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さいたま地方裁判所 平成13年(わ)363号 判決 2001年9月28日

主文

被告人を懲役7年に処する。

未決勾留日数中140日をその刑に算入する。

押収してある爆発物様のもの1個(平成13年押第121号の1),小刀1振り(同押号の2),ゴーグル様のもの1個(同押号の3)及び手錠1個(同押号の4)をそれぞれ没収する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は,

第1A,B,C,Dと共謀の上,株式会社E代表取締役F(当時55歳)をら致して自己らの支配下に置き,その間同人を脅迫してその反抗を抑圧した状態に陥れて金員の交付を約束させ,解放した後に金策をさせて同人から金員を強取しようと企て,

1  平成13年2月7日午後7時05分ころ,埼玉県志木市a町b丁目c番d号F方車庫内において,普通乗用自動車を運転して帰宅した同人に宅配便従業員を装って近づき,同人に対し,その胸倉をつかんだ上,所携の刃渡り約18.6センチメートルの小刀(平成13年押第121号の2)をその左脇腹に突き付け,「静かにしろ。」「おとなしくしていれば何もやらないから。うちの幹部がお前に会いたいんだ。」「でかい声出して女房や子供が出てきたら,ぶっ殺すかんな。」などと申し向けて脅迫し,同人を同車両後部座席に押し込んで同人に目隠し用の黒色ゴーグル様のもの(同押号の3)をかけさせ,両手に手錠(同押号の4)をかけ,同車を発進走行させて,同人を被告人らの支配下に置いた上,途中車両を乗り換えさせつつ,同人を同県新座市ef丁目g番h号G店駐車場,次いで,同市ij丁目k番l号株式会社H店駐車場,さらに,再び上記G店駐車場に順次連行し,同日午後10時ころ,同所で同人を解放するまでの間,同人を同車両内等から脱出するのを不能ならしめ,もって,同人を営利の目的で略取するとともに,同人の自由を不法に拘束して逮捕監禁した

2  同日午後7時30分過ぎころ,前記株式会社H店駐車場において,前記のとおり逮捕監禁中の上記Fに対し,「俺達は全国的組織の右翼だ。F氏の財産,会社の資産は調べ尽くしている。女房,子供が大事だったら10億円払え。」「払えないと,あなたの自宅や会社にはすでに全て爆弾が仕掛けてある。約束を破ったり,払えなければ爆破する。」「5000万円はどうやって用意するんだ。銀行からおろすしかないな。」などと申し向け,同人に爆発物様のもの(同押号の1)を示すなどし,次いで,携帯電話を渡し,「連絡する。明後日朝9時にスイッチを入れろ。」「あなたが約束を守らなければ爆破する。」などと申し向けて脅迫し,その反抗を抑圧して同人に解放後金策をして現金5000万円を交付することを約束させたが,同人が警察署に届け出たため,その目的を遂げなかった

第2平成12年10月上旬ころ,東京都練馬区mn丁目o番p号所在の駐車場において,同所に駐車中のI管理に係る軽乗用自動車からナンバープレート2枚を取り外して窃取したものである。

(法令の適用)

罰 条

第1の1の行為

営利目的略取の点   刑法60条,225条

逮捕監禁の点   刑法60条,220条

第1の2の行為   刑法60条,243条,236条1項

第2の行為   刑法235条

科刑上一罪の処理

第1の1の罪につき   刑法54条1項前段,10条(観念的競合。1罪として重い営利目的略取罪の刑で処断する。)

併合罪の処理   刑法45条前段,47条本文,10条(最も重い第1の2の罪の刑に同法14条の制限内で法定の加重をする。)

未決勾留日数の算入   刑法21条

没収   刑法19条1項2号,2項本文(主文記載の各物件につき,いずれも判示第1の各犯行の供用物件)

訴訟費用   刑事訴訟法181条1項ただし書(不負担)

(量刑の理由)

本件は,被告人が,共犯者と共謀の上,金員を強取する目的で,会社社長を略取し,逮捕監禁して同人を脅迫し,その反抗を抑圧して金員を強取しようとしたが,その目的を遂げなかった事案(判示第1の1,2の各事実)及び上記犯行に使用する車両に取り付けるために,他の車両からナンバープレートを窃取した事案(判示第2の事実)である。

はじめに,営利目的略取,逮捕監禁,強盗未遂の各犯行についてみるに,被告人は,企業内部の醜聞情報などを収集し,これを企業ブローカー等に売却して報酬を得るなどしていたところ,自己の仕事が行き詰まったなどとして一攫千金をもくろみ,仕事を通じて得た情報などをもとに会社の社長から金銭を脅し取ることを計画し,犯行に及んだもので,自己の利欲を目的とした犯行の動機に酌量すべき余地はない。

被告人は,犯行を企図するや,経済誌の情報や後に共犯者となる自己の従業員に調査をさせるなどして対象とすべき会社社長を絞り込み,本件被害者にねらいを定めた上,被害者方住居など現場の下見を行い,犯行に使用する車両を手配し,宅配業者を装うための宅配便のステッカーや作業服,帽子,手袋,段ボール箱などの外,小刀,手錠を準備し,自ら製作した目隠し用のゴーグルや外観を時限爆弾に似せた精巧な爆発物様のものを用意するなど周到な準備を遂げた上,犯行を実行すべく何回か現場に赴くなどした後,本件当日,所期の計画どおりに実行に及んでいるのであって,本件は,極めて強固な犯意に基づく計画的犯行である。被告人は,多額の報酬の支払いを約束して共犯者を犯行に誘い込み,それぞれの役割分担を決め,これに基づいて,共犯者らは,車で帰宅する被害者を自宅付近で待ち伏せ,宅配業者を装って車庫に入った被害者に近づき,その身体に小刀を突き付けて被害者や家族らの生命,身体に危害を加える旨脅迫するなどして被害者を自動車に押し込んで手錠をかけ,目隠しをするなどして直ちに自動車を発進走行させ,車両を乗り換えさせ,場所を移動した上,畏怖している被害者に対し,被告人が,被害者の家族のことまで調べ上げている旨ほのめかし,自分が全国組織の右翼であるなどと言って,本件が大がかりな組織的犯行であるかのように装って10億円の支払いを要求し,更に遠隔操作によって爆発させることができるなどと言って,精巧に作られた時限発火装置の付いた爆発物様のものを間近に示して発光ダイオードのランプが破裂するのを見せつけるなどして脅迫した上,被害者の自宅や会社に仕掛けた爆弾を爆発させるなどと申し向けて,被害者や家族のみならず,会社の従業員など多数の者の生命,身体に危害を加えるかのような脅迫を加えたものであり,犯行態様は,大胆かつ執ようで悪質である。被告人が,当初要求した金額も10億円と巨額であった上,最終的には被害者に5000万円もの多額の金員を支払う約束をさせており,本件が未遂に終わったのは,被害者が相談した弁護士の助言により,警察に届け出たためであって,反抗を抑圧された被害者は,現実に銀行から下ろした5000万円の現金を用意して被告人に指示された受渡場所に赴いており,本件が既遂に至った可能性も否定できない。被害者は,理由も分からないまま,帰宅したところを自宅の車庫内でいきなり襲われ,その後,3時間近くも略取監禁された上,自己のみならず,家族や従業員らの生命,身体等にも危害を加える旨執ように脅迫されて強度の恐怖感を味わっており,その肉体的苦痛は言うに及ばず,精神的苦痛は筆舌に尽くし難い。

被告人は,本件犯行の首謀者であり,犯行を思い立ってからは,それまでやっていた仕事をすべてやめて犯行の準備に専念し,計画の立案をし,報酬を約束するなどして共犯者らを誘って犯行に引き込み,実行犯や情報収集役などの役割分担を決定し,犯行の具体的方法を共犯者らに指示するなどして,共犯者らを手足のように使って本件犯行を実行させたばかりか,脅迫行為や金員要求行為など犯行の中核的部分を自ら遂行している。これらの点からすると,被告人の刑事責任は,他の共犯者らに比べて格段に重いといわざるを得ない。

次に,窃盗についてみるに,本件窃盗は,上記営利目的略取,逮捕監禁,強盗を計画した被告人が,犯行に使用した車両が容易に分からないようにするために,犯行に使用する車両に取り付ける目的で他の車両からナンバープレートを窃取したというものであって,被害者の地元のナンバーで,盗んだナンバープレートの数字を改ざんしやすいように1という数字の入ったナンバーのプレートをねらって住宅街のマンションやアパートの駐車場を物色した上,遂行されたもので,計画的犯行であって,悪質である。

そうすると,被告人が,事実を認め,反省の態度を示していること,強盗は未遂に終わっていること,あらかじめ判示第1の犯行に使用した小刀の刃先を丸めたり,被害者の妻子を巻き込まないようにするなど,被害者らに必要以上の危害を加えることのないように一定の配慮をした節がうかがわれること,判示第1の被害者に対して謝罪の手紙をしたためていること,法律扶助協会に20万円を贖罪寄附していること,妻が公判廷で被告人の更生に助力する旨述べていること,前科はあるが,いずれも古いものであること,その他,年老いた妻の生活状況や腰痛の持病をもつ被告人の健康状態など,被告人のためにしん酌し得る事情を十分に考慮してみても,主文掲記の科刑は免れない。

(求刑 懲役8年,小刀,手錠、ゴーグル,爆弾様のものの各没収)。

(裁判長裁判官 川上拓一 裁判官 根本渉 裁判官 蛭田円香)

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