さいたま地方裁判所 平成13年(わ)2087号 判決 2002年12月26日
主文
被告人を無期懲役に処する。
押収してある覚せい剤1袋(平成14年押第109号の4)を没収する。
理由
(罪となるべき事実)
被告人は,元暴力団員であるが,暴力団員のAと知り合い,同人の兄弟分となり,同人を介していわゆる風俗店のマネージャーをしていたB,Aの若い衆のC,D及びE,風俗嬢のF及びGと知り合っていたところ,
第1A,B,C,D,F及びGと共謀の上,
1 甲が未成年のGといわゆる援助交際をしていたことの弱みにつけ込み,甲がGに対して有する貸金債権を放棄させるとともに,金品を喝取しようと企て,平成13年7月8日午後8時30分ころから同日午後11時ころまでの間,埼玉県a市所在のレストランH店店内及び同店駐車場に駐車中の普通乗用自動車内において,甲に対し,被告人において,「あんたがやってることは犯罪だ。淫行罪だ。金融業を許可なしにやってる。偽造免許証だ。俺らを見ればどういう人間か分かるだろう,今警察に連れてってもいいんだぞ。今日は帰れねえからな。印鑑,通帳,キャッシュカードを持ってるか。家に取りに行くぞ。明日金融屋を回らせる。」と,Cにおいて,「あの人のためだったら,俺は人殺しだってできる。」などと語気鋭く申し向けて金品の交付を要求し,上記要求に応じなければ,その生命,身体,名誉等に危害を加えるかのような気勢を示して脅迫し,甲をしてその旨畏怖させ,よって,同人から,そのころ,同市b所在の埼玉県c住宅の同人方に向かう途中の同車内において,携帯電話1台を,同日午後11時すぎころ,同人方において,預金通帳等を,同月9日午前2時10分ころ,東京都台東区d所在のホテルI204号室において,現金1,2万円及びキャッシュカード等数枚在中の財布1個外数点を各交付させてそれぞれ喝取し,同月10日午後1時ころ,同ホテル909号室において,上記脅迫等により畏怖している甲に対し,被告人において,「Gに貸した120万円をちゃらにしろ。これから一切援助交際をするな。」などと語気鋭く申し向け,よって,即時同所において,同人をして,Gに対する120万円の貸金債権の放棄を約束させ,もって,Gに上記貸金額相当の財産上不法の利益を得させ,
2 甲を不法に監禁しようと企て,同月9日午前2時10分ころ,被告人及びCにおいて,甲を上記ホテルI204号室まで連行した上,そのころから同月10日午後1時ころまでの間,その両手両足を紐で縛り,あるいは交代で監視するなどして,同室,502号室及び909号室から退去することを不能にし,もって,同人を不法に監禁し,
第2C及びDと共謀の上,
1 金品窃取の目的で,同月9日午前6時30分ころから同日午前7時ころまでの間,Dにおいて,上記甲方に玄関から6畳間まで侵入した上,同所において,同人所有の手帳及びノート等数冊を窃取し,
2 同日午後5時34分ころから同日午後5時43分ころまでの間,前後5回にわたり,同都台東区d所在の株式会社J銀行d支店において,被告人及びDにおいて,上記のとおり喝取した甲名義のキャッシュカード及びクレジットカードを使って同支店に設置された現金自動預入引出機から,同支店長管理の現金合計118万1000円を引き出して窃取し,
3 同日午後5時57分ころ,同区d5丁目26番10号所在の株式会社Ke支店において,被告人及びDにおいて,上記のとおり喝取した甲名義の借入用カードを使って同支店に設置された現金自動預入支払機から,同支店長管理の現金69万円を引き出して窃取し,
第3上記のとおり喝取した甲名義のクレジットカードを使って人を欺いて購入名下に商品を交付させるなどしようと企て,
1 B及びEと共謀の上,同月10日,同区d所在の株式会社Ld店7階紳士用品売場M店において,同店店員N外1名に対し,被告人が同カードの正当な使用権限を有しておらず,かつ,同カードシステム所定の方法により代金を支払う意思もないのに,これらがあるように装い,同カードを提示して商品の購入方を申し込み,Nをしてその旨誤信させ,よって,そのころ,同所において,同人らからスーツ1着外6点(販売価格合計11万5000円)の交付を受け,もって,人を欺いて財物を交付させ,
2 B,D及びEと共謀の上,同日,上記株式会社Ld店8階紳士用品売場O店において,同店店長P外1名に対し,前同様に装い,同カードを提示して商品の購入方等を申し込み,Pをしてその旨誤信させ,よって,そのころ,同所において,同人らからスーツ1着外11点(販売価格合計44万8100円)の交付を受けるとともに,代金合計2200円相当のズボン3点の裾直しの便益を受け,もって,人を欺いて財物を交付させ,かつ,財産上不法の利益を得,
第4B,A,C,D,E及びFと共謀の上,被告人らによる監禁から解放された甲が被害を警察に届け出たことなどを知って,口封じのため,同人を逮捕監禁した上殺害し,併せてその際同人から金品を強取しようと企て,
1 同月16日午前3時40分ころ,Fにおいて,同都f区g所在のQビルカラオケルームR店404号室に甲を言葉巧みに誘い込んだ上,被告人及びCにおいて,その顔面を殴打し,胸部を足蹴にし,所携のナイフの刃先を突き付けるなどの暴行,脅迫を加え,被告人,C及びEにおいて,甲を上記ビル前路上まで引きずるなどして連行し,同所に停車中のD運転の普通乗用自動車後部座席に押し込み,C及びEも同乗し,同車を発進させ,途中車を換えるなどしながら,同区g所在のSビル前路上,同都h区i町所在の駐車場T,静岡県駿東郡j町所在の東名高速道路下り線Uサービスエリアを経由して,同日午後11時ころ同県周智郡k町所在のVに至るまで疾走させ,その間両手,両足に手錠をかけるなどして,同日午後11時30分ころまでの間,甲を車から脱出することを不能にし,もって,同人を不法に監禁し,
2 同日午前3時40分ころ,上記カラオケルーム404号室において,甲に対し,上記のとおり暴行,脅迫を加え,その反抗を抑圧した上,同人から携帯電話1台,手錠2個及び自動車の鍵1個等数点を強取し,同日午前5,6時ころ,上記Sビル前路上に停車中の普通乗用自動車内において,その反抗を抑圧された同人から現金約3万円在中の財布を強取し,
3 同日午後11時30分ころから同月17日午前零時30分ころまでの間,上記Vにおいて,甲(当時37年)に対し,被告人において,その上半身及び大腿部などをナイフで20数回突き刺し,Cにおいて,その背部を所携の日本刀(平成14年押第109号の1)で3回突き刺すなどし,よって,そのころ,同所において,甲を臓器等損傷により死亡させて殺害し,
第5法定の除外事由がないのに,同年10月下旬ころから同年11月4日までの間,千葉県内又はその周辺において,覚せい剤であるフェニルメチルアミノプロパン又はその塩類若干量を自己の身体に摂取し,もって,覚せい剤を使用し,
第6Wと共謀の上,みだりに,同日,同都台東区d所在のX方において,覚せい剤である塩酸フェニルメチルアミノプロパンを含有する結晶状粉末約0.304グラム(同押号の4はその一部)を所持した
ものである。
(証拠の標目)略
(補足説明)
第1弁護人は,(1)判示第1の1の恐喝につき,被告人の行為は,社会的相当性からの逸脱はなく,脅迫には当たらず,無罪である,(2)判示第1の2の監禁,判示第2の住居侵入,窃盗,判示第3の詐欺につき,被害者の承諾があったから,いずれも無罪である,(3)判示第4の1の監禁につき,判示Vに至る途中で被害者を別の車に乗せ換えるまでの監禁行為については,一部無罪である,(4)判示第4の2の強盗につき,無罪である,(5)判示第4の3の殺人につき,被告人は,AのCにやらせるようにとの言葉を同人に伝えたに過ぎないから,殺人の共同正犯は成立せず,幇助犯にとどまると主張するので,以下,判示の事実を認定した理由を補足して説明することとする。
第2判示第1ないし第3の各事実について
1 関係各証拠によれば,以下の事実が認められる。すなわち,
(1) Bは,いわゆる風俗嬢で仕事先を探していたGから,援助交際をしていた被害者から借金の返済を迫られ,同人につきまとわれるなどいわゆるストーカー行為をされて困っている,同人は暴力団と関係があるかもしれないとの話を聞き,これをAに伝えた。同人の指示で,平成13年7月8日夕方,被告人にも伝え,D,Fも同席して話し合った結果,被害者を呼び出すことに決まり,途中Cも合流して,車2台(Y,Z)に分乗し,H店に赴くと,被害者は同人の車(乙)で来た。被告人,C及び被害者は,同日午後8時30分ころから同日午後11時ころまでの間,同店内で,Gへの貸金,同女との援助交際,被害者の運転免許証が偽造であることなどの話をし,この話は,被告人からA,Bにも伝えられた。
(2) 被告人らは,同店を出,被告人運転のYに被害者,Cが同乗し,途中の車内で,被害者から,携帯電話1台の交付を受けた。さらに,同日午後11時30分ころ,被害者方で,同人から,預金通帳等の交付を受けた。同人方を経由して,同月9日午前2時10分ころ,Dが予約したホテルI204号室に赴いた。そのころ,被害者から,現金1,2万円及びキャッシュカード等数枚在中の財布1個外数点の交付を受けた。被害者は,同日及び翌10日の2日間仕事を休み,同日午後1時ころまでの約35時間,同室,502号室,909号室と客室を移しながら同ホテルにいた。この間,被害者の車はH店駐車場に放置されたままだった。B,Fは,D運転の車で被害者方まで追随した後,被告人らと別れ,Dとgで別れた。Dは,同ホテルで被告人らと合流した。
(3) CとDは,Gの借用書を取ってこいとの被告人の指示で,同月9日午前6時30分ころから同日7時ころまでの間,被告人から渡された被害者方の鍵を使って同人方に入り,手帳,ノート等を持ち出した。
被告人は,被害者から,同人名義のキャッシュカード等数枚の暗証番号を確認した上,同日夕方,Dと判示第2の2,3記載の金融機関に赴き,同カードを使って現金合計187万1000円を引き出した。同現金は,同夜,被告人,A,Bらが集ったdの喫茶店で,被告人らによって分配され,Aに7,80万円,被告人に3,40万円,Bに30万円,C,Dに各10万円が渡されたが,Gには渡されていない。
被害者は,同月10日午後1時ころ,被告人といた上記909号室において,Gへの貸金を放棄するとの約束をし,被告人らと別れたが,被告人からカードの返還はなされなかった。
被告人は,同日,B,D及びEと,被害者名義のクレジットカードを使って判示第3記載の店舗において,合計56万5300円相当のスーツを購入するなどした。
(4) 被害者は,同日中に,警察に窃盗の被害届を出し,クレジットカード等のカード会社に事故届を出した(同事故届は,被告人らが上記購入をした後に受理された。)。
2 関係者の供述概要
(1) C
平成13年7月8日,被告人から,電話で,金だ,金だ,金の仕事があるから来ないかと誘われ,被告人らと合流した。Bから,迫力のある奴が行った方がいいなどと言われ,被告人と一緒に,H南a店で被害者と会った。被告人は,途中から,すごい怒り口調で,あんたがやってることは犯罪だ,淫行罪だ,金融業を許可なしにやってる,偽造免許証だ,俺らを見ればどういう人間か分かるだろう,今警察に連れてってもいいんだぞ,今日は帰れねえからな,印鑑,通帳,キャッシュカードを持ってるか,家に取りに行くぞ,明日金融屋を回らせるなどと言った。私は,被告人が席を外した際,被害者を脅して早く観念させようと思い,あの人のためだったら,俺は人殺しだってできるなどと言った。
3人で同店を出,被告人運転の車で,被害者方に向かう途中,被告人は,同人から,携帯電話1台を取り上げた。
被告人と被害者が同人方へ立ち寄った後,ホテルI204号室に赴いた。被告人は,今日は帰れねえから風呂に入れ,服を預かっておく,明日仕事は休んでもらうなどと言って,同人の服を取り上げた。被告人の指示で,私は,遅れて来たDと共に,交代で被害者を監視したり,同月9日朝,Gの借用書を探すため,被害者方に行くなどした。被告人が,被害者のものと思われる黒か茶色の二つ折りの財布(カード3,4枚在中)から,1万円を出し,Dと私で分けろと言った。
同日昼ころ,502号室に被害者を移動させた。被告人は,同人から,カードの暗証番号を聞いてDと出て行き,約1時間後怒って戻って来た。私とDは,被告人の指示で,被告人と被害者を残して同室を出,Aのいる部屋に行ったと思う。Dは,Aに下りなかったと言っていたが,当時その意味は分からなかった。502号室に戻ると,被害者は,浴衣の帯で,両手足を縛られ,目隠しをされていた。1人で見張りをしていると,Aが,今回の配当と言って10万円をくれた。被告人は5万円をくれた。その後,Dと交代で見張りをしたが,眠くなったので被告人の了解を得て帰宅した。被害者が909号室に連行されるのは見ていない。被告人と被害者の間で,借金,慰藉料の話は出ていなかった。
(2) B
同月8日午後,gの喫茶店で,Gから,援助交際をしていた被害者に100万円以上の借金があり,同人に家まで取り立てに来られるなどストーカー行為をされて困っている,同人は暴力団と繋がりがあるかもしれないと聞き,これをAに伝えると,被告人に振ってくれ,うまいこといくと金になると言われ,被告人にも伝えた。被告人は,来た時,何かいい話があるらしいじゃないと言っており,aで被害者と会うことが決まった後,Cを呼び出したり,これで金が取れると言って委任状や金銭借用書を購入した。被告人,C,D,Fと5人でH店に赴き,被告人とCが,被害者と同店に入った。被告人は,途中同店を出て来て,被害者は学校の先生だ,公務員だ,免許証の偽造もしてるとんでもない奴だ,絶対金になると言った。被告人らは,同日午後11時ころ,同店を出,G,Fの借用書等を取りに被害者方に赴いた。同所で,被告人は,1回監禁してゆっくり話をする,ホテルか何かないかと言ったので,DがホテルIを2部屋予約した。その後,私とFは,別行動をとり,同ホテルには行っていない。
同月9日午後7時30分ころ,dの喫茶店で,被告人が被害者のカードで下ろしたと言って出した約170万円を,Aに70万円,被告人に50万円,私に30万円,D,Cに各10万円ずつ山分けした。その際,被告人は,もうすぐ被害者を帰す,GやFの借金がちゃらになったなどと言っていた。被害者を解放した後,被告人から,同人と手を組んでハッカーをする約束をした,公務員だし,免許証の偽造の犯罪をしているから警察に言うことはないなどと聞いた。
(3) D
ホテルの客室に入り,被告人から,被害者のズボンを確認しろと指示され,後ろポケットにあった黒色,二つ折りの財布(2,3万円とカード5,6枚在中)を被告人に渡した。被告人は,同カードすべてを抜き出し,1万円を私とCにくれた。この時被告人は,被害者に誕生日が暗証番号と確認した。
私とCは,同月9日午前6時半か7時ころ,被告人の指示で,被害者方の鍵を渡され,同人方に行き,女の子の住所,名前等が書かれたファイル,ノート等が入った袋,Fの借用書,ビデオカメラを持ち出した。Cも被害者方に入った。Fの借用書はBに,その外は被告人に渡した。Fの借用書のことは被告人に伝えなかった。
被告人と銀行に行ったが,カードの暗証番号が違うと分かり,ホテルに戻った。被告人は,被害者に,暗証番号が違う,どういうことだと怒鳴り,Cと私に部屋を出ろと言った。別の部屋に行ったが,Cの外に誰がいたか覚えていない。その後被告人と再び銀行などに行き,お金を下ろした。この現金は,dの喫茶店で,Aらと分配し,同人から分け前として10万円を,被告人から数万円を貰った。その後,ホテルに戻ると,被害者は,帯で手足を縛られ,タオルで目隠しをされ,被告人から殴る蹴るされた。
同月10日,被害者を解放する前,被告人はGに貸した120万円をちゃらにしろ,これから一切援助交際をするな,ハッカーできるか,一緒に仕事をして稼ごうじゃないかと言い,被害者は,うなずいていた。財布,携帯電話,鍵は,被害者に返したが,上記ファイルやビデオカメラ等は返さなかった。カメラは自分の手元に置き,ファイルはl通りで捨てた。
(4) 被告人
同月6日,Aから,Bが金になる話をもってきた,相手はストーカーらしいなどと言われ,同月8日,Bから,被害者がGと援助交際している,Gの借用書を取り返してほしい,Aが金に困っているからできれば金にしてやりたいと言われた。相手に会ってみなければ分からないと答えた。Aが来れなくなり,Dが被害者に連絡していたので,私が同人と会うことにした。BからCを同行させてくれと言われ,呼び出した。Cと被害者とでH店に入り,食事をした後,Gの話を切りだした。被害者に身分証明書の提示を求めると,偽造の免許証を出したので立腹し,そのことや資格なしにGに金を貸したこと,ストーカー行為をしたこと等を指摘した。一旦席を外し,Bに状況を伝え,Aにも伝えると,翌日dの金融屋を回らせる,dのホテルへ連れて来てくれと言われた。被害者の承諾を得てYで同人方へ行き,保険証を見せてもらい,dのホテルへの同行を求めると,それで話が終わるのであればと言って承諾した。Cと3人でホテルに到着し,被害者は204号室,私が205号室に入った。被害者は明日仕事を休む,起こして下さいと言った。DとCに指示して被害者方からGやFの借用書原本を取って来させた。同日午後12時過ぎ,Aが同ホテルに来,502号室,506号室を取った。被害者を502号室に移した。Cが,被害者方から上記借用書の外,キャッシュカード,クレジットカードを持ち出したので,これらを被害者に見せ,同カードで引き出した金をGへのストーカーの示談金に充て,終わりにした方がいいと言うと,被害者は承諾した。示談書は同人の希望で作成しなかった。同人に金融屋を回らせないようAを説得した。カードで引き出した金,カード等をAに渡すと,7,80万円とカード1,2枚をAが取り,私に3,40万円をくれた。同月10日午前11時ころ,909号室で被害者は,被告人がカードが全部揃ってから返すと言うとこれを了承し,また私がカードを使うことを承諾した。被害者に5万円を渡し,別れた。同日,B,Eらと被害者名義のクレジットカードで買物をした。
3 検討
(1) 前記1で認定したように,被害者は,H店駐車場に同人の車を放置し,被告人運転の車で,同人方を経由してホテルIに赴いた後約35時間を同所で無為に過ごし,仕事を2日間休んだ上,ホテルを出たその日のうちに,警察に窃盗の被害届を出し,クレジットカード等のカード会社に事故届を出している。
上記事実は,被害者を監禁して金品を喝取したとのB,C,Dの供述を裏付けるものといえるが,全て被害者の承諾のもとに行ったとの被告人の供述とは相容れない事実である。
(2) B,C,Dの各供述は,被害者の被害申告の内容と合致し,しかも,概ね相互に符合している上,その内容は,BからGに関わっている男がいることを聞いたAが,うまく脅せば金になると考え,これを被告人にやらせることとし,A,Bから話を聞いた被告人が,Aの配下のCやDを使って,被害者を脅し付け,ホテルに監禁し,現金や同人名義のカード,鍵などの交付を受け,この鍵を使って同人方に侵入した上Gの借用書等を持ち出し,また,このカードを使って被害者の預金を引き出し,あるいは店で商品の交付を受け,カードを使って預金を引き出すなどして得た現金をすぐさま被告人,A,Bらで分配したことを具体的に物語っているもので,特段問題とすべき不合理,不自然な点は存しない。Bらは,殺人罪という重い責任を問われ,裁判中あるいは受刑中に証人として証言し,自己やAの関与を認めているのであって,被告人一人に責任を転嫁する内容ではない。
(3) 被告人の供述は,被害者の被害申告の内容と相反するものである上,被告人は,被害者と円満な話し合いをしたに過ぎないと供述するが,Bから話を聞いた際,Aが金に困っているからできれば金にしてもらいたいと言われたとも供述しており,前後矛盾する内容である。
次に,被害者は高校教師であり,平成13年7月9日,10日は平日で勤務日であったのに,話し合いのために,2日間に亘って勤務を休み,ホテルの部屋で約35時間を無為に過ごすことに承諾を与えていたとするのは,極めて不自然であるし,直後に被害者が警察に被害申告していることともそぐわない。更に,その内容も,示談金額を定めることもなく,被告人にカードの暗証番号を教えて預金の引出しを依頼し,クレジットカードの使用も承諾したとするのは,荒唐無稽というほかない。被害者が真実示談金の支払いに応じたというのであれば,自ら金員を用意すれば足り,初対面の被告人らに全面的に処分を委ねるとは考えられない。
(4) 以上検討の結果,B,C,Dの供述は信用でき,被告人の供述は信用できない。
(5) 前記1で認定した事実に加え,B,C,Dの供述等によれば,BからGと被害者が援助交際していることなどを聞いた被告人は,同じくBからこれを聞知したAと連絡を取りながら,同人の配下のD,Cらと共に,H南a店に呼び出した被害者に対し,Gへの貸金や援助交際等の弱みにつけこみ脅迫行為を行い,ホテルIに連行してその両手足を紐で縛るなどして監禁し,Gへの貸金を放棄させるとともに,現金,キャッシュカード等のカード数枚を喝取し,被害者方に侵入してGらの借用書等と思われる書類を窃取し,金融機関から現金を窃取し,被害者名義のクレジットカードを使用して商品を騙取したものと認められる。
(6) 弁護人は,Dは,ホテルIには,被告人,C及び被害者と一緒に着いたと供述するが,C,Bの供述と相反している,同ホテルに赴いたのは正に監禁でないことの証左であるとして,Dらの供述は信用できないと主張する。
しかし,Dの上記供述は,立証趣旨の範囲外の事項に関するもので,弁護人が反対尋問として一言聞いたに過ぎず,検察官の再主尋問は制限されているのであるから,十分な吟味を経たものではなく,額面通りには受け取り難いが,いずれにせよ,枝葉の部分についての供述の不一致であって,供述の信用性に影響するものではない。
次に,ホテル使用の点については,監禁場所としてホテルが利用されることは往々にしてみられることであって,弁護人主張のようには解し難い。
第3判示第4の各事実について
1 関係各証拠によれば,以下の事実が認められる。すなわち,
(1) Bは,同月15日夜,C,E,Fとgの飲食店丙で飲食中,Fの話で被害者が警察へ被害申告したらしいと知って立腹し,被害者を呼び出せと指示して,Fに被害者を呼び出す電話をかけさせた。Bは,被告人,Dを呼び出し,その後Gも来た。Bや被告人らの話し合いの結果,Fが,被害者をカラオケルームに誘い込むことになった。
(2) 被害者が,同人の車(乙)でg駅西口へ来た。Eは,警察がいないか確かめろとのBの指示で,D,Cと共に,同車の周辺を偵察した。Fは,同月16日午前3時40分ころ,被害者をカラオケルームRに誘い込み,Fが部屋を出た後,被告人,Cが被害者のいる部屋に赴き,同人に暴力を加え,近くに停めてあったD運転のZに押し込んだ。そのころ,被告人は,被害者の携帯電話,手錠を持った。同車には,C,Eが同乗し,gにあるSビル前路上,丁を経由し,再び同ビル前路上に至った。Eは,被害者の所持品を確認しろとのBの指示をCに伝え,同日午前5,6時ころ,被害者の約2,3万円在中の財布をBに渡した。その後,同車は,hの駐車場T(以下「Tパーキング」という。)に至った。他方,被告人運転のYは,B,F,Gが同乗し,丁を経由し,Tパーキングに来た。同所で,被害者をYに乗り換えさせ,D,C及びEも乗車して出発し,途中gで駐車中の乙にDが乗り換え,CがYを運転して,被害者を静岡県のUサービスエリアまで連行した。
(3) 被告人は,B,F,Gとhのホテルmに宿泊し,ステーキハウスnで昼食を摂るなどした。その後,被告人は,Bらと別れた。同日夕方,ZでUサービスエリアに赴き,Cらと合流した。
(4) 被告人らは,途中,被害者を乙に乗せ換え,Aを通じ,知人からVを教えてもらい,被告人の先導で,同日午後11時30分ころ,同所に至った。被告人は,Cと共に,懐中電灯を買いに行き,途中,農機具小屋から鍬2本を持ち出し,Vに戻った。被告人は,被害者を乙から出し,Cと共に,被害者を引きずって,Vの中へ入った。その後,被告人は一旦Vの入口に戻り,D,EがVの中へ入った。Eが車に日本刀を取りに戻り,これを持って再びVの中へ入った。被告人も,再びVの中へ入った。そのころ,Cは,上記日本刀で,被害者を突き刺した。被告人は,ベニア板を被害者の上に載せた。そのころ,被害者は臓器等損傷により死亡した。被告人らは,上記日本刀,鍬の頭などを持ってV入口に戻り,車で逃走した。
(5) 被告人とDは,数日後,日本刀,鍬の頭などの殺人に使用した道具を,横浜の埠頭から海に投棄した。同年12月,Dの案内で横浜市のo埠頭周辺の海中を捜索した結果,同所から,赤茶色の錆様のものが付着した日本刀1本(平成14年押第109号の1),鍬の頭2個(同押号の2,3)が発見された。この日本刀には,己との銘が刻印されており,切先から棟区までの刃渡りが69.6センチメートル,反り高の最大部分が2.0センチメートルである。
(6) 同年8月4日,被告人の使用車両から,「登録記号番号岡山県第74534号,種別刀,長さ69.8センチメートル,反り2.0センチメートル,目くぎ穴壱個,銘文(表)己」と記載された銃砲刀剣類登録証1通が発見された。同登録証は,日本刀1本(白鞘,己の銘の切込みがある。)と共に,同年7月5日午前,静岡県三島市で盗まれたものである。
(7) 被害者は,同年11月16日,司法解剖されたが,解剖時,ごく一部を除いて完全に白骨化していた。損傷としては,(一)第4,5胸椎椎体左側から第5胸椎左横突起にかけての切截痕,左第5肋骨骨側の切痕,左第4肋骨前外側の切截痕,左第6肋骨骨側下縁の切痕及び同第7肋骨骨側上縁の切痕,第6椎体,椎孔面左側の切痕,第7頸椎椎体,椎孔面左側の切痕,第7頸椎椎弓左側の切截痕,第1胸椎椎弓左側上半部から第7頸椎との関節面左側の切痕,第7頸椎左横突起の切截痕,第1胸椎左横突起の切截痕,左肩甲骨,肩峰下縁の切痕群,左肩甲骨,関節窩上端部の切截痕,左肩甲骨,烏口突起下縁の切痕,左肩甲骨,肩甲棘下縁の切痕,左上腕骨の切截痕,(二)右肩甲骨,棘下窩外側の骨折,肩甲棘内端部から棘下窩上半にかけての骨折,第3,4胸椎右横突起の骨折,右第1肋骨の骨折,右第2肋骨背側の骨折,右第3,4肋骨背側の骨折群,右第7,8肋骨骨外側部の骨折等の損傷が存するが,頭蓋骨に損傷は認められない。正確な受傷機転の説明は困難であるが,(一)の各損傷は,鋭利な刀器による刺切ないし切截により,(二)の骨折群は,棒状ないし稜角状の部分を有する重量のある硬い鈍体による1回の打撲で生じたと考えられる。
(8) 被害者の上衣シャツには,前面に6箇所,背面に21箇所,襟に1箇所の裂け目が,同人のスラックスには,前面の右外側大腿部付近に脇縫いを通って後面に渡る裂け目1箇所,後面に3箇所(右後大腿部付近,臀部付近,左内側大腿部付近)の裂け目が,それぞれあった。
(9) 被害者の胸骨背側面上端付近にある2箇所の損傷は,同人のシャツの創傷状況等に照らし,いずれも背中側から刺されて形成されたと考えられるから,日本刀で形成されたとしても矛盾はなく,同人の上衣シャツ右袖,左袖,左肩の各損傷3箇所と襟の損傷中の1箇所は,直径約5ミリメートルの小さなもので,日本刀で形成することは比較的困難であり,くり小刀,サバイバルナイフ等の刃体が小さく鋭利な刃物で形成しやすく,その外の着衣の損傷は,創縁,創角が明瞭でなく,成因は不明である。
2 関係者の供述概要
(1) C
Fが,Bに対し,電話の相手が被害者であり,同人が警察にチクったと言うと,Bは,あいつ分かってねえな,俺がやる,俺が殺す,電話で呼び出せなどと言った。Fは,Bの指示に従い被害者を呼び出す電話を掛けた。その後,被告人とD,次いでGが来たが,警察に言ったらしい,円満に別れたのにどうなってるのか,俺がやる,俺が殺す,被害者を呼んだなどと言い,被告人と何か話し合っていたが,詳しい内容は聞こえなかった。E,Dと私が,Bの指示で偵察に行った。被告人は,私とEについてこい,Dに車をつけて待ってろと指示した。被告人は,被害者に警察にチクってるんじゃねえよと言い,被害者を殴る蹴るし,私も暴行を加えた。被告人は,持ってるものを出せなどと言った。被害者から手錠2個,鍵の束,携帯電話を取り上げ,部屋を出る前,右の腰ポケットからサバイバルナイフを出し,おとなしくしろと脅した。私とEとで被害者をD運転の車まで引きずっていき,被害者を殴って同車に押し込んだ。B,被告人も殴っていた。被告人運転の車に,B,F,Gが同乗し,D運転の車に,私,E,被害者が同乗し,Sビル前路上,丁,Sビル前路上を経由し,hのTパーキングに赴いた。2回目にSビル前路上に赴いた時,私は,Eに言われて被害者の所持品を確認し,約2,3万円在中の財布をEに渡した。Eに指示したのは被告人だと思う。hのTパーキングで,被告人の指示で,D,Eと共にgの被害者の車を取りに行き,被害者をUサービスエリアまで連行した。夕方,被告人が同サービスエリアに来たが,Bが来ないことに私が立腹すると,被告人がおれがやることになった,ばらすことになったからと言った。被告人は,被害者を同人の車に乗り換えさせ,途中qインターで戊(私は知らない人だった。)から地図をもらいVに至った。被告人が庚店で作業用のつなぎに着替えた。被告人は現場に着くと,中を見に行った後,私に手伝うように言った。着替えたいと言うと,車(Y)のトランクを探してくれた。トランクには,衣類,白鞘に納められた日本刀,バール,ナンバープレートがあった。私と被告人は,懐中電灯,鍬,ベニヤ板等を調達して戻り,被害者をVに連行した。被害者は,助けてください,話がありますと言ったが,被告人は,話なんかないと言い,被害者の正面に立ち,鍬で頭の左側を殴った。死んだと思う程の音がした。上記ナイフを逆手に持って右太腿,腕,胸を5,6回刺し,側溝に引きずって行った。被告人と私は,鍬で土を掘り被害者を埋めようとしたが,途中被害者が足をばたつかせたので,被告人が上半身を20回位刺した。被害者は動かなくなり,死んだと思った。再び土をかぶせた。途中2本とも鍬の柄が折れた。被告人は,D,Eを呼びに車に戻り,Dらがベニヤ板を持って来た。Eが地面に上記ナイフを見付けたので,私が,被告人のやつと言った。被害者が穴から出,座っているのに気付き,Eに,ポン刀を持ってこい,生きてるから被告人を呼んでこいと言った。その後,Dと大きなコンクリートの塊を被害者の近くまで移動させた。Eから日本刀を受取り,鞘を抜いたが,自分では刺せず,私の後ろ近くにいた被告人にやって下さいと言うと,おまえがやれ,やらないと,俺がおめえをやると言われた。やらないと殺されると思い,両手で日本刀を持ち,背中を3回突き刺した。その後,被告人が被害者の上にベニヤ板を載せ,上記コンクリートの塊を同人に投げ付け,ベニヤ板の上で10回位ジャンプした。Vを離れ,東京に戻って,A,Bに報告した。
(2) B
丙で飲食中,Fが被害者と電話していたのを知って怒ると,Fは,被害者がFとGの関係を探っている,警察へ被害申告したらしいと言った。私は,俺が話をつける,話がつかなければ殺す,呼び出せ,こんなにされても分かんないのか,殺さないと分からない,今度は埋めちまうぞなどと怒鳴った。Fに被害者を呼び出させた。被告人とD,その後Gが来た。私が被告人に対し,私が話をつける,話がつかなければ殺すと言うと,被告人は,待って下さい,しめ方が足らなかった,長物があるからきっちりしめると言った。被告人と話し合いの結果,カラオケに入れて拉致し,Sビルへ連行し,話を付けることに決まった。被告人,Cらが抵抗する被害者を,D運転のZ後部座席に押し込み,同車を発進させた。被告人運転のYで追随した。Y運転席脇のコンソールボックスのところに斜めに差さっていた木刀様の長い物を,後部座席足下に移動させた時に,日本刀だと分かった。Gにも日本刀だと伝えた。その後Sビルを経由し,被告人が監禁場所があると言ったので丁へ行ったが,結局同ビルに戻った。その際,Aに対し,被害者が警察に届けたと分かり,呼び出して拉致した,取り敢えずSビルに入れる旨伝えた。同所で,Eに被害者の所持品を調べろと指示し,取り上げた財布は,Tパーキングで被告人に渡した。朝になり,同ビルへ入れることもできず,hのi町でホテルを探すことにし,その旨Aにも伝えた。結局ホテルは見付からず,Aに相談すると,被告人に電話を代わるように言われた。その後,被告人の指示で,被害者をYに乗せ換え,同車が発進したが,行き先は分からなかった。7月9日午前9時半ころ,DからUサービスエリアに着いたと連絡があり,被告人に伝えると被害者は殺す,場所はAが探していると言った。被告人1人がCらと合流することに決まり,別れた。被害者殺害後,東京で被告人ら4名と合流し,A方へ行った。
(3) D
丙に被告人と行くと,Bは被告人に対し,被害者が警察に垂れ込んだらしい,俺が話をして分からなければ,俺がやる,埋めちまうと言った。真っ赤な顔で,見たことのない口調だった。被告人は,最初,俺が片をつける,俺に任せてくれとなだめていたが,その後,ちょうどポン刀もあるからやると言っていた。私は,Bと被告人2人が被害者を殺すと思った。カラオケルームから被害者をZに無理矢理押し込んだ。被告人の指示で同車を発進させた。Sビル前でEは,Bの指示で被害者の財布を取り上げた。その後,Tパーキングに赴いた。被告人にZで細い道を出ることができないと伝えると,被害者をYに乗り換えさせることになった。この時,被告人が同車後部座席からトランクに日本刀を移動させた。その日本刀は,私がAの指示でSビルに運んだ物で見覚えがあった。被告人の指示で,私とC,Eが,同車と被害者の車(乙)で,Uサービスエリアに赴いた。到着後,Bか被告人に連絡した。被告人が,夕方来て,途中Aの知人の戊と会い,被告人の先導でVに到着した。被告人とCが軍手を調達し,Vに戻って来ると,つなぎに着替えた。被告人は,被害者をVの中に連行し,Cもついていった。約10分後息を切らして戻って来た被告人は,足を数か所刺して動けないと言った。被告人の指示で,Eとベニヤ板を持って下りて行った。Cと私が大きなコンクリートの塊を転がしていった。Cが懐中電灯で探すと,背を向けて座っている被害者を見付け,Eに日本刀を持ってこさせた。Cと私は被害者を穴の方に引きずっていった。Cは,被告人からやれと言われ,日本刀で被害者の腰より上の辺りを2,3回刺した。Cが被告人にやってくださいと言ったことはない。被告人は,もういい,最後は俺がやると言い,被害者の腰より下辺りに土をかけた。バールか何かで攻撃したような気もする。その後,ベニヤ板,コンクリートの塊をのせた上で,跳ねていた。事件後,被告人と2人で日本刀,鍬の頭を海に捨てに行った。
(4) E
丙で飲食中,BとFの様子が,途中からきな臭くなってきた。Bは激高して,警察にチクってる,やっちまえ,埋めちまえなどと,吐き捨てるように言った。被告人とDが来た。Bは,被告人に対し,埋めちまえ,やっちまえ,探りを入れている,警察にチクったんじゃないかなどと言い,立腹していた。被告人は,様子がおかしいので,電話を掛けたが奴は出なかったと言った。その後,Gが来た。Fは,甘えるような口調で被害者を呼び出した。殺人が現実になったとショックだった。被告人,Cと私が,被害者を拉致し,Sビル,丁を経由し,Sビルに戻った。同所で,Bの指示をCに伝え,被害者から2,3万円在中の財布を取り上げ,Bに渡した。Tパーキングで被害者をYに乗せ換えた際,被告人がY後部座席をきれいにする動作をしたのは見たが,日本刀は見ていない。その後,Uサービスエリアに赴いた。ここまでの指示は,Bか被告人がしていた。夕方被告人が来た。被告人運転のZに追随し,Vに赴いた。Vで,被告人はつなぎを着ていたが,着替えた場所は覚えていない。被告人は,被害者を車から引きずり下ろし,現場へ行き,Cも行った。被告人が肩で息をしながら,車に戻って来,足を刺してきた,ベニヤを持って下りろと言った。Dとベニヤ板を持って行った。赤色の懐中電灯とこて2個,タオル,柄の部分がアルミ色で縦に4つの丸い穴の空いた小型ナイフが地面の上にあった。Cが,懐中電灯で照らすと被害者の白っぽいワイシャツが浮かび上がった。Cから,ポン刀持ってこい,被告人を呼んできてくれと言われた。被告人に伝えると,Yのトランクから日本刀を取り出して私に手渡した。日本刀は袋に入っていず,鞘に納められていた。私がCに日本刀を渡した後,被告人が来た。被害者の出血は暗くて分からなかった。Cは,横たわった被害者の傍らに立ち,下の方に向かって日本刀を立て続けに3回突き刺した。ゴンゴンゴンという音が聞こえたが,その前後に誰かが発言した記憶はない。その後,被告人がベニヤ板を被害者の体の上に叩き付けるように載せ,大きな石を持ち上げるようにその上に落とし,10回程ジャンプした。私は現場から持ち帰ったナイフ,こて等を乙の後部座席の足下に置き,同所を離れてすぐ被告人に一生誰にも言わないと言った。東京に戻り,Bと合流し,A方に赴いた。被告人らを最後に見たのは同年8月初めである。事件後食事等したことはない。
(5) 被告人
Bから呼び出されて,Dと丙に行くと,興奮したBが被害者が警察に通報したらしいと言った。私は被害者に聞かないとわからないと答えた。呼び出された被害者が来たので,興奮したBが被害者のところへ行くのを制止し,H店で一緒だったCを連れて被害者のいる部屋へ行った。Eがついてきたが,何故だか分からない。被害者の後ろポケットに手錠を見付けた。私達に気付いた被害者がいきなり向かってきたので,反射的にその左肩辺りを一発殴り,Cが馬乗りになって殴った。これ以上被害者と話をする余地はない,自分の役目は終わったと考え,Cを制止し,床上に落ちていた携帯電話,手錠を拾い,部屋を出た。Cが被害者を引っ張り出した。B,CがD運転の車に被害者を押し込み,同車にC,Eが同乗し発進した。BからSビルへ行くように言われ,私がYを運転し,Bらを乗せて同ビルへ行った。Y運転席左脇とコンソールボックスの間に木刀を挟んでいた。Bと,DかCが同ビルへ入り,戻って来た。自分は関係ないと思ったので,Bらをドライブに誘い,大黒パーキングへ向かった。途中Bから監禁場所がないかと聞かれたが,断ると,監禁場所としてhのホテルはどうかという話になり,hのTパーキングへ行ったが,その途中Sビルには寄っていない。Bの求めで,Dにi町へ来るように連絡し,被害者をYに乗せ換えた。その際,Yの荷物の一部をZに移した。AからDに静岡方面に行かせてくれと言われ,DにとりあえずUサービスエリアに行ってくれと伝えた。その時BがDにgに駐車中の乙を取って静岡へ行けと言った。D運転のZで,C,E及び被害者は静岡へ向かった。Bや私はホテルで休憩したが,Bから,Aとの話で,被害者を殺害することになったと聞いた。その後食事を摂った際,Aから静岡に行ってくれ,今回の結果はお前の責任だ,行かなければどうなるか分かってんだろうな,行くだけでいい,殺しはCにやらせると言われ,その後もA,Bから催促の電話があり,仕方なくUサービスエリアに行った。途中BからDらに日本刀を持たせた旨電話があった。乙の窓にスモークフィルムを貼り,被害者を同車に乗せ換えた。同車に白木,紫色の袋入りの日本刀を見付け,鞘から抜いてみた。同所を出発し,Aの指示でqインターで戊と会い,Vまでの地図を受け取り,同所へ赴いた。同所が真っ暗だったので,Cと懐中電灯を買いに行き,戻る途中,自分が言い出して鍬2本を盗んだ。戻ってスニーカーに履き替えた。サバイバルナイフは,Yに置いたままにしていた。Cらが積極的に行動する様子がなく,早く帰りたかったので,自ら被害者をVの中へ引きずって行くと,Cが鍬,懐中電灯を持ってついてきた。斜面になったところで被害者を2人で放り投げた。CにAがCにやらせろと言っていたと告げ,車に戻り,D,EにCのところへ行くようにと言った。Eが日本刀を取りに戻って来た。3人が戻って来ず,様子を見に行くと,CがDに日本刀を渡したところだった。私は付近にあったベニヤ板を被害者の上に載せた。コンクリートの塊を載せたり,ベニヤ板の上で飛び跳ねたことはない。同月17日ころ,B,Aから乙を早く処分しろと催促され,Dと乙にあった日本刀などを海に捨てた。サバイバルナイフがなくなっているのに気付いた。
3 検討
(1) C供述の信用性
(一) 客観的証拠の裏付け
Cは,被告人が,鍬で被害者の頭の左側を殴り,所携のサバイバルナイフでその右大腿,腕,胸を5,6回刺し,更に上半身を約20回刺した,Cは,日本刀で被害者の背中を3回突き刺したと供述している。このCの供述は,被害者の遺体,着衣の損傷状況等の客観的事実によって,その一部が裏付けられている。すなわち,前記1(7)ないし(9)で認定したように,背中側から刺されて形成された胸骨の刺創2箇所は,日本刀で形成されたとしても矛盾がなく,同人の遺体にはその外に頸椎,左肩甲骨等に重傷の切創が多数箇所存する上,その上衣シャツの前面に6箇所,背面に21箇所,襟に1箇所,スラックス前面の右後大腿部付近に1箇所,後面に3箇所の裂け目があり,そのうち,上衣シャツ右袖,左袖,左肩,襟の裂け目4箇所は,日本刀では比較的形成困難であり,サバイバルナイフ等の刃体が小さく鋭利な刃物で形成されやすい損傷である。
次に,Cは,被告人が鍬で殴り,Cが日本刀で被害者を刺したと供述するが,前記1(5)で認定したように,D及び被告人が投棄した場所から鍬及び日本刀が発見されており,Cの供述を裏付けている(なお,前記1(6)で認定したように,被告人が使用していた車内から上記日本刀の登録証が発見されており,日本刀は被告人が所持していたものと認めるのが相当である。)。
このように,Cの供述には,客観的証拠の裏付けがある。
(二) 関係者の供述の裏付け
Cの供述の大筋は,被害者が警察に被害届を出したことを聞き知ったB及び被告人が,口封じのため,被害者を殺害することとし,Fに被害者を呼び出させた上,C,D,Eを使って,被害者を車に監禁し,併せて所持金品を奪い,Aとも連絡を取りつつ,殺害場所に赴き,被告人がナイフで被害者を突き刺し,Cが日本刀で止めを刺して殺害したというものであるが,この大筋においては,B,D,Eの各供述が,その体験した場面の違いに応じてそれぞれCの供述を裏付けている。Bは,本件の発端を作った者であり,Dは,被告人の運転手役として判示第1ないし第3の犯行に加担した者で被告人と共に丙に赴いたことから本件に関与することとなった者であり,Eは,たまたま丙でBらと飲食していたため,本件に引きずり込まれた者であるが,このような立場の違う三人がいずれも殺人罪という重い責任を自ら問われ,裁判中あるいは受刑中に証人として証言し,異口同音に上記のようなCの供述を裏付けており,その持つ意味は大きい。
確かに,仔細に検討すると,細部においては,Cら4人の供述には喰い違いもみられる。例えば,丙の話し合いにおいて,Bが殺すと言ったことは,B及びCが明確に供述しているのに対し,D,Eがやや後退した供述をしているが,殺害行為を言い出したB及び殺害行為に直接手を下したCが自己らに不利益な事実を自認しているのであるから,その信用性は高い。Bは,丙での話し合いの際,被害者殺害は話がつかなければという留保付きであったかのようにもいうが,Eはこの点を明確に否定し,Cもそのような供述は一切していないことに加え,被告人らが現にその後被害者に対してとった言動(監禁後,殺害に至るまで,B及び被告人が被害者と一切話し合いをしていない。)に照らし,この点の供述は信用できない。また,Cは,Vで,被告人にやってくださいと言うと,被告人は,Cが止めを刺さなければ被告人がCを殺す旨言ったというが,その場に居合わせたD,Eがいずれもこれを否定しており,Dらがこのような発言を聞き漏らすとは考え難く,この点の供述も信用できない。
これら供述の不一致は,いずれも殺人の共謀を否定する方向に働く事情ではなく,程度,濃淡の差に過ぎず,記憶の減退や自己の刑責軽減のための供述として説明のつくものであり,この点がC供述全体の信用性に影響を与えるものとはいえない。
なお,事件後警察の捜査を察知したA,B,C及びDが口裏合わせのため集まったことは,B,C及びDが自認しているところ,同人らの供述は被告人に責任をなすりつける内容のものではなく,各人の責任を認める内容であり,具体的な内容についての相談にまではならなかったというもので,上記会合に参加しなかったEの供述と概ね合致している上,Bらは,事件前後のAとの連絡状況等,同人の事件への関与を認める供述をしている。これらの点からすると,口裏合わせのための会合に参加したことは,Bらの供述の信用性に疑いを生じさせるものではない。
(三) 供述内容の合理性
Cの供述は,Bの配下であったCが,B及び被告人の指示により,本件犯行に引き込まれ,自ら殺害行為にまで関与することになった事態の流れを合理的に説明するものであって,特段不自然な点は窺われず,被告人に責任を転嫁している点も見受けられない。
(四) 以上のとおり,Cの供述は,物的証拠という客観的な証拠の裏付けがあり,関係者の供述とも符合し,その内容も合理的,自然なものであってその信用性は高い。
(五) 弁護人の主張に対する判断
弁護人は,Cの供述は客観的証拠に反しており,信用できないと主張する。すなわち,(ア)Cは,sパーキングを出てから被告人が静岡の兄弟に電話していたと供述するが,通話記録によれば,被告人がそのような電話をかけた形跡がない,(イ)Cは,被告人が被害者の左頭部を鍬で強く殴ったと供述しているが,被害者の頭骨には損傷はない,(ウ)Cは,被告人はナイフで被害者の右足大腿を刺したと供述しているが,被害者のズボンの右脚の前面に裂け目はないと主張する。
(ア)についてみるに,通話記録によれば,被告人は7月16日午後6時から午後9時にかけて,共犯者らとの間の通話の外にも他の者とも通話していることが認められ,電話をかけた形跡がないとはいえない。(イ)についてみるに,確かに被害者の遺体の頭部には損傷は認められないが,被害者の遺体を司法解剖した医師の供述によれば,殴打の音と損傷の発生は直接的な関係はなく,鍬で頭を殴られたとして,頭蓋骨に損傷が生じるかどうかは,ケースバイケースで,必ず生じるものとはいえないというのであるから,弁護人指摘の点は,Cの供述の信用性を減殺するものではない。(ウ)についてみるに,被害者のズボンの右大腿部分には,前面から後面にかけての縁部分に1か所,その縁から2.7センチメートル入った後面に1か所の裂け目が存する。被告人が刺した右大腿部の部位,その際のズボンの状況によっては,ズボンの前面ではなく,その脇部分に損傷が生じることも十分ありうることであって,これらの損傷は,むしろ,Cの供述を裏付けるものであって,弁護人主張のようには解し難い。
次に,弁護人は,Cの供述は,D,Eらの供述と相反する部分があり,信用できないと主張する。すなわち,(ア)Cは,被告人が庚店駐車場辺りで,つなぎに着替えたと供述しているが,着替えた場所については,D,Eの供述と違っている,(イ)Cは,被告人がコンクリートの塊を持ち上げてベニヤ板の上に落としたと供述しているが,Dは,被告人がコンクリートの塊を転がしてベニヤ板の上に載せたと供述している,(ウ)Cは,懐中電灯を照らしたところ,被害者の姿を見たので,ベニヤ板を投げ,コンクリートの塊を転がしたと供述しているが,Eは,Cがコンクリートの塊を転がしているのを見た後,Cが懐中電灯を照らしたところ,被害者を見たと供述している。
(ア)についてみるに,DはV入口で被告人がつなぎに着替えたと供述し,Eは被告人が何処で着替えたかは分からないが,Vで被告人はつなぎを着ていたと供述し,供述の不一致が認められるが,いずれも被告人がつなぎに着替えたとの点では一致した供述をしているのであって,むしろ被告人のつなぎは持っていないとの供述の信用性を崩すものとはいえても,Cらの供述の信用性を減殺するものとまではいえない。(イ)についてみるに,確かにCらの供述には弁護人指摘のような不一致もみられるが(同人らの供述中には断定的でない部分もみられる。),同人らは被害者殺害に直接手を下した者及びこれを目撃した者であって,Cは腰を抜かしたと供述するように,衝撃的な体験をしていることを考慮すると,細部においてその記憶が齟齬することは十分ありうることであって,不自然とはいえず,同人らの供述の信用性を揺るがすまでの事情とはいえない。
弁護人は,B,C及びDの日本刀を見たとの供述は,不自然で信用できないと主張する。Bは,被害者を拉致してSビル前路上に向かう途中,日本刀がY運転席脇のコンソールボックスに斜めにさしてあった,その日本刀を自分が後部座席に移動させたと供述する。Dは,Tパーキングで,被害者をYに乗せ換える際,被告人が同車後部座席からトランクに日本刀を移したと供述する。Cは,被告人がVでYのトランクを開けた時,白鞘に納められた日本刀を見たと供述する。Eは,Cの指示で日本刀を取りに戻ったが,被告人がYのトランクから出した日本刀(鞘に納められていた。)を受け取って,これをCに渡したと供述する。このように,Bらは,それぞれ異なる場面において,被告人の車に日本刀があったと供述しているのであって,同人らの供述を相互に補強しており,その供述内容が不自然とはいえない。
(2) 被告人供述の信用性
(一) 客観的事実との齟齬
被告人は,被害者をサバイバルナイフで刺したことはなく,日本刀も自己の所持するものではないと供述するが,前記(1)(一)で検討した被害者の遺体及び着衣の損傷状況や日本刀及び登録証の発見状況と齟齬する内容であることは明らかである。
(二) 関係者の供述の裏付けの欠如
被告人は本件には傍観者的立場で関与したに過ぎず,Aの指示で犯行現場に渋々行き,CにAの伝言を伝えただけで,殺害の実行行為に及んでいないと供述しているが,Cをはじめ,被告人と行動を共にしていたB,D及びEは,上記のとおり,被告人の供述と相反する内容の供述をしており,被告人の供述は,これら関係者の供述の裏付けを欠いている。
(三) 供述内容の不合理性
被告人は,CにAの指示を伝えに行ったと供述するが,被告人らは携帯電話で連絡を取り合っていたのであるから,被告人がUサービスエリアに赴く必要性は見出し難い。また,被告人は,Aから紹介された戊と落ち合い,Vの場所を教わり,同所まで先導して赴き,Vに到着後,Cと鍬などの犯行道具を調達したり,被害者を車から引きずり下ろして殺害現場に引きずっていったりしているが,Dらは,戊と面識があるのであるから,被告人が同人と会う必要性は高くないし,上記のような被告人の積極的な行動は,その供述内容とそぐわない。また,被告人は,Bらが被害者を拉致した後,ドライブに誘ったと供述しているが,監禁中の被害者を乗せてドライブに行くのも不自然というほかない。
被告人の供述は,全体の流れとしては,Cらの供述と同趣旨の部分が多いが,肝心の自己の積極的関与に関する場面については,責任逃れの供述に終始するもので,不自然,不合理な内容というほかない。
(四) 供述の変遷
被告人は,サバイバルナイフについて,捜査段階では,サバイバルナイフを護身用に持ち歩いていたが,Vの中に大事な物を落としてはいけないと思い,乙の座席の上に置いておいたと供述していたのに,公判では,Yのコンソールボックスに入れていた,Zに乗り換えた時は鞄に入れていたが,再びYに乗り換えてからはまたコンソールボックスに入れておいたと供述を変え,ドライブについて,捜査段階では,Bから誘われたと供述し,公判では,自分が誘ったと供述を変えているが,供述を変えた理由について合理的な説明を加えていない。
(五) 以上のとおり,被告人の供述は,客観的事実との齟齬が見受けられ,関係者の供述の裏付けを欠き,その内容も不自然,不合理であり,不自然な供述の変遷もあり,信用し難い。
4 まとめ
前記3で検討したとおり,Cの供述の根幹部分は信用でき,これに反する被告人の供述は信用できない。
5 前記1で認定した事実に加え,C及びBの供述等を総合すると以下の事実が認められる。
丙でB,C,E及びFが飲食中,Fから被害者が警察に被害申告したと聞知したBが殺すと怒鳴り出し,被告人を呼び出し,その間にFに被害者を呼び出す電話をかけさせ,Dと共にやってきた被告人と話し合った結果,Fが被害者をカラオケルームRに連れ込んだところを,被告人らにおいてさらい,口封じのために殺害することに話がまとまった。Fが被害者を同店に連れ込み,被告人及びCにおいて,殴る蹴るの暴行を加えたり,ナイフを突き付け,Eも加勢して,被害者をD運転の普通乗用自動車後部座席に押し込み,C及びEも乗り込み同車を発進させ,Sビル前路上などを経由し,被告人らは別の車で追走するなどし,hのTパーキングで被害者を日本刀が積み込んである別の車に乗り換えさせ,被告人の指示で,D,C及びEが被害者をUサービスエリアまで連行した。その間,被告人は,同日夕方Uサービスエリアに赴き,他方,Aを通じて静岡県在住の知人から本件殺害現場を紹介され,被害者を同人の車に乗り換えさせ,本件現場に赴いた。被告人及びCが被害者をVに引きずっていき,被告人において,その頭部目掛けて鍬で殴りつけ,更にナイフで胸腹部や大腿部を5,6回,背中を約20回突き刺すなどし,Cにおいて,その背中を日本刀で3回突き刺すなどし,被害者を殺害した。その間,カラオケルームRで携帯電話等を強取し,Sビル前路上で財布を強取した。
そうすると,被告人が判示第4の事実について共同正犯の罪責を負うことは当然である。弁護人の主張は採用できない。
(累犯前科)
被告人は,平成3年7月24日横浜地方裁判所において殺人罪により懲役7年に処せられ,同10年6月3日その刑の執行を受け終わったものであって,この事実は検察事務官作成の前科調書によって認める。
(法令の適用)
被告人の判示第1の1の所為は,包括して刑法60条,249条に,判示第1の2,第4の1の各所為は,同法60条,220条に,判示第2の1の所為中,住居侵入の点は,同法60条,130条前段に,窃盗の点,判示第2の2,3の各所為は,同法60条,235条に,判示第3の1の所為は,同法60条,246条1項に,判示第3の2の所為は,包括して同法60条,246条に,判示第4の2の所為は,同法60条,236条1項に,判示第4の3の所為は,同法60条,199条に,判示第5の所為は,覚せい剤取締法41条の3第1項1号,19条に,判示第6の所為は,刑法60条,覚せい剤取締法41条の2第1項にそれぞれ該当するところ,判示第2の1の住居侵入と窃盗との間には手段結果の関係があるので,刑法54条1項後段,10条により1罪として重い窃盗罪の刑で処断し,判示第4の3の罪について所定刑中無期懲役刑を選択し,判示第4の3の罪を除く各罪は,前記の前科との関係で再犯であるから,いずれも同法56条1項,57条により,判示第4の2の罪については同法14条の制限内で,それぞれ再犯の加重をし,以上は,同法45条前段の併合罪の関係にあるが,判示第4の3の罪につき無期懲役刑を選択したので,同法46条2項本文により,他の刑を科さないことし,被告人を無期懲役に処し,押収してある覚せい剤1袋(平成14年押第109号の4)は,判示第6の罪に係り,被告人の所有するものであるから,覚せい剤取締法41条の8第1項本文によりこれを没収し,訴訟費用は,刑事訴訟法181条1項ただし書を適用して被告人に負担させないこととする。
(量刑の理由)
本件は,いわゆる風俗店のマネージャーをしていたBが,仕事先を探していたGから,援助交際をしていた被害者からの借金120万円を返済しなかったため同人につきまとわれて困っているとの話を聞き,これを知人の暴力団員のAに伝えたことから,これを種に金を稼げると考えた同人及び同人の兄弟分の被告人を中心として,同人らの配下のD及びC並びにBと交際していたGの友人のFらと共に,判示第1ないし第3のとおり,被害者を監禁するとともに,キャッシュカード等を喝取するなどし,これらを利用して窃盗や詐欺の犯行に及んだところ,約1週間後,居酒屋でB,C,F及びAの配下でいわゆるキャッチをしていたEが飲食中,Fから被害者が警察に被害申告したと聞知したBが殺すと怒鳴り出し,被告人を呼び出し,その間にFに被害者を呼び出す電話をかけさせ,Dと共にやってきた被告人やその後やってきたGを交え,話し合った結果,Fが被害者をカラオケ店に連れ込んだところを,被告人らにおいてさらい,口封じのために殺害することに話がまとまり,判示第4の犯行に及んだものである。
このように,本件は,暴力団員らが被害者の弱みにつけ込んで,監禁,恐喝等の犯行に及び,被害者が警察に被害届を出したことを知るや,被害者の口を封じ,自己らの刑責を免れるために,殺害を決意したもので,自己保身のためには他人の生命を奪うことに何らの躊躇も感じないその態度は,極めて反法的であり,強い非難に値する。
本件Vに至るまでの態様は,前記補足説明第3の5で摘録したとおりであるが,同所到着後本件現場が暗かったため,被告人及びCが懐中電灯や軍手を買いに行き,途中鍬2本を盗んだ上,現場に戻った。助けてくれと懇願する被害者の願いを無視して,被告人が車から引きずり出し,Cと共にVに引きずっていき,斜面となっているところで助けてください,許してくださいという被害者を2人して放り投げ,被告人が命乞いをする被害者の頭部目掛けて鍬で殴りつけ,更にナイフで胸腹部や大腿部を5,6回突き刺し,側溝に押し込んだ被害者に土をかけて埋めていたところ,被害者が這い上がろうとしてきたため,その背中を約20回突き刺し,更に土をかけた。被告人が車に戻り,その指示によりDとEがベニヤ板を持って降りてきたとき,Cは被害者が地面に腰掛けるように座っているのに気付き,とどめを刺そうと考え,Eに車から日本刀を持って来させ,被害者の背中を日本刀で3回突き刺した。その後,被告人が被害者の上にベニヤ板を置き,その上で約10回ジャンプして踏みつけた。その結果,被害者は臓器等損傷により死亡した。
このように,本件は,被告人やAの主導のもと,共犯者らがそれぞれ役割分担して敢行された組織的犯行であるところ,その態様も甘言を弄しておびき出した被害者を被告人らが数人がかりで襲いかかり,有無を言わさず20時間もの長時間監禁し,その間人間らしき取扱いをすることも殆どなかった。遂には,深夜,人里離れたVまで連行し,両手足に手錠をかけた状態の同人を車から引きずり出した上,放り投げ,命だけは助けてほしいという同人の最後の訴えにも全く耳を貸すことなく,情け容赦なく,同人を殺害している。正に残忍かつ凄惨で,極悪非道な凶行というほかはなく,良心のかけらも感じさせないその犯行には,慄然とせざるを得ない。
犯行後も,証拠品を投棄するなどの罪証隠滅行為に及び,何食わぬ顔で平然と従前の生活を続け,警察が捜査を開始したと知るや逃亡するなど犯行後の情状も芳しくない。
被害者は,Gらと援助交際をし,同女らに言われるまま親切心から金を貸したことが仇となり,被告人らから金をむしり取る絶好の相手と狙い定められたことから本件に至っているのであるが,警察に被害申告するのは,被害者として当然の事であって,何ら責められるべき点はない。被害者は,Fからの呼び出しに応じた際,何らかの危険に遭うことは想定していたものと思われるが,よもや殺害されるとは夢想だにしていず,この点を落度と目するのは相当でない。被害者は長時間人間らしい扱いを受けることなく,被告人らに生殺与奪の権を握られ,最後には目隠しをされ,両手足に手錠をかけられた状態で惨殺されたもので,その無念さは察するに余りある。被害者は,3人兄弟の長男であり,被害者が行方不明になった後必死にその所在を探していた両親や妹ら遺族が約4か月後に白骨化した被害者の死体を発見したとの報に接し,変わり果てた姿に対面したショックは大きく,いまだその被害感情は厳しく,被告人らの厳重処罰を望んでいる。しかるに,みるべき慰謝の措置は講じられていない。また,被害者は高校の教師であり,多感な年代の子弟らにもたらした衝撃も軽視できない。
次に,その余の犯行についてみるに,被害者から金を巻き上げることができるとみるや,暴力団員であるA及び被告人が中心となって6人という多数で敢行された典型的な暴力団特有の粗暴な犯行である。被告人らは,被害者を呼び出し,同人が公立高校の教師であることを知るや笠に着て,一層責め立て,約35時間被害者の両手足を紐で縛るなどして監禁し,Gへの貸金を放棄させるとともに,現金やキャッシュカード等を喝取し,被害者方に侵入してGらの借金に関連すると思われる書類等を窃取し,そのカードを利用して現金を窃取し,あるいは商品を騙取し,判示第4の監禁中にも現金等を強取したものである。このように,被害者を長時間拘束し,骨の髄までしゃぶり尽くしたもので,被害金額も約248万円の高額に達している。
被告人の個別的情状についてみるに,判示第4の犯行は,被告人及びその兄弟分のAの指示の下に行われており,被告人は実行行為の大半に関与し,殺害行為については,被害者を鍬で殴りつけ,サバイバルナイフで滅多刺しし,ジャンプして踏みつけるなどの行為に及んでいる。殺害現場には,被告人の外には,C,D,Eしかいなかったのであるから,被告人の一存で犯行も中止しうる状況であったのに,被告人は何ら躊躇することなく,平然と殺害の準備を遂げ,実行に及んでいるのであって,その冷血さには驚かざるをえない。そして,被告人には平成3年7月に殺人罪により懲役7年に処せられた前科があるのに,悔い改めるどころか,刑執行終了から3年余にして本件に及んでいる。このように,被告人は,殺人罪で服役後再び殺人罪を敢行しており,本件は,自己の刑責を免れることのみに腐心し,そのためには他者の生命を奪うことも厭わない冷酷,凶暴な性格に根差したものというべく,被告人には生命に対する畏敬の念は全く窺えず,再犯の危険性も高い。
判示第1ないし第3の犯行においても,被告人は,中心的役割を果たし,実行行為の重要部分を担当し,現金数十万円及び騙取したスーツ等を取得している。さらに,覚せい剤の使用,所持にまで及んでいる。
しかるに,被告人は,自己の刑責を軽減,あるいは免れるべく,極めて不自然不合理な弁解に終始し,反省の情も認められない。
以上によれば,被告人の刑責は非常に重い。
よって,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 金山薫 裁判官 山口裕之 裁判官 嘉屋園江)