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さいたま地方裁判所 平成14年(わ)1390号 判決 2003年1月17日

主文

1  被告人両名をそれぞれ懲役5年以上8年以下に処する。

2  被告人両名に対し,未決勾留日数中90日をそれぞれその刑に算入する。

理由

(犯行に至る経緯)

被告人Bは,内装工として稼働する傍ら,埼玉県立a高等学校定時制の2年生に在学していたものであるが,同校入学時に同級生となったCやDと知り合い,その後,Cを介して同校定時制1年生のEとも付き合うようになり,学校の行き帰りに最寄りの駅である東武線b駅前で同人らとたむろするうち,同校定時制の1年生のFやGとも知り合うようになり,また,中学時代に一年後輩として付き合いのあったHが同校の定時制に入学してきたことから,同人とも遊び仲間として付き合うなどしていた。被告人Aは,a市内の中学校を卒業後,土木作業員などの職を転々としていたが,平成14年5月ころDと知り合い,同人を介してCとも知り合い,同人らとともにb駅前でたむろするなどするうちに,被告人BやEらとも面識をもつようになり,同駅前で一緒にたむろするなどして,遊び仲間として付き合っていた。

一方,被害者は,平成14年4月,同校の定時制に入学した1年生で,日中はa郵便局で郵便配達のアルバイトをするなどしていたものであるが,EやCとは同級生で,Eとは特に親しく交際し,学校の行き帰りに一緒に遊ぶなどしていた。ところで,Cは,留年したため被害者と同級生になったものであるが,被害者が年長のCに対してため口をきき,敬語を使わないとして快く思っていなかったところ,同年5月ころになると,Cや被告人らとのグループとの付き合いを深めていたEからも,被害者は次第に疎まれるようになって,因縁をつけられてはおごらされたりするようになっていた。同月下旬ころ,Eは,自分で吸うつもりで買ったたばこを被害者に売り付けて,代金の1000円を支払うように催促していたが,同年6月13日夕方,授業の始まる前に,Eが,被害者に対して,たばこの代金を支払うように詰め寄り,居合わせたCも,Eとともに被害者を責め立てるなどしたところ,被害者が,Cに対して,ため口で答えたとして憤慨し,二人は給食時間にHも交えて話し合い,被害者の態度が生意気として同人を痛めつけることにした。

こうして,C,E及びHらは,同日午後7時過ぎころ,b駅前で,G,F及びDらとたむろしながら被害者が来るのを待ち伏せて,やって来た被害者を呼び止めて同駅近くのb公園に連れ込み,被害者を取り囲んで責め立てたが,住民に目撃されて警察に通報されるなどしたため,被害者を解放していったん解散した。しかし,CとEは,被害者を痛めつけるという当初の目的を果たすことができなかったため,憤まんが収まらず,被害者の携帯電話に電話をかけて被害者を再び呼び出し,同日午後8時ころ,b公園にやって来た被害者を,HやDとともに,付近のc公園に連れ込んで,C,E及びHが,こもごも,被害者に対して殴る蹴るの暴行を加えた。一方,被告人Aは,Cからの電話で,被害者を痛めつけていると聞くと,面白そうだと思い,わざわざc公園に出掛けて行き,Cらから暴行を加えられている被害者に対して,自らもその顔面を手拳で殴打した上,腹部や背部等を殴打したり,足蹴にするなどの暴行を加えた。ところが,被害者に暴行を加えているところを通行人に目撃されたことから,被告人Aらは,被害者を連れて同公園の近くにある酒屋の駐車場に移動したが,そのころ,Cと携帯電話で話をした被告人Bは,Cらが被害者を痛めつけていると聞いて面白そうだと思い,同駐車場に向かい,同駐車場で,被告人AやCらから殴る蹴るの暴行を受けている被害者の姿を目撃したものの,被告人Aらの暴行を止めようとしなかったばかりか,かえってこれをけしかけるなどしていた。

被害者は,こうして被告人Aらから一方的に暴行を加えられて,翌14日にたばこの代金をEに支払うことを約束させられたが,被告人AやCらを恐れて同日登校しなかったため,立腹したCらから,同月20日までにたばこの代金を支払うように,再度,電話で約束をさせられた。

このような出来事のあった後の同月17日,Cは,登校する前にb駅前で被告人BやEらとたむろしていたが,その際,被害者が当日も学校を欠席していることが分かったことから,集まっていた者の間で,その日のうちに被害者にたばこの代金を支払わせようという話になり,CとEが,被害者に電話をかけ,たばこの代金を持って同駅まで来るように命じた。そして,同日午後9時ころ,CとEは,被告人A,同B,F,G,D及びHらいつものメンバーとともに,b駅前にたむろしていたが,その際,被害者から,たばこの代金をもらっていないことや,たばこの代金を持って来させるために被害者を同駅前に呼び出していることを集まっていた他の者に伝えて,被害者が来るのを待っていたものの,被害者がなかなか現れず,二,三度電話をしてもつながらなかったことから,被告人両名を含む少年らは,被害者に待たされたとして立腹するとともに,なめられているなどとして憤慨し,やがて,同日午後9時20分ころ,被害者から電話があり,被害者が女友達と一緒にいたことが分かると,被告人両名を含む少年らは,更に激怒し,被害者がやって来たら徹底的に痛めつけようなどと話し合った。

その後,同日午後10時前ころ,被害者が,同級生のIと一緒にb駅に現れると,Eが,被害者から1000円札を取り上げるなどした上,被告人Aが,被害者に対して「遅せえよ。まだ懲りていないのか。ふざけんじゃねえ」などと怒鳴りつけて,被害者の襟首をつかみ,Cが,被害者と一緒にいたIに対して,帰るように命じて被害者を一人にし,こもごも,嫌がる被害者を近くのc公園まで連行し,そのころ,同所において,被告人AやCらが,交際相手を送って戻って来た被告人Bとともに,被害者を地面に座らせて取り囲み,こもごも,「何で時間に遅れた」「先輩を待たせるってどういうことだ」「あれだけ殴られてもまだ分かんないのか」などと申し向け,被害者がひたすら謝罪するのに耳を貸さずに,「一人10発で勘弁してください」と懇願する被害者に対して,後記の犯行に及んだ。

(罪となるべき事実)

被告人両名は,いずれも少年であるが,以上のような経緯で,E,F,G,D,C及びHと共謀の上,被害者(当時15歳)に対して暴行を加えようと企て,平成14年6月17日午後10時過ぎころから翌18日午前1時30分ころまでの間,埼玉県a市所在のc公園において,こもごも,被害者の全身を手拳で多数回殴打したり,足蹴にするなどしたほか,被告人AとHが,同所に放置された自転車を被害者の身体目掛けて投げ付け,被告人Bが,同所に設置されていた鉄製の看板(重量約47キログラム)を引き抜いて被害者の肩付近目掛けて倒してぶつけ,GとFが,上記自転車のサドルで被害者の頭部等を殴打し,被告人Aと同Bが,順次,原動機付自転車(重量約71キログラム)を運転してその前輪を被害者の腹部等に衝突させ,さらに,その前輪を持ち上げて同人の胸腹部目掛けて前輪を落とし,被告人両名,G及びFが,被害者の両手首を同所に設置されていたアスレチック遊具のロープで縛って,同遊具につるした上,被告人両名,G,F及びDが,被害者の顔面や腹部等を手拳で多数回殴打し,さらに,Fが,被害者の頭部を上記サドルで殴打するなどの暴行を加え,よって,同人に対し,右側胸部肋骨骨折を伴う肝破裂等の傷害を負わせ,そのころから同日午前4時ころまでの間に,同所において,同人を上記傷害による失血により死亡させたものである。

(法令の適用)

被告人両名の判示所為は刑法60条,205条に該当するところ,その所定刑期の範囲内で,少年法52条1項により,被告人両名を懲役5年以上8年以下にそれぞれ処し,刑法21条を適用して,被告人両名に対し,未決勾留日数中90日をそれぞれその刑に算入し,訴訟費用は,刑事訴訟法181条1項ただし書を適用して,被告人両名に対し負担させないこととする。

(量刑の理由)

1  本件は,少年である被告人両名が,県立a高等学校定時制に在学していた共犯少年6名と共謀して,同校定時制の1年生に在学していた被害者の態度が生意気であるなどとして,被害者を呼び出し,深夜,人気のない公園内に連れ込んで,こもごも,その全身を手拳や自転車のサドル等で多数回殴打したり,足蹴にするなどした上,原動機付自転車を運転して衝突させるなどの暴行を加えて被害者を死亡させた傷害致死の事案である。

2  犯行に至る経緯や動機は,前判示のとおりであって,被告人両名は,定時制高校に通学する共犯少年らと,夜間,東武線b駅前でたむろするなどしていたものであるが,共犯少年の一人が,被害者に売り付けたたばこの代金を被害者がなかなか支払わないとしてこれを執ように要求し,本件犯行の数日前にも,共犯少年らとともに被害者に暴行を加えて支払を約束させていたが,本件犯行当日も,共犯少年が,被害者を同駅前に呼び出したものの,なかなか被害者が現れないことに立腹し,被害者になめられているなどとして一方的に怒りを募らせて,犯行に及んだというもので,被害者が共犯少年の要求に従わなければならない理由がないのはもとより,この間の事情は,被告人両名にとっては何ら関わりのないことであったにもかかわらず,被告人両名は,共犯少年の言い分を鵜呑みにして,一方的に怒りを募らせて,被害者を痛めつけようなどと考えて,共犯少年らと意思を相通じて,率先して被害者に暴行を加え,全く抵抗しない被害者に対して,それ自体を楽しむかのように暴力を振るい続けているのであって,犯行の経緯や動機は余りにも短絡的で身勝手というほかなく,酌量すべき余地は全くない。犯行の態様も,被告人両名を含む8名の少年が,多数回にわたって,入れ替わり立ち替わり,全く無抵抗の被害者に対して,その胸部や腹部等を手拳で殴打したり,足蹴にするなどした上,殴打されて横たわっている被害者の身体に自転車を投げ付けたり,鉄製の看板をぶつけたりし,さらに,被告人Aと同Bにおいては,重量が70キログラム余りもある原動機付自転車を運転して,その前輪を被害者の身体に衝突させる暴行を加えたほか,ウィリー落としと称して,原動機付自転車の前輪を持ち上げて,あお向けに倒れている被害者の胸腹部に前輪を落とすなどの激しい暴行を何度も加えたばかりか,意識がもうろうとなって自力で立ち上がることもできなくなっている被害者の両手首をアスレチック遊具のロープで縛ってつるした上,下半身を裸にしてもてあそび,その顔面や腹部等を手拳や自転車のサドル等で多数回殴打するなどの暴行を加えているのであって,約3時間余りにわたって,被害者の生命の危険などを全く顧みることなく,手加減せずに,容赦ない暴行を執ように繰り返しており,被害者が気絶し,ほとんど虫の息の状態になっても暴行を止めることなく,その結果,被害者を死亡させているのである。倒れている被害者の胸部を踏み付けた被告人Bが,被害者の肋骨が骨折しているのに気付いて,ようやく被害者に対する暴行を止めたものの,犯行の態様は,残忍かつ執ようで,悪質というほかない。被告人両名は,虫の息の状態の被害者を全く気遣おうとしなかったばかりか,犯行の発覚を恐れて,共犯少年が救急車を呼ぼうとするのを制止し,凶器や被害者の所持品等を隠匿し,共犯少年らと口裏合わせをするなどして犯跡の隠ぺいを図り,自首しようとする他の共犯少年を思いとどまらせようとするなどしており,犯行後の情状も悪質である。

被害者は,心臓病のために仕事に就けない父親に代わって,一人で家計を支えていた母親を助けるために,郵便配達のアルバイトをするなどしながら,定時制高校の1年生に入学して間もない15歳の少年であり,高校生活を謳歌しようとしていた矢先に,被告人Aのほか,同級生を含む同じ定時制の高校生である被告人Bら共犯少年らによって,一方的に因縁を付けられた上,長時間,激しい暴行を執ように繰り返され,尊い一命を奪われたもので,被害者の被った恐怖感や苦痛は察するに余りある。高校に入学したばかりの長男であり,兄である被害者を奪われた両親はじめ弟ら遺族の心痛や悲嘆は筆舌に尽くし難く,極刑を訴える心情には同情の念を禁じ得ない。ところが,被告人らの側からは,遺族に対する謝罪や慰謝の措置は十分なされているとはいえない。本件は,バイクをぶつけ,つるすなどして被害者を死亡させた凶悪な犯行として広く報道され,地域住民や学校関係者などに不安と衝撃を与えた事件であり,社会的影響も軽視できない。

被告人Aは,被害者とはほとんど面識がなかったにもかかわらず,全くの興味本位から,共犯少年らと行動をともにし,率先して激しい暴行を被害者に振るったばかりか,致命傷となったと思われるウィリー落としと称する原動機付自転車を運転して被害者に加えた暴行は,同被告人が思い付いて実行に移したものであり,被害者をアスレチック遊具のロープでつるすという指示をしたのも同被告人であり,罪証隠滅工作や自首しようとした共犯少年を制止するなどしたのも同被告人であって,こうした一連の犯行及び犯行後の行動を併せ考えると,被告人Aの責任は,他の共犯少年らに比べて,格段に重い。また,被告人Bも,被告人Aと同様,被害者とはさしたる面識がなかったにもかかわらず,共犯少年らに同調して,被告人Aとともに,激しい暴行を被害者に繰り返したもので,とりわけ,被告人Aが原動機付自転車を運転して被害者に暴行に及ぶと,面白そうだとして自らも原動機付自転車を運転して被害者に暴行を加え,また,アスレチック遊具にロープでつるされた下半身裸の被害者の陰毛をライターの火で焼いたり,意識が混濁し,横たわっている被害者に対して,演技をしているなどとして更なる暴行を加え続けており,被告人Bの責任も,他の共犯少年らに比べて,格段に重い。

3  被告人Aの弁護人は,同被告人が,さしたる面識も動機もないまま短絡的に被害者に対してし烈な暴行に及んだのは,日常的に実兄から暴力を受けていたという家庭内の問題に起因しているとも考えられる上,捜査段階から審判及び公判手続を通じて,同被告人の反省の態度が深化していることが顕著にみられるから,同被告人に対しては,長期自由刑を科すより,少年院での個別処遇プログラムによりその矯正を図るのが相当であり,家庭裁判所に移送されるべきであると主張する。また,被告人Bの弁護人も,同被告人が,小中学校在学時代に受けた体罰により,自己の考えを表面化することを避けるような傾向をもち,他人からの批判を受けた経験がなかったことや両親が適切に対応してこなかったことなどが本件犯行の遠因であり,同被告人が,自らの意思で警察に出頭して犯行を詳細に供述していること,公判を通じて反省の態度が深化していること,両親や雇用主が監督を誓約していること,さしたる非行歴がないこと,他の共犯者との処分の権衡などを勘案すれば,被告人Bについても,家庭裁判所に移送するのが相当であると主張する。

しかしながら,本件犯行が,被告人両名を含む共犯少年らによる執ような暴行の結果,被害者の一命を奪うという重大な結果をもたらした傷害致死の事案であり,先にみたとおり,犯行の経緯や動機に酌むべき点がなく,犯行の態様が執ようかつ残忍であり,犯行後の情状も悪質である上,被告人両名は,他の共犯少年に率先して,積極的に被害者に対する暴行を繰り返しており,致命傷となったと思われる原動機付自転車を運転した激しい暴行にも及んでいるのであって,犯情は極めて悪質であると認められることを考慮すると,所論指摘の事情を考慮し,更に被告人両名の年齢,被告人Aにはこれまで非行が深刻な形で表面化していなかったこと,被告人Bにはさしたる非行歴がみられなかったことを併せ検討してみても,保護処分が有効であるとは認め難く,また,本件事案の重大性や犯情の悪質性,遺族の被害感情,地域社会や関係者に与えた不安や社会の法感情に照らしてみれば,保護処分の許容性も認め難い。

4  そこで,これらの情状に加えて,被告人両名が,事実を認め,その後,遺族に対して謝罪の手紙をしたためるなどして,反省の態度を示していること,被告人両名の保護者らが,監督を誓約していることなどの事情を考慮し,被告人両名に対しては,主文掲記の懲役刑をもって臨むのが相当であると判断した。

(裁判長裁判官 川上拓一 裁判官 森浩史 裁判官 片岡理知)

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