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さいたま地方裁判所 平成14年(わ)1056号 判決 2003年2月07日

主文

1  被告人両名をそれぞれ無期懲役に処する。

2  被告人両名に対し,未決勾留日数中160日をそれぞれの刑に算入する。

3  被告人Xから,押収してある工具(くぎ抜き)1本(押収番号省略)を,被告人Yから,押収してある特殊警棒1本をそれぞれ没収する。

理由

(被告人両名の身上,経歴等)

1  被告人Xについて

被告人Xは,昭和34年埼玉県a市で出生し,1歳の時に養夫婦の養子となり,昭和53年3月県内の私立高校を卒業し,同年4月,A警備会社に就職して同社のb支社やc支社等で勤務し,警備員や機動隊員としてd市市民会館や(現)B銀行e支店,f支店等の警備を担当するなどしていた。同被告人は,A社に勤務していたころから,パチンコ遊びに興じてサラ金から借金を重ね,平成4年に婚姻して長男をもうけた後も生活態度は改まらず,養父に借金の返済を肩代わりしてもらうなどしたものの,それでもパチンコをやめず,再び多額の借金を抱えるようになり,弁護士に依頼して債務整理をしてもらったり,妻の実家の援助で借金の整理をするなどしていた。平成8年6月,同被告人は,機動隊勤務から営業課に配置換えとなり,給料が減額となったことに不満を抱いて,平成9年7月A社を退職したが,支給された退職金を1年もたたないうちにパチンコなどに使い果たし,別の警備会社に勤務したものの1年ほどでそこも辞め,平成10年12月からタクシー会社に勤務して月に20万円余りの収入を得ていたが,相変わらずパチンコに明け暮れする生活を続け,そのため妻とのけんかも絶えず,平成11年,妻が長男を引き取って離婚した。離婚後,単身となった同被告人は,養父の住むg市内のマンションで生活するようになったが,それまで以上にパチンコにのめり込み,そのため,借金を返済するために更に借金を重ねるなどし,平成13年3月ころ,病気療養中の養父に再び借金の返済を肩代わりしてもらった。

同年5月,養父が死亡し,居住していたマンションを相続した同被告人は,このころにはパチンコに飽きてメダルを使ったゲームに熱中し,自宅近くのゲームセンターC店に入り浸っていたが,ゲーム代などを得るためにまたしてもサラ金から借金を重ねるようになり,平成14年2月には自宅のマンションに根抵当権を設定してサラ金から500万円を借り入れ,それまでの借金の返済をしたものの,新たに借り入れた借金の月々の返済や離婚の際に妻との間で合意した長男の養育費等の支払のために,タクシー会社からもらう給料のほとんどを充てざるを得ないひっ迫した経済状態となっていた。

2  被告人Yについて

被告人Yは,中国人の移民としてマレイシアで出生し,地元の小学校を中退した後,アルバイトをしていたが,実家が貧しかったことから,平成11年4月12日,金員を稼ぐ目的で,短期滞在の資格で本邦に入国し,肩書き住居地で実妹たちと同居して解体作業等の仕事に従事して本国に送金するなどしていた。同被告人は,在留期間が経過した後も本邦に残留していたが,平成13年ころからは仕事もなくなり,暇つぶしに前記ゲームセンターC店に入り浸るようになり,同年11月ころ,同店で被告人Xと知り合い,同被告人からメダルを分けてもらったりして,一緒にメダルゲーム等に興ずるなどしていた。

(出入国管理及び難民認定法違反の罪となるべき事実)

第1被告人Yは,マレイシアの国籍を有する外国人で,平成11年4月12日,同国政府発行の旅券を所持し,愛知県h町所在のi空港に上陸して本邦に入ったものであるが,在留期間は同年7月11日までであったのに,同日までに上記在留期間の更新又は変更を受けないで本邦から出国せず,平成14年5月19日まで埼玉県g市に居住するなどし,もって,在留期間を経過して不法に本邦に残留したものである。

(建造物侵入,強盗殺人,窃盗の犯行に至る経緯)

1  被告人Xが犯行を決意するまでの経緯

被告人Xは,前記のとおり,平成14年2月ころには,自宅のマンションに根抵当権を設定して新たに借り入れた500万円の返済や,妻が引き取った長男の養育費等の支払のために,支給される給料だけでは生活費にも事欠くようなひっ迫した状態となっていたが,これまで借金の肩代わりをしてくれた養父も既に他界しておらず,他に頼れる者もなく,さりとて自分の見栄から離婚した妻に対して月々の養育費の減額を申し出ることもできず,このままでは担保に入れた自宅のマンションを手放すことになるかも知れないなどと次第に追い詰められた気持ちになっていた。そして,同年3月ころには,同被告人は,借金の返済や養育費等の支払に早く目処をつけ,唯一の楽しみであるゲームなどで遊ぶ金員を手に入れるために,銀行から金員を盗み出そうなどと考えるようになり,かつてAに勤務していた当時の知識や経験から,A警備会社の警備員を襲って同社が警備を受託している銀行の合いかぎを奪い,そのかぎを使って銀行に侵入して,現金を盗み出すことを考えた。そして,同被告人は,犯行の時期や方法,手順などをあれこれ考えた末,週末や連休前には,その間の現金自動預払機からの現金の引出に備えて,銀行の予備金庫の中に2000万円ほどの現金を入れた予備の紙幣カセットが用意されるので,多額の現金が準備されるゴールデンウィークの前の時期をねらい,警備員からかぎを奪う方法としては,巡回の際にあらかじめ決められている待機場所に警備車両を駐車させている警備員に話しかけて車外におびき出し,油断したすきに背後から襲い掛かることにし,かつてA社c支店に勤務していた当時,同被告人自身が巡回警備を担当して警備員の待機場所や建物内部の構造をよく知っているB銀行j支店k出張所をねらうことにした。

2  被告人両名による犯行の共謀状況

被告人Xは,こうして犯行計画を立てたものの,警備員から確実にかぎを奪うには手助けする人間がいた方がよいと考えて,共犯者を加えることにし,ゲームセンターC店で顔見知りとなっていた被告人Yを思い出し,同被告人が外国人であることから,捜査が及びにくいのではないかとも考え,仕事もなく,金員を欲しがっていた同被告人を誘うことにした。そこで,被告人Xは,同年4月2日午後9時ころ,C店に行き,店内で遊んでいた被告人Yに対して,「仕事あるよ」「おいしい仕事」「お金いっぱい」などと話し掛け,興味を示した同被告人を店外に連れ出すと,さらに,身振り手振りを交えて,ガードマンを殴ってかぎを奪い,銀行から現金を盗み,何千万円も手に入れる計画を説明した。この話を聞いた被告人Yは,ガードマンの人数や防犯カメラの作動状況などを被告人Xに確かめるなどした後,「俺,やる」などと答えた。被告人Xは,被告人Yの返事を聞いて,外国人であれば,けん銃を入手できるかも知れないと考えて,被告人Yに対して,手振りをしてけん銃を持っているか尋ねたところ,被告人Yは,けん銃を持っていないと答えたが,被告人Yは,被告人Xとのこうしたやり取りから,同被告人が,ガードマンを殺害するつもりであることを認識した。

その後,被告人Xは,被告人Yを介して,同被告人の知り合いの外国人を仲間に引き入れようとしたものの断られ,結局,被告人Yと二人で犯行を行うことにしたが,被告人Yが日本語があまり理解できないことから不安を覚え,十分に打合せをしておく必要があると考え,同月8日夜,JR線g駅前のカラオケ店に被告人Yを連れて行き,店内の個室で,被告人Yに犯行の手順等を十分に理解させるため,身振り手振りを交えながら,自分が,ガードマンに話し掛け,そのすきをみて合図をしたら,ガードマンの後頭部を棒などの固い物で何度も殴るなどと具体的に犯行の手順を説明した。これに対し,顔を見られたらどうするかと不安に思った被告人Yが,「死んだら,どうする」「目見る,目見る」などと聞き返してきたので,被告人Xは,被告人Yに,「死んでも大丈夫」「死んでる,いいよ」などと言って,ガードマンを殴って殺害してしまえば,顔を見られてもかまわない旨被告人Yに伝えたところ,被告人Yも,捕まらないようにするためには,ガードマンを殺害するほかないと考えるに至り,ここに,被告人両名の間で,警備員を殺害して,所持している合いかぎを奪うことの共謀が成立した。

3  被告人両名が犯行の下見を行った状況

こうして被告人Xの説明を了解した被告人Yは,警備員を殴るために使用する凶器として,持っていた特殊警棒を用いることとし,被告人Xにこれを見せるなどして犯行の準備をしていたが,一方,被告人Xは,被告人Yが先に説明した犯行の計画を正確に理解しているのかなお不安があったことから,同被告人に犯行の段取りを十分に理解させるために,同月15日,現場の下見をすることにし,自己の使用する営業車であるタクシーに被告人Yを乗せて,警備員の待機場所であるj霊園駐車場に赴いた。そして,同所で,被告人Xは,被告人Yに対して,待機中の警備員を警備車両から車外におびき出し,棒等で殴打するなどして襲い,警備車両やかぎ等を奪い,警備員を車のトランクに入れて銀行に向かう旨改めて説明し,その後,被告人Yを連れて,B銀行j支店k出張所に向かったが,同出張所が移転して見当たらなかったことから,計画を変更して,かつて警備を担当したことのあるB銀行f支店から金員を窃取することにし,同支店の所在場所を確認した後,警備員の待機場所となっている西武線m駅近くのl店の駐車場で警備員を襲うことにして,下見を終えた。そして,同月20日ころ,被告人Xは,連休前の4月26日の夜に犯行を実行に移すことにし,その旨被告人Yに伝え,JR線g駅付近の雑貨で手袋や凶器として使用する工具(くぎ抜き)を購入して,自宅にあったガムテープなどとともにリュックサックに入れて準備を整えていた。

4  同月26日にいったん犯行を断念した状況

こうして犯行を計画し,同月26日を迎えた被告人両名は,それぞれ前記工具や特殊警棒,着替え等を入れたリュックサックを携えた上,前記C店で待ち合わせ,JR線を利用してn駅まで向かい,同駅からタクシーで前記l店の近くまで行き,徒歩で同店に向かったが,しばらく待ってみても,同店の駐車場に警備員の姿が見当たらなかったことから,同所で警備員を襲うことを断念し,当初計画していたとおり,前記j霊園の駐車場で警備員を襲い,B銀行のj支店で現金を窃取しようと考え,タクシーを拾って同霊園に赴いたが,ここにも警備員の姿はなく,再度上記l店に向かったものの,またも警備員の姿がなかったことから,被告人Xは,この日は犯行をあきらめ,同被告人の次の非番である同月29日に再度犯行に及ぶことにして,その旨被告人Yに伝え,同県g市内まで戻った。被告人Xは,この日の経験から,電車やタクシーでは行動が不便であったことから,翌27日,同市内のレンタカー会社に行って同月29日午後6時から翌30日午前6時までレンタカーを予約して,犯行当日の訪れるのを待った。

5  同月29日の犯行に至る経緯

同月29日夕方,被告人Xは,予約していたレンタカーを借りて自宅マンションの駐車場に止め,用意した工具等を入れたリュックサックを積み込み,同日午後10時ころC店で被告人Yと落ち合い,しばらくゲームをするなどして時間をつぶした後,同日午後11時50分ころ,被告人Yをレンタカーに乗せて前記l店に向けて出発した。被告人Xは,走行中の車内で,Aに勤務していた当時,B銀行f支店からほど遠くない同銀行e支店でも紙幣カセットの交換作業をしたことがあることを思い出し,lの駐車場で首尾よく警備車両を見付けることができなかった場合には,同銀行のe支店をねらおうと考え,その場合には,同支店を担当する警備の待機場所であった同県d市内の国道沿いの自動車用品販売店のo店の駐車場で警備員を襲うことにした。翌30日午前零時40分ころ,被告人両名はl店に到着したが,同店の駐車場にAの警備車両が止まっていなかったことから,被告人Xは,計画を変更して,被告人Yをレンタカーに乗せ,直ちにo店の駐車場に向かった。

同日午前1時ころ,被告人両名は,o店の駐車場に到着したが,ここでもAの警備車両を見付けることができなかったため,被告人Xは,かつての待機場所が変更されたのではないかと考えたものの,犯行計画を成功させるまでは一歩も引けない,何としてでも警備員を襲ってかぎを奪い,銀行から現金を手に入れてやろうとの決意から,計画を変え,A社が機械警備を行っている建物などに侵入して,わざと警報装置を作動させ,異常発報に対応して臨場してきた警備員を現場で襲うことにし,屋外警報機が設置されている最寄りの施設にd市市民会館があることを思い出し,そこに設置されている屋外センサーを作動させて警備員を同会館におびき出すことにした。そこで,被告人Xは,被告人Yに対して,「別のところに行くぞ。そこで,ガードマン呼ぶからな」などと言って,直ちにレンタカーで同会館に向かい,同日午前1時過ぎころ,同会館脇にレンタカーを止めると,被告人Yに対して,殴るまねをしながら,この場で警備員を襲うことを告げ,それぞれくぎ抜きや特殊警棒を携えて同会館に向かった。そして,被告人Xが同会館に設置されていた屋外センサーの支柱の間を歩き回ってこれを感知させた後,被告人両名は,同会館の向かい側にある農協の敷地内に潜んで警備員が駆け付けてくるのを待ち受けた。

一方,同日午前1時10分ころ,同会館の異常発報を受信したA社のガードセンターでは,直ちに,同会館を担当区域とする巡回警備に従事していた警備員のVに対して,現場に急行するように指示し,これを受けた同人は待機場所から同会館へ警備車両を走らせた。同日午前1時18分ころ,Vは,同会館前に到着し,警備車両を停車させて同会館の様子を確かめるために見回りに向かったが,制服姿のVが現れたことを認めた被告人両名は,同会館の建物に近付きながら同人の動静をうかがっていた。

被告人Xは,Vが警報装置の点検など見回りを終えて警備車両に戻ったところで,同人に声を掛けて襲おうと考えていたが,Vが,センサーの点検を入念に行い,なかなか警備車両に戻って来ないことから,しびれを切らして,被告人Yを伴って同会館前路上まで行き,かねての計画どおり,Vに対して,バッテリーのブースターケーブルを貸してほしいなどと言って声を掛けたところ,Vから,点検が終わってからにしてほしいと言われたため,やむなくこれを了承し,同会館の見回りに行ったVが戻ってくるのを待っていた。被告人Xは,同日午前1時51分ころ,同会館の見回りを終えて,異常がないことを確認したVが,同会館正面玄関脇の事務室でヘルメットを脱いで,電話をかけている姿を同会館の外階段の脇から見掛けたことから,正面玄関の扉が施錠されていない今なら,同会館内に侵入して,無防備のVを襲撃できると考え,同人が電話を終えたのを機に,被告人Yとともに同会館の正面玄関から建物内に侵入し,被告人Xが,同会館エントランスホールから事務室内にいるVに対して,「なかなか戻って来なかったので入って来ちゃった」「中に入ると何か鳴るの」などと言って声を掛け,同人を油断させ,後記第2の犯行に及んだ。

(建造物侵入,強盗殺人,窃盗の罪となるべき事実)

第2以上のような経緯で,被告人両名は,共謀の上,株式会社B銀行e支店の合いかぎ等を管理するA警備会社の警備員を殺害し,上記合いかぎ等を強取した上,これを用いて同銀行e支店内に侵入して金員を窃取しようと企て,

1  埼玉県d市所在のd市市民会館館長Uが看守する同会館に設置された赤外線センサー警報機を作動させて同社所属の警備員V(当時26歳)を同会館におびき出し,平成14年4月30日午前2時05分ころ,同会館正面玄関脇の事務室で,ヘルメットを脱いで,警備の結果等を会社に電話で報告していた同人を認めるや,解錠されていた同会館の正面玄関から建物内に侵入した上,同会館の事務室内及びエントランスホール内において,同人に対し,殺意をもって,被告人Xが,所携の工具(くぎ抜き)で,被告人Yが,所携の特殊警棒で,こもごも,同人の後頭部等を多数回にわたって力任せに殴打し,さらに,同会館事務室内において,うつ伏せに横たわった同人の両手足を粘着テープで緊縛し,その頸部に電気コードを巻き付け,その端を後ろ手にして同人の手首に縛り付けるなどした上,被告人Xが,Vの背部に刃体の長さ約16.8センチメートルの包丁及び刃体の長さ約21.5センチメートルの包丁をそれぞれ力一杯突き刺して,同人に大動脈損傷を伴う背部刺創等の傷害を負わせ,そのころ,同所において,同人を背部刺創により失血死させて殺害し,同人所有又は管理に係る現金1000円,警備用普通乗用自動車1台及び同車積載のかぎ等合計1231点(時価合計約170万4700円相当)を強取し,

2  同日午前2時42分ころ,強取した前記B銀行e支店の合いかぎ等を用いて,同支店行員用通用口から,同支店支店長Wが看守する同市所在の同支店内に侵入した上,同所に設置された現金自動預払機から同人管理に係る現金合計1934万円在中の紙幣カセット4個(時価合計約30万円相当)を窃取したものである。

(法令の適用)

被告人Xにつき,判示第2の1の所為のうち,建造物侵入の点は刑法60条,130条前段に,強盗殺人の点は同法60条,240条後段に,判示第2の2の所為のうち,建造物侵入の点は同法60条,130条前段に,窃盗の点は同法60条,235条にそれぞれ該当するところ,判示第2の1の建造物侵入と強盗殺人との間には手段結果の関係があるので,同法54条1項後段,10条により1罪として重い強盗殺人罪の刑で,判示第2の2の建造物侵入と窃盗との間には手段結果の関係があるので,同法54条1項後段,10条により1罪として重い窃盗罪の刑でそれぞれ処断することとし,判示第2の1の罪について所定刑中無期懲役刑を選択し,以上は同法45条前段の併合罪であるが,判示第2の1の罪の刑について無期懲役刑を選択したので同法46条2項本文によりその余の罪については刑を科さないこととし,同被告人を無期懲役に処し,同法21条を適用して未決勾留日数中160日をその刑に算入し,押収してある工具(くぎ抜き)1本は,判示第2の1の強盗殺人の用に供した物で,同被告人以外の者に属しないから,同法19条1項2号,2項本文を適用してこれを没収し,訴訟費用は,刑事訴訟法181条1項ただし書を適用して同被告人に負担させないこととする。

被告人Yにつき,判示第1の所為は出入国管理及び難民認定法70条1項5号に,判示第2の1の所為のうち,建造物侵入の点は刑法60条,130条前段に,強盗殺人の点は同法60条,240条後段に,判示第2の2の所為のうち,建造物侵入の点は同法60条,130条前段に,窃盗の点は同法60条,235条にそれぞれ該当するところ,判示第2の1の建造物侵入と強盗殺人との間には手段結果の関係があるので,同法54条1項後段,10条により1罪として重い強盗殺人罪の刑で,判示第2の2の建造物侵入と窃盗との間には手段結果の関係があるので,同法54条1項後段,10条により1罪として重い窃盗罪の刑でそれぞれ処断することとし,各所定刑中判示第1の罪については懲役刑を,判示第2の1の罪については無期懲役刑をそれぞれ選択し,以上は同法45条前段の併合罪であるが,判示第2の1の罪の刑について無期懲役刑を選択したので同法46条2項本文によりその余の罪については刑を科さないこととし,同被告人を無期懲役に処し,同法21条を適用して未決勾留日数中160日をその刑に算入し,押収してある特殊警棒1本は,判示第2の1の強盗殺人の用に供した物で,同被告人以外の者に属しないから,同法19条1項2号,2項本文を適用してこれを没収し,訴訟費用は,刑事訴訟法181条1項ただし書を適用して同被告人に負担させないこととする。

(量刑の理由)

本件は,被告人Xが,A警備会社の警備員を襲って,所持している銀行の合いかぎを強取し,これを用いて銀行に侵入し,現金を窃取しようと企て,被告人Yを犯行に誘い,被告人両名が共謀して,それぞれくぎ抜きや特殊警棒などの凶器を準備し,d市市民会館に設置されていた赤外線センサーを異常発報させてA警備会社の警備員である被害者を同会館におびき出し,同会館内で,同人の後頭部等をくぎ抜きや特殊警棒で多数回殴打するなどの暴行を加えた上,背部を包丁で突き刺して殺害し,同人が所持していたB銀行e支店の合いかぎ等を強取した建造物侵入,強盗殺人(判示第2の1の事実)と,強取した合いかぎを使用して同銀行e支店に侵入して現金1900万円余り在中の紙幣カセット等を窃取した建造物侵入,窃盗(判示第2の2の事実),及び被告人Yの不法残留(判示第1の事実)の事案である。

本件強盗殺人等の犯行に至る経緯は,前判示のとおりであって,被告人Xは,長年にわたって,パチンコ等の遊興にふけってサラ金から借金を重ね,何度となく養父や離婚した妻の実家の援助で急場をしのいできたものの,こうした自己の生活態度を改めようとしなかったばかりか,借金の整理をしてもらうと,再びパチンコなどに興じて新たな借金を繰り返すなどしていたもので,同被告人の自堕落な生活態度が原因で妻とも離婚し,その後,養父も死亡したため,周囲には頼れる人もいなくなり,勤務先のタクシー会社から支給される給料だけでは借金を返済し,妻が引き取った長男の養育費等を支払っていくことができず,このままでは担保に入れた自宅マンションを手放すことになるかも知れないなどと次第に追い詰められた気持ちになり,借金の返済や養育費等の支払に早く目処をつけ,更に遊興費を手に入れようと考えて,本件犯行を決意し,20年近くも警備会社に勤務していた当時の知識や経験を悪用して,周到に計画を練り,準備を整えて実行に移したものである。被告人Xは,警備員当時の知識や経験から,ゴールデンウィークの直前にはその間の現金の引出に備えて銀行内に多額の現金が用意されていることを知っていたことから,これをねらって,待機場所で警備車両を停車させている警備員を車外におびき出して襲撃し,所持している銀行の合いかぎを奪って,銀行から多額の現金を盗み出す計画を立て,外国人による犯行と見せかけるために被告人Yを誘い,日本語をあまり理解できない被告人Yに対して,身振り手振りを交えて犯行の段取りや役割を説明して理解させ,入念に打合せを繰り返した上,被告人両名において,凶器を準備するなどし,あらかじめ警備員の待機場所や現金を盗み出す銀行の下見をし,警備車両に乗った警備員を見付けることができなかったためいったんは犯行を断念したものの,被告人Xにおいて再度計画を練り直し,再び実行に移しており犯行当日も,予定していた待機場所に警備員が現れなかったことから,直ちに計画を変更し,建物に設置されている屋外警報機を異常発報させて警備員をおびき出し,所期の目的を完遂させており,このように,本件犯行は,周到かつ綿密に考えられた末,極めて強固な犯意に基づいて実行に移された悪らつなものであって,犯行の経緯や動機に酌量の余地は一片もない。一方,被告人Yは,当初から金員を稼ぐ目的で,短期滞在の資格で我が国に入国し,不法残留しながら,不法就労していたものであるが,やがて,仕事もせずにゲームセンターに入り浸るなど自堕落な生活を送るようになり,ゲームセンターで知り合った被告人Xから大金を手にすることができると言われて本件犯行に誘われるや,知人の外国人から思い止まるように忠告されてもこれを無視し,一獲千金を夢見てこれを承諾し,本件犯行に加担しており,安易で利欲的な犯行の動機に酌量の余地は全くない。

犯行の態様も,被告人両名において,異常発報の指示を受けて本件現場に臨場し,外部の見回りを終えて現場の事務室内でヘルメットを脱いで警備の結果を報告している被害者の姿を認めるや,この機会を利用して被害者を襲おうと決意し,被告人Xにおいて,言葉巧みに被害者に声を掛け,被害者が背中を向けたすきをねらって,いきなり隠し持っていたくぎ抜きで被害者の後頭部等を多数回強打し,被告人Yも,これに呼応して所持していた特殊警棒で被害者の頭部を多数回殴打し,こもごも被害者をめった打ちにし,やがて力尽きて抵抗しなくなった被害者をうつ伏せに横たわらせると,両手足を粘着テープで緊縛した上,口や鼻に粘着テープを巻き付けて塞ぎ,さらに,電気コードを頸部に巻き付けて,その端を後ろ手にした手首に結び付けるなどした後,被告人Yから被害者に顔を見られているなどと言われるや,被告人Xは,とどめを刺すべく,台所の流し台の下から持ち出してきた包丁を振り上げ,横たわっている被害者の背部目掛けて力一杯突き刺し,被害者がうき声を上げると,更に包丁を持ち出してきて,被害者の背部に突き刺して絶命させており,冷酷かつ非道で,残虐というほかない。被告人両名は,被害者を殺害した後も,さしたる動揺もみせずに,計画どおり,強取した合いかぎ等を持って,車で目的の銀行の支店に赴き,奪った合いかぎを使用して店舗内に侵入した上,多額の金員を手に入れているのであって,こうした一連の犯行に照らしてみると,被告人両名には人間性のかけらも見出すことができない。

被告人両名は,捜査段階においては,いずれも計画的かつ確定的な殺意を有していた旨供述していたが,公判廷においては,殺意に関してあいまいな供述をしている。しかし,先にみた犯行の態様に照らしてみれば,被告人両名が,強固で確定的な殺意に基づいて犯行に及んだことは疑いを容れる余地がなく,また,被告人両名の共謀の状況や被告人Xの描いた犯行の計画等に照らしてみれば,犯行の計画段階から,被告人両名に確定的な殺意があったことが明らかである。

被害者は,A警備会社で,機動隊員として勤務していた警備員で,勤務態度もまじめで,周囲からの信頼も厚く,数日前には交際していた女性と結婚の約束を交わしたばかりの青年であって,これから人生を謳歌しようとしていた矢先に,深夜,警備員としての自己の任務を遂行するため本件現場に赴いたところ,待ち構えていた被告人両名によって襲われ,26年でその生涯を閉じざるを得なかったもので,執ような暴行を受けた末,非業の死を遂げた被害者の無念の情は察するに余りある。長男であり,兄である被害者を失った両親や妹弟ら遺族及び婚約者の心痛悲嘆は筆舌に尽くし難い。遺族らが,被告人両名に対して極刑を求める心情には同情の念を禁じ得ない。本件犯行により,銀行から窃取された金員は1900万円余りの高額に上っており,財産的被害も甚大である。加えて,本件犯行が,20年近くも警備業界に身を置き,警備員として稼働していた被告人Xが首謀者となって行われたものであることを考えると,警備業界やその関係者のみならず,一般社会に与えた衝撃や不安も軽視できない。被告人両名から,被害者や遺族らに対する慰謝の措置も十分なされているとはいえず,その見込みもない。

被告人Xは,本件一連の犯行を自ら計画した上,終始主導的に遂行し,さらに,自ら手に掛けて被害者の一命を奪っており,その刑責は重大である。一方,被告人Yは,被告人Xに誘われて犯行に加担したもので,従属的立場にあったとはいえるものの,一連の犯行における積極的な犯意や行動に照らしてみると,被告人Xの刑責と径庭はない。

そうすると,被告人両名が,事実を認め,反省悔悟の念を示していること,強取された被害物品はおおむね発見され,また,窃取された現金のうち相当額は還付されていること,被告人Xが,自宅マンションを処分して,被害者の遺族に対して謝罪金を提供していること,被告人Xにはこれまで道路交通法違反罪のほかには処罰歴がなく,被告人Yも本邦において前科がないことなど,被告人両名のためにそれぞれしん酌し得る事情を十分に考慮してみても,被告人両名に対しては,しょく罪のため,それぞれその終生をもって償わせるのが相当である。

(求刑被告人両名につき無期懲役,押収してある工具及び特殊警棒各1本の没収)

(裁判長裁判官 川上拓一 裁判官 森浩史 裁判官 片岡理知)

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