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さいたま地方裁判所 平成13年(行ウ)14号 判決 2003年9月17日

原告

同訴訟代理人弁護士

堀哲郎

鈴木幸子

被告

川口税務署長 鈴木信

同指定代理人

千葉俊之

石川利夫

内田健文

山畑正

若山政行

鈴木茂夫

主文

1  本件訴えのうち、平成7年分所得税の総所得金額306万4300円、税額15万8600円、平成8年分所得税の総所得金額308万5200円、税額15万6100円、平成9年分所得税の総所得金額289万3700円、税額18万3800円を超えない部分の取消しを求める部分を却下する。

2  原告のその余の請求を棄却する。

3  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第1請求

1  原告

(1)  被告が平成11年2月26日付けでなした原告に対する平成7年分ないし平成9年分の所得税の各更正処分及び過少申告加算税の各賦課決定処分をいずれも取り消す。

(2)  被告が平成11年2月26日付けでなした原告に対する平成7年1月1日から同年12月31日までの課税期間の消費税の決定処分及び無申告加算税の賦課決定処分並びに平成9年1月1日から同年12月31日までの課税期間の消費税及び地方消費税の決定処分及び無申告加算税の賦課決定処分をいずれも取り消す。

2  被告

(1)  本案前の答弁

主文第1項と同旨

(2)  本案前の答弁の申立ての理由

原告は、被告が平成11年2月26日付けでした原告の上記各年分の所得税の各更正処分(以下「本件各更正処分」という。)についてその全部の取消しを求めている。しかしながら、原告は、上記各年分の所得税の確定申告を行い、別表1の各確定申告の総所得金額欄及び納付すべき税額欄記載の納税義務は確定している。したがって、本件各更正処分のうち、上記各欄記載の金額を超えない部分の取消しを求める訴えは、訴えの利益を欠くものというべきである。

(3)  本案の答弁

主文第2項と同旨

第2事案の概要

本件は、プラスチック成形加工業を営む原告が、平成7年分ないし平成9年分の所得税について青色申告書以外の確定申告書(以下「白色申告書」という。)により確定申告をしたところ、被告が、原告の事業所得について、取引先等に対する調査をして総収入金額を把握し、比準同業者の平均所得率を乗じて事業所得金額を推計し、本件各更正処分及び過少申告加算税の各賦課決定処分(以下、これら処分を併せて「本件各所得税課税処分」という。)をしたので、税務調査における違法等と推計課税に必要性も合理性もないと主張して、本件各所得税課税処分の取消しを求め、さらに、被告が平成11年12月26日付けで平成7年1月1日から同年12月31日までの課税期間(以下「平成7年課税期間」という。)の消費税の決定処分及び無申告加算税の賦課決定処分並びに平成9年1月1日から同年12月31日までの課税期間(以下「平成9年課税期間」という。)の消費税及び地方消費税の決定処分及び無申告加算税の賦課決定処分(以下、これら処分を併せて「本件各消費税課税処分」という。)をしたのに対し、原告が事業所得に係る総収入金額を仕入相殺後の金額によるべきであると主張して、消費税の課税標準を争い、本件各消費税課税処分(なお、以下、本件各所得税課税処分と本件各消費税課税処分を併せて「本件各課税処分」という。)の取消しを求める事案である。

1  前提事実(認定根拠を示したもの以外は争いのない事実である。)

(1)  原告は、肩書住所地において「A」の屋号にてプラスチック成形加工業を営む個人事業者である。

(2)  原告に対する本件各課税処分の経緯は別表1及び2のとおりである。

(3)  原告は、平成7年分ないし平成9年分の所得税について、白色申告書により、別表1の確定申告欄記載のとおり確定申告をした。

(4)  被告は、原告の所得金額が適正に計算され、申告されているかどうかを申告の基となった帳簿書類等から確認する必要があること及び消費税の課税事業者に該当するか否かを確認する必要があることから、被告所部係官乙(以下「乙係官」という。)及び丙(以下「丙係官」という。)に対し、原告の申告内容の調査を命じた。(弁論の全趣旨)

(5)  乙係官及び丙係官は、平成10年4月3日午後2時40分ころ、調査のため、原告の事業所兼自宅(以下「原告宅」という。)に臨場し、原告に対し、それぞれ身分証明書及び質問検査章を提示し、原告の所得税の確定申告内容を確認するため訪問した旨説明した。そして、乙係官及び丙係官は、原告に対し、事業内容、従業員数、帳簿の記載状況を尋ねたところ、原告は、プラスチックの成形加工を、原告及び原告の妻であり原告の個人事業の専従者である丁(以下「丁」という。)と従業員で営んでおり、帳簿の記載は丁が行っている旨答えた。その後、原告から、これから出掛けるとの申立てがあったので、乙係官は、次回の調査日時(同月14日午後1時30分)を告げる書面を手渡し、調査への協力を要請するとともに、当日、都合の悪い場合には連絡をいただきたい旨依頼したところ、原告が了解したので、原告宅を午後2時45分ころ辞去した。(乙12)

(6)  同月10日午前9時30分ころ、丁から乙係官宛に電話があったが、乙係官が不在であったので、戊係官(以下「戊係官」という。)が応対した。丁は、次回の調査日時は連休前で都合がつかないので5月19日午後1時30分にしてもらいたい旨申し立てたので、戊係官は、「乙係官にその旨を伝え、折り返し電話をさせる。」旨回答した。すると、丁は、「消費税の調査と書いてあったが、どういうことか。」と申し立てたので、戊係官は、毎年消費税の申告をしているか確認したところ、丁は、「はい。」と答えた。そして、戊係官は、所得税と併せて、帳簿や請求書類で申告内容を確認させていただきたいので、帳簿書類等を用意しておいていただきたい旨依頼し、乙係官から連絡させる旨伝えた。4月10日午前10時40分ころ、乙係官は、原告宅へ電話をかけたところ、原告が不在であったため、丁に対し、同月14日は都合が悪く5月19日が都合がいいと聞いたが、もう少し早い時期にしてほしい旨要請した。丁は、納品の締めの関係上、同月15日を過ぎないと都合がつかない旨回答したので、乙係官は、丁と同月19日の午後1時30分ころ臨場する旨の約束をし、申告の基となった帳簿や書類を用意し調査に協力願いたい旨を原告へ伝言するよう依頼し、丁は了解した。(乙12)

(7)  同日午後1時30分ころ、乙係官とB係官(以下「B係官」という。)が、原告宅に臨場したところ、原告宅1階の居間には、中央にテーブルが置いてあり、原告は、テーブルの前に座り、丁ほか14名がテーブルの周りを取り囲むような形で座って待機していた。乙係官らは、原告に対し、それぞれ身分証明書及び質問検査章を提示し、原告宅への臨場の目的について、平成7年分ないし平成9年分の所得金額の確認を行うためであること、場合によっては、それ以前にも遡って調査を行うこともあり得ること及び消費税についても調査を行う旨説明し、帳簿書類を提示して調査に協力してもらいたい旨要請した。この要請に対し、原告は、乙係官に対し、「なんで俺のところに調査に来るのか。何か不正があったのか。」と申し立てたので、乙係官は、再度、原告に対し、申告内容の確認をするために臨場したことを説明し、帳簿書類を提示して調査に協力するよう要請した。これに対し、原告は、「協力するよ。」と答えたが、その直後に原告の周囲にいた立会人の1人が「甲さんのいうことに答えてないだろう。」と強い口調で発言した。そこで、乙係官は、原告に対し、「こちらの方々はどういった関係の方ですか。」と問い質したところ、原告は「Eの仲間だよ。俺もEの会員だから、申告の時はいつも見せあっている。」と答えた。乙係官らは、原告に対し、公務員には守秘義務が課されていて、公務上知り得た秘密を他に漏らしてはならないことになっており、調査に関係のない方がいるこのような状況の中で調査を進めると、取引先の秘密に属する話も出てくることから、秘密が守られなくなるおそれがあるので、同席している方々に退席するようにいってもらいたい旨要請したところ、立会人の1人が「守秘義務が課せられているのはあんただけだろう。」と発言した。乙係官は、原告に対し、守秘義務に違反するおそれがあるのでこのままでは調査を進めることができないことを再三説明したが、原告は、「守秘義務とかはいいから、見ていってよ。」とか「なんで俺のうちに来るの。」と発言するのみで、調査に関係のない第三者を退席させようとはしなかった。また、乙係官は、原告に対し、税理士の資格のない方が調査に立ち会うと税理士法にも触れるおそれがあるので、立会人に退席するよういってもらいたい旨再度要請したところ、原告は、立会人の代表者らしき人に「税理士の資格があるんでしょう。」と聞き、その者は「税理士の資格はないんだよ。」と答えた。その後も、乙係官らは、原告に対し、再三調査に同席している立会人の退席と帳簿書類の提示による調査への協力を要請したが、原告及び立会人は、調査理由の開示や選定理由の開示を乙係官らに迫るだけで、調査に協力する様子もなく、立会人の中には、怒鳴りながら「ふざけるな。」などと暴言を吐いたり、「代議士でも調査してよ。脱税しているから。」と発言するなど騒がしい状況が続き、話が平行線のままであった。そこで、乙係官は、原告に対し「先程からお互いの話が平行線になっていますので、再度確認しますが、申告内容の確認ということでご理解いただき、調査に関係のない第三者のいないところで、帳簿書類を提示して調査に協力していただけますか。」と告げたところ、原告は、「どうしてうちが選ばれたのか、理由をいわなければ納得できない。」と回答した。やむなく、乙係官らは、原告に対し、「このような状況では調査を進めることはできないので、せっかく休みを取っていただいたが今日はこれで失礼します。第三者のいないところで調査に協力できるようになりましたら、連絡をしてもらいたい。」旨伝え、午後2時10分ころ原告宅を辞去した。(乙12)

(8)  同日午後4時40分ころ、乙係官は、原告に対し第三者のいないところで調査に協力するよう要請するために、原告宅へ電話したところ、原告は不在であり、丁が応答した。乙係官は、先程の状況では調査を進めることができないことを伝え、「明日の午後私のところに電話をするようご主人に伝えてもらいたい。」旨要請したところ、丁は、了解した。しかし、翌日以降、原告から電話はなかった。(乙12)

(9)  5月27日午後1時10分ころ、乙係官は、原告宅へ電話したところ、原告が応答した。乙係官は、原告に対し、19日の時のように調査に関係のない第三者のいるところでは、守秘義務や税理士法の関係で調査を進めることはできないので、調査に関係のない第三者の立会いのないところで、帳簿書類を提示して調査に協力してもらいたい旨要請した。すると原告は、「協力はするが、前回の調査で収入金額をそのまま所得金額とされたので信用できないんだよ。」、「不服申立てをしても、個人業者だから何の力もないし。」、「なんでうちなんかを狙うのか。」と申し立てた。乙係官は、原告を狙っているわけではなく、原告から詳しい話を聴きながら調査を進めたい旨説明した上で、立会いのないところで調査に協力してもらえないのか問い質したところ、原告は、「俺もEの会員であるから。」、「この前みたいに、大人数でなく1人であればいいのか。」と申し立てた。乙係官は、原告に対し、人数の問題ではないことを説明し、さらに、税理士資格を持っている方の立会いであれば問題はないが、前回臨場時にEの方は税理士の資格を持っていないといっていたことを指摘し、こちらとしても、調査が進められないからといって調査を終了するわけにはいかない旨を伝え、電話での話だけでは伝わらないこともあるから、原告宛に「正しい申告と税務調査」のパンフレットを送付するので、よく読むとともに、「所得税及び消費税の調査について」の手紙も同封するので、調査に協力できるようであれば、6月2日までに連絡を頂きたい旨要請し、原告は、「分かりました。」と答えた。しかし、その後、原告から連絡はなかった。

(10)  6月3日午前11時40分ころ、乙係官は原告宅へ電話したところ、原告が応答した。乙係官は、川口税務署から送付した文書とパンフレットを読んでいるか確認したところ、原告は、読んでいる旨回答した。そこで、乙係官は、調査に関係のない第三者のいないところで、帳簿書類を提示して調査に協力してもらえないか原告の意思を確認したところ、原告は、「帳簿はあるから見ていってよ。でも、俺は税の知識もないし、Eの会員で申告も任せているから。」と申し立てた。乙係官は、再三説明していることであるが、公務員の守秘義務の関係で、調査に関係のない第三者の立会いの下では、調査を進めることができない旨説明したところ、原告は、Eの事務局員だけならよいのかと申し立てた。乙係官は、原告に対し、税理士には、税理士法で守秘義務が課されているので税理士の資格を持っている者の立会いであれば問題ないが、税理士以外の者は守秘義務が課されていないので、秘密の漏れるおそれがあるため税理士以外の調査に関係のない者が立ち会っている状況では調査を進めることはできない旨説明した。すると原告は、「何で、うちなんかに調査にくるの。うちは申告したとおりだから。」と申し立てたので、乙係官は、「だったら、なおさら帳簿書類を提示してください。申告のとおりであれば何の問題もないと思いますが、どうでしょうか、協力いただけませんか。」と問い質したところ、原告は、「いいたいことは分かるが、立場があるから。」と申し立てた。乙係官は、このままの状態では調査が進まないし、また、4月3日に原告宅へ臨場してから既に2か月も経っているので、やむを得ず税務署において独自に調査を進めていく旨原告に伝えた。そして、乙係官は、今後も電話や手紙等で連絡する旨伝え、原告も調査に関係のない第三者の立会いのないところで帳簿書類を提示して調査に協力できるようになったら連絡を頂きたい旨依頼すると、原告は了解した。なお、乙係官は、6月4日以降、原告の協力が得られなかったことから、原告の取引先等に対し、文書照会及び実地反面調査を実施するなどして、原告の売上金額を把握した。(乙12)

(11)  乙係官は、税務署独自の調査の結果、原告が消費税の課税事業者となることが想定されたので、8月3日午後1時25分ころ、原告宅へ電話したところ、原告は不在であり、丁が応答した。乙係官は、丁に対し、税務署独自の調査を行った結果、原告が消費税の課税事業者に該当すると思われるので、再度帳簿書類等を提示して調査に協力するよう原告に伝えてもらいたい旨依頼した。すると、丁は、「でも、うちは、消費税をもらってないですよ。」と申し立てたので、乙係官は、消費税の課税事業者になるか否かの判断は、2年前の課税売上金額が3000万円を超えているか否かで判断すること及びその売上金額は、材料代等の相殺金額がある場合には、相殺前の売上金額で判断しなければならないことを説明した。丁は、「そうですか。そういえば平成7年ころは、CさんのところでDの車の部品を受注していたので、収入は多かったと思います。」と申し立てた。乙係官は、消費税の課税事業者に該当した場合、帳簿書類の提示がないと仕入税額控除が認められないことを説明し、丁からも原告に対し帳簿書類を提示して調査に協力するよういってもらいたい旨依頼した。丁は、帳簿は全部用意してあり、私は全部見てもらった方がよいといっているが、主人はEの会員だからそれはできないといっている旨申し立てた。乙係官は、原告に対し再度手紙を送付するので、よく読むように伝えるとともに、奥さんからも説得してもらいたい旨依頼したところ、丁は了承した。(乙12)

(12)  同月5日午前10時ころ、乙係官が反面調査のため、原告の取引先に臨場したところ、原告が現れた。乙係官は、原告に対し、丁から消費税の話を聞いたか確認したところ、原告は、聞いていると答えた。そこで、乙係官は、原告に対し再度、消費税は売上に係る消費税額から仕入などの支払に係る消費税額を控除して計算するが、帳簿書類等の提示がない場合には、仕入などの支払に係る消費税額の控除の適用がない旨説明した。すると、原告は、5、6年前に一度売上金額が3000万円を超えたが、本件調査年分では超えていないので関係ない旨申し立てた。乙係官は、税務署独自の調査を実施したところ、課税事業者に該当する年分があるので、調査に関係のない第三者のいないところで帳簿書類を提示して、調査に協力するよう要請した。すると、原告は、「経理のことが全然分からないので、Eにまかせている。この前は、大人数であったが、俺は事務局員が1人いれば十分だった。Eは、人を大勢集めて税務署を追い返すことを目的としている。だから、余計なことをしゃべらずに、理由だけを聞いていたんですよ。」と申し立てた。そして、原告は、「帳簿は見せるよ。帳簿といっても収入と仕入が取引先ごとに書いてあるだけだけど。」と申し立てた。乙係官は、その他の経費はどうなっているか聞いたところ、原告は、「書類の保存や帳簿の記載はない。F信用金庫の新郷支店を調べれば全部分かる。」と答えた。乙係官は、原告に対し、申告額はどのように計算したのか問い質したところ、原告は、「どんぶり勘定だよ。」と答えた。乙係官は、原告が調査に協力する様子がうかがえたので、保存してある帳簿書類を確認させてもらいたい旨依頼し、次回原告宅へ臨場するための都合を聞いたところ、原告は、お盆明けがいいと答えたので、お盆明けの8月17日の週にこちらから原告宅へ電話し、調査日時を決めることを原告と約束した。なお、その際、乙係官は前回のように調査に関係のない第三者が1人でもいた場合は話をすることができない旨説明したところ、原告は、「それは何ともいえない。俺もEの会員だから。」と申し立てた。乙係官は、話をする場合は調査に関係のない第三者には席を外してもらうことを伝え、その時までに帳簿書類を用意しておくよう要請したところ、原告は了承した。(乙12)

(13)  同月18日午後1時10分ころ、乙係官は、原告宅へ電話したところ、原告は不在であり、丁が応答した。乙係官は、丁に対し、原告が不在であったので、同日の午後3時ころ再度電話する旨伝えたところ、丁が、臨場日時を聞いておくよう主人からいわれている旨申し立てたので、同月25日午前10時ころ臨場したい旨伝え、都合の悪い場合には連絡をいただきたい旨依頼した。

(14)  同日午前10時ころ、乙係官が原告宅へ臨場したところ、原告、丁及びEの事務局員ほか2名が待機していた。事務局員以外の2名の者は、すぐに退席し、事務局員も、乙係官が原告らと雑談を交わした後退席したので、乙係官は、調査を実施した。乙係官は、原告から事業概況、帳簿書類の記帳及び保存状況、減価償却資産の保有状況、従業員数、確定申告額の算定方法、取引銀行などを聴取した。原告は、乙係官の質問に対し、事業概況については、ハンガー、自転車反射板等のプラスチック製品の加工を行っており、基本的には受注先から材料(プラスチックの粉)を有償支給してもらい、決済の際に相殺している旨、帳簿書類の記帳及び保存状況については、売上・仕入帳を昭和55年から現在まで記帳してある旨申し述べた。しかし、その他の書類については不明であったので、乙係官は、原告に対し、消費税の仕入税額控除に係る帳簿書類がないと、仕入税額控除は認められないこと及び売上・仕入帳だけでは所得金額を算出できないので、推計課税をせざるを得ないことを説明したところ、原告は、過去の調査の際にも推計してもらっているので、今回も推計してほしい旨申し立てた。また、原告は、減価償却資産の保有状況については、機械が3台あるが、ここ10年は購入していないこと、従業員については、午前9時から午後4時30分の時間帯に1人、午後4時30分から午後8時までの時間帯に1人で2人併せて月に約20万円の給与を支給しており、外注費はないこと、申告額については、予定納税が発生するくらいの税額(15万円)になるように申告納税額を決めて、そこから逆算して所得を算出していること、取引銀行については、F信用金庫新郷支店及びG信用金庫榛松支店であることを申し立てた。乙係官は、上記のとおり、原告の帳簿書類の保存が売上・仕入金額を記載したノートだけであったことから、推計課税をせざるを得ないと判断し、税務署において検討する旨説明し、売上・仕入金額を記載したノートを預り証を発行して預かり、午前11時35分ころ原告宅を辞去した。(乙12)

(15)  10月19日午前9時55分ころ、乙係官が原告宅へ臨場したところ、原告、丁及びEの事務局員ほか2名が待機していた。乙係官が原告と雑談を交わした後、Eの事務局員らは退席したので、乙係官は、調査を実施した。乙係官は、原告の所得金額を推計により算出した結果を原告に開示したところ、原告は、「確かに確定申告の時には、納税額から逆算しているので、あの所得金額では少ないと思うが、そんなに税金は払えない。まだ所得税だけなら分かるが、消費税がかかるのは納得できない。」と申し立てた。乙係官は、原告に対し、売上金額は、相殺前の金額を計上することになるので、原告の場合平成7年分と平成9年分が消費税の課税事業者になること及び帳簿書類の提示がない場合、仕入や経費の支払に係る消費税の控除ができないことを説明すると、原告は、「納得できない。相殺後の金額に対して領収証を発行しているのだから、それが収入金額だ。3000万円は超えていない。」と申し立てた。乙係官は、原告に対し、平成7年分及び平成9年分について、前回臨場時に提示があったノートのほかに仕入や経費関係の帳簿書類はないのか問い質したところ、丁が「請求書なら残っていると思う。」と申し立てたので、残っていれば見せてほしい旨要請した。すると、平成9年4月から同年12月までの有限会社C、株式会社H、I株式会社の請求書の提示があったので、乙係官が確認を行ったところ、原告は、これで全部でほかにないが、機械の月賦の支払も終わったから退職金の代りに毎月積み立てているものがあるので、これを経費として認めてもらいたい旨申し立てた。これに対し、乙係官は、定期積立金は必要経費にならない旨回答した。また、丁は、「理屈は分かるがもう少し何とかならないのか。上司に相談してほしい。」と申し立てた。乙係官は、原告に対し、今日の話は上司に報告するが、消費税については、上司に相談してもどうなるものでもないので、この場で結論を出さなくてもよいから、よく考えてほしい旨依頼したところ、原告は「分かったが、消費税は納得いかない。」と答えた。そこで、乙係官は、とりあえずこちらから再度連絡をするので、よく考えてほしい旨伝えて、午後1時10分ころ原告宅を辞去した。(乙12)

(16)  同月27日午後1時ころ、乙係官は、原告宅へ臨場し、原告及び丁と面接した。乙係官は、所得税及び消費税の調査額について、前回臨場時と同様の説明を行ったところ、原告は、「所得税については、納得できるが、消費税については納得できない。法律がそうなっていたとしても、こちらは帳簿も提示して調査に協力しているのだから何とかならないのか。」と申し立てた。乙係官は、消費税については、帳簿書類の保存がない場合は、仕入税額控除ができない旨再度説明し、一般経費に係る領収証等の保存がないのか再度問い質したところ、原告からは、昭和61年から平成元年分の領収証の提示があったものの、それ以外の書類の提示は得られなかった。そして、原告から、所得税の修正申告は行うので、消費税については何とかしてほしい旨の申立てがあったので、乙係官は、所得税を修正申告したからといって消費税がなくなるわけではない旨及び所得税と消費税の両方とも直してもらうことになる旨説明した。しかし、原告は、納得できないとの申立てをするのみであった。以上のような会話を繰り返していると、Eの事務局員が入室してきたので、乙係官は、原告に対し、具体的な話はできなくなったので今日の調査を終了する旨伝え、再度よく考えてもらいたい旨依頼したところ、原告は、「考えても変わるものではない、もう法律なんか関係ない。」と申し立てた。乙係官は、「また、来週中に電話する。」旨伝えて、午後4時20分ころ原告宅を辞去した。(乙12)

(17)  11月4日午前9時45分ころ、乙係官は、原告宅へ電話し、原告に対し、再度調査額について説明し、修正申告等の慫慂に努めたが、消費税について原告の理解を得ることができなかったため、調査額により更正処分及び決定処分を行う旨伝えた。(乙12)

(18)  平成11年1月22日午後1時53分ころ、乙係官は原告宅へ電話したところ、原告が応答した。乙係官は、11月に電話で話をして以降、正確な数字を把握するために調査を行った結果、前回話した時の数字と異なるところがあったことを原告に伝えた。そして、乙係官は、再度、原告に対し修正申告等の慫慂を行ったところ、原告は、「納得いかないものに印鑑は押せないよ。」と申し立て修正に応じる態度がみられなかったので、後日更正通知書及び決定通知書を送付する旨伝え、原告は了解した。(乙12)

(19)  同年2月26日、被告は、原告に対し本件各課税処分の通知書を送付した。

(20)  なお、本件各更正処分において、原告の事業所得の金額を算出するに当たり採用した推計の方法は、原告の取引先等を調査することなどにより被告が把握し得た原告の平成7年分ないし平成9年分についての事業所得に係る総収入金額に比準同業者(原告と同種のプラスチック加工業を営み、かつ、事業規模が類似する青色申告者)の平均所得率[総収入金額に占める青色申告特典控除前の所得金額(収入金額から売上原価の額及び経費の額を控除して算定した所得金額をいう。)の割合の平均値]を乗じて、本件調査年分の事業所得の金額を算出するというものであり、比準同業者の抽出方法は次のとおりである。

関東信越国税局長が被告に対し、被告税務署管内において原告と同様に所得税の納税地を有する個人事業者のうち、調査対象年分ごとに次の<1>ないし<6>の要件のすべてに該当する者の報告を求めたところ、別表3ないし5のとおりの報告があった。<1>それぞれの年分の暦年を通じて、プラスチック加工業を継続して営んでいた者であること <2> 上記<1>の者のうち、仕入が計上されている者であること <3> それぞれの年分において、プラスチック加工業以外の事業を兼業していなかった者であること <4> 所得税の申告において青色申告の承認を受けており、青色申告決算書を提出していた者であること <5> 年間の総収入金額が、次の範囲内にある者であること(平成7年分 1768万4469円以上7073万7876円以下、平成8年分 1635万6183円以上6542万4732円以下、平成9年分 1726万8022円以上6907万2090円以下) <6> 次の(a)及び(b)のいずれにも該当しない者であること (a) 災害等により経営状態が異常であると認められる者 (b) 税務署長から更正又は決定処分がされている者のうち、次のいずれかに該当する者(当該処分について国税通則法又は行政事件訴訟法の規定による不服申立期間又は出訴期間の経過していないもの、当該処分に対して不服申立てがされ又は訴えが提起されて現在審理中であるもの)(乙1、2)

(21)  原告は、本件各課税処分を不服として、平成11年4月19日付けで被告に対し、異議の申立てをしたところ、被告は、同年7月1日付けで別表1、2のとおり、一部棄却、一部取消決定をした。

(22)  原告は、国税不服審判所長に対し、平成11年7月28日付けで審査請求したところ、同所長は平成12年12月14日付けで棄却裁決をし、裁決書は同月25日に原告に送達された。

2  被告が主張する本件各更正処分の根拠は、以下のとおりである。

(1)  平成7年分 総所得金額 998万0579円

納付すべき税額 137万6400円

<省略>

<省略>

前記算出過程を詳述すると、以下のとおりである。

<1> 総収入金額 3536万8938円

上記<1>の金額は、被告が把握した原告の営むプラスチック加工業に係る平成7年分の収入金額の合計額であり、その内訳は、次表のとおりである。

<省略>

<2> 事業専従者控除額前の所得金額 1084万0579円

上記<2>の金額は、前記<1>の金額に、比準同業者の平均所得率である30.65パーセント(別表3の所得率欄参照)を乗じて算出した金額である。

<3> 事業専従者控除額 86万円

上記<3>の金額は、丁に係る所得税法57条3項に規定する事業専従者控除額である。

<4> 事業所得の金額 998万0579円

上記<4>の金額は、前記<2>の金額1084万0579円から前記<3>の金額86万円を差し引いた金額である。

<5> 総所得金額 998万0579円

原告の平成7年分の所得は、事業所得のみであるため、総所得金額は、前記<4>の金額と同額である。

<6> 所得控除の合計額 119万8300円

上記<6>の金額は、所得控除の額(所得税法72条ないし84条、(79条及び84条については、平成10年法律24号による改正前のもの)及び86条)の合計額であり、原告の確定申告額と同額である。

<7> 差引所得税額 142万6400円

上記<7>の金額は、所得税法89条2項の規定に基づき、前記<5>の金額998万0579円から前記<6>の金額119万8300円を控除した課税総所得金額878万2000円(国税通則法(以下「通則法」という。)118条1項の規定により、1000円未満の端数を切り捨てた後のもの)に、所得税法89条1項の規定による税率を乗じて算出した金額である。

<8> 特別減税額 5万円

上記<8>の金額は、平成7年分所得税の特別減税のための臨時措置法4条に基づく金額である。

<9> 納付すべき税額 137万6400円

上記<9>の金額は、原告の納付すべき税額であり、前記<7>の金額142万6400円から前記<8>の金額5万円を差し引いた金額である。

(2)  平成8年分 総所得金額 1073万6533円

納付すべき税額 156万6400円

<省略>

前記算出過程を詳述すると、以下のとおりである。

<1> 総収入金額 3271万2366円

上記<1>の金額は、被告が把握した原告の営むプラスチック加工業に係る平成8年分の収入金額の合計額であり、その内訳は、次表のとおりである。

<省略>

<2> 事業専従者控除額控除前の所得金額 1159万6533円

上記<2>の金額は、前記<1>の金額に、比準同業者の平均所得率である35.45パーセント(別表4の所得率欄参照)を乗じて算出した金額である。

<3> 事業専従者控除額 86万円

上記<3>の金額は、丁に係る所得税法57条3項に規定する事業専従者控除額である。

<4> 事業所得の金額 1073万6533円

上記<4>の金額は、前記<2>の金額1159万6533円から前記<3>の金額86万円を差し引いた金額である。

<5> 総所得金額 1073万6533円

原告の平成8年分の所得は、事業所得のみであるため、総所得金額は、前記<4>の金額と同額である。

<6> 所得控除の合計額 124万8200円

上記<6>の金額は、所得控除の額(所得税法72条ないし84条、(79条及び84条については、平成10年法律24号による改正前のもの)及び86条)の合計額であり、原告の確定申告額と同額である。

<7> 差引所得税額 161万6400円

上記<7>の金額は、所得税法89条2項の規定に基づき、前記<5>の金額1073万6533円から前記<6>の金額124万8200円を控除した課税総所得金額948万8000円(通則法118条1項の規定により、1000円未満の端数を切り捨てた後のもの)に、所得税法89条1項の規定による税率を乗じて算出した金額である。

<8> 特別減税額 5万円

上記<8>の金額は、平成8年分所得税の特別減税のための臨時措置法4条に基づく金額である。

<9> 納付すべき税額 156万6400円

上記<9>の金額は、原告の納付すべき税額であり、前記<7>金額161万6400円から前記<8>の金額5万円を差し引いた金額である。

(3)  平成9年分 総所得金額 970万4576円

納付すべき税額 139万9600円

<省略>

<省略>

前記算出過程を詳述すると、以下のとおりである。

<1> 総収入金額 3453万6045円

上記<1>の金額は、被告が把握した原告の営むプラスチック加工業に係る平成9年分の収入金額の合計額であり、その内訳は、次表のとおりである。

<省略>

<2> 事業専従者控除額控除前の所得金額 1056万4576円

上記<2>の金額は、前記<1>の金額3453万6045円に、比準同業者の平均所得率である30.59パーセント(別表5の所得率欄参照)を乗じて算出した金額である。

<3> 事業専従者控除額 86万円

上記<3>の金額は、丁に係る所得税法57条3項に規定する事業専従者控除額である。

<4> 事業所得の金額 970万4576円

上記<4>の金額は、前記<2>の金額1056万4576円から前記<3>の金額86万円を差し引いた金額である。

<5> 総所得金額 970万4576円

原告の平成9年分の所得は、事業所得のみであるため、総所得金額は、前記<4>の金額と同額である。

<6> 所得控除の合計額 105万5700円

上記<6>の金額は、所得控除の額(所得税法72条ないし84条、(79条及び84条については、平成10年法律24号による改正前のもの)及び86条)の合計額であり、原告の確定申告額と同額である。

<7> 差引所得税額 139万9600円

上記<7>の金額は、所得税法89条2項の規定に基づき、前記<5>の金額970万4576円から前記<6>の金額105万5700円を控除した課税総所得金額864万8000円(通則法118条1項の規定により、1000円未満の端数を切り捨てた後のもの)に、所得税法89条1項の規定による税率を乗じて算出した金額である。

<8> 納付すべき税額 139万9600円

上記<8>の金額は、原告の納付すべき税額であり、前記<7>の金額と同額である。

(4)  原告の本件調査年分における総所得金額及び納付すべき税額は、前記のとおり、

【年分】 【総所得金額】 【納付すべき税額】

平成7年分 998万0579円 137万6400円

平成8年分 1073万6533円 156万6400円

平成9年分 970万4576円 139万9600円

であるところ、本件各更正処分における本件調査年分の総所得金額及び納付すべき税額は、

【年分】 【総所得金額】 【納付すべき税額】

平成7年分 828万6280円 103万7400円

平成8年分 949万0192円 126万8200円

平成9年分 893万7881円 124万6400円

である。

(5)  したがって、本件調査年分における総所得金額及び納付すべき税額は、本件各更正処分における本件調査年分の総所得金額及び納付すべき税額をいずれも上回るものであるから、本件各更正処分はいずれも適法である。

3  被告が主張する各過少申告加算税賦課決定の根拠は、以下のとおりである。

(1)  平成7年分 10万5500円

上記(1)の金額は、通則法65条1項の規定に基づき、平成7年分の納付すべき税額103万7400円から原告の確定申告における納付すべき税額15万8600円を差し引いた金額87万円(通則法118条3項の規定により、1万円未満の端数を切り捨てた後のもの)に、100分の10の割合を乗じて計算した金額8万7000円と、同条2項の規定に基づき、原告の新たに納付すべき税額87万8800円のうち50万円を超える部分に相当する金額である37万円(通則法118条3項の規定により、1万円未満の端数を切り捨てた後のもの)に100分の5の割合を乗じて計算した金額1万8500円との合計額である。

(2)  平成8年分 14万1500円

上記(2)の金額は、通則法65条1項の規定に基づき、平成8年分の納付すべき税額126万8200円から原告の確定申告における納付すべき税額15万6100円を差し引いた金額111万円(通則法118条3項の規定により、1万円未満の端数を切り捨てた後のもの)に、100分の10の割合を乗じて計算した金額11万1000円と、同条2項の規定に基づき、原告の新たに納付すべき税額111万2100円のうち50万円を超える部分に相当する金額である61万円(通則法118条3項の規定により、1万円未満の端数を切り捨てた後のもの)に100分の5の割合を乗じて計算した金額3万0500円との合計額である。

なお、上記(2)の金額は、平成11年2月26日付け平成8年分所得税の更正処分に係る過少申告加算税の額14万6000円から平成11年7月1日付けの異議決定により減少した過少申告加算税4500円を減算した金額と同額である。

(3)  平成9年分 13万4000円

上記(3)の金額は、通則法65条1項の規定に基づき、平成9年分の納付すべき税額124万6400円から原告の確定申告における納付すべき税額18万3800円を差し引いた金額106万円(通則法118条3項の規定により、1万円未満の端数を切り捨てた後のもの)に、100分の10の割合を乗じて計算した金額10万6000円と、同条2項の規定に基づき、原告の新たに納付すべき税額106万2600円のうち50万円を超える部分に相当する金額である56万円(通則法118条3項の規定により、1万円未満の端数を切り捨てた後のもの)に100分の5の割合を乗じて計算した金額2万8000円との合計額である。

4  被告が主張する本件各消費税課税処分の根拠は、以下のとおりである。

(1)  消費税及び地方消費税の決定処分の根拠について

ア 平成7年課税期間分

原告は、平成7年課税期間及び平成9年課税期間(以下、両課税期間を併せて「本件各課税期間」という。)において消費税の納税義務を負う事業者であるところ、被告が本訴において主張する原告の平成7年課税期間に係る消費税等の納付すべき税額の算出経緯は、次表のとおりである。

<省略>

前記算出過程の詳細は、以下のとおりである。

<1> 総収入金額 3536万8938円

上記<1>の金額は、平成7年課税期間に係る原告の総収入金額である。

<2> 課税資産の譲渡等の対価の額 3433万8774円

上記<2>の金額は、平成7年課税期間に係る原告の課税資産の譲渡等の対価の額であり、原告の総収入金額3536万8938円に、103分の100を乗じた金額(税抜き額、収入金額に含まれる消費税の3%相当額を除外したもの。)である。

<3> 課税標準額 3433万8000円

上記<3>の金額は、前記<2>の金額3433万8774円を通則法118条1項により、千円未満の端数を切り捨てた後の金額である。

<4> 課税標準額に対する消費税額 103万0140円

上記<4>の課税標準額に対する消費税額(以下「消費税額」という。)は前記<3>の金額に消費税率100分の3を乗じた金額である(平成6年法律第109号による改正前の消費税法(以下「旧消費税法」という。)29条)。

<5> 控除対象仕入税額 36万7826円

上記<5>の金額は、原告の帳簿等に基づき算定した平成7年課税期間における課税仕入れに係る支払対価の額1262万8711円(別表7参照)に103分の3を乗じた金額である(旧消費税法30条1項)。

<6> 限界控除前の税額 66万2314円

上記<6>の金額は、前記<4>の金額103万0140円から、前記<5>の金額36万7826円を差し引いた金額である。

<7> 限界控除税額 51万8632円

上記<7>の金額は、旧消費税法40条1項の規定に基づき算出した金額である(別表6参照)。

<8> 納付すべき税額 14万3600円

上記<8>の金額は、前記<6>の金額66万2314円から、前記<7>の金額51万8632円を差し引いた金額である(ただし、通則法119条1項の規定により、100円未満の端数を切り捨てた後のもの。)。

イ 平成9年課税期間分

被告が本訴において主張する原告の平成9年課税期間に係る消費税等の納付すべき税額の算出経緯は、次表のとおりである。

<省略>

前記算出過程の詳細は、以下のとおりである。

<1> 総収入金額 3453万6045円

上記<1>の金額は、平成9年課税期間における原告の総収入金額で、後記(a)の金額と(b)の金額の合計金額である(別表8参照)。

(a) 平成9年1月1日から同年3月31日までの期間に係る収入金額 647万2201円

上記(a)の金額は、旧消費税法が適用される平成9年1月1日から同年3月31日までの期間(以下「改正前課税期間」という。)における原告の収入金額(別表8参照)である。

(b) 平成9年4月1日から同年12月31日までの期間に係る収入金額 2806万3844円

上記(b)の金額は、平成6年法律第109号による改正後の消費税法(以下「消費税法」という。)が適用される平成9年4月1日から同年12月31日までの期間(以下「改正後課税期間」という。)における原告の収入金額(別表8参照)である。

<2> 課税資産の譲渡等の対価の額 3301万1160円

上記<2>の金額は、後記(a)の金額と(b)の金額の合計金額である。

(a) 改正前課税期間に係る課税資産の譲渡等の対価の額 628万3690円

上記(a)の金額は、改正前課税期間における原告の収入金額647万2201円に、103分の100を乗じた金額である(旧消費税法28条1項)。

(b) 改正後課税期間に係る課税資産の譲渡等の対価の額 2672万7470円

上記(b)の金額は、改正後課税期間における原告の収入金額2806万3844円に、105分の100を乗じた金額である(消費税法28条1項)。

<3> 課税標準額 3301万0000円

上記<3>の金額は、後記(a)の金額と(b)の金額の合計金額である。

(a) 改正前課税期間に係る課税標準額 628万3000円

上記(a)の金額は、前記<2>(a)の金額628万3690円を通則法118条1項の規定により、1000円未満の端数を切り捨てた金額である。

(b) 改正後課税期間に係る課税標準額 2672万7000円

上記(b)の金額は、前記<2>(b)の金額2672万7470円を通則法118条1項の規定により、1000円未満の端数を切り捨てた金額である

<4> 課税標準額に対する消費税額 125万7570円

上記<4>の金額は、後記(a)の金額と(b)の金額の合計金額である。

(a) 改正前課税期間に係る課税標準額に対する消費税額 18万8490円

上記(a)の金額は、前記<3>(a)の金額628万3000円に消費税率100分の3を乗じた金額である(旧消費税法29条)。

(b) 改正後課税期間に係る課税標準額に対する消費税額 106万9080円

上記(b)の金額は、前記<3>(b)の金額2672万7000円に消費税率100分の4を乗じた金額である(消費税法29条)。

<5> 控除対象仕入税額 27万3377円

上記<5>の金額は、後記(a)の金額と(b)の金額の合計金額である。

(a) 改正前課税期間に係る控除対象仕入税額 5万2572円

上記(a)の金額は、原告の帳簿等に基づき算定した改正前課税期間における課税仕入れに係る支払対価の額180万4997円(別表7参照)に103分の3を乗じた金額である(旧消費税法30条1項)。

(b) 改正後課税期間に係る控除対象仕入税額 22万0805円

上記(b)の金額は、原告の帳簿並びに原告が保存していた請求書等に基づき算定した改正後課税期間における課税仕入れに係る支払対価の額579万6138円(別表7参照)に105分の4を乗じた金額である(消費税法30条1項)。

<6> 限界控除前の税額 98万4193円

上記<6>の金額は、前記<4>の金額125万7570円から、前記<5>の金額27万3377円を差し引いた金額である。

<7> 限界控除税額 8万5000円

上記<7>の金額は、消費税法附則20条(平成6年法109号所得税及び消費税法の一部を改正する法律)の規定に基づき算出した金額である(別表9参照)。

<8> 納付すべき税額 89万9100円

上記<8>の金額は、前記<6>の金額98万4193円から、前記<7>金額8万5000円を差し引いた金額である(ただし、通則法119条1項の規定により、100円未満の端数を切り捨てた後のもの)。

<9> 地方消費税の課税標準となる消費税額 78万4500円

上記<9>の金額は、前記<4>(b)の金額106万9080円から前記<5>(b)の金額22万0805円を差し引いた金額84万8275円から、地方消費税の課税標準計算に係る限界控除税額相当額6万3750円を差し引いた金額である(地方税法(平成6年法律第111号による改正後のもの。以下同じ。)72条の77第2号、同法72条の82。但し、地方税法72条の82及び同法附則9条の6第1項の規定により、100円未満の端数を切り捨てた後のもの。別表10参照。)。

<10> 納付すべき地方消費税の税額 19万6100円

上記<10>の金額は、前記<9>の金額78万4500円に地方消費税率100分の25を乗じた金額である(地方税法72条の83。但し、地方税法72条の82及び同法附則9条の6第1項の規定により、100円未満の端数を切り捨てた後のもの。)。

ウ 被告が、前記ア<8>で主張する平成7年課税期間に係る原告の消費税の額並びに前記イ<8>及び<10>で主張する平成9年課税期間に係る原告の納付すべき消費税の額及び地方消費税の額は、平成7年課税期間に係る消費税については平成7年課税期間に係る消費税の決定処分における消費税額(別表2参照)を上回り、平成9年課税期間に係る消費税及び地方消費税については平成9年課税期間に係る消費税の決定処分における消費税額及び地方消費税額(別表2参照)と同額であるから、各消費税及び地方消費税の決定処分は適法である。

(2)  消費税及び地方消費税に係る無申告加算税の賦課決定処分の根拠について

ア 平成7年課税期間分

<1> 無申告加算税の計算の基礎となる税額 13万円

上記<1>の金額は、平成7年課税期間に係る消費税の決定処分により原告が納付すべき消費税額である(通則法66条1項。但し、通則法118条3項の規定により、1万円未満の端数を切り捨てた後のもの)。

<2> 無申告加算税の額 1万9500円

上記<2>の金額は、前記<1>の金額に100分の15を乗じて算出した金額である(通則法66条1項)。

イ 平成9年課税期間分

<1> 無申告加算税の計算の基礎となる税額 109万円

上記<1>の金額は、平成9年課税期間に係る消費税の決定処分により原告が納付すべき消費税の税額89万9100円と地方消費税額19万6100円の合計金額である(通則法66条1項及び地方税法附則9条の9第1項。但し、通則法118条3項及び地方税法9条の9第3項の規定により、1万円未満の端数を切り捨てた後のもの)。

<2> 無申告加算税の額 16万3500円

上記<2>の金額は、前記<1>の金額に100分の15を乗じて算出した金額である(通則法66条1項及び地方税法附則9条の9第1項)。

ウ 被告が主張するア<2>、イ<2>の無申告加算税の額は、被告が平成11年2月26日付けで行った各消費税及び地方消費税決定処分による無申告加算税の額(別表2参照)と同額であるから、各消費税及び地方消費税に係る無申告加算税の賦課決定処分は適法である。

(3)  原告の消費税等の納税義務について

ア 消費税の納税義務

消費税法5条1項は、事業者は、国内において行った課税資産の譲渡等につき、この法律により、消費税を納める義務がある旨規定し、消費税法9条1項は、事業者のうち、その課税期間に係る基準期間における課税売上高が3000万円以下である者については、消費税法5条1項の規定にかかわらず、その課税期間中に国内において行った課税資産の譲渡等につき、消費税を納める義務を免除する旨規定している。したがって、基準期間の課税売上高が3000万円を超える事業者が、その課税期間中に国内において行った課税資産の譲渡等につき、消費税の納税義務を負うこととなる。そして、課税期間に係る基準期間とは、個人事業者についてはその年の前々年と(消費税法2条1項14号)、基準期間における課税売上高とは、国内において行った課税資産の譲渡等の対価の額(消費税等の額を除く。)の合計額から、その取引に係る売上返品、売上値引き及び売上割戻し等に係る金額(消費税等の額を除く。)の合計額を控除した残額(消費税法9条2項)とされている。また、基準期間である課税期間において免税事業者であった事業者が、当該基準期間である課税期間中に国内において行った課税資産の譲渡等については消費税等が課されていないことから、その事業者の基準期間における課税売上高の算定に当たっては、免税事業者であった基準期間である課税期間中に当該事業者が国内において行った課税資産の譲渡等に伴って収受し、又は収受すべき金銭等の全額が当該事業者のその基準期間における課税売上高となるとされている(消費税法基本通達1-4-5)。

イ 地方消費税の納税義務

地方税法72条の78第1項は、事業者の行った消費税法2条1項9号に規定する課税資産の譲渡等については、地方消費税を課する旨規定し、地方税法72条の82は、地方消費税については、消費税額を課税標準とする旨規定している。

ウ 原告の消費税等の納税義務

原告の平成7年課税期間に係る基準期間である平成5年1月1日から同年12月31日までの課税期間の総収入金額は、3113万5082円であり(別表11)、原告の平成9年課税期間に係る基準期間である平成7年1月1日から同年12月31日までの課税期間の課税資産の譲渡等の対価の額は3433万8774円((1)ア<2>)であるから、いずれの基準期間においても課税売上高が3000万円を超えている。したがって、原告は、本件各課税期間について消費税及び地方消費税の納税義務を負うことになる。

5  争点

(1)  税務調査における違法等

(2)  推計の必要性

(3)  推計の合理性

(4)  消費税の課税標準

6  争点についての当事者の主張

(1)  税務調査における違法等について

ア 原告の主張

(ア) 調査担当職員は、調査に当たり、原告に対して調査日時を事前に通知しなかったり、原告に対して具体的な調査理由を示さなかったから調査手続において違法がある。

(イ) 調査担当職員は、調査において、公務員の守秘義務を理由に原告が依頼した者の立会いを認めなかったから調査手続において違法がある。

(ウ) 調査担当職員は、調査において、原告の承諾を得ず、一方的に原告の取引先の調査を行ったから調査手続において違法がある。

(エ) 被告は、平成7年分、平成8年分及び平成9年分の所得金額と納付すべき税額を示しただけで、調査結果について何ら説明をせず、一方的に本件各更正処分をしたから調査手続において違法がある。

(オ) 被告は、原告に対して、本件各更正処分を行うに当たり、更正通知書に更正の理由を附記しなかったから違法がある。

イ 被告の主張

(ア) 事前通知及び調査理由の開示について

乙係官らは、原告に対し、原告宅への臨場の目的を、平成7年分ないし平成9年分の所得金額の確認を行うためであること及び場合によってはそれ以前にも遡って調査を行うこともあり得ること並びに消費税についても調査を行う旨説明しているのであるから、同係官らが具体的な調査理由を示さなかったとの原告の主張は事実に反する。仮にこの点をおくとしても、所得税の調査に当たり、事前通知及び調査理由の具体的な告知は、法律上一律の要件とされておらず、権限ある税務職員の合理的裁量にゆだねられていることは明らかであるから、調査の事前通知及び具体的な調査理由の告知をしなかったとしても、調査が違法となるものではない。

(イ) 第三者の立会いについて

乙係官らは、第三者の立会いを認めると守秘義務に違反するおそれがあること及び税理士資格のない者が調査に立ち会うと税理士法に触れるおそれがあることから、調査に関係のない第三者の立会いを認めなかったのであり、乙係官らが第三者の立会いを認めなかったことは、当然かつ合理的な選択と認められ、調査に違法はない。

(ウ) 反面調査について

納税者の取引先等に対する調査については、質問検査権行使の一環として、いかなる時期に、いかなる方法で、どの程度使うかは、質問検査の必要があり、かつ、その必要性を納税義務者の私的利益との衡量において社会通念上相当な程度にとどまる限り、調査権限ある税務職員の合理的な裁量にゆだねられており、実体法上、いわゆる補充性の要件は要求されていないところ、乙係官らは、原告に対し再三にわたり、調査に関係のない第三者のいないところで帳簿書類を提示して調査に協力するように要請をしたにもかかわらず、原告の協力が得られなかったことから、原告の取引先等に対し、文書照会及び実地反面調査を実施するなどして、原告の売上金額を把握したのであって、調査手続上、乙係官らの行為に裁量権の濫用があるとか、調査の方法や程度が、原告の利益との衡量において社会通念上相当な限度を超え違法であるとはいえない。

(エ) 調査結果の説明について

乙係官は、平成10年10月19日に原告宅へ臨場した際に、原告の所得金額を推計により算出した結果を原告に対し開示し、さらに、同月27日に再度原告宅へ臨場し、原告に対し前回臨場時と同様の説明を行っており、その際原告は、所得税については納得していたのであるから、被告が原告に対し調査結果について何ら説明をせず、一方的に本件各更正処分を行った旨の原告の主張は事実に反する。仮にこの点をおくとしても、被告が、本件各更正処分をするに当たり、事前にその理由及び根拠を開示し、修正申告を勧告すべきことを義務付ける法令上の規定はないから、乙係官が調査結果について何ら説明をしなかったことをもって調査に違法があるということはできない。

(オ) 更正の理由附記について

原告は、被告に対し平成7年分ないし平成9年分の確定申告書(白色申告書)を提出しているところ、所得税法155条2項は、青色申告に係る更正の場合には、その通知書に更正の理由を附記すべきものと規定するが、白色申告に係る更正の場合に、理由を附記することを義務づける規定はない。したがって、原告の主張は主張自体失当である。

(2)  推計の必要性について

ア 被告の主張

原告から提示された帳簿には、主な取引先への売上金額及び材料の有償支給に係る材料費の金額が記載されているのみで、その他収入を得るために要した諸経費の支払に係る記載は一切なかった。また、担当官が、原告に対し、仕入・経費に係る請求書及び領収証等の提示を求めたところ、原告からは平成9年分の仕入の一部に係る請求書等の提示があったのみで、その他の諸経費の支払に係る原始記録については、保存がない旨の回答に終始し、提示が得られなかった。したがって、被告は、原告が提示した上記帳簿書類だけでは、原告の事業所得の金額を実額で計算することが到底不可能であったから、推計の方法により、右事業所得の金額を算定せざるを得なかったものであって、推計の必要性が存在したことは明らかである。

イ 原告の主張

原告は、請求書領収書等の原始書類を提示したにもかかわらず、被告はこれらを必要がないとして持ち帰らなかった。これらの原始書類を持ち帰っていれば、被告において、事業所得の金額を実額計算の方法によって算定することは十分可能であったから、推計の必要性はなかった。

(3)  推計の合理性について

ア 被告の主張

(ア) 本訴において被告の主張する原告の売上金額は、原告の取引先に対する文書照会の回答書及び原告から提示された売上金額や仕入金額を記載した売上・仕入ノート並びに金融機関等の調査により把握したものであって、正確である。

(イ) 被告は関東信越国税局長が発遣した通達に従い比準同業者を抽出しているところ、上記通達の抽出基準は、業種及び業態の同一性、事業所の近接性、事業規模等の基礎的要件に欠けるところはなく、合理性がある。本件推計課税の実施に当たって、被告は、この抽出基準に基づき、比準同業者を機械的に抽出しているから、抽出過程に恣意が介在する余地はない。また、比準同業者間に通常存在する程度の営業条件の差異は、平均値を求める過程で捨象されるのであるから、原告が主張するような推計の合理性を失わしめるような事由とはなり得ない。

イ 原告の主張

(ア) 被告は、原告の取引先等に対し、文書照会及び実地反面調査を実施するなどして、原告の本件調査年分の事業所得の総収入金額を算定したとしているが、具体的にどのような調査がされたのか、あるいは、どのような資料に基づいて算定されたのか全く不明であり、その正確性には大いに疑問がある。

(イ) 被告が主張する同業者の抽出方法によれば単に総収入金額のみを基準としており、店舗の大きさ等を考慮しておらず、また、数値の偏差の有無、納税者の特殊事情等の要素を考慮しておらず、その抽出過程にも恣意が介在する余地があり、さらに、算定の基礎とした同業者の住所、氏名等が不明であるから、推計の合理性は認められない。

(4)  消費税の課税標準について

ア 被告の主張

原告の取引の実態をみても、原告と取引先との間の法律関係は売買であり、原告が売上金額として計上すべき金額は、仕入金額と相殺する前の売上金額である。特に、原告が売上金額と仕入金額を相殺している取引先3社のうち、株式会社H及びI株式会社は原告に対して原材料を販売し、同社の経理上も売上金額として計上しているし、原告も原材料の受入金額を売上・仕入ノートに記載しているから、同社から原材料の無償提供を受けているとはいえず、まさしく同社と原告間における原材料の売買取引であることは明らかであるし、また、有限会社Cは、原告に対して原材料の有償支給を行い、原告に対する支払を外注費としている旨回答しているが、発注元業者である同社が原告に対し有償支給した原材料について自己の資産として管理している事実はないから、外注先業者である原告にとっては、原材料の有償支給は課税仕入に該当することになり、加工等を行った製品の譲渡対価の額が資産の譲渡等の対価の額になる。したがって、原告の前記3社に対する仕入金額を相殺する前の売上金額が消費税の課税標準となる。

イ 原告の主張

原告の取引の実態は、取引先から材料の提供を受け、その所有権も移転せず、無償寄託で、これを加工して、その取引先に納品しているので、請負であり、その加工賃、すなわち取引の対価たるべき金額が売上になるべきものであるから、各年分の事業所得に係る総収入金額は、原告が取引先に交付した領収証に記載した仕入相殺後の金額によるべきである。

第3争点についての判断

1  本案前の申立てについて

本件訴えのうち、別表1の各確定申告欄記載の平成7年分所得税の総所得金額306万4300円、税額15万8600円、平成8年分所得税の総所得金額308万5200円、税額15万6100円、平成9年分所得税の総所得金額289万3700円、税額18万3800円を超えない部分の取消しを求める部分は、以下の理由で、不適法である。

納税者が、自らの申告により確定させた納税義務が過大であるとしてその誤りを是正するためには、所定の期間内に更正の請求(通則法23条)を行う必要があるところ、原告は、別表1のとおり上記各年分の所得税の確定申告を行い、その納税義務は確定しているが、更正の請求という法の定める手続を経由せずに、本訴において、その取消しを請求するものである。したがって、本件各更正処分のうち、上記各確定申告額を超えない部分については、原告自らの各確定申告によって納税義務を確定させているのであるから、上記部分の取消しを求める訴えは、訴えの利益を欠くものというべきである。

2  争点(1) 税務調査における違法等について

(1)  所得税法234条1項の規定は、所得税に関する調査において、当該調査の目的、調査事項、申告の体裁及び内容、帳簿等の記入保存状況、事業の形態等の諸般の具体的事情にかんがみ、客観的な必要があると判断される場合には、調査の一方法として、同項記載の質問又は検査を行う権限を認めたものであって、過少申告の疑いが存する場合のみならず、そのような疑いが当初から明らかでない場合でも、申告の真実性、正確性を確認する必要がある場合には右必要が認められると解すべきである。そして、同条項に基づく調査において、質問検査の範囲、程度、時期、場所、調査理由の開示の要否、開示の程度、第三者の立会いの可否等の実施の細目については、法律上特段の定めがないが、質問検査の必要があり、かつ、これと納税義務者の私的利益との衡量において社会通念上相当な程度にとどまる限り、権限ある税務職員の合理的な選択、裁量にゆだねられているものと解すべきである(最高裁判所昭和48年7月10日第三小法廷決定・刑集27巻7号1205頁参照)。

(2)  本件では、原告が、調査日時の事前通知の有無、調査理由の開示の程度、第三者の立会いの可否、取引先に対する調査についての被調査者の承諾の要否、調査結果の説明及び更正の理由附記の要否を問題とするので、検討する。

(3)  まず、原告は、調査担当職員は、調査に当たり、原告に対して調査日時を事前に通知しなかったり、原告に対して具体的な調査理由を示さなかったから調査手続において違法があると主張する。

そこで判断するに、上記のとおり、税務職員の質問検査の時期、調査理由の開示の要否、開示の程度等実施の細目は、当該質問検査を行う必要性と納税義務者がこれにより受ける不利益との衡量において社会通念上相当な程度にとどまる限り、税務職員の合理的な裁量にゆだねられていると解すべきであるが、実施の日時を事前に納税義務者に通知するかどうかもまた、同様に、税務職員の合理的な裁量にゆだねられているというべきである。これを本件についてみるに、調査の経緯、とりわけ、原告に申告の真実性、正確性を確認する必要等の質問検査の必要があったため、乙係官らは、平成10年4月3日午後2時40分ころ、事前に通知することなく原告宅に赴き、原告に面接して、原告の所得税の確定申告内容を確認するため訪問した旨調査理由を告げたところ、原告は、帳簿の記載は丁が行い、自らは外出すると申し立てたので5分位で辞去したこと、したがって当日は何らの具体的な質問検査が実施されなかつたことなどの事情に照らすと、原告に対して告げた調査理由は、社会通念上相当な程度にとどまり、税務職員の合理的な裁量の範囲内であると認められ、調査日時を事前に原告に通知していなかったとしても、また、上記以上の具体的な調査理由を示さなかったとしても、なお合理的な裁量の範囲を逸脱しているものではないというべきである。

(4)  次に、原告は、調査担当職員は、調査において、公務員の守秘義務を理由に原告が依頼した者の立会いを認めなかったから調査手続において違法があると主張する。

そこで判断するに、第三者の立会いに関しては、税理士法34条以外に実体法の定めがないことや税務調査の内容が被調査者のみならず、取引の相手方の営業上の秘密に及ぶこともあることから、税理士以外の第三者の立会いを認めるか否かは、権限ある調査担当者の合理的選択にゆだねられているというべきである。これを本件についてみるに、乙係官らは、第三者の立会いを認めると守秘義務に違反するおそれがあること及び税理士資格のない者が調査に立ち会うと税理士法に触れるおそれがあることから、調査に関係のない第三者の立会いを認めなかったのであり、そのことは、合理的な選択と認められる。

(5)  また、原告は、調査担当職員は、調査において、原告の承諾を得ず、一方的に原告の取引先の調査を行ったから調査手続において違法があると主張する。

そこで判断するに、納税義務者の取引先に対する反面調査については、質問検査権行使の一環として、いかなる時期に、いかなる方法で、どの程度行うかは、質問検査の必要があり、かつ、これと納税義務者の私的利益との衡量において社会通念上相当な程度にとどまる限り、調査の権限ある税務職員の合理的な裁量にゆだねられているというべきである。これを本件についてみるに、乙係官らは、原告に対し再三にわたり、調査に関係のない第三者のいないところで帳簿書類を提示して調査に協力するように要請をしたにもかかわらず、原告の協力が得られなかったことから、原告の取引先に対し調査をしたのであって、合理的な裁量の範囲を逸脱しているものではないというべきである。

(6)  さらに、原告は、被告は、平成7年分、平成8年分及び平成9年分の所得金額と納付すべき税額を示しただけで、調査結果について何ら説明をせず、一方的に本件各更正処分をしたから調査手続において違法があると主張する。

そこで判断するに、原告の主張は必ずしも明確ではないが、その趣旨が、被告に更正前に更正の理由を開示する義務があるという趣旨であるとすれば、更正前に更正の理由を開示するというようなことは背理であって、被告にこのような義務があるとは到底考えられず、原告の主張は主張自体失当である。あるいは、原告の主張は、被告が調査終了後、更正前に、当該調査の結果を原告に説明しなかったことが違法であるという趣旨であるとすれば、税務調査終了後、乙係官が原告に対し、所得金額を推計により算出した結果を説明し、修正申告を慫慂したが、原告も所得税については納得したものの修正申告をしなかったものであるから、原告の主張は理由がないというべきである。

(7)  さらにまた、原告は、本件各更正処分の更正通知書に理由が附記されなかったことに違法があると主張する。しかしながら、原告は、いわゆる白色申告書をもって、確定申告書を提出した者であるから、その更正には、当該処分の根拠となった理由を記載しなければならないとする法律上の規定はなく、その必要がないといわざるを得ない。そうすると、更正通知書に処分理由の附記がないとしても適法であって、原告の主張は主張自体失当である。

3  争点(2) 推計の必要性について

所得税法156条は、納税者の財産若しくは債務の増減の状況、収入若しくは支出の状況又は生産量、販売量その他の取扱量、従業員数その他事業の規模により納税者の各年分の各種所得の金額又は損失の金額を推計して、所得税につき更正又は決定をすることができる旨を規定し、推計課税を認めている。この推計課税の本質は、処分時に客観的に存在した納税者の所得金額(真実の所得額)を把握するための方法が、伝票類や帳簿書類以外の間接的な資料によるもので、その間接的な資料と経験則を用いて事実上の推定により真実の所得額を認定するものである。そして、同条は、課税庁が質問検査権を行使し帳簿書類等の直接資料を調査し、その調査により更正・決定するのが本則であるが、十分な直接資料が得られないときにはじめて推計課税が許される旨を定めた規定であるから、推計の必要性は推計課税の効力要件である。そして、推計の必要性が認められるのは、納税者が帳簿書類等を備え付けていない場合、納税者が帳簿書類等を備え付けてはいるが、その内容が不正確で信頼性に乏しい場合、納税者又はその取引関係者が調査に協力しない場合等である。

これを本件についてみるに、前提事実、証拠(乙11、12)及び弁論の全趣旨によれば、原告は、再三にわたる被告からの調査への協力依頼に対しても非協力的であったが、平成10年8月25日の調査の際に、売上・仕入ノートを、同年10月19日の調査の際に、ようやく有限会社C、株式会社H、I株式会社からの材料費に係る請求書を提示したのみで、その他収入及び支出に係る日々の取引実額を継続的に記録した帳簿書類はもとより、原告が提示した売上・仕入ノートの正確性を担保する請求書・領収書等の書類すら提示しなかったこと、しかも、原告が提示した売上・仕入ノートには、主な取引先への売上金額及び材料の有償支給に係る材料費の金額が記録されているのみで、収入を得るために要した経費の支払に係る記載は一切なかったこと、乙係官に対して申し立てた従業員に支払っている月額約20万円の給与の支払すら記録されていなかったこと、乙係官が、原告に対し、仕入・経費に係る請求書及び領収証等の提示を求めたところ、原告からは平成9年分の仕入の一部に係る請求書等の提示があったのみで、その他の諸経費の支払に係る原始記録については、保存がない旨の回答に終始し、提示が得られなかったことが認められる。以上の認定事実によれば、本件は、納税者が帳簿書類等を備え付けていない場合、納税者が帳簿書類等を備え付けてはいるが、その内容が不正確で信頼性に乏しい場合、納税者又はその取引関係者が調査に協力しない場合に当たるというべきであるので、推計の必要性が認められる。

4  争点(3) 推計の合理性について

(1)  被告が原告の事業所得の金額を算出するに当たり採用した推計の方法は、原告の取引先等を調査することにより被告が把握した原告の事業所得に係る総収入金額に比準同業者の平均所得率を乗じて事業所得の金額を算出するというものである。

(2)  これに対し、原告は、被告の反面調査等が具体的でなく、資料も不明であるから、その正確性に疑義があると主張する。

そこで検討するに、前提事実、証拠(乙3ないし11、13)及び弁論の全趣旨によれば、被告は、原告の売上金額を原告の取引先に対する文書照会の回答書及び原告から提示された売上金額や仕入金額を記載した売上・仕入ノート並びに金融機関等の調査により把握したものであること、被告は、原告の取引先である有限会社C、株式会社J、I株式会社、株式会社K、L株式会社及び株式会社Hに対する売上金額については、回答書により把握したが、株式会社Kに対する平成7年5月の売上金額については、同社からの回答書には記載はないものの、原告の売上・仕入ノートには売上金額として記載されており、かつ、同社から受領した小切手も現金化され原告の口座に入金されていたため、同社の回答書の金額に加算して、原告の売上金額としたものであること、原告の取引先であるM及びNに対する売上金額については、原告が売上・仕入ノートに記載した売上金額であるが、これは、上記の者から原告の調査に対する協力が得られなかったため、やむを得ず売上・仕入ノートに記載の売上金額を原告の売上金額と認定したものであること、Mに対する平成9年2月の売上金額については、原告の売上・仕入ノートには、18万1465円と記載があったが、被告において調査した結果18万1445円と認められたことから、差額20円を減額したものであることが認められる。これによれば、原告の総収入金額についての被告の把握は正確であるというべきである。

(3)  また、原告は、被告が主張する同業者の抽出方法によれば単に総収入金額のみを基準としており、店舗の大きさ等を考慮しておらず、また、数値の偏差の有無、納税者の特殊事情等の要素を考慮しておらず、その抽出過程にも恣意が介在する余地があり、さらに、算定の基礎とした同業者の住所、氏名等が不明であるから、推計の合理性は認められないと主張する。

そこで検討するに、比準同業者の平均所得率の確定の前提である比準同業者の抽出方法はいわゆる倍半基準といわれるものである。このいわゆる倍半基準は、基礎となる収入金額や仕入金額の多寡が当該納税者の事業規模を推測する蓋然性の高い尺度足り得るという経験則を前提とするものであって、これにより抽出された比準同業者数の合理性及びこれにより得られた同業者率の内容の合理性に欠けるところがない以上、同業者の類似性を十分担保することができるものである。したがって、店舗の大きさ等を考慮していないとしてもその一事でもって、いわゆる倍半基準の合理性を否定すべきことにはならない。また、同業者間であっても数値に偏差が存在するのは通例であって、同業者間に通常存在する程度の数値の偏差は平均値を求めることによって捨象されるのであり、逆にその平均値が普遍性を持つためには、抽出した同業者の比率間にある程度の数値の偏差が存在することが必要といえるのである。したがって、数値の偏差の有無は平均値を求める過程に包摂され解消するから、偏差の有無自体で直ちに推計の合理性を失わしめるものでない。さらに、納税者の特殊事情等については、平均値による推計の場合には、業者間に通常存在する程度の営業条件の差異は無視し得るのであって、業種の同一性、営業規模の一応の類似性及び平均値算出過程の整合性等推計の基礎的要件に欠けるところがない以上、納税者の特殊事情等いかんは、それが当該平均値による推計自体を全く不合理ならしめる程度の顕著なものでない限り、これを斟酌することを要しないというべきである。また、その抽出過程にも恣意が介在する余地が存在しないことは明らかであるから、原告の前記主張は失当である。なお、原告は、原告の特殊事情があればその考慮等が合理性の基準となる旨主張するが、原告は原告の特殊事情等を何ら主張していないのであるから、その主張自体が失当である。また、原告は、算定の基礎とした同業者の住所、氏名等が不明であることから、推計の合理性は認められないと主張するが、それらは税務署長に守秘義務があること(国家公務員法100条、所得税法243条)からいってやむを得ないことであり、原告の主張は主張自体失当である。そうすると、推計の合理性は優に認められる。

5  争点(4) 消費税の課税標準について

(1)  別表12ないし14記載の証拠により、同記載の売上金額が認定できる。同証拠、乙12、後掲証拠及び弁論の全趣旨によれば、原告と取引先との取引は、売買であると認められ、原告が売上金額として計上すべき金額は、仕入金額と相殺する前の売上金額であり、それが、消費税の課税標準となるというべきである。

しかるに、原告は、取引の実態は、取引先から材料の提供を受け、その所有権も移転せず、無償寄託で、これを加工して、その取引先に納品しているので、請負であり、その加工賃、すなわち取引の対価たるべき金額が売上になるべきものであるから、各年分の事業所得に係る総収入金額は、原告が取引先に交付した領収証に記載した仕入相殺後の金額によるべきであると主張し、それに沿う原告の陳述書(甲56)がある。しかしながら、原告が主張し、陳述するように、その取引の実態が、取引先から材料の提供を受け、その所有権も移転せず、無償寄託で、これを加工して、その取引先に納品しているというのであるならば、原告は当該取引先から当該材料代を請求されることも、原告が当該取引先に対して材料代を相殺する前の売上金額を請求することもあり得ないはずであるのに、有限会社C作成の請求書(甲5ないし38、但し枝番号を含む。)によれば、材料代の請求を受けていること、原告の同社に対する平成7年1月分の請求書(甲43の1)をみると、原告は、原告の同社に対する同月分の納品書(甲46の1の1ないし8)の合計金額「1,000,600」円を記載し、この売上金額100万0600円に、消費税額「30,018」円(100万0600円の3パーセント)を加算し、そこから、同社から請求された同月分の材料代「456,290」円(甲5の1)を控除した金額を請求していること、また、原告のI株式会社に対する平成7年2月分の請求書(甲49の2の3)をみると、原告は、売上金額「51,200」円に、消費税額「1,536」円(5万1200円の3パーセント)を加算し、そこから、当該請求書の内訳欄に記載はないが、同社から請求された同月分の材料代「12,875」円(甲53の1)を控除した金額「39,861」円を請求していること、さらに、原告の株式会社Hに対する平成8年7月分の請求書(甲50の7の1)をみると、原告は、売上金額「572,800」円に、消費税額「17,184」円(57万2800円の3パーセント)を加算した金額を請求し、これとは別に、同社からの材料代については領収証を受領していること(甲54の1)などに照らせば、原告の陳述書(甲56)は、にわかに措信できない。したがって、原告の主張は採用できない。

6  そうすると、原告が本件各課税処分の違法事由として主張するところはいずれも理由がない。そして、被告主張に係る本件各課税処分の根拠は法に照らし理由があるから、本件各課税処分は適法である。

7  よって、本件訴えのうち、平成7年分所得税の総所得金額306万4300円、税額15万8600円、平成8年分所得税の総所得金額308万5200円、税額15万6100円、平成9年分所得税の総所得金額289万3700円、税額18万3800円を超えない部分の取消しを求める部分は、不適法であるから却下し、原告のその余の請求は理由がないから棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 豊田建夫 裁判官 都築民枝 裁判官 菱山泰男)

別表 1

本件課税処分の経緯 (平成7年分ないし平成9年分所得税)

<省略>

別表 2

本件課税処分の経緯 (平成7年及び平成9年課税期間分消費税)

<省略>

別表 3

プラスチック加工業の比準同業者(平成7年分)

<省略>

別表 4

プラスチック加工業の比準同業者(平成8年分)

<省略>

別表 5

プラスチック加工業の比準同業者(平成9年分)

<省略>

別表 6

限界控除額の計算(平成7年課税期間)

<省略>

別表 7

期間別課税仕入に係る支払い対価の額

<省略>

別表 8

平成9年課税期間の期間別収入金額

<省略>

別表 9

限界控除額の計算(平成9年課税期間)

<省略>

別表 10

地方消費税の課税標準となる消費税額の計算

<省略>

別表 11

平成7年課税期間の基準期間(平成5年分)の収入金額

<省略>

別表 12

平成7年分売上金額

<省略>

別表 13

平成8年分売上金額

<省略>

別表 14

平成9年分売上金額

<省略>

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