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さいたま地方裁判所 平成14年(ワ)1555号 判決 2004年8月06日

原告

A野花子

同訴訟代理人弁護士

鈴木幸子

堀哲郎

被告

B山松夫(以下「被告B山」という。)

同訴訟代理人弁護士

秋山之良

田中克治

被告

C川竹夫(以下「被告C川」という。)

同訴訟代理人弁護士

羽成守

西島幸延

小泉妙子

主文

一  被告らは、原告に対し、連帯して金三四九二万五三四九円及びこれに対する平成一三年九月一二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用は、これを二分し、その一を原告の負担とし、その余を被告らの負担とする。

四  この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

被告らは、原告に対し、連帯して金七〇〇五万二六六二円及びこれに対する平成一三年九月一二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

一  事案の要旨

本件は、被告C川の駐車車両付近でA野一江(以下「一江」という。)の運転する自転車と被告B山の運転するフォークリフトが衝突し、一江が死亡した交通事故(以下「本件事故」という。)につき、一江の相続人(相続分の譲渡による単独相続)である原告が、本件事故は被告C川の違法駐車及び被告B山の前方不注視が原因で発生したものであると主張して、被告らに対し、不法行為(共同不法行為)及び自動車損害賠償保障法(以下「自賠法」という。)三条に基づき、本件事故によって被った損害金(葬儀費用、逸失利益、慰謝料、弁護士費用等合計金七〇〇五万二六六二円)及びこれに対する本件事故発生日である平成一三年九月一二日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の連帯支払を求めた事案である。

これに対して、被告B山は、前方不注視の過失があったことを認めた上で過失相殺を主張し、損害額を争い、被告C川は、同人の違法駐車と本件事故は無関係であると主張し、過失及び因果関係の存否を争った。

二  争いのない事実及び証拠により容易に認定できる事実(証拠により認定した事実については、その末尾の括孤内に証拠を掲げる。)

(1)  本件事故の発生

ア 平成一三年九月一二日午後二時五〇分ころ、埼玉県川口市《番地省略》先市道二三四号線路上(別紙図面一のfile_2.jpg地点。以下、市道二三四号線を「本件道路」という。)において、宮町方面から原町方面に向けて進行中の一江(平成五年三月二三日生、当時八歳)の運転する自転車(以下「被害自転車」という。)と原町方面から宮町方面に向けて進行中の被告B山の運転する小型特殊自動車(フォークリフト、《ナンバー省略》、以下「被告B山車両」という。)が衝突し、一江が被告B山車両に轢過されるという事故(本件事故)が発生した。

本件道路は道路両側終日駐車禁止であったが、本件事故発生時、事故現場付近の本件道路には、被告C川所有の自家用小型貨物自動車(二トンダンプカー、《ナンバー省略》、以下「被告C川車両」という。)が駐車してあった。

被告C川車両の駐車位置は、別紙図面二のfile_3.jpg地点付近であり、被害自転車と被告B山車両(フォークリフト)の衝突位置は、同図面のfile_4.jpg地点である。

なお、本件道路の法定速度は時速三〇km(秒速約八・三m)である。

イ 一江は、本件事故発生後直ちに、川口市立医療センターに搬送され、手術が施されたが、同日午後三時四七分、頭部クラッシュ、開放性脳損傷により死亡した。

(2)  当事者等

ア 一江(平成五年三月二三日生)は、原告とA野太郎(以下「太郎」という。)の間の二女であり、本件事故当時、八歳の小学校三年生であった。

原告と太郎は、平成一二年五月、一江を含む三人の子の親権者を原告と定めて協議離婚した。太郎は、平成一六年七月一三日、本件事故による損害賠償請求権につき、太郎の相続分を原告に譲渡した。

イ 被告B山は、被告B山車両の保有者であり、本件事故当時、銅鉄業を営み、被告B山車両を鉄くず等運搬のために使用していた。

ウ 被告C川は、被告C川車両の保有者であり、C川商店の名称で鋳物加工業を営み、被告C川車両を鉄くず等運搬のために使用していた。

C川梅子(以下「梅子」という。)は、被告C川の妻である。

(3)  本件事故に関する刑事事件

ア 本件事故につき、被告B山は業務上過失致死被疑事件の被疑者として、被告C川は業務上過失致死被疑事件及び自動車の保管場所の確保等に関する法律(以下「車庫法」という。)違反被疑事件の被疑者として、捜査機関による捜査を受けたが、平成一三年末ころ、それぞれ不起訴処分とされた。

イ 平成一五年五月二一日、さいたま検察審査会は、被告C川の車庫法違反被疑事件につき、さいたま地方検察庁検察官がした不起訴処分は不当であると議決した(平成一四年さいたま検察審査会審査事件(申立)第三六号)。

ウ 平成一五年八月、川口区検察庁は、被告C川を車庫法違反で略式起訴し、川口簡易裁判所は、被告C川に対し、車庫法違反で罰金二〇万円の略式命令を出した。

三  原告の主張

(1)  被告らの責任

本件事故は、以下のとおり、被告B山の前方不注視及び被告C川の違法駐車によって発生した。したがって、被告B山及び被告C川は、原告に対し、不法行為(共同不法行為)及び自賠法三条に基づき、連帯して、本件事故により原告に生じた損害を賠償する責任がある。

ア 被告B山の過失

被告B山は、被告B山車両を運転して本件道路を原町方面から宮町方面に向けて直進中、対向車線に駐車中の被告C川車両の後方から被害自転車が対向して直進してくるのを認めたのであるから、被害自転車が駐車車両を避けてセンターライン付近まで飛び出してくることを予見して、被害自転車の動静に注意し、前方を十分に注視して、安全を確認して進行すべき注意義務があったのに、これを怠った。

イ 被告C川の過失及び本件事故との因果関係

被告C川は、道路両側終日駐車禁止である本件道路の宮町方面から原町方面に向かう車線をほぼ塞ぐ形で被告C川車両を駐車し、同車線を進行する車両及び対向車線を進行する車両の前方の視界を遮り、自転車を含む同車線を進行する車両が対向車線にはみ出さざるを得ない状況を作り出した。

被告C川車両は大きく、荷台にあおりがついているため、被告C川車両の駐車により、一江は、前方の視界を完全に遮られ、前方が全く見えない状況にあり、被告B山も、前方の視界が遮られた状況にあった。

また、本件道路の幅員、被告C川車両の車幅、その駐車位置及び運転席のドアが開くおそれを考えれば、一江が対向車線に大きく入り込んで走行することは避けられない状態にあったということができる。仮に、被害自転車が被告B山車両にほぼ直角にぶつかったとしても、それは、一江が、被告C川車両を避けようとしてセンターライン付近に出たところ、突然目前に被告B山車両が迫ってきたため、遠ざかろうとして、とっさにハンドルを右に急転把した結果と考えられ、さらに、被害自転車が道路を横断しようとしていたとしても、それは、一江が、被告C川車両が違法駐車していたため道路北側端を東進することが不可能であったことから、やむなく横断しようとしたものと考えられる。

被告C川は、車両の通行が相当程度予想される本件事故現場付近における被告C川車両の違法駐車が、他車の見通しを妨げることを当然予測し得た。また、被告C川は、本件道路が小中学生の通学路になっていることを認識していながら、日常的に本件道路を車庫代わりに使用していた。

したがって、被告C川には被告C川車両の違法駐車について過失があり、本件事故発生と被告C川車両の違法駐車の間には相当因果関係がある。

(2)  損害額

ア 文書料 一五七五円

原告は、川口市立医療センターに対し、文書料として一五七五円を支出した。

イ 葬儀関係費用 一一八万六二〇一円

原告は、一江の葬儀費用等として、合計一一八万六二〇一円を支出した。

ウ 慰謝料 二四〇〇万円

原告は、一江の親権者母であり、一江を含む三人の子と四人家族で暮らしていたものであり、このような本件事情を考慮すると、その慰謝料額は二四〇〇万円を下ることはない。

エ 逸失利益 三八八六万四八八六円

一江は、死亡当時八歳の小学生であり、本件事故がなければ、一八歳から六七歳までの四九年間稼働することができた。その期間の一江の逸失利益を算定するに当たっては、賃金センサス産業計全労働者平均年収額四九七万七七〇〇円(平成一二年)を基礎とするべきであり、生活費控除率は三〇%とし、上記期間のライプニッツ係数一一・一五四を用いるべきである。

そうすると、本件事故による一江の逸失利益は、下記計算式のとおり、三八八六万四八八六円となる(小数点以下切捨て)。

(ライプニッツ係数)

18.8757(67-8=59年の係数)-7.7217(18-8=10年の係数)=11.154

(逸失利益額)

497万7700円×(1-0.3)×11.154=3886万4886円

オ 弁護士費用 六〇〇万円

本件訴訟の弁護士費用は六〇〇万円が相当である。

カ まとめ

したがって、原告が被った損害額は金七〇〇五万二六六二円となる(1575円+118万6201円+2400万円+3886万4886円+600万円=7005万2662円)。

(3)  過失相殺について

被告B山は、本件事故発生につき、一江と被告B山の過失割合は八対二であると主張するが、以下のとおり、一江に過失はない。

ア 一江の身長は約一m三二cmであるのに対し、同人が乗っていた自転車は「オオシマ 子供車 《番号省略》 A野一江」で届出されている二四インチの自転車である。また、一江が本件事故当時履いていたサンダルは、かかと部分の高さは六・五cmから八・〇cmであるが、その高さはかかとの部分であり、ペダルを踏む足先の部分は普通の厚さである。

また、一江の特技は一輪車であり、バランス感覚は良かった。

したがって、被告B山が主張するように、本件事故当時、一江がバランスを崩しやすい状態にあったなどということはなく、一江は、バランスを崩して被告B山車両と衝突したのではない。

イ 一江の自転車のスピードは時速約一五kmであり、自転車の走行速度としてはごく普通の速度である。

四  被告B山の主張

(1)  過失相殺

被告B山に前方不注視の過失があったことは認める。

しかし、一江にも、駐車中の被告C川車両を避けるためセンターライン付近にまで出て進行するに当たり、センターラインを越さないように進行すべき義務があるのにこれを怠り、その原因は不明であるが、バランスを崩し、センターラインを越えて進行した過失がある。一江がこのような運転をした原因として、被害車両が子供が乗るにしては大きな自転車であったこと、一江が母親のものと思われる大人用のサンダルを履いていたこと等によりバランスを崩しやすい状態にあったこと及び一江がスピードを出していたことが挙げられる。

このような事情によれば、本件事故発生についての一江と被告B山の過失割合は八対二であり、被告B山の賠償責任については、同割合による過失相殺をすべきである。

(2)  損害額について

ア 慰謝料額については二〇〇〇万円が相当である。

イ 一江の逸失利益算定のための基礎年収額につき、原告は産業計全労働者平均年収額によって算定すべきであると主張するが、女子労働者全年齢平均年収額を用いるべきである。

五  被告C川の主張

(1)  因果関係について

ア 梅子は、本件事故直後、被告C川車両が駐車していた位置よりも宮町方面寄りの道路路肩(別紙図面二の(a)、(b)及び(c)の地点)に三台の駐車車両があるのを目撃した。

この状況からすると、被害自転車は、本件事故現場より宮町方面寄りの時点から、極めてセンターラインに近い位置を走行していたと考えるのが、ごく自然である。

そうだとすると、被害自転車の進路及び一江の見通しは、被告C川車両の駐車によって遮られておらず、本件事故発生の原因は、専ら一江の運転ミスあるいは前方不注視及び被告B山の前方不注視にある。

したがって、本件事故の発生と被告C川車両の駐車とは無関係である。

イ 仮に、被害自転車が、別紙図面二の(a)ないし(c)の地点の駐車車両を避けてセンターライン付近まで進出した後、自車線左側に進路を戻し、本件事故現場で再びセンターライン付近まで進出したとしても、一江は、本件事故現場付近において、被告C川車両の後方から左前方を確認せず、いきなり本件道路の横断を開始し、被害自転車が被告B山車両の直前に飛び出す格好になり、本件事故が発生したと考えられる。すなわち、被告B山車両と被害自転車の衝突地点は反対車線(被告B山車両の走行車線)のほぼ中央部であり、自車線では被告C川車両からセンターラインまで約一m、センターラインから反対車線の被告B山車両まで一・九mあり、合計約二・九mの余裕があったのであるから、もし一江が被告C川車両を避けて、迂回・前進するつもりであったならば、被害自転車が上記地点で被告B山車両と衝突するとは考えられず、本件事故直前の一江の進行方向は、道路を横断する方向であったことからすれば、一江は、本件事故現場において本件道路を横断しようとしていたと見るのが自然かつ合理的である。

そうすると、一江は、被告C川の駐車車両をかなり手前の地点で発見でき、また、一〇m手前の地点で対向車線上の被告B山車両を見通せたのであるから、被告C川車両を避けつつ、被告B山車両と衝突せずに進行することは十分に可能であった。また、一江から被告B山車両方向の視界を被告C川車両が遮る位置にあるということは、どの時点をとってもあり得ない。本件事故現場で道路を横断しはじめたのは、あくまで一江の判断によるものであり、被告C川車両の駐車により余儀なくされたというものではなく、被告C川車両の駐車と本件事故発生の間には、何らの因果関係もない。

ウ 被告C川は、本件道路への駐車につき、荷物の積込み等を行うときに多少路上駐車をすることはあったが、車庫があるので、車庫代わりに駐車をするということはなく、常時路上に駐車しているということはなかった。少なくとも、本件事故当時は、他の車両への荷物の積込みの邪魔になることから、一時的に路上に停めておいたものである。

エ 以上のとおり、本件事故状況が上記ア、イのいずれの場合であっても、本件事故は一江の運転ミスあるいは前方不注視及び被告B山の前方不注視により発生したものであるから、被告C川に責任はない。

(2)  被告B山の責任との関係について

仮に、被告C川の責任が認められるとしても、被害自転車が被告B山車両と衝突することなく、被告C川車両の右側を走行することが十分可能であったという本件事故現場の状況に照らせば、被告C川の過失割合は、せいぜい数%程度である。

事故発生について加害者側複数人に責任があり、そのうちにごくわずかの責任しかない者がある場合、損害の公平な分担の観点からすると、ごくわずかの責任しかない者について、その寄与度ないし責任分担額をはるかに超える加害者側負担の損害額全額について連帯責任を認めるべきではなく、その責任割合に応じた分割責任とすべきである。

したがって、仮に被告C川に責任が認められるとしても、被告B山と連帯責任を認めるべきではなく、各責任割合に応じた分割責任とすべきである。

(3)  損害額について

ア 慰謝料額については二〇〇〇万円が相当である。

イ 一江の逸失利益算定のための基礎年収額につき、原告は産業計全労働者平均年収額によって算定すべきであると主張するが、女子労働者全年齢平均年収額を用いるべきである。

また、原告主張のとおり、産業計全労働者平均年収額を用いる場合には、生活費控除率は四五%で算定すべきである。

第三当裁判所の判断

一  本件事故の態様

《証拠省略》によれば、以下の事実が認められる。

(1)  被害自転車の走行ルート等

ア 一江は、平成一三年九月一二日午後二時五〇分より前に、被害自転車に乗って自宅(別紙図面一の①地点)から本件道路の南側に位置する友人宅(同図面の⑦地点から南進した地点にある。以下「本件友人宅」という。)に向かった。

このとき、一江はサンダルを履いていた。被害自転車は、車輪の直径二四インチ、長さ一・六〇mで、そのサドルは一番低くしてあったが、地上からサドルまでの高さは約六六cmであった。一江は、平成一三年四月一日の時点で、身長一二五・二cm(同年九月六日の時点では一二八・四cm)、座高七〇・〇cmであったから、被害自転車に乗って静止したとき、足のつま先が地面に着く程度であった。

イ 自宅を出た一江は、本件道路と環状通りの交差点において、信号機に従い、まず別紙図面一の③―④間の横断歩道を、次に同図面の④―⑤間の横断歩道を渡った。

その後、本件道路の北側車線(原町方面に向かう車線)の左側端(北側端)を、同図面の⑥地点の方向(東方向)に向けて走行した。

ウ 同日午後二時五〇分ころ、一江は、本件事故現場から宮町方面寄りにある西川口方面からの道路の横断歩道(別紙図面二の「横断歩道A」)を渡り、その直後の本件道路の横断歩道(同図面の「横断歩道B」)を渡らず、本件事故現場付近の同図面のfile_5.jpg地点にさしかかった。(なお、被告C川は、同図面の(a)、(b)及び(c)地点付近に駐車車両があり、一江はこれらの駐車車両を避けてセンターライン付近まで進出し、そのまま本件事故現場までセンターライン付近を走行したと主張し、梅子は、駐車車両の存在につき、上記主張に沿う旨証言する。しかしながら、被告B山は、同図面file_6.jpg地点に一江の乗った被害自転車が原町方面に向かって来るのを見ているのであり、この点に関する被告C川の主張を採用することはできない。)

エ このとき、一江は、その目前に被告C川車両が駐車してあり、同車両と建物壁の間(〇・七m)を通り抜けることが困難であったため、被害自転車をセンターライン方向に向けた。

オ 一江が通学していたD原小学校では、小学三年生になると、自転車安全運転教室が行われ、これが終わると実際に乗ってよいとされており、それまでは自転車に乗ることは禁止されている。一江は、この安全運転教室を受けており、自転車に乗って遊びに行くことがあった。

(2)  被告B山車両の走行ルート等

ア 被告B山は、本件道路を被告B山車両に乗って、原町方面から宮町方面に向けて進行していた。被告B山が、同車両に乗って本件道路を通行するのは、月に一回程度である。

イ 被告B山は、別紙図面二の①地点で、前方から対向車線を走行してくる自転車に乗った一江を同file_7.jpg地点に発見した(①からfile_8.jpgまでの距離は、約二一・五mである。)が、特に気を配ることなく、時速約一四・一kmの速度でそのまま進行した。

このとき被告B山は、本件道路左側端(南側端)に寄って走行しており、センターラインから被告B山車両右側面までの距離は約一・五mであった。また、時速一四二二kmの場合、被告B山車両の制動距離は三・九七mであった。

(3)  被告C川車両の駐車状況

ア 被告C川車両は、車長四・六九m、車幅一・六九m、全高一・九七mであり、後部荷台部分にはあおりが設置されており、荷台の高さは一・六mである。

そのため、一江の目線の高さ(約一・二六m)に近い高さ(約一・二一m)での見通し状況は、別紙図面二のfile_9.jpg地点より宮町方向へ五・〇mの地点からは五九・六m先まで、同file_10.jpg地点からは三七・四m先まで、同file_11.jpg地点より原町方向へ五・〇mの地点からは二〇・八m先までが見通せるが、道路左側端を走行した場合、被告C川車両に近づく程見通しがきかなくなるという状況であった。

イ 宮町方面から原町方面への車線の幅が約三・四mであるのに対し、被告C川車両の横幅は約一・七mで、被告C川車両の右側面からセンターラインまでの距離は約一m、被告C川車両の左側面から建物壁までの距離は約〇・七mであった。

そのため、宮町方面から原町方面に向けて普通乗用車が通行する場合には、対向車線に進入して進行せざるを得ず、また、自転車が通行する場合にも、運転席のドアが開く危険性も考えれば、少なくともセンターライン上付近まで進出して進行することを余儀なくされる状況にあった。

ウ 被告C川車両の保管場所として、被告C川の前記肩書住所地が届出されており、現に、被告C川は、別紙図面二の付近を駐車場としている。

平成一三年九月一二日午前一一時三〇分ころ、E田工業の社員がC川商店に鉄くずを運搬してきたので、被告C川は、E田工業の車両をC川商店敷地内の上記駐車場に入れ、被告C川車両を同図面のfile_12.jpg

地点付近に駐車した。正午ころ、E田工業の社員が帰ったが、被告C川は、本件事故発生の午後二時五〇分ころまで、被告C川車両を上記地点付近に駐車したまま、自宅でテレビを見る等していた。

被告C川は、被告C川車両を一〇年間程使っているが、その間、C川商店の営業時間中、鉄くずを降ろすのに上記駐車場を使用するため、被告C川車両を同図面のfile_13.jpg地点付近の道路上に駐車し、自宅前の本件道路を車庫代わりに使用していた。(なお、被告C川は、荷物の積込み等を行うときに多少路上駐車をするにとどまり、自宅前の本件道路を車庫代わりに駐車をしていたということはなく、少なくとも本件事故当時は荷物の積込みのために一時的に駐車していただけであると主張し、これに沿う陳述書を提出するが、《証拠省略》及び本件事故当日の駐車状況によれば、従前の駐車状況は上記のとおりであるものと認められる。)

(4)  本件事故の発生

被告B山は、別紙図面二の①地点で、対向車線を走行してくる被害自転車を同図面のfile_14.jpg地点に認めたが、同図面の②地点に進むまでは被害自転車の動静に注意を払わなかった。

被告B山は、同図面の②地点で、被害自転車が被告C川車両の陰から、ハンドル操作を誤ってバランスを崩したという感じで、右側(一江の)に倒れながらセンターラインを越えて同図面のfile_15.jpg地点に飛び出てきたのを認め(②地点からfile_16.jpg地点までの距離は三・六m)、ブレーキをかけたが間に合わず、同図面のfile_17.jpg地点で(被告B山は同図面の③地点、被害自転車は同図面のfile_18.jpg地点、②地点から③地点までの距離は一・一m)、被告B山車両の前部バスケット(前部荷上げ台)の右側面後部を被害自転車に衝突させ、同図面のfile_19.jpg地点(被告B山は同図面の④地点)で一江を轢過した。なお、被告B山車両の停止位置は同図面の⑤地点であり、②地点から⑤地点までの距離は五・二mである。

一江は、右側を下にして倒れた状態で、被告B山車両に轢過され、被告B山車両が停車した時点では、その頭部が同車両の後輪に挟まれるようにして倒れていた。また、被害自転車は、一江が倒れていた場所よりも宮町寄りのセンターライン付近に、その右側を下にして、センターラインとほぼ直角の向きで倒れていた。

衝突地点は、センターラインから約一・五m、被告C川車両の右側面から約二・五mの地点であった。

(5)  本件道路の通行状況等

本件道路は見通しのよい直線道路で、本件事故当日の天気は晴れで、日没時間は午後五時五四分ころであった。

本件道路周辺には、D原小学校のほか、飯仲小学校、西中学校、南町保育所、西保育所などがあり、本件道路は小中学校の通学路になっており、被告C川は、これを認識していた。

平成一三年九月一九日午後二時二〇分から同日午後三時二〇分までの一時間の本件道路の交通量は、別表記載のとおりである(表一が被告B山車両の進行方向である原町方面から宮町方面への通行、表二が一江の進行方向である宮町方面から原町方面への通行に関する表である。)。

二  被告C川車両の違法駐車と本件事故の間の因果関係について

小中学生の通学路になっている本件道路の交通量は別表記載のとおりであるところ、被告C川は、本件事故当日、一〇年余りの間車庫のように使用していた本件道路に、被告C川車両を三時間余りにわたり違法に駐車し、この被告C川車両の違法駐車により、本件道路の見通しが妨げられ、また、宮町方面から原町方面に向けて進行する車両は、普通乗用自動車は勿論のこと自転車であっても、センターライン上付近まで進出して通行することを余儀なくされていたのであるから、被告C川車両の違法駐車は、本件事故現場付近を走行する車両運転者の過失を誘発し、交通事故発生の危険性を生じさせるものであったというべきである。そして、本件事故は、その危険性が具体化し、被告C川車両を避けて進行しようとした被害自転車がセンターライン付近でバランスを崩し、対向して進行してきた被告B山車両の進路に進入して発生したものであるから、被告C川車両の違法駐車と本件事故の間には相当因果関係が認められる。

三  被告ら及び一江の過失について

上記一の事実関係及び上記二の検討結果によれば、被告C川は、本件事故当日の被告C川車両の違法駐車が、本件事故現場を走行する車両運転者の過失を誘発し、交通事故発生の危険性を生じさせるものであることを認識しながら、漫然と違法駐車を継続し、本件事故を発生させたものであり、被告C川には、本件事故の発生について、被告C川車両を速やかに移動するべきであるのに漫然と違法駐車を継続した過失があると認められる。

また、被告B山には、被害自転車を約二一m離れた場所で認識していたにもかかわらず、その後被害自転車の動静に注意しないまま被告B山車両を進行させ、被告C川車両の陰から被告B山車両の進路に倒れ込んできた被害自転車に被告B山車両を衝突させ、本件事故を発生させた過失があることについては、当事者間に争いがない。

他方、上記一の事実関係及び上記二の検討結果によれば、一江にも、被告C川車両を避けて被害自転車を進行させるに当たり、被告C川車両と被告B山車両の間の約二・五mの間隔を走行すべきところ、バランスを崩し、被告B山車両の進路に倒れ込んだ過失があると認められる。

四  被告らの責任について

(1)  過失割合について

上記一の事実関係及び上記三の過失によれば、本件事故発生についての一江、被告B山及び被告C川の過失割合は、四対三対三と認めるのが相当である。

(2)  被告らの責任について

本件事故は、被告B山の前方不注視の過失と被告C川の違法駐車により交通事故発生の危険性を生じさせた過失が一体となって発生したものであるから、被告らの行為は共同不法行為(民法七一九条一項前段)に当たる。

そして、本件のように複数の加害者の過失及び被害者の過失が競合する一つの交通事故において、その交通事故の原因となったすべての過失の割合を認定することができる場合には、その過失割合に基づく被害者の過失による過失相殺をした損害賠償額について、加害者らは連帯して共同不法行為に基づく賠償責任を負うと解すべきである(最高裁判所平成一五年七月一一日第二小法廷判決・民集五七巻七号八一五頁)から、被告らは、一江に生じた損害額の一〇分の六の金額につき、連帯して賠償責任を負うというべきである。

五  損害額について

(1)  文書料 一五七五円

《証拠省略》によれば、原告は、文書料として一五七五円を支出したことが認められ、この支出は、本件の損害と認められる。

(2)  葬儀関係費用 一一八万六二〇一円

《証拠省略》によれば、原告は、葬儀費用等として合計一一八万六二〇一円を支出したことが認められ、この支出は、全額が本件事故と相当因果関係のある損害と認められる。

(3)  慰謝料 二一〇〇万円

一江は本件事故当時八歳の小学生であったこと、本件交通事故につき被告らはいずれも業務上過失致死罪で起訴されていないこと、原告及び一江らの家族構成等の本件事情を考慮すれば、一江の慰謝料として一八〇〇万円、原告の固有の慰謝料として三〇〇万円を認めるのが相当である。

(4)  逸失利益 三〇八五万四四七三円

ア 基礎年収額について

一江の逸失利益算定のための基礎年収額につき、原告は、賃金センサスの産業計全労働者平均年収額を用いるべきであると主張し、被告らは、女子労働者全年齢平均年収額を用いるべきであると主張する。

当裁判所は、以下の理由により、未就労の年少女子が死亡した場合における逸失利益算定の基礎としては、男女の労働者全体の就労を基礎とする全労働者平均年収額を採用することが合理的であると考えるものであり、したがって、本件においては、賃金センサス平成一三年第一巻第一表・産業計・企業規模計・産業計全労働者平均年収額である五〇二万九五〇〇円を基礎年収額とする。

(ア) 未就労年少者は、現に労働に従事している者とは異なり、多様な就労可能性を有しており、現在の未就労年少者についての長期にわたる将来の逸失利益算定にあたり、現在就労する労働者の労働の結果として現れる男女間の賃金格差を直接的に反映させるのは、必ずしも合理的とは言えない。むしろ、近時の雇用機会均等法や労働基準法等の法制度の整備、それに伴う社会の意識の変化や女性の社会進出等の女性をとりまく労働・社会環境の変容や男女平等の理念からすると、未就労年少者の将来の逸失利益算定にあたり、性別の違いだけを理由として、現在の労働市場における男女間の賃金格差と同様の差異を設けることは適当ではない。

(イ) 近時、現に賃金センサスにおける女性労働者の平均年収額の上昇率は、男性労働者のそれに比べ高まっており、その差が縮小しつつあり、今後もこのような傾向が継続するものと予測できる。

イ 生活費控除率

未就労の年少男子の場合との均衡等を考慮すると、生活費控除率は四五%とするのが相当である。

ウ ライプニッツ係数

一江は、本件事故当時八歳であったから、本件事故に遭わなければ、一八歳から六七歳までの四九年間稼働して収入を得ることができた。上記期間のライプニッツ係数は、下記計算式のとおり、一一・一五四となる。

18.8757(67-8=59年の係数)-7.7217(18-8=10年の係数)=11.1540

エ 逸失利益の額

以上より、一八歳から六七歳までの四九年間の一江の逸失利益の額を算定すると、下記計算式のとおり、三〇八五万四四七三円(小数点以下切捨て)となる。

502万9500円×11.154×(1-0.45)=3085万4473円

(5)  弁護士費用 三一〇万円

上記(1)ないし(4)の合計額五三〇四万二二四九円(1575円+118万6201円+2100万円+3085万4473円=5304万2249円)を、上記四(1)の過失割合に従って過失相殺すると、被告らが賠償すべき原告の損害額は、三一八二万五三四九円(5304万2249円×6/10=3182万5349円,小数点以下切捨て)となる。

そして、原告が本件訴訟の提起及びその訴訟追行を原告代理人弁護士らに委任したことは本件訴訟記録上明らかであり、本件事案の内容、性質、審理経過及び認容額等諸般の事情に照らすと、損害として認めうる弁護士費用は三一〇万円とするのが相当である。

六  結論

以上によれば、原告の本件請求は、被告らに対し、連帯して金三四九二万五三四九円(3182万5349円+310万円=3492万5349円)及びこれに対する本件事故発生日である平成一三年九月一二日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり、その余はいずれも理由がない。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 山﨑まさよ 裁判官 和久田道雄 馬場潤)

<以下省略>

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