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さいたま地方裁判所 平成14年(ワ)284号 判決 2003年6月27日

原告

A野太郎

法定代理人親権者父

A野松夫

法定代理人親権者母

A野花子

訴訟代理人弁護士

古田兼裕

宮本岳

新田明哲

古田兼裕訴訟復代理人弁護士

中井英登

被告

B山竹子

他8名

九名訴訟代理人弁護士

太郎浦勇二

主文

一  被告E田二郎、被告E田二江、被告A田四郎及び被告A田三江は、相互に連帯し、かつ、三〇〇万円及びこれに対する下記附帯の金員の支払の限度で被告B山竹子、被告C川春夫、被告C川夏子、被告D原冬夫及び被告D原一江と連帯して、原告に対し、四〇〇万円及びこれに対する平成一一年一一月三日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告B山竹子、被告C川春夫、被告C川夏子、被告D原冬夫及び被告D原一江は、相互に連帯し、かつ、被告E田二郎、被告E田二江、被告A田四郎及び被告A田三江と連帯して、原告に対し、三〇〇万円及びこれに対する平成一一年一一月三日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  原告のその余の請求をいずれも棄却する。

四  訴訟費用中、原告と被告E田二郎、被告E田二江、被告A田四郎及び被告A田三江との間に生じた部分は、これを一〇分し、その四を被告E田二郎、被告E田二江、被告A田四郎及び被告A田三江の、その余を原告の各負担とし、原告とその余の被告らとの間に生じた部分は、これを一〇分し、その四を原告の、その余を被告B山竹子、被告C川春夫、被告C川夏子、被告D原冬夫及び被告D原一江の各負担とする。

五  この判決の第一、二項は、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

一  被告E田二郎、被告E田二江、被告A田四郎及び被告A田三江は、相互に連帯し、かつ、五〇〇万円の限度で被告B山竹子、被告C川春夫、被告C川夏子、被告D原冬夫及び被告D原一江と連帯して、原告に対し、一〇〇〇万円及びこれに対する平成一一年一一月三日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告B山竹子、被告C川春夫、被告C川夏子、被告D原冬夫及び被告D原一江は、相互に連帯し、かつ、被告E田二郎、被告E田二江、被告A田四郎及び被告A田三江と連帯して、原告に対し、五〇〇万円及びこれに対する平成一一年一一月三日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、平成一一年一一月当時、中学三年生であった原告が、同様に中学三年生であったB山梅夫(以下「B山少年」という。)、C川秋夫(以下「C川少年」という。)、D原一郎(以下「D原少年」という。)、E田三郎(以下「E田少年」という。)及びA田五郎(以下「A田少年」という。)の五名から、共謀の上、同月三日午後六時ころから六時五〇分ころまでの間、三郷市内の公園等で、顔面等を手拳で殴られ、肩や胸を足蹴りされる等の暴行を受けたため、顔面打撲、右肩峰骨折等の傷害を負った(以下「本件暴行事件」という。)とし、さらに、原告が、E田少年及びA田少年から、平成一〇年九月頃から同年一二月ころまでの間、及び平成一一年四月ころ、継続的に万引の強要等のいじめを受けてきた(以下「本件いじめ行為」という。)として、各少年の親権者である被告らに対し本件暴行事件について、A田少年及びE田少年の各親権者である被告A田四郎、被告A田三江、被告E田二郎及び被告E田二江に対しては加えて本件いじめ行為につき、それぞれ民法七一四条又は七〇九条及び七一九条に基づき、損害賠償の支払を求めた事案である。

一  当事者間に争いのない事実

(1)  当事者等

ア 平成一一年一一月当時、原告、A田少年及びE田少年の三名は、三郷市立D川中学校の三学年に在籍し、原告は一四歳、A田少年及びE田少年は一五歳であった。

イ B山少年、C川少年及びD原少年の三名は、平成一一年一一月当時、三郷市立E原中学校の三学年に在籍し、いずれも一五歳であった。

ウ 被告B山竹子(以下「被告B山」という。)は、B山少年の親権者母であり、被告C川春夫及び同C川夏子(以下「被告C川父母」という。)はC川少年の、被告D原冬夫及び同D原一江(以下「被告D原父母」という。)はD原少年の、被告E田二郎及び同E田二江(以下「被告E田父母」という。)はE田少年の、被告A田四郎及び同A田三江(以下「被告A田父母」という。)はA田少年の、それぞれ親権者父母である。

(2)  B山少年、C川少年、D原少年、A田少年及びE田少年(以下「少年ら五名」という。)と原告の交友関係

ア 原告は、上記(1)のとおり、A田少年及びE田少年と同じ中学校に在籍し、中学一年生当時、両名と同じクラスであったことから、両名とも面識があった。

このうち、原告とA田少年は、中学校内の同じ遊び仲間に属し、時には二人で普通の友人として遊ぶようなこともある関係であったが、原告は、A田少年から格下として扱われ、同学年ではあったものの遊び仲間の中で、使い走りをさせられていた。このような関係から、原告は、A田少年に対し、敬語を使っていた。

E田少年は、原告やA田少年と同じ遊び仲間の一員であったが、原告とは仲間の一人として互いに会話をする程度の友人にすぎず、原告と二人だけで遊ぶことはなかった。そして、原告は、A田少年との関係と同様に、E田少年からも格下として扱われ、同学年であったものの、E田少年に対し、敬語を使っていた。

A田少年とE田少年は、対等の親しい友人関係であった。

イ B山少年、D原少年及びC川少年は、いずれも同じ三郷市立E原中学校の三年生であり、クラスは違うものの、遊び仲間として親しい関係にあった。

ウ B山少年とE田少年は、共通の友人を通じて知り合い、中学三年の二学期のころからお互いの家を行き来するなど親しく交遊するようになっていた。また、B山少年とA田少年は、E田少年を通じての知り合いであったが、本件暴行事件までに、二、三回会ったことがある程度の間柄であった。

B山少年と原告は、友人を通じて顔を見知っている程度の間柄であった。

エ C川少年及びD原少年は、本件暴行事件まで、原告とは全く面識が無く、A田少年及びE田少年とも、ほとんど面識は無かった。

(3)  本件暴行事件に至る経緯

ア 原告とA田少年は、祝日である平成一一年一一月三日の昼ころからA田少年の自宅でテレビゲーム等をして遊んでいた。同日午後一時過ぎころ、A田少年は、B山少年から電話で鼻にピアスの穴を開ける方法を聞かれ、これを教えて電話を切ったが、すぐにB山少年から再び電話を受け、B山少年の家にE田少年もいるのでB山少年の家に遊びに来てピアスの穴の開け方を教えてくれるよう頼まれた。A田少年は、このB山少年の誘いに応じてB山少年の家へ行くことにして電話を切った。

原告は、A田少年から、B山少年の家に行くことにしたから一緒に付き合ってくれ、E田少年もいるからと告げられ、A田少年と一緒にB山少年の家に行くことにした。

イ A田少年は、B山少年の家に行くのが初めてであったことから、同人から電話で目印の場所を聞き、そこからE田少年の携帯電話に電話することとし、原告と二人で自転車でB山少年方に向かった。A田少年と原告が、B山少年から聞いた途中の目印の場所まで着いたときに、A田少年は、E田少年の携帯電話の番号を書いたメモ紙を家に忘れてきたことに気が付き、原告に頼みA田少年の家からメモ紙を取ってきてもらい、公衆電話からE田少年に電話をかけ、場所を聞きながら、B山少年方にたどり着いた。A田少年らがB山少年方に到着したのは、同日午後二時ころであった。

ウ B山少年、E田少年、A田少年及び原告の四名は、B山少年方でピアスを話題としたり、世間話をしたりしていたが、しばらくして、ジュースを買ってこようということになり、その際にA田少年が財布を公衆電話のあった場所に置き忘れてきたことに気が付いた。

そこで、A田少年は、日頃から使い走りにしている原告に対し、公衆電話の場所へ行き自分の財布を取ってくるように言い、原告は、しぶしぶB山少年方を出てA田少年の財布を取りに行った。

エ 原告がB山少年方を出るや、B山少年が、E田少年及びA田少年に対し、原告が同年齢であるB山少年らとの会話に敬語を使っていることなどにつき、不満を述べた。これに対し、E田少年及びA田少年もB山少年の意見に同調し、原告は「ムカツク奴だ」ということになった。

B山少年は、E田少年及びA田少年が、自分と同様、原告に対して不満を抱いていることを知り、さらに同少年らに対し、「調子こいている感じだね」、「ボコッちゃおうか」と、原告に対して集団で暴行を加えることを提案し、E田少年とA田少年は、この提案に同意した。

オ そこで、B山少年は、さらに暴行を加える仲間を集めることにし、同じ中学の友人であったC川少年方に電話をかけ、同人に対し、「A野って奴が生意気な野郎で、外に連れて行ってボコボコにするから手伝ってくれないか。」と言い、原告への暴行に参加するよう誘った。

C川少年は、自宅で、D原少年と二人で遊んでいたことから、D原少年の意見も聞く必要があると考え、少し待ってくれるようB山少年に伝え電話を一旦切った上、D原少年に、B山少年からの電話の内容を伝えた。D原少年は、喧嘩をしてみたいという気持から、B山少年の誘いに積極的に賛成し、C川少年もおもしろそうだと考え、結局、二人は、B山少年の誘いに乗り、原告に対する集団暴行に参加することにした。

そして、C川少年は、B山少年方に電話をかけ、C川少年及びD原少年の二人が原告に対する集団暴行に参加することを伝え、「ホテル石庭」前で待ち合わせをすることにした。

カ 上記のとおり、少年ら五名の間で、原告に対する集団暴行に関する合意が成立した後、原告がA田少年の財布を持ってB山少年方に帰ってきた。

B山少年、A田少年及びE田少年の三名は、上記合意を秘し、原告に対し、これから外に出かけることを伝え、同日午後五時ころ、原告を含むB山少年ら四名はB山少年方を出た。

一方、C川少年及びD原少年も、同じころ、C川少年方を出た。

キ B山少年ら四名とC川少年ら二名の両グループは、打ち合わせ通り「ホテル石庭」の前で合流した。その際、D原少年がB山少年に、誰に対して暴行を加えるのか質問すると、B山少年は、原告の頬を軽くたたきながら、「こいつだよ」と答えた。これにより、C川少年とD原少年は、集団暴行を加える対象が原告であることを知った。

その後、原告及び少年ら五名は、花和田公園に向かった。

(4)  本件暴行事件

ア 原告及び少年ら五名は、同日午後六時ころ、花和田公園に到着した。

同公園に到着後、B山少年は原告に対し、他の少年らから少し離れたところで、C川少年を見ながら「あいつに唾はくなって言えよ」と言い、いきなり原告の顔面を右手拳で一回殴打した。

原告は、いきなりB山少年に殴られたことから驚き、同人の言うことを聞かなければさらに暴行を加えられるものと恐れ、C川少年に対し、B山少年に命令されたとおり、「唾をはくんじゃねえよ」と言った。

これを聞いたC川少年は原告に対し、「何だこの野郎」と怒鳴り、近くにあった自分の自転車を原告に投げつけた。原告は、投げつけられた自転車に当たり、その場に転んだ。

イ これをきっかけにして、B山少年とC川少年は、原告の顔を殴ったり、足や腰を蹴ったり、倒れ込んだ原告の服を引っ張って無理矢理立たせた上、さらに顔を殴るなど、こもごも原告に対し、殴る蹴る等の暴行を加え、多少遅れて、D原少年もこれに加わった。A田少年とE田少年は、B山少年ら三名が原告に暴行を加えるのを見て、とりあえずB山少年らに任せておけばよいと考え、直接暴行には加わらなかった。

ウ B山少年、C川少年及びD原少年の三名による原告に対する暴行は、同日午後六時から約二〇分程度続き、数十回にわたり殴る蹴る等の暴行を加えた。原告は、この間、全く抵抗できなかった。

エ 暴行を加え始めてからしばらくして、B山少年が、花和田公園の隣に同人の先輩の自宅があることに気が付き、このまま同公園で暴行を加えるのは不都合であると考え、場所を移すことにした。そして、C川少年が、近くの香取神社が適当である旨提案し、少年ら五名は、暴行を加えられふらふらになっていた原告を無理矢理立たせ、原告を連れて全員で同神社に向かった。

オ 原告及び少年ら五名は、同日午後六時三〇分ころ、香取神社に到着し、B山少年、C川少年及びD原少年は、同所で再び原告に対し、殴る蹴るの暴行を加え始めた。その際、E田少年とA田少年は、自動車等が付近を通りかかった場合にB山少年らに伝えようと考え、同神社近辺の道の様子を見張っていた。

その後、E田少年とA田少年は、自動車の通行もあまり無かったことからB山少年らの所に戻った。E田少年は、B山少年、C川少年及びD原少年が原告に暴行を加えているのを見て、自らも暴行を加えたいと思い、B山少年らに対し、「俺にもやらせて」と言い、ひざまずいていた原告の左肩あたりを右足で思い切り蹴りつけるなどした。さらに、E田少年は、C川少年が原告に加えていた投げ技を真似しようとし、C川少年にやり方を聞いた上、それに従い原告を投げ飛ばすなどの暴行も加えた。B山少年らは、約二〇分間にわたり原告に暴行を加えていたが、次第に疲れてきたため、誰が暴行を終わりにすると言うでもなく、自然と暴行は終了した。

結局、B山少年、C川少年、D原少年及びE田少年の四名は原告に対し、花和田公園と香取神社で合計で一〇〇回近く、時間にして約四〇分間、殴る蹴る等の暴行を加えた。

A田少年は、自らは暴行に加わらなかったものの、B山少年らの原告に対する暴行を面白がって見ていた。

カ 上記のB山少年らの暴行により、原告は、加療約四週間を要する顔面打撲、右肩峰骨折、胸部打撲、腰部打撲、両下肢打撲の傷害を負った。

(5)  本件暴行事件後の経緯

ア 前記暴行行為が終了した後、少年ら五名は、同人らの暴行のため、原告の顔が酷く腫れあがっていることに気づき、このままでは少年ら五名による暴行が発覚してしまうものと考え、同人らは、香取神社近くの自動販売機の前で、原告の服の汚れを落としたりしながら、原告を含め、二〇~三〇分程度、言い訳をどうするか話し合った。

その結果、原告が南越谷でからまれて暴行を受けたことにしようということになり、少年ら五名は、原告に対し、その旨言い含め、それぞれ帰宅した。

イ 帰宅した原告を見た同人の母親は、顔の腫れを見て、どうしたのか原告を問いつめた。当初、原告は、少年ら五名の指示通り、南越谷で集団にからまれて暴行を受けた旨説明したが、母親はそれに納得せず、事情を聞くためにA田少年宅に電話をし、さらに同少年を自宅に呼んで事情を聞き、本件暴行事件が発覚した。

原告は、本件暴行事件当日に、警察へ被害届を提出した。

二  本件の争点

本件の主たる争点は、本件暴行事件の原因ないし態様等(争点一)、A田少年及びE田少年による原告に対する万引の強要等の本件いじめ行為の有無(争点二)、本件暴行事件及び原告に対する本件いじめ行為につき、被告らに親権者としての監督義務違反があるか否か(争点三)、原告に生じた損害額(争点四)の四点である。

主たる争点に関する原、被告らの主張の要旨は以下のとおりである。

(1)  争点一(本件暴行事件の原因ないし態様等)について

(原告の主張)

ア 本件暴行事件は、少年ら五名が共謀の上、計画的に、原告に対し暴行を加えたというものである。実際には、原告がC川少年に対して、唾を吐かないよう注意したことをきっかけとして本件暴行事件が始まっているが、これは、少年ら五名が、共謀の上、あたかも原告が言い掛かりを付けたことによって喧嘩が始まったかのように装うことを意図して仕組まれたものというべきであり、少年ら五名の本件暴行事件に至る計画性、悪質性、巧妙性を垣間見ることができる。

イ また、本件暴行事件自体の態様も極めて悪質であり、いかに未成年であっても到底許されるべきものではない。

すなわち、少年ら五名は、花和田公園において、原告の背中や脇腹に手拳での殴打、足蹴りなどの暴行を回数にして数十回、時間にして約二〇分もの間加えた。少年ら五名は、それでも治まらず、同公園ではB山少年と面識のある先輩の自宅の隣で都合が悪いと考えるや、敢えて場所を香取神社敷地内に移し、さらに原告に対して暴行を加えている。その暴行も、手拳による殴打や足蹴りを数十回以上加え、時間にして二〇分以上にわたり、原告は、あたかも「人間サンドバック」の状態であった。

このように、少年ら五名が原告に加えた暴行は凄まじいものであり、態様の悪質性は想像を絶するものがある。

ウ さらに、本件暴行事件の結果は重大であり、写真撮影報告書(甲三の一五)にある原告の受傷状況はあまりにも痛々しいものである。

(被告らの主張)

ア 本件暴行事件の原因は、原告が少年ら五名に対し、人をばかにしたようなおかしな敬語を使ったことにあり、このことから、原告と少年ら五名との間で口論になり、本件暴行事件に発展したものである。

イ また、原告は、本件暴行事件につき、少年ら五名の共謀によるものである旨主張するが、上記アのとおり、原告の敬語の使い方をめぐって口論になり、喧嘩になってしまったにすぎず、共謀の事実はない。B山少年は、本件暴行事件当日まで、原告と面識はなく、ましてやD原少年とC川少年は、B山少年に呼び出されて公園でたまたま暴行に加わったものであった。本件暴行事件は、子供の間の一回限りの喧嘩にすぎない。

ウ 原告は、本件暴行事件当日、病院に行っているが、入院はしていない。原告は、捜査記録中の写真と診断書を理由に、傷害の事実につき大げさに主張している。

(2)  争点二(A田少年及びE田少年の原告に対する本件いじめ行為の有無)について

(原告の主張)

A田少年及びE田少年(以下「A田少年ら二名」という。)は、原告の気の弱さにつけ込み、原告との間で一種の上下関係を形成し、そのような関係を背景に、以下のような本件いじめ行為を行った。

ア 万引の強要

A田少年ら二名は、原告を脅迫するなどし、万引を強要した。原告としては、犯罪行為である万引は絶対にやりたくはなかったが、拒否するような態度を取れば、足蹴りなどの暴行を加えられることから、怖くて断ることができなかった。

原告が、A田少年ら二名に万引を強要された回数は、約二〇回に上る。万引で盗ってきた品物は、ほぼすべてA田少年ら二名が取得した。一度だけ、「B原」で万引してきたジーパンを原告が取得したことがあったが、これは万引してきたジーパンのサイズが命令をしたA田少年に合わなかったことから、同人が原告に押しつけただけのことであった。

原告は、まさにA田少年ら二名の万引の道具として扱われてきた。

イ 買出しの強要

A田少年ら二名は、中学三年生(平成一一年四月以降)ころになると、学校での休み時間中に、学校の近くの店へ行き、菓子等を買ってくるよう原告に命令するようになった。休み時間中に学校外へ出ることは校則違反であり、A田少年ら二名にもその認識が十分にあった。

原告は、当初こそA田少年ら二名から、買出しに必要な金員を預かり買出しに行っていたものであるが、A田少年ら二名は、次第に買出しに必要な金員を渡さないまま原告に買出しを強要するようになった。

原告が買ってきた菓子等は、代金をA田少年ら二名が出したかどうかにかかわらず、すべてA田少年ら二名が取得した。

ウ 恐喝行為

原告は、中学三年生の時に京都へ修学旅行に行ったが、その際、E田少年は、原告から三〇〇〇円を喝取した。その後も、A田少年ら二名による原告に対する恐喝行為は続き、一回に一〇〇〇円程度を渡すことが何回かあった。

(被告A田父母及び被告E田父母らの主張)

A田少年ら二名としては、原告が主張する事実につき、いじめであったという感覚を持っていない。A田少年ら二名と原告とは、同じ学校で、いつも一緒に遊び、A田少年の自宅で遊ぶような仲であった。

確かに、A田少年ら二名による原告に対する万引の依頼及び使い走りの命令等の問題があったものであるが、いずれも原告としては断ることができたにもかかわらず、これを断らず自らの判断で従ったものである。A田少年ら二名の暴行等によってやらされたというのは、後に理由付けられた言い訳にすぎない。原告は、A田少年ら二名に気に入られようと一生懸命だったのである。

(3)  争点三(被告らの監督義務違反の有無)について

(原告の主張)

少年ら五名に責任能力がないとすれば、親権者である被告らは、親権者としての監督義務を怠らなかったことを主張立証しない限り、民法七一四条一項に基づき、少年ら五名の本件暴行事件及びいじめ行為によって原告が被った損害を賠償すべき責任を負うものであるところ、被告らは、かかる主張立証を全くしていない。

また、少年ら五名に責任能力があったとしても、本件暴行事件及び本件いじめ行為の当時、少年ら五名はまだ中学三年生であったことからすれば、被告らにおいて、それぞれの子が本件暴行事件及びいじめ行為に及ぶことを予見し得る場合には、これを防ぐべく指導監督する義務を負っているものであり、この義務を怠っている以上は、不法行為に基づき原告が被った損害を賠償する責任を負う。被告らに、このような予見可能性が認められることは明らかであり、これによって認められる作為義務を果たしていない本件においては、被告らの不法行為責任は明白である。

ア 被告A田父母について

A田少年は、本件暴行事件及び本件いじめ行為以前から、学校などでたばこを吸っており、被告A田父母は、教師からの連絡によりその事実を知っていた。また、被告A田父母は、A田少年が、校則違反であるピアスをつけていることについても認識していた。さらに、被告A田三江は、その陳述書(乙二)に、「親が知る子供の性格からして、時には強い口調や乱暴な事をしたことも想像がつきます」と記載するなど、A田少年の粗暴な性格を十分に認識していた。

このようにA田少年には、既に社会的規範からの逸脱行動を示唆する徴候があり、そのことを被告A田父母も認識していたものであるが、同人らは、十分な監督をせずに放置していた。

その結果、A田少年は、本件の証人尋問において、原告に対するいじめにつき、いじめだとは思っていないし、悪いことをしたという認識もないと証言するなど、著しく規範意識が鈍磨した状態に至っている。かかるA田少年の規範意識の薄弱さが、本件暴行事件等の各行為を引き起こす原因となったものである。

イ 被告E田父母について

E田少年は、本件暴行事件以前からたばこを吸う習慣があり、そのことを被告E田父母は知っていた。また、本件暴行事件後である平成一二年五月ころに、原告の両親が被告らと話し合いをした際、被告E田二江は、E田少年が原告に万引をやらせていたことを知っていた旨話していた。

このように、A田少年と同様、E田少年にも社会規範からの逸脱行動を示唆する徴候があり、そのことを被告E田父母も認識していたものであるが、それにもかかわらず同人らは、十分な監督をせず放置した。

その結果として、本件暴行事件及び本件いじめ行為を引き起こすこととなった。

ウ 被告B山について

B山少年は、中学二年生の夏ころから少しずつ生活が乱れ、帰宅が遅くなったり、たばこを吸ったりしていた。本件暴行事件以前にも、B山少年は、県外の中学生と各々五人の集団で喧嘩をするなどし、その際にはB山少年がリーダー的な役割を果たしていた。それだけでなく、B山少年は、C川少年及びD原少年とともに、中学三年生の夏ころに不良グループを結成し、学校に週に一回程度しか登校していないC川少年の自宅を溜まり場として、深夜に他の不良仲間とともに非行を繰り返していた。また、E田少年及びC川少年の警察での供述調書によれば、B山少年はすぐ喧嘩する傾向があり、「お、またB山の暴力が始まったな。好きだな。」(C川少年の警察での供述)と言われるような粗暴な少年であった。

被告B山は、このように非行行為がエスカレートしていくB山少年について、その都度注意をしていた形跡はあるものの、同人の暴力好きな性格を根本的に直そうとする努力は一切みられなかった。

その結果として、B山少年は、本件暴行事件を引き起こすに至ったものということができる。

エ 被告D原父母について

D原少年は、上記のとおりB山少年と一緒になって不良グループを結成していたメンバーである。D原少年も、本件暴行事件以前から、たばこを吸い、ピアスをするなどしていた。

これに対し、被告D原一江は、本件の本人尋問において、D原少年がB山少年らと不良グループを結成して非行行為を繰り返していたことに関して認識がないと供述する。D原少年がB山少年やC川少年と仲良くしていたこと自体については認識があるが、その三人でどのようなことをしていたのかについては、格別の注意を払っていなかったとみる他ない。

したがって、被告D原父母についても、親権者としての監督義務を果たしていたものとはいえない。

オ 被告C川父母について

上記のとおり、C川少年は、週に一回程度しか登校をしておらず、B山少年らと不良グループを結成し、被告C川父母の自宅を溜まり場としていた。同居する被告C川父母としては、当然、自宅が不良グループの溜まり場となっていたことを認識していたはずであり、また、認識すべきである。

そうだとすれば、被告C川父母としては、自宅が不良グループの溜まり場となることを阻止し、C川少年を非行グループから脱退させる等の行為をすべきであったのに、被告C川父母は、何らかかる措置を取らなかった。

このような被告C川父母による放置が、C川少年の非行行為を助長し、本件暴行事件に至ることになったのである。

カ 以上のとおり、被告A田父母及び被告E田父母は、原告に対する本件いじめ行為及び本件暴行事件につき、その余の被告らについては、本件暴行事件につき、七〇九条の不法行為の規定に基づき、原告が被った損害を賠償する責任がある。

(被告らの主張)

原告は、民法七一四条及び七〇九条を根拠に被告らに対し、親権者としての責任を追及している。

しかし、民法七一四条は、責任無能力者の監督責任を定める規定であり、未成年者に責任能力がない場合、補充的に生ずる責任であるところ、少年ら五名は、本件暴行事件当時、一五才であっていずれも責任能力のある年齢であった。したがって、たとえ監督義務者である被告らに監督上の過失があったとしても、被告らが同条により責任を負うことはない。

また、民法七〇九条は行為責任規定であるところ、被告らについては、原告に対する本件いじめ行為及び本件暴行事件につき、故意過失はないから、同条も被告らの責任の根拠とすることはできない。

(4)  争点四(損害額)について

(原告の主張)

ア 原告は、A田少年及びE田少年の度重なる本件いじめ行為により、心に深い傷を負い、平成一〇年から平成一一年にかけて、たびたび登校を拒否するようになった。

したがって、本件いじめ行為により原告が被った精神的苦痛に対する慰謝料は、四五〇万円を下ることはない。

イ また、原告は、少年ら五名による本件暴行事件により、肉体的に傷害を負っただけでなく、より一層深い傷を心に負った。

本件暴行事件により原告が被った精神的苦痛に対する慰謝料は、四五〇万円を下ることはない。

ウ 弁護士費用

原告は、原告訴訟代理人らに対し、本件における上記ア及びイの各請求に係る訴訟追行ごとに、それぞれ約一割に当たる五〇万円の弁護士報酬等を支払うことを約した。

第三争点に対する判断

一  争点一(本件暴行事件の原因ないし態様等)について

ア  被告らは、本件暴行事件につき、原告の敬語の使い方をめぐって口論となり、喧嘩になってしまったにすぎず、少年ら五名による共謀の事実はないとか、本件暴行事件は、子供の間の一回限りの喧嘩にすぎない等と主張するが、他方、被告らは、上記当事者間に争いのない事実の(3)(本件暴行事件に至る経緯)、(4)(本件暴行事件)及び(5)(本件暴行事件後の経緯)の各事実は認めているのであるから、結局、被告らの上記主張の趣旨は、上記当事者間に争いのない事実(3)~(5)を前提として、その評価を争うものと考えざるを得ない。

そこで、以下、この点につき検討する。

イ  上記当事者間に争いのない事実(3)のとおり、本件暴行事件は、B山少年が原告の敬語を使った話し方などについて一方的に腹を立て、集団で原告に暴行を加えることを思いつき、その場にいたA田少年及びE田少年に、その考えを伝えたところ、A田少年らも、それに同意したことから始まり、さらに、B山少年が、自らの友人であるC川少年に対しても、集団暴行に参加するよう誘いをかけ、C川少年及び同人からこれを伝えられたD原少年が積極的に応じたことによって、少年ら五名の間に、原告に対する暴行行為に関する合意が成立したものである。

本件暴行事件に至る経過において、原告とB山少年又は少年ら五名のうちの他の者との間で、原告の敬語の使い方等をめぐって口論があったことを認めるに足る証拠はない。

なお、上記当事者間に争いのない事実(3)によれば、原告がC川少年に対して「唾を吐くな」と注意した事実があるものの、これはB山少年が原告に強要したものであって、これに対して、C川少年が原告にいきなり自転車を投げつけていること等の事実関係によれば、B山少年が原告に対し暴行を加えるきっかけを作るために仕組んだものと推認でき、原告と少年ら五名の間の口論などといえるようなものでないことは明らかである。

以上の事実関係によれば、本件暴行事件が少年ら五名の共謀によるものであることは明白である。

ウ  また、上記当事者間に争いのない事実(4)によれば、本件暴行事件は終始一貫して少年ら五名が原告に対して一方的に暴行を加えたものであり、その暴行を加えた時間、暴行の態様、回数からしても、到底、子供同士の喧嘩と評価できるものではない。

エ  その他、上記当事者間に争いのない事実(3)~(5)によれば、少年ら五名の共謀による原告に対する本件暴行行為は、極めて悪質かつ執拗であり、原告に生じた傷害の結果も重大であるといわざるを得ない。

二  争点二(A田少年ら二名の原告に対する本件いじめ行為の有無等)について

(1)  上記当事者間に争いのない事実、《証拠省略》を総合すると、以下の事実が認められる。

ア A田少年及びE田少年は、中学二年生の二学期ころから、原告の気の弱い性格につけこみ、原告に自転車で家まで送らせるなど、同学年でありながら、原告がA田少年及びE田少年よりも格下であるかのような関係を築いていった。

イ 上記アのような関係の下で、A田少年ら二名は、次第に原告に対し、自らが欲しいと思う音楽用コンパクト・ディスクやジーパン、お菓子等の万引を行わせるようになった。原告がそれらの商品を万引してくると、A田少年ら二名が、ほぼ例外なくその商品を取得していた。一度だけ、原告自身が万引してきた商品を取得したことがあったが、それは、万引してきたジーパンのサイズが、これを行わせたA田少年に合わなかったため、同少年が原告に押しつけたというものであった。

原告としては、A田少年ら二名のために万引をしたくはなく、実際に命じられた万引を断ったことも数回はあったが、その度に、A田少年ら二名により、足蹴りされるなどの暴行を加えられ、結局、既にA田少年ら二名との間で形成されていた上下関係の中で、断るに断れない状態にあった。

ウ また、A田少年ら二名は、学校生活の中でも、原告を格下として扱い、校則違反となることを承知の上で、休み時間中などに度々原告を学校外へ菓子等の買出しなどに行かせ、原告が持ち帰った菓子等はA田少年ら二名において取得していた。A田少年ら二名は、原告を買出しに行かせる際、菓子等を購入するのに必要な金員を渡さずに、原告がその代金を負担するか、菓子等を万引してくることを前提として、買出しを強要するようなこともあった。

エ さらに、E田少年は、中学三年生の時に京都へ修学旅行に行った際、原告から、三〇〇〇円を喝取した。その後も、A田少年ら二名は、数回にわたり、原告から、一回に一〇〇〇円程度の金員を喝取したことがあった。

オ 上記のA田少年ら二名による上記のような行為によって、原告は、中学二年生の三学期ころから、学校を欠席したり、遅刻、早退することが多くなり、中学三年生のころには、総授業日数二一四日のうち、欠席日数五一日、遅刻日数七八日、早退日数一四日となるに至った。

カ A田少年ら二名による原告に対する上記のような行為は、本件暴行事件の直後にこれが発覚するまで続いていた。

(2)  以上に認定した事実によれば、A田少年ら二名が、原告に対し、継続的に万引や買出しの強要、及び恐喝等を繰り返していたことが認められる。

そして、このようなA田少年ら二名の原告に対する行為が、いわゆる「いじめ」として、原告に対する権利侵害に当たることは明らかである。

これに対し、被告A田父母及び被告E田父母らは、A田少年ら二名による万引の依頼や使い走りの命令を、いずれも原告としては断ることができたにもかかわらず、これを断らずに自らの判断で行ったものであると主張する。

しかしながら、A田少年ら二名が原告を格下として扱い、その間に上下関係を形成していたこと、原告が万引を断った際にA田少年ら二名は原告に暴行を加えたこと、原告が万引をしてきた商品は、一度の例外を除きA田少年ら二名が取得し、また、原告が買出しをしてきた菓子等も、購入代金をA田少年ら二名が出捐したか否かを問わず、すべてA田少年ら二名が取得したことは、上記(1)の認定のとおりであり、これらの事実関係に照らせば、原告は、A田少年ら二名による万引や買出しの命令を断れば、自己の身体等に対し危害が加えられるものと畏怖したことにより、何ら自己の利益とならない万引や買出しの命令に従っていたことが明白であって、被告A田父母及び被告E田父母らの上記主張は到底採用することができない。

三  争点三(被告らの監督義務違反の有無)について

(1)  被告らの民法七一四条に基づく責任について

原告は、被告らに対し、民法七一四条に基づく不法行為責任を主張しているが、同条は、責任無能力者のなした行為についての監督義務者の責任を定めるものであるところ、少年ら五名は、本件暴行事件及び本件いじめ行為の発覚時、いずれも満一五歳前後の中学三年生であって、同人らが責任無能力者であると認めるに足りる証拠はない。よって、被告らの責任に関し、民法七一四条に基づく原告の主張は、採用できない。

(2)  被告らの民法七〇九条及び七一九条に基づく責任について

ア 当事者間に争いのない事実、《証拠省略》を総合すると、以下の事実が認められる。

(ア) A田少年は、原告に万引を強要する以前にも、中学一年生のころから、自分で万引を五回程度しており、また、学校などでたばこを吸い、校則違反のピアスを耳や鼻に付けていた。さらに、同人は、日頃から粗暴な行為をすることがある少年であった。

被告A田父母は、学校から呼び出されて、A田少年の喫煙行為など校則違反の事実を告げられ、A田少年に対し、一応は注意をするものの、基本的には放任状態であり、A田少年の不合理な言い訳でも、子の言うことだからといって、それをそのまま信じてしまうなど極めて監督不十分な状態であった。また、被告A田三江は、A田少年に粗暴な面があることを認識していた。

実際、A田少年は、被告A田父母からの注意を受けた後も、喫煙をやめることはせず、ピアスも親に隠れて付けているなど生活態度の改善は見られなかった。また、同少年は、万引に関しても、本件の証人尋問において、原告代理人から被害者である商店に被害弁償をしていないことについて質問された際、「お金がもったいないから。」と証言して被害弁償をする意思が皆無であることを公言するなど、精神的に未熟なままであり、規範意識の鈍磨が著しい。

(イ) E田少年は、本件暴行事件以前から、喫煙していたほか、原告に強要した以外にも、自分でも万引をしていた。

被告E田父母は、E田少年がたばこを吸っていたことさえ全く把握しておらず、当然、注意をすることもなかった。また、そのほかの生活全般に対する躾も甘く、原告に対する万引の強要が発覚した後も、原告が自らの判断で万引をしていたとするE田少年の不合理な弁解をそのまま信じるなど、E田少年に対する監督は不十分なものであった。

(ウ) B山少年は、本件暴行事件以前に非行歴二回がある素行不良の少年である。中学校内では、特に目立った行動はなく普通に登校はしているものの、平成一一年の夏ころに、C川少年及びD原少年らと不良グループを結成し、そのグループの中でリーダーの立場にあった。また、日頃から粗暴な行動が目立っており、本件暴行事件以前にも、暴力事件を起こしていた。

これに対し、被告B山は、その都度、B山少年に対し注意をするものの、その注意の仕方は必ずしも適切とはいえず、同人の非行傾向は改まることはなく、結局、被告B山の監督は不十分で放任状態に等しいものであった。

(エ) C川少年は、B山少年と不良グループを結成し、週一回程度しか登校しない素行不良の少年である。

被告C川父母は、C川少年がB山少年らと、自宅を溜まり場にしているにもかかわらず、特段の注意もせずにこれを放置するなど、子に対する監督は極めて不十分であった。

(オ) D原少年は、B山少年らと不良グループを結成し、C川少年方を溜まり場にしていた素行不良の少年である。

被告D原父母は、D原少年がたばこを吸っているかもしれないと認識していながら、その確認もせず、B山少年をリーダーとする不良グループとの交友関係についても特段注意を払わず、放任状態にあった。

イ 被告らは、それぞれ少年ら五名の親権者であり、それぞれの子を監督し、教育すべき義務を負っているものというべきである。そして、上記アで認定した各事実によれば、少年ら五名には、いずれも本件暴行事件より以前から(A田少年ら二名については、本件いじめ行為の前か、少なくともこれと並行して)、喫煙、ピアスの着用、粗暴な行為、不良グループの結成等の問題行動が生じていたところ、被告らはこれを認識し、又は認識すべきであったから、少年ら五名が、早晩弱者に対するいじめや暴力行為等に及ぶことをも十分に予見し得たものといえる。それにもかかわらず、被告らは、いずれもその子に対する監督教育等に特段の努力をせずこれを放置し、少年ら五名の上記問題行動を解消させようとはしなかった。そのため、少年ら五名の非行傾向は深刻化し、原告に対する本件いじめ行為及び本件暴行事件を惹起させるに至ったものというべきである。

したがって、被告らには、各少年らに対する監督義務を怠った過失があり、これと少年ら五名によって惹起された本件暴行事件(被告A田父母及び被告E田父母については、加えて、A田少年ら二名による本件いじめ行為)により原告に生じた権利侵害の結果との間には因果関係があるというべきであるから、被告らは、民法七〇九条、七一九条に基づく不法行為責任を負うものというべきである。

四  争点四(損害額)について

(1)  慰謝料について

ア 本件いじめ行為について

上記認定のとおり、A田少年ら二名による原告に対する本件いじめ行為は、同少年らが原告を万引の「道具」として利用していたともいえる悪質な態様であること、それにもかかわらずA田少年は、本件の証人尋問において、原告に対して悪いことをしたとは思っていない旨証言し、全く反省の態度を示していないこと、その他、恐喝行為や買出しの強要の態様等諸般の事情を総合考慮すると、本件いじめ行為に対する慰謝料としては、九〇万円とするのが相当である。

イ 本件暴行事件について

上記説示のとおり、本件暴行事件は、少年ら五名により原告一名に対して行われた極めて悪質な集団暴行事件であること、原告には何ら落ち度はないこと、花和田公園での暴行の後、さらに場所を移して暴行が加えられるなど、その態様は執拗で場合によっては死に至る危険な行為であったこと、暴行後、原告に対し南越谷でからまれたように親等に言うよう口止め工作をしていること等諸般の事情を総合考慮すると、本件暴行事件に対する慰謝料としては、二七〇万円とするのが相当である。

ウ 本件における相当因果関係にある弁護士費用相当の損害は、本件いじめ行為の部分につき一〇万円、本件暴行事件の部分につき三〇万円とするのが相当である。

エ 以上によれば、被告A田父母及び被告E田父母は、上記ア、イ及びウの合計額四〇〇万円、その余の被告らについては、上記イ及びウ(本件暴行事件の部分三〇万円)の合計額三〇〇万円につき、原告に対して連帯して損害を賠償すべき義務を負うものというべきである。

五  よって、原告の被告A田父母及び被告E田父母に対する請求は、四〇〇万円及びこれに対する不法行為の最終の日である平成一一年一一月三日から完済に至るまで年五分の割合による遅延損害金の連帯支払を求める限度で、その余の被告らに対する請求は、三〇〇万円及びこれに対する不法行為の日である同日から完済に至るまで年五分の割合による遅延損害金の連帯支払を求める限度で(なお、三〇〇万円及びこれに対する遅延損害金の支払を求める限度では、各被告の支払義務が連帯関係にある。)それぞれ理由があり、原告の請求のその余の部分についてはいずれも理由がないから、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 石原直樹 裁判官 柴田秀 中野哲美)

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