかけるなどして同人の行動の自由を奪い,Eらは別の車で追走するなどし,g区内の駐車場で被害者を日本刀が積み込んである別の車に乗り換えさせ,Eの指示で,Aが運転し,C及びBが同乗し,途中fで被害者の乗っていた車にAが乗り,2台の車で東名高速道路Sサービスエリアに赴いた。その間,Eは,Dを通じて静岡県在住の知人から人里離れた本件殺害現場を紹介され,同日夕方Cらの待つSサービスエリアに赴き,被害者を被害者の車に乗り換えさせ,本件現場に赴いた。現場が暗かったため,E及びCが懐中電灯や軍手を買いに行き,途中鍬2本を盗んだ上,現場に戻った。助けてくれと懇願する被害者の願いを無視して,Eが車から引きずり出し,Cと共にTに引きずっていき,斜面となっているところで助けてください,許してくださいという被害者を2人して放り投げ,Eが命乞いをする被害者の頭部目掛けて鍬で殴りつけ,更にナイフで胸腹部や大腿部を5,6回突き刺し,側溝に押し込んだ被害者に土をかけて埋めていたところ,被害者が這い上がろうとしてきたため,その背中を約20回突き刺し,更に土をかけた。Eが車に戻り,その指示によりAとBがベニヤ板を持って降りてきたとき,Cは被害者が地面に腰掛けるように座っているのに気付き,とどめを刺そうと考え,Bに車から日本刀を持って来させ,被害者の背中を日本刀で3回突き刺した。その後,Eが被害者の上にベニヤ板を置き,その上で約10回ジャンプして踏みつけた。その結果,被害者は臓器等損傷により死亡した。

このように,本件は,Eの主導のもと,共犯者らがそれぞれ役割分担して敢行された組織的犯行であるところ,その態様も甘言を弄しておびき出した被害者をEらが数人がかりで襲いかかり,有無を言わさず20時間もの長時間監禁し,その間人間らしき取扱いをすることも殆どなかった。ついには,深夜,人里離れたTまで連行し,両手足に手錠を掛けた状態の同人を車から引きずり出した上,放り投げ,命だけは助けてほしいという同人の最後の訴えにも全く耳を貸すことなく,情け容赦なく,同人を殺害している。正に残忍かつ凄惨で,極悪非道な凶行というほかはなく,良心のかけらも感じさせないその犯行には,慄然とせざるを得ない。

犯行後も,証拠品を投棄するなどの罪証隠滅行為に及び,何食わぬ顔で平然と従前の生活を続け,警察が捜査を開始したと知るや口裏合わせを行うなど犯行後の情状も芳しくない。

被害者は,Gらと援助交際をし,Gらに言われるまま親切心から金を貸したことが仇となり,Eらから金をむしり取る絶好の相手と狙い定められたことから本件に至っているのであるが,警察に被害申告するのは,被害者として当然の事であって,何ら責められるべき点はない。被害者は,Fからの呼び出しに応じた際,何らかの危険に遭うことは想定していたものと思われるが,よもや殺害されるとは夢想だにしていず,この点を落度と目するのは相当でない。被害者は長時間人間らしい扱いを受けることなく,被告人らに生殺与奪の権を握られ,最後には目隠しをされ,両手足に手錠をかけられた状態で惨殺されたもので,その無念さは察するに余りある。被害者は高校の教師であり,多感な年代の子弟らにもたらした衝撃も軽視できない。被害者は,3人兄弟の長男であり,被害者が行方不明になった後必死にその所在を探していた遺族が約4か月後に白骨化した被害者の死体を発見したとの報に接し,変わり果てた姿に対面したショックは大きく,いまだその被害感情は厳しく,被告人らの厳重処罰を望んでいる。しかるに,みるべき慰謝の措置は講じられていない。

被告人の個別的役割をみるに,被告人は,Fから被害者が警察に被害申告したと聞知するや,これに憤激し,殺すと怒鳴り出し,Fに被害者を呼び出させた上,E及びDと被害者のら致,殺害を計画し,配下のC,A及びBをも使って犯行を遂行しており,本件犯行を発案した者であって,首謀者の1人といえる。

次に,その余の犯行についてみるに,被害者から金を巻き上げることができるとみるや,暴力団員であるD及びEが中心となって6人という多数で敢行された典型的な暴力団特有の粗暴な犯行であるが,被告人がDらに話を持ちかけたことが発端となっている。被告人らは,被害者を呼び出し,同人が公立高校の教師であることを知るや笠に着て,一層責め立て,約35時間被害者の両手足を紐で縛るなどして監禁し,Gへの貸金を放棄させるとともに,現金や被害者方の鍵やキャッシュカードを喝取し,このカードを利用して店から商品を騙取し,判示第3の監禁中にも現金等を強取したものである。このように,被害者を長時間拘束し,骨の髄までしゃぶり尽くしたもので,被害金額も約60万円の相当額に達している。被告人も騙取したスーツ2着等を取得している。さらに,覚せい剤の使用にまで及んでいる。

以上によれば,被告人の刑責は重い。

他方,被告人は,覚せい剤の使用の点を除き,事実関係を認め,反省の情を示していること,前科前歴がないことなど,被告人に酌むべき事情もある。

よって,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 金山薫 裁判官 山口裕之 裁判官 嘉屋園江)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例