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さいたま地方裁判所 平成14年(行ウ)21号 判決 2003年4月16日

原告

宝産業株式会社

同代表者代表取締役

同訴訟代理人弁護士

芝田稔秋

被告

埼玉県知事 土屋義彦

同訴訟代理人弁護士

関口幸男

同指定代理人

大和田有

谷戸秀昭

寺田賢

山田正晴

半田順春

田中康之

沖中利章

相澤隆

坂本啓多郎

主文

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は、原告の負担とする。

事実及び理由

第3 争点に対する判断

1  争点(1)について

(1)  廃棄物処理法は、廃棄物の排出を抑制し、及び廃棄物の適正な分別、保管、収集、運搬、再生、処分等の処理をし、並びに生活環境を清潔にすることにより、生活環境の保全及び公衆衛生の向上を図ることを目的とするところ(同法1条)、産業廃棄物、特別管理産業廃棄物の処理を業として行おうとする者についても、必要な規制を加え、産業廃棄物、特別管理産業廃棄物の処理が適正に行われるようにするとともに、事業者による産業廃棄物、特別管理産業廃棄物の処理を補完するものとして健全な産業廃棄物、特別管理産業廃棄物の処理事業への参画を通して、生活環境を保全するために必要な産業廃棄物、特別管理産業廃棄物処理体系の整備促進を図っている(廃棄物処理法第3章第3節及び第4節参照)。

特に、特別管理産業廃棄物については、爆発性、毒性、感染性その他の人の健康又は生活環境に係る被害を生ずるおそれがある性状を有し、その処理に特別な管理を必要とする産業廃棄物であることから(廃棄物処理法2条6項参照)、その処理を適正に行うためには、当該廃棄物の性状に応じた処理に必要な施設、能力を有していることが不可欠となる。

(2)  廃棄物処理法14条の5第1項は、特別管理産業廃棄物収集運搬業者(同法14条の4第1項の許可を受けた者、同法14条の8参照)が、その特別管理産業廃棄物の収集運搬の事業の範囲を変更しようとするときは、都道府県知事の許可を受けなければならないと規定しているが、これは、特別管理産業廃棄物収集運搬業について都道府県知事の許可を受けていた者であっても、事業の範囲の変更により、当初の許可申請の審査の前提となる事実が変更となるおそれがあるため、改めて、審査する趣旨であると解される。

そうすると、廃棄物処理法14条の5第1項の「事業」とは、申請者が、特別管理産業廃棄物処理業務に関して行うこととなる業務全般を意味すると解するのが相当である。

(3)  上記のように解した場合、廃棄物処理法14条の5第1項の「事業」に、積替え及び保管が含まれるかが問題となるところ、確かに条文上、同条項の「事業」について具体的に明記した規定は存しない。

しかしながら、廃棄物運搬業務の過程でなされた積替えは、広義の運搬業務の一部を構成すると解するのが自然である。また、保管に関しても、廃棄物処理法における「保管」とは、廃棄物の一連の処理の過程において、次の処理過程に移るまでの間廃棄物を保管することをいうものであって、廃棄物のとりまとめ、積替え等収集運搬業務の過程でなされた保管についても、同様に、廃棄物処理法14条の5第1項の「事業」に含まれると解するべきである。現実にも、産業廃棄物の積替え及び保管を行う場合には、当該廃棄物が飛散、流出し、地下に浸透したり、あるいは、悪臭が発散するおそれがあるのであり、また、積替え及び保管をする場所も必要となるため、積替え及び保管場所付近においては、生活環境が悪化するおそれも十分に認められることからすれば、これを審査の必要な事業でないとして、事業者の自由に任せることとなれば、特別管理産業廃棄物の処理を業として行おうとする者に必要な規制を加えようとした廃棄物処理法の趣旨を没却する結果となってしまうことは明らかであり、法がこのような事態を許すとは到底解されないところである。

さらに、上記のとおり、廃棄物処理法上は明文の規定はないものの、廃棄物処理法施行規則10条の12に規定された様式第12号(〔証拠略〕)及び同条の14に規定された様式第13号(〔証拠略〕)においては、事業の範囲欄に括弧書きで、取り扱う特別管理産業廃棄物の種類及び積替え又は保管を行うかどうかを明らかにすることと明示されており、行政実務上も、「産業廃棄物の保管行為に係る事務処理について」と題する昭和60年7月26日厚生省生活衛生局水道環境部産業廃棄物対策室長通知(〔証拠略〕、以下「本件通知」という。)のとおり、産業廃棄物処理業(収集・運搬業に限る。)の許可取得者が新たに同一産業廃棄物の保管行為をも実施する場合において、「事業の範囲」の変更に該当するから、廃棄物処理法14条の5第1項に基づく変更許可が必要であると解されている。

(4)  以上の事情を総合すると、廃棄物処理法14条の5第1項の「事業」に、積替え及び保管が含まれると解するのが相当である〔なお、平成10年6月16日付け特別管理産業廃棄物収集運搬業許可申請書(〔証拠略〕)において、原告は、事業の範囲として、「収集運搬業(積替え保管を除く)」と自ら記載していたことからすれば、原告としても、本件違反事実に至る前に、積替え及び保管が上記「事業」に含まれるという認識を有していたことは明らかである。〕。

2  争点(2)について

前述のとおり、廃棄物処理法における「保管」とは、廃棄物の一連の処理の過程において、次の処理過程に至るまでの間廃棄物を保管することである。

そして、収集運搬してきた車両から積替え地点以降の運搬の用に供される車両への廃棄物の積替え及び運搬が連続して行われない場合には、廃棄物の一連の処理の過程において、次の処理過程に至るまでの間廃棄物を「保管」する状態に至ったと解するのが相当である(本件通知参照)。

ところで、〔証拠略〕によれば、原告の元取締役副社長であるBは、聴聞において、原告住所地の駐車場において、ケイエスエムから搬出した硫酸ピッチを原告のトラックから弘道産業のトラックに積替えるまでは、原告のトラックに積んだままにしておき、場内あるいは駐車場におろしたことはないとしているものの、搬入と搬出の日付が1、2日ずれたこともあると述べていたことが認められる。

したがって、本件違反事実においては、特別管理産業廃棄物の積替えに止まらず、その保管に当たる事実もあったと認めるのが相当である。

保管行為が全くなかったとする原告の主張は独自の見解であり、採用することはできない。

3  そうすると、原告が、平成11年1月22日頃から同年4月1日頃までの間、原告住所地の駐車場において、ドラム缶に入った特別管理産業廃棄物である硫酸ピッチを、積替え及び保管したという本件違反事実が認められ、原告は、廃棄物処理法14条の5第1項に違反したということができる。

4  争点(3)について

(1)  原告は、廃棄物処理法14条の5第1項に違反したとしても、過去に一度も改善命令等の行政処分を受けたことがないのであるから、産業廃棄物収集運搬許可を取り消した本件処分は、不当に重いとし、本件処分に裁量権を逸脱、濫用した違法がある旨主張する。

(2)  しかしながら、本件違反は平成11年1月22日頃から同年4月1日頃まで2か月以上の長期間継続的に行われているものであり、廃棄物処理法14条の5第1項に違反した場合には、「5年以下の懲役若しくは1000万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する」と規定されており(廃棄物処理法25条2号)、それ自体重大な罪とされていること(別紙の公訴事実により原告及び原告の元副社長Bは起訴され、一、二審で原告は罰金500万円に、Bは懲役1年6月、執行猶予3年に処せられていることは前記のとおり。)、しかも、本件では、違反行為の結果、最終的に、原告が取り扱った特別管理産業廃棄物が静岡県内の山林に不法投棄されていることなど本件違反の性質、内容に照らすと、仮に原告自身は同不法投棄を企図したものではなかったとしても、本件処分が重すぎると解することはできず、本件処分に裁量権を逸脱、濫用した違法があると認めることはできない。

(3)  よって、原告の主張は採用できない。

5  争点(4)について

(1)  原告は、行政手続法14条1項は、行政庁は、不利益処分をする場合には、その名宛人に対し、同時に、当該不利益処分の理由を示さなければならないとしているところ、本件処分には、結論だけしか記載されておらず、その結論に付せられるべき理由がないから、理由不備の違法があると主張している。

(2)  行政手続法14条1項、3項によれば、行政庁が不利益処分を書面で行う場合、上記書面に理由を提示することが求められているが、本法が行政運営における公正の確保の透明性の向上を図り、もって国民の権利利益の保護に資することを目的としていること(同法1条1項)に照らすと、同法14条が理由の提示を義務づけたのは、行政庁の判断の慎重・合理性を担保としてその恣意を抑制するとともに、不利益処分の理由を名宛人に知らされることによって、その不利益申立てに便宜を与える趣旨であるというべきである。このような制度趣旨に照らせば、提示すべき理由としては、原則として、その記載自体によって、いかなる事実関係に基づき、いかなる法規を適用して不利益処分を行ったかが明らかとなる程度のものであることを要し、かつこれをもって足ると解するのが相当である。

(3)  そして、〔証拠略〕によれば、本件においては、原告は、処分の原因となる事実として本件違反事実を明記し、廃棄物処理法14条の5第1項に違反することを理由として、同条の3の規定に基づき、本件処分を行ったことを明記しているから、行政手続法14条1項により要請される不利益処分の根拠条項、処分原因となる事実の理由の提示の程度として必要かつ十分な記載であると解される。

(4)  したがって、本件処分に理由不備の違法はなく、本件処分は行政手続法14条1項に違反しない。

6  以上によれば、本件違反事実により、原告が廃棄物処理法14条の5第1項に違反することを理由として、廃棄物処理法14条の3(同法7条の3)規定に基づき、本件許可を取り消した本件処分に事実誤認及び法令の解釈適用を誤った違法はないというべきである。

7  結論

よって、原告の請求は理由がないから、これを棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 豊田建夫 裁判官 松田浩養 菱山泰男)

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