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さいたま地方裁判所 平成14年(ワ)2347号 判決 2003年3月26日

原告 日本プロパンガスセンターこと X

被告 Y

同訴訟代理人弁護士 久保利英明

菊地伸

松山遙

大塚和成

主文

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は、原告の負担とする。

事実及び理由

第1請求

被告は、原告に対し、金8万8000円及びこれに対する平成14年8月21日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。

第2事案の概要

1  事案の要旨

本件は、LPガス販売業者である原告が、原告と被告との間で締結されたLPガス販売契約に係る特約に基づき、被告に対し、同契約の解約に伴う約定違約金8万8000円及びこれに対する解約日の翌日である平成14年8月21日から支払済みまで商事法定利率による遅延損害金の支払を求めた事案である。

2  基本的事実関係(甲1号証及び弁論の全趣旨により認める。)

(1)  原告は、日本プロパンガスセンターの名称でLPガス販売等を業とする者である。

(2)  被告は、平成14年3月16日、原告との間で、LPガスの供給元を変更するためのガス切り替え工事の請負及びLPガスの販売供給を内容とする契約(以下「本件契約」という。)を締結した。

本件契約では、被告がボンベ交換後1年未満でLP販売業者を変更した場合には、被告は、原告に対し、8万8000円の違約金を支払う旨の違約金条項が定められていた(以下「本件違約金条項」という。)。

(3)  原告は、平成14年3月23日、被告宅において、ガス切り替え工事を実施し、ボンベ交換を行った。

(4)  被告は、平成14年8月20日、原告に対し、本件契約を解約する旨の意思表示をした。

3  当事者の主張

(1)  被告

本件違約金条項は、次のとおり、消費者契約法(平成13年法律第129号による改正前のもの)9条1号が適用され、全部無効となるから、原告は、被告に対し、本件違約金条項に基づき、違約金等の請求をすることはできない。

ア 原告は消費者契約法2条2項に規定する「事業者」、被告は同法2条1項に規定する「消費者」であり、本件契約は、同法2条3項に規定する「消費者契約」に該当するから、本件違約金条項には、消費者契約法9条1号が適用される。

イ 本件では、本件契約の解約に伴い、原告において、消費者契約法9条1号所定の「平均的な損害」は発生していない(なお、「平均的な損害」の主張立証責任については、事業者である原告が負担すると解される。)。

したがって、本件契約の解約に伴い、原告に「平均的な損害」を認めることはできないから、本件違約金条項は、消費者契約法9条1号の適用により、全部無効となる。

(2)  原告

被告の主張は争う。

第3当裁判所の判断

1  前記基本的事実及び甲1号証によれば、原告は、消費者契約法2条2項所定の「事業者」に、被告は、同法2条1項所定の「消費者」に該当し、原被告間で締結された本件契約は、同法2条3項所定の「消費者契約」に当たると解せられる。そして、本件契約は、平成14年3月16日に締結されたものであるから、平成13年4月1日から施行されている消費者契約法が適用される。

2  消費者契約法9条1号は、消費者契約において、契約の解除に伴う違約金条項を定めた場合、その額が当該条項において設定された解除の事由、時期等の区分に応じ、当該消費者契約と同種の消費者契約の解除に伴い当該事業者に生ずべき平均的な損害額を超える場合は、当該超える部分は無効と定めている。そこで、本件違約金請求においても、原告は、被告に対し、上記の平均的な損害額の限度で請求することができるにすぎない。

3  そして、平均的な損害額の主張立証については、消費者契約法が消費者保護を目的とする法律であること、消費者は事業者にどのような損害が生じ得るのか把握し難いこと、損害が生じていないという消極的事実の立証は困難であることなどに照らすと、違約金条項の有効性を主張する側、すなわち事業者側が負担すべきものと解される。

したがって、事業者たる原告が、平均的な損害額について主張立証する必要があるところ、原告は、この点について何ら具体的な主張立証をしようとしない。

ところで、ガス切り替え工事のために一定の工事費用や通信費等の事務費用等がかかることは想定されるが、いずれも高額なものではなく、本件契約が締結されてから解約まで約5か月経過し、原告はガス料金により一定限度これら費用を回収していると考えられること等に照らすと、平均的な損害額について原告から具体的な主張立証がない以上、本件において「平均的な損害」やそれを超える部分を認定することは相当でないというべきである。

よって、原告の本件違約金条項に基づく本件違約金等請求は全部理由がない。

4  以上の次第で、原告の本件請求は理由がないから棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 豊田建夫 裁判官 松田浩養 菱山泰男)

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