さいたま地方裁判所 平成14年(行ウ)51号 判決 2004年6月23日
原告
X
同訴訟代理人弁護士
長田淳
同
松苗弘幸
被告
栗橋・大利根土地区画整理事業一部事務組合
同代表者管理者
斉藤和夫
同訴訟代理人弁護士
濱秀和
同
宇佐見方宏
同
宮﨑良夫
同指定代理人
新見伸二
同
戸笈文男
同
梅山要市
同
五十嵐稔
同
岡田剛行
同
渡辺昌也
主文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は、原告の負担とする。
事実及び理由
第3 当裁判所の判断
1 本件事業と本件仮換地指定に至るまでの経緯
前記基本的事実関係及び掲記の証拠並びに弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。
(1) 土地区画整理事業の経緯
ア 本件仮換地指定のもととなっている土地区画整理事業(都市計画事業栗橋駅西土地区画整理事業)は、被告が施行者となって行われてきた。本件事業は、栗橋駅西口周辺区域の駅前広場、都市計画道路を始めとする公共設備を整備し、健全な市街地の整備を行うことを目的とし、昭和58年10月4日に都市計画決定が、昭和62年2月20日に事業計画の決定がそれぞれ行われ、平成3年11月から順次仮換地の指定が行われるようになった。
イ 換地設計基準
被告は、平成2年7月10日、本件事業の第2工区審議会において意見を聞き、換地設計基準(乙2)を定め、平成2年8月28日、評価委員会において意見を聞き、土地評価基準(乙4)を定めた。
換地設計は、事業計画決定の日現在における宅地を対象とし(本件換地設計基準3条)、換地設計における画地の計算は、評価式換地計算法によるものとし(同基準5条)、画地の評価は、路線価式評価方法によるものとしている(本件土地評価基準3条。路線価の詳細な説明は後述。)。
従前の宅地及び換地は、画地ごとに平方メートル(m2)当たり指数及び総指数を算定するものとされ、一筆の評定指数は、一筆内の各画地の総指数の合計をもって算定する(同8条)。画地のm2当たり指数及び総指数は、画地の分類(普通地、角地等)に応じて算出するものとされた(同9条)。
ウ 本件各土地の状況
本件各土地の位置関係、形状は、概ね、別紙3「重ね図」記載の青線で表示したもの及び別紙4の図面に記載したとおりである。
エ 仮換地指定
被告は、原告に対し、本件各土地につき、平成14年9月11日付けで仮換地指定(本件処分)をした(甲1)。
本件処分の内容は、別紙2記載のとおりである。
本件各仮換地の位置関係及び形状は、概ね、別紙3「重ね図」記載の赤線で表示したもの及び別紙4の図面に記載したとおりである(乙15)。
被告は、本件処分を行うに当たり、原告の従前地を本件土地評価基準に基づいて評価点を標準指数で表し、また仮換地についても本件土地評価基準に基づいて評価点を評定指数で表し、その指数を対応させた。被告が算定した原告の従前地及び仮換地に対する上記評価は別紙5「X氏所有地の評価計算書」記載のとおりである(乙11)。
(2) 土地評価の仕組みについて
ア 土地の評価は、本件土地評価基準(乙4)及びこれに基づく評価の要領を定めた土地評価要領(乙5)により、事業区域内の道路に即してそれぞれ路線価を定め、この路線価に基づいてそれぞれの土地のm2当たり指数、整理前の標準指数、整理後の評定指数を算出し、整理前の標準指数と整理後の評定指数を照応させる方法で行われた。
イ 街路の路線価について
路線価は、路線に標準画地が接していると想定した場合における標準画地のm2当たり価格をいう(この路線価を標準として、土地の形状、奥行きの大小、土地の高低、その他の条件により各画地の評価を算出する。)。
路線価の算定は、土地評価基準(乙4)6条により、下記の式によって算出した。
路線価=街路係数+接近係数+宅地係数
(ア) 街路係数
街路係数は宅地が接する街路のみによる利用価値・効用を表す係数で街路係数=t・F(W)+ΣXで算出する。
ここにtは、市街地の街路網における当該街路の交通上の性格、系統性及び連続性等、街路の等級を表す係数である。本件では、tの値として都市計画街路等外部交通を負担する連続性街路には1.3、普通の区画道路には1、行止まり道路には0.9等の値が付された(乙10の4枚目)。
F(W)は、t値を幅員Wに応じて修正する係数で、F(W)=W÷(W+3)として計算され、幅員が大きくなるほど大きい値となる。
ΣXは、街路の整備水準、歩車道の区別の有無、街路修景(街路樹の植栽の有無)の状況により、それぞれの値を加算して算出する。
(イ) 接近係数
接近係数は、宅地と相対的距離関係をもって存在している交通、慰楽、公共等の諸施設によってもたらされる受益又は受損の価値を表す係数である。第2工区においては整理後に影響距離限度内にある対象施設は栗橋駅、児童・幼児公園、近隣公園、緑地であるところ、本件仮換地指定に関する対象施設は、栗橋駅、児童・幼児公園のみである。整理前において影響距離限度内にある対象施設は栗橋駅のみであった。整理前においては栗橋駅からの路線距離が長かったものが、駅西口が開設し、街路が整備されたことにより路線距離が短縮されたことから、整理後の接近係数は大きく増加した。
(ウ) 宅地係数
宅地係数は、宅地自身のもつ空間利用可能度、文化性及び保安性等による価値を表す係数で、次式によって算出する。
宅地係数=u・F(p)+ΣY
uの値は宅地に対する建築物の容積的利用の程度及び画地割りによる建築密度により表し、整理前1.1、整理後1.2としている。
F(p)は、防災に対する保安性を公共空地率、公共空地配置密度等により表す係数、次式によって算出する。
F(p)=(0.5+0.1√p)÷(1-15d・p)
p:公共空地率=公共用地面積÷計算区域面積
d:公共空地配置密度=4m以上の街路延長÷計算区域面積
Yは、給排水の良否、自然環境の良否を表す係数で、供給処理施設として上水道整備及び引込みが容易であることから0.05、自然環境として排水状態が良好であることから0.05とし、整理前後の変化がないことから同一値としている。
(エ) 路線価指数について
整理前路線価は、整理前路線価が最大値である路線番号77―1の路線価2.229を路線価指数1,000として換算して表示したものでそれぞれの路線ごとに計算された路線価に1,000÷2.229を乗じて求めた値を路線価指数として表したものである。
また、整理後路線価は、整理後のそれぞれの路線ごとに計算された路線価に1,000÷2.229を乗じて求めた値を路線価指数として表した。
ウ 原告所有地が接する街路の路線価(乙10)
(ア) 整理前
原告所有地が接する街路の整理前の路線価は、別紙8「X氏所有地が接する街路の路線価」(乙10の7枚目)左側「整理前路線価」記載のとおりである。例えば路線番号12―1については街路係数は0.929、接近係数は0.207、宅地係数が0.737であるので、路線価は1.873となり、路線価指数は840となる。
(イ) 整理後
整理後は同表右側に記載されているとおりである。例えば路線番号3―4は街路係数1.190、接近係数0.597、宅地係数0.880で、路線価は2.667となり、路線価指数は1197となる。
街路係数については、3―4は外部交通を負担する連続性街路であるので、tは1.3となり、幅員12mであることからF(W)は0.800となり、その結果、街路係数は1.190となる。
接近係数については、栗橋駅への接道が向上するほかに、児童・幼児公園が設けられることから0.597となる。
宅地係数(整理後宅地係数計算表)はuが1.2、p(公共空地率)が0.278、d(公共空地配置密度)が0.036と向上すること等から0.880となる。
エ 原告所有の従前の土地と本件仮換地の評価計算
乙11によれば、上記の路線価をもとにし、従前の土地及び換地の形状、奥行きの大小、土地の高低その他の条件により整理前後の各画地の評価を算出したところ、別紙5「X氏所有の評価計算書」に示すとおり、原告の従前地は11筆、登記地積合計3286m2、標準指数合計266万8357となったのに対し、本件仮換地は9筆、換地指定地積は合計2328m2、評定指数の合計は266万8369となったことが認められる。これによれば指数合計は従前の土地合計より換地合計の方が若干上回っているが、減歩率は平均29.15%となることが認められる。
2 照応の原則違反の主張についての判断
(1) 土地区画整理事業に伴う換地計画における換地指定の基準については、「換地計画において換地を定める場合においては、換地及び従前の宅地の位置、地積、土質、水利、利用状況、環境等が照応するように定めなければならない。」(法89条1項)とする、いわゆる照応の原則が定められており、仮換地を指定する場合にも同項所定の基準を考慮して定めなければならない(法98条2項)。そして、この原則は、従前地と仮換地との対物的な照応(いわゆる縦の照応)のほか、権利者間相互の対人的な照応(公平の原則、いわゆる横の照応)をも意味すると解される。
土地区画整理事業は、施行者が一定の限られた施行地区内の宅地につき、多数の権利者の利益状況を勘案しつつそれぞれの土地を配置していくものであり、また、仮換地の方法は多数あり得るから、具体的な仮換地指定処分を行うに当たっては、土地区画整理法89条1項所定の基準の枠内において、施行者の合目的的な見地からする裁量的判断に委ねざるを得ない面があることは否定し難いところである。そうすると、仮換地指定処分は、指定された仮換地が、土地区画整理事業開始時における従前の宅地の状況と比較して、前記した法89条1項所定の照応の各要素を総合的に勘案してもなお、社会通念上不照応であるといわざるを得ない場合においては、裁量的判断を誤った違法のものと判断すべきものである(前掲最高裁平成元年10月3日判決参照)。
なお、土地区画整理事業は、駅前広場、都市計画道路をはじめとする公共施設を整備し、健全な市街地の整備を行うことを目的とし、区画形質の変更を加えるものである以上、土地区画整理の合理的な推進の観点からは、換地における照応関係は、地目、地積、土性、水利、利用状況、環境等からみて個別の従前の土地とそれに対し交付される換地との間に必ず必要というわけではなく、本件のように同一の所有者の複数の従前地に対して仮換地の指定を行う場合には、従前の土地全体と仮換地全体を総合的にみてその間に照応が認められれば足りると解するのが相当である。
(2) これを本件についてみるに、関係証拠(適宜掲記する。)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。
ア 従前地の利用状況
(ア) 352番1、7、8、14の土地の利用状況
上記土地は、a商事を債務者として担保に供したことはあるが、現実に原告又はa商事が利用することはなく、上記土地上には雑草が茂っている状態である(甲2の2ないし4、2の9、乙6、14及び原告本人)。
(イ) 280番1、3、242番、298番1、3(本件業務地)の利用状況
a 上記土地はa商事の業務用地として一体的に利用されている。
a商事は、原告が代表取締役を務める有限会社であり、遅くとも昭和48年ころから本件業務地を使用して米の貯蔵庫の卸売業を行っている。
a商事の業務内容は、米貯蔵庫等の商品を開発し、製造及び組立てを外部の業者に委託し、それらの商品を本件業務地又は委託した他の業者の土地に納入して保管し、最終的に農協等に卸すというものである。平成14年度売上げは1億円強であった。
b 原告は、280番の1及び280番の3の土地上(別紙4のの部分)に昭和48年7月7日、倉庫を建築した(本件倉庫)。本件倉庫の中には納入した貯蔵庫や米缶、調湿剤等の附属品が保管されている。
上記商品の運搬、搬出、搬入にはトラックを利用して行い、a商事はそれらの業務の9割以上を他の業者に委託している。
280番の3及び242番の土地上(別紙4のの部分)に倉庫(以下「シャッター倉庫」という。)があり、その中には納入した米缶や包装材等を保管している。
242番の土地上(別紙4の
298番の1の土地上(別紙4の
a商事は、4tトラック3台、2tトラック1台を所有しており、それらのトラックに米貯蔵庫等の商品を載せて保管、運搬しており移動式倉庫として使用している。上記トラックのうち、4tトラック1台以外は車検を受けておらず、公道を走らせることはできない。
a商事は、本件業務地の倉庫以外に茨城県のb物流の倉庫を借りて商品を保管している。a商事の社員が商品を持って組み立てる必要がある商品は本件業務地で保管しており、他の業者に委託して組立てを行う商品は、茨城県のb物流で保管することになっている(以上原告本人)。
c 本件業務地の所在する地域は、昭和45年12月28日に住居地域指定がなされた。
原告は昭和48年4月10日に、埼玉県行田土木事務所に本件倉庫の建築確認申請をしたが、同年5月9日、同事務所は用途地域指定に違反する建築物に当たるとして申請を認めず返戻した。
しかし、原告は、適法な建築確認を経ることなく本件倉庫を建築した(〔証拠略〕)。
なお、平成8年3月1日には同地域は第一種中高層住居専用地域に指定されている(〔証拠略〕)。
(ウ) 2386番土地(本件自宅兼事務所)の利用状況2386番には、原告の自宅が建てられており、一階部分はa商事が原告から借り受けて事務所として使用している(原告本人)。
本件自宅兼事務所と仮換地指定後の保留地予定地である隣地50街区9までの距離は、勝手口から約0.92m、建物角から約0.55mであり、本件住居地に設けられているブロック塀角は画地線より約0.36m50街区9に侵入する状態にある(乙12)。
(エ) 1682番の1の利用状況
1682番の1の土地は、間口2.5m、奥行約70mの細長い土地で雑草が生い茂った状態であり、また、水はけが悪く、降雨によっては20cm前後まで水がたまることがある(乙17)。
イ 本件仮換地の位置、形状等について
原告所有の従前の土地に対して、51街区の14ないし17(合計512m2)、50街区の1、2、8(合計1571m2)、50街区の6、7(合計245m2)の仮換地指定がなされた。
(ア) 51街区14ないし17について
上記仮換地のうち51街区15(25m2)は242番の一部31.23m2がいわゆる飛換地されたものであり、これを除いた51街区14、16及び17(以上合計487m2)の仮換地については従前地(352番1、352番7、352番8及び352番14、以上の合計地積589m2)と比べた場合減歩率は17.3%と平均を下回る。その位置も従前の土地と重なる位置か又は近接した位置にある。
そして、上記仮換地は51街区15を含めて一体として利用できるようになっており、2方を道路に面した角地となっている。そこで、51街区14ないし17の仮換地については減歩率、位置、形状、利用具合等において原告に不利な点はないと認められる。
(イ) 50街区8について
50街区8(91m2)は、従前の土地1682番1(登記簿地積165m2)を仮換地指定したものであるが、その土地は一つだけ他の土地から離れた場所にあり、間口は2.5m、奥行約70mの細長い土地で、水はけも悪く、単独での使用価値はほとんどなく、50街区8として50街区1と2と一体的に換地されることは、減歩率が44.85%と高率になったことを考慮しても、原告にとってむしろ有利と認められる(そして、利用具合としては50街区8の土地は、50街区1及び2の土地と一体的に扱うべきである。)。
(ウ) 50街区1、2について
50街区1、2(合計1480m2)は、従前の土地280番1、3、242番の一部(611.26m2)、298番1、3(以上の合計地積2160.26m2)に対する仮換地として指定され、減歩率は約31.5%となる。
ところで、従前の土地280番1、3、242番、298番1、3の5筆の土地は、従前は北西に面する道路から南東道路まで約114mの長さのある細長い土地で一体的に用いられてきたことが認められるところ、これに対する換地は50街区1、2(合計1480m2)、50街区6及び51街区15であり、50街区6と51街区15は50街区1、2、8とは離れた位置にある。そこで、概括的には、原告が業務用として一体的に用い得る土地は、従前の280番1、3、242番、298番1、3(5筆合計地積2355m2)から50街区1、2、8(3筆合計地積1571m2)に変わったとみられないこともない。これで考えて計算すると、減歩率は約33.3%と平均よりかなり高い率となることが認められる。
しかしながら、形状や接道状況をみると、従前の土地280番1、280番3、242番、298番1、298番3は、幅20m前後、長さ約114mの細長い土地で、主な接道は北西4m道路、南3.6m道路のみ(あとは、幅員1.8mの行止まり道路)であったが、仮換地後の50街区1、2及び8は、地形はほぼ4:3の比率の長方形で、南西幅6mの道路、北西幅6mの道路、北東幅12mの道路の3つの道路に囲まれ、地形、接道条件に関しては極めて優れているといえる。
(エ) 50街区6、7について
50街区7(138m2)に対する従前の土地は本件自宅兼事務所のある2386番(177m2)であり、減歩率は22%で平均並みである。しかし、原告自宅兼事務所北側の50街区6(107m2)に換地された242番の一部(163.51m2)の減歩率は34.56%と平均より高い(なお、両方の土地を一体的にみると、従前の土地の合計地積340.51m2に対し仮換地合計245mで減歩率は28%となることが認められる。)。
しかし、50街区6と7は一体的な利用が可能であり、50街区6、7を一体的にみると、北は12m道路、東は県道羽生栗橋線、西は6m道路と3方を道路に囲まれた角地となり、利用価値の高い土地となることが見込まれる。
なお、原告は、本件住居兼事務所建物について、仮換地指定後は、勝手口が北西の50街区9(保留地となっている)に面することになり、保留地50街区9の買受人により建物が建てられたときは本件住居兼事務所建物の出入りが困難になる旨主張する。しかし、従前本件住居兼事務所建物の北側は道路であり、換地によりその道路部分がなくなり50街区9の保留地指定がされたとしても、直ちに本件住居兼事務所建物の使用状況に変化が生ずるとは認めがたく、保留地買受人による建物建築と原告の本件住居兼事務所建物の距離との問題は民法や建築基準法の相隣関係によって問題の解決が図られるべき問題であり、仮換地指定により本件住居兼事務所建物が保留地50街区9に接するようになったとしても、そのこと自体は本件仮換地指定の不合理性の事由になるとはいえない。
(オ) 仮換地50街区1、2、8と50街区6、7の分断指定について
なお、上記の従前の土地280番1、280番3、242番、298番1、298番3は、道路をはさんだ原告住居兼事務所のある2386番とこれまで事実上一体的に用いられてきたが、換地後の50街区1、2、8は、間にAに仮換地指定された50街区3、4、5が入るため換地後50街区6、7とは分断され、この面での原告の一定の不利益は否めない。しかし、換地後でも50街区1、2、8の土地と原告住居兼事務所所在の土地(50街区7)の距離は従前と変わりはなく、東の12m道路又は西の6m道路により頻繁な行き来は可能と認められる。
ウ 本件倉庫と原告住居兼事務所所在地の原位置換地の必要性
乙18及び証人新見伸二によれば、280番の1、3、242番、298番1、3の土地上には、本件倉庫、シャッター倉庫、貨車倉庫、平屋倉庫等が存在するが、土地一帯は第一種中高層住居専用地区とされており、第一種中高層住居専用地区においては、住居、公共施設、一定の店舗・飲食店等、一定の自動車車庫以外の建築物は建築することができず、a商事が業務用に使用している本件倉庫、シャッター倉庫は営業用倉庫といえるから仮換地上に改めて建築することは建築基準法上許されないこと、しかし、a商事が米貯蔵庫等の販売を行っており、米貯蔵庫等の商品を保管する倉庫がその業務の中核施設となっていることから、a商事の倉庫の中でも最も規模の大きい本件倉庫を移動又は取り壊すことなく仮換地指定を行うことが望ましいと考えられ、その結果本件倉庫を移動させないよう仮換地を280番の1の付近に定めたこと、また、従前の土地2386番には本件自宅兼事務所が存在しており、既存住宅であるために原位置換地するほかなく、仮換地50街区7を指定することとしたこと、そして、それに接する50街区6は242番の一部の換地として原告に指定されたことが認められる。
このようにみると、本件倉庫と本件自宅兼事務所の2つの建物を原位置に残すように仮換地指定するとなれば、仮換地において原告の従前の土地を50街区の北か南の1か所に集約することは困難であり、北と南の2か所に分断して仮換地指定したこともやむを得ない事情があったといわざるを得ない[なお、証人新見の証言によれば、被告の側では、原告との折衝の過程で50街区6、7に代えて50街区3の北西の一部(50街区2と接する部分)を仮換地することはどうかと打診したことがあったが、その案は原告の側で断り、立消えとなったことが認められる。]。
エ a商事の営業の継続可能性について
原告は、本件処分のとおり換地されるとすると、業務地が約3分の2に減歩されてしまい、a商事の営業が継続できないと主張する。確かに、本件仮換地指定の結果、原告は280番3の一部、242番、289番1、3の土地が使用できないこととなり、従前まで使用してきたシャッター倉庫の一部、貨車倉庫、平家倉庫は原位置から移動せざるを得ないこととなることが認められる。しかし、これらの営業用倉庫ないし工作物はもともと第一種中高層住居専用地区では建築基準法上許容されていないものである上、50街区1、2、8の空きスペースもある。また、道路をはさんで仮換地された51街区14ないし17の土地は現在空き地であるが、50街区1、2、8の土地と共通目的で一体的に用いることも不可能とは認められず、仮に50街区1、2、8に移動可能な倉庫や倉庫代わりのトラックなどが収容しきれなければ51街区14ないし17の土地を用いることも十分考えられる。そうすると、本件仮換地指定の結果、a商事のこれまでの営業の継続が著しく困難になるとまでは認めるに足りない。
オ いわゆる「横の照応」について
(ア) 土地区画整理法89条1項が縦の照応とともに横の照応を定めるものであることは前述のとおりであり、その場合の横の照応とは、同施行地区内の各権利者相互間において仮換地が概ね公平に定められいることを意味するのであり、一部の者が恣意的に不利益を被るような場合や一部の者を恣意的に優遇した結果当該権利者が不当に不利益を被るような場合には、施行者の裁量の逸脱として許されないというべきである。
(イ) これを本件についてみるに、別紙7「50街区周辺の減歩率一覧表」によれば、他の街区の減歩率について6%台から43%台まで広範囲に及び30%前後の減歩率のものも存在する。そして、こうした減歩率の差が生ずるのは、結局従前の土地と換地との評価差によるものであり、評価は前記のとおり路線価方式に基づき、画地ごとに土地評価基準(乙4)及び土地評価要領(乙5)にしたがいほぼ機械的に行われるから、結局換地後の画地がいかなる路線価の道路に接するかが最も減歩率に影響を及ぼすと言い得る。そして、原告の場合50街区に仮換地された土地は、いずれも北東側12m道路に接し、50街区6、7は県道羽生栗橋線に面しているが、これらの道路は路線価に最も影響のある街路係数が高い(tの値が最も高い1.3とされている。なお、tの値自体は、設置される道路の性格、系統、機能等の道路の等級並びにこれまでの土地区画整理事業における経験、知識等に照らし、被告が評価員の意見等を基に最も公平・妥当とみた係数を与えたと推認され、特に不合理な点を本件証拠上窺うことはできない。)。また、50街区1、2、8と50街区6、7はいずれも3方を道路に囲まれた角地となっていることから画地としての評価指数が高い。これらの結果原告所有地と仮換地を対比すると、第2工区一般宅地の平均減歩率19%よりもかなり高い減歩率29.15%の結果となったことが認められる。
そうすると、原告の従前地の減歩率が第2工区の平均より高いことから直ちに横の照応に反する一資料になるとはいえない。
(ウ) Aの仮換地指定状況との比較
被告は、Aの土地の仮換地指定を行うに当たり、従前地を本件土地評価基準に基づいて評価点を標準指数で表し、また仮換地についても本件土地評価基準に基づいて評価点を評定指数で表し、その指数を対応させた。被告が算定したAの従前地及び仮換地に対する上記評価は別紙10「A氏所有地の評価計算書」記載のとおりである(乙11)。そして、Aの従前地(1932番を除く)の利用状況は別紙9記載の青線で表示したとおりであり(乙16)、Aの仮換地指定状況(50街区5を除く)は、別紙9記載の赤線で表示したとおりである(乙16)。
これを検討するに、Aの減歩率は19%台から30%台であり、総面積における平均減歩率が28.31%となっており原告のものよりやや減歩率が低い程度でありほとんど差はない。そして、その算定方法も不合理なものとはいえず、Aを他の者と比較して恣意的に優遇したということはできない。
なお、原告は平成15年8月1日現在の価格を基にした甲8、9の鑑定結果に基づき被告の査定は不合理である旨主張する。しかし、従前の土地と換地予定地は原則として土地区画整理事業開始時を基準とし、その時点での従前の土地と換地予定地を路線価方式により評価して指数を決定するものである。そして、乙11に示されているような評価方法による原告所有の従前の土地の評価(標準指数266万8357)とA所有の従前の土地の評価(標準指数282万6081)に特段不合理な点があると認めることはできない。
(エ) したがって、原告が他の者と比較して恣意的に不利益を被っているとはいえず、Aを恣意的に優遇した結果として原告が不当に不利益を被ったものともいえないのであるから、本件処分が横の照応に違反しているとはいえない。
(3) まとめ
以上の検討結果によれば、次のとおりとなる。
ア 従前の土地全体と仮換地全体は、路線価方式に基づく画地評価による指数において、前者は標準指数266万8357点、後者は266万8369点で均衡している。
イ 第2工区における一般宅地の平均減歩率は19%(乙11の24枚目)であるが、本件処分に係る減歩率は29.15%である。
その内訳を子細にみると、
(ア) 51街区14、16、17(以上合計487m2)に仮換地指定された352番1、7、8、14の4筆(合計589m2)の減歩率は17.3%で、平均減歩率を下回る。
(イ) 50街区8に換地された1682番1の土地は、減歩率が44.85%と最も高いが、同土地は細長く、単独ではほとんど利用価値がなく、高低差もあり、降雨時には水がたまるような状況で、50街区8として他の土地と一体として換地されたことは上記減歩率の大きさに関わらず原告に利益の大きい換地といえる。
(ウ) 50街区1、2(合計1480m2)に換地された従前の土地280番1、同番3、242番(但し内611.26m2)、298番1、同番3(以上の合計地積2160.26m2)の減歩率は、約31.5%で、減歩率は平均よりかなり高いが、50街区1、2、8は地形が使い勝手のよい長方形で、接道状況も優れている。
(エ) 原告の自宅兼事務所のある2386番(仮換地50街区7)の減歩率は22%で平均並みであるが、原告自宅兼事務所北側の50街区6に換地された242番の一部(163.51m2)の減歩率は34.56%と平均より高い(両土地を一体的にみた場合減歩率は約28%)。しかし、50街区6、7は一体的に使える土地であり、3方を道路に囲まれた角地となり、接道状況はきわめて良好である。
ウ そして、280番1土地上の本件倉庫と2386番土地上の原告住所兼事務所は移転せず原位置換地の必要があった。このため、50街区1、2、8と50街区6、7が分かれて仮換地指定されたのはやむを得ない事情があった。
エ 本件仮換地指定により、原告は、本件業務地上にあるシャッター倉庫や貨車倉庫、平家倉庫を除去ないし移転しなければならないが、もともとこれらは建築基準法違反の建物や工作物であり、50街区1、2、8の空きスペースや道路向かいの51街区14ないし17の土地を業務用土地として50街区1、2、8の土地と一体的、効率的に用い得る余地も考えられ、本件仮換地指定により直ちに現在の原告の業務を継続することが困難になるとは考えがたい。
オ 本件第2工区の他の減歩率との比較やAとの比較においても、本件処分は恣意的で不合理であり、横の照応に反するという事情を何ら窺うことができない。
以上のような、原告の従前の土地に関する本件仮換地指定を彼此総合すると、原告が業務地として最も重視する50街区1、2部分は減歩率が平均より高く、倉庫置場等として狭くなり使い勝手が悪くなるという原告の心情も理解できなくはないが、仮換地51街区部分の減歩率は平均以下であり、仮換地そのものの地形や接道状況は従前の土地と比べると格段に向上しており、本件仮換地指定後でも51街区の土地を事実上50街区1、2、8の土地と一体的に用いること等により、現在の原告の業務を継続することも可能と考えられることなどの事情に照らせば、本件仮換地指定は、全体として概ね照応しており、社会通念上許容される範囲であって、法89条1項違反があると認めることはできないというべきである。
3 結論
以上のとおりであるから、本件処分は、土地区画整理法89条1項に照らし、適法なものというべきである。
したがって、原告の請求は、理由がないから棄却することとし、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 豊田建夫 裁判官 都築民枝 松村一成)