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さいたま地方裁判所 平成14年(ワ)2308号 判決 2003年12月16日

原告

被告

Y1

ほか一名

主文

一  被告らは、原告に対し、各自金二〇七六万六九六六円及びこれに対する平成一二年一月二四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用はこれを五分し、その一を原告の、その余を被告らの負担とする。

四  この判決の第一項は、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

被告らは、原告に対し、各自金二五七六万一五三〇円及びこれに対する平成一二年一月二四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、日中の車道上での貨物車と原付自転車の衝突事故に伴う損害賠償請求事案である。

一  争いがないか証拠により容易に認められる事実(事故の発生等)

(1)  日時 平成一二年一月二四日午前一〇時二五分頃

(2)  場所 埼玉県川越市大字古谷上四四九五番地先路線上

(3)  加害車両 普通貨物車(足立××を××××、以下「被告車」ということがある。)

運転者 Y1(以下「被告Y1」という。)

所有者 釜澤運輸倉庫株式会社

(4)  被害車両 原付自転車(大宮市た××××、以下「原告車」ということがある。)

運転者 X

(5)  事故態様

被告Y1は、上記日時場所において、普通貨物車を運転して大宮方面から川越方面に向け国道一六号線片側二車線道路の左側車線を進行中、道路左側に面した、コンビニエンスストアの駐車場に車両を入れようとして左折した時、原告が運転する原付自転車の右前部を自車左側部に衝突させ、原告は、本件事故により右膝前十字靭帯損傷、左膝前十字靭帯損傷・半月板損傷、頚椎捻挫、右手関節捻挫の傷害を受け、右膝関節機能障害及び右膝醜状障害の後遺症を負った。

(6)  損害の填補

原告は、三井住友海上火災保険株式会社から、治療費、雑費、通院交通費等として合計六八四万八七五一円の支払を受けた。

二  主たる争点

(1)  損害額(休業損害、傷害慰謝料、後遺症慰謝料、後遺症逸失利益)

(2)  事故態様と過失相殺割合

第三争点に対する判断

一  損害

(1)  治療関係費 四一〇万〇六六五円

原告は、南古谷病院、上福岡総合病院、大口東総合病院において平成一二年一月二四日から症状固定の平成一三年九月二八日までに治療を受けたところ、治療費として三八七万三九三六円、装具代として一〇万五七二九円、通院交通費として八万五〇〇〇円、入院諸雑費として三万六〇〇〇円(一五〇〇円×二四日分)、の合計四一〇万〇六六五円の費用を要したことは、争いがない。

(2)  休業損害 三一一万〇一〇〇円

原告は、本件事故当時、大学生であったが、事故前からパチンコ屋ホール係のアルバイトを平成一一年八月二一日から開始し、事故までの間に一日当たり一〇三六七円(時給一四三〇円の実働七時間一五分の計算)の収入を得ていたことが認められる(甲七の一)。

もっとも、原告は学生を本業とするものであり、アルバイトの目的はパソコンや引越に備えて家具の購入といったものも加味されていること、アルバイトを開始してから本件事故まで約五カ月しか経っていないことなどから、原告の月平均稼働日数等を休業損害の認定に考慮すべきである。

ところで、本件事故以前三カ月(平成一一年九月~一一月)の原告の実働実績が二二日、一一日、一四日とばらつきがあり(甲七の一ないし九)、一日七時間一五分勤務のアルバイトを大学生が毎月二〇日以上長期間続けることは一般に困難であると考えられることなどから、原告の月平均稼働日数は多くとも一五日程度と考えるのが相当である。

そうすると、本件事故の平成一二年一月二四日から症状固定の平成一三年九月二八日までの六一四日に対し、原告が稼働したであろうと予想される期間は、三〇〇日程度とみるのが相当である。

そうすると、休業損害は三一一万〇一〇〇円となる。

1万0367円(日給)×300日=311万0100円

(3)  傷害慰謝料 一八七万円

原告の傷害の程度、治療期間(事故から症状固定まで六一四日を要した)、治療の態様(入院日数二四日間、実通院日数一〇六日)を考慮すると、傷害慰謝料は一八七万円が相当である。

(4)  逸失利益 一六七〇万三三六五円

原告は、本件事故により、右膝前十字靭帯損傷等の傷害を負い、靭帯再建手術を行い、手術後のリハビリを続けたが、右膝関節の可動制限五度、関節の動揺性(pivot shift陽性)という関節機能障害が残存したため「一下肢の三大関節中の一関節の機能に障害を残すもの」として一二級七号の後遺症等級認定を受けたことが認められる(甲三、四)。

被告は、本件事故時に、原告は右膝前十字靭帯損傷を負っておらず、再建手術が必要となったのは原告の右膝前十字靭帯に先天的形成不全があったからで、関節機能障害と本件事故の間に因果関係はないと主張し、これに沿う医師Aの意見書(乙七号の一)を提出する。しかし、同医師は実際に原告を診断したわけではなく、原告が本件事故により右膝前十字靭帯損傷を負っていないとの点は明確な根拠はないし、大口東総合病院のB医師は明確に「関節動揺性:pivot shift両側陽性右が大」と所見しており(甲三、乙五)、上記意見書のみでは前記後遺症の等級認定の判断の相当性を左右するものではない。

そして、原告が症状固定時大学生であったことからすると、原告の逸失利益は平成一二年賃金センサス大卒男子全年齢平均の年六七一万二六〇〇円にしたがい、労働能力喪失率一四%で六七歳まで四五年間の稼働期間を基礎として計算するのが相当である。これによると、

671万2600×0.14×17.774(稼働期間45年間のライプニッツ係数)=1670万3365円

となる。

(5)  後遺症慰謝料について

原告の機能障害が一二級七号に該当することから、本件後遺症による原告の精神的損害を慰謝するには二九〇万円が相当である。

(6)  以上の(1)ないし(5)の合計二八六八万四一三〇円

二  過失相殺割合

事故直後に被告Y1の立会いと指示説明により作成された実況見分調書(乙六)では、事故直前まで原告車と被告車はほぼ並走していたが、別紙図面<2>地点で被告がハンドルを切ったたため原告のオートバイと<×>地点で衝突した記載となっていることが認められる。

これに対して、原告は、本件事故現場から約二、三〇〇メートル手前の交差点で赤信号となり、原告車は一番先頭で停止した後、発車したところ、被告車が後方から来て原告車を追い抜いて、急にコンビニエンスストアの駐車場に入ろうとしたため衝突したと供述する。

一方、被告Y1は、概ね「手前の交差点で赤信号で止まったが、第一車線の最前列で止まった。その際に被告車の前や横に二輪車はいなかったと思う。信号が青に変わり、すぐ先のコンビニエンスストアがあったので、減速して左折しようとしたところ、いつの間にかトラックの横にいた原告車と接触した。原告車には衝突するまで全く気が付かなかった。」旨供述する。

そこで検討するに、手前の信号から衝突現場のコンビニエンスストアまでは、せいぜい二、三〇〇メートルほどの距離で、被告Y1としては、手前信号で停車した時から、休憩等のためコンビニエンスストアで停車しようと考えており、スピードを出して先行車両を追い越す必要性に乏しいと考えられること、被告Y1の「どのようにしてオートバイがいつの間にかトラックの横に来ていてぶつかったのかわからない」という供述内容はそれなりに自然で、合理的であり、実況見分調書の記載とも矛盾しないことからすれば、被告トラックが原告のオートバイをいったん追い越して急に左折したとの前記原告の供述をそのまま採用することはできない。むしろ、実況見分調書にあるとおり、(手前信号での原告車と被告車の位置、先後は明確でないが)手前信号からしばらく走った段階で原告車と被告車は並走状態となり、これに被告Y1は気付かず、コンビニエンスストアに入ろうとして<2>地点付近で左折しようとしたため、横にいた原告のオートバイにぶつかったと認定するのが相当である。そうすると、本件事故の主たる原因は、被告Y1のバックミラーやサイドミラーを利用しての後方、側方注意義務、特に左折して路外に出る際の左側方注意義務違反にあることは明らかである。被告Y1としては、左折のためウインカーを出したかもしれないが、原告車と被告車の位置関係などからして原告としてそれに気付かなかった可能性がある。上記のような事故の態様、ことに被告Y1の左折に当たり側方にいた原告オートバイに全く気付かなかったという後方、側方注意義務違反の程度は相当重いものがあること等からすると、過失割合としては被告九、原告一とするのが相当である。

そうすると、過失相殺後の損害額は、二五八一万五七一七円となる。

三  損害の填補 六八四万八七五一円

弁論の全趣旨によれば、原告は三井住友海上火災保険株式会社より、治療費、雑費、通院交通費等として合計六八四万八七五一円の支払を受けたことが認められる。

そうすると、損害の残額は一八九六万六九六六円となる。

四  弁護士費用 一八〇万円

本件事故との因果関係のある弁護士費用は、上記認容額等に照らし、一八〇万円が相当である。

そうすると、損害の合計は二〇七六万六九六六円となる。

五  そうすると、原告の請求は主文一項に掲げる限度で理由がある。

(裁判官 豊田建夫)

交通事故現場見取図

<省略>

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