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さいたま地方裁判所 平成14年(行ウ)52号 判決 2007年2月07日

主文

1  別紙当事者目録の原告番号27,46,48ないし52,56ないし61,63,64,70ないし72の原告らの訴えをいずれも却下する。

2  被告が,平成14年9月6日付でなした,石坂産業株式会社に対する産業廃棄物処分業の変更許可処分(許可番号1120007368号)(事業の範囲 中間処分業)のうち「破砕・減容:廃プラスチック類,紙くず,繊維くず 以上3種類」の部分を取り消す。

3  原告番号1ないし26,28ないし45,47,53ないし55,62,65ないし69,73の原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

4  訴訟費用は,第1項記載の原告らと被告との間に生じた分は全部同原告らの負担とし,その余の原告らと被告との間に生じた分はこれを3分し,その1を被告の,その余を同原告らの負担とする。

事実及び理由

第1請求

被告が平成14年9月6日付でなした,石坂産業株式会社に対する産業廃棄物処分業の変更許可処分(許可番号1120007368)を取り消す。

第2事案の概要

1  事案の要旨

本件は,被告が平成14年9月6日付で石坂産業株式会社(以下「石坂産業」という。)に対してした廃棄物の処理及び清掃に関する法律(平成15年法律第93号による改正前のもの。以下特に断らない限り平成15年法律第93号による改正前の廃棄物の処理及び清掃に関する法律を「廃棄物処理法」又は「法」という。) 14条の2第1項に基づく産業廃棄物処分業変更許可処分(以下「本件変更許可」という。)について,石坂産業の設置した施設等の周辺に居住,勤務する原告らが,本件変更許可の取消しを求めている事案である。

2  基本的事実関係(当事者間に争いがないか証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)

(1)  当事者等

ア 原告らは,別紙原告目録記載の住所地に居住する者であり,各原告の住居地及び勤務地の位置は概ね別紙1ないし3記載のとおりである。

イ 石坂産業は,産業廃棄物の収集,運搬,処理業を営む株式会社であり,昭和51年に被告から産業廃棄物処分業の許可を受け,その後も変更許可及び更新許可を受けていたものであり,平成13年3月11日付で産業廃棄物処分業更新許可(以下「平成13年更新許可」ということがある。)を受け,平成14年5月15日付で平成13年更新許可について変更届を提出していたものである。

(2)  本件申請

石坂産業は,平成14年8月12日,被告に対し,関係書類及び図面を添えて産業廃棄物処分業の事業範囲の変更許可の申請をした(甲1,以下「本件申請」といい,本件申請に係る申請書を「本件申請書」という。)。

変更申請の内容は次のとおりである。

(変更前)

施設名

処理能力

許可品目

圧縮・減容施設

12t/日

廃プラスチック類

破砕施設

4.8t/日

廃プラスチック類

破砕施設

112t/日

木くず

破砕施設

320t/日

がれき類

破砕施設

320t/日

がれき類・金属くず,ガラスくず・

コンクリートくず及び陶磁器くず

(変更後)

施設名

処理能力

許可品目

破砕施設

112t/日

木くず

破砕施設

320t/日

がれき類

破砕施設

320t/日

がれき類・金属くず,ガラスくず・

コンクリートくず及び陶磁器くず

破砕施設

4.4t/日

廃プラスチック類(硬質系),繊維

くず(畳に限る)

破砕施設

3.76t/日

廃プラスチック類(軟質系)

破砕減容施設

4.8t/日

紙くず・繊維くず・廃プラスチック類

圧縮梱包施設

124.8t/日

紙くず・繊維くず・廃プラスチック類

(当事業所で破砕した物に限る)

(3)  本件変更許可

被告は,平成14年9月6日,石坂産業に対して,廃棄物処理法14条の2第1項により,以下の内容で有効期限平成18年3月10日までとする産業廃棄物処分業の事業範囲の変更許可をした(甲2,本件変更許可)。

① 事業の範囲

中間処分業

破砕: 廃プラスチック類,木くず,繊維くず(畳に限る。),金属くず,ガラスくず・コンクリートくず及び陶磁器くず(がれき類を除く。) 以上6種類

破砕・減容: 廃プラスチック類,紙くず,繊維くず 以上3種類

圧縮梱包: 廃プラスチック類(再生利用可能なものに限る。),紙くず(再生利用可能なものに限る。),繊維くず(再生利用可能なものに限る。) 以上3種類

② 事業の用に供するすべての施設(以下併せて「本件施設」ということがある。)

Ⅰ 施設等の所在地

埼玉県入間郡a町b c番d,e,f,g,h,i,j,k,l,m,n,o,p,q 以上14筆(面積8660m2)

Ⅱ 処理施設の種類及び能力等

施設の種類

処理能力

廃棄物の種類

破砕施設A

112t/日

木くず

破砕施設B

320t/日

がれき類

破砕施設C

320t/日

金属くず,ガラスくず・

コンクリートくず及びくず,

陶磁器がれき類

破砕施設D

(単品処理)

廃プラスチック類:4.4t/日

繊維くず(畳):4.6t/日

廃プラスチック類,繊維くず

(畳に限る。)

破砕施設E

3.76t/日

廃プラスチック類

破砕・減容施設

4.8t/日

紙くず,繊維くず,

廃プラスチック類

圧縮梱包施設

(単品処理)

紙くず:119.2t/日

繊維くず:128.4t/日

廃プラスチック類:104t/日

紙くず,繊維くず,廃プラスチック類

(いずれも再生利用可能なものに限る。)

Ⅲ 保管施設の種類及び能力等

産業廃棄物の種類

保管面積

保管高さ等

がれき類,金属くず,ガラスくず・

コンクリートくず及び陶磁器くず

99m2

3m

木くず

660m2

4m

木くず

12.2m2

地下ピット48m3

がれき類

800m2

4m

がれき類

7.7m2

地下ピット30m3

廃プラスチック類,紙くず,繊維くず

18m2

地下ピット54m3

廃プラスチック類,紙くず,繊維くず

(いずれも再生利用可能なものに限る。)

147m2

3m

③ 許可の条件

ア 処分及び保管は,上記②Ⅱ及びⅢに掲げる施設で行うこと。

イ 紙くず,繊維くず及び廃プラスチック類の圧縮梱包は単品処理に限る。

ウ 圧縮梱包する廃プラスチック類については,当事業場で破砕処理したものに限る。

エ 廃プラスチック類及び繊維くずの破砕は単品処理に限る。

オ 繊維くず(畳)の破砕物は,処理後,セメント原料とすること。

(4)  本訴提起

原告らは,平成14年12月2日,本件訴えを提起した。

(5)  本訴提起後の事情

石坂産業は,平成18年1月23日,産業廃棄物処分業の更新許可申請を行い,被告は同年3月11日に更新を許可した(乙27,以下「新更新許可」という。なお,石坂産業の処理施設に変更はない。)

3  本件変更許可(平成14年9月6日)当時の関係法令及び行政通知

(1)  産業廃棄物処分業の許可に関する定め

ア 廃棄物処理法

14条の2

1 産業廃棄物収集運搬業者又は産業廃棄物処分業者は,その産業廃棄物の収集若しくは運搬又は処分の事業の範囲を変更しようとするときは,都道府県知事の許可を受けなければならない。ただし,その変更が事業の一部の廃止であるときは,この限りでない。

2 前条第3項及び第7項の規定は,収集又は運搬の事業の範囲の変更に係る前項の許可について,同条第6項及び第7項の規定は,処分の事業の範囲の変更に係る前項の許可について準用する

14条

3 都道府県知事は,第1項の許可の申請が次の各号に適合していると認めるときでなければ,同項の許可をしてはならない。

一 その事業の用に供する施設及び申請者の能力がその事業を的確に,かつ,継続して行うに足りるものとして環境省令で定める基準に適合するものであること。

二 申請者が次のいずれにも該当しないこと。

イ 第7条第3項第4号イからホまでのいずれかに該当する者

6 都道府県知事は,第4項の許可の申請が次の各号に適合していると認めるときでなければ,同項の許可をしてはならない。

一 その事業の用に供する施設及び申請者の能力がその事業を的確に,かつ,継続して行うに足りるものとして環境省令で定める基準に適合するものであること。

二 申請者が第3項第2号イからヘまでのいずれにも該当しないこと。

7 第1項又は第4項の許可には,生活環境の保全上必要な条件を付することができる。

7条

3 市町村長は,第一項の許可の申請が次の各号に適合していると認めるときでなければ,同項の許可をしてはならない。

四 申請者が次のいずれにも該当しないこと。

ホ その業務に関し不正又は不誠実な行為をするおそれがあると認めるに足りる相当の理由がある者

イ 廃棄物の処理及び清掃に関する法律施行規則(平成15年環境省令第2号及び第4号による改正前のもの。以下特に断らない限り平成15年環境省令第2号及び第4号による改正前の廃棄物の処理及び清掃に関する法律施行規則を「廃棄物処理法施行規則」又は「施行規則」という。)

10条の9

1 法第14条の2第1項の規定により産業廃棄物収集運搬業又は産業廃棄物処分業の事業の範囲の変更の許可を受けようとする者は,次に掲げる事項を記載した様式第10号による申請書を都道府県知事に提出しなければならない。

五 変更に係る事業の用に供する施設の種類,数量,設置場所,設置年月日及び処理能力

3 第10条の4第2項から第4項までの規定は,産業廃棄物処分業の事業の範囲の変更の許可の申請について準用する。この場合において,同条第2項第1号中「事業計画」とあるのは「変更後の事業計画」と,同項第2号,第6号及び第7号中「事業」とあるのは「変更に係る事業」と,同条第4項中「許可の更新を申請する者」とあるのは「申請者」と,それぞれ読み替えるものとする。

10条の4

2 前項の申請書には,次に掲げる書類及び図面を添付するものとする。

二 事業の用に供する施設(保管の場所を含む。)の構造を明らかにする平面図,立面図,断面図,構造図及び設計計算書並びに当該施設の付近の見取図並びに最終処分場にあっては,周囲の地形,地質及び地下水の状況を明らかにする書類及び図面(当該施設が法第15条第1項の許可を受けた施設である場合を除く。)

(2)  産業廃棄物処理施設に関する定め

ア 廃棄物処理法

15条

1 産業廃棄物処理施設(廃プラスチック類処理施設,産業廃棄物の最終処分場その他の産業廃棄物の処理施設で政令で定めるものをいう。以下同じ。)を設置しようとする者は,当該産業廃棄物処理施設を設置しようとする地を管轄する都道府県知事の許可を受けなければならない。

3 前項の申請書には,環境省令で定めるところにより,当該産業廃棄物処理施設を設置することが周辺地域の生活環境に及ぼす影響についての調査の結果を記載した書類を添付しなければならない。

15条の2

都道府県知事は,前条第1項の許可の申請が次の各号のいずれにも適合していると認めるときでなければ,同項の許可をしてはならない。

一 その産業廃棄物処理施設の設置に関する計画が環境省令で定める技術上の基準に適合していること。

イ 廃棄物の処理及び清掃に関する法律施行令(平成14年政令第27号及び第313号による改正前のもの。以下特に断らない限り平成14年政令第27号及び第313号による改正前の廃棄物の処理及び清掃に関する法律施行令を「廃棄物処理法施行令」又は「施行令」という。)

7条

1 法第15条第1項の政令で定める産業廃棄物の処理施設は,次のとおりとする。

七 廃プラスチック類の破砕施設であって,一日当たりの処理能力が5トンを超えるもの

ウ 廃棄物処理法施行規則

11条の2

法第15条第3項の書類には,次に掲げる事項を記載しなければならない。

一 設置しようとする産業廃棄物処理施設の種類及び規模並びに処理する産業廃棄物の種類を勘案し,当該産業廃棄物処理施設を設置することに伴い生ずる大気汚染,水質汚濁,騒音,振動又は悪臭に係る事項のうち,周辺地域の生活環境に影響を及ぼすおそれがあるものとして調査を行ったもの(以下略)

12条の2

9 令第7条第7号及び第8号の二に掲げる施設の技術上の基準は,破砕によって生ずる粉じんの周囲への飛散を防止するために必要な集じん器,散水装置等が設けられていることとする。

(3)  通知

産業廃棄物処理業及び特別管理産業廃棄物処理業並びに産業廃棄物処理施設の許可事務の取扱について(通知)(平成12年9月29日衛産第79号。以下「本件通知」という。)

第1産業廃棄物処理業及び特別管理作業廃棄物処理業の許可について

5 欠格要件

(5) おそれ条項

廃棄物処理法14条3項2号イ及び同条6項2号並びに同法14条の4第3項2号及び 第6項2号による同法7条3項4号ホの規定(以下「おそれ条項」という。)は,同法7条3項4号イからニまで及び14条3項2号ロからヘまでのいずれにも該当しないが,申請者の資質及び社会的信用の面から業務の適切な運営を期待できないことが明らかである場合には,許可をしないことができること。具体的には,次の場合がこれに該当するものとして考えられること。

①  過去において,繰り返し許可の取消処分を受けている場合

②  法,浄化槽法,令4条の5各号に掲げる法令若しくはこれらの法令に基づく処分に違反し,又は刑法204条,206条,208条,208条の2,222条若しくは247条の罪若しくは暴力行為等処罰に関する法律の罪を犯し,公訴を提起され,又は逮捕,勾留その他の強制の処分を受けている場合

③  ②に掲げる法令に係る違反を繰り返しており,行政庁の指導等が累積している場合

④  その他上記に掲げる場合と同程度以上に的確な業の遂行を期待し得ないと認められる場合

4 主たる争点

(1)  原告らの原告適格の有無(争点1)

(2)  平成18年3月11日付産業廃棄物処分業更新許可(新更新許可)に伴い,本件変更許可の取消しを求める訴えの利益が消滅したかどうか(争点2)

(3)  破砕施設Aの粒度調整機(以下「粒調機」という。)が無許可施設であるか否か及び破砕施設Aの粒調機に関する審査脱漏の有無(争点3)

(4)  破砕施設Bの破砕機に関する審査脱漏の有無及び本件申請書に記載された破砕施設Bの処理能力に偽りがあるか否か(争点4)

(5)  破砕施設Cについての違法事由(破砕施設Cが無許可施設であるか否か,破砕施設Cの個別破砕機に関する審査脱漏の有無,本件申請書に記載された破砕施設Cの処理能力に偽りがあるか否か,破砕施設Cが廃プラスチック類の破砕施設の許可を取得していない無許可施設であるか否か)(争点5)

(6)  破砕・減容施設が無許可施設であるか否か及び本件申請書に記載された破砕・減容施設の処理能力に偽りがあるか否か(争点6)

(7)  破砕施設D,Eが無許可施設であるか否か及び本件申請書に記載された破砕施設D,Eの処理能力に偽りがあるか否か(争点7)

(8)  石坂産業が「その業務に関し不正又は不誠実な行為をするおそれがあると認めるに足りる相当の理由がある者」に該当するか否か(争点8)

5 各争点に対する当事者の主張の概要

(1)  争点1(原告らの原告適格の有無)について

(原告らの主張)

ア 廃棄物処理法の趣旨,目的

廃棄物処理法14条の趣旨,目的は,「生活環境の保全及び公衆衛生の向上」という一般公益を図ることにとどまらず,産業廃棄物の排出の抑制を通じて,施設の周辺に居住する住民の健康の維持保全をも含むものと解すべきである。また,同項が許可処分を通じて保護しようとしている利益の内容,性質についても,一般的な公益の増進に加え,施設の周辺に居住し,施設自体あるいは施設の事故がもたらす災害や悪影響により直接的かつ重大な被害を受けることが予想される周辺住民の生命,身体,精神及び生活の安全等に関する個々人の個別的利益も含むものであると解すべきである。

イ 石坂産業の施設が周辺住民の健康や生活環境に影響を及ぼす範囲

最高裁平成17年12月7日判決(小田急高架化事業認可取消訴訟)は,「都市計画事業の事業地の周辺に居住する住民のうち当該事業が実施されることにより騒音,振動等による健康又は生活環境に係る著しい被害を直接的に受けるおそれのある者は,当該事業の認可の取消しを求めるにつき法律上の利益を有する者として,その取消訴訟における原告適格を有するものといわなければならない。」とし,「東京都環境影響評価条例2条5号の規定する関係地域(事業者が対象事業を実施しようとする地域及びその周辺地域で当該対象事業の実施が環境に著しい影響を及ぼすおそれがある地域として,当該対象事業に係る関係地域として定められたもの)が,対象事業を実施しようとする地域及びその周辺地域で当該対象事業の実施が環境に著しい影響を及ぼすおそれがある地域として被上告参加人が定めるものであることを考慮すれば,上記の上告人らについては,本件鉄道事業が実施されることにより騒音,振動等による健康又は生活環境に係る著しい被害を直接的に受けるおそれのある者に当たると認められるから,本件鉄道事業認可の取消しを求める原告適格を有するものと解するのが相当である。」と判示している。

そして,廃棄物処理法15条3項は,廃棄物処理施設設置許可申請において,当該産業廃棄物処理施設を設置することが周辺地域の生活環境影響に及ぼす影響についての調査結果を記載した書類を添付しなければならないと定め,生活環境へ影響を及ぼす範囲を記載することとしている。そして,この「生活環境影響調査指針」(甲66)によれば,調査事項は廃棄物処理施設の稼働及び当該施設に係る廃棄物の搬出入及び保管に伴って生ずる大気汚染,水質汚濁,騒音,振動,悪臭とされ,調査対象地域を設定することが求められている。

石坂産業は,平成13年5月に焼却炉の設置を計画した際に調査地域を事業所周辺半径約3km程度として「生活環境影響調査」を実施した(甲67)。また,平成17年4月には,破砕施設の移設及び処理能力の変更に伴う生活環境影響調査計画書を作成しているところ,計画段階であるから調査対象地域は明確でないが,大気汚染調査につき,施設操業による粉じんと廃棄物運搬車両の走行による窒素酸化物・浮遊粒子状物質(SPM)等の項目を調査するとして,半径約2km範囲の地図が添付されている(甲68)。

もっとも,これらは,当の業者が決めた範囲にすぎないところ,石坂産業の施設を発生源とする粉じんの飛散は広範囲に及び,原告らは,すべての者が石坂産業の施設から7km以内に居住し,後記エのとおり本件施設の操業に対して不安を覚えているのであるから,石坂産業の施設が生活環境へ影響を及ぼす範囲は半径10kmとすべきである。

ウ 石坂産業の破砕施設を発生源とする粉じんが周辺に飛散していること

本件施設では,がれき類,木くず,廃プラスチック類,金属くずと,あらゆる種類の廃棄物を大量に破砕するが,それらの廃棄物の破砕,選別,堆積保管等全行程において,大量に粉じんが発生し飛散している。粉じんには,目視で確認できるある程度粒子の大きい粉じんと,目視では確認できない微細な粉じんがあるところ,後者は浮遊粒子状物質(SPM)と呼ばれ,大気中に浮遊し,肺の奥まで吸収され,じん肺,気管支炎,肺水腫,喘息等様々な疾患の原因となる。また,廃棄物から発生する粉じんには,重金属等廃棄物中に含まれる様々な有害物質が含まれる。

そして,石坂産業の破砕施設において,現に,粉じんが発生し,これが石坂産業の施設の周辺に飛散していることは,辛教授の石坂産業周辺における鉛の検出量の調査結果から明らかである(甲6ないし8)。

これに対し,被告は,石坂産業では粉じんの発生を防止するため,散水装置や屋根を設置していると主張するが,石坂産業では,屋外において大量の粉石及び廃棄物を保管し,また,ベルトコンベアも屋外に設置しているのであって,粉じんの予防は不十分である。

エ 石坂産業の施設の操業によって原告らが受けている被害

そして,原告らは,石坂産業の施設の周辺に居住しているところ(甲14),原告らの具体的な被害状況は次のとおりである。

① 原告甲は,石坂産業の施設から70mの位置にある茶畑において茶を栽培しているところ,茶の葉っぱは粉じんにより真っ黒であり,茶畑で作業をすると,目が痛くなったり,鼻が詰まったり,気分が悪くなったりするため,マスクやゴーグルをしなければ作業をすることができない。また,最近,自宅周辺では,若くして亡くなる人が多い(原告甲,甲26,29,30)。

② 原告乙は,石坂産業の施設から2.3kmの距離にある自宅に居住し,また,石坂産業の施設の近くに畑を借りて作物を作っているが,騒音や粉じんがひどく,痰がからむ,花粉症になったなどの健康被害を受けている(原告乙,甲27,32)。

オ 小括

以上より,廃棄物処理法14条の2は,石坂産業のような業者が産業廃棄物の処分業を行おうとする場合,それを都道府県知事の許可にかからしめて,その許可の判断を通じて,本件における原告らのような立場にある者の生命,身体,精神及び生活の安全等を守ることを趣旨,目的とするものであって,現に,石坂産業の施設の周辺に居住する原告らは,いずれも,健康や生活環境状の精神的被害を受けているのであるから,原告らが,全員,本件変更許可の取消しを原告適格を有することは明らかである。

(被告の主張)

ア 廃棄物処理法の趣旨

(ア) 行政事件訴訟法9条にいう当該処分の取消しを求めるにつき「法律上の利益」を有する者とは,「当該処分により自己の権利若しくは法律上保護された利益を侵害され又は必然的に侵害されるおそれがある者をいうのであり,当該処分を定めた行政法規が不特定多数者の具体的利益を専ら一般的公益の中に吸収解消させるにとどめず,それが帰属する個々人の個別的利益としてもこれを保護すべきものとする趣旨を含むと解される場合には,かかる利益も右にいう法律上保護された利益に当たり,当該処分によりこれを侵害され又は必然的に侵害されるおそれのある者は,当該処分の取消訴訟における原告適格を有する者というべきである。」。そして,当該行政法規が,不特定多数者の具体的利益をそれが帰属する個々人の個別的利益としても保護すべきものとする趣旨を含むか否かは,当該行政法規の趣旨,目的,当該行政法規が当該処分を通して保護しようとしている利益の内容,性質等を考慮して判断すべきである(最高裁第三小法廷平成4年9月22日判決参照)。

(イ) しかるに,廃棄物処理法の目的は,廃棄物処理法1条から明らかなとおり,廃棄物の排出を抑制するとともに,廃棄物の適正な分別,保管,収集,運搬,再生,処分等の処理をし,生活環境を清潔にすることにより,生活環境の保全及び公衆衛生の向上を図ることである。そうすると,廃棄物処理法は,不特定多数者の具体的利益を専ら生活環境の保全や公衆衛生の向上といった一般的公益の中に吸収解消させる趣旨と解すべきである。

そして,廃棄物処理法は,この目的のもとに産業廃棄物処理業の営業を一般的に禁止し,一定の要件を具備した申請者に対し,その禁止を解除し,その営業を適法に行う事由を回復せしめるものである。

他方,産業廃棄物処分業の許可は,許可を受けた業者の産業廃棄物処理施設における産業廃棄物の処分によって公害等の被害が生じた場合に,当該処理施設の周辺住民に対し,この被害を受忍する義務を課すものではない。

要するに,産業廃棄物処分業の許可は,産業廃棄物処理施設の周辺住民に対し,何らの権利義務の変動をもたらさないものである。

(ウ) したがって,原告らは本件変更許可の取消しを求める原告適格を有しない。

イ 石坂産業の破砕施設による原告らへの影響の有無

粉じんは,降下ばいじんと,浮遊粒子状物質とに区別される。

(ア) 降下ばいじん

a 降下ばいじんの人体への影響

降下ばいじんとは,物の破砕や選別,堆積に伴って飛散する大気中のすす,粉じん等の粒子状物質のうち比較的粒が大きく沈降しやすい粒子」であるが(乙17),降下ばいじんは,人の健康や生活環境の保全に影響を及ぼすとはいえない。

すなわち,国は,環境基本法16条1項の「人の健康を保護し,及び生活環境を保全する上で維持されることが望ましい基準」として,各種の基準を定めているが,そのうち,大気汚染に係る環境基準は,二酸化硫黄,一酸化炭素,浮遊粒子状物質,二酸化窒素及び光化学オキシダントの5物質についてのみ定められており,降下ばいじんについては定められていない。このように,降下ばいじんについて「人の健康を保護し,及び生活環境を保全する上で維持されることが望ましい基準」が定められていないのは,降下ばいじんは重力や雨等によって自然降下するため人の呼吸器に影響を及ぼすことがほとんどないからであると推測される。したがって,仮に石坂産業の施設の周辺に降下ばいじんが飛散しているとしても,その降下ばいじんは,人の健康や生活環境の保全に影響を及ぼすものではない。

なお,原告らは,コンクリートは強アルカリ性であるから,その破砕によって目等の粘膜に炎症を起こす懸念があると主張するが,コンクリートの粉じんが原告らの主張する症状をもたらすことがないことは,さいたま地方裁判所川越支部平成15年10月30日決定(産業廃棄物焼却炉等操業差止仮処分申立事件,乙13)の理由に記載されているとおりである。

b 原告らが降下ばいじんの影響範囲に居住していないこと

仮に降下ばいじんが人の健康や生活環境の保全に影響を及ぼすものであり,かつ,石坂産業がその発生源であったとしても,原告らは,降下ばいじんの影響範囲に居住していない。すなわち,甲8によれば,石坂産業の80m以遠では,石坂産業からの距離と鉛降下量とは相関関係にないのであるから,仮に石坂産業の破砕施設が降下ばいじんの発生源であるとしても,石坂産業の破砕施設の80m以遠では,降下ばいじんの影響がないというべきである。しかるに,原告らは,石坂産業の破砕施設から少なくとも300m以上離れた場所に居住しているのであるから(甲14),石坂産業の破砕施設で発生する降下ばいじんによって影響を受けるとはいえない。

(イ) 浮遊粒子状物質

浮遊粒子状物質は,粒径が小さいので沈降速度が小さいため,気道又は肺胞に沈着して呼吸器に影響を及ぼすおそれがある(乙17)。しかしながら,石坂産業は,がれき類及び木くずの破砕施設をすべて屋内に設置している上,バグフィルター,散水設備及び外周柵を設置して粉じんの飛散を防止する措置を講じている。そして,平成14年6月現在,石坂産業の近傍における浮遊粒子状物質の測定値は,環境基準値を下回っているのであるから(乙14),石坂産業の破砕施設において浮遊粒子状物質が発生しているとしても,原告らの健康や生活環境の保全に影響を及ぼすものではない。

ウ したがって,仮に廃棄物処理法が周辺住民の具体的利益を保護するものであるとしても,石坂産業の破砕施設は原告らの健康や生活環境の保全に影響を及ぼすものではないから,原告らは原告適格を有さない。

(2)  争点2(新更新許可に伴い,本件変更許可の取消しを求める訴えの利益が消滅したかどうか)について

(被告の主張)

産業廃棄物処分業の許可は,更新を受けなければ5年で効力を失うこととされている。ところで,被告の石坂産業に対する本件変更許可の有効期限は平成18年3月10日までであったところ,石坂産業は平成18年1月23日に改めて更新許可申請を行い,被告は平成18年3月11日付で更新許可をした(乙27,新更新許可)。これにより,原告らが取消しを求める対象である本件変更許可の効力は消滅した。よって,本件変更許可の取消しを求める訴えの利益は存しなくなったから,訴えの却下を求める。

(原告らの主張)

本件変更許可の効力は,石坂産業が平成18年3月11日付新更新許可を受けた後も,引き続き効力を有するものであり,本件変更許可が違法であるならば,本件変更許可を前提とする新更新許可もその違法を引き継ぎ,同様に違法なものとなる。したがって,新更新許可がなされたとしても,本件変更許可の取消しを求める訴えの利益は消滅しない。

(3)  争点3(破砕施設Aの粒調機が無許可施設であるか否か及び破砕施設Aの粒調機に関する審査脱漏の有無)について

(原告らの主張)

ア 石坂産業は,平成13年3月8日付で,被告に対し,破砕施設Aにおいて,粒調機を追加することなどを内容とする産業廃棄物処理業変更届出書を提出した(甲36)。この粒調機が破砕機であることは,甲37により明らかである。ところで,破砕施設Aは,1日当たりの処理能力が5tを超える木くずの破砕施設であるところ,1日当たりの処理能力が5tを超える木くずの破砕施設は,平成13年2月1日以降,「産業廃棄物処理施設」に該当することとなり,その設置・変更には許可を要することとなった(設置につき,法15条1項施行令7条8の2号。変更につき,法15条の2の4,15条2項5号,6号,施行規則12条の8第3号ヘ。ただし,平成13年2月1日以前に存在した施設は,届出を行えば1日当たりの処理能力が5tを超える木くずの破砕施設であっても,許可を受けたものとみなされる。)。そして,上記変更届は,変更後10日以内に提出することと規定されている(施行規則10条の10第2項)が,上記変更届には,届出が遅延したものであるとの理由書ないしそれに類する書類の添付はない。そうすると,粒調機の設置は,石坂産業が届出をした3月8日の10日前以内になされたものというべきである。

したがって,破砕施設Aにおける粒調機の設置には許可が必要であったにもかかわらず,石坂産業はその許可を得ていないこととなる。

イ 仮に,破砕施設Aの粒調機に関する上記変更が平成13年2月1日より以前であったとしても,本件申請書からは,この粒調機が破砕機であるとはわからないし,その内容を明らかにする構造の図面,設計書もついていないので,被告による事業の用に供する施設としての基準に適合しているか否かの審査はされていないばかりか,被告担当者にはそれに対する審査の意思すらなかったという審査過程の重大な瑕疵がある。

(ア) すなわち,本件変更許可は,廃棄物処理法14条の2に基づくものである。都道府県知事は,「その事業の用に供する施設…(中略)…がその事業を的確に,かつ,継続して行うに足りるものとして環境省令で定める基準に適合するもの」でなければ,法14条の2の許可をしてはならない(法14条の2,14条6項1号)。そして,環境省令で定める基準として,「その処分を業として行おうとする産業廃棄物の種類に応じ,当該産業廃棄物の処分に適する処理施設を有すること」が挙げられている(施行規則10条の5第1号イ(6))。

上記法令の文言からすると,被告が本件変更許可をなすには,その前提として,少なくとも,石坂産業が有する処理施設がどんなものか把握していなければならないことになる。また,上記法令の趣旨は,処理の対象となる廃棄物が,実際には,単一性状のものに限らず,混合ないし合成された種々の性状を有し,周辺環境に有害なものも含まれる危険性があること,また,搬入された廃棄物自体では有害でなくともそれが処理される過程で有害物質を周辺環境にまき散らす危険性があることなどにかんがみ,廃棄物保管・処理の適正を図ることにより周辺環境の保全を図ることにあると解されるから,その観点からも,廃棄物処理業者が有する処理施設の具体的内容を把握できるだけの情報が申告されていなければならない。

ところが,粒調機の追加を届け出た変更届出書(甲36)及び本件申請書(甲1)には,施設全体を示す概略の平面図において,「粒調機」と記載があるのみで,この粒調機が破砕機であること,メーカー,型番のいずれも記載されていない。この記載のみで,この破砕機が「処分に適する処理施設」であるか否かを審査することは不可能である。

(イ) 被告の審査意思の欠如及び審査の実体

被告は,法の規定する,施設の許可要件「その処分に適する施設」の具体的な基準として,「産業廃棄物処理施設等技術指針(破砕・圧縮施設等編)」(甲38)を用いていた。ここでは,それぞれの破砕機について,構造耐力上安全であること等の基準がある。そして,破砕施設等の機能については,所定量の産業廃棄物を目的に適した寸法に破砕又は圧縮できるもので耐久性に優れた構造並びに適正な能力を有するものでなければならないとし,さらに,騒音・振動防止対策についても細かく規定している。加えて,個々の破砕機についての指針もあり,この指針に合致する機種選定をした上で,施設全体についての指針に合致するよう求めている。この指針に合致しているか否かを判断するためには,当然,各破砕機の構造・設計計算書・騒音発生に関する資料等を用いる必要がある。

ところが,本件変更許可の審査において,被告が上記指針にのっとった審査をした形跡は見当たらない。そうすると被告は,上記指針にのっとって審査する意思が欠けていたといわざるを得ない。

(ウ) まとめ

以上より,仮に,本件変更が平成13年2月1日より以前であったとしても,その審査過程には,本来申告しなければならない施設を申告しないこと及び個別破砕機に対する審査意思の欠如による審査の脱漏という重大な瑕疵があるから,本件変更許可は取り消されるべきである。

(被告の主張)

ア 本件変更許可は,法14条の2第1項に基づき,平成13年更新許可の内容のうち事業範囲及び事業の用に供する施設に係る変更を許可したものである。そして,同条2項は,産業廃棄物処分業許可の要件を規定する14条6項を準用しているが,施行規則10条の9第1項5号により,申請書には,「変更に係る事業の用に供する施設」についてのみ記載することとされていることから,事業の用に供する施設についての審査は変更申請に係る施設についてのみ行うこととなる。

そして,破砕施設A,B,Cは変更申請の対象となっていないので,原告らのこれらの施設についての違法事由の主張は,主張自体失当である。

イ 粒調機は,ハンマークラッシャで破砕された木くずについて更に粉状の処理するときにのみ使用する施設であって破砕施設Aの一部であることからしても,別個の許可は不要である。

また,破砕施設Aは木くずの破砕施設であるところ,平成13年1月31日以前に設置されている木くずの破砕施設は日量5tを超える能力であっても許可が必要とされていなかった。そして廃棄物処理法施行令を改正する施行令(平成12年政令第493号)2条により,日量5tを超える能力を有する既存の木くず破砕施設は届出をすることで許可を有するものとみなされることとなった。そして,石坂産業は,被告に対し,破砕施設Aについて産業廃棄物処理施設使用届出書を提出しており,これにより破砕施設Aはみなし許可施設となった。

したがって,原告らの主張は失当である。

ウ 破砕施設Aの粒調機に関し,審査の脱漏があるとの原告らの主張は争う。

(4)  争点4(破砕施設Bの破砕機に関する審査脱漏の有無及び本件申請書に記載された破砕施設Bの処理能力に偽りがあるか否か)について

(原告らの主張)

ア 本件変更許可は,廃棄物処理法14条の2に基づくものであるところ,都道府県知事は,「その事業の用に供する施設…(中略)…がその事業を的確に,かつ,継続して行うに足りるものとして環境省令で定める基準に適合するもの」でなければ,法14条の2の許可をしてはならない(法14条の2第2項,14条6項1号)。そして,環境省令で定める基準として,「その処分を業として行おうとする産業廃棄物の種類に応じ,当該産業廃棄物の処分に適する処理施設を有すること」が挙げられている(施行規則10条の5第1号イ(6))。

そうすると,被告が本件変更許可をなすには,その前提として,被告は,少なくとも,石坂産業が有する処理施設がどんなものか把握していなければならないことになる。そして,上記法令の趣旨は,処理の対象となる廃棄物が,実際には,単一性状のものに限らず,混合ないし合成された種々の性状を有し,周辺環境に有害なものも含まれる危険性があること,また,搬入された廃棄物自体は有害でなくともそれが処理される過程で有害物質を周辺環境にまき散らす危険性があることなどにかんがみ,廃棄物保管・処理の適正を図ることにより周辺環境の保全を図ることにあると解されるから,その観点からも,廃棄物処理業者が有する処理施設の具体的内容を把握できるだけの情報が申告されていなければならない。

しかしながら,本件申請書の「処理施設番号5」の部分(甲1・245頁)には,「事業の用に供する施設」のうち,がれき類の破砕施設として,中山鉄工所製インパクトクラッシャ(型式NCF-1A)が記載され,その処理能力,処理方法,環境保全対策等が記載されている。ところが,本件申請書添付の図面(甲1・246,250頁)には,インパクトクラッシャのほかに,ジョークラッシャ,スーパーサンダーという記載があり,実際にも,石坂産業の敷地内にはがれき類の破砕施設としてこれらの機械が存在しているが,本件申請書にはこれらの機械の仕様,処理能力,処理方法,環境保全対策等の記載がない。つまり,ジョークラッシャ及びスーパーサンダーについては,本件申請書から,どのくらいの処理能力があり,どのくらいの騒音などを発するのか,どのような環境保全対策を採るのかなどの事項を把握することができない。

そうすると,本件では,本来申告すべきジョークラッシャ及びスーパーサンダーの2つの破砕機について,申告漏れがあり,かつ,その申告漏れは,廃棄物処分業を許可するかどうかを左右する重大な要件(法14条の2第2項,14条6項1号)に直接関係するものであり,かつ,被告にはそれを審査する意思が欠けていたから,その審査手続の瑕疵は,重大であり,本件変更許可は取り消されるべきである。

イ 破砕施設Bには,前述のとおり,3機の破砕機が設置されているところ,本件申請書には,インパクトクラッシャの処理能力をもって破砕施設B全体の処理能力の数値が記載されている。しかしながら,下記のとおり,破砕施設Bの1次破砕機であるジョークラッシャによって,インパクトクラッシャへ分配する必要のない粒度40mm以下の産物が,相当程度発生するのであるから,破砕施設Bの処理能力をインパクトクラッシャの処理能力をもって決することは誤りである。よって,本件申請書に記載されたの破砕施設Bの処理能力は実際よりも過小に申告された虚偽のものであり,本件変更許可はこれを看過してなされたものであって取り消されるべきである。

ウ 破砕施設Bの処理能力

(ア) 1次破砕機であるジョークラッシャの破砕後処理物の粒度分布は(甲41,42)のとおりであり,これによれば,1次破砕機であるジョークラッシャの破砕物は,40mm超が半分程度発生してインパクトクラッシャへ分配され(別紙4参照),40mm以下が半分程度発生し,スーパーサンダー又はそのまま製品へと,それぞれ分配され,その結果,RC-40(40mm以下の砕石製品),RC-10(10mm以下の砕石製品)がそれぞれ発生する。

ところで,甲42は,中山鉄工所が示したジョークラッシャ(NCF3018)の破砕産物(破砕処理後に生じた処理物)の粒度分布曲線(粒子を粒径の小さいものから大きいものまで順に並べた場合の累積度数百分率曲線)である。

そして,前述のとおり,ある出口間隙サイズの設定で破砕した場合,出口間隙サイズよりも小さい粒度の破砕産物は,すべての破砕産物の大体,60~70%を占めることが経験上明らかにされているのだから,複数の粒度分布曲線のうち,出口設定サイズと同じ「ふるい目」を通過する百分率(出口設定サイズよりも小さい粒度の破砕産物が占める割合)が60~70%となる曲線を見るべきこととなる。

そうすると,例えば,出口間隙を50mmにセットしたときの破砕産物のうち,40mm以下の粒度の破砕産物は46%を占めることになる。同様に,出口設定を40mmとすると62%,60mmとすると34%,70mmとすると20%が40mm以下の粒度の破砕産物となる。

以上のように,破砕施設Bで1次破砕機ジョークラッシャの破砕産物のうち,インパクトクラッシャへ分配する必要のない40mm以下の粒度の産物が相当程度発生するものであり,1次破砕機ジョークラッシャの処理能力は400~720t/日(甲42,43),インパクトクラッシャの処理能力は240~560t/日(甲43),スーパーサンダーの処理能力は240~480t/日(甲44)とされていることからすると,破砕施設Bの処理能力は,石坂産業が自らパンフレット(甲45)で「がれき類破砕施設の処理能力」として示している,640t/日の処理能力を十分に有すると考えられる。

(イ) RC-40(40mm以下の砕石製品),RC-10(10mm以下の砕石製品)が同量程度発生していることは,実際の現地のRC-10,RC-40の堆積の量や,保管場面積からも裏付けられる(甲46・⑨,⑫の写真参照。)。すなわち,同写真⑫では,写真左側の砕石の方が荒く,写真右側の砕石の方が細かいことがわかる。石坂産業の施設において,これらの製品は,がれき類の破砕からしか生じ得ず,しかも,それはRC-40とRC-10とされていることからすると(甲45「処理能力」廃コンクリート,リサイクルプラントの項参照),この2つの山がそれぞれRC-40とRC-10に該当することは明らかである。

エ 以上からインパクトクラッシャへ分配される破砕物は,ジョークラッシャの処理量の半分程度であることが明らかである。そうすると,施設全体の処理能力をインパクトクラッシャの処理能力とする石坂産業の申告は過小であり,実際の施設全体の処理能力の半分程度の処理能力の申告となっていることになる。

そして,有害物質の発生・拡散量は,その処理する廃棄物の量に比例するから,産業廃棄物処理施設の処理能力は周辺住民である原告らの生命・身体・財産等の権利に重大な影響を及ぼす要素である。

そうすると,申請した処理能力に偽りがあり,これを許可権者が見逃して許可をなした場合,当該審査手続には重大な瑕疵があり,そのような重大な瑕疵のある手続によってなされた許可処分は取り消されるべきである。

なお,被告は,インパクトクラッシャの処理能力のみをもって破砕施設B全体の処理能力となると主張する。確かに,すべての処理物がジョークラッシャ,インパクトクラッシャ,スーパーサンダーに直列に通る場合に限ってはインパクトクラッシャの処理能力が破砕施設B全体の処理能力となり得る。しかし,1次破砕機であるジョークラッシャで破砕された処理物は大小様々な粒度となり,それぞれに適した2次破砕機へ分配されるのであるから,すべての処理物が直列に通ることは考え難い。

(被告の主張)

ア 産業廃棄物処分業の事業範囲の変更許可の申請は,施行規則10条の9の規定により,変更に係る事業の用に供する施設についてのみ変更許可申請書に記載し,書類及び図面を添付することとされていることは前記のとおりであり,破砕施設Bは本件変更許可に当たり審査対象となっていないから,破砕施設Bについて審査脱漏があるとの原告らの主張は争う。

なお,破砕施設B全体の処理能力を決定するのはインパクトクラッシャであるところ,インパクトクラッシャについては,本件申請書に処理能力,処理方法,環境保全対策等が記載されているし,また,従たる施設であるジョークラッシャやスーパーサンダーの位置は,本件申請書の添付図面等に記載されている。

イ 破砕施設Bの処理能力について

(ア) 処理能力の定義

産業廃棄物処理施設設置許可の必要性の有無の判断要素となる処理能力とは,理論上,最大限可能であろうと仮定される処理能力ではなく,「その施設が標準運転時間に処理できる廃棄物の量をもって表すもので,いわゆる施設の公称能力である。」(昭和46年10月25日付環整第45号,乙1)とされている。また,「廃棄物の処理及び清掃に関する法律の疑義について」(昭和52年11月5日付環産59号,乙11)では,「当該施設が1日24時間稼働の場合にあっては,24時間の定格標準能力を意味する。それ以外の場合は,実稼働時間の定格標準能力を意味する。ただし,実稼働時間が1日当たり8時間に達しないときは,稼働時間を8時間とした場合の定格標準能力とする。」としており,公称能力と定格標準能力は同義であると解される。このように,処理能力とは,定格標準能力つまり,機器を適正に動作させるため,一定条件に基づき,メーカーとして保証できる能力に基づき,中心となる施設の処理能力でもって,その施設の処理能力を決定するものである。

(イ) 破砕施設Bの処理能力はインパクトクラッシャの処理能力を基準とすべきこと

石坂産業が引取先予定事業者(排出事業者)から主として受け入れる廃棄物は,建物等の解体作業により排出される50~60cm程度の不均一の大きさのがれき類である。石坂産業はその受け入れた廃棄物を再生砕石であるRC-40の型式に破砕し,路盤材等として売却する計画で,そのために本件施設を設置し,更新許可の申請をしたものである。

そして,破砕施設Bにおける一般的な工程は,別紙4のとおりである。すなわち,まず,がれき類がグリズリフィーダに投入されると,そのうち粒径300mmを超えるものはジョークラッシャで破砕され,ジョークラッシャで破砕された破砕物のうち粒径40mmを超えるものは,続いてインパクトクラッシャで粒径40mm以下に破砕され,この時点で売却可能な再生砕石となる。

なお,粒径10mm以下に破砕する必要がある場合には補助的にスーパーサンダーで破砕する。

また,別紙4のうち破線の矢印のような工程も考えられるが,それは投入したがれき類の中に,たまたま各施設で破砕する必要のない小さながれき類が含まれている場合に発生する,特殊な工程にすぎない。

すなわち,石坂産業の破砕施設Bにおいて,ジョークラッシャはいわゆる粗破砕をする施設であり,大きながれき類をインパクトクラッシャに供給できる大きさにするための前処理施設である。インパクトクラッシャは,粗破砕されたがれき類の粒度を均一化し,リサイクル品としてのRC-40に使用可能な粒度とするための主要な破砕施設である。スーパーサンダーは,インパクトクラッシャで破砕処理した物の粒度を更に細かくし,RC-10としてリサイクルすることが必要なときのみ稼働させる後処理施設である。

したがって,インパクトクラッシャが当該がれき類の処理プラントにおいて処理量を決定するという位置付けにあることから,「事業の用に供する施設」はインパクトクラッシャであり,能力算定においてもインパクトクラッシャの能力をプラント全体の能力として算定することが相当である。

(ウ) 原告らの主張に対する反論

これに対し,原告らは,破砕施設Bの処理能力はジョークラッシャ,インパクトクラッシャ及びスーパーサンダーの3施設の処理能力を合計した能力だと主張している。しかし,この考え方によれば破砕施設Bにおいて3施設同時にがれき類が投入でき,処理できる構造を有していることが必要である。しかし,石坂産業の破砕施設Bは,ジョークラッシャで粗破砕されたがれき類がインパクトクラッシャで破砕され,ふるいに掛けられ,RC-40に適した大きさ(20~40mm以下)に破砕されたもののみが保管場所に搬送され,それ以外のものは規定の大きさになるまで破砕が繰り返されるシステムである。なお,スーパーサンダーはRC-10が必要なときのみインパクトクラッシャで破砕されたものを更に細かくする施設であり,RC-40の製造と同じように規定の大きさになるまで破砕が繰り返される構造となっている。以上のことから,破砕施設Bは3施設同時にがれき類が投入できる構造を有しておらず,処理能力を限界づけることになるインパクトクラッシャの処理能力をもって処理施設の処理能力の基準とすべきである。そうである以上,処理能力をそれらの合計値とすることは過大な処理能力を認めることになり,かえって実体以上の処理を受け入れることとなるから,原告らの主張は失当である。

(5)  争点5(破砕施設Cについての違法事由(破砕施設Cが無許可施設であるか否か,破砕施設Cの個別破砕機に関する審査脱漏の有無,本件申請書に記載された破砕施設Cの処理能力に偽りがあるか否か,破砕施設Cが廃プラスチック類の破砕施設の許可を取得していない無許可施設であるか否か))について

ア 破砕施設Cは,破砕施設Aと同様に,平成13年2月1日施行の廃棄物処理法改正以降,がれき類の破砕施設で1日当たりの処理能力が5トンを超える施設として「産業廃棄物処理施設」に該当することとなり,その設置,変更には許可を要することになった(法15条1項,施行令7条8の2号。ただし,平成13年2月1日以前に存在した施設は,届出を行えば「1日当たりの処理能力が5tを超えるがれき類の破砕施設」であっても,許可を受けたものとみなされる。)。

ところで,申請書に申告されている破砕施設Cの破砕機はインパクトクラッシャ(中山鉄工所製NCF-1A,320t/日)のみであるが,硬質粒調機(スーパーサンダー)及び軟質剥離機(ハンマークラッシャ)も破砕機である。

そして,破砕施設Cにこれらの破砕機が設置される変更について,被告は平成13年3月8日に届出を受けており,この変更届は,変更後10日以内に提出すること,と規定されているところ(施行規則10条の10第2項),上記変更届出には,届出が遅延したものであるとの理由書ないしそれに類する書類の添付はないことからすると,この変更は,届出を受けた3月8日の10日前以内になされたと認めるべきである。

そうすると,破砕施設Cの破砕機の変更には許可が必要であったにもかかわらず,その許可を得ていないから,破砕施設Cは産業廃棄物処理施設の変更許可を欠く違法な施設となる。

イ 仮に,破砕施設Cの変更が平成13年2月1日より以前であったとしても,本件申請書に記載されているのは破砕機3機のうち1機(インパクトクラッシャ)だけで,残りの2機については,本件申請書の添付図面(ライン図,フロー図,甲1・257ないし260頁)に機械名の記載があるというだけであって,このような申請書の記載のみで判断した被告の審査には重大な瑕疵があるから,本件変更許可は違法である。

すなわち,前述のとおり,被告が本件変更許可をなすには,その前提として,被告は,少なくとも,石坂産業が有する処理施設がどんなものか把握していなければならず,廃棄物処理業者が有する処理施設の具体的内容を把握できるだけの情報が申告されていなければならない。

しかしながら,本件申請書には,硬質粒調機(スーパーサンダー)や軟質剥離機(ハンマークラッシャ)の処理能力,騒音,環境保全対策等の記載がない。

以上より,本件変更許可は,廃棄物処分業を許可するかどうかを左右する重大な要件(法14条の2第1項,14条6項1号)に直接関係する事項につき,申告・審査がなされずになされたものであるから,その審査手続には重大な瑕疵がある。

ウ 破砕施設Cにおいては,平成13年3月8日付変更届により,軟質剥離機(ハンマークラッシャ,硬質粒調機(スーパーサンダー)が追加されたところ,丙意見書によれば(甲15),①上記変更後により,軟質剥離機(ハンマークラッシャ),硬質粒調機(スーパーサンダー),風力選別機4機,スクリーン5機が追加され,②石膏ボードの処理工程が加わり,③投資額との関係上処理能力を増加させていないとは考えにくく,④変更後のプラントでは,それ以前よりもはるかに大きな環境影響(騒音・振動・粉じん)があると考えられる。

また,別紙5からしても,インパクトクラッシャとハンマークラッシャは並列的な関係にあるから,ハンマークラッシャの追加により破砕施設Cの処理能力は増加するはずである。さらに,ハンマークラッシャのカタログを見ると,そもそも同破砕機の予定している投入サイズは200mmとされており(甲48,49),40mm以上の廃石膏ボードを受け入れることも可能な能力を有している。

そうすると,特にハンマークラッシャの設置により,破砕施設Cの処理能力は増加したと考えるべきであり,被告は,これを見逃したものである。申請した処理能力に偽りがあり,これを被告が見逃してしまった場合,処理能力の周辺住民・環境に与える影響の大きさにかんがみると,当該審査手続には重大な瑕疵がある。

エ 破砕施設Cは建設混合廃棄物を分別破砕処理する施設であり,破砕施設Cにおいて廃プラスチック類を破砕することについては許可を得ていない(甲35,48)。

しかしながら,破砕施設Cの処理物中には,相当量の廃プラスチックが含まれている(甲46・⑮)。

また,破砕施設Cの平成13年の設備変更により,処理フローが大幅に変更され,破砕機が2機追加されただけでなく,風力選別機が4機,スクリーンが5機追加され,手選別方式から機械選別方式主体に変更している。風力による軽量物の除去の対象としては軽量である廃プラスチックがまず考えられる。

そして,建設混合廃棄物の破砕・分別施設は一般的であり,廃プラスチック類の5%程度混入を前提とした処理システムが,「建設混合廃棄物破砕選別物質収支の一例」として紹介されている(甲49)。

さらに,石坂産業と同様の建設混合廃棄物の破砕・選別機について許可対象廃プラスチック類の破砕機に当たるとの疑義照会もある(甲18の2)。

以上からすれば,破砕施設Cが廃プラスチック類の破砕施設に該当することは明らかである。そして,破砕施設Cの処理能力は320t/日であるから,仮に廃プラスチックが5%混入していたとして16t/日,2%混入でも6.4t/日の処理量となるのである。

したがって,破砕施設Cは,1日当たりの処理能力が5tを超える廃プラスチック類の破砕施設であるのに産業廃棄物処理施設設置許可を受けていない違法施設である。

(被告の主張)

ア 産業廃棄物処分業の事業範囲の変更許可の申請は,施行規則10条の9の規定により,変更に係る事業の用に供する施設についてのみ変更許可申請書に記載し,書類及び図面を添付することとされていることは前記のとおりであり,破砕施設Cは本件変更許可に当たり審査対象となっていないから,破砕施設Cに関し原告らが述べる違法事由はすべて主張自体失当である。

イ 破砕施設Cは,主に建物の解体作業現場で重機などにより建物を取り壊したことにより発生したがれき類を処理するものであり,このようながれき類には各種の廃棄物が混じり又は付着した各種の廃棄物を破砕等により可能な限り取り除くことを主な目的とした施設である。

破砕施設Cの一般的な処理工程は,別紙5のとおりである。すなわち,まず,がれき類等が投入されるとNo.1スクリーンで選別され,概ね10cmを超えるサイズのものは手選別ラインに流れ,プラスチックや紙などは可能な限り手選別で取り除かれた後,No.7スクリーンで風力選別を受け,再度プラスチックや紙などが取り除かれ,No.2スクリーンに投入される。一方,No.1スクリーン投入時10cm以下のものはそのままNo.2スクリーンに投入される。

No.2スクリーンに投入されたがれき類等は,インパクトクラッシャに投入され,40mm以下の大きさに破砕される。その際,がれき類等に付着しているものが破砕により分離されるので,各種スクリーンや磁選機により,付着物を取り除くことが可能となる。付着物が各種スクリーンや磁選機により取り除かれた後,がれき類等はスーパーサンダーに投入され,さらに破砕される。

なお,No.2スクリーンから直接ハンマークラッシャに投入される流れがあるが,がれき類等に10mm以下の廃石膏ボードが含まれていた場合の特殊な流れである。

以上のように,ハンマークラッシャはがれき類等のうち,廃石膏ボードを紙と石膏に分離し,石膏を再資源化するための補助的な施設であり,スーパーサンダーはインパクトクラッシャで破砕されたがれき類等をさらに細かく破砕することにより再資源化をしやすくするための補助的な施設にすぎない。

したがって,破砕施設Cの処理能力は,がれき類等を破砕し,混じりもの又は付着しているものを取り除く役割を有するインパクトクラッシャの能力で決定される,一方その他の個別の破砕機の処理能力は破砕施設Cの処理能力を決するに当たって考慮する必要はないし,また,個別の破砕機ごとに別個に許可を有するものではない。

ウ 解体作業現場から発生した産業廃棄物(コンクリートくずを中心としたがれき類)の中に,ある程度の廃プラスチック類が混じり,又は付着することはあり得るが,解体廃棄物中の廃プラスチック類の重量比率はたかだか0.4ないし0.6%程度であるし,石坂産業では分別,破砕ともきちんと行われていたものの,廃プラスチック類を厳格に分離することは非現実的である。このようなプラスチックは総体としてがれき類であり,廃プラスチック類を処理する許可は必要としないというべきである。

したがって,破砕施設Cにおいて処理される廃棄物の中にプラスチックが混ざっていたとしても,それをもって破砕施設Cが無許可施設であるとはいえない。

(6)  争点6(破砕・減容施設が無許可施設であるか否か及び本件申請書に記載された破砕・減容施設の処理能力に偽りがあるか否か)について

(原告らの主張)

ア 石坂産業の破砕・減容施設は,「廃プラスチック類の破砕施設」(施行令7条7号)に該当し,かつ,1日当たりの処理能力が5tを超えるから,「産業廃棄物処理施設」(法15条1項)に該当し,施設の設置については設置許可を要する施設である。しかしながら,石坂産業は,破砕・減容施設について,設置許可を受けていない。

イ 破砕・減容施設が「廃プラスチック類破砕施設」に該当すること

破砕・減容施設は,次に述べるとおりの理由から,「廃プラスチック類破砕施設」に該当する。

すなわち,石坂産業の破砕・減容施設は,別個の機械である破砕機(SA-55X)と減容固化機(DP-20S)をコンベアでつないだものである。ところで,「廃プラスチック類の破砕施設」に該当するかどうかは,法令の適正な解釈から導かれるべきものであるところ,法が「(1日当たりの処理能力が5tを超える)廃プラスチック類の破砕施設」について,廃棄物処理施設設置の許可を要求したのは,一般的にそのような施設は周辺環境に多大な影響を与えるおそれがあるため,事前にその安全性等を審査した上で,設置の許否を判断する必要があるからである。そうだとすれば,石坂産業の破砕・減容施設は,独立の機械として販売されている破砕機を備えているものであり,その破砕機で廃プラスチック等を破砕するのであるから,周辺環境に多大な影響を与えるおそれがあり,事前の審査が必要になるはずである。また,仮に,この同破砕機が単独で設置されたとしたら,それは,「廃プラスチック類の破砕施設」に当たるといわざるを得ないところ,石坂産業の破砕・減容施設は,それぞれ独立した機械である破砕機と減容機をコンベアでつないだものにすぎないから,周辺環境に与える影響という観点からは,この破砕機を単独で設置した場合と同様に考えるべきである。そうすると,たとえ,同破砕機が,減容の前処理として減容に適する大きさに破砕するためのものであっても,このような機械を含む施設は,「廃プラスチック類の破砕施設」に当たるというべきである。これに対し,被告は,乙2を根拠に,石坂産業の破砕・減容施設は,破砕施設ではないと主張する。しかし,乙2は,単なる厚生省の通知であって,法令が定める「廃プラスチック類の破砕施設」の解釈のひとつの方法を示すものにすぎず,法令の「廃プラスチック類の破砕施設」の定義を一義的に確定する効力を持つわけではない。また,乙2のいう「破砕設備が溶融成型のみを行う施設の工程中に組み込まれている場合」とは,どのような場合か明らかでないが,石坂産業の破砕・減容施設は,独立した機械である破砕機と減容機を備えたものであるから,破砕機が減容施設の工程中に組み込まれているとはいえず,乙2を根拠に破砕・減容施設が「廃プラスチック類の破砕施設」に当たらないということはできない。

ウ 破砕・減容施設の処理能力

(ア) カサ比重

本件申請書(甲1)によれば,破砕・減容施設は,カサ比重0.05t/m3(172頁)として,処理能力が計算されている。しかしながら,廃プラスチック類のカサ比重は,一般的に0.1~0.3t/m3といわれていること(甲4,甲21),カサ比重の値が0.05t/m3であるというのは,全くつぶれていない原型のままの500mlのペットボトルと同じような物を処理するということであって,これは,廃棄物が処理施設に運び込まれる場合,その時点で既に廃棄物のカサが減らされているのが通常であることからすると,余りに非現実的である。さらに,本件申請書によると,石坂産業の破砕・減容施設の減容機の処理能力の計算においては,カサ比重が0.04t/m3と設定されているが(甲1・173頁),この破砕・減容施設は,破砕機で廃棄物を破砕して容積を減らし,それを減容機でさらに容積を減らすという施設であって,破砕機を通過した廃棄物は,その段階で容積が減っていなければならないはずであるから,石坂産業の破砕・減容施設の破砕機で処理する廃棄物のカサ比重が0.05t/m3で,減容機で処理する廃棄物のカサ比重が0.04t/m3であるというのは不合理である。

ところで,カサ比重を0.3t/m3として計算すれば,破砕・減容施設は,1日当たり5tを超える処理能力が導き出されることになる。つまり,カサ比重が0.3t/m3である廃プラスチック類を破砕するのであれば,1日当たり5tを超える廃プラスチック類が処理できるということである。

これに対し,被告の主張によれば,各施設メーカーの設計根拠は,各施設のいわゆる公称能力であり,法は,施設能力を公称能力としてとらえているとし,その根拠として,乙1を挙げている。しかしながら,乙1によれば,むしろ,処理能力とは,「その施設が標準運転時間に『処理できる』廃棄物の量をもって表す」のであるから,破砕・減容施設の処理能力は,それぞれ,1日当たり5tを超えているというべきである。

(イ) 実際の処理量(搬入量)

a 原告らの調査結果(甲5)によれば,本件施設への,がれき類の混入が少ないと思われるトラックやコンテナ,パッカー車による混合物の搬入量は,平均1日当たり649.8m3であった。

そして,実際に搬入された混合物の写真を見ると,かなり多くの廃プラスチック類が含まれていること,石坂産業の搬入予定廃棄物種類から算出した組成割合によると,廃プラスチック類は,約38%を占めていること,平成14年の石坂産業の処分実績報告書において,廃プラスチック類は約39%を占めていること,さらに,埼玉県が平成10年3月に発行した「建物解体廃棄物の適正処理に関する調査報告書」に記載されている中間処理施設における建設混合廃棄物の分別区分表によると,一般に建設混合廃棄物の中に廃プラスチック類が占める割合は約31%であることからすれば,石坂産業に搬入される上記混合物の中で廃プラスチック類が占める割合は,30~40%と推測される。そうだとすると,石坂産業に搬入される廃プラスチック類の量は,649.8m3に30ないし40%を乗じた結果,一日当たり,3194.94ないし259.92m3となる。そして,廃プラスチック類のカサ比重を0.15t/m3と考えると,石坂産業には,1日当たり平均29.2ないし39.0tの廃プラスチック類が搬入されていることになる。

ところで,石坂産業で廃プラスチック類を処理できる施設は,破砕施設D,破砕施設E,破砕・減容施設,圧縮梱包施設である。ただし,圧縮梱包施設については,許可の条件として,「当事業所で破砕されたものに限る」との限定があるので,搬入された廃プラスチック類を直接圧縮梱包施設で処理することはできない。したがって,石坂産業において外部から搬入された廃プラスチック類を処理できるのは,破砕施設D,破砕施設E,破砕・減容施設だけである。これらの1日当たりの処理能力は,それぞれ,4.4t,3.76t,4.8tであり,合計すると12.96tである。つまり,石坂産業においては,施設の処理能力からすると,1日当たり12.96tの廃プラスチック類しか処理できないのである。しかも,これらの施設では廃プラスチック類だけでなく,紙くず,繊維くずも処理するので,実際に処理できる廃プラスチック類の量は,さらに少ないというべきである。

ところが,前述のとおり,石坂産業には,1日当たり平均29.2ないし39.0tの廃プラスチック類が搬入されているのである。もちろん,搬入量と処理量は同一ではないが,石坂産業には日々大量の廃棄物が搬入されていることを考えると,搬入量と処理量はほぼ同じであるといえる。そうだとすると,石坂産業は,施設の処理能力をはるかに超える廃プラスチック類を日々処理していることになる。これは,本件申請書に記載されている処理能力が過少であることを示すものである。

b もっとも,実績報告書上では,処分された廃棄物の量が許可されている処理能力の範囲内に適正に収まっているかのようになっている。しかしながら,以下述べるように,実績報告書は信用できず,調査報告書(甲5)の方が正しいというべきである。

① 荷量と重量

廃棄物の受入料金は,トラックスケールを使用して計量した重量に基づいて決めるのが一般的である。しかし,石坂産業はトラックスケールを持っておらず,荷量(体積)を測定し,それをもとに料金を決めている。ところが,実績報告書には1kg単位(0.001t単位)で記載されている(甲10)。そうするためには,体積を重量に換算することが必要である。その際,プラスチックでは,カサ比重を0.2とすると5リットル単位,木くずでは,カサ比重を0.4とすると2.5リットル単位,コンクリートでは,カサ比重を1.6とすると0.6リットル単位で体積を計測しなければ,1kg単位の数値は出せない。しかし,実際には,搬入された廃棄物の体積をここまで細かく測定することなど通常では考えられないし,石坂産業がそのような計測をしているとも考えられない。そうだとすると,体積を測定するだけで,実績報告書に1kg単位の記載をするということは,実際の搬入量と実績報告書の記載とが全く別物であることを意味することになる。

② 年間処理量

実績報告書では年間処理量が排出者別にまとめられているが,石坂産業の平成14年度の実績報告書では,年間の排出量が1kgという排出者がある。また,木くずで6.4%,廃プラスチックでは6.9%の排出者が年間10kg未満の量しか排出していない前述のカサ比重を当てはめてみると10kg未満では木くずで22.5リットル,廃プラスチックで45リットルの年間排出量にしかならない(甲11)。しかしながら,これらの排出量は余りに少なく,虚偽の数字であるというべきである。

さらに,廃プラスチックの処理量が年間10kg未満の194社のすべての種類の廃棄物について平成14年度の実績報告書を調査したところ(甲12),廃プラスチック1kgのみ受託した会社が6社ある。しかしながら,このような極めて小規模な取引が成立しているとは到底考えられない。

③ 実績報告書の数値

前記の調査をした194社の中で,10種類すべての廃棄物の年間受託量が等しいものが19組,60社ある(甲12黄色の部分)。受託していない廃棄物の種類があるとはいえ,偶然の一致とはいい難い。

また,194社の中で,受託している会社の多いガラス・コンクリート・陶磁器くず,木くず,金属くずについて調査したところ,ガラス・コンクリート・陶磁器くずを0.001t以上受託した158社のうち,0.640t受託したのが14社,0.960t受託したのが12社,0.300t受託したのが9社であった。また,木くずを0.001t以上受託した145社のうち,0.010t受託したのが18社,0.020t受託したのが13社,0.030t受託したのが13社であった。そして,金属くずを0.001t以上受託した124社のうち,0.013t受託したのが28社,0.038t受託したのが22社,0.025t受託したのが20社であった(以上につき,甲12)。これだけの数値が偶然一致したとは考え難いから,石坂産業は,実績報告書に実際の処理量を記載しておらず,虚偽の処理量を記載したというべきである。

(ウ) カタログの記載

さらに,石坂産業の破砕・減容施設の破砕機(SA-55X)のメーカーのカタログ(甲3)を見ると,その処理能力は,軟質プラスチックの場合,0.3~1.5t/h(1日8時間操業とすると,2.4~12t/日),硬質プラスチックの場合,1.0~5.0t/h(1日8時間操業とすると,8~40t/日)である。そうすると,破砕・減容施設の1日当たりの処理能力は,40tと考えるべきである。

(エ) 石坂産業に不実記載をする動機があること

石坂産業は,平成11年に破砕施設の設置計画書を被告に提出したところ,建築基準法51条の許可に関する意見として,関係市町村等から,好ましくない旨の意見が出されたため,被告は,平成12年7月5日付で,同月4日までに設置許可申請書を出すことを求める旨の審査結果を通知することにより,実質的に,設置許可申請を認めない旨の通知をした。

このように,産業廃棄物処理施設を建築するには建築基準法51条に基づく許可を要し,建築基準法51条に基づく許可を得るためには関係自治体の同意が必要であることから,石坂産業は,処理能力を偽って,建築基準法51条及び産業廃棄物処理施設設置許可手続を潜脱することとしたのである。

(オ) 以上より,破砕・減容施設は,1日当たりの処理能力が5tを超える「廃プラスチック類破砕施設」であり,設置に当たっては産業廃棄物処理施設設置許可を必要とする施設であるにもかかわらず,設置許可を得ていないのであるから,本件変更許可は違法である。

エ 上記のとおり,本件申請書に記載された破砕・減容施設の処理能力は虚偽の記載であって,これを見逃してなされた本件変更許可は違法である。

すなわち,都道府県知事は,産業廃棄物処分業の事業の範囲の変更許可申請があった場合に,その変更後の事業の用に供する施設の中に廃プラスチック類の破砕施設が含まれているならば,その1日当たりの処理能力が5tを超えるかどうかを,まず判断しなければならない。

そして,法が,1日当たりの処理能力が5tを超えるような廃プラスチック類の破砕施設の設置について許可を要求したのは,このような施設は,一般的に周辺環境に多大な影響を与えるおそれがあるため,事前にその安全性等を審査した上で,設置の許否を判断する必要があるからである。ところが,書面上,処理能力がどのように記載されているかを確認する程度の判断で許されてしまうということになれば,申請書に1日当たりの処理能力が5tを超えない旨の記載をするだけで,その廃プラスチック類の破砕施設の設置の許否に関する判断を容易に逃れることができることになり,「廃プラスチック類の破砕施設であって,1日当たりの処理能力が5tを超えるもの」について,設置の許可を要求した法の趣旨が骨抜きになってしまう。よって,都道府県知事が,申請者が申請書に記載した処理能力を鵜呑みにして判断することは許されない。

このことは,申請書に記載された処理能力が,その機械のメーカーによって計算されたものだとしても,同様である。なぜなら,ユーザーである廃棄物処理業者からすれば,1日当たりの処理能力が5tを超えるような廃プラスチック類の破砕機を購入しても,設置許可等の煩雑な手続を経なければ,設置して使用することができないのであるから,メーカーは,機械の販売のため,ユーザーである廃棄物処理業者の要望に応じて,処理能力を過少に計算する傾向にあるからである。

本件申請書には,メーカーが計算した計算式等が添付されているが(甲1・169頁以下),その計算に出てくる数値が正しいかどうかについて,それを検証できるデータ等は,本件申請書上は一切現れていない。そこで,被告は,法15条1項の趣旨を骨抜きにしないため,独自に調査し,機械の処理能力を検証すべきであった。しかし,被告は,そのような措置を採らずに,本件変更許可を出した。

そうすると,本件変更許可は現実に破砕・減容施設の1日当たりの処理能力が5tを超えているかどうかに関係なく,その処理能力の判断を怠ったこと自体,違法性があり,それを怠ったまま本件変更許可をなしたことが違法になるというべきである。

(被告の主張)

破砕・減容施設はそもそも破砕施設ではなく,また,1日当たりの処理能力が5tを超えないから,「産業廃棄物処理施設」に当たらない。

ア 破砕・減容施設は破砕施設ではないこと

(ア) 厚生省通知に基づく判断

破砕・減容施設は,破砕物を得ることを目的とした施設ではなく,産業廃棄物を減容することを目的とした施設であり「破砕施設」ではない。

厚生省の通知においても,「破砕設備が溶融成型を行う施設の工程中に組み込まれている場合に政令7条に規定する施設に該当しない」(乙2)としており,「工程中に組み込まれている場合」とは,破砕物を得ることを目的として設計されておらず,かつ破砕物を得ることを目的として運転し得ない状況であることを意味するものである。

(イ) 減容機は破砕機ではない

原告らは,甲18の2から4によれば,石坂産業が設置した減容機は破砕機であると主張している。しかしながら,これら書証は,福岡市,川崎市,青森県の各自治体が個別事案に関して旧厚生省に法令解釈について照会し,それぞれの自治体へ個別回答されたものであって,全自治体に対して公表された疑義回答ではない。

飽くまで被告は,旧厚生省から全国的に示された通知(乙2)に基づき,石坂産業が設置した破砕・減容施設は,前処理である破砕を行った後に本処理である減容処理を行うよう設計されていること,破砕機に投入された廃棄物は搬送コンベアにより全量減容機に投入され,破砕された廃棄物を取り出すことはできない構造となっていることから,破砕・減容施設は破砕施設ではないと判断したものである。

イ 破砕・減容施設の処理能力

廃プラスチック類の破砕施設で1日の処理能力が5tを超えるものについては,法15条1項の許可が必要となるが,破砕・減容施設の処理能力は,公称能力を示すメーカーの能力計算書によれば,5tを超えるものではないので,法15条1項の許可は不要である。

(ア) まず,処理能力とは,理論上,最大限可能であろうと仮定される処理能力ではなく,「その施設が標準運転時間に処理できる廃棄物の量をもって表すもので,いわゆる施設の公称能力である。」(乙1,乙11)とされており,機器を適正に動作させるため,一定条件に基づき,メーカーとして保証できる能力である定格標準処理能力に基づき施設の処理能力を決定するものである。機械設備のユーザーは,通常メーカーが予定した仕様内で使用するものと考えられ,常に最大能力で使用するものではない。製造メーカーが作成した客観的な処理能力計算書をもとに判断することとなる。

そして,審査に当たっては,処理能力計算書に用いられている数値に著しい不合理がないかどうかを確認している。

(イ) 破砕・減容施設の処理能力とカサ比重

破砕・減容施設のカサ比重についても,申請者である石坂産業が算出したものではなく,当該機械のメーカーである株式会社小熊鉄工所が示した数値である。さらに,石坂産業の破砕・減容施設では,紙くず,繊維くず及びビニール等の廃プラスチック類といった軽量でカサが張るものを処理するのであるから,処理物のカサ比重が0.05t/mであっ3ても何ら不合理な点はない。これに対し,原告らは破砕機で処理した後にカサが増えた(カサ比重が小さくなる)点が不自然であると主張するが,破砕・減容施設における破砕はあくまでも減容を容易にするための一工程であり,廃プラスチック類を破砕することで中間処理が終了するのではなく,あくまでも減容処理し,RPF(refuse paper and plasticfuel,廃プラスチック類等を処理した固形燃料)を製造するという目的を達成して初めて中間処理が終了するものである。破砕・減容処理が終了した段階ではカサ比重が増えるものであって,破砕段階でカサが増え,カサ比重が小さくなるとしても何ら不自然なところはない(乙21の1ないし24参照)。

以上のように,石坂産業の破砕・減容処理では,廃棄物として搬入された時点に比べ,処理途中でカサが増え,カサ比重が小さくなるとしても,最終的な減容処理後は10分の1程度(甲3・4頁)に減量化されており,中間処分としてカサが増え,カサ比重が小さくなる点が不自然であるとする原告らの主張は失当である。

(ウ) 実際の処理量から見た処理能力についての反論

原告らが調査したのは7日間の受入量であるところ,これから処理施設の処理量を正確に導くことはできない。また,原告らは目視により情報量を調査したというのであるが,どんなに至近距離から見たところで,積載物が見えないパッカー車や覆いをかぶせたコンテナ車の内容物の種類及び数量を正確に把握することは困難であり,結局,原告らの調査結果は推測にすぎない。

また,原告らは,石坂産業の実績報告書につき主張するが,石坂産業の平成14年度の実績報告書は,平成15年6月30日に被告に提出されている一方,本件変更許可は,その約10か月前の平成14年9月6日付で行われているのであるから,仮に,当該実績報告書に記入漏れや誤記があったとしても,これにより本件変更許可を取り消すことは,事後的事情により遡及して許可を取り消す(処分をする)ことになり,処分の安定性を欠くことになるのであるから,本件変更許可の違法性を根拠づけるものにはなり得ない。

ウ 破砕・減容施設の処理能力については,上記のとおりであって,本件申請書に記載された破砕・減容施設の処理能力に偽りがあるとする合理的根拠はない。したがって,この点に関する原告らの主張は争う。

(7)  争点7(破砕施設D,Eが無許可施設であるか否か及び本件申請書に記載された破砕施設D,Eの処理能力に偽りがあるか否か)について

(原告らの主張)

ア 石坂産業の破砕施設D,Eは,いずれも,それぞれ,「廃プラスチック類の破砕施設」(施行令7条7号)に該当し,かつ,1日当たりの処理能力が5tを超えるから,「産業廃棄物処理施設」(法15条1項)に該当し,施設の設置については設置許可を要する施設である。しかしながら,石坂産業は,これらの施設のいずれについても,設置許可を受けていない。したがって,本件変更許可は,「事業の用に供する施設」が無許可施設であるのになされたものであるから,違法であり,取り消されるべきである。

イ 破砕施設D,Eの処理能力

(ア) 上記各施設の処理能力を合算すべきであること

廃棄物処理法及び同施行令は,「廃プラスチック類の破砕施設であって,1日当たりの処理能力が5tを超えるもの」を設置に当たり許可を要する施設として規定しているが(法15条1項,令7条7号),本件変更許可により「事業の用に供する施設」とされた廃プラスチック類の破砕施設D,Eは,合計すると1日当たり5tを超える処理能力を有しているにもかかわらず,それぞれ一切許可を受けていない。

この点,廃棄物処理法及び同法施行令が,「廃プラスチック類の破砕施設であって,1日当たりの処理能力が5tを超えるもの」を,設置するにつき産業廃棄物処理施設設置許可を必要とする施設として規定した趣旨は,当該施設から排出される粉じん等の有害物質の量が周辺環境に及ぼす影響を考慮したためである。そうだとすれば,複数の破砕施設であっても,一体として機能している場合には,各施設の処理能力を合算した上で設置許可の必要性の有無の判断をすべきである。さらに,焼却施設については,平成9年9月30日付衛環251通知において,各施設の処理能力を合算すべきであるとされているのであり,破砕施設においてこれと異なる解釈を採る合理性は存在しない。

そして,破砕施設D,Eの破砕機は,いずれも2軸せん断式破砕機と呼ばれる廃プラスチックを破砕する汎用機であり,硬質・軟質のいずれのプラスチックについても破砕することが可能である(甲1・204頁,甲28参照)。また,本件変更許可において,破砕施設D,Eはいずれも廃プラスチック類を破砕する施設とはされているが,硬質,軟質の区別はなされていない。

したがって,本件変更許可において「事業の用に供する施設」とされている廃プラスチック類の破砕施設D,Eは,それぞれ許可が必要な施設であるにもかかわらず,一切許可を受けていない無許可の違法施設であるから,この点を看過してなされた本件変更許可は取り消されるべきである。

(イ) 個別に処理能力を計算しても各施設の処理能力はそれぞれ1日当たり5tを超えること

a カサ比重

本件申請書(甲1)によれば,破砕施設Dは,カサ比重0.15t/m3(202頁),破砕施設Eは,0.12t/m3(220頁)として,処理能力が計算されている。しかしながら,廃プラスチック類のカサ比重は,一般的に0.1~0.3t/m3といわれているところ(甲4,甲21),カサ比重を0.3t/m3として計算すると,上記2施設の処理能力は,それぞれ,1日当たり5tを超える。これに対し,被告の主張によれば,各施設メーカーの設計根拠は,各施設のいわゆる公称能力であり,法は,施設能力を公称能力としてとらえているとし,その根拠として,乙1を挙げている。しかしながら,乙1によれば,むしろ,処理能力とは,「その施設が標準運転時間に『処理できる』廃棄物の量をもって表す」のであるから,上記2施設の処理能力は,それぞれ,1日当たり5tを超えているというべきである。

b 破砕効率

石坂産業の破砕施設Dの処理能力の計算において,破砕効率は,0.215と設定されている(甲1・202頁)。しかしながら,破砕機の破砕効率は,通常,50%を超えるはずであって,本件申請書に記載された破砕効率は,虚偽である。

c また,実際の処理量(搬入量)に照らしても原告らの主張が正しいことや石坂産業に不実記載をする動機があることについては争点6の(原告らの主張)において述べたことと同様である。

エ また,本件申請書に記載された破砕施設D,Eの処理能力は虚偽の記載であって,これを見逃してなされた本件変更許可は違法である。

すなわち,都道府県知事は,産業廃棄物処分業の事業の範囲の変更許可申請があった場合に,その変更後の事業の用に供する施設の中に廃プラスチック類の破砕施設が含まれているならば,その1日当たりの処理能力が5tを超えるかどうかを,まず判断しなければならない。仮に,それが5tを超えていれば,法15条1項,施行令7条7号により,その施設の設置の許否を判断し,その設置の許可をした上で,事業の範囲の変更許可をしなければならないからである。

本件においては,本件申請書記載の破砕施設D,Eの処理能力は,いずれも1日当たり5tを超えていないが,被告がそれを鵜呑みにすることは許されない。いずれについても,メーカーが計算した計算式等が添付されているが(甲1・198頁以下,216頁以下),その計算に出てくる数値が正しいかどうかについて,それを検証できるデータ等は,本件申請書上は一切現れていない。したがって,被告が本件申請書だけからそれを検証することはできない。そして,申請書上から検証することが不可能であれば,被告は,独自に調査し,検証すべきであった。これは,法15条1項の趣旨を骨抜きにしないために,当然に被告が採るべき措置である。しかし,被告は,そのような措置を採らずに,漫然と本件変更許可を行った。

以上のとおり,被告は,石坂産業の産業廃棄物処分業の事業の範囲の変更許可申請を受けるに際し,その変更後の事業の用に供する施設の中に廃プラスチック類の破砕施設が含まれていたのだから,本来であれば,その1日当たりの処理能力が5tを超えるかどうかをまず判断しなければならないのに,それを怠ったまま本件変更許可を出した。そうすると,本件変更許可は現実に各破砕施設の1日当たりの処理能力が5tを超えているかどうかに関係なく,その処理能力の判断を怠ったこと自体に違法性があり,それを怠ったまま本件変更許可をなしたことが違法になるというべきである。

(被告の主張)

ア 破砕施設D,Eは,いずれも1日当たりの処理能力が5tを超える施設ではない。したがって,破砕施設D,Eはいずれも「産業廃棄物処理施設」に当たらない。

イ 破砕施設D,Eの処理能力

廃プラスチック類の破砕施設で1日の処理能力が5tを超えるものについては,法15条1項の許可が必要となるが,破砕施設D,Eの処理能力は,公称能力を示すメーカーの能力計算書によれば,いずれも5tを超えるものではないので,法15条1項の許可は不要である。

(ア) まず,処理能力とは,理論上,最大限可能であろうと仮定される処理能力ではなく,「その施設が標準運転時間に処理できる廃棄物の量をもって表すもので,いわゆる施設の公称能力である。」(乙1,乙11)とされており,機器を適正に動作させるため,一定条件に基づき,メーカーとして保証できる能力である定格標準処理能力に基づき施設の処理能力を決定するものである。機械設備のユーザーは,通常メーカーが予定した仕様内で使用するものと考えられ,常に最大能力で使用するものではない。許可権者としては,製造メーカーが作成した客観的な処理能力計算書をもとに判断することとなる。

そして,審査に当たっては,処理能力計算書に用いられている数値に著しい不合理がないかどうかを確認している。

(イ) 各施設の処理能力の合算について

原告らが主張の根拠とする平成9年9月30日付衛環251通知は,焼却施設について,処理能力を合算して許可が必要かどうか判断する旨通知したものであるが,焼却施設以外の施設はこれに当てはまらない。そもそも,廃棄物処理法においても合算を行うことを原則とするならば,当然,規則等にその規定があるはずであるが,そういった規定は存在していない。それはつまり,廃棄物処理法上は原則として処理能力の合算といった概念が存在せず,あくまでも焼却施設について例外的に通知により合算すべき旨が定められたものだからである。

さらに,原告らが処理能力を合算する根拠として提出した「廃棄物の処理及び清掃に関する法律の疑義について」(甲22)の詳細は不明であるが,当該通知にいう「一体として機能」とは,例えば本来一機であれば施行令7条7号の能力基準を超えるような施設を単に分割して能力の小さな別々の機械としているような場合を指すものと考えられ,本件のように明らかに処理目的の違うフローの施設を指すものではない。

また,上記厚生省通知では,「施設としての一体性を有する場合」についてのみ合算することとしている。石坂産業が設置している2つの破砕施設D,Eは,それぞれ,破砕施設Dが,塩ビ管のような硬質系の廃プラスチック類を破砕するのに適した構造を有し,破砕施設Eが,ビニール袋のような軟質の廃プラスチック類を破砕するのに適した構造を有する施設であり,これらは明らかに用途が異なる独立した施設であり,それぞれの施設が1日の処理能力が5tを超える施設であるかどうかを判断すれば足り,「施設としての一体性を有する場合」として処理能力を合算するものとは認められないものである。

原告らは,破砕施設Eは硬質系の廃プラスチックも破砕しようとすればできると主張している。そもそも,破砕機は,軟質専用又は硬質専用などとして区分されているものではないが,事業者は処理を予定している材質,量を破砕機メーカーに伝え,メーカーから処理に適した破砕機の提案を受け,処理目的に適した施設で許可申請するものである。通常,軟質系のプラスチックの破砕に適した破砕機は硬質系のプラスチックが破砕できたとしても,硬いプラスチックが破砕できずに止まってしまうなど破砕効率が低下し,安定した処理は望めない。そうしたことから,破砕ができるかどうかということではなく,処理目的に適した施設であるかどうかが重要な判断要素であり,原告らの主張は安定した処理を考慮しない実際上の処理を無視した考え方である。

(ウ) 各施設の処理能力について

a 破砕施設Dの処理能力

まず,カサ比重については,申請者である石坂産業が算出したものではなく,当該破砕施設製造メーカーの株式会社松本鉄工所が示した数値である。原告らが主張するようにカサ比重の値を高くすれば処理能力が1日当たり5tを超えるという方が恣意的であり,被告は,メーカーの公称能力を基準に適正に判断したものである。

次に,破砕効率は,破砕室に入る破砕物の大きさや固さといった廃棄物の性状や,排出時に使用されるスクリーン(ふるい)のメッシュの大きさなどの施設の設定の仕方や使用方法によっても異なってくる。つまり,破砕効率は同一の施設であっても一律に定まるものではなく,用いている処理能力計算式やその投入する廃棄物の性状等様々な要素により変化するものであり,一般的には経験上の値としてしか把握することができないものである。破砕効率に,原告らが主張するような「通常」の数値なるものは存在せず,ましてや,その数値が通常は50%を超えるはずであるとはいえない。そして,本件申請書に記載された破砕効率は,破砕機のメーカーである株式会社松本鉄工所が実際の運転状況など経験則から設定したものであり,申請者である石坂産業が設定したものではない。したがって,石坂産業が破砕効率を低く設定したとの原告らの主張は明らかに誤っている。

b 破砕施設Eについて

破砕施設Eのカサ比重についても,申請者である石坂産業が算出したものではなく,当該機械のメーカーの株式会社タジリが示した数値である。原告らが主張するようにカサ比重の値を高くすれば処理能力が1日当たり5tを超えるという方が恣意的であり,被告は,メーカーの公称能力を基準に適正に判断したものである。

(エ) 実際の処理量から見た処理能力についての反論

原告らの調査による廃プラスチック類の搬入量は遠くから見た全くの推測であり,それをもって実際の搬入量とするのは余りにも無理がある。さらに,原告らが調査した7日間の受入量と処理施設の処理量とを関連付けて論証すること自体が無意味である。そもそも,どんなに至近距離から見たところで,積載物が見えないパッカー車や覆いをかぶせたコンテナ車の内容物の種類及び数量を正確に把握することは困難であり,結局,原告らは推測しているだけということになる。推測をもって,処理能力に問題があるといっても,許可の判断においてではなく,事後的なものであり,許可には何ら影響しない。

また,原告らは,石坂産業の実績報告書につき主張するが,石坂産業の平成14年度の実績報告書は,平成15年6月30日に被告に提出されている一方,本件変更許可は,その約10か月前の平成14年9月6日付で行われているのであるから,仮に,当該実績報告書に記入漏れや誤記があったとしても,これにより本件変更許可を取り消すことは,事後的事情により遡及して許可を取り消す(処分をする)ことになり,処分の安定性を欠くことになるのであるから,本件変更許可の違法性を根拠づけるものにはなり得ない。

ウ 破砕施設D,Eの処理能力については,上記のとおりであって,本件申請書に記載された上記2施設の処理能力はいずれも虚偽であるとする原告らの主張には合理的根拠はない。したがって,この点に関する原告らの主張は争う。

(8)  争点8(石坂産業が「その業務に関し不正又は不誠実な行為をするおそれがあると認めるに足りる相当の理由がある者」に該当するか否か)について

(原告らの主張)

ア 本件変更許可の時点で石坂産業は,「その業務に関し不正又は不誠実な行為をするおそれがあると認めるに足りる相当の理由がある者」(法14条の2第2項,14条6項2号,同条3項2号イ,7条3項4号ホ,いわゆる「おそれ条項」に該当する者)であった。したがって,被告は,石坂産業に対して産業廃棄物処分業変更許可をしてはならなかったにもかかわらず,本件変更許可をした。この点において,本件変更許可は違法であり,取り消されるべきである。

イ 石坂産業が,「その業務に関し不正又は不誠実な行為をするおそれがあると認めるに足りる相当の理由がある者」であることを示す具体的事実は,次のとおりである。

(ア) 無許可業者への委託及び再委託禁止違反

平成9年6月ころ,産業廃棄物処理業者としての許可を受けていない土木建築業者と暴力団組員らが,ダンプ102台分の燃え殻,廃プラスチック類等を,川越市r町の土地に埋立てを行った件について,石坂産業は,上記廃棄物の処理委託業者として関わっていた。この件で,県から平成10年3月26日に違反行為の再発防止を勧告された(甲54)。

この石坂産業の行為は無許可業者への委託行為,及び再委託禁止の違反行為である(法12条3項,14条10項,26条1項)。

(イ) 無許可施設での操業(廃油の処理について)

石坂産業の廃油処理施設は,1日当たり1mを越える処理能力を有し3ている。そうだとすれば,これは,許可対象施設である(法15条,施行令7条5号イ)。

しかし,石坂産業が,この廃油処理施設について許可を受けた事実はない。石坂産業は,無許可でこの廃油処理施設を無断で設置又は変更し,操業しているという違反行為をしている。

(ウ) 施設変更許可を経ない無許可施設での廃棄物(感染性廃棄物,廃プラスチック類,廃アルカリ等)の焼却

石坂産業の焼却施設において当初の設置許可で処理することが認められていたのは,1号炉(15.4t/日。以下「焼却炉A」ともいう。)については,木くず,紙くず,繊維くず,ゴムくず及び動植物性残さ,2号炉(31.2t/日。以下「焼却炉C」ともいう。)については,1号炉で処理することが認められていた廃棄物のうちゴムくず以外の物である。しかし,石坂産業は,1号炉,2号炉において,これらの廃棄物以外の種類の廃棄物(廃プラスチック類,感染性廃棄物,汚泥など)を焼却していた。石坂産業が1号炉,2号炉で廃プラスチック類,感染性廃棄物,汚泥などを処理するには,本来であれば,処理する廃棄物の種類の変更について埼玉県知事の許可を受けなければならない(法15条の2の4,15条2項4号)。しかし,石坂産業は,そのような許可を受けずに,前記のような廃棄物を処理していた。

(エ) 許可地外での操業

本件変更許可は,石坂産業は,「処分および保管は,2に掲げる施設で行うこと」とを条件としている。そして,この許可条件に違反したときには,都道府県知事は,廃棄物処分業の取消し,停止を命ずることができる(法14条の3第4号)。ところが,石坂産業は,これ以外の場所で処分,保管を行っていた(甲55,56,57)。

(オ) 維持管理基準違反

石坂産業は,恒常的に許可申請書に記載した操業時間を越えて焼却施設を稼働させていた。1日当たりの処理能力は,1時間当たりの処理能力に操業時間を乗じることによって得られる。申請した操業時間を越えて操業すれば,施設への産業廃棄物の投入は,処理能力を越えた量になるのが当然である。これは「施設への産業廃棄物の投入は,当該施設の処理能力を超えないように行うこと」(法15条の2の2,同施行規則12条の6第2号)に違反する。

石坂産業の焼却施設においては,廃棄物を800度以上の高温で焼却することができない状態であった。これは,施行規則12条の7第5項柱書,1号,施行規則4条の5第1項2号ヘに違反している。

石坂産業は,焼却灰の飛散や排ガスの発生により,周辺地域を汚染してきた。これは,施行規則12条の6第3号,5号等に違反する。

石坂産業は,著しい悪臭,騒音の発生により,周辺の生活環境を破壊してきた。これは,施行規則12条の6第5号,同第7号に違反する。

(カ) 保管基準違反

石坂産業においては,破砕用の木くず等の廃棄物が保管基準を超えて保管されている状況が認められる。これは,施行規則12条の6第1号に違反する。

(キ) 大気汚染防止法に基づく届出に関する違法

大気汚染防止法では,火格子面積が2m2以上,又は焼却能力が1時間当たり200kg以上の廃棄物処理施設(以下,「ばい煙発生施設」という)を設置,変更する場合,事前に都道府県知事に届出をする必要がある(大気汚染防止法2条2項,大気汚染防止法施行令2条,別表第1,13,同法6条,8条)。知事は届出受理日から60日以内に届出施設のばい煙量又はばい煙濃度が排出基準に適合するか否かを審査し,届出業者に対し,計画の変更,設置計画の廃止を命じることができ,この審査を受ける60日間,届出業者は,ばい煙施設の設置,変更等を制限される(同法9条,10条)。

石坂産業の1号炉は1時間当たり1.45tの処理能力,2号炉は,1時間当たり2.6tの処理能力であり,3号炉(1.28t/日。以下「焼却炉B」ともいう。)の火格子面積は3.6m2であるため,ばい煙発生施設に当たり,前述の規制を受ける。

石坂産業は,これらの規定に基づき,ばい煙発生施設設置届出書を,1号炉につき,昭和63年12月5日,2号炉につき,平成3年1月17日に県に提出している(甲58,59)。これによると,1号炉は焼却物を木材として1日当たり8400kg,2号炉は,焼却物を木くず,廃プラスチック類として1日当たり22.4tを焼却している旨記載されている(前述したように,そもそも2号炉について,廃プラスチック類は,廃棄物処理法上,焼却が許可されていない品目である)。しかし,1号炉につき,平成3年2月8日,石坂産業が県に提出した廃棄物処理法に基づく産業廃棄物処理業変更許可申請書によると,焼却物を木くずのほか,紙くず,繊維くず,ゴムくず,動植物性残さを加えているほか,処理量も1日当たり16tと大幅に増加させており,形式上,「ばい煙発生施設の使用の方法」(大気汚染防止法6条1項5号)が明らかに変更されているにもかかわらず,ばい煙発生施設変更届出書を提出していなかった。さらに,平成6年8月23日に県に提出したばい煙発生施設変更届出書に至っても,昭和63年12月5日付ばい煙発生施設設置届出書における焼却物,処理量を変更していない(甲56,58,59)。

同様に,2号炉についても,平成3年2月8日付産業廃棄物処理業変更書によると,焼却物を木くずの他,紙くず,繊維くず,ゴムくず,動植物性残さを加えているほか(廃プラスチック類は記載されていない),処理量も1日当たり32tと大幅に増加させているにもかかわらず,ばい煙発生施設変更届出書を提出していなかった。さらに,平成6年8月23日付ばい煙発生施設変更届出書における2号炉の焼却物,焼却量についても,平成3年1月17日付ばい煙発生施設設置届出書における焼却物,焼却量を変更していない(甲59,60,61の1)。

(ク) 大気汚染防止法に基づく届出の遅延

前述の平成6年8月23日付ばい煙施設変更届出書を石坂産業が県に提出した経緯は,電気集塵機の設置工事をしたにも拘わらず,施設変更届出書を提出していなかったことを指摘されたことによる。すなわち,石坂産業はこの点でも変更届出書を提出していなかったものであり,県から遅延理由書の提出を要求された(甲61の2)。

また,3号炉については,平成3年に設置し,平成3年2月8日付産業廃棄物処理業変更許可申請書及び平成6年8月23日付ばい煙発生施設変更届出書においてその存在を指摘しているにも拘わらず,平成10年9月21日付ばい煙発生施設設置届出書の提出をするまでの間,ばい煙発生施設設置の届出をしなかった(甲60,61の1,62の1)。この届出遅延については,県から始末書の提出を求められた(甲62の2)。

さらに,1,2号炉の施設につき,平成10年3月までに特定産業廃棄物処理施設使用届を提出しなければならなかったにもかかわらず,平成11年3月5日に至り,ようやく同書面を提出し,県から遅延理由書を要求された(甲63の1,2)。

また,平成13年5月ころ,1号炉につき,施設の煙道を変更する工事を行ったにもかかわらず,ばい煙発生変更届出書を提出せず,この届出遅延について,県から遅延理由書の提出を求められた(甲64の1,2)。

以上のとおり,石坂産業は,大気汚染防止法上必要な届出を怠ったり,届出を遅延したりということを繰り返している。

(ケ) 数々の施設の無許可設置・変更(焼却施設A,C,破砕施設A,C)

石坂産業は,平成9年には1号炉(焼却炉A),2号炉(同C)につき,無許可で大規模な変更を行い,これは,15条の2に規定される許可が必要な産業廃棄物処理施設の変更にも拘わらず,無許可でなされた「無許可変更」である。

さらに,破砕施設A,Cについても,平成13年3月に同様に無許可で許可が必要な破砕機等を追加する変更を行った。これも同様に「無許可変更」である。

平成13年5月23日付環廃産266号通知「廃棄物の処理及び清掃に関する法律14条の3等に係る法定受託事務に関する処理基準について」(甲65)によれば,施設の無許可設置,無許可変更については,「許可取消し」に相当する重大な違反行為である。石坂産業は重大な法違反行為を繰り返しているのである。

また,平成15年2月26日さいたま地裁判決によると,被告は「無許可設置」についておそれ条項に該当すると判断している。

(コ) 金属くずの圧縮破砕施設・ガラス陶磁器くずの破砕施設の無許可設置

石坂産業は,平成3年から平成6年までの間,金属くずの圧縮・破砕施設,ガラス陶磁器くずの破砕施設を無許可で設置,操業してきた。この点につき,石坂産業は,事後に「理由書」の中で,「中間処理業としての許可内容が,申請時の不手際のため,金属くずの圧縮・破砕,及びガラス陶磁器くずの破砕の処理施設と許可内容の相違が生じていることが判明しましたので,当初の申請書類のとおり現施設に合致した内容に許可変更を致したく,宜しくご配慮方お願い申し上げます。」と述べ,上記の無許可施設の設置,操業を認めているが,この事実は,石坂産業の遵法精神の欠如を明確に示すものである。

(サ) 選別コンベアを建物外に突出させたこと

平成12年に埼玉県が行った石坂産業に対する立入の結果,石坂産業の金属くず,がれき類の破砕システム(分別プラント)の中の選別コンベアが建物外に突出していることが判明した(甲55,56)。この件につき,石坂産業の担当者は,埼玉県に対し,「経費,工期を優先して許可と異なる工事をした。」と弁解しているが,この点は,石坂産業の遵法精神の欠如を如実に示すものである。

(シ) 公害防止条例に基づく届出書遅延

石坂産業は,埼玉県公害防止条例に基づく指定粉じん発生施設設置届出書,及び大気汚染防止法に基づく一般粉じん発生施設設置届出書を事前に提出することを怠り,後日,遅延理由書を提出しているが,この点は,石坂産業の遵法精神の欠如を示すものである。

特に,石坂産業は,破砕施設に伴うベルトコンベアにつき,当初の形態から勝手に変更を加えた後に遅延理由書を提出しており,この点についての石坂産業の態度は悪質である。

また,石坂産業には,少なくとも平成9年ころから,敷地内の各所に破砕後の処理物の堆積場が存在していたにもかかわらず,そのうちの2か所についての届出がなされたのは平成14年になってからである。しかも,石坂産業は,その遅延理由として,「規制されるような堆積場としての認識はありませんでした。」などと開き直っており,このような石坂産業の弁解は,法規範を遵守する態度が微塵もないことを示すものである。

(ス) 手散水

石坂産業は,敷地内の堆積場の粉じん発生防止策として,手散水などを行うとしているが,仮にこれが行われたとしても,この方法による粉じん発生防止措置が全く不十分であり,大気汚染防止法18条の3の基準別表6(一般粉じんが飛散しにくい構造の建造物内に設置されていること,と同等以上の効果を有する措置が講じられていること)に違反しているのは明らかである。

ウ 評価

以上指摘したとおり,石坂産業は,これまで様々な法令違反を繰り返し行ってきた業者であり,今後も同様に法令違反等を繰り返す可能性が高いから,「その業務に関し不正又は不誠実な行為をするおそれがあると認めるに足りる相当の理由がある者」というべきである。したがって,本件変更許可は違法であり,取り消されるべきである。

(被告の主張)

ア おそれ条項の適用に関する基本的考え方

法7条3項4号ホに規定する「その業務に関し不正又は不誠実な行為をするおそれがあると認めるに足る相当の理由がある者」に対し許可しないことができるというおそれ条項は,法令違反があった場合にすべて直ちに適用するものではなく,その違反の内容や程度,改善の結果など事業者の資質及び社会的信用を総合的に判断し,適切な業務運営を当初から期待できないことが明らかな場合のみ適用すべきものである。

すなわち,前記の平成12年9月29日衛産第79号厚生省生活衛生局水道環境部環境整備課産業廃棄物対策室長通知(「本件通知」)によれば,この規定は,法に規定する欠格要件には該当しないものの申請者の資質及び社会的信用の面から業務の適切な運営を期待できないことが明らかである場合には許可しないことができるという趣旨であり,具体的には以下の4つの場合がこれに該当するものとして考えられる,とされていた。

① 過去において,繰り返し許可の取消処分を受けている場合

② 法,浄化槽法,令第4条の5各号に掲げる法令若しくはこれらの法令に基づく処分に違反し,又は刑法第204条,第206条,第208条,第208条の2,第222条若しくは第247条の罪若しくは暴力行為等処罰に関する法律の罪を犯し,公訴を提起され,又は逮捕,勾留その他の強制の処分を受けている場合

③ ②に掲げる法令に係る違反を繰り返しており,行政庁の指導等が累積している場合

④ その他上記に掲げる場合と同程度以上に的確な業の遂行を期待し得ないと認められる場合

埼玉県では,上記①から③に該当する場合であっても,直ちに法7条3項4号ホに該当すると判断するのではなく,法令違反の内容及び程度,違反の改善の結果や当該事業者の資質及び社会的信用を総合的に考慮し,判断することとしていた。また,④についても同様に総合的に考慮し判断することとしていた。その理由は,本件通知において「おそれ条項」は,廃棄物処理法が一定の者を類型化してこれを排除するために規定している他の欠格要件とは異なるもの,として位置付けているので,その適用に当たっては,個別の事情を十分に考慮し,総合的に判断することが適当と考えられることによるものである。そして,石坂産業は過去に許可の取消処分を受けた事実はなく,法令違反による公訴を提起され,又は逮捕,勾留その他の強制の処分も受けていない。また,これまでも指導に従い是正を行っており,指導が累積している事実はない。このようなことから,的確な業の遂行を期待し得ないとも認められず,「おそれ条項」に該当するとはいえない。

イ 原告らが石坂産業がおそれ条項に該当する根拠として列挙した主な事実についての反論

(ア) 無許可施設(廃油焼却炉)について,原告らはバーナーの最大能力をもって処理能力を推定しているが,許可に当たっての能力算定は飽くまで標準処理能力であり,1m3/日としたことをもって無許可の施設と断定することはできない。なお,当該施設は平成14年5月15日に廃止されている。

(イ) 変更許可を受けていない施設(廃プラスチック類,感染性,廃アルカリ)があるという主張については,石坂産業は,廃プラスチック類の焼却について,焼却施設B(3号炉)で許可を有していた。解体作業現場から発生した産業廃棄物(がれき類等)の中に,ある程度の廃プラスチックが混じり,又は付着することはあり,これはやむを得ないものであり,これを厳格に100%排除分離することは非現実的である。そのため,原告らが主張するように多少混入していたとしても直ちに違法とはいえない。

感染性廃棄物については,許可を得た焼却施設Bで行っていたから,何ら違法ではない。

また,原告らは,廃アルカリ及び廃酸の中和処理後の廃液には汚泥が生じ,石坂産業は無許可で汚泥処理をしていたと主張するが,廃アルカリ及び廃酸の中和処理後の廃液は飽くまで処理後の廃液であり,産業廃棄物の種類が汚泥に変化するものではなく,処理後の廃液の許可を得ている以上,違法事由には当たらない。

なお,焼却炉AないしCは平成14年5月15日に廃止されており,これらの処分業は行われていない。

(ウ) 維持管理基準違反については,散水による効果は明らかであり,なおかつ,施設の屋内設置,バグフィルターによる集じんを行っていること,周辺への粉じん飛散を防止するため高さ10mの外周柵を設けており,十分な粉じん対策が採られている。

(エ) 埼玉県公害防止条例(現「埼玉県生活環境保全条例」),大気汚染防止法違反及び「分別プラント」の選別コンベアの建物外への突出については,県の指導に従い是正し,届出を履行している。なお,そもそも,ベルトコンベアを必ず屋内に設置しなければならないというような基準は大気汚染防止法その他の法令のどこにも規定されておらず,法違反がなく,行政指導を受け入れている以上,「おそれ条項」に該当するとはいえない。

(オ) 金属くずの圧縮・破砕施設,ガラス陶磁器くずの破砕施設の無許可設置については,金属くずの圧縮施設は,法15条1項の許可を要する施設ではなく,また,石坂産業が「建設廃材」の範疇で金属くずやガラス陶磁器くずを処理していたとしても違法となるものでない。

(カ) また,石坂産業では,周辺環境への影響を考慮して施設の建物内設置や周囲に壁を設置するなど粉じんや騒音防止対策を行っている。そして,施設所在地の地元であるa町b地区との間で協定を締結(乙26)し,円満な操業を心掛けている。さらに,環境対策を改善するための国際規格であるISO14001や,製品の品質保証を加えて顧客満足の向上をも目指すISO9001を取得するとともに,ゴミゼロの日・クリーンa町民運動事業への参加など積極的に社会貢献をしている。このような石坂産業の状況からすれば,本件変更許可に当たり「おそれ条項」を適用するような場合には該当しなかったことは明らかである。

ウ 以上より,石坂産業はおそれ条項に該当しない。

第3当裁判所の判断

1  争点1(原告らの原告適格の有無)について

(1)  行政事件訴訟法9条は,取消訴訟の原告適格について規定するが,同条1項にいう当該処分の取消しを求めるにつき「法律上の利益を有する者」とは,当該処分により自己の権利若しくは法律上保護された利益を侵害され,又は必然的に侵害されるおそれのある者をいうと解するのが相当である。そして,当該処分の根拠を定めた行政法規が,それによって特定の範囲の個人の権利利益を保護することを目的として行政権の行使に制約を課している場合には,根拠法規によって保護の対象とされた権利利益の帰属主体である者は法律上保護された利益を有する者として当該行政処分の取消しを求める原告適格を有するものである。そして,処分の根拠となる行政法規が,公益の実現を目的としていても,不特定多数者の具体的利益を専ら一般的公益の中に吸収解消させるに止めず,それが帰属する個々人の個別的利益としてもこれを保護すべきものとする趣旨を含むものとする趣旨を含むと解される場合には,このような利益もここにいう法律上保護された利益に当たるものというべきである。

そして,行政事件訴訟法9条2項によれば,処分の相手方以外の者について上記の法律上保護された利益の有無を判断するに当たっては,当該処分の根拠となる法令の規定の文言によることなく,当該法令の趣旨及び目的並びに当該処分において考慮されるべき利益の内容及び性質を考慮するものとし,この場合において,当該法令の趣旨及び目的を考慮するに当たっては,当該法令と目的を共通にする関係法令があるときはその趣旨及び目的をも参酌するものとし,当該利益の内容及び性質を考慮するに当たっては,当該処分又は裁決がその根拠となる法令に違反してされた場合に害されることとなる利益の内容及び性質並びにこれが害される態様及び程度をも勘案すべきものとされている。

(2)  そこで,上記の見地に立って,本件において,廃棄物処理法が,個々人の個別的利益を保護するものであるといえるか否かを検討する。

廃棄物処理法は,同法1条によれば,「廃棄物の排出を抑制し,及び廃棄物の適正な分別,保管,収集,運搬,再生,処分等の処理をし,並びに生活環境を清潔にすることにより,生活環境の保全及び公衆衛生の向上を図ることを目的とする」ものである。この条文のみからすれば,廃棄物処理法は,生活環境の保全や公衆衛生の向上といった一般的公益のみを保護しているかのようにもみえる。

しかしながら,廃棄物処理法は,都道府県知事は,変更許可の申請が「その事業の用に供する施設及び申請者の能力がその事業を的確に,かつ,継続して行うに足りるものとして環境省令で定める基準に適合するものである」ときでなければ,同条の許可をしてはならない旨規定し(14条の2第2項,14条6項1号),これを受けて,施行規則10条の5第1号は,業として処分する産業廃棄物の種類に適した施設を有すること(イ(1)ないし(6)),保管施設を有する場合には,産業廃棄物は飛散し,流出し,及び地下に浸透し,並びに悪臭が発散しないように必要な措置を講じた保管施設であること(イ(7))を環境省令で定める基準として規定している。また,同法14条7項は,産業廃棄物処分業の許可には,生活環境の保全上必要な条件を付することができる旨規定し,さらに,同法14条の3は,都道府県知事は,産業廃棄物処分業者が,その者の事業の用に供する施設が法14条6項1号に規定する基準に適合しなくなったとき,法14条7項の規定により当該許可に付した条件に違反するときなどは,その許可を取り消し,又は期間を定めてその事業の全部取り消し,又は期間を定めてその事業の全部若しくは一部の停止を命ずることができると規定する。

以上の廃棄物処理法の各規定からすれば,廃棄物処理法は,産業廃棄物の飛散や流出によって,産業廃棄物に含まれる有害物質を原因とする周辺住民の健康被害や生活環境の悪化を防止し,周辺住民の生命,身体の安全や生活環境の保全をも保護する趣旨を有するものと解すべきであって,違法な産業廃棄物処分業許可がなされた場合に当該許可にかかる産業廃棄物処分によって生ずる周辺住民の生命,身体や生活環境に関する被害の内容,性質,程度等に照らせば,これらは一般的公益の中に吸収解消させることが困難なものといわざるを得ない。

(3)  そこで,原告らが,本件施設における産業廃棄物処理により,生命,身体の安全や生活環境を害されるおそれがあるかどうかを検討することとする。前記の基本的事実関係に証拠(甲6ないし8)及び弁論の全趣旨から認められる事実を総合すれば,次の事実が認められる。

鉛は,内分泌かく乱,神経疾患,催奇形性,脳障害等を生じさせ,慢性中毒となった場合には,倦怠感,頭痛,感覚障害,痙攣,排尿障害等の症状が出る(甲7)。

原告らは,別紙原告目録に記載された住所地に居住する者であり,住所地及び勤務地の位置は概ね別紙1ないし3記載のとおりである。原告らのうち,石坂産業の本件施設から最も近い場所において居住しているのは原告丁(原告番号2),戊(原告番号3),甲(原告番号4)であり,本件施設の中心部から約300mの距離において居住している。また,戊(原告番号3)は,本件施設の中心部から約100mの距離に所在する畑を有している。他方,原告らのうち,石坂産業の本件施設から最も遠い場所に居住し又は勤務しているのは,原告己(原告番号49)であり,本件施設の中心部から5km以上離れた地において居住している。

石坂産業は,産業廃棄物の収集,運搬,処理業を営む株式会社であり,本件変更許可により,産業廃棄物の破砕,破砕・減容,圧縮梱包に関する中間処分業許可を受け,また,上記の各中間処分業を営むために,破砕施設,破砕・減容施設,圧縮梱包施設及び保管施設を有していた。そして,甲6ないし甲8によれば,本件施設の破砕施設における産業廃棄物処理の過程において,鉛等を含む粉じんが発生し,施設から遠ざかるにつれ徐々に減少しつつも,少なくとも施設中心部から600m位離れた場所まで降下していることが認められる。そして,石坂産業は,平成13年5月に焼却炉設置を計画した際大気汚染物質についての「生活環境影響調査」(甲67)を実施したが,その調査区域は事業所周辺約3kmとされ,平成14年7月に石坂産業周辺の粉じん飛散状況を把握するために行われた「周辺粉じん濃度分布及び成分調査」(乙14)でも,調査地点は概ね周囲3kmの数地点が選ばれていることが認められる。

(4)  以上の事実及び社会通念に照らすと,原告らのうち本件施設の中心部から3kmの範囲内の場所に居住ないし勤務する者については,本件変更許可に基づく産業廃棄物処理に際し発生する粉じんの飛散等に伴う健康被害を受けるおそれがあるものとして原告適格を認めるのが相当である。そして,甲14によれば,原告番号1ないし26,28ないし45,47,53ないし55,62,65ないし69,73の原告らについては上記3kmの範囲内の場所に居住し又は勤務していることが認められるから,上記の者については原告適格を認め,その余の原告らについては原告適格を有しないとするのが相当である。

2  争点2(新更新許可に伴い,本件変更許可の取消しを求める訴えの利益が消滅したかどうか)について

本件訴えの訴えの利益に関し,被告は,要するに,本件変更許可の期限は平成18年3月10日に経過し,翌11日に新たに更新許可(新更新許可)がなされたことによって,本件変更許可の効力は消滅したのであるから本件変更の取消しを求める本件訴えは,訴えの利益を欠くと主張し,他方,原告らは,新更新許可がなされた後も本件変更許可の効力は消滅せず,したがって,本件訴えの訴えの利益は消滅しないと主張する。

そこで検討するに,平成13年の更新許可当時の廃棄物処理法14条5項及び施行令6条の11によれば,産業廃棄物処分業の許可は,5年ごとにその更新を受けなければ,その期間の経過によって,その効力を失うものと定められていた。そして,新更新許可がなされた当時の廃棄物処理法14条7項及び施行令6条の11も,産業廃棄物処分業の許可は,5年ごとにその更新を受けなければ,その期間の経過によって,その効力を失う旨規定する。

このように,廃棄物処理法が,産業廃棄物処理業の許可につき更新制を採用したのは,産業廃棄物処分業者の資質の向上と信頼性の確保を図るためであって,更新許可は,飽くまで,従前に許可を受けて産業廃棄物の処分を業として行っていた者に対し,更新期限の到来を契機として,許可要件の再審査を行い,要件を満たしている場合には従前になされた新規許可の効力を引き続き継続させるものである(改めて新規許可をするものではない)。そして,この理は,新規許可がなされた後,更新許可や変更許可が複数回なされた場合においても同様であって,最終的になされた更新許可は,更新許可の直前になされていた許可の内容,すなわちこれまでになされた新規許可,更新許可及び変更許可を総合した内容の許可の効力を継続させる性質・効果を有するものと解される。

これを本件についてみると,基本的事実関係において記載したとおり,平成13年3月11日,期間を平成18年3月10日までとして更新許可がなされ,平成14年9月6日に同じく期間を平成18年3月10日までとして本件変更許可がなされ,石坂産業は,平成18年1月23日,被告に対し,産業廃棄物処分業の更新許可申請を行い,被告は,平成18年3月11日,新更新許可をなしたことが認められる。

そうすると,石坂産業は,平成18年3月11日に全く新規に許可を受けたわけではなく,過去の許可少なくとも平成13年3月11日の許可を前提にした平成18年3月11日の更新許可により,平成18年以降も産業廃棄物処分業を継続しているものであり,このような場合には,原告らの提起した平成13年3月11日付許可の取消しを求める訴えの利益は失われないと解するのが相当である(なお,昭和43年12月24日最高裁判決・民集22巻13号3254頁参照)。

したがって,本件訴えは,訴えの利益を欠くものではなく,争点2に係る被告の主張は採用できない。

3  争点3(破砕施設Aの粒調機が無許可施設であるか否か及び同粒調機に関する審査脱漏の有無)について

(1)  廃棄物処理法施行規則10条の9によれば,廃棄物処理法14条の2に基づき産業廃棄物処分業の事業の範囲の変更の許可を受けようとする者は,「変更に係る事業の用に供する施設の種類,数量,設置場所,設置年月日及び処理能力」等を記載した様式第10号による申請書を,「変更に係る事業の用に供する施設…(中略)…の構造を明らかにする平面図,立面図,断面図,構造図及び設計計算書並びに当該施設の付近の見取図」を添付して都道府県知事に提出しなければならない。

そうすると,廃棄物処理法及びその関係法令上,許可権者は,産業廃棄物処分業の変更許可をするに当たり,変更前の産業廃棄物処分業許可に係る事業の用に供する施設のすべてについて,再度,法令に定められた基準に適合するか否かを審査することを要求されているものとはいえず,変更に係る事業の用に供する施設についてのみ審査すれば足りるというべきである。

ところで,石坂産業の行った本件変更許可申請の内容は,次のとおりである。

(変更前)

施設名

処理能力

許可品目

圧縮・減容施設

12t/日

廃プラスチック類

破砕施設

4.8t/日

廃プラスチック類

破砕施設A

112t/日

木くず

破砕施設B

320t/日

がれき類

破砕施設C

320t/日

がれき類・金属くず,ガラスくず・

コンクリートくず及び陶磁器くず

(変更後)

施設名

処理能力

許可品目

破砕施設A

112t/日

木くず

破砕施設B

320t/日

がれき類

破砕施設C

320t/日

がれき類・金属くず,ガラスくず・

コンクリートくず及び陶磁器くず

破砕施設D

4.4t/日

廃プラスチック類(硬質系),繊維

くず(畳に限る)

破砕施設E

3.76t/日

廃プラスチック類(軟質系)

破砕減容施設

4.8t/日

紙くず・繊維くず・廃プラスチック類

圧縮梱包施設

124.8t/日

紙くず・繊維くず・廃プラスチック類

(当事業所で破砕した物に限る)

そうすると,本件申請は,破砕施設A,B,Cについては何ら変更を求めるものではなく,したがって,原告らの主張する,破砕施設A,B,Cが産業廃棄物処理施設設置許可を受けていない,あるいは当該施設に関する審査が脱漏しているなどの違法事由は,いずれも本件変更許可の違法事由とはなり得ないと考えられる。

しかしながら,破砕施設A,B,Cは,石坂産業の産業廃棄物処理施設の中核をなすものであって,現に稼働中のものであり,被告も上記施設についての違法事由に関し積極的に答弁するなどの本件の審理の推移にもかんがみ,以下において念のため,破砕施設A,B,Cの違法事由の有無について検討しておくこととする。

イ 原告らは,要するに,粒調機が破砕機であることを前提に,粒調機が設置されたのが平成13年2月1日以降であれば,同粒調機は無許可の産業廃棄物処理施設であるし,仮に粒調機が設置されたのが平成13年1月31日より以前であったとしても,被告は,更新許可を行うに当たり粒調機について審査をしていないから,いずれにせよ違法である旨主張する。

そこで検討すると,本件申請書に添付された破砕施設Aの図面(甲1・236ないし238頁)によれば,破砕施設Aにおいては,木くずは,破砕機により粉砕され,その後,スクリーンにかけられ粒度が調整され,金属検知機にかけられ,そのうち一部は再生紙原料として,そのうち一部は粒調機にかけられるなどした後,敷料(肥料原料)として再生されることが認められる。そうすると,破砕施設Aは,木くずを再生紙原料又は敷料(肥料原料)として再生するための一連の機械設備の総体であって,粒調機は,破砕施設Aから独立した用途・ラインで用いられる機械ではなく破砕施設Aの一部を構成するものとして位置付けられるにすぎないというべきである。したがって,破砕施設Aの一部にすぎない粒調機について,破砕施設Aと別個に,産業廃棄物処理施設設置許可を受けることが必要であると解することはできない。また,破砕施設Aは,甲1の235ないし242頁によれば,「型式HMP-110,処理能力112t/日(14t/h)」と記載されており,粒調機は上記HMP-110の破砕施設の一部を構成するものと考えられる。そして,甲2によれば,破砕施設Aの処理能力は,平成3年以来平成14年の本件変更許可申請時まで112t/日のままで変わっておらず,したがって,粒調機のみを取り出してその審査が十分になされていないということもできない。

以上より,破砕施設Aに関し,原告らの主張する違法事由があると認めることはできない。

4  争点4(破砕施設Bの破砕機に関する審査脱漏の有無及び本件申請書に記載された破砕施設Bの処理能力に偽りがあるか否か)について

(1)  原告らの主張は,要するに,本件申請書(甲1・245ないし255頁)には,「事業の用に供する施設」のうち,がれき類の破砕施設として,インパクトクラッシャの記載はあるが,ジョークラッシャ,スーパーサンダーの機械の仕様,処理能力,処理方法,環境保全対策等の記載がなく,その審査手続に重大な瑕疵があること,また,本件申請書には,インパクトクラッシャの処理能力をもって破砕施設B全体の処理能力の数値が記載されているが,破砕施設Bの処理能力は,同施設に設置されているインパクトクラッシャ以外の機械の処理能力をも考慮して計算しなければならないのであって,これらを合わせると640t/日の処理能力を下らないものと考えられるから,実際よりも過小に申告された虚偽のものであり,処理能力の周辺住民・環境に与える影響の大きさにかんがみると,被告の許可はこれを看過してなされたものであって取り消されるべきであるというものである。

(2)  そこで検討すると,証拠(甲1・245ないし255頁,甲41ないし45)及び弁論の全趣旨によれば,破砕施設Bの概要は次のとおりであると認められる。

ア まず,破砕施設Bの被処理物は,コンクリート,アスファルト・コンクリートといった建築廃材系のがれき類である(なお,建築廃材としてのコンクリート塊は,径50cm以上の大きさのものが多い)。そして,埼玉県が実施する車道の下層路盤,歩道路盤,公園の遊歩道・広場等の下層路盤,駐車場舗装の下層路盤,擁壁等の公共工事においては,環境保護及び建設コストの縮減のため,原則としてRC-40(コンクリート塊及びアスファルト・コンクリート塊等から製造された径0ないし40mmの再生砕石)を使用することとしているところ,石坂産業の破砕施設Bにおいても,主としてRC-40を製造することを目的としている。

イ 破砕施設Bの主な機械としては,供給選別機であるグリズリフィーダ(型式GVF926)と3つの破砕機(ジョークラッシャ(型式NCF3018),インパクトクラッシャ(型式NCF1A),スーパーサンダー(型式KMC-1010R))が挙げられる。このうち,ジョークラッシャは,一次破砕に多く使用される粗砕用の機械であり,固定受歯板と動力歯板が対向して圧縮力で破砕する機構となっている。次に,インパクトクラッシャは,2次破砕や3次破砕に用いられることが多い機械であり,高速回転するロータの周囲に取り付けた打撃板で被処理物をたたき飛ばし,衝突板に打ち付けたり,被処理物同士を空中で衝突させて被処理物を破砕する機械である。また,スーパーサンダーは,衝撃磨砕により,被処理物を製砂する機械である。

ウ そして,破砕施設Bにおける一般的な工程は,別紙4のとおりである。すなわち,まず,がれき類がグリズリフィーダに投入されると,そのうち粒径300mmを超えるものはジョークラッシャで破砕され,ジョークラッシャで破砕された破砕物及びグリズリフィーダに投入された時点で粒径300mm以下のもののうち粒径40mmを超えるものは,続いてインパクトクラッシャで粒径40mm以下に破砕され,これにより売却可能な再生砕石(RC-40)となる。

なお,粒径10mm以下に破砕する必要がある場合(RC-10を製造する場合)には補助的にスーパーサンダーで破砕する。

また,投入したがれき類の中にたまたまジョークラッシャやインパクトクラッシャで破砕する必要のない小さながれき類が含まれている場合には,スクリーンからインパクトクラッシャを通さずスーパーサンダーにより処理して10mm以下の粒径の砕石を生成することとなる。

(3)  判断

以上からすれば,石坂産業の破砕施設Bの機械のうち,ジョークラッシャは,大きながれき類を,インパクトクラッシャで効率的に処理し得る大きさにするために粗破砕をする,前処理施設である。そして,インパクトクラッシャは,粗破砕されたがれき類の粒度を均一化し,リサイクル品としてのRC-40に使用可能な粒度とするための主要な破砕施設である。スーパーサンダーは,インパクトクラッシャで破砕処理した物の粒度を更に細かくし,RC-10としてリサイクルすることが必要なときのみ稼働させる後処理施設である。すなわち,破砕施設Bにおいては,主製品であるRC-40の製造に当たっては,必ずインパクトクラッシャによる処理過程を経るし,RC-10を製造する場合であっても,インパクトクラッシャによる処理を経てさらにスーパーサンダーにより破砕することとなる。もっとも,投入したがれき類の中にたまたま小さながれき類が含まれている場合には,切替装置を作動させて,スクリーンからインパクトクラッシャを通さずスーパーサンダーにより処理してRC-10を生成することとなるが,破砕施設Bの被処理物はコンクリート塊であって,その大きさは50cmを超えるものが多いのであるから,インパクトクラッシャを経ずにスーパーサンダーのみによって破砕する可能性は低いものと認められる。

以上によれば,本件申請書にジョークラッシャやスーパーサンダーの機械の仕様,処理能力,処理方法,環境保全対策等の記載がないとしても,その手続が違法とまではいい難い。また,ジョークラッシャはインパクトクラッシャの前処理施設であるからこれらの処理能力を合算することは不相当であり,また,スーパーサンダーは破砕施設Bの主製品であるRC-40の製造には用いられない機械であることからすれば,破砕施設Bの処理能力は,インパクトクラッシャの処理能力をもって決するとしても,不合理とはいえない。そうすると,インパクトクラッシャの処理能力をもって破砕施設B全体の処理能力とした本件申請書の記載は,虚偽とまではいい難く,これを前提としてなされた許可も違法とまではいえない。

5  争点5(破砕施設Cが無許可施設であるか否か,破砕施設Cの個別破砕機に関する審査脱漏の有無,本件申請書に記載された破砕施設Cの処理能力の記載に偽りがあるか否か,破砕施設Cが廃プラスチック類の破砕施設であるかどうか)について

(1)ア  原告らは,まず,破砕施設Cではインパクトクラッシャのほかに2つの破砕機(スーパーサンダー及びハンマークラッシャ)があるところ,石坂産業は,これらの機械を平成13年2月1日以降に設置したのにこの変更について被告から許可を受けていないから本件変更許可は違法であると主張し,仮に上記の変更が平成13年2月1日より以前であったとしても,スーパーサンダー及びハンマークラッシャについては本件申請書の添付図面に機械名の記載があるのみであり,このような申請書の記載のみで判断した被告の審査には重大な瑕疵があると主張している。また,原告らは,丙意見書(甲15)によれば,①上記の変更により,ハンマークラッシャ,スーパーサンダー,風力選別機4機,スクリーン5機が追加され,②石膏ボードの処理工程が加わり,③投資額との関係上処理能力を増加させていないとは考えにくく,④変更後のプラントでは,それ以前よりもはるかに大きな環境影響(騒音・振動・粉じん)があると考えられるから,本件申請書に記載された破砕施設Cの処理能力は虚偽であるとも主張するので,以下検討する。

イ  破砕施設Cの処理能力

(ア) 証拠(甲1・224ないし234頁,甲48,49)及び弁論の全趣旨によれば,破砕施設Cの概要は,次のとおりである。

破砕施設Cは,金属くず,がれき類,ガラスくず及び陶磁器くずを処理する施設である。

そして,破砕施設Cに設置された主な機械は,インパクトクラッシャ(NCF-1A),ハンマークラッシャ,スーパーサンダーの3機であり,このうちハンマークラッシャとは,グレードバー等により衝撃,専断等の複合力で破砕する中砕用の機械である。

また,別紙5のとおり,破砕施設Cに投入された被処理物は,No.1スクリーンで選別される。そして,概ね10cmを超えるサイズのものは手選別ラインに流れ,プラスチックや紙などは可能な限り手選別と取り除かれた後,No.7スクリーンで風力選別を受け,再度プラスチックや紙などが取り除かれ,No.2スクリーンに投入される。一方,10cm以下のものはそのままNo.2スクリーンに投入される。

No.2スクリーンに投入されたがれき類等は,インパクトクラッシャにより,40mm以下の大きさに破砕される。その際,破砕により分離された付着物は,各種スクリーンや磁選機により取り除かれる。そして,付着物が取り除かれたがれき類等は,スーパーサンダーに投入され,さらに,10mm以下の大きさに破砕される。

なお,No.2スクリーンから直接ハンマークラッシャに投入される流れがあるが,これは,がれき類,ガラスくず,コンクリートくず及び陶磁器くずに40mm以下の廃石膏ボードが含まれていた場合に紙と石膏に分離し,石膏を再資源化するためにのみ使われる流れである。

(イ) 以上のように,スーパーサンダーはインパクトクラッシャで破砕されたがれき類等をさらに細かく破砕することにより再資源化をしやすくするための補助的な施設にすぎず,ハンマークラッシャはがれき類等のうち,廃石膏ボードを紙と石膏に分離し,石膏を再資源化するための補助的な施設である。そして,破砕施設Cに投入された被処理物が,インパクトクラッシャを経ずにそれ以外の破砕機のみによって処理されるのは,がれき類等に40mm以下の廃石膏ボードが含まれていた場合のみであって,この場合であっても,40mm以下の廃石膏ボードのみがNo.2スクリーンから直接ハンマークラッシャに投入される場合に限られる。

したがって,破砕施設Cの処理能力は,がれき類等を破砕し,混じりもの又は付着しているものを取り除く役割を有するインパクトクラッシャの能力で決定され,一方その他の個別の破砕機の処理能力は破砕施設Cの処理能力を決するに当たって考慮する必要はないというべきである。

ウ  以上からすれば,インパクトクラッシャの処理能力を基準に破砕施設Cの処理能力を審査することは不合理とまではいい難く,その外にハンマークラッシャやスーパーサンダー等の個別の機械の処理能力等について審査することが,法令上求められているとは解し難い。

そこで,破砕施設Cの審査や処理能力に関し,原告らの主張する違法事由は,いずれも認めることができない。

(2)  次に,原告らは,破砕施設Cにおいてプラスチックが破砕されているのであるから,破砕施設Cが廃プラスチック類の破砕施設の許可を取得していない無許可施設であると主張する。

そこで検討するに,本件許可において,破砕施設Cにおいて処理する産業廃棄物に廃プラスチック類が含まれていない以上,石坂産業が破砕施設Cにおいて廃プラスチック類を処理することが許されないことは当然である。しかし,多種の産業廃棄物が混在して石坂産業に持ち込まれる中で,廃プラスチック類のみを完全に除去して投入することは困難であるといわざるを得ない。そして,破砕施設Cにおいて破砕する産業廃棄物に廃プラスチック類が混入しているとしても,それは廃材等の混合物の破砕に伴う副次的なものに止まり,その比率も乙16によれば,0.4ないし0.6%程度のわずかなものに止まっていると認められ,甲34,35によれば,被告は,石坂産業に対し破砕施設Cの前処理において廃プラスチック類をできるだけ分別し,破砕施設Cにできるだけ投入しないよう指導していることが認められる。これらを考慮すると,破砕施設Cが無許可の廃プラスチック類処理施設に当たるとの原告らの主張は採用できない。

6  争点6(破砕・減容施設が無許可施設であるか否か及び本件申請書に記載された破砕・減容施設の処理能力に偽りがあるか否か)について

(1)  原告らは,石坂産業の破砕・減容施設は,「廃プラスチック類の破砕施設」(施行令7条7号)に該当し,かつ,1日当たりの処理能力が5tを超えるから,「産業廃棄物処理施設」(法15条1項)に該当し,施設の設置については設置許可を要する施設であるのに,石坂産業は,破砕・減容施設について設置許可を受けておらず,また,本件申請書に記載された破砕・減容施設の処理能力は虚偽の記載であって,これを見逃してなされた本件変更許可は違法であると主張している。

(2)  そこで検討するに,施行令7条は,生活環境の保全に支障を及ぼすおそれがあるために法15条に基づく産業廃棄物処理施設設置許可を要する施設を限定列挙したものであるところ,施行令7条7号には,「廃プラスチック類の破砕施設」が「産業廃棄物処理施設」の一つとして規定されているが,廃プラスチック類の溶融施設や減容施設は同条には掲げられておらず,「産業廃棄物処理施設」には該当しない。これは,破砕施設が,産業廃棄物の処理に際し,騒音,振動等が発生し生活環境の保全に支障を及ぼすおそれがある一方,溶融施設や減容施設については,産業廃棄物の処理に際し,生活環境の保全に支障を及ぼすおそれが許可制を採用するほどに高いとはいえないことにあるものと解される。

そして,一つの施設において,破砕のほか,溶融・減容等複数のプロセスをたどって産業廃棄物を処理する施設について,破砕施設と解すべきか,それとも溶融・減容施設等と解すべきか否かについては,当該施設における破砕工程とその他の工程の位置付けにかんがみ決すべきである(甲18の1ないし4は,環境省の,各都道府県からの疑義照会に対する回答であるが,これらも同趣旨であると解される。)。

本件申請書及びその添付資料(甲1・169ないし197頁,甲3,甲18の1ないし4)からすれば,本件破砕・減容施設の概要は次のとおりであると認められる。すなわち,同施設は,まず,紙くず,繊維くず,廃プラスチック類の廃棄物を破砕機(型式SA-55X)で破砕し,破砕したもの全量をベルトコンベアで減容固化機(型式DP-20S)に投入し,減容処理される。減容固化機は,具体的には小熊鉄工所製の「DUAL PRETISER」,型式DP-20Sであって,「DUAL PRETISER」,型式DP-20Sに投入された被処理物は,2本のスクリュー軸により破砕・混練されながら前方へ送り込まれ,ダイスプレートの排出口付近において溜まって圧縮され,直径15ないし35cmの製品となってダイスプレートから押し出され,その後処理された産業廃棄物は,ほかの業者により,安定型最終処分場に運搬され,処分される。

そうすると,石坂産業の破砕・減容施設は,破砕,圧縮による産業廃棄物の減容を図る施設であって,破砕工程の後に行われる圧縮工程は,被破砕物の形状を変化させ,単に破砕が溶融・減容のための前処理とまではいえないから,同施設は,全体として「廃プラスチック類の破砕施設」に該当すると解するのが相当である。そして,同施設の処理能力が1日当たり5tを超えていれば,同施設の設置及び変更には許可を要することとなるので,次に破砕・減容施設の処理能力について検討する。

(3)  破砕・減容施設の処理能力

ア 甲1・172頁,174ないし183頁によれば,破砕・減容施設のうちの破砕機(SA-55X)のメーカーである株式会社小熊鉄工所は,破砕能力の計算式及び値を次のとおりとしている。

破砕能力=B2×A×Z×N×30×γ×10-6×μ×η(kg/h)

B:回転刃サイズ 45mm

A:切削距離  100mm

Z:回転刃数    60刃

N:回転数   120rpm

γ:カサ比重   0.05

μ:破砕効率   0.45

η:排出効率    0.6

なお,上記のカサ比重の値は,株式会社小熊鉄工所が,廃プラスチック類30%,紙くず30%,繊維くず40%を混合した被処理物の破砕前の重量を計測し算出したカサ比重の値に等しく,また,破砕効率及び排出効率の値は,株式会社小熊鉄工所の経験に基づく値である。

そして,上記の計算式に上記各値を当てはめれば,破砕・減容施設における破砕機の処理能力は,590.49kg/hであり,稼働時間を一日8時間とすると,一日当たりの処理能力は4.72392tとなる。

イ 次に,甲1・173頁,175頁,184ないし185頁によれば,破砕・減容施設における減容固化機(DP-20S)のメーカーである株式会社小熊鉄工所は,破砕能力の計算式及び値を次のとおりとしている。

スクリュー2本の理論上の搬送能力(Q0)≒33.8(m3/h)

もっとも,2本のスクリューは,部分的に重なっているところ,重なっている部分の面積は,2本のスクリューの断面積の約6%である(α1)。

また,2本のスクリューは,それぞれ厚みがあるところ,スクリューの厚みを除いた1ピッチ当たりの容積は,1ピッチ当たりの容積の約88%である(α2)。さらに,減容固化機全体の押し出し効率は,実績によれば,約54%である(α3)。

したがって,2本のスクリューの実際の処理能力(減容固化機の処理能力,Q1)は,次の計算式により,0.6t/hとなる。

2本のスクリューの処理能力(Q1)

=Q0×(1-α1)×α2×α3×カサ比重(0.04)

=33.8×0.94×0.88×0.54×0.04

≒0.6

上記カサ比重は,株式会社小熊鉄工所が,廃プラスチック類30%,紙くず30%,繊維くず40%を混合した被処理物の破砕後の重量を計測したところ,0.039t/m3であったことによる。

そして,稼働時間を一日8時間とすると,一日当たりの処理能力は4.8tとなる。

ウ しかしながら,廃棄物処理施設の処理能力は,各産業廃棄物を単独で処理する場合の公称能力をもって判断するものであるから,処理業者が通常投入を予定している廃プラスチック類の割合にかかわらず,廃プラスチック類単独での処理能力をもって判断を行うべきである(甲18の2,53)。しかるに,上記破砕・減容施設での破砕機SA-55X及び減容固化機デュアルプレタイザーDP-20での処理能力の計算においては,いずれも廃プラスチック類30%・紙くず30%・繊維くず40%の混合物を投入する前提で破砕前のカサ比重0.05と破砕後のカサ比重0.04が採用されているが,本件破砕・減容施設に投入される廃棄物が,常に廃プラスチック類30%・紙くず30%・繊維くず40%の混合物あるいはそれに近似するものに固定されるという根拠は特に本件証拠上見出すことはできない。

また,甲4によれば,建設産業廃棄物においては,廃プラスチック類のカサ比重は0.1~0.3とされ,被告が平成10年3月に発行した「建物解体廃棄物の適正処理に関する調査報告書」(乙16)の調査では,建物解体廃棄物で発生する廃プラスチック類のカサ比重は0.2とされていること,甲21によれば,各地方自治体の産業廃棄物税等の換算係数では廃プラスチック類のカサ比重は0.35とされている例が多いが,東京都では板材は0.3,発泡スチロールは0.1とし,埼玉県では品目別重量換算係数を0.15としていることが認められる。

また,甲21によれば,産業廃棄物のカサ比重で,紙くずは0.30,繊維くずは0.12程度としているものが多く,これらについて0.05程度としているものは見当たらない。

そして,甲3の小熊鉄工所のパンフレットにおいては,破砕機SA-55Xの処理能力は「軟質プラスチック0.3~1.5t/h,硬質プラスチック1.0~5.0t/h」との記載があり,減容固化機デュアルプレタイザーDP-20の処理能力としては,「プラスチック系都市ゴミ0.8t/h,プラスチック系産業廃棄物1.0t/h,梱包用プラスチック等0.6t/h」の記載がある。

以上の事実を総合すると,廃プラスチック類の場合,それが軟質系のものであっても,カサ比重は少なくとも0.1以上とみるのが相当であり,本件の破砕・減容施設において廃プラスチック類単独で処理する場合,その能力としては,メーカーである小熊鉄工所の示した機械の破砕効率や排出効率を前提とした場合にも,1日当たり5tを超えるものとなるから,本件破砕・減容施設は設置に許可が必要となる産業廃棄物処理施設に該当するというべきである。

エ これに対して,被告は,甲3の4枚目には,圧縮破砕機実験データとして廃プラスチック系統産業廃棄物のカサ比重0.05の記載があることや,乙21の2(小熊鉄工所の廃プラスチック類比重実測データ)では11の会社の産廃系プラスチックや建廃系プラスチックの破砕前カサ比重や破砕後カサ比重を調べたところ,前者の平均が0.05,後者の平均が0.04とされていること等をもって,本件破砕・減容施設の処理能力計算においてカサ比重を0.05あるいは0.04としていることに不合理はないと主張する。しかし,処理能力の判定は,飽くまで当該産業廃棄物処理施設において一般的に処理し得る品目についての客観的処理能力を問題とすべきで,そこで用いられるカサ比重も一般的に承認されている範囲のものを採用するのが相当である。しかるに,甲3の4枚目や乙21に記載されている廃プラスチック類産業廃棄物のカサ比重の値は客観性に乏しいといわざるを得ず,上記のカサ比重の値の記載を考慮したとしても,前記判断を左右するものではない。

(4)  ところで,産業廃棄物処理施設は,産業廃棄物の処分業にとって中核的な役割を果たすものであるから,その設置について法律所定の許可を受けていない場合には,そのような施設は,各種産業廃棄物の処分に適した施設とは到底いい難く,このような施設を「その事業の用に供する施設」としてなされた産業廃棄物処分業許可は,法14条の2第2項,14条6項1号,規則10条の5第1号イの要件を欠いた違法を帯びるものといわざるを得ない。そうすると,この点についての原告らの主張は理由がある。

7  争点7(破砕施設D,Eが無許可施設であるか否か及び本件申請書に記載された破砕施設D,Eの処理能力に偽りがあるか否か)について

(1)  原告らは,石坂産業の破砕施設D,Eは,いずれも,「廃プラスチック類の破砕施設」(施行令7条7号)に該当し,かつ,1日当たりの処理能力が5tを超えるから,「産業廃棄物処理施設」(法15条1項)に該当し,施設の設置については設置許可を要する施設であるのに,石坂産業は,これらの施設のいずれについても設置許可を受けておらず,また,本件申請書に記載された破砕施設D,Eの処理能力は虚偽の記載であって,これを見逃してなされた本件変更許可は違法であると主張している。

(2)  そこで,まず,破砕施設D,Eの処理能力を検討することとする。

ア 破砕施設D

(ア) 破砕施設Dは,繊維くず(畳)及びじゅうたんや径の太い塩ビ配管等の硬質系の廃プラスチック類を処理する施設であり,主な機械は破砕機100-3445Tである(甲1・198頁,証人庚)。

(イ) 甲1・202ないし215頁によれば,破砕機100-3445Tのメーカーである株式会社松本鉄工所は,次の計算式及び値を用いて,同破砕機の処理能力を計算している。

処理能力=γ×Q

Q:破砕能力

Q={(V×n1×Z1)+(V×n2×Z2)}×η×60(t/h)

n1:刃回転数(高速側) 10rpm

n2:刃回転数(低速側)  8rpm

Z1:刃の枚数         8枚

Z2:刃の枚数       8.5枚

D:刃の大径       456mm

d:刃の小径        356mm

B:刃厚    30mm×2=60mm

V:刃切削容積

V=(π/8)B(D2-d2)=1.912×10-3(m3)

η:破砕効率

廃プラスチック類 0.215

畳          0.135

γ:カサ比重

廃プラスチック類  0.15

畳           0.25

なお,上記の破砕効率及びカサ比重の値は,株式会社松本鉄工所の実績データに基づくものである。

上記の計算式に各値を当てはめて計算すると,同破砕機の処理能力は,廃プラスチック類を処理する場合,約0.55t/hとなり,稼働時間を1日8時間とすると,1日当たりの処理能力は,約4.4tとなる。また,畳を処理する場合,同破砕機の処理能力は,0.575t/hとなり,稼働時間を1日8時間とすると,1日当たりの処理能力は,約4.6tとなる。

以上からすれば,破砕施設Dの処理能力は,1日当たりの処理能力は,4.4tないし4.6tであると認められる。

イ 破砕施設E

(ア) 破砕施設Eは,ビニール,径の細い塩ビ配管,壁紙等軟質系の廃プラスチック類を処理する施設であり,主な機械は破砕機SCL-30である(甲1・216頁,証人庚)。

(イ) 甲1・217ないし223頁によれば,破砕機SCL-30のメーカーである株式会社タジリは,廃プラスチック類を同破砕機により処理した場合のテストデータによれば,1時間当たり最小で200kg,最大で470t(ただし,測定時間が短時間(2,3分)のものは除く)であった。また,株式会社タジリは,次の計算式及び値を用いて,同破砕機の処理能力を計算している。

処理能力=(外径2×π/4-内径2×π/4)/(360°/切込角)×刃数×刃幅×使用枚数×回転数×噛込率×カサ比重×60

=(0.382×π/4-0.312×π/4)/(360°/20°)×4×0.048×20×13×0.62×0.12×60

≒0.47(t/h)

そして,稼働時間を1日8時間とすると,1日当たりの処理能力は,約3.76tとなる。

以上からすれば,破砕施設Eの処理能力は,1日当たりの処理能力は,約3.76tであると認められる。

ウ 原告らの主張について

(ア) これに対し,原告らは,本件申請書及びその添付資料において破砕施設D,Eの処理能力の計算に用いられているカサ比重の数値はいずれも虚偽であると主張し,その根拠として,①ほかの自治体や文献においては,廃プラスチックのカサ比重は0.1ないし0.3程度とされていること,②破砕機の破砕効率は通常50%を超えること,③実際の処理量が処理能力を上回っていること,④処理能力を偽ることは,石坂産業にとって,建築基準法51条の許可手続を経ることなく施設を設置し得る点で利益があることを挙げている。

しかしながら,破砕施設D,破砕施設Eの処理能力計算において用いた破砕効率や噛込率の数値は,各破砕機のメーカーである株式会社松本鉄工所又は株式会社タジリが実験又は実績に基づき算出した数値であると認められる。また,上記計算に用いられたカサ比重の値は一般的に承認されている範囲内のものであって,その数値が虚偽あるいは不適当であると認めるに足りる証拠はない。

次に,原告らは,調査報告書(甲5)に基づき,実際の処理量が許可量を超えることから,本件申請書に記載された破砕施設D,E,破砕・減容施設の処理能力が虚偽である旨主張する。しかしながら,原告らによる調査は,調査期間も限定され(7日間),目視によって搬入量を調査したものであるから,上記調査報告書に記載された本件施設に搬入された廃プラスチック類の容積は直ちに採用し得るものではない。

また,原告らは,石坂産業やメーカーが建築基準法51条の許可を潜脱するために恣意的にカサ比重の数値を設定した可能性を指摘するが,このような事実を認めるべき十分な証拠はない。

(3)  さらに,原告らは,破砕施設D,Eは一体の施設であるから,各施設の処理能力を合算して「産業廃棄物処理施設」の該当性を判断すべき旨主張する。

確かに,同一の種類の産業廃棄物を処理する複数の施設であって,施設の構造,処理工程からみて各施設が一連となっている場合や,処理工程が独立してはいるものの,同一の種類の産業廃棄物を処理する同一の施設であって,同一の製品の製造を目的としている場合には,複数の施設ではあっても,実質的には,一体の施設として,処理能力を算定し,「産業廃棄物処理施設」に該当するか否かを判断するのが相当である。原告らが主張の根拠とする平成9年9月30日衛環第251号第2の2及び昭和57年6月14日環産第21号問65及びこれに対する回答(甲22)において,複数の機械や燃焼室が「一体として機能」している場合に一つの施設としてとらえるべきであるとされているのも,同趣旨に基づくものとして理解し得る。

そこで検討すると,(2)ア,イにおいて認定したとおり,破砕施設Dは,繊維くず(畳)及びじゅうたんや径の太い塩ビ配管等の硬質系の廃プラスチック類を処理する施設であり,主な機械は破砕機100-3445Tである。破砕施設Eは,ビニール,径の細い塩ビ配管,壁紙等軟質系の廃プラスチック類を処理する施設であり,主な機械は破砕機SCL-30である。そうすると,上記各施設の被処理物は共通しておらず,また,施設の構造を見ても,独立して稼働する形態になっていると認められる。

また,甲1・147頁,291ないし333頁によれば,上記各施設により処理された被処理物は,それぞれ別個の保管施設において保管されると認められるし,甲1・143頁によれば,被処理物の委託先や処理方法も同一とはいえない。

そうすると,破砕施設D,Eは,一体として機能するものということはできず,いずれも独立別個の施設であるというべきである。

なお,破砕施設D,Eにおいて,硬質・軟質のいずれの廃プラスチック類をも処理することが可能であっても,上記認定を左右するものではない。

(4)  以上より,本件申請書に記載された破砕施設D,Eの処理能力に不当,不適切な点があるとは認められず,これらは,いずれも,法15条1項にいう「産業廃棄物処理施設」に該当しないものであるから,争点7に係る原告らの主張は,理由がない。

8  争点8(石坂産業が「その業務に関し不正又は不誠実な行為をするおそれがあると認めるに足りる相当の理由がある者」に該当するか否か)について

(1)  廃棄物処理法14条の2第2項,14条6項2号,同条3項2号イが準用する同法7条3項4号ト(おそれ条項)は,産業廃棄物処理業の許可申請者に係る要件として,「その業務に関し不正又は不誠実な行為をするおそれがあると認めるに足りる相当の理由がある者」に該当するときは,産業廃棄物処理業の許可をなすことは許されないと規定する。これは,申請者が,法が定めたそのほかの欠格要件には該当しないものの,申請者の資質及び社会的信用の面から業務の適切な運営を期待できないことが明らかである者を排除するために設けられたもので,一般的には,例えば過去において,許可取消処分と再申請を何度となく繰り返し許可を与えても,また取消処分を受けることが明らかである場合などがこれに該当するとされている。

ところで,厚生省通知(平成12年9月29日衛産第79号。本件通知)によれば,上記おそれ条項の取扱いについては,更に次のような運用基準が定められていることが認められる。

「法第14条第3項第2号イ及び第6項第2号並びに第14条の4第3項第2号及び第6項第2号による法第7条第3項第4号ホの規定(以下「おそれ条項」という。)は,法第7条第3項第4号イからニまで及び第14条第3項第2号ロからヘまでのいずれにも該当しないが,申請者の資質及び社会的信用の面から業務の適切な運営を期待できないことが明らかである場合には,許可をしないことができること。具体的には,次の場合がこれに該当するものとして考えられること。

① 過去において,繰り返し許可の取消処分を受けている場合

② 法,浄化槽法,令第4条の5各号に掲げる法令若しくはこれらの法令に基づく処分に違反し,又は刑法第204条,第206条,第208条,第208条の2,第222条若しくは第247条の罪若しくは暴力行為等処罰に関する法律の罪を犯し,公訴を提起され,又は逮捕,勾留その他の強制の処分を受けている場合

③ ②に掲げる法令に係る違反を繰り返しており,行政庁の指導等が累積している場合

④ その他上記に掲げる場合と同程度以上に的確な業の遂行を期待し得ないと認められる場合」

しかしながら,弁論の全趣旨によれば,石坂産業が①に規定されているように,過去に許可の取消処分を受けた事実は一度もなく,石坂産業及びその役員等が②の法令に基づく処分に違反し,又は,罪を犯し,公訴が提起され,又は逮捕,勾留その他の強制の処分を受けている事実はないことが認められる。

(2)ア  これに対し,原告らは,下記の各事情からすれば,石坂産業は,その業務に関し不正又は不誠実な行為をするおそれがあると認めるに足りる相当の理由がある者」に該当すると主張する。すなわち,要約して再掲すると,

① 石坂産業は,産業廃棄物処理業者としての許可を受けていない業者に対し,廃棄物の処理を委託・再委託して法12条3項,14条9項,26条1項に違反する行為をし,平成10年3月26日に違反行為の再発防止を勧告された(甲54)。

② 石坂産業の廃油処理施設は,1日当たり1mを越える処理能力を有し3ており,「産業廃棄物処理施設」に該当するのに(法15条,施行令7条5号イ),設置・変更について許可を得ず,同施設で操業している。

③ 焼却施設A,Cにおいて,設置許可により処理が認められていない産業廃棄物(廃プラスチック類,感染性廃棄物,廃アルカリ,廃酸処理の汚泥)を焼却していた。

④ 本件変更許可によれば,石坂産業は,「処分および保管は,2に掲げる施設で行うこと」とされているが,石坂産業は,これ以外の場所で処分,保管を行っていた(甲55ないし57)。

⑤ 石坂産業は,維持管理基準に違反し,恒常的に許可申請書に記載した操業時間を越えて焼却施設を稼働させ(法15条の2の2,施行規則12条の6第2号違反),焼却施設においては,廃棄物を800度以上の高温で焼却することができず(施行規則12条の7第5項柱書,1号,施行規則4条の5第1項2号ヘ違反),焼却灰の飛散や排ガスの発生により,周辺地域を汚染してきており(施行規則12条の6第3号,5号違反),著しい悪臭,騒音の発生により,周辺の生活環境を破壊してきた(施行規則12条の6第5号,同第7号違反)

⑥ 石坂産業においては,破砕用の木くず等の廃棄物が保管基準を超えて保管されている(法12条の6第1号違反)。

⑦ 石坂産業は,大気汚染防止法2条2項等に基づくばい煙発生施設設置届出書を,焼却施設Aにつき昭和63年12月5日,焼却施設Cにつき平成3年1月17日に被告に提出しているが,その後,これらの施設における焼却物を変更したり処理量を大幅に増加させるなどしたにもかかわらず,ばい煙発生施設変更届出書を提出していない(甲56,58ないし61の2)。

また,焼却施設Bについては,平成3年に設置しているにも拘わらず,平成10年9月21日まで,ばい煙発生施設設置届出書の提出をしなかった(甲60ないし62の2)。さらに,焼却施設A,Cにつき,平成10年3月までに特定産業廃棄物処理施設使用届を提出しなければならなかったにもかかわらず,平成11年3月5日に至り,ようやく同書面を提出した(甲63の1,2)。また,平成13年5月ころ,焼却施設Aにつき,施設の煙道を変更する工事を行ったにもかかわらず,ばい煙発生変更届出書を提出していなかった(甲64の1,2)。

このように,石坂産業は,大気汚染防止法上必要な届出を怠ったり,届出を遅延したりということを繰り返している。

⑧ 石坂産業は平成9年には焼却施設A,Cにつき,法15条の2の許可を得ることなしに大規模な変更を行い,また,破砕施設A,Cについても,平成13年3月に,許可を得ることなしに破砕機を追加する変更を行った。

イ  そこで,これらを順次検討すると,次のとおりである。

① ①の点は,甲54によれば,平成9年ころ,石坂産業が廃棄を受託した廃棄物についてある業者に埋立てを委託したところ,廃棄物が無許可で川越市内の場所に不法投棄されたため,石坂産業その他が回収し,被告は,平成10年3月26日,石坂産業に対し,「このような違反行為の再発防止を念頭におき,廃棄物の適正処理に万全を期するように勧告します。」との勧告を行ったことが認められる。

② ②はこれを認めるに足りる証拠は本訴事件では提出されていないし,弁論の全趣旨によれば,バーナー焼却施設は,平成14年5月15日に廃止,撤去されたと認められる。

③ ③は,弁論の全趣旨によれば,石坂産業は,被告の立入検査の際,焼却炉A,Cにおいてビニール系廃棄物の混入した廃棄物の焼却をしていたことから,廃プラスチック類混入の事実を指摘され,被告の職員から分別するよう指導を受けていた事実が認められる。しかし,感染性廃棄物や廃アルカリ等を無許可で処理していたとの点は,これを認めるべき証拠は本訴事件では提出されていない。そして,焼却炉A,Cは,解体現場から発生したがれき類処理が中心で,それらの中にある程度の廃プラスチック類が付着していることがあり,それらを完全に取り除くことは困難で(乙16によればその重量比率は0.4ないし0.6%程度とされている。),被告は,石坂産業に分別の徹底を指導してきたこと,焼却施設ABCは,いずれも平成14年5月15日に廃止され,撤去されたと認められる。

④ ④の点は,甲55ないし57によれば,石坂産業は,平成12年6月ころ,許可地外に移動式のふるいを設置したり,選別コンベアの一部を建物外に出したり,許可地外である選別施設裏の施設において混合廃棄物の選別作業を行っていたというものである。

上記証拠によれば,原告ら主張の事実が認められる。しかし,これらの違反は,被告の立入検査の機会に発見されたものであり,弁論の全趣旨によれば,被告の是正指導を受けて,間もなく石坂産業は是正したことが認められる。

⑤ ⑤は,甲56及び弁論の全趣旨によれば,石坂産業は焼却炉については午前8時から11時間ないし12時間の稼働時間として許可を受けていたところ,石坂産業は,午前5時,6時ころから作業を開始し,午後10時ころまで18時間くらい連続焼却炉を稼働していたこともあったこと,また,廃棄物処理法施行規則では,ダイオキシン類等の有害物質の発生や不完全燃焼よるばいじん等の発生を防止するため800度以上の高温で廃棄物を焼却しなければならないとされていところ,燃焼温度が高温に達しない日があったことが認められる。しかし,原告らの主張する焼却灰の飛散,排ガスの発生による周辺地域の汚染,悪臭,騒音発生による周辺の生活環境の破壊等については,その被害の程度等は具体的に明らかとはいえない。

そして,焼却施設ABCは,いずれも平成14年5月15日に廃止され,撤去されたと認められる。

⑥ ⑥の点は,弁論の全趣旨によれば,平成13年2月から8月にかけての被告の立入検査の際,石坂産業には,破砕用の木くず等が保管基準を超えて保管されていることが発見されたことがあり,被告は,これらの状態について是正を指導し,間もなく石坂産業はその指導に従ったことが認められる。現在も同様の違反状態が継続していると認めるに足りる証拠はない。

⑦ ⑦については,確かに,石坂産業の1号炉(焼却炉A),2号炉(焼却炉C)の当初のばい煙発生施設設置届出(甲58,59)の内容と平成3年2月の産業廃棄物処理業変更許可申請書(甲60)を見ると,焼却物,処理量などでかなりの相異があるから,石坂産業としては,焼却炉A及びC(1,2号炉)についてばい煙発生施設変更届を提出すべきであったと認められる。また,甲61の2,62の2,63の2,64の2によれば,石坂産業は,平成6年8月23日,同10年9月21日,同11年3月5日,同13年7月13日の4回,それぞればい煙施設変更届,特定産業廃棄物処理施設使用届の遅延について始末書や遅延理由書の提出を求められたことが認められる。

⑧ ⑧の点は,焼却施設A,Cについては,無許可設置施設と認めるべき十分な証拠はなく,破砕施設A,Cについても,無許可で破砕機を追加したとは認められないことは,争点3,5で判断したとおりで,この点をおそれ条項適用の根拠とすることは相当ではない。

⑨ ⑨の点は,乙4,5によれば,平成3年3月の許可において破砕施設BCでは「建設廃材」の処理が許可されていたところ,その後平成6年に石坂産業において,当該破砕施設でガラス陶磁器くず,金属くずを処理したいとのことで事業範囲許可申請が出されたが,もともと許可品目「建設廃材」の中で金属くずやガラスくず,陶器くずを処理しても必ずしも違法ではなかったことが認められる。そうすると,⑨の点は,「おそれ条項」の考慮事項とすることは相当ではない。

⑩ ⑩の点は,弁論の全趣旨によれば,④のうちの,被告の立入検査の際に選別コンベアの一部を建物外に出していることが発見されたことと同一の違反を指していると認められるところ,前記のとおり,石坂産業は,被告の是正指導を受けて,間もなく是正したことが認められる。

⑪ ⑪の埼玉県公害防止条例(現埼玉県生活環境保全条例)の規定に基づく「指定粉じん発生施設」及び大気汚染防止法に基づく「一般粉じん発生施設」を事前の届出なしに設置したとの点は,弁論の全趣旨によれば,ほぼ原告ら主張のとおりの違反があったと認められる。しかし,その後石坂産業は,被告の指導に従い,手続を履践していることが認められる。

⑫ ⑫の石坂産業が行っている手散水等による粉じん発生防止策では不十分で,大気汚染防止法18条の3別表6に違反しているとの点は,これを認めるに足りる証拠はない。かえって,乙6,7に照らせば,散水による粉じんの発生防止策は一定の効果があると窺われる。

ウ  以上に基づく総合的判断

以上の原告らの主張を通観すると,確かに焼却炉A,Cで許可なく廃プラスチック類が焼却されていたこと,焼却炉の稼働時間が許可されていた午前8時から11時間ないし12時間を超えていたこと,ばい煙施設変更届や特定産業廃棄物処理施設使用届の不履行や遅延などがあったこと等は客観的証拠から明らかであり,特に,施設操業時間違反は許可の条件の根本に関わるもので軽視することはできない。このほかに上記①ないし⑦で原告らが指摘する事項の中には,原告らの調査結果等に照らし一定の根拠があると認められるものがあることが認められる。そうすると,平成3年から13年にかけて,石坂産業に廃棄物処理法や大気汚染防止法などの法令違反や,許可条件に違反する操業状態がいくつかあったことが窺われ,これらからすると,「石坂産業は,様々な法令違反を繰り返してきたから,『その業務に関し不正又は不誠実な行為をするおそれがあると認めるに足りる相当な理由がある』場合に該当する」とする原告らの主張も根拠が全くないということはできない。

しかしながら,原告らの指摘する違反のうち②,③,⑤,⑦はいずれも焼却炉に関わることであるところ,焼却炉は既に述べたとおり,すべて平成14年5月15日に廃止されており,今後②,③,⑤,⑦に述べられたような違反が重ねられる可能性はない。また,①については,同様の違反が再度重ねられたとは本件証拠上認められず,④,⑥,⑪については,いずれも被告の是正指導により,間もなく石坂産業はその指導にしたがい違法な状態を是正したと認められる。

そして,先にみたように,「おそれ条項」は,申請者につき法が定めた欠格要件には該当しないものの,申請者の資質や社会的信用の面から業務の適切な運営を期待できないことが明らかな者を排除するために設けられているもので,おそれ条項を適用すべきかどうかの判断は,申請者のこれまでの業務内容や事業実績,法令違反の程度や内容,改善の状況その他諸般の事情を考慮した上で,許可権者の合理的な裁量に委ねられていると解せられる。ところで,石坂産業については,これまで許可の取消しや業務の全部又は一部の停止等の処分を受けたことはなく,廃棄物処理法や大気汚染防止法等の法令違反で役員等が公訴を提起されたり,逮捕,勾留その他の強制処分を受けたこともないことが認められる。また,石坂産業が被告の指導に従わず,許可に違反した違法な操業状態が長期間継続したなどの事態は本件証拠上認め難い。これらを勘案すると,石坂産業の事業実績,法令違反の内容,程度,これまでの行政処分や行政指導の内容,改善状況等から,石坂産業には上記にみたような違反はあるが,それらを考慮したとしても,申請者の資質や社会的信用の面からみて業務の適切な運営を期待できないと認められる相当な理由がある場合には当たらず,「おそれ条項」を適用しないとした被告の判断が,著しく不合理で,裁量の範囲を逸脱した違法なものであるとまではいえない。

以上から,「おそれ条項」に関しての原告らの主張も採用できないというべきである。

12 結論

以上の次第で,原告番号27,46,48ないし52,56ないし61,63,64,70ないし72の原告らの訴えは,原告適格がないものとして却下を免れず,その余の原告らの請求は,本件変更許可のうち事業範囲「破砕・減容:廃プラスチック類,紙くず,繊維くず 以上3種類」の部分の取消しを求める部分は理由があるが,その余の部分は理由がない(なお,変更許可は全体として一個の処分とも考えられるが,産業廃棄物の処理は,産業廃棄物処理施設ごとに処分の方法が異なるのが通例であり,変更許可申請も変更前の産業廃棄物処分業許可の事業の用に供する施設のすべてについて申請するのではなく,変更に係る事業の用に供する施設についてのみ施設の書類,数量,設置場所,処理能力等を記載した申請書を提出すれば足りるとされていること,変更許可には事業の範囲を処分の方法ごとに区分して取り扱う産業廃棄物の種類を記載することとされていること等に照らすと,本件の場合には変更許可全体を取り消すのではなく,事業範囲中間処分業のうち,瑕疵事由のある「破砕・減容:廃プラスチック類,紙くず,繊維くず 以上3種類」の限度で取り消すことが相当である。)。

よって,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 豊田建夫 裁判官 富永良朗 裁判官 志村由貴)

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