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さいたま地方裁判所 平成13年(行ウ)7号 判決 2002年9月04日

原告

同訴訟代理人弁護士

小山田辰男

被告

越谷税務署長

宮澤文雄

同指定代理人

池原桃子

磯野宏

萩原一夫

内田健文

北田聖一

若山政行

中沢信明

馬場忠則

主文

1  原告の請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は、原告の負担とする。

事実及び理由

第1申立て

1  原告

(1)  被告が平成8年9月30日付けで原告に対してした平成5年分所得税の更正処分及び賦課決定処分について税額金5609万7100円を超える部分並びに同年分の重加算税の賦課決定処分について税額金2152万1500円を超える部分をいずれも取り消す。

(2)  訴訟費用は、被告の負担とする。

2  被告

主文同旨

第2事案の概要

1  事案の要旨

本件は、原告の平成5年分の所得税について、被告が事業所得における利息収入の計上漏れを理由に上記更正処分等をしたところ、原告がこれを争ってこれら更正処分等の取消しを求めた事案である。

本件の争点は、被告が収入に計上すべきものとして上記更正処分等をした、原告の乙(以下「乙」という。)に対する貸付に係る平成5年分の利息収入等の有無に関する認定問題である。

2  基本的事実関係

(1)  原告の平成5年分の所得税についての確定申告(以下「本件確定申告」という。)とこれに対する各課税処分及び不服申立の経緯は、別表1記載のとおりである(なお、原告が、平成9年12月2日付けで、納税地を肩書地に異動した旨の所得税[消費税]の納税地異動の届出書を被告に提出したことに伴い、原処分庁は、豊島税務署長から被告になった。以下、被告が原告に対し平成8年9月30日付けで行った平成5年分の所得税の更正処分[平成12年10月30日付け裁決により一部取り消された後のもの。]を「本件更正処分」、重加算税の賦課決定処分[同上裁決により一部取り消され、その後、さらに平成13年3月14日付けで変更決定された後のもの。]を「本件賦課決定処分」、平成5年分の所得税の無申告加算税の賦課決定を重加算税の賦課決定に変更した変更決定処分を「本件変更決定処分」といい、本件更正処分、本件賦課決定処分及び本件変更決定処分を併せて「本件課税処分」という。)。

(2)  本件課税処分の根拠及び適法性に関する被告の主張及びそのうちで争いのない事実

ア 本件更正処分

(ア) 総所得金額 1億8339万1241円

a 原告の平成5年分の総所得金額の内訳は、別表2のとおりである(事業所得の金額を除く各種所得の金額は、当事者間に争いがない。)。

b 事業所得の金額 1億8004万6241円

(a) 原告は、屋号を「A」とする貸金業を営んでいたところ、その貸金業に係る事業所得の金額の内訳は、別表3のとおりである(総収入金額を除く必要経費の金額は、当事者間に争いがない。)。

(b) 総収入金額は、原告が、貸付先から利息及び事務手数料等の名目で受け取った金額であり、その内訳表は、別表4のとおりである(この利息収入等のうち、乙からの利息収入等1億5850万円を除くその余の利息収入等の金額は、当事者間に争いがない。この利息収入等1億5850万円の有無が、本件の争点であり、この点については後に判断する。)。

(イ) 納付すべき税額

a 算出税額 8762万0500円

上記(ア)の総所得金額1億8339万1241円から当事者間に争いがない所得控除の額35万円を控除して算出した平成5年分の課税総所得金額(ただし、国税通則法(以下「通則法」という。)118条1項により千円未満の端数を切り捨てた後のもの。)に、所得税法89条(平成6年法律第109号による改正前のもの。)を適用して計算される金額である。

b 源泉徴収税額 29万9500円(当事者間に争いがない。)

c 納付すべき税額 8732万1000円

納付すべき税額は、aの算出税額からbの源泉徴収税額を控除した上記金額(通則法119条1項により100円未満の端数を切り捨てた後のもの。別表1該当欄参照)であるから、本件更正は、適法である。

イ 本件賦課決定処分

(ア) 原告は、「A」の屋号で貸金業を営んでいたが、元従業員の丙の名義で貸金業者の登録を行い、実際の貸付業務においては、貸付先所有の担保不動産に、従業員の丁等の名義を使用して抵当権等を設定する等、原告がAの実質経営者であることを秘匿する仮装行為を行い、その所得を隠蔽した事実が認められ、かつ、当該貸金業から生じた事業所得として申告すべき多額な所得があったにもかかわらず、法定申告期限までに所得税の確定申告書を提出しなかった。

このことは、通則法68条2項の規定に該当する。

(イ) 本件賦課決定処分の重加算税の額は、本件更正処分により新たに納付すべき税額(上記「重加算税対象税額」)を基礎として、通則法68条2項の規定に基づき、次のとおり課されるべきものである。

a 重加算税対象税額 8502万円

重加算税対象税額は、原告の平成5年分の納付すべき税額である前記8732万1000円から、確定申告による納付すべき税額229万3300円を控除した上記金額(ただし、通則法118条3項の規定により1万円未満の端数を切り捨てた後のもの。)である。

b 重加算税の額 3400万8000円

重加算税の額は、aの重加算税対象税額に、通則法68条2項に規定する100分の40の割合を乗じて計算した上記金額である(別表1該当欄参照)。

(ウ) 以上のとおり、被告が本訴で主張する重加算税の額は、本件賦課決定処分の金額と同額であるから、本件賦課決定処分は、適法である。

ウ 本件変更決定処分

(ア) 被告は、原告から平成6年12月9日に平成5年分の期限後申告書(以下「本件期限後申告書」という。)が提出されたことに伴い、平成7年1月31日付けで通則法66条3項に規定する無申告加算税の賦課決定処分を行ったが、本件期限後申告書は、原告が査察部の調査を受けた翌日に提出されたものであり、原告において、自己の所得を認識し、決定があるべきことを十分了知した上で提出されたものである。

また、原告の隠蔽仮装行為については、上記イの(ア)のとおりであり、本件期限後申告書の提出に伴い納付すべきこととなった税額については、同法68条2項に規定する重加算税が適用されることになる。

(イ) 本件変更決定処分の重加算税の額は、期限後申告書の提出により納付すべき税額となった229万円(ただし、通則法118条3項の規定により1万円未満を切り捨てたもの。)に、通則法68条2項に規定する100分の40の割合を乗じて計算した金額91万6000円となるから(別表1該当欄参照)、本件変更決定処分は、適法である。

3  当事者の主張

(1)  被告

ア 原告が、乙に対して行った貸付に係る平成5年分の利息収入等は、以下のとおりであり、合計1億5850万円である。

(ア) 6億円の貸付について(別表5・№1参照)

原告は、平成5年3月31日、乙に対し、6億円を貸し付けた。その際、乙は、原告に対し、上記借入に際して利息分として天引きされた1200万円と現金600万円の計1800万円を、上記6億円の借入に対する日歩3%の利息として支払った。

したがって、原告の乙に対する上記6億円の貸付金の利息として受領した1800万円は、原告の平成5年分の利息収入となる。

(イ) 5億円の貸付について(別表5・№2参照)

原告は、同年4月13日及び同月23日、乙に対し合計5億円を貸し付けた。すなわち、乙は、原告に対し、乙の知人である戊が代表者を務めるB株式会社が振り出した2億円と3億円の2枚の手形(乙7号証の1、2)及び戊所有の不動産を担保として提供した上で、原告から合計5億円を借り入れたものである。

そして、乙は、平成5年4月13日、戊の事務所において、原告から、貸金3億円に対する利息として月3%の3か月分である2700万円を差し引いた2億7300万円を現金で受領し、その際、乙は、原告に対し、更に、事務手数料名目で600万円、利益分配の前取り分として2000万円を支払った。

また、乙は、同月23日、戊の事務所において、原告から、貸金2億円に対する利息として月3%の3か月分である1800万円を差し引いた1億8200万円を現金で受領し、その際、乙は、原告に対し、更に、前記と同様に、利益分配の前取り分として600万円を支払った。

その後、乙は、上記貸金合計5億円に対する利息として、原告に対し、同年7月から9月にかけて、毎月1500万円ずつを支払い、同月末に上記5億円を返済した。

したがって、原告は、乙から、上記5億円の貸付金について、6か月分の利息として9000万円、事務手数料名目で600万円、利益分配金として2600万円の計1億2200万円を受け取っている。そのうち、平成5年4月13日の利益分配金2000万円については、1000万円が、原告が代表を務める株式会社Cの収入として計上されているため(乙14号証、15号証)、その差額の1億1200万円が原告の平成5年分の収入となる。

(ウ) 2億5000万円の貸付について(別表5・№3参照)

原告は、戊所有の不動産及びその子会社であるD株式会社の手形を担保として、乙に対し、平成5年7月に1億5000万円、同年9月に1億円を貸し付けた。

乙は、原告に対し、上記1億5000万円については、月3%の割合による450万円の利息を支払い、同年9月には元本を返済した。また、上記1億円については、月3%の割合による300万円の利息を支払い、同年11月には元本を返済した。

したがって、原告は、乙から、上記1億5000万円の貸付金に対する利息として450万円、上記1億円の貸付金に対する利息として300万円を受け取っており、その合計750万円は、原告の平成5年分の収入となる。

(エ) その他の利益分配金について(別表5・№4参照)

乙は、上記(ア)ないし(ウ)の利息収入等のほかに、原告からの借入に係る利益分配金として、原告に対し、平成5年10月19日に1000万円、同月30日に1000万円、同年12月27日に1000万円、同日に100万円をそれぞれ現金で支払った。

したがって、原告は、乙から、利益分配金として合計3100万円を受け取っているが、平成5年12月27日の利益分配金1000万円については、原告の従業員である丁が代表者を務める株式会社Eの収入として計上されているため(乙18号証、19号証)、差額の2100万円が原告の平成5年分の収入となる。

イ 後記別件訴訟における乙の請求放棄に関する原告の主張について

(ア) そもそも、請求の放棄とは、訴訟物である権利自体に関するものであって、主張又は事実に関するものではないのであり、放棄調書における請求放棄の記載の効力も、同様に訴訟物である権利自体について生じるにすぎない。

よって、別件訴訟に係る放棄調書の効力も、乙の原告に対する不当利得返還請求権に基づく1億6237万8536円の支払請求権(及びこれに対する遅延損害金)について生ずるにすぎず、別件訴訟において乙が原告に対する請求を放棄したことにより、原告の乙に対する当該貸付の有無ないしその金額、利息金支払請求権の有無ないしその金額等が確定されたものと解することはできない。

(イ) また、別件訴訟において、乙が原告に対する請求を放棄するに至ったのは、原告から貸付を受けた事実及び利息金を支払った事実が存在しないとして、原告に対する前記不当利得返還請求権が存在しないことを認めたことによるのではなく、原告から一定の和解金を受領したことによるものと推認されるから、別件訴訟は、形式的には乙の請求の放棄によって終了しているとしても、実質的には訴訟外の和解によって終了したものと解すべきものである。

したがって、乙が別件訴訟における請求を放棄したことをもって、同人が本訴原告からの借入の事実自体存在しないことを認めたものと解することができないから、原告の主張は、失当である。

(2)  原告

被告の主張は、いずれも争う。

ア 原告は、いわゆる総会屋であるFの息子の乙と平成5年当時親しい関係にあったため、乙が総会屋Fの力を背景に、原告に紹介してきた会社、個人に対して、原告が金銭の貸し付けるという関係があった。

そのため、原告と乙との間で金銭の出し入れがあったかのような状況にあるが、現実の借主は、B株式会社又はGであり、乙に対しての金銭の貸借は全くなかった。

原告が、乙が関与している関係で、平成5年度に現実に得た利息収入は、前記H協同組合からの416万円のほかは、(1)I信用組合に関連するB株式会社ないしGに対する貸付からの利息収入金600万円(別表5・№1について)、(2)パチンコ店の両替の事業に関連するB株式会社ないしGに対する貸付からの利息収入金6500万円(別表5・№2について)のみである。

(ア) 6億円の貸付について(別表5・№1参照)

原告は、乙が作成したI信用組合の口座に、平成5年3月31日、2800万円の現金を入金し、更に、5億6000万円を振込入金した。それ以前に戊が1200万円を同口座に振り込んでいたため、6億円の預金が一旦された。その後、同年4月1日、原告は、戊が振り込んだ現金から600万円を利息として同人から領収した。

したがって、この貸金の借主は、B株式会社ないしGであり、かつ、原告の利息収入は、600万円だけである。

(イ) 5億円の貸付について(別表5・№2参照)

原告は、乙の紹介で知り合ったB株式会社ないしGから、その経営するパチンコ店の景品交換の事業のため融資の依頼を受け、平成5年4月13日に3億円、同月23日に2億円を同人らに貸し渡した。

原告は、3億円について、月3分の割合による2700万円、2億円について、月3分の割合による1800万円の合計4500万円のほか、合計1500万円の損害金をB株式会社ないしGから領収した。

したがってこれら貸金の借主は、B株式会社ないしGであり、かつ、原告の利息等としての受取金は、6500万円だけである。

株式会社Jという会社は、何ら実体のない会社で、同社が運転資金に5億円の資金を必要としていないこと、5億円の貸付のための担保の設定及び決済は明らかにB株式会社によってされていることからみて、乙が上記借入の借主でないことは明白である。

(ウ) 2億5000万円の貸付について(別表5・№3参照)

原告が、乙に対し、平成5年7月に1億5000万円、同年9月に1億円を貸し渡した事実及び原告が乙から750万円の利息を取得した事実はない。

(エ) その他の利益分配金について(別表5・№4参照)

原告が、乙から、平成5年10月19日に1000万円、同月30日に1000万円、同年12月27日に1000万円、同日に100万円を受け取った事実はない。

イ 乙は、平成11年8月3日頃、東京地方裁判所に、原告を被告として、乙が、原告に対し、上記の貸付等に際して支払った利息は、利息制限法の定める利率を超過して支払われたものであり、超過して支払った利息及びその他の名目で支払ったもので、残存元本の支払を完了して後になお支払った部分については、不当利得として超過部分債務が存在を返還すべきであると主張して、合計1億6101万2098円の過払利息等の返還を求める訴訟を提起した(同地裁平成11年(ワ)第17246号、以下「別件訴訟」という。)。

しかし、同訴訟は、乙及び本訴原告の尋問終了後の第9回口頭弁論(平成13年7月23日)において、乙は請求に理由がないことを認めて、請求を放棄した。

したがって、この請求の放棄に、例え、既判力ないし争点効が生じないとしても、同一の争点については、訴訟上の信義則が認められると解すべきであるから、原告が本訴において、乙関連の利息収入等の項目で主張している利息収入は、一切存在しないと考えるべきである。

第3争点に対する判断

1  証拠(甲9号証ないし12号証、14号証、15号証、乙2号証ないし4号証、5号証の1及び2、6号証、7号証の1及び2、8号証、13号証)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実を認めることができる。

(1)  原告は、昭和55年頃から、丙を代表者とする「A」の屋号で、実質的に貸金業を営んでいた。

また、原告は、I株式会社という不動産関係の会社の代表取締役の地位につき、同社を経営していた。

(2)  原告と乙は、平成3年ころから、親しく付き合うようになっていたところ、乙は、I信用組合に大口預金をして信用をつけ、将来、融資を受けようと考え、原告から、平成5年3月31日、6億円を借り入れた。

その際、原告は、乙から、上記6億円に対する日歩3%の利息として、天引分の1200万円と現金600万円の計1800万円を受け取った。すなわち、乙は、同日、1000円を入金して、同人名義でI信用組合赤坂支店の普通預金口座を開設し、乙が他の者から借り入れた1200万円を入金した通帳を原告に見せ、原告が、これを確認した上、手持ちの現金2800万円を入金した。その後、原告は、同日、6億円から天引き分1200万円及び上記2800万円を除いた5億6000万円を同口座に入金した。

乙は、平成5年4月1日、原告に対し、6億円を返済した。

(3)  乙は、土地開発事業を行っている会社等に融資するため、原告に対し、乙の知人である戊が代表を務めるB株式会社が振り出した3億円の約束手形(乙7号証の1、同約束手形は、金額3億円、満期平成5年9月1日、振出日平成5年4月13日、最終裏書人乙となっている。)と2億円の約束手形(乙7号証の2、同約束手形は、金額2億円、満期平成5年9月1日、振出日平成5年4月23日、最終裏書人乙となっている。)及び戊所有の不動産を担保として提供した上で、原告から合計5億円を借り入れた。

すなわち、乙は、平成5年4月12日、原告の事務所において、上記5億円の借用書及び上記戊所有の不動産に抵当権を設定するための書類を作成し、同月13日、原告と共に戊の事務所において、上記3億円の約束手形と引換に、原告から、3億円に対する利息として月3%の割合による3か月分である2700万円を差し引いた2億7300万円を現金で受領した。その際、乙は、原告に対し、事務手数料名目で600万円、利益分配の前取り分として2000万円を支払った。

更に、乙は、同月23日、戊の事務所において、上記2億円の手形と引き換えに、原告から、2億円に対する利息として月3%の割合の3か月分である1800万円を差し引いた1億8200万円を現金で受領した。その際、乙は、原告に対し、利益分配の前取り分として600万円を支払った。

その後、乙は、5億円に対する利息として、平成5年7月から9月にかけて毎月1500万円を原告に支払い、同月末に上記5億円を返済した。

(4)  乙は、自らが主宰する株式会社Jの運転資金として、戊所有の不動産及びその子会社であるD株式会社の手形を担保として、平成5年7月に1億5000万円、同年9月に1億円を原告から借り入れた。

乙は、上記1億5000万円の借入については、原告に対し、利息として月3%の割合による450万円を支払い、平成5年9月には、元本を返済した。また、上記1億円の借入については、原告に対し、利息として月3%の割合による300万円を支払い、平成5年11月には、元本を返済した。

(5)  乙は、原告からの借入に係る利益分配金として、原告に対し、平成5年10月19日に1000万円、同月30日に1000万円、同年12月27日に1000万円、同日に100万円をそれぞれ現金で支払った。

(6)  乙は、原告が上記の貸金返済に際し、一切領収証を渡さないため、平成6年7月26日頃、原告の関与のもとで、確認書(乙4号証)、領収証(乙5号証の1)及び領収証に別紙書面として割印され添付されているメモ(乙5号証の2)を作成させた。

上記確認書には、原告が、乙に対し、平成5年3月31日の預金6億円の預入れの金銭を提供しているのは原告である旨の記載があり、原告の署名がある。また、上記領収証には、原告が、乙に対し、平成4年度ないし6年度分の利息等として1億9350万0000円を領収した旨の記載があり、上記メモには、「甲さん」との標題のもと、「H5 4/13 2000万、4/13 600万 事務手数料、4/23 600万」「H5 3/31 1800万 金利、9/30 9000万 〃(金利の意味であると推認される。)」の記載があり、原告の署名がある。

(7)  原告は、平成6年10月27日、それまで、実質的にはAの屋号で、原告個人として貸金業を行っていたにもかかわらず、所得税の申告を個人として行っていなかったため、K税理士に依頼し、平成2年分、平成3年分及び平成5年分の所得税の確定申告をした。

2  以上の事実認定に関し、原告は、6億円の貸付(別表5・№1)及び5億円の貸付(別表5・№2)について、B株式会社ないし戊に貸し付けたものであるとし、また、2億5000万円の貸付(別表5・№3)、その他の利益分配金について(別表5・№4)は、そのような事実はないと主張し、原告の陳述書(甲9号証、10号証)及び甲15号証(別件訴訟における原告の本人尋問調書)は、これに沿う。

そして、上記原告の供述等は、前記乙5号証の1及び2に反するところ、原告は、これらの書証について、乙がFの息子であること及び乙が当時原告所有の不動産に同人の関係する暴力団関係者と見られる人物に勝手に抵当権の設定仮登記をつけて、それを抹消するため1億円を支払えなどと脅迫したことから、やむを得ず書いたものであり、乙5号証の2については、Fの事務所の事務員が、F及び乙の言うがままメモしたもので、何ら裏付けとなる根拠のない数字を羅列した書面であり、それをもとに乙が原告を脅迫して乙5号証の2に署名捺印させたなどと同陳述書等において弁解している。

しかし、原告の弁解のとおり、原告の借主がB株式会社ないし戊であり、乙が実際に高額の利息を支払った事情が全くないとすると、乙が、敢えて原告を脅迫までして、原告に乙5号証の1及び2の各書面を作成させ、これを所持しておく利益があるのか疑問であり、原告の弁解は、これらに原告が署名した理由を合理的に説明するものとはいえない(そもそも、乙が原告を脅迫したことを認めるに足りる的確な証拠もない。)。更に、原告は、平成5年度に乙に対し金銭を貸し付けたことはないことの理由として、その当時乙が25歳位と若く、返済能力や資産がなかったことを挙げているが、他方で、原告自身も、6億円の貸付について、戊と初対面であったことから、乙名義の口座を開設し、乙の口座に入金したとして、乙に対する信用をもとに戊に貸し付けたとする説明を加えていることからすれば、前記のような理由は、乙に対する貸付を否定する根拠としては薄弱であり、他に乙に対する貸付を否定する事情を認めるに足りる証拠は、見当たらない。

そうすると、上記原告の弁解に沿う証拠は採用することができず、前記各証拠及び弁論の全趣旨に照らし、上記のとおり認定するのが相当というべきである。

3  原告は、乙が別件訴訟を提起しておりながら、乙及び原告の尋問終了後の口頭弁論期日において、請求を放棄したのは、乙が、当該請求に理由がないことを認めたことを意味するものであり、同訴訟において、乙関連の利息収入等の項目で主張されている利息収入(本訴に係る利息収入はこれに含まれている。)は一切存在しないと考えるか、少なくとも、訴訟上の信義則に基づき、本訴においても、同一の判断がされるべきであると主張する。

甲5号証ないし8号証によれば、乙が別件訴訟を提起しながら、請求を放棄したことを認めることができるが、乙8号証及び弁論の全趣旨によれば、別件訴訟において乙が原告に対する請求を放棄するに至ったのは、訴訟外で乙が原告から400万円の和解金を受領したことに由来するものであることが認められることからすると、別件訴訟は、形式的には、乙の請求の放棄によって終了しているものの、実質的には、訴訟外の和解によって終了したものと理解すべきものである。

したがって、乙が別件訴訟における請求を放棄したことをもって、乙が、原告からの借入の事実自体が存在しないことを認めたものと認めることはできないから、上記放棄の事実をもって、原告の乙からの利息収入等の事実を否定することはできないものというべきである。のみならず、別件訴訟とは当事者の異なる本訴において、別件訴訟における何らかの判断が、訴訟上の信義則を根拠として、本訴に影響を及ぼす根拠も見当たらない。

4  本件課税処分の適法性について

(1)  以上の事実関係によると、原告の乙からの平成5年分の利息収入等は、被告主張のとおり、ア 6億円の貸付けに係る1800万円、イ 5億円の貸付に係る1億1200万円、ウ 2億5000万円の貸付に係る750万円、エ その他の利益分配金として2100万円の合計1億5850万円と認めることができるものというべきである。

そうすると、原告の平成5年分の総所得金額は被告主張のとおりとなり、当時施行の所得税法等に従って算出された納付すべき税額は、被告主張のとおり、8732万1000円となる。

したがって、本件更正処分は適法である。

(2)  また、前記の事実関係によると、原告は、「A」の屋号で貸金業を営んでいたが、元従業員の名義で貸金業者の登録を行い、実際の貸付業務においては、貸付先所有の担保不動産に、従業員の名義を使用して抵当権等を設定する等、原告がAの実質経営者であることを秘匿する仮装行為を行い、その所得を隠蔽したものであり、かつ、当該貸金業から生じた事業所得として申告すべき多額な所得があったにもかかわらず、法定申告期限までに所得税の確定申告書を提出しなかったものであるから、通則法68条2項の規定に該当するものというべきである。

そうすると、被告主張のとおり、重加算税対象税額は、8502万円となり、重加算税の額は、3400万8000円となり、被告が本訴で主張する重加算税の額は、本件賦課決定処分の金額と同額であるから、本件賦課決定処分は、適法である。

(3)  更に、被告は、原告から平成6年12月9日に本件期限後申告書が提出されたことに伴い、平成7年1月31日付けで通則法66条3項に規定する無申告加算税の賦課決定処分を行ったが、弁論の全趣旨によると、本件期限後申告書は、原告が査察部の調査を受けた翌日に提出されたものであり、原告において、自己の所得を認識し、決定があるべきことを十分了知した上で提出されたものと認めることができる。また、原告の隠蔽仮装行為については、前記のとおりであり、本件期限後申告書の提出に伴い納付すべきこととなった税額については、同法68条2項に規定する重加算税が適用されることになる。

そして、本件変更決定処分の重加算税の額は、被告主張のとおり、91万6000円となるから、本件変更決定処分も、適法である。

5  結論

よって、原告の請求は、いずれも理由がないから、これを棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 田中壯太 裁判官 松田浩養 裁判官 菱山泰男)

別表1

本件課税処分の経緯 (単位:円)

file_2.jpgmB 34, 532, 000 916, 000 183, 391,24 000 34, 012, 000 fia 34, 008, 000(注)「異議申立て」、「同上決定」、「審査請求」及び「同上裁決」欄の下段は、平成8年9月30日付けの加算税の変更決定処分に係るものである。

別表2

file_3.jpg1(@8004%62417 33455000M 5 or a) 1@8 339712417)

別表3

file_4.jpgBear # i 2i82 772794217 fl 417588807 é 12043008 30050000F = a © 190070000H ia 1000700008 RE 1038070000F 4768531808 ERR AC 188004562417

別表4

利息収入等の内訳 (単位:円)

file_5.jpgNo] $8 tt 4 EI H a om & 4, 160, 000 L 158, 500, 000 2] # 4 2 25, 877, 419 3 M 12, 800, 000 4 x OR N 7, 910, 000 3 ° 6, 580, 000 6 P 4, 235, 000 7 @ 2, 221, 000 8 R 000 9 s 1, 560, 000 0 r 750, 000 u u 600, 000 B v 421, 002 L w 300, 000 u x 165, 000 zt 227, 729, 421

別表5

乙からの利息収入等の内訳 (単位:円)

file_6.jpga & 5.331 00, 000, 000

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