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さいたま地方裁判所 平成14年(わ)1119号 判決 2002年12月04日

主文

被告人A株式会社を罰金1800万円に,被告人Bを懲役1年6月に,被告人C及び被告人Dをそれぞれ懲役1年に処する。

被告人B,被告人C及び被告人Dに対し,この裁判確定の日から3年間それぞれその刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人A株式会社(以下「被告会社」という。)は,埼玉県a市に本店を置き,家禽肉の販売業等を目的とする株式会社であり,b県産無薬飼料飼育産直若鶏を使用したJ組合連合会K事業連合向け共同購入用商品等をL組合連合会に販売するなどしていたもの,被告人Bは,被告会社の首都圏支店長として同支店の業務全般を統括していたもの,被告人Cは,同支店企画管理部長として同支店が行う事業の策定,進行管理等の業務を統括し,支店長不在の場合の支店長事故代行者であったもの,被告人Dは,同支店営業部長として同支店が行う販売対応,商品在庫管理等の業務を統括していたものであるが,被告人B,被告人C及び被告人Dは,被告会社の業務に関し,同支店営業部営業3課長E,F株式会社代表取締役専務G,同社総務部長兼事業部長Hらと共謀の上,不正の目的をもって,別紙犯罪事実一覧表のとおり,平成13年11月17日から同年12月1日までの間,b県内の工場外3工場において,Fが生産する冷凍食肉商品「無薬飼料飼育産直若鶏手羽中スペアリブ」につき,中華人民共和国産及びタイ王国産の輸入鶏肉を使用した手羽中ハーフを,「薩摩無薬飼料飼育産直若鶏手羽中スペアリブ」,「若鶏手羽中スペアリブ(国産)」等と記載されたポリエチレン製包材に詰め,その原材料がb県産無薬飼料飼育産直若鶏であるかのような表示をした冷凍食肉商品合計約1万1425パック(内容量合計約4570キログラム)を製造して,同商品につき原産地,品質及び内容について誤認させるような表示をした上,同年11月21日から同年12月5日までの間,埼玉県c市内にあるI株式会社物流サービスセンターにおいて,L組合連合会中央畜産センターd畜産事業所から商品の保管及び入出庫等の委託を受けた上記I株式会社物流サービスセンター担当員に対し,上記数量に係る冷凍食肉商品を納品して,上記表示をした同商品を引き渡したものである。

(証拠の標目)

省略

(法令の適用)

罰条

1  被告会社

包括して刑法60条,平成13年法律第81号附則2条により同法による改正前の不正競争防止法14条,13条1号,2条1項12号

2  被告人B,被告人C及び被告人D

いずれも包括して刑法60条,平成13年法律第81号附則2条により同法による改正前の不正競争防止法13条1号,2条1項12号

刑種の選択

被告人B,被告人C及び被告人Dにつき,いずれも懲役刑選択

刑の執行猶予

被告人B,被告人C及び被告人Dにつき,いずれも刑法25条1項

(量刑の事情)

本件は,被告会社の首都圏支店長である被告人B,同支店企画管理部長である被告人C,同支店営業部長である被告人Dが,同支店営業部課長らと共謀の上,被告会社の業務に関し,不正の目的をもって,冷凍食肉商品合計約1万1425パック(内容量合計約4570キログラム)につき,中華人民共和国産及びタイ王国産の輸入鶏肉を使用したにもかかわらず,その原材料がb県産無薬飼料飼育産直若鶏であるかのような記載の包材を使用して原産地,品質等につき誤認させるような表示をした上,物流センターに,同商品を納品して引き渡したという不正競争防止法違反の事案である。

いわゆる狂牛病問題の発生により鶏肉の需要が激増したため,原料となる無薬飼料飼育鶏肉の生産が追いつかず,原料不足の事態に陥ったことが本件の発端となっているが,被告会社としては,本件犯行以前から,原料の不足がかなりの蓋然性をもって予測され得たのであるから,被告会社は,取引先側と代替商品の供給等につき協議を行うなどの対応策を採るべきであったにもかかわらず,欠品を出すことによって重要な取引先との関係が失われることを恐れた結果,本件犯行に至ったものであって,被告会社の利益のためには法遵守や消費者を軽視してもかまわないという企業のあり方は厳しく非難されなければならない。

本件商品の原料調達が困難な状況下で,本件の約2週間前には,直前に本件商品等の原料が不足した場合被告会社の社員が調達する旨の取り決めがなされ,社内で報告されている上,本件犯行につき支店長である被告人Bらの了解も得ていることなどに鑑みれば,本件犯行は支店業務の一環として組織的に行われた悪質な不正行為である。本件犯行により,無薬飼料飼育による安全な食品を期待する消費者の信頼が著しく損われるなど社会的影響も大きく,また,取引先や仕入先会社関係者らを巻き込むに至った結果も看過できない。以上によれば,被告会社の刑責は重いといわざるを得ない。

しかしながら,被告会社代表者は,本件を真摯に受け止めており,関係者に対する社内処分を行った上,失われた消費者や取引先の信頼を回復すべく今後努力していく決意であること,被告会社は,法令遵守や生産管理の徹底のためコンプライアンス室及び生産開発部等を設置するとともに,従業員らに法令遵守研修会等を定期的に受講させるなどの再犯防止策を講じていること,農林水産省による改善指示及び公正取引委員会による排除命令を受けたほか,強い社会的非難を浴び,売上げが減少するなど相応の社会的制裁を受けていること,取引先との間で本件損害賠償に関する交渉が継続中であり,今後誠意をもって損害填補を行う予定であることなど被告会社にとって酌むべき事情も認められる。

次に,被告人ら3名の個別的情状についてみると,被告人Bは,支店業務に関する最高責任者として,本件犯行を阻止すべき立場にありながら,概要報告を受けただけで安易にも了承していること,被告人Cは,支店長事故代行者として関与したとはいえ,輸入鶏肉の使用を提案して在庫を確認させていること,営業部部長である被告人Dは,課長からの報告を受けて,輸入鶏肉の手配を具体的に指示していることなどの各被告人の関与及び当時の役職に照らすと,被告人らの刑責はいずれも軽くみることはできない。しかし,欠品を出さないことを最優先させ,違法行為を容認するという被告会社内部の共通認識自体が問題ではあるものの,被告人らが社内的立場からこの認識に影響されざるを得なかったという面はなくはないこと,被告人らは,本件をほぼ当初より認めて捜査に協力しており,消費者や取引先関係者に対する謝罪の意を表して,本件を十分反省していること,いずれも降格や減給処分等を受けたほか,マスコミ報道等による社会的制裁も受けていること,被告人B及び被告人Cには前科前歴はなく,被告人Dには罰金前科以外に前科前歴はないこと,被告人らにはそれぞれ養うべき家族がいることなど被告人らのために酌むべき事情も認められる。

そこで,以上の諸事情を総合考慮の上,被告会社及び被告人らを主文の刑にそれぞれ処した上,被告人らに対するその刑の執行を猶予することとした。

(求刑 被告会社につき罰金2000万円,被告人Bにつき懲役1年6月,被告人Cにつき懲役1年,被告人Dにつき懲役1年)

(裁判官 大渕真喜子)

(別紙) 犯罪事実一覧表 省略

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