大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

さいたま地方裁判所 平成14年(わ)990号 判決 2002年10月17日

主文

被告人を懲役10年及び罰金300万円に処する。

未決勾留日数中70日を懲役刑に算入する。

罰金を完納することができないときは,金7500円を1日に換算した期間被告人を労役場に留置する。

押収してある覚せい剤18袋,3包(平成14年押第189号の1,2,7ないし14,16,17),あへん14包,4袋(同押号の3,29ないし36,43ないし51),マカロフ型自動装てん式けん銃1丁(同押号の4),実包7発(同押号の5,6),覚せい剤原料1包(同押号の15),大麻樹脂6袋,1包(同押号の22ないし26,28,37),乾燥大麻6袋(同押号の27,38ないし42),コカイン1包(同押号の52)及びMDMA493錠(同押号の53ないし62)を没収する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は,

第1イラン・イスラム共和国の国籍を有する外国人で,平成6年9月16日ころ,有効な旅券又は乗員手帳を所持しないで,大韓民国から船で本邦の海岸に上陸した者であるが,同12年2月18日から同14年5月15日まで肩書住居地等に居住するなどし,もって,本邦に不法に在留し,

第2法定の除外事由がないのに,同月16日ころ,千葉県成田市ab番地A方において,覚せい剤であるフェニルメチルアミノプロパンの塩類若干量を加熱し気化させて吸引し,もって,覚せい剤を使用し,

第3みだりに,同日ころ,A方において,覚せい剤である塩酸フェニルメチルアミノプロパンを含有する結晶状粉末約0.026グラム(平成14年押第189号の1,2はその一部)及びあへん約2.418グラム(同押号の3はその一部)を所持し,

第4法定の除外事由がないのに,同日午後10時36分ころ,茨城県牛久市c町d番地B駐車場において,自動装てん式けん銃1丁(同押号の4)を,これに適合する実包7発(同押号の5,6)と共に携帯所持し,

第5みだりに,

1  同日午後10時54分ころ,上記駐車場に駐車中の普通乗用自動車C内において,覚せい剤である塩酸フェニルメチルアミノプロパンを含有する結晶状粉末約0.594グラム(同押号の8はその一部)及び乾燥大麻約0.49グラム(同押号の27はその一部)を所持し,

2  上記1の日時,場所において,営利の目的で,覚せい剤である塩酸フェニルメチルアミノプロパンを含有する結晶状粉末約48.97グラム(同押号の7はその一部),大麻樹脂約24.01グラム(同押号の22ないし26,28はその一部)及びあへん約159.43グラム(ビニール様片の重量を含む。同押号の29ないし36はその一部)を所持し,

3  同日午後11時38分ころ,同駐車場に駐車中の普通乗用自動車D内において,営利の目的で,覚せい剤である塩酸フェニルメチルアミノプロパンを含有する結晶状粉末約827.155グラム(同押号の9ないし14,16,17はその一部),大麻樹脂約176.8グラム(同押号の37はその一部),乾燥大麻約941.16グラム(同押号の38ないし42はその一部),あへん約1312.93グラム(ビニール袋ないしはビニール様片の重量を含む。同押号の43ないし51はその一部)及び麻薬であるN・α-ジメチル-3・4-(メチレンジオキシ)フェネチルアミン(別名MDMA)塩酸塩を含有する錠剤498錠(同押号の53ないし62はその一部)を所持し,

4  上記3の日時,場所において,覚せい剤原料である1-フェニル-2-メチルアミノプロパノール-1塩酸塩を含有する結晶状粉末約0.524グラム(同押号の15はその一部)及び麻薬である塩酸コカインを含有する白色粉末約0.16グラム(同押号の52はその一部)を所持した

ものである。

(証拠の標目)

(補足説明)

第1弁護人は,判示第5の2ないし4の各事実について,被告人には営利の目的がなかったと主張するので,以下,補足して説明を加える。

第2事実関係

関係各証拠によれば,以下の事実が認められる。

1  平成14年5月16日夜,被告人は,外出先から自己が保有するC車を運転して自宅に戻り,同車を被告人方アパートの西側駐車場に駐車させた後,同駐車場に駐車してあったD車に乗り込み,同車を若干移動させた。その後,警察官らは,捜索差押令状により上記2台の車両及び被告人方の捜索を行い,被告人を覚せい剤取締法違反罪等で現行犯逮捕した。

2  C車後部座席にあった青色ドラムバッグ及び黒色ショルダーバッグから判示第5の1,2記載の規制薬物の外,電子秤1個が発見押収され,D車のトランク内にあった布製茶色ショルダーバッグ及び黒色セカンドバッグから判示第5の3,4記載の規制薬物の外,電子秤2個,針付き注射器3本,チャック付きビニール袋15枚が発見押収され,同車ダッシュボード内等に,被告人方の電気,ガス料金の領収書があった。

3  被告人方からクリップシーラー1個,チャック付きビニール袋百数十枚が発見押収された。

第3被告人の供述概要

1  捜査段階

C車の一番大きな覚せい剤以外の薬物は,自分が使うために所持していた。一番大きな覚せい剤は,逮捕の3,4か月前に,Eから預かった。手帳は,平成14年4月終わり頃,Fがイランに帰国する際私にくれたもので,同人が行っていた薬物の密売の記載があった。けん銃は護身用に身に付けていた。D車は,平成14年3月上旬ころ,Eに売却したが,その1週間後,同人から借金の形として同車とその鍵を預かった。同年5月上旬,私は,同車のトランクを開けた際,布製茶色ショルダーバッグとチェーンの箱があるのを見たが,同バッグの中は見ていない。D車に薬物があったことは,逮捕時に初めて気付いた。

2  公判段階

Eから,彼女ができたからC車を貸してほしいと頼まれた。逮捕の3,4日前に,Eは,D車でやって来て,これを駐車場に置き,C車を借りて行った。1,2時間で戻ってきたが,大変酔っていたので,私が駅まで送った。その後,車の中に覚せい剤などがあるのに気付き,Eに連絡したところ,Eは,自分の物と言い,逮捕された日の夜中の12時までに引取りに来ることになった。C車の後部座席上の黒色ショルダーバッグ内の黒色革製小銭入れ在中のビニール袋入り覚せい剤3袋(合計約0.594グラム)とセロハン袋入り乾燥大麻1袋(約0.49グラム)は,私の物だが,これを除いたC車とD車にあったその他の覚せい剤等の規制薬物や表紙に「G」と記載された白色手帳等は,Eが置き忘れていった物だ。

第4検討

そこで検討するに,C車は,被告人の保有する車両であることを被告人は一貫して認めている。D車については,被告人方アパートの西側駐車場に駐車してあったもので,被告人はそのキーを保有し,逮捕直前には,エンジンをかけ,同車を若干移動させていること,同車内には被告人方の電気,ガス料金の領収書があったこと,被告人と平成14年2月ころから交際中のAがC車とD車は被告人が使用しており,被告人自身自分のものだと同女に述べていたと供述していることに照らすと,同車もまた被告人の保有する車両と推認するのが相当である。

これに対し,被告人は,D車はEに売ったが,その後(時期については,供述の変遷がある。),デートのためにC車を貸した際,同人が置いていったものであり,これらの車の中にある規制薬物等は,自己使用のための覚せい剤及び乾燥大麻を除き,いずれもEが置いていったものであると供述している。

しかしながら,被告人のD車の所有に関する供述は,捜査段階から変遷している上,同車内に被告人方の領収証が存在する理由や被告人が同車を移動させた理由を合理的に説明するものではなく,Aの供述とも相容れない内容であって,到底信用できない。

したがって,C車もD車も被告人の保有するものと認定するのが相当である。

次に,これらの車両には,上記のとおり,非常に多量かつ多種の覚せい剤等の規制薬物が隠匿されていたが(C車には,覚せい剤約49グラム,あへん約159グラム,大麻樹脂約24グラム,D車には,覚せい剤約827グラム,大麻樹脂約177グラム,乾燥大麻約941グラム,あへん約1313グラム及びMDMA498錠等),これらは,同車の保有者の被告人の所有と推認されるところ,被告人は,上記のとおり,これらの薬物は,けん銃と共にEが置いていったものであると供述している。

しかし,Eが2台の車に大量の規制薬物をけん銃と共に置き忘れていたということは,甚だ不自然である上,被告人の所有する青色ドラムバッグ,黒色ショルダーバッグや小銭入れ内にこれらの薬物が入っていたのも不可解というほかない。しかも,被告人のこれら薬物に関する供述は,その内容が大幅に変転しており,全体的にみると,場当たり的に供述しているとの感を否めず,その信用性は極めて乏しい。

そうすると,本件各規制薬物は被告人の所有するものであって,Eから預かっていたものでないことは明らかである。

本件各規制薬物の量,所持の態様,被告人が電子秤,クリップシーラーや多量のチャック付きビニール袋を所持していたことに鑑みると,被告人が営利の目的でこれらの薬物を所持していたものと認めるのが相当である(なお,覚せい剤原料及びコカインについては,その所持の量が僅少であり,営利の目的を認め難い。)。

(量刑の理由)

本件は,被告人が,自動装てん式けん銃1丁及び適合実包7発を携帯して所持し(判示第4の事実),駐車場に駐車中の普通乗用自動車2台の車内に,営利目的で,覚せい剤,大麻樹脂,あへん,乾燥大麻,麻薬を所持し(判示第5の2,3の各事実),覚せい剤を自己使用し(判示第2の事実),覚せい剤,あへん,乾燥大麻,覚せい剤原料及びコカインを所持し(判示第3,第5の1,4の各事実),本邦に不法に在留した(判示第1の事実)という事案である。

被告人は,営利目的で,種々の規制薬物を大量に所持していたが,その量は,覚せい剤が合計約876グラム,大麻樹脂が合計約201グラム,あへんが合計約1472グラム,乾燥大麻が合計約941グラム,麻薬であるMDMAが合計498錠に上っており,この種事案のなかでも,相当に悪質かつ重大な事案である。しかも,被告人は,適合実包7発を弾倉に装てんした状態の真正の自動装てん式けん銃1丁をむき出しのままズボンと腰の間に挟んで携帯して所持しており,いつでも,使用できる状態に置いていたものであり,犯情は悪い。

更に,被告人は,判示第5の規制薬物について,捜査,公判を通じ,営利目的を否認するなど,責任軽減のために極めて不合理な弁解を繰り返しており,真摯な反省の情は全く認められない。

以上によれば,被告人の刑責は相当に重い。

他方,被告人は,不法在留,覚せい剤の自己使用,覚せい剤,乾燥大麻及びあへんの単純所持,けん銃の所持の事実については,認めていること,我が国における前科前歴はないことなど,被告人にとって酌むべき事情もある。

よって,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 金山薫 裁判官 山口裕之 裁判官 嘉屋園江)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例