さいたま地方裁判所 平成14年(行ウ)50号 判決 2003年10月01日
原告
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被告
騎西町長 石川三郎
被告訴訟代理人
関口幸男
主文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は、原告の負担とする。
事実及び理由
第3 当裁判所の判断
1 〔証拠略〕によれば、以下の事実が認められる。
(1) 平成12年法律第89号によって、地方自治法100条13項、14項が改正された。同条13項は、「普通地方公共団体は、条例の定めるところにより、その議会の議員の調査研究に資するため必要な経緯の一部として、その議会における会派又は議員に対し、政務調査費を交付することができる。この場合において、当該政務調査費の交付の対象、額、及び交付の方法は、条例で定めなければならない。」と定めている。従来地方議会を構成する議員について地方公共団体の運営や政策立案のための調査、研究、研修、広報等に資する費用として一定額が長から補助金として会派単位に支給される例が多かったが、その支出根拠が明確でなく、使途も不明朗との指摘があった。そこで、支出の根拠を法律上明確化し、使途と領収書を厳密にして、それが会派と議会の活動にいかに有効に役立っているかを検証し、住民の理解を得るべきであるとか、首長がどういう基準でこの経費を算出しているかを公表すべきである等の意見の下に、支出の透明性を確保するため地方自治法100条13項、14項が改正されたものである。すなわち、同条項は、地方議員の調査活動基盤の充実に資するため、地方議会の会派又は議員に対する政務調査費の助成を法制化し、併せて使途の透明化を確保しようとしたのである。もっとも、政務調査費の交付の対象、額及び交付の方法は条例事項とされた。したがって、交付対象を会派のみとするか、議員のみとするか、会派及び議員の双方とするかは条例に委ねられた。この趣旨を受けて、本件条例は、2条で交付対象を「騎西町議会議員」と定めている。
(2) 本件支出のうちの調査旅費については、<1>21世紀研究会幹事長の肩書で議員若山清一らの呼びかけで実施された平成13年9月27日から28日の新潟県三島町の県営ほ場整備事業(担い手育成型)及び新潟市の特別養護老人ホーム「康和園」の視察と、<2>議員若山清一の呼びかけで実施された平成14年2月12日から13日の兵庫県神戸市の「阪神・淡路大震災復興支援館」及び被災地の状況の現地視察、静岡県掛川市の市立中央図書館の視察研修の際の交通費(電車代、タクシー代)、宿泊費、駐車代金等であり、参加議員がその実費を支払った。
(3) 本件支出のうち広報費は、平成14年2月22日ころ結成された騎西21政策研究会が同年3月に発行した「きさい21会報・創刊号」に要した経費(印刷費及び新聞折込代)合計18万1440円を会員9名で按分した各2万0160円であって、「きさい21会報・創刊号」には、上記視察に参加したときの状況報告及び同研究会のめざす重点課題等の記載があるほか、それに広報費を支出した会員9名の議員全員が顔写真とともに名前を掲載している。
(4) 「騎西町議会の会派設置に関する規程」(〔証拠略〕)は、「騎西町議会の円滑かつ適正な運営を期するため、会派設置に関し必要な事項を定める」もので、それによれば、同規程の会派とは騎西町議会内に結成された議員の政策集団であって、会派として認められる所属議員の数は3人以上となっており、同規程は平成14年4月1日から施行されたがそれ以前に提出された会派結成届も同規程に基づき提出があったものとみなされる。そして、騎西21政策研究会は、騎西町議会議員9人で構成する会派として、会派結成届が会員名簿や規約とともに、同年2月22日、騎西町議会事務局長宛に提出された。騎西21政策研究会会則2条には、「本会は騎西町発展のために、必要な諸事項・政策を調査研究し、施策の実現を期することを目的とする。」との規定があり、3条は「本会の会員は、騎西町議会議員で、前条の趣旨に賛同するものをもって構成する。」と規定されている。なお、別紙1記載の広報費を支出した議員8名は全員がその会員である。
2 判断
(1) 地方自治法100条13項では政務調査費の目的は「議員の調査研究に資する」とされており、具体的には本件条例7条は「議員は、政務調査費を別に定める使途基準に従い使用しなければならない。」と定め、それを承けて騎西町議会政務調査費の交付に関する規則(本件規則)5条は「条例7条の使途基準は、別表のとおりとする。」として、別表で研究研修費、調査旅費、資料作成費、資料購入費、広報費、広聴費、事務費、その他の経費を定めて掲げているところ、これらは使途として適正と考えられる議員の調査研究活動に伴う費用の典型的な事例を明示したものと認められる。そこで、交付された政務調査費の使途が本件規則別表の費用に該当すると認められる場合は、特段の事由がない限りその交付は違法となるものではないと解される。
また、従前政務調査費は、各会派に補助金として交付される例が多かったことは公知の事実であり、地方自治法100条13項は、会派ないし議員への政務調査費について定めているところから、条例で議員に対し政務調査費を交付するとされている場合でも、所属会派の行う調査研究、広報などの費用について議員が応分の負担をするため交付された政務調査費の全部又は一部を用いることは、それが実質議員の調査研究等に資すると認められる限り必要な経費支出として適法であり、会派のための支出が直ちに使途違反につながるものでないことは当然である。そして、地方自治法100条13項の「会派」について、同法は特別の定義規定を置いていないから、そこでいう「会派」とは通常の用語例に従い、地方議会内に結成された政治的信条等を同一にする議員の同志的集合体をいうと解するのが相当であるところ、騎西21政策研究会は、前記認定によればこの「会派」に該当すると認められる。
(2) ところで、前記認定のとおり、本件支出のうち調査旅費は、騎西21政策研究会結成届提出前に実施された視察研修について参加議員が交通費(電車代、タクシー代)、宿泊費、駐車代金等の実費を支出したものである(したがって、そもそも原告主張の騎西21政策研究会主催の視察旅行の旅費と認めることはできない。)。
また、本件支出のうち広報費は、騎西21政策研究会が発行する会報誌に関して議員が支出したものであるところ、前記認定のとおり、騎西21政策研究会は騎西町議会内会派であって、同会報誌は会派の活動報告をするのが主眼といっても、同会報誌には会員である9名の議員の顔写真と名前の記載があり、実質的には会派の活動報告を通じてこれら9名の個々の議員の調査研究活動、議会活動の報告及びPRにも資するものであったことが認められる。
(3) 以上によれば、本件で問題とされる政務調査費の使途は、いずれも本件規則5条別表に定める調査旅費、広報費の範囲内のものであり、何らその交付、使途に違法性を認めることはできない。
原告は、騎西21政策研究会主催の視察旅行や会報の発行に用いることは政治団体に対する違法な寄付に当たるもので、本件条例2条、7条に違反すると主張する。しかし、騎西21政策研究会は前記認定のとおり騎西町議会の議員のみで構成される議会会派と認めるのが相当であり、政治資金規正法3条、6条の適用対象となる政治団体とは認めがたく、原告の主張は前提を誤るもので採用できない(仮に、騎西21政策研究会が何らかの政治的団体に当たるとしても、本件で問題とされる政務調査費のうち調査旅費、広報費の使途、内容は前記のとおりのもので、その使途が違法なものとは考えがたい。)。
3 結論
以上の次第で、原告の請求は理由がないから、棄却することとし、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 豊田建夫 裁判官 都築民枝 菱山泰男)