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さいたま地方裁判所 平成14年(行ウ)17号 判決 2003年7月09日

原告

同訴訟代理人弁護士

難波幸一

被告

岩槻市長 佐藤征治郎

同訴訟代理人弁護士

富田均

岩谷彰

主文

1  被告が、平成13年7月26日付けでした、岩槻都市振興株式会社において平成11年4月から平成13年6月末までに開催された取締役会の開催日時及び議題を記載した文書(取締役会招集通知書)を非公開とする決定を取り消す。

2  訴訟費用は、被告の負担とする。

事実及び理由

第3 当裁判所の判断

1  本件条例の公開対象情報について

(1)  本件条例において公開の対象となる情報は、公文書(実施機関の職員が職務上作成し、又は取得した文書等で、決裁、供覧等の手続が終了し、実施機関において管理しているもの)に記録されている情報とされているところ(本件条例3条)、本件条例の目的に照らせば、「実施機関の職員が職務上作成し、又は取得した文書等…で実施機関において管理しているもの」とは、実施機関の職員がその職務を遂行する立場、すなわち公的立場において事実上作成し、又は取得した文書等で、実施機関が組織としての立場で公的に保管、保存している状態にあるものをいうと解される。そこで、実施機関において公的立場で収受・保有されている限り、実施機関以外作成の文書等も条例3条(2)の公開対象情報となるが、一方、実施機関の職員が保有する文書等であっても、実施機関の職員が個人的、私的な立場に基づいて作成、又は取得し、保管するようなものは含まれないと解するのが相当である。

(2)  そして、本件条例の目的、性質、公開請求手続等を全体的に考えると、実施機関において収受され、公的に保管された状態となった文書等は作成名義のいかんを問わずそれ自体で原則的に公開対象情報としての適格があり、そのような収受・保管をされた状態の文書等でありながら、実施機関たる被告においてこれを管理していないとの理由で公開対象でないというためには、被告や被告の職員が個人的、私的な立場で作成又は取得し、なおかつ個人的、私的な立場で保管しているものであることを立証しなければならないと解するのが相当である。

(3)  これを本件についてみるに、本件文書は、従前から本件法人関連文書として、本件法人から株主である岩槻市宛に送られて来る文書と同様、岩槻市秘書課において保管されていたことは被告も認めている。そして、岩槻市は本件法人の圧倒的大株主で、設立以来現在まで岩槻市長の職にある者が本件法人の代表取締役に就任していたことから、本件法人も、佐藤征治郎個人の住所ではなく、岩槻市の住所に、本件文書を送付した上、岩槻市秘書課において保管されたものと推認され、その収受及び保管のされ方からして、本件文書は本件条例3条の「情報 実施機関の職員が職務上作成し、又は取得した文書、……で、……実施機関において管理しているもの」に該当するというべきである。

(4)  被告は、本件文書は、被告宛の文書ではなく、本件法人取締役に宛てた文書であり、被告が職務上取得した文書でなく、本件文書を秘書課が取得・保管しているとしても岩槻市長としてではなく、本件法人の代表取締役として取得・保管しているに過ぎない旨主張するが、採用できない。

被告は岩槻市長としての立場と本件法人代表取締役としての立場を兼務しているものである。すなわち、商法の規定に従い、佐藤征治郎はじめこれまで歴代の岩槻市長や助役等が個人の名で、本件法人の株主総会、取締役会の議決を経て代表取締役、取締役等に選任されてきているが、それが実現しているのは、まさに岩槻市が本件法人の約67%の株式を有する唯一圧倒的な大株主であるからにほかならず、佐藤征治郎らが岩槻市長等としての立場を離れて純然たる個人としての立場で本件法人の代表取締役等に選任されたなどとは到底認めることはできない(実質的に本件法人は岩槻市の子会社といって差し支えないものである。)。したがって、本件文言は、仮に宛先が本件法人取締役宛となっていたとしても、実質的に岩槻市長兼本件法人代表取締役佐藤征治郎宛の文書というべきであり、これを岩槻市秘書課が入手して他の株主宛文書等と同様本件法人関連文書として保管していたとすれば、それはまさに実施機関の職員が、職務上取得した文書を、実施機関において管理していたというべきである(しかも、その処理方法は岩槻市と本件法人との密接な関係からして社会的にも正当として是認し得る。)。

確かに、本件法人は、岩槻市からの多額の出資等により運営されているとはいえ法律上株式会社として経営運営されている営利法人であり、普通地方公共団体である岩槻市と本件法人は、別の法人格を有する機関であって、本件条例においても実施機関とはされていないことが認められるが、これらのことを考慮しても、前記判断を左右するものではない。

そうすると、被告の抗弁は理由がない。

2  結論

したがって、本件文書は、本件条例の公開対象情報に該当するものであり(被告が、平成13年9月1日から本件文書を本件法人事務所に移管したことは上記結論に影響しない。)、これを実施機関において保有していない(不存在)との理由で非公開とした本件処分は違法であって、取消しを免れない。

よって、原告の請求は、理由があるので認容することとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 豊田建夫 裁判官 都築民枝 菱山泰男)

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