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さいたま地方裁判所 平成14年(行ウ)46号 判決 2005年8月31日

原告

同訴訟代理人弁護士

小宮清

松田雄紀

常川知久

小宮圭香

原告訴訟復代理人弁護士

上野真裕

被告

北本市固定資産評価審査委員会

同代表者委員長

同訴訟代理人弁護士

伊藤一枝

主文

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は、原告の負担とする。

事実及び理由

第3 当裁判所の判断

1  争点1(原告が主張し得る違法事由の範囲)について

(1)地方税法は、昭和31年度及び昭和33年度並びに同年度以降3年ごとの年度を基準年度と定め(同法341条6号)、各基準年度についてのみ固定資産の価格の決定を行い、第2年度、第3年度においては、原則として、基準年度の価格を据え置くこととし、基準年度の登録価格をもって第2年度及び第3年度の登録価格とみなし、この価格を課税標準として課税する方式を採っている(同法349条、411条3項)。

もっとも、地方税法は、第2年度又は第3年度において新たに固定資産税を課することとなる土地又は家屋については、上記土地又は家屋に類似する土地又は家屋の基準年度の価格に比準する価格で固定資産課税台帳に登録した価格をもって課税標準とし(同法409条1項)、固定資産について地目の変換、家屋の改築又は損壊等の特別の事情が生じたため、基準年度の価格によることが不適当であるか又は固定資産の課税上著しく均衡を失すると市町村長が認める場合においては、当該固定資産に類似する固定資産の基準年度の価格に比準する価格をもって課税標準とすると規定する(同法349条2項ただし書)。また、平成13年度又は平成14年度において当該市町村の区域内の地域において地価の下落がみられ、前年度の課税標準の基礎となった価格を当該年度の課税標準とすることが課税上著しく均衡を失すると認める場合においては、平成13年度又は平成14年度の固定資産税に限り、総務大臣が定める基準(修正基準)によって修正した価格をもって課税標準とするとしている(同法附則17条の2第1項)(なお、この地方税法附則17条の2の特例措置は平成9年度税制改正において講じられ、平成10年度以降現在までこの措置が講じられている。)。

そして、固定資産税の納税者は、固定資産課続台帳に登録された価格等に不服がある場合、所定の期間内において、審査委員会に審査の申出をすることができる(地方税法432条1項)が、地方税法411条3項により固定資産課税台帳に登録されたものとみなされる第2年度又は第3年度の土地又は家屋の価格については、原則として審査の申出をすることができず、地方税法349条2項1号による地目の変換等の特別の事情により同条2項、3項、5項各ただし書の規定の適用を受けることを主張する場合に限り、審査の申出をなし得ることとされ(地方税法432条1項ただし書)、また、地方税法附則17条の2第1項に基づき修正基準により修正された価格については、当該年度に係る当該年度の前年度分の固定資産税の課税標準の基礎となった価格についての不服を審査の申出とすることができないとされている(地方税法附則17条の2第8項)。

(2)  このような地方税法の規定を通覧するに、地方税法は、基準年度の価格についてのみ固定資産の価格の決定を行い、第2年度及び第3年度については、原則として当該固定資産の価格が基準年度の価格と同一であるとみなして、基準年度における固定資産の価格を規準として課税する方式を採っていることから、原則として基準年度に行われる固定資産の価格についてのみ地方税法432条1項所定の期間内に限って不服の申出を認め、上記不服の申出がなく所定の期間を経過したときは、もはや固定資産課税台帳の登録内容を争い得ないものとして、課税行政の安定を図っているものと解される。

そして、地方税法附則17条の2第1項や地方税法349条2項ただし書の規定による修正が行われた場合においては、その修正部分については当該土地の固定資産課税台帳の登録価格算定における新たな事由であるから当然納税者はその事由について争うことができる(地方税法432条1項ただし書、同法附則17条の2第8項参照)が、一方で、地方税法432条1項所定の不服申出期間を経過し基準年度の登録価格につき既に争い得なくなっていた場合に、たまたま地方税法附則17条の2第1項や地方税法349条2項ただし書の規定による修正が行われたことにより、既に確定している固定資産課税台帳の登録内容のすべてを改めて争い得るものとすることは、他の納税者との間の公平を害することになり、固定資産課税台帳の登録内容を一定の期間の経過により確定させ課税行政を安定させようとした上記法の趣旨に反するというべきである。

これを具体的にみると、仮に、基準年度において土地課税台帳に評価額1000万円と登録された土地について、第2年度、第3年度に1000万円のまま据え置かれて登録された場合には、当該土地の固定資産税納税者は第2年度、第3年度の登録価格について一切違法を主張して争うことはできない(地方税法432条1項ただし書)。にもかかわらず、地方税法附則17条の2第1項に基づき市町村長が下落状況に鑑みて一定の価格の修正をしたような場合(仮に、ここでは900万円と価格を修正したとする。)に、納税者がそもそも当該土地の適正な時価は800万円であるなどとして第2、第3年度の登録価格について基準年度における価格の算定方法等を含めてすべての事由について争えることとなると、これまでみたように、地方税法が、基準年度のみに限定して固定資産の評価額を決定することとし、第2年度、第3年度に独立して固定資産評価額を決定するシステムをもたず、基準年度の価格を据え置くか一定の価格の修正を施すことによって第2、第3年度の登録価格を定めることとしていることにそぐわない。

すなわち、固定資産の登録価格が適正な時価を超えるものであるかどうかは基準年度における評価額の決定の際に判断されるものであり、地方税法に定める一定の不服申出期間を経過して基準年度の評価額(上記例では1000万円)が適法なものと確定した後の第2年度、第3年度においても修正後の登録価格について基準年度における価格の算定方法等を含めてすべての事由についてこれを争うことができるとすると、市町村長は、第2年度、第3年度に独立して個々の不動産について時価を把握し評価額を決定するものとはせずに、課税行政の安定と便宜のため基準年度の価格を一定の簡易な方法によって修正することのみによって第2年度、第3年度の登録価格を決定することとした地方税法の本質的な制度趣旨と矛盾することにもなりかねない。

とすれば、地方税法附則17条の2第1項の規定による修正が行われた場合において、修正前の登録価格について争い得なくなっていたときは、修正後の価格に対する審査申出において審査申出人が主張し得るのは当該修正に係る事項に限定されるというべきである(大阪地裁平成15年4月25日判決・判例地方自治260号85頁、横浜地裁平成元年6月28日判決・行政事件裁判例集40巻7号835頁、同控訴審東京高裁平成2年2月27日判決・行政事件裁判例集4巻2号350頁参照)。

なお、最高裁平成15年6月26日判決(民集57巻6号723頁)は、基準年度である平成6年度の固定資産税賦課に係る事案であって、土地課税台帳等に登録された価格が賦課期日における当該土地の客観的な交換価値を上回れば、当該価格の決定は違法である旨判示しているが、その前提として、「(地方税)法349条1項の文言からすれば、同項所定の固定資産税の課税標準である固定資産の価格である適正な時価が、基準年度に係る賦課期日におけるものを意味することは明らかであり…」としており、基準年度に係る賦課期日における土地の価格が同期日における当該土地の客観的な交換価値を上回る場合に違法となることを判示したものであることは明らかであって、第2年度、第3年度の賦課期日における土地の価格が同期日の当該土地の客観的な交換価値を上回る場合について違法となり、かつ、そのことを納税者が争い得ることまでを判示したものと解することはできない。

そうすると上記最高裁の判示もこれまでの説示を何ら左右するものではない。

(3)  そして、本件は、原告が本件各土地における修正基準による修正後の平成14年度の本件各登録価格についての審査申出であるから、原告が本訴において主張し得るのは、地方税法附則17条の2第1項の規定に基づく平成14年度の時点修正に係る事項のみに限定され、上記事項以外の事項についての不服を主張することができないというべきである。

したがって、本訴においては、原告は本件各土地の時点修正に係る違法事由についてのみ主張し得るものであり、その余の事由に関する原告の主張は審理の対象とはならず、以下、時点修正の適否(争点3<4>)について判断することとする。

2  争点3<4>(時点修正が適正かどうか)について

(1)そこで、本件各土地について、地方税法附則17条の2第1項及び同条に基づく修正基準によって算定された時点修正が適正かどうか以下検討する。

地方税法附則17条の2第1項は、当該市町村の区域内の自然的及び社会的条件からみて類似の利用価値を有すると認められる地域において地価が下落し、かつ、市町村長が、価格を据え置くことが固定資産税の課税上著しく均衡を失すると認める場合において、総務大臣が定める基準(修正基準)によって修正した価格で、土地課税台帳に登録されたものとするとし、修正基準は、平成14年度における市街化区域農地について修正を行う場合の価格は、当該土地とその状況が類似する宅地の価格を修正した価格を基礎として求めるべきものとし、宅地の価格の修正方法として、<1>宅地の価格の下落状況を把握する(その際には、国土利用計画法施行令による都道府県地価調査及び不動産鑑定士又は不動産鑑定士補による鑑定評価を活用し、平成11年1月1日から平成13年7月1日までの下落状況を把握する)、<2>用途地区等を基本に宅地を区分し、その区分ごとに修正率を適用する(その際には、用途地区を基本とするが、市町村長が、用途地区内の宅地の価格の下落状況に幅があり、用途地区ごとに修正率を適用することが不適当であると認める場合には、用途地区を更に区分することができ、その区分ごとに下落状況から最も適切であると判断した修正率を乗じる。)<3>平成12年度又は平成13年度において価格の修正を行った宅地について所要の調整を行う旨定めている。

(2)  そこで、本件をみると、〔証拠略〕及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。

ア  下落状況の把握

北本市長は、修正基準に従い、平成12年度に区分した市域について、平成14年度の時点修正を行う上で、埼玉県地価調査価格及び不動産鑑定士による鑑定評価等を活用し、平成11年1月1日から平成13年7月1日までの地価の下落状況を状況類似地域ごとに把握した。

イ  状況類似地域

北本市長は、修正基準に従い、北本市の宅地評価において、状況類似地域を区分した。

そして、本件各土地は、一般住宅、農地、共同宅地等の混在する住宅用地にあり、都市計画法の第一種住居地区に該当するとして、普通住宅地区に区分された。また、JR高崎線、市道1408号線、仲山道、南大通線に囲まれた地域を<1>比較的連続性の低い区画街路に接しているという「街路の状況」、<2>JR高崎線北本駅、北本市役所、北本市東部公民館等の「公共施設等への接近の状況」、<3>都市計画用途が、南大通線沿線の測道部分を除き、第一種住居地域で、建ぺい率60%、容積率200%であること、上下水道施設の普及の状態、ガス設備等の有無、自然環境の良否、防火保安度の状態等の諸点においてほぼ同等であること等の「家屋の疎密度その他の宅地の利用上の便等」から、一状況類似地域(状況類似地域番号470)とされた。

ウ  下落率

そこで、本件各土地の属する上記状況類似地域内において、中庸な位置にあり、幅員及び用途地域・容積率が一般的、標準的である市道2469号線に当たることから主要な街路(街路番号9900)とされた街路に沿接する宅地のうち、画地計算法でいう奥行価格補正率が1.0であり、他の各種加算率、補正率の適用がないこと、形状が矩形で間口・奥行が用途地域(普通住宅地区)からみて適度な広さ(間口12m、奥行15m)があり、間口と奥行との釣合いがとれていること、住宅の用に供された家屋の規模、程度が標準的であること等から標準宅地とされた本宿1丁目〔番地略〕(本件標準宅地)の不動産鑑定士等の鑑定評価を基に時点修正を把握することとした。

そして、北本市長は、〔証拠略〕(県内地価公示価格一覧)、〔証拠略〕(埼玉県地価調査、基準地価格一覧)等を参考にして、以下のように本件標準宅地の時点修正率を把握し、本件各土地の時点修正率とした。

すなわち、本件標準宅地の平成11年1月1日(標準価格16万1000円/m2)から平成13年7月1日(標準価格13万5000円/m2)までの時点修正率は0.8380(0.962×0.936×0.931)(下落率は16.2%)となる。

(3)ア  そこで、本件における時点修正が適正なもの

<省略>

かどうかを検討すると、上記のように北本市長は、〔証拠略〕(県内地価公示価格一覧)、〔証拠略〕(埼玉県地価調査、基準地価格一覧)等を参考とした上で、平成11年1月1日から平成13年7月1日までの地価の下落状況を状況類似地域ごとに把握し、北本市域を用途地区さらに状況類似地域に区分し、不動産鑑定士等による鑑定評価から本件各土地と同一の状況類似地域にある本件標準宅地の下落率を把握し、その下落率を本件各土地について適用したものであって、その算定方法は上記地方税法附則17条の2第1項及び修正基準に照らし不合理なところはない。

なお、修正基準第3節三(一)(2)は、国土利用計画法施行令による都道府県地価調査及び不動産鑑定士等の鑑定評価により把握した下落状況から最も適切であると判断した修正率を乗じるものと定めており、いかなる下落率を適切と判断するかは市町村長の一定の裁量にゆだねられていると解されるところ、本件ではそのような北本市長の裁量を逸脱したとみるべき事情はない。

イ  この点、原告は、概ね「平成14年の時点修正において、平成13年7月1日までしか補正されていないのであるから平成14年1月1日までの補正をすべきである。」、「地価公示価格の公示地点である北本市本宿3丁目〔番地略〕(北本―10、本件公示地)から時点修正を求めると、平成11年1月1日から平成12年1月1日までが0.9177、平成12年1月1日から平成13年1月1日までが0.9241、平成13年1月1日から平成14年1月1日までが0.9254となる。」等と主張する。

しかし、地方税法は、固定資産の評価額の決定は基準年度のみ行われ、それ以外の年度(第2年度、第3年度)においては改めて評価額の見直しを行うことはなく、第2年度、第3年度は原則として基準年度の価格が登録価格とみなされるものと定めているところ、地方税法附則17条の2第1項は、バブル崩壊後の地価の下落傾向が続いていたことから、地価の下落における納税者の不利な状況の改善の要請と課税事務と徴税コストの増大をできる限り押さえるという要請とを勘案し、地価下落をできるだけ反映させるための臨時の措置として、市町村長の判断により、簡易な方法で価格の修正を認めた特例措置であり、その価格の修正を行うに当たって統一的で明確な手法として総務大臣による基準(修正基準)によることとしたものである。

そして、修正基準は、平成14年度の市街化区域農地の価格は、その状況が類似した宅地の価格を修正した価格を基礎として求めるものとし、平成14年度の宅地の価格は、国土利用計画法施行令による都道府県地価調査及び不動産鑑定士等による鑑定評価を活用し、平成11年1月1日から平成13年7月1日までの下落状況を把握し、市町村長がその下落状況から最も適切であると判断した修正率を適用して平成12年度の価格を修正して求めるものとしている。これは、平成14年度の価格を求めるに際し、平成14年度の賦課期日である平成14年1月1日までの下落率を算定することは課税実務上困難であることから、上述のように地価の下落における納税者の不利な状況の改善の要請と課税事務と徴税コストの増大をできる限り押さえるという要請を勘案した上での臨時の措置として、平成13年7月1日までの下落状況を把握しその下落状況から下落率を算定するものとしたものと考えられ、上述の地方税法附則17条の2の趣旨に鑑みれば、修正基準が平成13年7月1日から平成14年1月1日までの下落率を把握するものと規定してなかったとしてもそれ自体を不合理なものということはできない(なお、価格の暴落が極めて大きい等課税上その下落を考慮しなければ均衡を失するような特別の事情がある場合には地方税法349条2項、3項の各ただし書に規定するところにより当該土地に比準する土地の価格を当該土地の固定資産課税台帳に登録することもできるものとも考えられるが、本件ではそのような特別の事情があると認めるに足りない。)。

そうすると、市町村長は、地方税法附則17条の2第1項及び修正基準に基づき平成14年度の時点修正を行うに際しては、原則として平成13年7月1日までの時点修正を把握して適切な時点修正を行えば足りるというべきである。

したがって、本件各土地の時点修正を行うに際し、平成13年7月1日から平成14年1月1日までの下落率を把握しなければならないとする原告の主張は採用できない。

ウ  また、原告は、公示地点である北本市本宿3丁目〔番地略〕(本件公示地)の下落率から時点修正をすべきであるとする。

そして、上記公示地の平成13年7月1日までの下落率は証拠上判明しないが、単純に平成13年1月1日から平成14年1月1日までの半分として計算すると

0.9177×0.9241×0.9627=0.8164144

となり(〔証拠略〕参照)、上記公示地の平成11年1月1日から平成13年7月1日までの下落率は概ね18.4%と考えられる。

しかしながら、上述のように本件各土地の北本市長の状況類似地域の区分に何ら不合理な点が窺われないことに加え、〔証拠略〕によれば、本件各土地及び本件標準宅地はともに都市計画法上の第一種住居地域であり、北本市長によって区分された同一の状況類似地域(状況類似地域番号470)に属するものであること及び上記公示地は都市計画法上の第一種低層住居専用地域であり、本件各土地とは別の状況類似地域に属することが認められる。

そうすると、本件公示地の下落率をそのまま採用しなかったとしても不合理なものではないし、北本市長は、本件公示地の下落率も参考にした上で本件各土地の下落率を判断しているのであり、本件公示地の上記概算の下落率(18.4%)と本件各登録価格算定の基礎とされた下落率(16.2%)を比較して直ちに上記16.2%の下落率が不合理ということはできない。

(4)  したがって、本件標準宅地の下落率をもって本件各土地の下落率としたことについて北本市長の裁量の逸脱はなく、本件各土地の本件各登録価格算定に係る時点修正が不適法なものということはできない。

3  補足的判断

(1)  以上のとおり、本件において時点修正以外の事項について検討する必要はないが、本件事案の性質と審理の経緯に鑑み、原告が問題とする平成14年度の賦課期日(平成14年1月1日)における本件各土地の登録価格が客観的な交換価値を上回るものであるかどうかについて、当裁判所の見解を簡単に触れておくこととする。

(2)  先に述べたとおり、固定資産評価基準は、市街化区域農地については、当該市街化区域農地と状況が類似する宅地の価額を基準として求めた価額から造成費相当額を控除した価額によってその価額を求めるものとして、主として市街地的形態を形成する地域における宅地については市街地宅地評価法によって各筆の宅地についての評点数を付設することとし、具体的には、<1>状況が類似する地域ごとに標準宅地を選定し、標準宅地について売買実例価額などから適正な時価を求め、<2>これに基づいて主要な街路に路線価を付設し、これに比準してその他の街路の路線価を付設し、<3>路線価を基礎とし画地計算法を適用して各筆の宅地の評点数を付設することとしている。

ところで、前記最高裁平成15年6月26日判決は、「評価基準に定める市街地宅地評価法は、標準宅地の適正な時価に基づいて所定の方式に従って各筆の宅地の評価をすべき旨を規定するところ、これにのっとって算定される当該宅地の価格が、賦課期日における客観的な交換価値を超えるものではないと推認することができるためには、標準宅地の適正な時価として評定された価格が、標準宅地の賦課期日における客観的な交換価値を上回っていないことが必要である。」と判示する。このことは標準宅地の評価は格別、それ以下の主要な街路の路線価の付設、これに比準してその他の街路の路線価の付設、画地計算法を適用して各筆の宅地の評価については評価基準にのっとってなされている限り、(それによったのでは当該宅地につき適切な評価ができないという特段の事情がある場合を除き)一般的な合理性があることを当然の前提としていると考えられる。そこで、上記説示にしたがい、問題となる点を順次検討する。

(3)  本件で用いられた比準表等の合理性について

ア  争点3<1>(北本市における比準表が不合理なものかどうか)について

評価基準は、各筆の宅地の評点数は、路線価を基本とし、「画地計算法」を適用して付設するものとし、この場合において市町村長は宅地の状況に応じ必要があるときは画地計算法の附表等について所要の補正をしてこれを適用するものと定めている(第3節二(一)4)。

これを受けて北本市は、当該宅地の幅員、舗装の状況に応じて補正するための比準表を作成している(〔証拠略〕)。

原告は、北本市における比準表を不合理なものとするが、これを肯認すべき合理的な根拠はない。

原告は、被告主張の道路幅員を前提としても他自治体の比準表(〔証拠略〕)によれば、-12の評価となり、舗装については、他自治体の比準表(〔証拠略〕)によれば、-5の評価となると主張するが、これは原告が自ら有利になる値をそれぞれ異なる自治体から選択した結果にすぎず、むしろ、〔証拠略〕によれば平成12年度における北本市近隣の市町村の道路の幅員及び舗装に関する比準表は以下のように定められていたと認められ、これらと比較して北本市の比準表それ自体が不合理であるということはできない。

自治体 幅員 舗装 計

D -10.9 -2.0 -12.9

C -6.0 -5.0 -11.0

北本市 -8.0 -2.0 -10.0

E -7.0 -2.0 -9.0

A -4.0 -2.0 -6.0

B -1.9 -1.1 -3.0

さらに、地価公示法における公示価格の算定の際に用いられる土地価格比準表においても、接面道路の幅員の補正については、最大で-4とされ、舗装の補正については、最大で-4で、基準地を「普通」、対象地を「劣る」と評価した場合では-2とされていることが認められ、これと比較しても北本市の道路の幅員及び舗装に関する比準表自体が不合理であるということはできない。

したがって、この点に関する原告の主張は理由がない。

イ  争点3<2>(本件道路の幅員の評価に違法があるかどうか)について

〔証拠略〕によれば、本件標準宅地に係る道路の幅員は現況で4.5mであること、本件各土地に係る道路の幅員は道路台帳上1.82m~1.94mであり、現況で1.8mであることが認められる。

そうすると、評価基準に基づき定められた北本市の比準表(〔証拠略〕)によれば、上記のような標準宅地に係る道路の幅員と本件各土地に係る道路の幅員と比較すると-7.0に該当することになる。北本市長の算定においては-8.0として勘案されており、北本市比準表による数値よりむしろ原告に有利に適用されていることといえる。

したがって、評価基準及びそれに基づく北本市の比準表からその補正率を-8.0としたことを違法ということはできず、原告の主張は採用できない。

ウ  争点3<3>(本件道路の舗装の評価に違法があるかどうか)について

次に、本件道路の補正についてみると、〔証拠略〕によれば、本件標準宅地に係る道路は舗装がなされており、本件各土地に係る道路の舗装はなされていないことが認められる。

そうすると、評価基準に基づき定められた北本市の比準表(〔証拠略〕)によれば、上記のような本件標準宅地に係る道路の舗装と本件各土地に係る道路(本件道路)の舗装とを比較すると-2.0に該当することになる。

したがって、評価基準及びそれに基づく北本市の比準表からその補正率を-2.0としたことを違法ということはできず、原告の主張は採用できない。

エ  小括

そうすると、本件各土地の評価は、評価基準に定める所定の方式にのっとって行われており、その評価過程に違法と目すべきものはないというべきである。

(4)  本件標準宅地の評定価格は賦課期日における客観的交換価値を上回るものであるかどうか

ア  本件鑑定は、平成11年1月1日現在の本件標準宅地の標準価格を16万1000円/m2としているが(〔証拠略〕)、このことは本件鑑定において取引事例による比準価格を中心に標準価格の考察がされていること、本件標準宅地よりも駅に遠く価格的に劣っているとみられる土地(北本-10)の平成11年1月1日現在の公示価格が15万8000円/m2であること(〔証拠略〕)、平成12年相続税路線価図において本件標準宅地の接する道路の路線価は12万円/m2とされているところ、相続税路線価は実勢価格の7割程度とされているのは公知の事実であるから、同路線価図の上からは上記路線の平均的価格は17万円/m2程度と把握されていると推察されること(12万円÷0.7=17万1400円)等よりしてその妥当性は十分肯認し得る。

ところで、原告は、平成11年1月1日から平成14年1月1日までの修正率を地価公示変動率に従い、

平成11年1月1日~平成12年1月1日 0.9177

平成12年1月1日~平成13年1月1日 0.9241

平成13年1月1日~平成14年1月1日 0.9254

としているところ、当裁判所としては、前記のとおり時点修正率としては上記数値をそのまま採用するものではないが、仮にこれに従った場合でも、本件標準宅地の平成14年1月1日現在の時価は12万6349円/m2となる。

イ  一方、被告は、本件標準宅地について7割評価を行い、その平成11年1月1日当時の価格を11万2700円/m2とし、これに変動率として

平成11年1月1日~平成11年7月1日 0.962

平成11年7月1日~平成12年7月1日 0.936

平成12年7月1日~平成13年7月1日 0.931

を用いているから、本件標準宅地の平成14年度賦課期日(平成14年1月1日)における価格を9万4476円/m2と評定していると推察される。

ウ  以上によれば、原告の主張する時点修正率を用いた場合でも、平成14年度の賦課期日(平成14年1月1日)における本件標準宅地の評定価格は客観的な交換価値を上回るものではないと認められるから、本件各土地の価格は賦課期日における客観的な交換価値を超えるものではないと推認すべきである。

(5)  B鑑定における標準画地の評価について

B鑑定は、本件標準宅地と同等の土地を標準画地として、その平成14年1月1日当時の時価を10万4300円/m2としているので、その当否を検討する。

ア  まず、B鑑定は取引事例としてNo.1からNo.4の4つの事例を採用し、これらの取引事例をそれぞれの取引事例のNo.1:No.2:No.3:No.4=3:2:2:1の割合で加重平均して標準画地価格を算定している。

そして、上記取引事例No.1は、2筆の土地とその土地と道路を挟んだ1筆の土地の2画地からなるものであり、2画地の合計地積は272.41m2である。

上記取引事例No.1について、B鑑定士は証人尋問において、本件各土地の買主がディベロッパー等の業者であると考えられることから、それと同じ当事者属性となるように面積を優先して選んでおり、規範性が高いものであり、2画地という点については形状という形で-10%の補正をしたと供述する。

しかし、B鑑定は標準画地として北側4.5mの舗装道路に接面する地積約170m2程度の中間画地を想定しているところ、そのような標準画地の価格を導くためには利用状況の類似した取引事例を選定すべきであって、特段2画地の土地を用いるべき事情もなく、その補正が容易でないと思われる2画地の土地を1つの取引事例として選定していることには疑問を持たざるを得ない。

また、取引事例No.1の土地が後に小さい面積で分割され転売されていることについて、B鑑定士は、上記転売を見落としており、上記転売の事実を知っていたらその転売した事例を取引事例として採用したであろうと思う旨供述し、B鑑定士自ら取引事例No.1の適切さに疑問を呈しているといえるものである。

イ  次に、標準画地の沿接する街路の平成14年相続税路線価は10万5000円/m2で(〔証拠略〕)、相続税路線価上は、標準画地の実勢価格は1m2当たり15万円程度と評価されていると推察される(10万5000円÷0.7=15万円)。また、標準画地よりも駅に遠く、相続税路線価上は標準画地路線よりも路線価が低い地価公示地(北本-10。平成14年相続税路線価9万9000円/m2)の公示価格は12万4000円/m2であり、平成14年相続税路線価が9万3000円/m2である県基準地(北本-3)の基準地価格は12万1000円/m2である(〔証拠略〕)。しかるに、B鑑定では標準画地の価格を上記公示価格や基準地価格と比準して1割以上も安い10万9700円/m2ないし10万5200円/m2としているが、このことに十分な根拠があるとは認めがたい。

ウ  そうすると、B鑑定はその標準画地の価格算定過程について合理性を疑わせる面があり、これを採用することはできないというべきである。

エ  なお、原告は、標準画地と本件各土地の個別的格差を特に問題とし、B鑑定によれば、(訂正後の)格差率の合計はマイナス52%となるとしている。このことは本件で北本市が採用している比準表や固定資産評価基準に定められた画地計算法による評定の不合理(特に面積過大や開発の難易に関する所要の補正がなされていないこと等)を問題としているとみられないこともない。しかし、北本市が採用している比準表に不合理な点がないことは前記のとおりであるし、画地計算法による評定自体の不合理性は認めることはできない。また、証人Cの証言及び弁論の全趣旨によれば、B鑑定で述べられている個別格差(特に幅員-15、開発行為の難易-25等)は議論の余地があり、その格差率をそのまま採用することは困難である。さらに、前記のとおり、標準宅地の評価に当たっては時価の7割程度が目途とされている。そして、被告は本件土地に沿接する道路の路線価については比準表に従い、道路幅員-8、舗装-2、駅距離-0.8の合計-10.8の評価とし、これに本件各土地の評価について画地計算法を適用して奥行価格補正-9、不整形地補正-12を施しており、結局本件標準宅地の適正な時価と比較すると約5割評価となっていることが認められる。

0.7×(1-0.108)×(1-0.09)×(1-0.12)≒0.5

そうすると、上記B鑑定中の個別格差率を前提とした場合でも被告の評定との差はごく僅かなものに止まるものであり、上記原告の主張を考慮しても、被告の本件各土地の評価を不合理とまでいうことはできないというべきである。

4  結論

以上の次第であり、結局原告の請求は理由がない。

したがって、原告の請求を棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 豊田建夫 裁判官 富永良朗 松村一成)

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