さいたま地方裁判所 平成13年(行ウ)42号 判決 2003年6月25日
第1事件原告
関東産業株式会社
同代表者代表取締役
A
第2事件原告
株式会社清亀
同代表者代表取締役
B
上記原告両名訴訟代理人弁護士
尾藤廣喜
同
小山三代治
同
日置雅晴
同
谷澤忠彦
第1事件被告
埼玉県熊谷県税事務所長 遠藤誠
第2事件被告
埼玉県大宮県税事務所長 中村茂唯
上記被告両名訴訟代理人弁護士
飯塚肇
上記被告両名指定代理人
飯塚寛
同
横山光重
同
原口誠治
同
大島清
同
片庭正男
同
横山裕一
同
松井裕之
第1事件被告指定代理人
亀山英和
同
山口幸雄
第2事件被告指定代理人
鈴木正男
主文
1 第1事件原告の本件訴えのうち、第1事件被告が第1事件原告に対してした平成13年5月15日付け軽油引取税更正処分及び過少申告加算金決定処分の取消しを求める部分を却下する。
2 原告らのその余の請求をいずれも棄却する。
3 訴訟費用は、原告らの負担とする。
事実及び理由
第1 当事者の求めた裁判
1 第1事件について
(1) 第1事件原告
ア 主位的請求
第1事件被告が第1事件原告に対してした別表1記載の軽油引取税更正処分及び過少申告加算金決定処分をいずれも取り消す。
イ 予備的請求
第1事件被告が第1事件原告に対してした平成13年5月15日付け軽油引取税更正処分及び過少申告加算金決定処分が無効であることを確認する。
(2) 第1事件被告
ア 本案前の答弁
主文第1項と同旨
イ 本案の答弁
第1事件原告の請求をいずれも棄却する。
2 第2事件
(1) 第2事件原告
第2事件被告が第2事件原告に対してした別表2記載の軽油引取税決定処分及び不申告加算金決定処分をいずれも取り消す。
(2) 第2事件被告
第2事件原告の請求をいずれも棄却する。
第2 事案の概要
1 事案の要旨
本件は、被告らがなした軽油引取税に関する各課税処分を不服とする原告らが、上記各処分は、原告らが販売したガイアックスという名称の自動車燃料が、地方税法700条の3第3項所定の炭化水素油(「炭化水素とその他の物との混合物」を含む。)に当たることを前提とするものであるところ、ガイアックスは上記炭化水素油に該当しないから、上記各処分は違法であるなどと主張して、その取消し等を求める事案である。
2 基本的事実関係(証拠等の摘示のない事実は、争いのない事実である。)
(1) 関係法令等
ア 法令の定め
地方税法700条の2第1項1号は、「軽油」とは、「温度15度において0.8017をこえ、0.8762に達するまでの比重を有する炭化水素油をいい、政令で定める規格の炭化水素油を含まないものとする。」と定め、同条の3第1項において、軽油引取税は、特約業者又は元売業者からの軽油の引取りで当該引取りに係る軽油の現実の納入を伴うものに対し、その数量を課税標準として、当該軽油の納入地所在の道府県において、その引取りを行う者に課する旨を定めている。
また、同条の3第3項は、軽油引取税は、上記の場合のほか、特約業者又は元売業者が炭化水素油(炭化水素とその他の物との混合物又は単一の炭化水素で、1気圧において温度15度で液状であるものを含む。以下同じ。)で軽油又は揮発油(揮発油税法2条1項に規定する揮発油(同法6条において揮発油とみなされるものを含む。)をいう。)以外のもの(同法16条又は16条の2に規定する揮発油のうち灯油に該当するものを含む。以下『燃料炭化水素油』という。)を自動車の内燃機関の燃料として販売した場合においては、その販売量を課税標準として、当該特約業者又は元売業者の事業所所在の道府県において、当該特約業者又は元売業者に課する旨を〔なお、埼玉県税条例76条3項においても同旨の定めがなされている。(〔証拠略〕)〕、同条の3第4項は、軽油引取税は、以上の場合のほか、特約業者又は元売業者以外の石油製品の販売業者(以下「石油製品販売業者」という。)が、軽油に軽油以外の炭化水素油を混和し若しくは軽油以外の炭化水素油と軽油以外の炭化水素油を混和して製造された軽油を販売した場合においては、その販売量を課税標準として、当該石油製品販売業者の事業所所在の道府県において、当該石油製品販売業者に課する旨を定めている(なお、以下においては、地方税法700条の3第3項を「本件規定」といい、同条の3第3項、第4項を併せて「本件規定等」ということとする。)。
イ 本件規定が定められるに至った経緯(概要)
(ア) 軽油引取税制度は、昭和31年の地方税法改正(同年法律第81号)により導入されたものであるが、導入当初は、「軽油引取税は、特約業者又は元売業者からの軽油の引取(特約業者の元売業者からの引取及び元売業者又は特約業者からの引取を除く。)に対し、容量を課税標準として、当該特約業者又は元売業者の営業所所在の道府県において、その引取を行う者に課税する。」(同改正後の地方税法700条の3)と定められ、軽油の引取のみが課税対象とされていた。ここでいう「軽油」とは、「摂氏15度において0.8017をこえ、0.8762に達するまでの比重を有する炭化水素油をいい、政令で定める規格の炭化水素油を含まないものとする。」とされ(同改正後の地方税法700条の2第1項1号)、ここでいう「炭化水素油」については、法令上の定義はなかったものの、「地方税法及び同法施行に関する取扱についての依命通達(道府県税関係)」(昭和29年5月13日自乙府発第109号各道府県知事宛自治庁次長通達。以下、上記通達を「取扱通達」という。)において、「炭化水素油とは、炭素と水素のみからなる各種の炭化水素化合物を主成分とする混合物で、常温(温度15度)、常圧(水銀柱760ミリメートル)において油状をなしているものをいい、単一体の炭化水素化合物(ベンゾール等)、常温、常圧において気状(プロパンを主成分とする液化ガス)、固状又は半固状(パラフイン、ワセリン等)を呈する炭化水素の混合物はこれに含まれないこと。」とされていた。
(イ) 上記改正後、軽油に軽油以外の炭化水素油(灯油等)を混和したり、軽油以外の炭化水素油(灯油等)に軽油以外の炭化水素油(スピンドル油等)を混和して自動車の燃料として販売し、使用することにより軽油引取税の負担を回避しようとする行為がみられるようになったため、昭和33年の地方税法改正(同年法律第54号)によって、自動車の保有者が軽油及び揮発油以外の炭化水素油を自動車の内燃機関の燃料として消費した場合においては、当該炭化水素油の消費に対し、消費量を課税標準として軽油引取税を課する旨の規定が設けられ(同改正後の700条の3第2項)、更に、昭和36年の地方税法改正(同年法律第74号)によって、特約業者又は元売業者以外の石油製品の販売業者が軽油に軽油以外の炭化水素油を混和し、又は軽油以外の炭化水素油と軽油以外の炭化水素油を混和して製造された軽油を販売した場合においては、その販売量を課税標準として軽油引取税を課する旨の規定(同改正後の700条の3第2項。なお、同改正により、前述の700条の3第2項の規定は、同第3項に繰り下げられた。)が設けられた。
(ウ) その後、「安全燃料」と「コーレス燃料」と呼ばれるものが販売されるようになり、それに対して軽油引取税を課すことができるのかどうかという問題が生じた。すなわち、「安全燃料」は、灯油45%、トルエン50%、メタノール5%程度を混合させた燃料であり、炭化水素化合物以外の物質(メタノール)が含まれていたため、また、「コーレス燃料」は、トルエンを主成分とする物質で単一の炭化水素化合物によって構成された燃料であったため、「安全燃料」については、炭化水素化合物を主成分とするものであるかどうかが問題となり、「コーレス燃料」については、単一の炭化水素化合物からなるものであったため、取扱通達上の「単一体め炭化水素化合物…はこれに含まれないこと。」という定義との関係が問題とされた。
(エ) これを受けて、昭和45年の地方税法改正(同年法律第24号)によって、同改正前の地方税法700条の3第3項の「炭化水素油」の後に「(炭化水素とその他の物との混合物又は単一の炭化水素で、温度15度及び1気圧において液状のものを含む。以下同じ。)」というかっこ書を加える改正が行われた(なお、(イ)記載のとおり、改正前の地方税法700条の3第3項の規定は、自動車の保有者に対する課税を定めたものであり、昭和45年改正も、自動車の保有者に対する課税における「炭化水素油」の規定に修正を加えたものであった。その後、平成元年法律第14号による地方税法改正によって、本件規定に相当する定めが置かれることとなった。)。
(2) 当事者
ア 第1事件原告は、燃料、石油等の給油、販売及びそれに附帯する一切の業務を目的とする会社であり、埼玉県大里郡岡部町に本店を置き、地方税法700条の2第1項3号に規定する特約業者(以下「特約業者」という。)である(〔証拠略〕)。埼玉県熊谷市武体〔番地略〕所在の「関産ガイアックス武体SS」、埼玉県大里郡岡部町大字岡〔番地略〕所在の「関産ガイアックス岡部SS」、埼玉県児玉郡神川町大字熊野堂〔番地略〕所在の「関産ガイアックス第二児玉工業団地SS」(以下、まとめて「本件3店舗」といい、個別には、それぞれ「武体SS」、「岡部SS」、「第二児玉SS」という。)は、いずれも、第1事件原告が、ガイアックスという名称の自動車用燃料(以下「本件燃料」という。)の販売をしている店舗である。
イ 第2事件原告は、石油製品の販売及びそれに付帯する一切の業務を目的とする会社であり、地方税法700条の3第4項に規定する石油製品販売業者である。さいたま市大宮区大成町〔番地略〕所在の大成給油所(以下「大成給油所」という。)は、第2事件原告が本件燃料の販売を主たる目的として経営する販売店である。
ウ 被告らは、いずれも埼玉県の1機関であり、埼玉県条例4条2項5号の規定により埼玉県知事から、第1事件被告は、熊谷市、児玉郡及び大里郡等において、第2事件被告は、さいたま市等において、いずれも軽油引取税等に関する課税処分権限を委任されている。
(3) 本件燃料
ア 本件燃料は、ガイアエナジー株式会社が平成11年4月頃以降販売し始めたもので、天然ガスなどが原料であって炭化水素化合物とアルコール系化合物等を成分とし、1気圧において温度15度で液状を呈するが、比重は軽油よりも軽くガソリンと同程度であって、炭化水素化合物の含有割合は50%に達していない。
イ 第1事件被告が、平成12年3月15日に、武体SSから採取した本件燃料の炭化水素化合物の含有割合は、約45.8%であり、同年5月9日に、岡部SSから採取した本件燃料の炭化水素化合物の含有割合は、約44.8%であり、同月11日に第二児玉SSから採取した本件燃料の炭化水素化合物の含有割合は、約44.5%であった。
ウ 第2事件被告が、平成14年9月24日に、大成給油所から採取した本件燃料の炭化水素化合物の含有割合は、約45.8%であった。
(4) 課税処分等
ア 第1事件について
(ア) 第1事件原告は、本件燃料は軽油引取税の課税対象とならないとの見解の下に、本件燃料の販売分について軽油引取税の申告を行わなかったところ、第1事件被告は、本件燃料は、本件規定所定の「炭化水素油」に含まれるべき「炭化水素とその他の物との混合物」に当たり、軽油引取税の課税対象になるとの見解の下に、地方税法700条の3第3項に基づき、別表1記載のとおり、それぞれ軽油引取税更正処分及び過少申告加算金決定処分(以下、これらを併せて「本件各処分1」といい、個別には、平成12年10月5日付け処分を「本件第1処分」、同年12月12日付け処分を「本件第2処分」、平成13年5月15日付け処分を「本件第3処分」という。)を行った。
(イ) 第1事件原告は、第1事件被告の直近上級庁である埼玉県知事に対し、本件第1処分について、平成12年10月19日、本件第2処分について、平成13年2月2日、本件第3処分について、同年9月12日に審査請求を行ったが、埼玉県知事は、同月13日、本件第1処分及び本件第2処分に対する各審査請求をいずれも棄却し、同年10月9日、本件第3処分に対する審査請求を却下したため、同年11月13日、本訴を提起した。
イ 第2事件について
(ア) 第2事件原告は、本件燃料は軽油引取税の課税対象となる軽油にも、燃料炭化水素油にも当たらないとの見解の下に、本件燃料の販売分について軽油引取税の申告を行わなかったところ、第2事件被告は、本件燃料は、本件規定所定の「炭化水素油」に含まれるべき「炭化水素とその他の物との混合物」に当たり、軽油引取税の課税対象になるとの見解の下に、地方税法700条の3第4項に基づき、別表2記載のとおり、それぞれ軽油引取税決定処分及び不申告加算金決定処分(以下、これらを併せて「本件各処分2」といい、個別には、平成13年10月30日付け処分を「本件第4処分」、平成14年2月1日付け処分を「本件第5処分」という。)を行った。
(イ) 第2事件原告は、第2事件被告の直近上級庁である埼玉県知事に対し、本件第4処分について、平成13年12月7日、本件第5処分について、平成14年3月5日に審査請求を行ったが、埼玉県知事は、同年5月28日、両審査請求をいずれも棄却したためも、年7月23日、本訴を提起した。
3 争点に関する当事者の主張
本件の争点は、<1>本件第3処分が審査請求前置の要請を満たすか、<2>本件燃料は、本件規定所定の「炭化水素油」に当たるかどうか、具体的には、本件規定が定める「炭化水素とその他の物との混合物」には、炭化水素化合物の含有割合が50%に満たない本件燃料も含まれるかどうか、<3>本件規定等にいう「自動車」には、軽四自動車、二輪自動車も含まれるかであり、<4>本件第3処分に重大かつ明白な違法が認められるか(第1事件原告の予備的請求)、これらの点に関する当事者双方の主張は次のとおりである。
(1) 審査請求前置について(争点<1>について)
ア 第1事件被告
本件訴えは、地方税法19条に規定する処分の取消しの訴えであるから、当該処分についての異議の申立て又は審査請求に対する決定又は裁決を経た後でなければ提起することができない(同条の12)。
しかるに、第1事件原告は、本件第3処分について、審査請求期間内に審査請求をせず、かつ、上記審査請求期間内に審査請求をしなかったことについてやむを得ない理由はなかったことから、当該審査請求は不適法であるとして、審査庁によって却下されているところ、審査請求が不適法として却下された場合は、当該処分についての審査請求に対する裁決を経たことにはならない。
したがって、本件訴えのうち、本件第3処分の取消しを求める部分は、審査請求に対する裁決を経ないで提起された訴えであるから、不適法な訴えとして却下されるべきである。
イ 第1事件原告
第1事件被告の主張は争う。
(2) 「炭化水素とその他の物との混合物」の意義について(争点<2>)
ア 被告ら
本件規定所定の「炭化水素とその他の物との混合物」は、炭化水素と炭化水素以外の物との混合物であればよく、炭化水素の含有割合は問われていないから、本件燃料のように、炭化水素の含有割合が50%に満たないものもこれに含まれる。その理由は、次のとおりである。
(ア) 本件規定は、「炭化水素油(炭化水素とその他の物との混合物又は単一の炭化水素で、1気圧において温度15度で液状であるものを含む。)」で軽油又は揮発油以外のものを「燃料炭化水素油」と名付け、これを軽油引取税の課税対象とする旨を定めている。そして、この規定のうち、「炭化水素とその他の物との混合物」との文言は、炭化水素の含有割合を何ら定めているわけではないのであるから、炭化水素が含まれていれば、その含有割合を問わず、これに当たることを定めたものと解すべきである。
(イ) 以上のような解釈は、本件規定の立法経過からも裏付けることができる。
すなわち、昭和44年法律第24号による地方税法の改正(以下「昭和45年改正」という。)前には、軽油引取税の課税対象となっていたのは「炭化水素油」のみであったため、炭化水素油に炭化水素化合物以外の物であるメタノール等を混入した安全燃料という燃料が出回るようになったことから、これに対する課税のあり方が問題とされ、安全燃料の課税については、昭和44年5月23日付け内かん(〔証拠略〕)で、炭化水素油にメタノール等炭化水素化合物以外の物を混入した燃料(安全燃料はこれに該当する。)について、これらの燃料の大部分は、メタノール等炭化水素化合物以外の混入量がごく少量であり、軽油引取税が課される炭化水素油に含まれることが概ね明らかになったと述べたが、なお、この種の燃料に対する軽油引取税の取扱いについては、炭化水素化合物以外の物の混入量が多量である燃料に対する取扱いを含め総合的に課税方針を定める必要があり、目下検討中である旨の連絡をした。その後、自治省府県税課長は、昭和44年10月6日付け内かん(〔証拠略〕)で、自動車の内燃機関の燃料として消費された炭化水素油に混和されている炭化水素化合物以外の物の重量の当該重量に対する割合が0.05に満たない場合には、当該燃料の全量に対して課税することとし、当該割合が0.05以上の場合には、当該混和されている炭化水素化合物以外の物の量を除き、その残量に対して課税するものとする旨連絡したが、課税上の取扱いについて問題が生じた。
そこで、昭和45年改正は、軽油引取税が課される炭化水素油には、従来の定義における炭化水素油のほか、炭化水素とその他の物との混合物を含むことを明示し、炭化水素化合物以外の物の混入量が多量である燃料に対しても、軽油引取税の課税を可能とすることを目的として行われたものである。
(ウ) なお、原告らは、昭和47年5月25日自治府第60号自治省府県税課長回答(J・K生照会)(〔証拠略〕、以下「本件行政実例」という。)を根拠として、「炭化水素とその他の物との混合物」は、行政実例上も、炭化水素を主成分とする物質を指すものと解されていたと主張するが、上記行政実例は、その内容に照らしてみても昭和45年改正前の地方税法の規定の説明をしているものであることが明らかであり、同改正後の法律解釈の参考になるものではない。
イ 原告ら
本件規定所定の「炭化水素とその他の物との混合物」は、炭化水素化合物を主成分とするものでなければならないところ、本件燃料は、炭化水素を主成分とするものではないから、これに該当しない。その理由は、次のとおりである。
(ア) 本件規定は、「炭化水素油(炭化水素とその他の物との混合物又は単一の炭化水素で、1気圧において温度15度で液状であるものを含む。)」と規定しているところ、被告らが主張するように、上記規定が炭化水素油の概念を拡張しているのであれば、「炭化水素油、炭化水素とその他の物との混合物…」というように並列的な規定の仕方をしていたはずである。それにもかかわらず、上記規定が、「炭化水素油」の後にかっこ書の形で規定したのは、かっこ書に含まれる内容が、炭化水素油の概念に含まれるものであることを前提としているからであり、したがって、かっこ書中の「炭化水素とその他の物との混合物」は、あくまでも炭化水素油の概念に含まれることを明確化した規定と理解すべきである。確かに、単一の炭化水秦化合物は、昭和45年改正前において、「炭化水素油」には含まれないと解されていたが、「炭化水素油」というために重要なのは、炭化水素成分が主成分であることであるから、単一の炭化水素化合物を文理上、「炭化水素油」の概念に含まれ得ると解することも十分可能である。以上によれば、「炭化水素とその他の物との混合物」とは、炭化水素を主成分とするものであると解するのが相当である。
そうすると、本件燃料は、炭化水素化合物を主成分とするものではないから、そもそもこの定義規定に当たらない上、アルコール系成分を主成分とする、アルコール系燃料というべきものであるから、本件規定の炭化水素とその他の混合物と解することはできない。
また、一般に、「Aとその他の物の混合物」という文言は、Aを主成分とする混合物であることを意味するものと解するのが自然な解釈であり、Aを主成分とはしない混合物を含ませる場合には、その旨を明記した規定が置かれるべきものであるし、立法例等においても、そのような取扱いがされている。例えば、有機溶剤中毒予防規則(昭和47年9月30日労働省令第36号)においては、「有機溶剤又は有機溶剤含有物」の定義として、「有機溶剤と有機溶剤以外の物との混合物で、有機溶剤を当該混合物の重量の5%を超えて含有するもの」と定義しているのである。したがって、本件規定についても、特別の定めがされていない以上、「炭化水素とその他の物との混合物」とは、炭化水素化合物を主成分とするものと解すべきこととなる。
租税法律主義の観点から不確定概念は排除されると同時に、納税者の予測可能性・謙抑性を担保するために課税要件の厳格解釈が要求されることからも、「Aとその他の物との混合物」という概念は明文で混合割合等が示されていない限り、Aを主成分とする物に限定されなければならない。
昭和45年改正前に、安全燃料への軽油引取税の課税が可能であるとの見解が示されていたことから、「炭化水素とその他の物との混合物」との規定をしたのは、安全燃料以外の課税を目的としたとの疑問はあり得るが、そもそも自治省内部においても安全燃料への軽油引取税の課税が可能であるか否かについては疑義があり、慎重に検討していたのであり、結論的には課税が可能であるとの判断に至っても、課税後、法的紛争に発展する可能性があることからすれば、昭和45年改正において、「炭化水素とその他の物との混合物」との規定を置くことにより、疑義がないように改正しておくのは合理的であり、十分に意味を有するものである。
(イ) 以上の解釈が正当であることは、地方税法の立法経過からも裏付けることができる。
本件規定が設定された昭和45年改正前には、「安全燃料」と「コーレス燃料」が販売され、それに対して軽油引取税を課すことができるのかどうかという問題が生じた。すなわち、「安全燃料」は、灯油45%、トルエン50%、メタノール5%程度を混合させた燃料であり、炭化水素化合物以外の物質(メタノール)が含まれていたため、また、「コーレス燃料」は、トルエンを主成分とする物質で単一の炭化水素化合物によって構成されていたため、いずれも上記のような意味での炭化水素油に当たるかどうかが問題となったのである。これらの問題に対処するために行われたのが昭和45年改正であり、この改正において「炭化水素とその他の物との混合物又は単一の炭化水素で、1気圧において温度15度で液状であるものを含む。」とのかっこ書が加えられたが、これは、炭化水素とその他の物との混合物である安全燃料と、単一の炭化水素化合物であるコーレス燃料につき、軽油引取税の課税対象として課税できることを明確にすることを目的でなされたのである。
このことは、昭和45年改正に関する国会審議やその後公刊された同改正に関する解説書等によっても裏付けることができる。このような経緯に照らしてみれば、「炭化水素とその他の物との混合物」とは、あくまでも炭化水素化合物を主成分とするものであることが前提であった。
そもそも昭和45年改正当時、本件燃料のように炭化水素化合物以外の物質の含有率が50%を超える自動車用燃料は全く存在していなかったのであり、同改正が、炭化水素化合物を主成分としない物質をも想定し、これを課税の対象としていたと考えることはできない。
仮に、被告らの主張するように、「炭化水素とその他の物との混合物」が、炭化水素化合物が少しでも含有している燃料に対して課税するということであれば、これまでの課税対象を抜本的に変える重要な改正を行ったということとなり、昭和45年改正当時、その説明がなされるはずであるが、本件においては、衆議院の委員会での議案の説明や質疑でも一切その説明がなされていないのであり、これは、上記のような改正がなされなかったことを示すものである。
(ウ) 以上のような解釈は、地方税法の所管官庁である自治省の見解でもあった。すなわち、本件行政実例は、「地方税法において上記の炭化水素油とは、炭素と、水素のみからなる各種の炭化水素化合物を主成分とする混合物で、常温(摂氏15度)、常圧(水銀柱760ミリメートル)において油状をなしているものと解される。」として、炭化水素化合物を主成分とするもののみが軽油引取税の対象となる旨を明言している。
被告らは、「本件行政実例は、昭和45年改正前のものであって、改正後の地方税法の解釈を示したものではない。」と主張しているが、確かに本件行政実例の回答は、改正前の旧規定を前提になされているようであるが、回答日は昭和47年5月であり、その内容は、昭和45年改正後も維持されていることが前提になされていると考えるべきである。実際、上記回答中にも、昭和45年改正により失効した旨の記載もなく、その後も、自治省は、本件行政実例が失効したという旨の通知をすることもなく長期間放置したばかりか(本件燃料に関する課税問題が発生した後である平成13年扮月9日になって初めて、「本件行政実例は昭和45年改正前の規定の解釈を示したものであって、昭和45年改正によって失効している。」という趣旨の事務連絡を行ったにすぎない。甲12)、自治省関係者が編纂した書物である地方税制度研究会編「地方税法規 実例判例」という書籍に本件実例を登載し、これが昭和45年改正後も通用する行政実例であるという説明をしてきたのである(〔証拠略〕)。更に、平成10年には、京都市が、軽油とバイオディーゼル燃料(使用後回収した天ぷら油にエタノールを加えた燃料)を市バスの燃料として利用することを計画し、京都府に対し、バイオディーゼル燃料に軽油取引税が課税されるのかどうかを問い合わせたところ、京都府からは、本件行政実例を根拠として課税の対象とはならないとの回答がされているのであり、このことも、本件行政実例が、昭和45年改正後も適用されるものとして取り扱われてきたことを裏付けている。
以上のとおり、本件燃料は、「炭化水素とその他の物の混合物」には当たらず、自治省等も、このような正しい法律解釈に立脚した取扱いをしてきたにもかかわらず、本件燃料が普及し始めたことに危機感を抱いた石油業界が本件燃料に対する課税を行うよう自治省に圧力をかけ、それに負けた自治省が、各地方自治体に軽油引取税の課税を行うよう指導を行い、それに従った被告らが本件各処分を行ったというのが実態なのであり、このような行為は到底許されるべきものではない。
(3) 自動車の意義について(争点<3>)
ア 被告ら
地方税法上、本件規定等にいう「自動車」の概念について定義をした規定は存在しないが、軽油引取税は道路に関する費用に充てるための道路目的税であること、燃料炭化水素油は、他の燃料に課税との均衡上、自動車の内燃機関の燃料として販売した場合に課税するものであることからすれば、自動車の一般的な意義は、広く、道路運送車両法2条2項に規定する自動車のうち、道路において運行の用に供することができるもの、すなわち、普通自動車、小型自動車、大型特殊自動車のほか、軽自動車、小型特殊自動車、二輪自動車などをすべて含むものというべきである。
原告らは、地方税法上の「自動車」とは、道路運送車両法4条所定の自動車を意味し、軽自動車、小型特殊自動車、二輪自動車は含まれないものと解すべきであるとの主張をするが、上記規定は、自動車登録の対象となる自動車の範囲を定めたものであるところ、道路に関する費用に充てるための目的税である軽油引取税を課するかどうかを判断するに当たって、道路運送車両法上の自動車登録を必要とする自動車であるかどうかによって区別する理由はなく、上記主張は失当である。
なお、原告らは、「地方税法の施行に関する取扱について」(昭和29年5月13日自乙府発第109号。以下「取扱通知」という。〔証拠略〕)には、「自動車とは、道路運送車両法第4条に規定する登録を受けた自動車をいうものであること。」と記載されており、原告らの主張は立法者意思にも合致しているという趣旨の主張もしているが、取扱通知の趣旨は、地方税法700条の3第5項の自動車の保有者が炭化水素油を自動車の内燃機関の燃料として消費した場合に、当該自動車を道路において運行の用に供するために消費した場合に限って課税していることとの均衡上、自動車であってもサーキット場内や試験研究施設など一般交通の用に供しない場所で使用するものに供する炭化水素油の販売についてまで軽油引取税を課さないことを例示的に示したのにとどまるものと解される(〔証拠略〕)。したがって、取扱通知の記載は、原告らの主張の根拠となるものではない。
イ 原告ら
軽油は、本来、ディーゼルエンジンの燃料として利用されるものであるところ、ディーゼルエンジンを搭載している自動車は、普通自動車、小型自動車、大型自動車がほとんどであり、軽自動車、自動二輪車にはほとんど搭載されていない。このような実態を踏まえると、本件規定等にいう自動車とは、普通自動車、小型自動車、大型自動車を指すものであって、道路運送車両法4条所定の自動車を意味するものと解するのが相当である。
そして、このような解釈は、地方税法の所管官庁である自治省の見解と合致しており、このことは、原告らの主張はまさに立法者意思に合致するものであったことを示している。すなわち、地方税法施行後まもなく発せられた取扱通知には、「自動車とは、道路運送車両法に規定する登録を受けた自動車を言うものである。」という趣旨の記載があり、その後、昭和33年4月24日付け通達により、自動車とは道路運送車両法2条所定の自動車を意味するという趣旨の自治省担当者の見解が発表されたことはあったものの、その後は一貫して、自動車とは道路運送車両法4条所定の自動車を意味するとの見解が発表され続け、地方自治体においても、4条説に基づく運用が行われてきおり、本件燃料の課税問題が発生するまでは、4条説で運用されてきたのである。
本件規定等は、軽油等を「自動車の内燃機関の燃料」として販売した場合や消費した場合に課税をする旨を定めているが、ここでいう「自動車」についても定義規定を置いていないため、自動車の概念も曖昧となっている。このような曖昧な課税要件を定めることは、租税法律主義(課税要件明確主義)に違反するものであるから、本件規定等は、違憲、無効というべきである。
(4) 本件第3処分に重大かつ明白な違法の有無(争点<4>)
ア 第1事件原告
本件第3処分をすべきでなかったことは、地方税法の法文上から明らかであり、本件第3処分は重大かつ明白な違法というべきである。
イ 第1事件被告
第1事件原告の主張は争う。
第3 当裁判所の判断
1 審査請求前置について(争点<1>について)
本件各処分の取消しの訴えは、当該処分についての異議の申立て又は審査請求に対する決定又は裁決を経た後でなければ提起できないという、いわゆる審査請求前置主義が採られている(地方税法19条、同条の12)。そして、地方税法が審査請求前置主義を採用した趣旨が、処分の当否につき被告に再考の機会を与えるとともに裁判所の負担を軽減するにとどまらず、大量的に行われる処分であって、審査請求により行政の統一を図る必要があると解されることに照らすと、審査請求前置主義の要請が満たされているというためには、訴え提起前に行った異議申立て等が適法なものであることを要すると解するのが相当である。そうすると、異議申立て等が不適法として却下された場合には、その却下決定が正当である限り、異議申立て等の手続を経たということはできないから、当該処分の取消しを求める訴えは不適法になるというべきである。
これを本件についてみるに、第1事件原告が本件第3処分についてした審査請求は却下されているが、その理由は、第1事件原告は、本件第3処分のあったことを平成13年5月17日に知ったのであるから、同日の翌日から起算して60日以内(同年7月16日まで)に審査請求をしなければならなかったにもかかわらず(地方税法19条、行政不服審査法14条1項)、上記期間を徒過して同年9月12日に審査請求をし、かつ、上記審査請求期間内に審査請求をしなかったことについて行政不服審査法14条1項ただし書にいう「やむをえない理由」はなかったというものであるところ、〔証拠略〕によれば、その判断は正当であるというべきである。
したがって、第1事件原告の本件訴えのうち、本件第3処分の取消しを求める部分は、適法な審査請求を経由しない不適法なものであるから、却下を免れない。
2 「炭化水素とその他の物との混合物」の意義について(争点<2>)
(1) 本件規定は、「炭化水素油(炭化水素とその他の物との混合物又は単一の炭化水素で、1気圧において温度15度で液状であるものを含む。)」で軽油又は揮発油以外のものを軽油引取税の課税対象とする旨を定めているところ、ここでいう「炭化水素とその他の物との混合物」について、原告らは、炭化水素化合物を主成分とするものであることを要すると主張し、被告らは、炭化水素化合物が含まれていれば足り、それが主成分である必要はないと主張している。
そこで検討するに、本件規定は、「炭化水素とその他の物との混合物」と規定しているのにとどまり、その混合割合については触れていないのであるから、この規定から直ちに炭化水素化合物が主成分である(その含有割合が50%を超える)ことが要求されていると解することはできない。原告らは、「Aとその他の物との混合物」という文言は、当然に主成分がAであることを意味するのであって、そうではない場合には、「Aとその他の物との混合物であってAの含有割合が○○%を超えるもの」といった定めがされるべきものである旨主張するが、同主張は必ずしも常識的な文言の解釈に合致していないというべきである。すなわち、「Aとその他の物との混合物」との文言は、Aとその他の物を混合した物を意味するのにとどまり、それ自体としては、Aが主成分をなすというような意味合いを含むものとはいえないのであるから、Aの含有割合が極めて小さく、「Aとその他の物」を混合したというより、Aが不純物として混入しているにすぎないと評価すべき場合は別として、Aの含有割合が一定程度に達していれば、これを「Aとその他の物との混合物」に当たると解することには何ら差し支えがないものというべきである。原告ら指摘の立法例も、特定の物質の含有割合を定範囲に限定する必要があるところから、その含有割合が特定されているものと解され、原告らのような解釈を前提とした規定であるということはできない。
原告らは、「炭化水素油(炭化水素とその他の物との混合物又は単一の炭化水素で、1気圧において温度15度で液状であるものを含む。)」との文言は、あくまでも対象が炭化水素油であることを前提とし、かっこ書の中で、その具体的な内容を説明しているものであって、かっこ書の記載が炭化水素油の概念を拡張するようなことはあり得ないという趣旨の主張もしているが、「A(Bを含む。)」という文言が、必ずしもAの概念には含まれないBをも含むことを意味する用語として用いられることはよくあることであり、上記主張は独自の解釈といわざるを得ない。
以上のように検討していくと、「炭化水素その他の物との混合物」は、炭化水素を主成分とするものに限らず、炭化水素とその他の物を混合した物質を広く指すものと解するのが自然な解釈というべきであり、そうすると、本件燃料も「炭化水素とその他の物との混合物」に当たるものと解される。
なお、原告らは、本件燃料は、アルコール系燃料であり、軽油類似物には当たらないという趣旨の主張もしているが、上記のとおり、本件規定は、「炭化水素とその他の物との混合物」で1気圧において温度15度で液状であるものであれば、その比重にかかわらず、これを軽油引取税の対象とすることを定めたものと解されるのであって、このことは当該燃料がアルコール系燃料等に属するものであるかどうかによって左右されるものではないから、上記主張を採用することはできない。
さらに、原告らは、租税法律主義の観点から不確定概念は排除されると同時に、納税者の予測可能性・謙抑性を担保するために課税要件の厳格解釈が要求されることからも、「Aとその他の物との混合物」という概念は明文で混合割合等が示されていない限り、Aを主成分とする物に限定されなければならないと主張するが、上記のとおり、合理的な解釈によって確定することが可能であり、その内容が曖昧であるとはいえないから、この点に関する原告らの主張は失当である。
(2) 原告らは、本件規定の立法経過に照らし、上記文言は、炭化水素化合物を主成分とするものを意味するものと解すべきであるとの主張もしている。
この点について検討するに、〔証拠略〕によれば、次の事実を認めることができる。
ア 軽油引取税制度は、昭和31年の地方税法改正(同年法律第81号)によって導入されたものであるが、この時点においては、「軽油引取税は、特約業者又は元売業者からの軽油の引取(特約業者の元売業者からの引取及び元売業者又は特約業者からの引取を除く。)に対し、容量を課税標準として、当該特約業者又は元売業者の営業所所在の道府県において、その引取を行う者に課税する。」(同改正後の地方税法700条の3)と定められ、軽油の引取のみが課税の対象とされていた。そして、ここでいう「軽油」とは、「摂氏15度において0.8017をこえ、0.8762に達するまでの比重を有する炭化水素油をいい、政令で定める規格の炭化水素油を含まないものとする。」とされており(同改正後の地方税法700条の2第1項1号)、ここでいう「炭化水素油」について、法令上の定義はなかったものの、「地方税法及び同法施行に関する取扱についての依命通達(道府県税関係)」(昭和29年5月13日自乙府発第109号各道府県知事宛自治庁次長通達。前述の「取扱通達」。)においては、「炭化水素油とは、炭素と水素のみからなる各種の炭化水素化合物を主成分とする混合物で、常温(温度15度)、常圧(水銀柱760ミリメートル)において油状をなしているものをいい、単一体の炭化水素化合物(ベンゾール等)、常温、常圧において気状(プロパンを主成分とする液化ガス)、固状又は半固状(パラフイン、ワセリン等)を呈する炭化水素の混合物はこれに含まれないこと。」とされていた(〔証拠略〕)。
イ 上記改正後、軽油に軽油以外の炭化水素油(灯油等)を混和したり、軽油以外の炭化水素油(灯油等)に軽油以外の炭化水素油(スピンドル油等)を混和して自動車の燃料として販売し、使用することにより軽油引取税の負担を回避しようとする行為がみられるようになったため、昭和33年の地方税法改正(同年法律第54号)によって、自動車の保有者が軽油及び揮発油以外の炭化水素油を自動車の内燃機関の燃料として消費した場合においては、当該炭化水素油の消費に対し、消費量を課税標準として軽油引取税を課する旨の規定が設けられ(同改正後の700条の3第2項)、更に、昭和36年の地方税法改正(同年法律第74号)によって、特約業者又は元売業者以外の石油製品の販売業者が軽油に軽油以外の炭化水素油を混和し、又は軽油以外の炭化水素油と軽油以外の炭化水素油を混和して製造された軽油を販売した場合においては、その販売量を課税標準として軽油引取税を課する旨の規定(同改正後の700条の3第2項。なお、同改正により、前述の700条の3第2項の規定は、同第3項に繰り下げられた。)が設けられた。
ウ その後、「安全燃料」と「コーレス燃料」と呼ばれるものが販売されるようになり、それに対して軽油引取税を課すことができるのかどうかという問題が生じた。すなわち、「安全燃料」は、灯油45%、トルエン50%、メタノール5%程度を混合させた燃料であり、炭化水素化合物以外の物質(メタノール)が含まれていたため、また、「コーレス燃料」は、トルエンを主成分とする物質で単一の炭化水素化合物によって構成された燃料であったため、「安全燃料」については、炭化水素化合物を主成分とするものであるかどうかが問題となり、「コーレス燃料」については、単一の炭化水素化合物からなるものであったため、取扱通達上の「単一体の炭化水素化合物…はこれに含まれないこと。」という定義との関係が問題とされたものである。
エ 自治省府県税課は、「安全燃料等に対する軽油引取税の取扱いについて」(昭和44年5月23日各都道府県税務主管課長あて自治省府県税課長内かん、〔証拠略〕。以下「44年5月23日付け内かん」という。)において、各都道府県に対し、「(略)当省においてこれらの燃料のうち市販されている数種類のものについて通商産業省工業技術院に分析試験を依頼した結果、自動車の内燃機関の用に供されているこれらの燃料の大部分は、メタノール等炭化水素化合物以外の混入量が極く少量であり、法700条の3第3項(現行第5項)に規定する炭化水素油の範囲に含まれることがおおむね明らかとなりました。しかしこの種の燃料の範囲に対する軽油引取税の取扱いについては、炭化水素化合物以外のものの混入量が多量である燃料に対する取扱いをも含め総合的に課税の方針を定める必要があり、目下この点について検討中の次第であります。従って、各都道府県においてもおってこれが最終的な取扱方針を通知するまでの間は随時分析試験等を行い諸般の準備を進められるようご連絡いたします。」と通知した。その後、昭和44年10月6日各都道府県税務主管課長あて自治省府県税課長内かん(〔証拠略〕。以下「44年10月6日付け内かん」という。)において、「自動車の内燃機関の燃料として消費された炭化水素油に混和されている炭化水素化合物以外のものの重量の当該燃料の重量に対する割合が0.05に満たない場合には、当該燃料の全量に対して課税することとし、当該割合が0.05以上の場合には、当該混和されている炭化水素化合物以外の物の量を除き、その残量に対して課税するものとする。」と通知した。
オ 昭和45年の地方税法改正の際の国会審議において、秋田国務大臣は、「軽油引取税につきましては、課税の公平をはかる見地から、自動車の保有者に対して軽油引取税が課される炭化水素油の範囲に炭化水素とその他の物との混合物または単一の炭化水素を含めることといたしました。」と説明し(第63回国会衆議院地方行政委員会会議録第8号、昭和45年3月19日、〔証拠略〕)、C政府委員(自治省税務局長)は、「今回考えましたのは、自動車の保有者におきまして、いわゆる安全燃料あるいはコーレスなるものを使って自動車を走らせる場合において、その自動車の保有者に課税しようとするわけでございます。」と説明した(同会議録第9号、昭和45年3月24日、〔証拠略〕)。また、D説明員(自治省税務局府県税課長)は、「2年前ばかりからこのコーレスの前身と申しますか、安全燃料というのが出回り始めたのでございます。この安全燃料というのが、これが軽油の規格にも該当しない、それから揮発油の規格にも該当しない、半分アルコールがまじっているわけでございます。(中略)そこで、いろいろ政府各省検討いたしまして、アルコール分は無理でございますけれども、アルコールと炭化水素油との混合体でございますと、その炭化水素油の部分だけについて、安全燃料としては軽油引取税を自動車の保有者の段階においてかけるということにいたしまして、昨年の11月からそういう措置をとったわけでございます。そういたしますと、安全燃料というものが揮発油とは、税金がかかりますと太刀打ちできないというようなこともございまして、姿を消しまして、今度はそれに変わってコーレスというトルオールだけでつくった揮発油類似品と申しますか、そういった燃料が出回り始めたということでございます。で、軽油引取税の目的からいたしまして、これは御承知のように目的税でございまして、自動車の運行に使う油であれば全部かけるということでございまして、これらのものはいろいろな形をとっておりますけれども、結局は自動車の燃料になるわけでございますので、そういう観点から、自動車の燃料になるものはすべて自動車保有者の段階においてかけるということにしたわけでございます。」と説明した(第63回国会参議院地方行政委員会会議録第13号、昭和45年4月9日、〔証拠略〕)。
カ 「月刊税」という名称の雑誌(以下単に「税」という。)の昭和43年5月号に掲載された自治省府県税課職員E作成の炭化水素油の解説(〔証拠略〕)には、「炭化水素油に炭化水素化合物以外のもの、例えばアルコール類等を相当程度混入した場合それによって出来た燃料油が、軽油引取税の対象となる炭化水素油といえるかどうかが問題となってきているのである。(中略)最近、灯油類似の炭化水素油に、アルコール類を10パーセント前後混入した燃料油が市販されているようであるが、現実にもしアルコール類が、10パーセント前後も混入されているとすれば、アルコールには水酸基が含まれているので、当然その燃料は、酸素基が何パーセントとか含まれており、化学界において一般的には、炭化水素油とはいえなくなるものである。しかしながら、炭化水素油という言葉は、税法独特のものであり、その定義も税法にまかされているものである。したがって、軽油引取税において、炭化水素油の定義中における『主成分』の解釈をいかにするかによって、課税の対象となるか、ならないかが決まるものと解する。この解釈については、現在検討中であるが、なかなか問題のあるところである。」との記載がある。
キ 「税」昭和45年7月号の軽油引取税の解説(〔証拠略〕)には、昭和45年改正が、「安全燃料とかコーレス燃料が揮発油の代替燃料としてタクシー等に使用されていることにかんがみ、これらの燃料の使用によって税負担を回避しようとすることを防止するとともに課税の公平を確保する趣旨から今回の改正が行われた」との記載がある。
以上の事実及び前記基本的事実によれば、昭和45年改正は、安全燃料やコーレス燃料に対する課税を確実に行うことを直接の契機として行われたものであるということができるが、昭和45年改正前の段階で、自治省は、アルコール類が含まれた燃料油が市販されていること等をふまえて炭化水素油の定義中における「主成分」の解釈の問題性を認識していたことが窺われる。そして、昭和45年改正では、取扱通達に規定されその解釈が問題とされていた「主成分」という文言を用いることなく、単に「炭化水素とその他の混合物」と規定したこと、昭和45年改正法の国会審議の過程においても、結論として「自動車の燃料になるものはすべて」課税を行う必要があるとの見解が示されていること(D説明員の説明)、昭和45年改正の軽油引取税の解説書においても、揮発油の代替燃料として使用される燃料の使用によって税負担を回避しようとすることを防止し、課税の公平を確保する趣旨から、昭和45年改正がなされたとしていることなどからすると、昭和45年改正において追加された「(炭化水素とその他との混合物又は単一の炭化水素で、温度15度及び1気圧において液状のものを含む。)」という部分は、税制上の目的のため上記追加部分に該当する燃料を軽油引取税の課税対象としたものと解するのが相当であり、「炭化水素とその他の物との混合物」とは、炭化水素を主成分とするものに限らず、炭化水素とその他の物を混合した物質を広く指すものと解するのが相当というべきである。
(3) 原告らは、昭和45年改正当時においては、本件燃料のように、アルコール分が50%を超えるような燃料が存在するとは考えられていなかったのであるから、本件規定等がこのような燃料を対象とするものであったと考えることはできないという趣旨の主張をしているが、前記のとおり、昭和45年改正前において、安全燃料よりも炭化水素化合物の含有量が多量である場合についても検討が必要であるとの問題意識は把握されていたものである。また、ある事象が当該法律の規定の文言に含まれるかどうかの解釈において、当該規定が制定された当時には存在しないものはすべて含まれないと断定することはできない(法制定時に存在しないものであっても、法の予定したものと本質を異にせず、法の想定を超えるものでない限りは、当該文言に含まれると解釈する余地は十分にある。)。したがって、この点に関する原告らの主張も失当であるといわざるを得ない。
なお、原告らは、安全燃料の成分は、灯油45%、トルエン50%、メタノール5%程度の混合物であるにもかかわらず、D説明員は、安全燃料に半分アルコールが混じっていると誤って説明しており、同説明員の説明を昭和45年改正の解釈の根拠とすることはできない旨主張する。確かにD説明員の安全燃料の成分に関する説明部分には誤解が見受けられるが、同説明員は、結論としては、「これらのものはいろいろな形をとっておりますけれども、結局は自動車の燃料になるわけでございますので、そういう観点から、自動車の燃料になるものはすべて自動車保有者の段階においてかけるということにしたわけでございます。」と説明しており、同説明の内容に一部誤解があったとしても、全体としては同説明は、自動車の燃料として使われる限りは「炭化水素とその他の混合物」を広く課税しようとした趣旨を述べていることは明らかで、昭和45年改正の趣旨に関する前記判断を左右するものではない。
(4) 原告らは、昭和45年改正後も、本件行政実例によっても「炭化水素化合物とその他の物との混合物」とは炭化水素化合物を主成分とする物質を意味するとの行政解釈が示されていたと主張する。
しかしながら、行政実例は、あくまでも行政内部における法律解釈を示したものにすぎず、これによって、法律の内容そのものが左右されることはないのであるから、本件規定の解釈を決定的に左右する事情であるとは言い難い。のみならず、本件行政実例は、「昭和44年5月16日付で照会のあった標記のことについて、下記のとおり回答します。」として、昭和45年改正前の事案に関する回答であることが明記されている上に、「単一体の炭化水素化合物は、それのみではここでいう炭化水素油には含まれないものであるが…」として、これが、昭和45年改正後の燃料炭化水素油をも含んだ意味での炭化水素油を説明したものであるとすれば、明らかに誤りといえる内容を含んだものであることなどの事情に照らしてみれば、昭和45年改正後における本件規定の正しい解釈を示したものであるとは到底評価することができない(むしろ、本件行政実例の日付は「昭和47.5.25」となっているが、諸般の事情を考慮すると「昭和44.5.25」の誤記の可能性も否定できない。)。したがって、本件規定の解釈に当たって、本件行政実例は何ら参考になるものではないといわざるを得ない(なお、原告らは、本訴提起前に、本件行政実例の存在を全く指摘しておらず、上記行政実例を根拠として本件規定を解釈してはいなかったのであるから、信義則違反の問題は生じないものである。)。
(5) 以上によると、本件燃料は、軽油引取税の対象となる「炭化水素とその他の物との混合物」に当たると解すべきものであり、原告ら主張の点は、いずれもこの解釈を妨げるに足りるものであるとは言い難い。
3 「自動車」の意義について(争点<3>)
(1) )本件規定等における「自動車」の意義に関し、被告らは、道路運送車両法2条所定の「自動車」概念に基づいて判断すべきであると主張するのに対し、原告らは、同法4条所定の登録すべき「自動車」の概念に基づいて判断すべきであると主張する。
そこで検討するに、本件規定等における「自動車」の概念を明確に定義した規定は存在しないが、軽油引取税は、「道路に関する費用に充てるため、及び道路法第7条第3項に規定する指定市に対し道路に関する費用に充てる財源を交付するため」の目的税として課されるものであることや、本件規定等は、目的税である軽油引取税を「自動車の内燃機関の燃料」としての軽油等の販売又は消費に対して課するものであることなどに照らすと、「自動車の内燃機関の燃料」における「自動車」とは、道路の主たる利用者である自動車一般を指すものと解される。そして、このような自動車一般を指す概念としての「自動車」の意味は、道路運送車両法2条所定の自動車概念に基づいて解釈するのが相当である。
原告らは、道路運送車両法2条ではなく、同法4条所定の自動車概念に基づいた解釈をすべきであると主張するが、同法4条所定の「自動車」とは、自動車登録ファイルに登録すべき自動車のみを指すものであるところ、自動車登録ファイルに登録すべき自動車も、その他の自動車も道路の利用者である点においては異なるところはないのであるから、原告ら主張のような限定解釈をすべき理由はないものといわざるを得ない。
そうすると、本件規定等における「自動車」には、道路運送車両法2条所定の自動車、すなわち、原動機付自転車以外の自動車一般を含むものと解するのが相当である。
(2) 原告らは、本件規定等における「自動車」が道路運送法4条所定の自動車を意味することは確定した行政解釈であったとの主張をするところ、〔証拠略〕によれば、前記の「地方税法の施行に関する取扱について」(昭和29年5月13日自乙府第109号)(「本件取扱通知」)には、「自動車とは、道路運送車両法第4条に規定する登録を受けた自動車をいうものであること。」との記載があり、その後も〔証拠略〕によれば、平成12年ころまでは自治省関係者執筆にかかると推定される解説書には同旨の説明がされていることが認められる。
しかしながら、取扱通知において、「自動車とは道路運送車両法第4条に規定する登録を受けた自動車をいう」との記載がされたのは平成元年の法改正(元売業者、石油製品販売業者等が燃料炭化水素油を自動車の内燃機関の燃料として販売した場合これらの者に軽油引取税を課すこととした法700条の3第4項の追加。)に伴う取扱通知改正からであり(〔証拠略〕)、それ以前の取扱通知にはそのような自動車の範囲に関する記載はなく、むしろ、〔証拠略〕によれば、昭和33年の地方税法改正(新たに自動車の保有者が軽油及び揮発油以外の炭化水素油を自動車の保有者に対して軽油引取税を課することができることとした。)に伴い発せられた同年4月24日付け自治庁税務局長通達では、「『自動車』の範囲は、道路運送車両法の規定によって登録又は届出されるべき一切の自動車をいうものであるから、その範囲も道路運送車両法3条に規定する普通自動車、小型自動車、軽自動車及び特殊自動車等はすべて含まれるものであること」とされていることが認められる。また、〔証拠略〕によれば、内閣は、第150回国会でなされた本件燃料に関する質問に対する平成12年10月13日付け答弁書において、燃料炭化水素油を自動車の内燃機関の燃料として販売する場合の「自動車」とは、軽油引取税の性格から、道路運送車両法2条2項に規定する自動車のうち道路において運行の用に供することができるものをいうとの見解を表明していることが認められる。
これらの経過によると、地方税法の所轄官庁である自治省の見解は、必ずしも一貫したものがあったとは言い難い(平成元年以降の取扱通知において自動車を道路運送車両法4条所定の自動車をいうとした趣旨は、〔証拠略〕によれば、「法700条の3第5項の自動車の保有者が炭化水素油を自動車の内燃機関の燃料として消費した場合に、当該自動車を道路において運行の用に供するため、消費した場合に限って課税していることとの均衡上、自動車であってもサーキット場内や試験研究施設等一般交通の用に供しない場所で使用するものに提供する炭化水素油の販売についてまで軽油引取税を課さないことを例示的に示したものであると解される。」という説明がされていることが認められるが、そのような例示のための道路運送車両法4条を引き合いに出す必要はない。)。
しかしながら、本件規定等の解釈上は、本件規定等にいう自動車とは、道路運送車両法2条所定の自動車を意味するものと解するのが相当であることは(1)で説示したとおりである上に、燃料炭化水素油を自動車の内燃機関の燃料として販売する場合の「自動車」の範囲について道路運送車両法4条説に立った説明は、その結論を示しているのみであって、その解釈を正当とする合理的な理由は存しておらず、むしろ軽油引取税の趣旨からは不合理な部分があり、今日の政府見解は道路運送車両法2条説で統一されていることが認められるから、結局道路運送車両法4条説に立った解説は、誤った法律解釈を示したものとして採用できないというべきである。したがって、原告らが引用する行政解釈の存在を考慮しても本件規定等の解釈についての「自動車」の範囲に関する前記結論を左右するに足りるものではなく、この点の原告らの主張は採用できない。
4 本件各処分の適否についての判断
(1) 以上の検討結果によれば、本件燃料は、本件規定上の「炭化水素化合物とその他の物の混合物」として軽油引取税の課税対象となるものというべきであり、また、本件規定等における「自動車」とは、道路運送車両法2条所定の自動車を意味するものと解釈すべきこととなる。
そうすると、道路運送車両法2条所定の自動車には、原動機付自転車は含まれないのであるから、原動機付自転車用に販売ないし消費された本件燃料については課税をすることができないこととなるため、本件各処分において、原動機付自転車用に販売ないし消費された本件燃料が存するか否かが問題となる。
(2) そこで、検討するに、〔証拠略〕によれば、次の事実が認められる。
ア 第1事件について
(ア) 第1事件原告は、平成12年3月ころから、埼玉県内の3か所の給油所で、本件燃料の販売を開始したが、本件燃料の販売について軽油引取税の申告を行っていなかったことから、熊谷県税事務所は、同年8月11日、第1事件原告の帳簿調査を行うこととなった(以下「第1回調査」という。)。
第1回調査において、熊谷県税事務所職員は、立会人である第1事件原告の取締役部長であるFに対し、本件燃料の仕入数量や本件燃料を自動車の燃料として販売した数量、それから控除すべき数量があるかどうかを確認するため、帳簿及び伝票の提示を求めたところ、Fは、販売実績表、仕入単価一覧表、商品管理月報、請求書及び納入明細書綴り、納品伝票綴り、POS日計累計表、日別の商品受領書を提出したことから、これらの帳簿を閲覧し、記載内容を書き写した。熊谷県税事務所職員は、Fに対し、個別の給油数量を確認できる伝票の提示を求めたが、数量が多いことを理由に提示を受けることはできなかった。さらに、熊谷県税事務所職員は、Fに対し、<1>ガソリンを仕入れて、「ガイアックス」として販売したことがあるか、<2>本件燃料を持届け(タンクローリーで運び、販売先の地下ダンク等へ給油して販売する方法)したことはあるか、<3>本件燃料を原動機付自転車やポリ容器に給油したことはあるか尋ねたところ、Fは、<1>について、そのような販売をしたことがあり、その販売量については、本件燃料の売上として計上したことがあるとしたが、<2>、<3>については、そのようなことはしていないとの回答をした。
第1事件被告は、ガソリンには揮発油税が課税されるので本件燃料の課税標準料を算定する際「ガイアックス」の名で販売したガソリン量を控除すべきことから、第1回調査の結果に基づき、第1事件原告の帳簿上の販売数量から、「ガイアックスという名称で販売したガソリンの数量と本件燃料を採取した日の前日までの販売数量を差し引いて、平成12年10月5日付けで軽油引取税更正処分及び過少申告加算金決定処分をした。
(イ) 第1事件原告は、第1回調査後も本件燃料の販売についての申告を行わなかったため、熊谷県税事務所は、平成12年11月28日、第1事件原告の帳簿調査を行うこととなった(以下「第2回調査」という。)。
熊谷県税事務所職員は、第2回調査にも立ち会ったFに対し、第1回調査と同様の<1>ないし<3>の質問をしたところ、Fは、「持届け」や原動機付自転車、ポリ容器への販売はないが、ガソリンを仕入れて「ガイアックス」を販売したことはあると答えた。
そこで、第1事件被告は、第2回調査の結果に基づき、第1事件原告の帳簿上の販売数量から、「ガイアックス」という名称で販売したガソリンの数量の数量を差し引いて、平成12年12月12日付けで軽油引取税更正処分及び過少申告加算金決定処分をした。
(ウ) 第1事件被告は、平成13年4月25日に第3回調査を行い、調査結果に基づき、第1事件原告の帳簿上の販売数量から、「ガイアックス」という名称で販売したガソリンの数量の数量を差し引いて、同年5月15日付けで軽油引取税更正処分及び過少申告加算金決定処分をした。
イ 第2事件について
(ア) 第2事件原告は、平成13年7月2日、第2事件被告に対し、平成12年2月29日から同年7月31日までの間及び同年12月1日から平成13年4月3日までの間に販売した本件燃料の顧客別販売伝票を提出した。その際、第2事件原告は、地方税法700条の3第4項の「自動車」とは、道路運送車両法4条に規定する自動車であり、軽自動車及び自動二輪車はこれに含まれないとの見解を有していたことから、軽自動車に販売した25リットル以下の分は除いて伝票を提出したとし、さらに、原動機付自転車には販売していないと述べていた。
(イ) 第2事件被告は、第2事件原告に対し、未提出の販売伝票を提出するように求めたが、これに応じなかったため、提出済の伝票により、第2事件原告が、上記(ア)の期間における本件燃料の販売数量を算出した。
(3) 以上の事実によれば、被告らは、いずれも本件各処分において、原動機付自転車に対する本件燃料の販売分を除外すべきことを認識し、調査したが、原動機付自転車に対する販売分はないと判定して本件各処分に至ったことが認められる。
原告らは、被告らが算定した原告らの本件燃料の販売量には、原動機付自転車に対する販売分も含まれるという趣旨の主張をし、原告ら代表者作成の報告書(〔証拠略〕)はこれに沿うが、前記のとおり被告らの調査の過程で原告らは原動機付自転車に本件燃料を販売したことはない旨申述し、両事件とも、審査請求(〔証拠略〕)時において、本件燃料の販売分として、軽自動車、小型特殊自動車及び二輪の小型自動車に対する販売分が含まれることは具体的に指摘していながら、原動機付自転車に対する販売分が含まれることについては全く主張していないこと、本訴においても、第8回口頭弁論期日(平成15年1月29日)まで、原動機付自転車の販売分が含まれることを全く指摘しでいなかったこと、原告らから、原動機付自転車のみの販売分の伝票も全く提出されなかったことからすれば、原告らの主張を採用することはできない。
(4) そこで、以上を前提として、第1事件について、更正後の課税標準量、税額、不足税額、過少申告加算金額を計算すると、その結果は別表1のとおりであり、第2事件について、課税標準量、税額、不申告加算金額を計算すると、その結果は、別表2のとおりであるから、本件各処分はいずれも適法であるというべきである。
(5) 以上によれば、本件第3処分も適法であり、重大かつ明白な違法はないから、第1事件原告の予備的請求は理由がない。
5 以上の次第で、第1事件原告の本件訴えのうち、本件第3処分の取消しを求める部分は、適法な審査請求を経由しない不適法なものであるから、これを却下し、その余の原告らの請求は理由がないから棄却することとし、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 豊田建夫 裁判官 都築民枝 菱山泰男)
別表1、2 〔略〕