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さいたま地方裁判所 平成14年(行ウ)12号 判決 2004年2月04日

原告 株式会社A

同代表者代表取締役 甲

同訴訟代理人弁護士 田島義久

同 山田雄介

同 川井理砂子

被告 大宮税務署長 櫻井恒男

同指定代理人 新谷貴昭

同 引地俊二

同 石川利夫

同 内田健文

同 山畑正

同 若山政行

同 大庭明夫

同 戸前美恵子

主文

1  被告が、原告に対し、平成12年6月28日付けでした平成9年2月21日から平成10年2月20日までの事業年度に関する法人税額の更正処分及びこれに伴う過少申告加算税賦課決定処分は、所得金額67億9913万5181円を超える部分を取り消す。

2  被告が、原告に対し、平成12年6月28日付けでした平成10年2月21日から平成11年2月20日までの事業年度に関する法人税額の更正処分及びこれに伴う過少申告加算税賦課決定処分は、所得金額金93億6608万0913円を超える部分を取り消す。

3  原告のその余の請求を棄却する。

4  訴訟費用は、これを4分し、その1を被告の負担とし、その余は原告の負担とする。

事実及び理由第1請求 1 被告が、原告に対し、平成12年6月28日付けでした平成9年2月21日から平成10年2月20日までの事業年度に関する法人税額の更正処分及びこれに伴う過少申告加算税賦課決定は、所得金額67億7840万3266円を超える部分を取り消す。

2 被告が、原告に対し、平成12年6月28日付けでした平成10年2月21日から平成11年2月20日までの事業年度に関する法人税額の更正処分及びこれに伴う過少申告加算税賦課決定は、所得金額金93億0090万1477円を超える部分を取り消す。

第2事案の概要

1 事案の要旨

本件は、原告が、平成9年2月21日から平成10年2月20日までの事業年度(以下「平成10年2月期」という。)及び同月21日から平成11年2月20日までの事業年度(以下「平成11年2月期」という。)の確定申告をしたところ、被告が、原告が購入してその営業店舗に設置した防犯用のビデオカメラ等(以下「本件防犯用ビデオカメラ等」という。)が法人税法施行令133条(平成10年法律第105号による改正前のもの。以下同じ。)に規定する少額減価償却資産に該当せず、また、原告が実施した採用内定者懇親会(以下「本件懇親会」という。)及び採用内定者懇親旅行(以下「本件懇親旅行」という。)の費用が租税特別措置法(以下「措置法」という。)61条の4第3項に規定する交際費等に該当するため、原告の各事業年度の所得の金額の計算上、いずれも損金の額に算入できないなどとして、各更正処分(以下、平成10年2月期の法人税の更正処分を「本件更正処分1」、平成11年2月期の法人税の更正処分を「本件更正処分2」といい、両処分を併せて「本件各更正処分」という。)及び過少申告加算税の各賦課決定処分(以下、本件更正処分1に係る過少申告加算税の賦課決定処分を「本件賦課決定処分1」、本件更正処分2に係る過少申告加算税の賦課決定処分を「本件賦課決定処分2」、両処分を併せて「本件各賦課決定処分」という。本件各更正処分と本件各賦課決定処分を併せて、「本件各課税処分」という。)をしたため、原告がその取消しを求めた事案である。

本件の争点は、(1)本件防犯用ビデオカメラ等が、法人税法施行令133条に規定する少額減価償却資産に該当するか否か、(2)本件懇親会及び本件懇親旅行の費用が、措置法61条の4に規定する交際費等に該当するか否かである。

2 基本的事実関係(証拠等の摘示のない事実は、争いのない事実である。)

(1) 原告は、衣料品販売のチェーンストアの経営等を目的とする株式会社である。

(2) 原告は、本件各事業年度において、株式会社Bから、原告の各営業店舗内の防犯のために、別表1のとおり、本件防犯用ビデオカメラ等を購入し、順次、営業店舗に設置した(なお、その詳細は、別表8、9のとおり)。

本件防犯用ビデオカメラ等は、カメラ、コントローラー、ビデオ、テレビ、接続ケーブルで構成され、その製造会社、取得価額は、概略以下のとおりであり、原告は、営業店舗ごとに、コントローラー、テレビ、ビデオをそれぞれ1台とビデオカメラ4台以上を設置している(弁論の全趣旨)。

ア カメラ

C株式会社製、取得価格4万8500円から5万9000円

イ コントローラー

C株式会社製、取得価格3万1000円から3万9100円

ウ テレビ

C株式会社製、取得価格1万5000円から2万8400円

エ ビデオ

C株式会社製、取得価格1万8600円から2万0000円

オ 20メートル接続ケーブル

特注、取得価格2000円程度

(3) 原告は、本件懇親会及び本件懇親旅行会の費用として、別表2のとおりの支出をした。

(4) 原告は、本件防犯用ビデオカメラ等が法人税法施行令133条の少額減価償却資産に該当し、本件懇親会及び本件懇親旅行会の費用は求人費に該当するとして、いずれも損金の額に算入したうえ、平成10年2月期及平成11年2月期の確定申告をした。

(5) 原告に対する本件各課税処分の経緯は、別表3のとおりである。

3 本件各課税処分の根拠に関する被告の主張

被告が主張する本件各課税処分の根拠は、以下のとおりである。

(1) 本件各更正処分

ア 平成10年2月期

所得金額 68億0475万1633円

納付すべき税額 25億3095万7100円

項目

順号

金額(単位・円)

申告所得金額

6,778,403,266

加算

減価償却超過額の損金不算入額

31,104,826

交際費等の損金不算入額

3,083,528

加算計(②+③)

34,188,354

減算

新規取得土地等に係る負債の

利子の損金不算入額の過大額

7,839,987

所得金額(①+④-⑤)

6,804,751,633

法人税額

2,551,781,625

法人税額の特別控除額

9,513,017

控除所得税額等

11,311,460

差引所得に対する法人税額

(納付すべき税額)(⑦-⑧-⑨)

2,530,957,100

前記算出過程を詳述すると、以下のとおりである。

(ア) 申告所得金額(①)・・・67億7840万3266円

上記金額は、原告の平成10年2月期の法人税の確定申告における所得金額である。

(イ) 減価償却超過額の損金不算入額(②)・・・3110万4826円

上記金額は、原告は、平成10年2月期に購入した本件防犯用ビデオカメラ等について、その1組の取得価額の合計額が20万円を超えており、法人税法施行令133条の規定を適用できないため、減価償却資産〔減価償却資産の耐用年数等の省令に関する省令別表第1(以下「耐用年数省令別表第1」という。)「機械及び装置以外の有形減価償却資産の耐用年数表に掲げる種類:器具及び備品、構造又は用途:事務機器及び通信機器、細目:インターホン及び放送設備」に該当〕)として管理し償却をすべきところ、これらの機器の取得価格の全額を消耗品費として損金算入していたことから、別表4のとおり原告が消耗品費として損金に算入した金額3778万1600円から平成10年2月期における償却限度額667万6774円を控除した金額である。

(ウ) 交際費等の損金不算入額(③)・・・308万3528円

上記金額は、求人費に計上した本件懇親会及び本件懇親旅行の費用が、採用内定者を接待するために要した飲食費用及び旅行代金であり、措置法61条の4第3項に規定する交際費等に該当することから、損金不算入とした(同条1項)金額である(別表2)。

(エ) 加算計(④)・・・3418万8354円

上記金額は、前記(イ)の金額3110万4826円に前記(ウ)の金額308万3528円を加算した金額である。

(オ) 新規取得土地等に係る負債の利子の損金不算入額の過大額(⑤)・・・783万9987円

上記金額は、新規取得土地等に係る負債の利子の損金不算入額のうち、計算等の誤りにより過大に損金不算入とした金額である。

(カ) 所得金額(⑥)・・・68億0475万1633円

上記金額は、前記(ア)の金額67億0475万1633円に前記(エ)の金額3418万8354円を加算し、前記(オ)の金額783万9987円を差し引いた金額である。

(キ) 法人税額(⑦)・・・25億5178万1625円

上記金額は、法人税法66条1項(平成10年法律第24号による改正前のもの)の規定により、上記(カ)の所得金額68億0475万1000円(通則法118条1項の規定により1000円未満の端数を切り捨てた後のもの)に100分の37.5の税率を乗じて計算した金額である。

(ク) 法人税額の特別控除額(⑧)・・・951万3017円

上記金額は、措置法42条の5第1項の規定に基づくエネルギー需給構造改革推進設備等を取得した場合の法人税額の特別控除額110万3130円と措置法42条の7第1項の規定に基づく事業基盤強化設備を取得した場合等の法人税額の特別控除額840万9887円と合計額であり、原告の確定申告における額と同額である。

(ケ) 控除所得税額等(⑨)・・・1131万1460円

上記金額は、法人税法68条に基づき法人税額から控除される所得税の額であり、原告の確定申告における額と同額である。

(コ) 差引所得に対する法人税額(納付すべき税額)(⑩)・・・25億3095万7100円

上記金額は、原告の納付すべき税額であり、前記(キ)の金額25億5178万1625円から前記(ク)の金額951万3017円及び前記(ケ)の金額1131万1460円を差し引いた金額(通則法119条1項の規定により100円未満の端数を切り捨てた後のもの)である。

イ 平成11年2月期

所得金額 93億8531万7666円

納付すべき税額 34億3023万0300円

項目

順号

金額(単位・円)

申告所得金額

9,284,267,004

加算

建物に係る減価償却

超過額の損金不算入額

5,779,960

器具及び備品に係る減価償却

超過額の損金不算入額

92,586,580

地主等に対するお歳暮代金に

係る交際費等の損金不算入額

2,540,052

加算採用内定者懇親会費用に

係る交際費等の損金不算入額

2,373,693

会費組合費の損金不算入額

2,214,000

雑費の損金不算入額

4,262,116

雑収入の益金算入額

2,280,000

新規取得土地等に係る負債の

利子の損金不算入額の過大額

2,098,397

加算計(②~⑨の合計)

114,134,798

減算

器具及び備品に係る前期減価償却

超過額の損金算入額

9,922,436

事業税の損金算入額

3,161,700

減算計(⑪+⑫)

13,084,136

所得金額(①+⑩-⑬)

9,385,317,666

法人税額

3,519,493,875

法人税額の特別控除額

83,006,894

控除所得税額等

6,256,666

差引所得に対する法人税額

(納付すべき税額)(⑮-⑯-⑰)

3,430,230,300

前記算出過程を詳述すると、以下のとおりである。

(ア) 申告所得金額(①)・・・92億8426万7004円

上記金額は、原告の平成11年2月期の法人税の確定申告における所得金額である。

(イ) 建物に係る減価償却超過額の損金不算入額(②)・・・577万9960円

上記金額は、原告が店舗用建物の減価償却費として損金経理した金額のうち、適用する耐用年数を誤ったことにより償却限度額を超過した部分の額である。

(ウ) 器具及び備品に係る減価償却超過額の損金不入額(③)・・・9258万6580円

上記金額は、原告は、平成11年2月期に購入したビデオカメラ等について、その1組の取得価額の合計額が20万円を超えており、法人税法施行令133条の規定を適用できないため、減価償却資産(耐用年数省令別表第1「機械及び装置以外の有形減価償却資産の耐用年数表に掲げる種類:器具及び備品、構造又は用途:事務機器及び通信機器、細目:インターホン及び放送設備」に該当)として管理し減価償却をすべきところ、これらの機器の取得価額の全額を消耗品として損金算入していたことから、別表4のとおり、原告が消耗品として損金に算入した金額1億2690万8000円から平成11年2月期における償却限度額3432万1420円を控除した金額である。

(エ) 地主等に対するお歳暮代金に係る交際費等の損金不算入額(④)・・・254万0052円

上記金額は、雑費のうち、地主等に対して贈ったお歳暮の代金であり、措置法61条の4第3項に規定する交際費等に該当することから損金不算入とした金額である。

(オ) 本件懇親会費用に係る交際費等の損金不算入額(⑤)・・・237万3693円

上記金額は、原告が求人費に計上した本件懇親会の費用が、採用内定者を接待するために要した飲食費用であり、措置法61条の4第3項に規定する交際費等に該当することから損金不算入とした金額である(別表2)

(カ) 会費組合費の損金不算入額(⑥)・・・221万4000円

上記金額は、原告が会費組合費として計上した、原告の店舗が所在する卸売団地の管理組合に対し平成10年9月から平成12年8月分までの期間に対応するものとして支払った会費295万200円のうち、前払費用として翌事業年度以降の費用となる平成11年3月から平成12年8月分に係る金額(月額12万3000円×18か月分=221万4000円)である。

(キ) 雑費の損金不算入額(⑦)・・・426万2116円

上記金額は、雑費のうち、原告の店舗用地を賃借するために要した費用であり、借地権の取得価額に含めるべき費用であるから、損金不算入とした金額である。

(ク) 雑収入の益金算入額(⑧)・・・228万0000円

上記金額は、新本社ビルの竣工披露のパーティーの際に、取引先から受領したお祝金であることから、益金の額に算入した金額である。

(ケ) 新規取得土地等に係る負債の利子の損金不算入額の過大額(⑨)・・・209万8397円

上記金額は、新規取得土地等に係る負債の利子の損金算入額のうち、計算等の誤りにより過大に損金に算入した金額である。

(コ) 加算計(⑩)・・・1億1413万4798円

上記金額は、前期(イ)ないし(ケ)の合計額である。

(サ) 器具及び備品に係る前期減価償却超過額の損金算入額(⑪)・・・992万2436円

上記金額は、本件更正処分1により増加した平成10年2月期の所得金額のうち、減価償却超過額3110万4826円に係る平成11年2月期分の減価償却費の金額として損金の額に算入した金額である。

(シ) 事業税の損金算入額(⑫)・・・316万1700円

上記金額は、本件更正処分1により増加した平成10年2月期の所得金額に係る事業税の金額である。

(ス) 減算計(⑬)・・・1308万4136円

上記金額は、前記(サ)及び(シ)の合計額である。

(セ) 所得金額(⑭)・・・93億8531万7666円

上記金額は、前記(ア)の金額92億8426万7004円に前記(コ)の金額1億1413万4798円を加算し、前記(ス)の金額1308万4136円を差し引いた金額である。

(ソ) 法人税額(⑮)・・・35億1949万3875円

上記金額は、法人税法66条1項(平成10年法律第24号による改正前のもの)の規定により、上記(セ)の所得金額93億8531万7000円(通則法118条1項の規定により1000円未満の端数を切り捨てた後のもの)に100分の37.5の税率を乗じて計算した金額である。

(タ) 法人税額の特別控除額(⑯)・・・8300万6894円

上記金額は、措置法42条の5第1項の規定に基づく、エネルギー需給構造改革推進設備等を取得した場合の法人税額の特別控除額1257万7119円と措置法42条の7第1項の規定に基づく、事業基盤強化設備を取得した場合等の法人税額の特別控除額7042万9775円との合計額であり、原告の確定申告における額と同額である。

(チ) 控除所得税額等(⑰)・・・625万6666円

上記金額は、法人税法68条に基づき法人税額から控除される所得税の額であり、原告の確定申告における額と同額である。

(ツ) 差引所得に対する法人税額(納付すべき税額)(⑱)・・・34億3023万0300円

上記金額は、原告の納付すべき税額であり、前記(ソ)の金額35億1949万3875円から前記(タ)の金額8300万6894円及び前記(チ)の金額625万6666円を差し引いた金額(通則法119条1項の規定により100円未満の端数を切り捨てた後のもの)である。

ウ 原告の平成10年2月期及び平成11年2月期(以下「本件各事業年度」という。)における所得金額及び納付すべき税額は、前記(1)のとおり、

平成10年2月期

【所得金額】 68億0475万1633円

【納付すべき税額】 25億3095万7100円

平成11年2月期

【所得金額】 93億8531万7666円

【納付すべき税額】 34億3023万0300円

であり、本件各更正処分における原告の所得金額及び納付すべき税額と同額である。

(2) 本件各賦課決定処分

ア 平成10年2月期・・・98万8000円

上記金額は、通則法65条1項の規定に基づき、前記(1)アの平成10年2月期の納付すべき税額25億3095万7100円から原告の確定申告における納付すべき税額25億2107万6600円を差し引いた金額988万円(通則法118条3項の規定により、1万円未満の端数を切り捨てた後のもの)に、100分の10の割合を乗じて計算した金額である。

イ 平成11年2月期・・・378万9000円

上記金額は、通則法65条1項の規定に基づき、前記(1)イの平成11年2月期の納付すべき税額34億3023万0300円から原告の確定申告における納付すべき税額33億9233万6500円を差し引いた金額3789万円(通則法118条3項の規定により、1万円未満の端数を切り捨てた後のもの)に、100分の10の割合を乗じて計算した金額である。

3 当事者の主張

(1) 本件防犯用ビデオカメラ等が、法人税法施行令133条に規定する少額減価償却資産に該当するか。

(被告の主張)

本件防犯用ビデオカメラ等は、少額減価償却資産に該当しない。

ア 減価償却制度及び少額減価償却資産

(ア) 減価償却の意義

減価償却とは、企業会計上、企業が設備等に投下した資本をその設備等の効用持続年数に応じて費用配分する手続であり、その効用持続年数としての償却期間は、各企業が自主的に各資産ごとに定めるものであるが、法人税法においては、各企業の恣意性の介入を排除し、租税の公平負担を実現するため、償却方法を定め(法人税法施行令48条)、耐用年数、当該耐用年数に応じた償却率及び残存価額については省令で定める(同施行令56条)こととし、これを受けて、耐用年数省令別表第1によって画一的基準たる法定耐用年数が定められている。そして、これらを基礎として計算される償却限度額までの範囲内において企業の行った償却を認め(法人税法施行令58条)、損金経理した償却費を損金の額に算入することとしている(法人税法31条)。

(イ) 減価償却資産

減価償却資産〔法人税法2条1項24号(平成13年法律第6号による改正前のもの)、法人税法施行令13条〕とは、事業の経営に継続的に利用する目的をもって取得される資産で、その用途に従って利用され、時の経過によりその価値が減少していく資産であり、その取得に要した金額(取得価額)は、将来の収益に対する費用の前払いの性質を有し、資産の価値の減少に応じて減価償却費として徐々に費用として計上されるものである。

(ウ) 少額減価償却資産

法人税法は、企業会計原則における重要性の原則に基づく費用計算の合理化の観点から、本来減価償却資産たる性格を有するものであっても、これを減価償却資産として資産に計上しないことができるものを規定している。すなわち、同法施行令133条は、事業の用に供した減価償却資産で、同施行令132条(資本的支出)1号に規定する使用可能期間が1年未満であるもの又は同施行令54条1項各号(減価償却資産の取得価額)の規定により計算した取得価額が20万円未満である減価償却資産を有する場合において、その取得価額に相当する金額につきその事業の用に供した日の属する事業年度において損金経理をしたときは、その金額は、当該事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入する旨規定し、取得価額が、一定限度以下の少額減価償却資産については、償却の方法によらず、その事業の用に供した都度損金の額に算入することを認めている。

イ 減価償却資産の償却費の計算を行う際の償却単位資産の把握

(ア) 減価償却資産の償却費の計算は、損金の額に関するものであり、損金性の判断は、資産の具体的な購入目的、用途、使用状況に基づいて行われるものであるから、減価償却資産の償却費の計算を行う際の法人税法31条等の委任を受けて定められた耐用年数省令別表第1への当てはめ、すなわち、減価償却資産の償却費の計算を行う際の償却単位資産の把握も、資産の具体的な購入目的、用途、使用状況に基づいて行われなければならない。

(イ) 耐用年数省令別表第1は、減価償却資産の耐用年数について、減価償却が減価償却資産の効用持続年数に応じて費用配分する手続であり、その効用持続年数としての償却期間を千差万別の器具、備品等についてそれぞれ個別に定めることは不可能であるため、その資産がある予定された利用条件の下に使用される場合において、通常予定される効用をあげることができる期間を、現在の状況によって、客観的、技術的に想定し、これを税法上の基準の下に画一的に定めている。

具体的には、資産の「種類」、「構造又は用途」、その「細目」というように順次分類した上、これに対応する形で耐用年数を定めているが、このうち、「種類」は、単に資産を分類する目次の意味を有するにすぎず、「細目」は「構造又は用途」の細目をいうものであるから、判断の基準として実際上の意義を有するのは「構造又は用途」である。そして、「構造又は用途」の解釈については、構造的に一体の資産は、必然的に用途も同一であるのに対し、構造的に一体でない資産については、用途の同一性を別個に検討する必要があり、これが肯定されれば1個の資産と扱われることになる。そうすると、償却単位資産を把握する際の「構造又は用途」という判断基準は、これを実質的に理解すれば、「用途の同一性」をいうものにほかならない(構造の一体性はこれに包摂される。)。そして、このような理解は、前述した法人税法31条の趣旨に合致し、耐用年数省令別表第1が法人税法31条等の委任を受けたものであることとも整合するものである。

(ウ) 以上の点は、同別表第1の規定自体からも裏付けられる。すなわち、同別表第1には、必ずしも単体の(構造上の一体性を有する)資産だけでなく、単体の資産が有機的に結合した複合体資産(例えば、応接セットなど)も掲げられている。これは、複合体資産としての用途に着目して購入し事業の用に供した場合においては、複合体資産を構成する個々の資産の耐用年数によるのではなく、あくまで当該複合体資産の耐用年数によって償却費の計算を行うことを示すものである。例えば、応接セットは、テーブル、椅子等で構成されているものであるが、同別表第1に「応接セット」が特掲されていることからすれば、償却単位として把握すべきものは、個別のテーブル1個又は椅子1個ではなく、全体として利用されることによって有機的に機能的一体性が高められた応接セットという複合体資産なのである。

(エ) そして、同別表第1は、「種類」、「構造」、「用途」に応じた償却単位資産として各資産を特掲しているものであり、同別表第1に減価償却資産として特掲されている以上、その資産が有機的に結合することによってその機能が果たされている限り、その資産を構成する単体資産又は部品等に細分し、その細分した資産を同別表第1に当てはめて耐用年数を決定するなどということはできないのである。

ウ 通常1単位として取引されるその単位について

(ア) 法人税法基本通達7-1-11は、法人税法施行令133条及び同施行令133条の2の適用に当たり、その資産の取得価額の判定単位についての取扱いを明らかにしている。

(イ) 同通達は、取得価額を「通常1単位として取引されるその単位、・・・ごとに判定する」というものであるが、複合体資産について、それを構成する個別の資産が、複合体資産の一部として取引されるよりも個別の資産として取引される方が多い場合には、これを個別の資産を1単位として把握するという趣旨ではない。

同通達が例示するところを概観すれば、同通達が用途の単一性や機能的一体性を前提とするものであることは明らかであり、法人税法等の趣旨に基づき、既にその前提として、資産の用途を基準にしているのであって、用途というフィルターを通しその上で取引単位を考慮することとするものである。このように解さないと、耐用年数省令別表第1に掲げられた複合体資産を構成する個別の資産のほどんどすべてが単体の資産として把握されることとなり、損金制度、減価償却制度及び耐用年数省令別表第1の意義・趣旨が没却されることとなるのである。

エ 本件へのあてはめ

(ア) 本件防犯用ビデオカメラ等は、防犯を目的として、監視カメラ4台または5台、コントローラー1台、テレビ1台、ビデオ1台、20m特注接続ケーブル1個の組合せで一括して購入し、各営業店舗に設置したものであり、各店舗においては、監視カメラ、コントローラー、テレビ、ビデオの各機器をケーブルで接続して使用しており、カメラで写した映像を、ケーブルを通してテレビに映し出し、その映像を監視したり、ビデオに録画する防犯用の通信設備である。また、本件防犯用ビデオカメラ等を構成する個々の機器が単体で使用され機能しているものではなく、原告の営業活動上、原告の各営業店舗に本件防犯用ビデオカメラ等として一体で設置され、防犯用として機能するために一体不可分なものであることが認められる。このことは、購入された商品の一部に業務用商品ではない民生用商品が含まれているかによって変わるものではない。また、必ずしもコントローラーに接続されていない5台目のビデオカメラについても犯罪予防効果を期待した上で設置されたものであって、これを含めて全体として防犯装置として機能している。これらの事実に照らせば、本件防犯用ビデオカメラ等を一つの償却単位資産としてとらえなければならない。

購入の際における請求書を見ても、そもそも、全体についていえば、民生用の商品が含まれているにもかかわらず、新規店舗用のものは「セット納品」(希望小売価格部分参照)されていたようであり、これは、原告の防犯装置の納入の要望を受け、販売メーカーとしては個々の監視カメラ等を個別に見るのではなく、全体を一体の取引対象として把握していたことの表れである。防犯カメラの機能を果たすためには、監視カメラ、コントローラー、テレビ、ビデオのいずれが欠けても十分な機能が果たし得ないことからすれば、かかる一体としての把握は極めて適切かつ妥当なものといえる。また、監視用のビデオカメラについてだけみても、監視カメラ4台を一式のものとして「監視カメラセット」として購入したものがあるようであるが(甲11の1)、カメラ4台の取得価格は、旧式のものが21万円、新式のものも24万2000円と、いずれも少額減価償却資産の対象となる20万円を超えることになる点をおくとしても、このようにセットとして販売されていること自体、推薦されたセット商品と構成が必ずしも一致しないものの、販売メーカーとしてはカメラ4台を防犯カメラ用として一体のものとして把握して納品していたことの表れといえる。

本件防犯用ビデオカメラ等を構成する機器には、テレビやビデオのように単体でも機能し得るものが含まれているが、償却単位資産の把握において、これらを単体で見ることができず、資産の具体的な購入目的、用途、使用状況に基づいて償却単位資産の把握を行わなければならないところ、本件においては、具体的な購入目的は防犯用であって、実際に、モニターとして使用されていたテレビにアンテナ線が接続されておらず、また、各機器は固定されており、単体として使用し得る各構成機器が防犯目的以外に使用されていることはなかったのであるから、例えばテレビの具体的用途はあくまでも単なるモニターであって、テレビ番組を映し出すという独立して単体で利用されていない。このように本件防犯用ビデオカメラ等を構成する個々の機器が単体で使用され機能しているものではなく、原告の営業活動上、原告の各営業店舗に本件防犯用ビデオカメラ等として一体で設置され、機能していたものとしか評価できないのであって、償却単位としては、これらの資産を一体のものとしてみなければならないことは明らかである。

(イ) そもそも、法人が購入した資産の損金性については、その資産の具体的な購入目的、用途、使用状況から判断しなければならないところ、本件防犯用ビデオカメラ等は、防犯のために一体として使用されるものであるがゆえに、損金性を有するというべきであって、本件防犯用ビデオカメラ等が単体として機能し得る点をとらえて、その一体性を否定することとなれば、その購入のための支出の損金性となる実質的根拠自体を否定することにほかならないのである。

また、減価償却は、その物の効用の逓減を理由に期間配分による費用化を図るものであり、逓減する基となる効用は、一体となった防犯設備それ自体の効用とみるべきものである。

(ウ) そうすると、本件防犯用ビデオカメラ等は、全体として一体のものとしてとらえるべきであり、カメラで写した映像を、ケーブルを通してテレビに映し出し、その映像を監視したり、ビデオに録画する通信設備であることから、これを耐用年数省令別表第1に当てはめれば、その資産の分類上、その種類が「器具及び備品」に分類され、その用途からして、「器具及び備品」2項の「事務機器及び通信機器」に、その使用の状況から「インターホン及び放送用設備」に該当することとなる。

(エ) また、本件防犯用ビデオカメラ等は、その資産を構成する機器の取得価額の合計金額が20万円以上であるから、法人税法施行令133条の規定によりその取得価額を一括して損金に算入することはできない。

(オ) したがって、本件防犯用ビデオカメラ等は、その資産を構成する機器の取得価額の合計金額により、「インターホン及び放送用設備」の耐用年数の6年を適用して、減価償却を行わなければならない。

(原告の主張)

本件防犯用ビデオカメラ等は、少額減価償却資産に該当する。

ア 減価償却制度の趣旨

減価償却とは、企業が設備等に投下した資本をその設備等の効用持続年数に応じて費用配分する手続である。すなわち、ある資産が一定の長期間にわたり企業活動に利用されている実態に鑑み、当該資産の特性に応じてその耐用年数を定め、一定期間内に分散して費用計上することを目的とするものである。

イ 少額減価償却資産に関する規定の趣旨

法人税法施行令133条は、事業の用に供した減価償却資産で、同施行令132条1号に規定する使用可能期間が1年未満であるもの又は同施行令54条1項各号の規定により計算した取得価額が20万円未満であるものを有する場合において、その取得価額に相当する金額につきその事業の用に供した日に属する事業年度において損金処理したときは、償却の方法によらず、その事業の用に供した都度、当該年度において損金の額に算入することを認めている。かかる規定が定められているのは、使用期間が1年未満であるもの、取得価格が20万円未満のものについては、煩雑な減価償却の手続・計算を省き、支出年度において一括損金処理させることが、企業会計の合理化に資するためである。

ウ 少額減価償却資産の判定について

(ア) 被告は、減価償却資産の償却費の計算を行う際の償却単位資産の把握も、資産の具体的な購入目的、用途、使用状況に基づいて行わなければならないとし、複合体資産の機能、用途を重視する。

(イ) たしかに、たとえば、「応接セット」などについては、法人税法施行令133条の適用に際してソファ、テーブルといった資産すべてを一体として捉えるべきとされており、減価償却のあり方を決定する際に、各資産の購入目的、用途、使用状況が考慮されていることは間違いないであろう。しかし、減価償却制度が本来、資産をその設備等の効用持続年数に応じて費用配分する手続であることに鑑みると、減価償却のあり方を決定する際に主眼に置かれるべきは、資産ごとに性質に即した耐用年数を定め、可能な限り実態に即した費用配分を実現することにある。極端な例を用いるならば、たとえ同一目的のために机と椅子が同時購入された場合であっても、頑丈なスチール製の机と、ダンボール紙製の椅子とを一括して減価償却すべきではない。この場合、机と椅子では想定される持続年数が明らかに異なるからである。

(ウ) さらに、本件で問題となっているカメラ、コントローラー、ビデオ、テレビなどの電子機器については、頻繁に新製品が発売され、機器の性能が日々進化し、近時は、ユーザーのニーズに合わせて、他の機器と様々に組み合わせて利用することも可能であるとの特殊性がある。かかる電子機器の典型とも言えるのがコンピューター関連機器であるところ、オフィスで使用されるLAN設備に関し、国税庁は一括減価償却を認めていたかつての取扱を改め、全て個別機器ごとの耐用年数に従って取り扱うべきものとした(法人税通達)。かかる通達の基礎とされているのは、「技術革新等によって、現在は、大半のLAN設備については必ずしも同時に一括して取得及び更新は行われず、既存の設備の拡張や機能向上に伴う一部設備の更新なども頻繁に行われる状況にある。したがって、LAN設備全体を一つの減価償却資産として償却計算をする理由が極めて乏しくなってきた。」との事情がある。

LAN設備は、全体が一体となって、オフィスのネットワークシステムを形成しているものであるから、まさに同一の目的に供されているものと捉えることができるが、ここにおいても機能の一体性は決め手とされておらず、むしろLAN設備を構成する機器の性質や、各機器の取得、更新に関する実情が考慮されているのである。

(エ) 加えて、法人税法施行令133条に関する、法人税通達7-1-11は、「令133条・・・の規定を適用する場合において、取得価額が20万円未満であるかどうかは、通常1単位として取り引きされるその単位、例えば、機械及び装置については1台又は1基ごとに、工具、器具及び備品については1個、1組又は1そろえごとに判定し、構築物のうち例えば枕木、電柱等単体では機能を発揮できないものについては一の工事等ごとに判定する。」と定めており、機能的な一体性については何ら触れていない。課税については、租税法律主義の要請が働くことからすれば、かかる通達文言は重視されるべきである。また、通常一体として「取引」されるような複合体資産であれば、一体となって効用を発揮することはもちろん、これを構成する各資産の耐用年数もほぼ等しいと考えられるので、実質的にも通達の考え方は相当であるといえる。

(オ) 以上によれば、省令の適用に当たっては、通達の文言(取引単位としての一体性)を基本とし、かつ、各資産の機能的な一体性のみならず、複合体資産を構成する個別機器の性質、性能、想定される使用の実態及び耐用年数が十分考慮されるべきである。

エ 本件防犯用ビデオカメラ等の特質、使用の実態

(ア) 本件防犯用ビデオカメラ等のカメラ、コントローラー、テレビ、ビデオ、接続ケーブルは、いわゆるセット商品ではなく、それぞれ商品名、シリーズ、型式が異なるものである。まず、採用しているカメラはC株式会社製の防犯用カメラであるところ、同製品のカクログには、推奨商品が挙げられているが、原告はコスト面の理由から、推奨商品を採用せず、安価な一般家庭用製品を組み合わせて使用している。このような家庭用の製品は防犯用推奨製品に比べて価格が格段に安い。原告が使用しているモニター用テレビは2万円ないし3万円、録画用ビデオデッキは1万円台で購入されているが、防犯用ビデオの推奨商品は、モニターが9万4000円、ビデオデッキが30万円とされており、ビデオデッキについていえば、カタログ定価にして約5倍の開きがある。

(イ) 上記のような家庭用テレビ、ビデオは、業務用の利用を必ずしも想定したものではない。原告の店舗は、全国共通で午前10時から午後7時まで営業しており、毎日、最低9時間、年間で約3200時間は防犯ビデオを録画することになるが、このような条件下で業務用防犯カメラとともに家庭用テレビ、ビデオを使用している結果、しばしばビデオ・テレビのみ一部更新が行われている。

すなわち、原告では、平成9年に試験的に防犯ビデオの設置を開始し、平成10年、既存約500店舗全店に防犯ビデオの設置を行った。その後、新規開店があるたびに防犯ビデオを購入、設置しているが、一斉導入から約1年半後の平成11年7月分の注文分より、セット納品分に加えて、毎月コンスタントにビデオデッキ、モニター用テレビ単体の発注が発生している。とりわけ録画用ビデオデッキの交換は、平成11年発注分で17台、平成12年発注分で35台、平成13年発注分は不明だが、平成14年4月から平成15年3月までに支払われたものは、89台にのぼる。前後の状況からすると、平成13年1月から平成14年3月までの1年3か月の間にも、相当数の交換が出ていることが推測される。

オ あてはめ

以上の事実を前提とし、法人税法施行令133条へのあてはめを検討する。

まず、①防犯カメラ、コントローラー、②ビデオ、③テレビは全く商品番号・型式が異なっており、業務用と民生用が混在している。テレビやビデオデッキについては、単体で販売されているものである。また、カメラについては、最低コントローラーとカメラ1台があれば目的を達することができ、その他は利用者の利便に応じて自由に組み合わせが可能である。実際に、原告の店舗の従業員作業スペースに別途カメラ1台とコントローラー1台を組み合わせ使用している例もある。本件のように、必ずしも4台購入することが必須とはいえず、1台が欠けたからといって、全体の効用が阻害されることもない。よって、カメラ、コントローラー、ビデオ、テレビは、それぞれ一般的、客観的に考えて、一括して取引単位として1つであるとはいえない。

また、ケーブル接続された各機器は自由な取り外し、追加、一部更新が可能である。必要に応じてカメラ数を増減したり、使用機器の性能向上等の事情で、一部のみを更新することも可能である点、先に指摘したLAN設備の事例と全く変わらない。

さらに、使用されているモニター用テレビ、録画用ビデオデッキについては、一般家庭用製品であるため、価格、性能、耐用年数の点で明らかに業務用製品(カメラやコントローラー)と相違があり、現にしばしば寿命による一部更新が行われている。工業製品である以上、個別の製品ごとの寿命にも若干ばらつきはあるが、ビデオデッキについてはほぼ2、3年で消耗により交換となっており、毎月コンスタントに交換が出ている実態からみても、修理で対応可能なカメラやコントローラーとは質的に異なっている。以上のような各機器の性質、利用の実態や耐用年数を考慮すると、具体的、実質的な価値判断としても、これらの機器全てについて、一括取得、一括更新を想定して取り扱うのは相当とはいえない。テレビ、ビデオについては、その価格帯、耐用年数から考えて、むしろ消耗品に近い扱いとするのが実態に即し、法人税法施行令133条の趣旨である企業会計の合理化という趣旨にも合致する。

カ 結論

よって、本件においても個別の機器ごとに取得価格を捉えるべきである。そうすると、カメラ(4万8500円から5万9000円)、コントローラー(3万1000円から3万9100円)、テレビ(1万5000円から2万8400円)、ビデオデッキ(1万8600円から2万円)、ケーブル(2000円)は、いずれも単体の取得価格が20万円を下回っていることから、法人税法施行令133条を適用し、当該年度での一括損金処理を認めるべきである。

(2) 本件懇親会及び本件懇親旅行の費用が、交際費等に該当するか否か

(被告の主張)

本件懇親会及び本件懇親旅行の費用は、措置法61条の4に規定する交際費等に該当する。

ア 交際費等の課税の特例

(ア) 措置法61条の4第1項は、資本又は出資の金額が5千万円を超える法人が支出する交際費等の額は、当該事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入しない旨規定する。

(イ) ところで、内国法人の各事業年度の所得の金額の計算について、法人税法22条1項は、当該事業年度の益金の額から当該事業年度の損金の額を控除した金額とする旨規定し、また、同条3項及び4項は、内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上当該事業年度の損金の額に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、「当該事業年度の収益に係る売上原価、完成工事原価その他これらに準ずる原価の額」(同条3項1号)、「前号に掲げるもののほか、当該事業年度の販売費、一般管理費その他の費用(中略)の額」(同項2号)、「当該事業年度の損失の額で資本等取引以外の取引に係るもの」(同項3号)であり、これらの額は、「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従って計算されるものとする」(同条4項)と規定する。

(ウ) すなわち、法人が支出した交際費等については、前記(ア)のとおり、措置法61条の4に別段の定めがあり、同条の規定に従って、法人の所得の金額の計算上当該事業年度の損金の額に算入すべき金額を計算するということであって、法人が一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従って計算した費用の支出を否定する趣旨ではない。要するに、法人が支出した交際費等は、いわゆる「有税経費」ということである。

イ 交際費等の課税の特例を設けた趣旨

当該交際費等の課税の特例は、「いわゆる交際、接待などに費やされる交際費等は、そのかなりの部分が営業上の必要に基づくものであり、本来的には営業上の必要に基づく支出である限り、事業経費として損金に算入されるべきものである。しかし、交際費等の支出を法人の自制に任せるときは、従業員に対する給与が交際費等の形で支出されたり、役員若しくは従業員の私的な接待又は事業上の必要を超えた接待に使われ、冗費濫費を生じる傾向にあるため、それらの弊害を抑制し、資本の充実・蓄積等を促進するという政策目的から、前記条項を定めて、本来損金に含まれるべきはずの法人の交際費のうち一定額を超えるものを特別に損金不算入とする例外を設けたと解することができる。」(神戸地裁平成4年11月25日判決・判例タイムズ815号184ページ、その控訴審である大阪高裁平成5年8月5日判決・シュトイエル390号13ページ、その上告審である最高裁平成6年2月8日第三小法廷判決・シュトイエル390号15ページ)。

ウ 「交際費等」の範囲

(ア) 措置法61条の4第3項は、「交際費等」の意義について、「交際費、接待費、機密費その他の費用で法人が、その得意先、仕入先その他事業に関係のある者等に対する接待、供応、慰安、贈答その他これらに類する行為のために支出するものをいう。」と規定する。

しかしながら、同項かっこ書及びこれを受けた措置法施行令37条の5は、①専ら従業員の慰安のために行われる運動会、演芸会、旅行等のために通常要する費用、②カレンダー、手帳、扇子、うちわ、手ぬぐいその他これらに類する物品を贈与するために通常要する費用、③会議に関連して、茶菓、弁当その他これらに類する飲食物を供与するために通常要する費用、④新聞、雑誌等の出版物又は放送番組を編集するために行われる座談会その他記事の収集のために、又は放送のための取材のために通常要する費用は、税法における損金不算入の対象となる「交際費等」から除く旨規定する。

(イ) すなわち、当該支出が交際費等に該当するというためには、第1に支出の相手方が事業に関係のある者であり、第2に支出の目的が接待、供応、慰安、贈答等の行為により、事業関係者との間の親睦の度を密にして、取引関係を図るのを目的とすることを必要とするが(東京地裁昭和53年1月26日判決・訟務月報24巻3号692ページ参照)、措置法61条の4第3項かっこ書及びこれを受けた措置法施行令37条の5に規定する費用については、冗費濫費のおそれがないことから、これを交際費等から除いているのである。

(ウ) 以上のとおり、税法上の「交際費等」は、一般社会通念上の交際費と異なりその範囲は広いというべきであり、「交際費等」の該当性については、形式で判断するのではなく、その支出の実質によって判断しなければならない。

したがって、法人が上記「交際費等」に該当する支出を帳簿の形式上交際費以外の科目(例えば、採用費、福利厚生費、広告宣伝費等)で会計処理を行っていたとしても、その支出内容が措置法61条の4第3項の規定に該当する限り、それは、「交際費等」に該当するのである。

エ 「交際費等」から除外される費用について

(ア) 措置法61条の4第3項かっこ書及び同法施行令37条の5は、専ら従業員の慰安のために行われる運動会、演芸会、旅行等のために通常要する費用など特定の費用は、税法における損金不算入の対象となる「交際費等」から除く旨規定する。これらの費用は、慰安、贈答、供応等の行為であっても、福利厚生費、広告宣伝費あるいは会議費等の性質を併せ持つものであり、通常要する程度の額である限り「交際費等」から除かれる。

(イ) このうち、福利厚生費は、当該企業に所属する従業員の労働力の確保とその向上を図るために支出されるものである。しかし、このような趣旨のものであっても、それが特定の者に対してだけ支出されたり、従業員各人によってその支出の内容が異なり、仮にある従業員に対する支出が社会通念上、福利厚生費として多額なものである場合には、上記超過部分は、実質的には従業員に対する給与となるものである。この点において、前述のような旅行費用等は、通常、従業員全員が、各人の労働の質、量、能率等にかかわらず、当該企業に所属していればだれでも同様の給付を受けることができるという原則で運営されるものであるから、その額がそれらの行事に通常要する費用を超えない限り、冗費濫費の抑制という法の趣旨に反しないということができるから、損金に算入することを認めないという特別の扱いをする必要がなく、旅行費用等を交際費等の範囲から除外したものと解することができる。したがって、措置法61条の4第3項かっこ書の旅行費用等とは、法人が当該法人に所属する従業員の労働力の確保とその向上を図るために支出するもので当該法人がそれを支出するのが相当であるというだけでなく、従業員全員が参加の対象として予定されたものであることを要すると解するのが相当である。

(ウ) なお、採用内定者を従業員と同視できるか否かについては、採用内定者は、当該企業に就職しないことも可能であり、当該企業における就労の実体はなく、指揮命令関係もないのであって、明らかに従業員と異なるものである。福利厚生費は、当該企業に所属する従業員の労働力の確保とその向上を図るために支出されるものであって、ここにいう従業員の要件として重要なのは、現実に当該企業の指揮命令を受けながら労務を提供していることである。

したがって、採用内定者は、措置法61条の4第3項かっこ書の「従業員」には該当しないと解するのが相当である。

(エ) また、会議等に関連して通常要する費用の判断においては、法人が得意先又は従業員と販売の促進あるいは業務の打合せ等の会議(以下「会議」という。)をする場合には、それに伴って酒食の提供等をすることがあるが、そのようなものも、本来的には交際費等に当たり得るものであるが、法は、同条項に規定するようなものであれば、冗費濫費に及ぶおそれがないとして、交際費等の範囲から除外することを認めたものである。したがって、上記除外の趣旨から、「会議に関連して、茶菓、弁当その他これらに類する飲食物を提供するために通常要する費用」というのは、冗費濫費のおそれがないような、会議に際して社内又は通常会議を行う場所において通常提供される昼食程度を超えない飲食物等の接待に要する費用のことであると解すべきであり、このようなものである限り、その全額が交際費等から除外される。このことは、会議が社外の会場を借りて行われた場合であっても同様であるが、いずれにしても、支出の前提になる会合が会議の実体を備えたものでなければならないものであり、会議が単なる名目、形式にすぎず、会議としての実体を備えているということはできない場合は、その費用を交際費等の範囲から除外することはできない。そして、会議が実体を備えているかどうかは、開催場所、会議の議題及び内容並びに支出内容を総合的に検討して判断すべきである(前掲神戸地裁平成4年11月25日判決、その控訴審である大阪高裁平成5年8月5日判決、その上告審である最高裁平成6年2月8日第三小法廷判決)。

オ 本件へのあてはめ

(ア) 採用内定者が「事業に関係のある者等」に該当すること

採用内定者は、間接的には原告と利害関係があることから、措置法61条の4第3項に規定する「得意先、仕入先その他事業に関係のある者等」に該当する。

(イ) 本件懇親会が採用内定者に対する接待、供応等であること

a 本件懇親会は、ホテル、飲食店で行われ、昼食時には飲食物が提供されているが、①入社式や新入社員に対する研修が、本社屋で別途行われていることからすれば、本件懇親会をホテルや飲食店で行う必要性は乏しく、また、②支出の内容がいわゆる「宴会代」であることからすれば(乙13の1ないし18の3)、その実態が、採用内定者を相手に酒食をもてなすこと、すなわち供応、接待するものであることは明らかである。したがって、本件懇親会は、正に事業関係者である採用内定者との間の親睦の度を密にすることを目的として、これらの者を接待、供応するための費用、すなわち、接待交際費に該当すると認められる。

b 原告は、本件懇親会の目的は「新入社員の育成、研修である」旨主張するが、本件懇親会の内容は、毎回、ほぼ同じ者に対して抽象的な会社説明を行い、その他採用内定者の自己紹介を行う程度のものであり、およそ会議、研修と呼べるものではない。また、10月には内定式と題した懇親会を行っているが、採用内定者に対しては既に6月末までの間に電話及び書面で採用内定通知を行っており、内定式とは形式的な名称にすぎず、その実態は、採用内定者をつなぎ止めておくために接待、供応したものにほかならないのであるから、およそ会議、研修と呼べるものではない。

c 仮に、原告が主張するような「新入社員の育成、研修」としてとらえたとしても、本件懇親会の費用は、別表5のとおりであって、措置法施行令37条の5第2号に規定する「会議に関連して、茶菓、弁当その他これらに類する飲食物を提供するために通常要する費用」、すなわち「冗費濫費のおそれがないような、会議に際して社内又は通常会議を行う場所において通常提供される昼食程度を超えない飲食物等の接待に要する費用」の範囲を超えているものと認められ、交際費等から除かれる費用には該当しない。

なお、交際費等の課税の特例は、冗費濫費の抑制を主眼に定められているのであるから、本件懇親会が新入社員(採用内定者)の育成、研修であっても、これに要した費用が「会議に関連して、茶菓、弁当その他これらに類する飲食物を提供するために通常要する費用」を超えている限り、交際費等から除かれる費用には該当しない。

(ウ) 本件懇親旅行が採用内定者に対する接待、供応等であること本件懇親旅行は、旅行全体のスケジュール(乙3)によれば、初日は観光地を見学した上、宿泊施設の会議室において、採用内定者による自己紹介を実施したものの、その後は懇親会、二次会が実施され、翌日は専ら観光地を見学しているというのが実態である。

すなわち、初日15時からの会議室における会議についても自己紹介程度にとどまるものであるし、会社の企業理念が抽象的に語られるにすぎない。二次会については個別グループで討論をするというが、具体的なエピソードなどはない上、そこで話された内容についても何ら記録にとどめられることはない。また、役員の話といっても単なる会社の紹介ないし役員が挨拶をする程度のものであって、本件懇親旅行は、およそ会議の実体を備えているとはいえず、本件懇親旅行の費用を交際費等の範囲から除外することはできないというべきである。

原告は、本件懇親旅行の目的は「新入社員の育成、研修である」などと主張するが、本件懇親旅行の実態は、上記のとおりであって、かかる原告の主張は、事実に反し失当というほかない。

(エ) 本件懇親会及び本件懇親旅行が、「専ら従業員の慰安のために行われる運動会、演芸会、旅行等のために通常要する費用」に該当しないこと

a 原告は、予備的主張として、内定者は従業員に順ずる地位にあるのであり、本件懇親会や本件懇親旅行は、いずれも内定者全員に対して一律の基準で行われているから、これらの支出は、措置法61条の4第3項かっこ書に該当し、交際費等から除かれる旨主張する。

b しかしながら、採用内定者は、措置法61条の4第3項かっこ書の「従業員」には該当しないと解するのが相当であって、同条文の適用はなく、交際費等から除かれる費用には該当しない。

なお、仮に、採用内定者を従業員と同視するとしても、本件懇親会及び本件懇親旅行は採用内定者と一部の社員のみ、すなわち従業員の一部のみを対象として行われたものであって、従業員全員を対象としたものではないから、これへの支出が福利厚生費的な性質を有しないことは明らかである。

c したがって、本件懇親会及び本件懇親旅行が、措置法61条の4第3項かっこ書の適用はない。

(オ) 以上のとおり、本件懇親会及び本件懇親旅行は、原告の採用内定者を対象として実施されたものであるが、採用内定者は、間接的には原告と利害関係があるから措置法61条の4第3項に規定する「得意先、仕入先その他事業に関係のある者等」に該当する。そして、本件懇親会及び本件懇親旅行は、採用内定者に対し、懇親を目的すなわち事業関係者である採用内定者との間の親睦の度を密にして取引関係を図ることを目的として接待、供応したものであることから、本件懇親会及び本件懇親旅行の費用は、同項に規定する交際費等に該当する。

したがって、措置法61条の4第1項の規定に照らせば、原告の資本金は5千万円を超えるから本件懇親会及び本件懇親旅行の費用は、原告の各事業年度の所得金額の計算上、損金の額に算入することはできない。

(原告の主張)

本件懇親会及び本件懇親旅行の費用は、措置法61条の4に規定する交際費等に該当しない。

ア 交際費損金不算入規定の趣旨

(ア) 制度趣旨

措置法61条の4第1項は、資本又は出資の金額が5千万円を超える法人が支出する交際費等の額は、当該事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入しない旨規定している。そして、同条3項は、「第1項に規定する交際費等とは、交際費、接待費、機密費その他の費用で、法人が、その得意先、仕入先その他事業に関係のある者に対する接待、供応、慰安、贈答その他これらに類する行為のために支出するもの」とし、かっこ書で「専ら従業員の慰安のために行われる運動会、演芸会、旅行等のために通常要する費用その他政令で定める費用を除く」と定めている。

かかる規定が定められたのは、上記の交際費が本来的には営業上の必要に基づく支出であり、事業経費として損金に算入されるべきものであるものの、その支出を法人の自制に任せるときには、事業上の必要を超えた接待に使われ、冗費濫費を生じる傾向にあるため、それらの弊害を抑制し、資本の充実・蓄積等を促進するという政策的な目的からである。

(イ) 交際費に関する問題点

しかしながら、資本金5千万円を超える企業について交際費「全額」を損金不算入とする現行の取扱は、冗費濫費と評価できる無駄な支出を抑制するばかりか、企業活動の円滑化のために本来必要な経費まで抑制するものであり、制度趣旨を超えた過剰な制度であるとの批判も強い。交際費に関する措置法の規定が、企業会計の原則に対する例外規定として定められたものであり、上記のとおり「交際費」と認定されることによって全額が損金不算入となる強い効果が発生することを考慮すると、その意義は限定的に解するべきである。

イ 要件

「交際費」の要件としては、①支出の相手方が「得意先、仕入先その他事業に関係のある者」であること、②支出の目的が、「接待、供応、慰安、贈答その他これらに類する」ものであることが要請されている。

ウ 本件懇親会、本件懇親旅行の内容

(ア) 本件懇親会について

本件懇親会は、新卒採用年度の前年に3回(7月、8月、10月)にわたって行われているものであるが、出席者は採用内定者及び大学OB、OG、会社役員、その他従業員数名である。このうち、採用内定者については、毎年3月から6月にかけて入社試験が行われ、6月末の段階では全ての内定者に対して、内定の通知(電話、書面)が完了している。このように、7月以降に行われる本件懇親会は、いずれも既に内定が確定した者が対象である。

本件懇親会は、ホテル内レストランを借りて、約3時間ほど行われ、その内容は、企業理念や経営方針、内定者に期待することについて、役員から挨拶があり、後半には、テーブルごとの少人数に別れ、その際、各テーブルに原告の従業員がつき、内定者に自己紹介をしてもらうとともに、従業員からは就職後の職務について説明をする。その後、内定者からの質問にも答え、その不安の解消に努めるものである。3回目の懇親会では、正式な内定証の授与も行っている。

(イ) 本件懇親旅行について

本件懇親旅行については、採用年度前年の12月、当該年度の内定者に原告の役員、従業員が数名同行し実施された。本件懇親旅行においては、バスの移動中には社内の決まり事について従業員から説明があり、ホテル到着後、午後3時からは会議室を借りて一同に会し、役員の講義、全員の自己紹介を行っている。その際、先輩従業員からも自らの体験に基づく話があり、内定者全員の自己紹介にあわせて将来の夢などが話し合われている。また、夕食後のミーティングでは、各個人の性格や協調性、リーダーシップなどがテーマとされている。会議室でのミーティング、「二次会」とされている食事後のミーティングにおいては、いずれも社内用ネームの着用が義務づけられており、二次会ミーティングは、会社の指定するグループに分かれ、原告の従業員が付き添って行われている。

なお、旅行日程表(乙12)を参照すると、出発時に「スケジュール、ビールの手渡し」が行われ、「部屋に戻る際のビール、ジュースを二次会部屋へ」移動させるよう指示すべきことが書かれている。このようにバス乗車に先立ちビールを参加者に配付したのは、バス内でも飲酒を認める趣旨ではなく、当日の二次会で使用するためである。すなわち、参加者全員分の二次会飲み物を1つまとめにしてバスへ積み込み、宿へ持ち込むことは、同行従業員に過大な負担をもたらすため行っていない(乙12にも『社員は荷物(つまみ)をバスへ積み込み』とあり、つまみだけが従業員によってバスに積み込まれた事実が裏付けられている。)。

また、温泉宿は通常、館内の売店や冷蔵庫の売上確保のため、飲食物の持込を建前では禁じているところ、従業員が箱ごとまとめて持ち込んだのでは目立ちすぎ、発見されやすい。そこで、バスに乗る前に分散させて持ち込み、会議室でのミーティングが終了後、夕食前に「二次会会場に運んでおくよう」指示したものと考えるのが自然である。

エ あてはめ

本件懇親会、本件懇親旅行は、内定者を企業の労働力として確保するとともに、企業理念、経営方針、業務内容に対する理解を深め、入社日までの漠然とした不安を取り除き、入社後即戦力として業務に携わってもらうことを目的として行われている。そして、このことは、対象である内定者がかなり高い確率で原告に入社していること、いずれの行事においても原告従業員が企業理念や業務内容の説明を行っていること、必ず小グループのミーティングが取り入れられており、内定者からの質疑にも十分答えられる態勢を用意していることに現れている。本件懇親旅行においては、会議室での自己紹介から夜のミーティングまで、一貫してネームの着用が義務づけられているのも、単に遊興、飲食に終始する趣旨ではないことを示している。内定者のほとんどが原告に入社している実態からして、これらの行事は、本質において、企業が内定者をもてなすというものではなく、むしろ入社のほぼ確実な内定者に対して、企業から一定の成果を期待して働きかけていくものであって、内定者を学生から社会人へ橋渡しする役割を担うものである。よって、その目的を「接待、供応、慰安」とは評価できず、「研修、人材育成」と捉えるべきである。被告は、新入社員の入社後に別途研修が予定されていること、上記の各行事においてアルコール類が振る舞われていること、一部観光の日程が取り込まれていることを理由として、「接待、供応、慰安」目的を認定しうるとする。しかし、前者についていえば、内定者、入社後の新入社員と段階に応じた研修、教育があってしかるべきであるし、内定者が経験的に不安に陥りやすいことからかかる機会を何度かに分けてもうけることは合理性のあることである。また、席上アルコールが出され、一部日程に観光が含まれていたとしても、それのみで行事全体の主な趣旨、目的を動かすものではない。

以上のとおり、本件懇親会及び本件懇親旅行が「接待、供応、慰安、贈答」目的とは評価できない以上、これを交際費に含めるべきではない。

オ 福利厚生費への該当

仮に、本件懇親会及び本件懇親旅行の目的が、あくまで「接待、供応、慰安、贈答」にあるとしても、これらの支出は、措置法61条の4第3項かっこ書にある「専ら従業員の慰安のために行われる運動会、演芸会、旅行等のために通常要する費用」に該当し、交際費には該当しない。

(ア) 福利厚生費について損金算入が認められている趣旨

従業員を対象としたいわゆる福利厚生費については、企業の労働力確保のため必要な経費といえ、必ずしも冗費濫費のおそれもないことから、従業員の慰安を目的とした支出ではあるが、交際費から除外されている。

(イ) 本件について

本件に関してみると、内定者は従業員そのものではないが、実際のところ内定が確定した者のほとんどが入社しており、判例法理(最高裁昭和55年5月30日第二小法廷判決)にしたがっても、内定の段階で契約の効力が生じ、企業は、内定者の明らかな非違行為など、客観的にみて合理的な事情がない限り、内定を取り消すことはできなくなる。わが国では、内定者は近い将来、ほぼ確実に企業の従業員となることが予想される存在である。そして、企業がその将来の労働力確保のために費用を支出することは社会通念上も認められてしかるべきものであり、対象者も限定的であるから、何ら冗費濫費をもたらすものではない。

加えて、本件懇親会及び本件懇親旅行は、いずれも内定者という同一条件の者に関する限り、全員に対して一律の基準で行われている。被告は福利厚生の要件として全従業員を対象とすべきことを求めるようであるが、かかる解釈は窮屈にすぎ、例えば、事情に応じて営業社員、特定支店従業員など、一定範囲の従業員を対象とした支出であっても福利厚生費に該当しうるというべきである。

よって、仮に支出の目的が接待・供応・慰安にあるとされる場合であっても、福利厚生費に該当し、当該年度における損金算入が許容されるべきである。

第3当裁判所の判断

1 本件防犯用ビデオカメラ等が少額減価償却資産に該当するか(争点1)

(1) 法人税法施行令133条は、取得価額が20万円未満である減価償却資産(少額減価償却資産)については、これを事業の用に供した日の属する事業年度において、その全額を損金とすることができる旨規定している。そして、法人税法基本通達7-1-11(少額の減価償却資産の取得価額の判定)は、「令133条(少額の減価償却資産の取得価額の損金算入)の規定を適用する場合において、取得価額が20万円未満であるかどうかは、通常1単位として取引されるその単位、例えば、機械及び装置については1台又は1基ごとに、工具、器具及び備品については1個、1組又は1そろいごとに判定し、構築物のうち例えば枕木、電柱等単体では機能を発揮できないものについては一の工事ごとに判定する。」とされている。この通達によれば、20万円未満の少額資産であるかどうかは、物品については基本的に普通の一般取引において用いられる取引単位ごとに判定すべきこと、しかし構築物のうち例えば枕木や電柱等のように、(取引単位としては1本ごとに算定される場合もあろうが)単体では予定される機能を発揮できないと認められるものについては例外的に一の工事等ごとに判定するものとされていることが認められる。

被告は、減価償却資産の償却費の計算を行う際の償却単位資産の把握は、資産の具体的な購入目的、用途、使用状況に基づいて把握しなければならないとしたうえ、本件防犯用ビデオカメラ等については、これを一体として一つの償却単位として捉え、少額減価償却資産に該当しないと主張し、原告は、償却単位資産の把握は、「取引単位として一つ」といえるかどうかの客観的一体性を基本とし、各資産の機能的な一体性のみならず、複合体資産を構成する個別機器の性質、性能、想定される使用の実態及び耐用年数を十分に考慮すべきであるとしたうえ、本件防犯用ビデオカメラ等については、カメラ、コントローラー、ビデオ、テレビ、ケーブルをそれぞれ一つの償却単位として捉え、少額減価償却資産に該当すると主張するので、以下検討する。

(2) 基本的事実に加え、証拠(甲4ないし6、9、乙1、2、証人乙)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。

ア 原告は、平成9年から各店舗に監視カメラを設置することとし、株式会社Bから、店舗用監視カメラとして監視カメラ4台または5台、コントローラー1台、テレビ1台、ビデオ1台、20m特注接続ケーブル1個を1セットとして購入し、既存店舗及び新規店舗に設置することとした。

原告は、平成9年3月から平成11年2月にかけて原告の営業店舗584店舗に、カメラ4台または5台、コントローラー1台、ビデオデッキ1台、テレビ1台、その他接続用ケーブル等を1セットとして送付し、各店舗において、「防犯カメラ取扱いマニュアル」に従い、テレビ、ビデオデッキ、コントローラー、カメラ等の機器をケーブルで接続させて防犯用ビデオカメラとして使用を開始した(甲2の別表3-1)。

イ 原告は、2階が駐車場の店舗及び入口が2カ所で間口が広い店舗にはカメラを5台設置し、5台目のカメラはコントローラーには接続しないが、コントローラーの位置まで配線を行っていた。ただし、現在は、2階建ての店舗はなくなっている。

ウ 原告は、録画テープを7巻を用意して各店舗に配布し、各店舗では、曜日ごとに1巻のテープを使用して、開店時から閉店時まで録画している。

原告は、モニター用のテレビと録画用のビデオデッキをCの防犯カメラのカタログに掲載されている商品の代わりに家庭用のものを購入しているが、これは、価格が安く、コスト面で有利であるからであり、性能面についても、家庭用のもので十分目的を達している。

原告の店舗に設置しているテレビには、アンテナが接続されておらず、本件防犯用ビデオカメラは、固定されており、テレビやビデオも万引等が疑われた場合に録画された画像を見ることがあるだけで、防犯用以外の目的では使用されてはない。

エ 原告は、平成9年に防犯用ビデオカメラ等の導入を開始し、平成15年3月の時点では、約820店舗において同一の性能の防犯用ビデオカメラ等が設置されているところ、本件防犯用ビデオカメラ等に接続されたビテオデッキの修理交換台数は、平成11年9月から12月において8台、平成12年において44台、平成14年4月から12月において66台、平成15年1月から3月にかけて18台となっている(甲13)。これは、本件防犯用ビデオカメラ等に接続されたビデオデッキは、もともと長時間の連続使用を念頭に置いた防犯用ビデオカメラ等を構成する製品として製造されたものではなく、最も安価と考えるビデオデッキを購入し、防犯用ビデオカメラ等として代替利用していることによるものと推認される。

(3) 以上によれば、本件防犯用ビデオカメラ等は、防犯を目的として、監視カメラ4台または5台、コントローラー1台、テレビ1台、ビデオ1台、20m特注接続ケーブル1個の組合せで、原告が一括して購入し、各営業店舗に設置したものであり、原告の各店舗においては、監視カメラ、コントローラー、テレビ、ビデオの各機器をケーブルで接続して使用しており、カメラで写した映像を、ケーブルを通してモニターとなるテレビに映し出し、その映像を監視したり、ビデオに録画しており、一体として防犯用の通信設備として機能していることが認められる(なお、5台目のビデオカメラについては、必ずしもコントローラーに接続されていないが、これも犯罪予防効果を期待した上で設置されたものであり、これを含めて全体として防犯装置として機能していると認められる。)。

そして、被告は、以上の事実に照らせば、本件防犯用ビデオカメラ等を全体として一体のものとして捉えるべきであり、一つの償却単位資産として捉えるのが相当であり、本件防犯用ビデオカメラ等は、耐用年数省令別表第1に掲げる資産の分類上、「種類」が「器具及び備品」に、「用途」が「器具及び備品」2項の「事務機器及び通信機器」に分類され、その使用の状況から「インターホン及び放送用設備」に該当すると解され、その取得価額の総額は20万円以上であるから法人税法施行令133条に規定する少額減価償却資産に該当しないと主張する。

(4)ア しかしながら、本件防犯用ビデオカメラ等は、各店舗毎に、監視カメラ4、5台、コントローラー1台、テレビ1台、ビデオ1台を監視目的のために接続ケーブル等により接続し用いているに過ぎず、その構造的、物理的一体性は稀薄である。

そして、ビデオカメラ、テレビ、ビデオはそれぞれ独立した機能を有し、特にテレビやビデオは普通それら単独で取引単位となるものであり、応接セットなどの場合とは異なりそれらの組み合わせが取引の常態とはいえない。そして、原告は、テレビ、ビデオについては監視用として長期間の連続運転に耐えられるように製作されたものではなく、普通の家庭用の安価なものを購入して使用している。

ところで、一定の資産について減価償却資産として経理することなく、その事業の用に供した年度において全額を損金処理することが認められる少額減価償却資産の制度は、それを耐用期間にわたり原価配分することにより期間損益の算定が適正化する必要があるほどの重要な金額でなく、実務上減価償却資産として扱う実質的意味がないとの企業会計上の慣行に由来しているものであるから、その制度の趣旨からすれば、少額減価償却に資産に該当するかどうかは、テレビやビデオなどの普通の家庭用商品については、特段の事情がない限り、1品ごとの通常の取引価額により判定すれば足りるというべきである。そして、このことを前記法人税基本通達7-1-11は定めていると解される。

〔被告は、前記法人税通達7-1-11に関し、用途の単一性や機能的一体性を前提とするものであることは明らかであり、「例えば『まくら木や電柱等単体では機能を発揮できないものについては一の工事毎に判定する』とあるが、まくら木(電柱)も、これを単なる材木(コンクリート柱)と見れば(単体で機能を発揮できるから)1本ごとに把握されるが、まくら木(電柱)という用途・機能が加わることによって初めて(単体では機能を発揮できないから)一の工事毎に判定されることになるのである。」と主張するが(被告の平成15年2月12日付準備書面(2)の8頁)、その趣旨は不明であり、採用できない。むしろ、同通達の前段によれば、20万円未満の少額資産であるかどうかは、物品については基本的に普通の一般取引において用いられる取引単位である1個、1組または1そろいごとに判定すべきとされていることは明らかで、まくら木や電柱は取引単位としては普通1本毎であるが、単体での機能が発揮できないから、(例外的に)一の工事場等のまとまりの価額により判定するとの趣旨と理解すべきことは明らかである。

そうすると、本件防犯用ビデオカメラ等は全体として監視目的のため一体的に用いられているといっても、本件防犯用ビデオカメラ等を常に一体として一つの償却資産と扱うことは必ずしも合理的とはいえず、カメラ、ビデオ、テレビは一つ一つを器具備品として取り扱っても差し支えないというべきである。そして、こうした取扱いは、平成5、6年当時の現役の国税局職員やOBが編集、執筆した複数の市販の書物にも記載されており(乙19、20)、本件当時このような取扱いも被告において是認されていたのではないかとも推測されるのである。

イ このように、本件防犯用ビデオカメラ等については、一体として一つの償却資産と扱うことは必ずしも合理的とはいえず、カメラ、ビデオ、テレビはそれぞれを器具備品として取り扱っても差し支えないというべきところ、乙1及び弁論の全趣旨によれば、テレビやビデオの取得価額は1台当たり1万5000円から2万8400円程度と認められるから、これらは取得価額20万円未満の減価償却資産に当たるというべきである。

ウ しかし、監視カメラ、コントローラー、ケーブルについては、前記のように原告は平成9年から既存店舗及び新規店舗全部について監視カメラを設置し始め、1店舗ごとにカメラ4、5台、コントローラー1台をセットとして購入、設置されたと認められ、これらの設置の経緯や本件監視カメラの使用状況等からみて監視カメラ等についてはその取得価額は設置された各店舗ごとの単位で判定するのが相当である。そして、弁論の全趣旨によれば、平成9年2月取得分を除いては(これらはテレビ、ビデオを除いたその他の価額は18万円。)その合計価額は20万円以上となることが認められるから、平成9年2月取得分はいわゆる少額減価償却資産に該当するが、それ以外の部分については少額減価償却資産に該当しないと解するのが相当である。

ところで、被告は本件防犯用ビデオカメラ等は耐用年数別表第1の「インターホン及び放送用設備」(耐用年数6年)に該当するとするが、本件のような防犯用ビデオカメラ等の設備が全体としてインターホン及び放送用設備」の範疇に入るとすることには疑義がある。ビデオカメラが極めて高価な放送用機材であった時代はともかく、今日ではビデオカメラを含めて家庭用ビデオ機器はテレビと同じく耐用年数5年の音響機器の一とすることが常識に合致するというべきであるし、少なくとも本件防犯用ビデオカメラ等のシステムの中心となる防犯カメラは「光学機器及び写真製作機器」の中の「カメラ」の耐用年数5年を適用するのが相当と考えられる(こうした取扱いは、前記の乙19、20の書物にも同旨の見解が示されている。)。

(5) そうすると、本件防犯用ビデオカメラ等が少額減価償却資産に当たるとの原告の主張は、テレビ、ビデオ、平成9年2月取得分に係るカメラ等の部分については正当と認められるが、その余の部分は理由がない(ただし、その余のビデオカメラ等の部分については、耐用年数は6年でなく、5年で計算するのが相当である。)。

これに基づき、原告の申告所得額に加算すべき器具備品に係る減価償却超過額を計算すると、別表6のとおり、平成10年2月期は2548万8374円、平成11年2月期は7283万2601円となることが認められる。

2 本件懇親会及び本件懇親旅行の費用が、交際費等に該当するか

(1) 措置法61条の4第1項は、資本金が5000万円を超える法人が支出する交際費等の額は、当該事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入しない旨規定し、これを受けて、同条3項は、損金として算入されない「交際費等」とは、「交際費、接待費、機密費その他の費用で法人が、その得意先、仕入先その他事業に関係のある者等に対する接待、供応、慰安、贈答その他これらに類する行為のために支出するもの(専ら従業員の慰安のために行われる運動会、演芸会、旅行等のために通常要する費用その他政令で定める費用を除く)をいう。」と規定している。

そして、租税特別措置法施行令37条の5は、「法61条の4第3項に規定する交際費等から除かれる費用は次のとおりとする。

一 カレンダー、手帳、扇子、うちわ、手ぬぐいその他これらに類する物品を贈与するために通常要する費用

二 会議に関連して、茶菓、弁当その他これらに類する飲食物を供与するために通常要する費用

三 新聞、雑誌などの出版物又は放送番組を編集するために行われる座談会その他記事の収集のために、又は放送のための取材に通常要する費用」と定めている。

これを承けて、租税特別措置法通達61の4(1)-21は、「会議に際して社内又は通常会議を行う場所において通常供与される昼食の程度を超えない飲食物の接待に関する費用は、原則として措置法令第37条の5第2号に該当する「会議に関連して、茶菓、弁当その他これらに類する飲食物を供与するために通常要する費用」に該当するものとする(昭和54直法2-31改正)(注)会議には、来客との商談、打合せ等が含まれる。」としている。

そもそも、いわゆる交際、接待などに費やされる交際費等は、そのかなりの部分が営業上の必要に基づくものであり、本来的には営業上の必要に基づく支出である限り、事業経費として損金に算入されるべきものである。しかし、交際費等の支出を法人の自制に任せるときは、冗費濫費を生じる傾向にあるため、それらの弊害を抑制し、資本の充実・蓄積等を促進するという政策目的から、上記条項を定めて、本来損金に含まれるはずの法人の交際費を損金不算入とする例外を設けたと解することができる。

そして、当該支出が交際費等に該当するというためには、第1に支出の相手方が事業に関係のある者であり、第2に支出の目的が接待、供応、慰安、贈答等の行為により、事業関係者との間の親睦の度を密にして、取引関係を図るのを目的とすることを必要とすると解される。

本件については、支出の相手方は、採用内定者であり、「事業に関係のある者等」に含まれると認められる。しかし、支出の目的については、被告は、接待、供応等の目的であるとするのに対し、原告は、①採用内定者の育成、教育、研修のためになされたものであり、接待、供応等の目的はない、②仮に接待、供応等の目的であるとしても、採用内定者は、従業員に準じることから、福利厚生費と同様に解されることから、その費用は法人が負担すべきであるなどと主張するので、以下検討する。

(2) 証拠(甲7、10、乙3、12、13ないし18、証人丙)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。

ア 原告は、毎年3月から6月にかけて入社試験を行い、4月ころから6月の末にかけて、随時、正式な採用内定の決定をし、6月末までには採用内定者に対して書面と電話で通知している。

イ 本件懇親会は、原告が、内定後、入社までの期間に採用内定者が抱く漠然とした不安を解消し、入社後、即戦力となるよう、会社の考え方等を採用内定者に認識させることなどを目的として、採用内定者を対象に、毎年開催されるものである。本件懇親会には、採用内定者のほぼ全員が出席し、約3時間ほど行われ、前半は、全体として、役員等の挨拶、採用内定者の1人1人の自己紹介をし、後半は、テーブル毎に食事等をしながら、歓談がなされた。

本件懇親会は、平成9年及び同10年には、それぞれ3回実施され、その実施日、実施場所、飲食代等合計額、出席人数、1人当たりの費用は、別表5のとおりである。

ウ(ア)本件懇親旅行は、平成9年12月4日及び同月5日に、原告の採用内定者を対象として実施された。

(イ) 本件懇親旅行のスケジュールの概要は、以下のとおりである。

a 12月4日

午前9時 集合

午前9時30分 受付開始

午前10時出発(大型バス2台)。社内でスケジュールの説明、社員紹介等実施。

午後0時30分今市「D」着

昼食。昼食後時間まで自由行動。

午後1時30分からショー30分。

午後2時出発

午後2時30分 ホテル着

午後3時会議室において、採用内定者による自己紹介等

午後5時風呂

午後6時懇親会(午後8時まで飲み放題)

午後8時ミーティング(2次会)

b 12月5日

午前7時30分 朝食

午前9時15分 ホテル出発

午前9時30分 E着。自由行動

午前11時出発午後零時昼食。その後F見学。

午後1時30分 出発

午後4時 大宮駅西口到着

エ 原告は、本件懇親会及び本件懇親旅行において、入社説明会とほぼ同じように会社全般のことを説明するが、新入社員が最初に就く店舗業務の内容に関することについては説明しておらず、いずれの行事においても説明の内容はほぼ同じである。

オ 原告の入社式は本社で行われ、新入社員に対する研修は、本社において、すべての新入社員を対象に、年16回(1回2日間なされるため合計32日間となる。)行っている。その際、自宅からの通勤が可能な者については自宅通勤し、自宅からの通勤が不可能な者については、本社近辺のホテルを借りてそこから通勤するが、原告が宿泊場所を確保することはない。また、原告は、上記研修とは別に、入社後すぐにホテルを使用して2泊3日の研修を行っている。その内容は、社内規定の説明を始めとして、これから行う業務についてマニュアル的なテキストを使用しての説明を行っているが、採用内定者に対しては、上記のような研修は行っていない。

(3) 検討

ア 本件懇親会について

採用内定者に対し、会社の内容を説明したり、入社後スムーズに会社の業務につけるよう行ういわゆる事前研修を行うことは、一定の必要性が認められるから、それに伴う合理的な範囲の費用は会議費、採用費、又は研修費に該当し、交際費等に当らないものと解される。しかし、会議等に伴い飲食が提供された場合に交際費等から除外されるのは、「会議に関連して、茶菓、弁当その他これらに類する飲食物を供与するために通常要する費用」(措置法施行令37条の5第2号)に止まるのであり、その規定ぶりから、その範囲は普通一般に観念される昼食費用を超えない程度のものが想定されていると解される。そして、一つの基準として通達61の4-(1)21は「会議に際して社内又は通常会議を行う場所において通常供与される昼食の程度を超えない飲食物の接待に関する費用は、原則として措置法令第37条の5第2号に該当する『会議に関連して、茶菓、弁当その他これらに類する飲食物を供与するために通常要する費用』に該当するものとする」としていることが認められるところ、内定者研修会も広い意味で会議に類するから、そこで提供される飲食についても原則として上記施行令や通達にしたがい「通常供与される昼食の程度を超えない」程度のものに限り交際費等に該当せず、それを超えるものは交際費等に該当すると解するのが相当である。

これを本件についてみるに、本件の懇親会は、別表5のとおり、GホテルやH大宮店の宴会場を借りて48ないし90名の出席者により約3時間かけて行われたこと、その内容は、冒頭に役員挨拶や会社説明、自己紹介などを行った後、会食に移り、酒類も提供されて、一人当たり8602円から1万1167円の酒食が提供されたことが認められる。上記事実によれば、本件懇親会はたしかに内定者の事前研修としての意義もないとはいえないが、提供された一人当たり飲食の費用に照らせば、その程度は通常供与される昼食の程度を超えるというべきであるから、上記費用は、措置法施行令第37条の5第2号に規定する「会議に関連して、茶菓、弁当その他これらに類する飲食物を供与するために通常要する費用」に該当せず、交際費等に該当するというべきであり、同旨の被告の判断に誤りはない(上記費用には、実質、会場借用費としての性格が一部含まれると理解しても同様である。)。

もっとも、内定者に対する説明、事前研修等は、即戦力の養成等の観点から普通の会議とはやや性格を異にする面があり、それらの回数や会場などからして濫費のおそれは少なく、上記の内定者懇親会の食事費用程度は社会常識的に見て採用費や研修費として許容されて然るべきではないかと見る余地はたしかにある(現に、被告も従前はこれらの費用を交際費等と扱ってこなかったことが認められる。)。しかし、これらのことを考慮しても、現行法令上の解釈としては、前記の結論はやむを得ない。

イ 原告は、予備的に、措置法61条の4第3項かっこ書は、「専ら従業員の慰安のために行われる運動会、演芸会、旅行等のために通常要する費用亅を同条の交際費等の範囲から除外する旨規定しているところ、内定者は従業員に準ずる地位にあることから、本件懇親会及び本件懇親旅行の費用の支出は措置法61条の4第3項かっこ書に該当し、交際費等から除かれる旨主張する。

そこで検討するに、措置法61条の4第3項かっこ書において、「専ら従業員の慰安のために行われる運動会、演芸会、旅行等のために通常要する費用」を交際費等の範囲から除外したのは、これらの費用は、従業員全体の福利厚生のために支出されるものであり、福利厚生費として法人において負担するのが相当な費用であるので、通常要する範囲を超えない限り全額損金算入を認めるのが相当と判断されるためであると解される。

そして、当該法人に所属する従業員の労働力の確保とその向上を図るという福利厚生費の性質からすれば、法人は、未だ何ら労働を提供していない採用内定者に対し福利厚生費を支払うことは観念できるものではないことからすれば、採用内定者は、措置法61条の4第3項かっこ書の「従業員」に含まれないと解するのが相当である〔判例上、内定は労働者の契約申込に対する承諾であって、その通知をもって労働契約の効力発生の始期を労働開始日とする労働契約が成立するものとされていること(最判昭和55年5月30日)を考慮しても前記判断を左右するものではない。〕。

そこで、原告の上記主張は採用できない。

ウ 本件懇親旅行について

(ア) 甲7、10及び弁論の全趣旨によれば、本件懇親旅行は、1泊2日の行程、参加者58名でバス2台に分乗し、大宮を出発後、今市の「D」で昼食、Iホテルに宿泊、翌日はEやFを見学後大宮駅まで戻るという行程であったこと、費用は総額127万8314円で1人当たり約2万2000円を要したことが認められる。

ところで、本件懇親旅行は、初日の午後3時から午後5時頃まで内定者自己紹介、会社担当者との就職後の仕事等についての質疑応答等が行われ、午後8時ころからはクループに分かれてミーティング(二次会)が行われており、内定者の事前研修の性格が全くなかったというわけではない。しかし、それ以外は、観光が大半であり、夕食時や二次会時には酒類も提供されており、上記1人当たり旅行金額が必ずしも少額とはいえないこと等に照らせば、本件懇親旅行はいわゆる内定者のための事前研修の範囲を超え、むしろ、全体として事業関係者である会社と採用内定者あるいはそれら相互の親睦の度を深めるため、すなわちこれらの者への供応ないし慰安のために行われたと判断するのが相当である。そうすると、本件懇親旅行費用を交際費等に該当するとした被告の判断に違法があるとは認めがたい。

(イ) 原告は、ここにおいても、予備的に、内定者は従業員に準ずるものであるから、本件懇親旅行費用は措置法61条の4第3項かっこ書の「専ら従業員の慰安のために行われる旅行のために通常要する費用」に該当すると主張するが、内定者を従業員と同視することはできないから、この点の原告の主張は採用できないことは、前記のとおりである。

第4結論

以上に認定したところに基づき、原告の平成10年2月期及び平成11年2月期の所得金額を計算すると、別表7「裁判所認定所得額計算書」のとおり、平成10年2月期は67億9913万5181円、同11年2月期は93億6608万0913円となることが認められるので、被告の各処分中上記所得金額を超える部分を取り消すのが相当である。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 豊田建夫 裁判官 都築民枝 裁判官 菱山泰男)

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