さいたま地方裁判所 平成14年(行ウ)8号 判決 2002年10月16日
原告
長内経男(X)
(ほか7名)
被告
さいたま市長(Y1) 相川宗一
同
(さいたま市長) 相川宗一(Y2)
上記2名訴訟代理人弁護士
新井修市
横山豪
主文
1 原告野坂実の訴えをいずれも却下する。
2 その余の原告らの請求をいずれも棄却する。
3 訴訟費用は、原告らの負担とする。
事実及び理由
第1 当事者の求めた裁判
1 請求の趣旨
(1) 被告さいたま市長相川宗は、旧浦和市、大宮市及び与野市の三市(以下「旧三市」という。)の配置分合(合併)前に旧大宮市議会の議員であったさいたま市議会の議員(以下「旧大宮市議」という。)に対する報酬、期末手当、同加算措置分及び費用弁償(以下、単に「報酬等」という。)の支給をしてはならない。
(2) 被告相用宗一は、さいたま市に対し、さいたま市長が旧大宮市議に対して既に支給した報酬等の金員相当額(平成13年12月21日以降在任分)及びこれに対する平成14年2月20日から支払済みに至るまで年5分の割合による金員を支払え。
(3) 訴訟費用は、被告らの負担とする。
(4) 仮執行の宣言
2 本案前の答弁
本件訴えをいずれも却下する。
3 請求の趣旨に対する答弁(被告両名)
原告らの請求をいずれも棄却する。
4 訴訟費用は、原告らの負担とする。
第2 事案の概要
1 事案の要旨
本件は、さいたま市の住民である原告らが、被告さいたま市長(以下「被告市長」という。)が、旧三市の配置分合(以下「本件合併」という。)前に旧大宮市の議会の議員であったさいたま市の議会の議員(旧大宮市議)に対し、合併後も報酬等を支給することが憲法違反等の理由により違法な公金の支出に当たると主張して、さいたま市長に対し将来にわたる上記報酬等の支給の差止めを、また、さいたま市に代位して、さいたま市長である被告相川宗一個人(以下「被告相川」という。)に対し、本件合併後に既に支払われた上記報酬等相当額の損害賠償を求める住民訴訟である(なお、損害賠償請求に係る遅延損害金の始期は、被告相川に対する本訴状送達の日の翌日である。)。
2 基本的事実関係(証拠等の摘示のない事実は、争いのない事実である。)
(1) 原告らは、さいたま市の住民である。
被告相川は、さいたま市長の職にあり、さいたま市の予算の執行権限を有する者である。
(2) 平成12年9月26日、旧三市の協議により、旧三市の議会の議員は、市町村の合併の特例に関する法律(以下「合併特例法」という。)7条1項1号の規定を適用し、本件合併後2年間引き続き、さいたま市議会の議員として在任する旨の協議が成立した(同月25日、旧三市の各市議会による議決がされた。同法6条8項)。
この結果、旧大宮市議の旧大宮市議会の議員としての在任期間は、平成9年12月21日から平成13年12月20日までであったところ、上記の協議により、旧大宮市議のさいたま市議としての在任期間は、平成15年4月30日までとなった。
(3) 平成13年5月1日、さいたま市議会において、「さいたま市議会の議員の報酬、期末手当及び費用弁償に関する条例」(同日条例第36号)が成立し、その後、同条例は、同年12月28日に改正された(同日条例第320号、以下、同日改正された上記条例を含め「本件報酬条例」という。)。
本件報酬条例に規定されたさいたま市議会の議員の報酬の概要は、以下のとおりである。
ア 報酬(2条)
月額 62万1000円
イ 期末手当(5条)
3月分〔報酬月額+(報酬月額×20/100)〕×55/100
6月分〔報酬月額+(報酬月額×20/100)〕×195/100
12月分〔報酬月額+(報酬月額×20/100)〕×200/100
(12月分は、上記改正前は、〔報酬月額+(報酬月額×20/100)〕×205/100であった。)
ウ 費用弁償(6条)
議員が本会議、常任委員会、議会運営委員会又は特別委員会に出席したときは、1日につき5000円を支給する。
(4) 被告相川は、さいたま市長として、旧大宮市議に対し、平成13年12月21日以降、上記の報酬等を支出(以下「本件公金支出」という。)しており、今後も支出してゆく予定である。
(5) 原告らは、上記のとおり本件公金支出がされる予定であるとして、同月18日ないし同月21日、地方自治法242条に基づき、監査請求(以下「本件監査請求」という。)をし(〔証拠略〕)、さいたま市監査委員は、平成14年1月8日付けで、原告野坂の本件監査請求を却下し、その余の原告の本件監査請求を棄却した(〔証拠略〕)。
(6) 原告らは、同年2月7日、上記監査結果を不服として、本訴を提起した。
3 争点に関する当事者の主張
(1) 争点(1)(本案前の主張)について
ア 被告ら
(ア) 原告らの請求の趣旨の記載は、請求内容が特定されていない。
(イ) 原告らが適法な住民監査請求を経たことについての主張が不十分であり、原告らには原告適格が認められない。
イ 原告ら
(ア) 原告ら主張の請求の趣旨において、請求の内容は十分に特定されている。
(イ) 被告らは、本件監査請求についての事実の詳細を承知しているはずである。
(2) 争点(2)(本件公金支出の違法性)について
ア 原告ら
(ア) 憲法等違反
公職選挙法117条所定の設置選挙を行わずに旧市町村議員の任期の延長を認める合併特例法は、<1>憲法15条1項の公務員の選定罷免権、93条2項の議員等の直接選挙の理念、11条、97条の基本的人権の理念及び99条の憲法尊重擁護義務、<2>市民的及び政治的権利に関する国際規約(国際人権規約B規約)25条の定期的選挙の原則、<3>普通地方公共団体の議会の議員の任期を4年とする地方自治法93条1項に反する。
(イ) 適用違憲等
仮に、合併特例法に上記の憲法違反等が認められないとしても、同法7条所定の在任特例は、極めて例外的な措置であることから、同条を適用するに当たっては、特別に厳格な解釈と慎重な運用がされるべきである。
本件では、在任特例の適用により、旧大宮市議の任期が合計5年5か月と従前の任期の4年を大幅に超える上、さいたま市長らは、在任特例の適用理由として、合併後2年以内の政令指定都市の実現を挙げるのみで、他に上記の例外的な措置をとることについて合理的、説得的な説明をしていない。
したがって、本件において、旧大宮市議に上記在任特例を適用することは、市長の裁量の範囲を著しく逸脱し、違憲、違法である。
(ウ) 本件報酬条例の制定手続違反
さいたま市においては、さいたま市特別職報酬等審議会条例(平成13年5月1日条例9号)を制定し(以下「本件審議会条例」という。)、その2条において、「市長が市議会議員の報酬の額に関する条例を議会に提出しようとするときは、あらかじめ当該報酬の額について本件審議会に諮問するものとする。」と規定している。
しかしながら、本件報酬条例等が議会に提出されるに当たり、あらかじめ本件審議会に諮問された事実はない。
したがって、本件報酬条例は、その制定過程において本件審議会条例の定める手続を怠った重大な瑕疵があり、そうすると、同条例に基づいてされた本件公金支出は、違法というべきである。
(エ) 期末手当加算措置分の支給
旧大宮市議への期末手当加算措置分の支給は、それ自体、法律に明確な根拠を持たない支出であり、違法な支出である。
旧大宮市議への期末手当加算措置分の支給の在り方は、全体として、財政運営の一般原則に照らして合理的・説得的理由を見出し得ないほど被告さいたま市長の裁量権の範囲を著しく逸脱しているので、違法な支出である。
(オ) 費用弁償の支給
旧大宮市議への費用弁償の支給は、それ自体、いわゆる「二重報酬」に当たり、違法な支出である。
旧大宮市議への期末手当擁算措置分の支給が違法な支出に当たることは、前記(エ)の場合と同様である。
イ 被告ら
原告らの主張はいずれも争う。
(ア) 憲法等違反について
a 憲法違反について
憲法上、地方公共団体の合併についての要件や手続、合併に伴う経過規定などについては、広汎な立法裁量に委ねたものと考えるべきであり、合併特例法の違憲性の判断においては、一見極めて明白に不合理な場合において初めて違憲と判断すべきである。
本件では、合併特例法の立法目的は、効率的な事務ないし予算の執行を図るため、市町村行政の広域化が要請されるところ、市町村の自主的な合併の手続については、地方自治法の規定が十分ではないことから、合併特例法において、その手続や経過規定を定めたもので、合理性があり、また、立法手段としても、同法7条の内容は、新設合併の場合には、従前の市町村が廃される結果、合併直後には議員が不存在になる事態を回避するためのもので、合理性がある。
更に、同条4項は、合併しようとする市町村議会の議決を要するとしており、住民自治、団体自治の要請とも充たしている。
なお、同条は、議員の任期を延長できる期間を2年間としているが、この期間は、地方公共団体の議会の議員の本来の任期である4年間の半分であり、結果として、最大6年間の任期となった場合でも、参議院議員の任期と比較しても、その任期が不当に長期間延長されたとまではいえず、不合理なものではない。
以上によれば、合併特例法7条は、一見極めて明白に不合理ということはできず、違憲とはいえない。
b 条約違反について
同条約25条は、定期的な選挙を保障する規定であるが、どの程度の間隔をおいて選挙を行うべきかについては、文法裁量に委ねられていると解される。
本件において、旧大宮市議に関しては6年間選挙を行わない可能性があるが、参議院議員と比較して、本件の任期延長は、市民の選挙権及び被選挙権の行使を実質的に侵害するものとまではいえず、立法裁量の逸脱はない。
したがって、合併特例法7条は、同条約に違反しない。
c 地方自治法違反
合併特例法は、法律であるから悟地方自治法に違反することはあり得ない。
d 以上によれば、合併特例法7条は、原告指摘の憲法、条約及び地方自治法の各規定に反するものではなく、したがって、同条に基づいてされた旧大宮市議の議員の任期の延長は適法であるから、本件公金支出に違法はない。
(イ) 合併特例法の適用違憲・違法性について
合併特例法の適用違憲の主張に係る違憲審査基準については、法令違憲の場合と同様、一見極めて明白に不合理な場合に初めて違憲と判断されるべきである。
本件では、合併後2年以内に政令指定都市となることを目指して合併が実現したところ、その目的を実現するためには、合併に賛成した議員がその責任を果たすべきであることから、2年間議員の任期を延長したのであって、この延長目的及び延長期間には合理性がある。
よって、本件合併に際して、合併特例法7条を適用したことは一見極めて明白に不合理とはいえず、違憲とはいえない。
(ウ) 特別職報酬等審議会への諮問について
a 本件報酬条例が本件審議会への諮問を経ることなしに成立したことは認める。
b 議員の報酬額に関する条例の制定に当たり、特別職報酬等審議会への諮問が要求される趣旨は、いわゆるお手盛り防止にあることから、そのような危険がなく、かつ、特別報酬等審議会へ諮問することが困難な特別な事情がある場合には、たとえ、特別報酬等審議会への諮問がされなくても、報酬条例が違法になることはないと解すべきである。
本件では、大宮市議の報酬等はさいたま市のそれと全く同一であったところ(〔証拠略〕)、大宮市議の報酬等は、大宮市の特別報酬等審議会の諮問を経て定められたものであり、本件報酬条例の制定に当たっては、いわゆるお手盛りの危険性は全くなかった。
また、議員の報酬等は、さいたま市が発足する平成13年5月1日中に定められなければならないところ、同日中に、本件審議会条例を制定し、審議会委員を選任し、審議会を開催し、同日中に答申を得るということは時間的にほとんど不可能であった。のみならず、本件報酬条例制定時には、さいたま市特別報酬等審議会条例は未だ成立していなかった。
本件報酬条例が本件審議会条例の定める手続を履践していないことの故に違法であるとしても、報酬等審議会の答申に拘束力がないことからして、本件報酬条例自体の無効を招来するものではない。
以上によれば、平成13年5月1日の本件報酬条例の制定は、本件報酬審議会の諮問を経ていなくとも違法というべきではない。
(エ) 期末手当加算措置分の支給について
a さいたま市においては、旧大宮市議に対し、期末手当加算措置なるものは支給していない。
b 本件報酬条例5条2項に「…報酬の月額及びその報酬の月額に100分の20を乗じて得た額の合計額に」との文言があることから、これを期末加算措置と呼ぶとしても、地方自治法203条4項は、議会の議員に対しては、条例で定めるところにより期末手当を支給できるものとしているのであるから、期末手当の算定に当たって、報酬月額の100分の20を加算したとしても、法律上の根拠があるというべきであって、この点に違法な点はない。
(オ) 費用弁償の支給について
原告の主張は、報酬条例でいう報酬のほかに、報酬条例では費用弁償と称される「報酬」が支給されていることは許されないという趣旨であると解されるところ、本件報酬条例6条の費用弁償は、地方自治法203条3項にいう「費用弁償」として支給されているものであり、同条1項にいう「報酬として支給されているものではないので、原告の主張は前提を誤っており、失当である。
仮に、これが二重報酬に当たるとしても、地方自治法203条5項においては、報酬、費用弁償及び期末手当の額並びにその支給方法は、条例で定めるものとしていることに照らせば、費用弁償の額及び支給方法の決定は、地方公共団体の議会の裁量に委ねられていると考えられるから、本件の費用弁償の支給に違法はない。
第3 当裁判所の判断
1 争点(1)(本案前の主張)について
(1) 原告野坂の出訴期間遵守について
ア 地方自治法242条1項の規定による住民監査請求に対し、同条3項の規定による監査委員の監査の結果が通知された場合において、監査の結果に不服がある請求人は、法定の期間内に訴えを提起すべきものであり、同一の財務会計上の行為又は怠る事実を対象として再度の監査請求をすることは許されていない(最二小昭和62年2月20日民集41巻1号122頁参照)。
イ 甲3号証の1及び弁論の全趣旨によると、原告野坂実は、前記の本件監査請求をする以前に、平成13年11月16日付けで住民監査請求(以下「第1回目の監査請求」という。)をしていたものであるところ、この第1回目の監査請求の内容は、本件監査請求と同様、旧大宮市議会の議員であったさいたま市議会の議員の報酬等の支給を対象としており、本件監査請求当時、旧大宮市議に対する報酬等の支給がされていたわけではなかったから、同原告のした本件監査請求は、同一の財務会計上の行為を対象とする再度の監査請求に当たると認めるべきである。
ウ そうすると、同原告の本訴における出訴期間の遵守については、本件監査請求ではなく、第1回目の監査請求に対する監査結果が通知された日から起算すべきであるところ、前記の事実関係によれば、同原告が本訴を提起したのは、第1回目の監査請求の結果が通知された日(平成13年12月27日頃)から30日の出訴期間を経過した平成14年2月7日であるから、同原告の本件訴えは、法定の出訴期間を徒過した後にされたものとして不適法というべきである。
(2) 前記の事実関係によれば、その余の原告らは、適法に監査請求を経ていると認めることができる。
(3) また、本件事実関係のもとにおいては、前記の請求の趣旨の記載により、請求の内容は、特定されていると認めるのが相当である。
2 争点(2)(本件公金支出の違法性)について
(1) 本件公金支出の憲法違反、条約違反、地方自治法違反について
ア 市町村の廃置分合(合併)に関する手続は、憲法に定める地方自治の本旨を全うしつつ、その手続が円滑に運用されるよう技術的な問題をも適切に処理するという観点から、国民の代表者によって構成される国会の広範な立法裁量に基づき具体的に決定されるべきものである。
地方自治法及び合併特例法は、これらの観点を総合的に配慮して国会において定められた法律と認めることができるのであって、合併協議会により作成される市町村建設計画に基づき、関係住民を代表する議員によって構成される議会の一定の関与のもとで手続が進められるべきことを規定するほか、合併後の手続を円滑に進行させる必要上、公選法の設置選挙等によらない議員の在任特例措置等を定めているのであって、その内容からみて、国会として有する立法裁量権を逸脱していると認めることはできないものというべきである。
イ この点につき、原告は、前記アの(ア)のとおり主張するが、所論指摘のとおり、公職選挙法117条所定の設置選挙を行わずに議員の在任特例を定めているとしても、これらについての定めを置くべきか否かについては、国会の立法裁量の範囲内に属する問題というべきであり、また、新設合併の場合、合併関係市町村(市町村の合併によりその区域の全部又は一部が合併市町村の区域の一部となる市町村)の議会の議員は、合併後2年を超えない期間、引き続き合併市町村(市町村の合併により設置され、又は他の市町村の区域の全部若しくは一部を編入した市町村)の議会の議員として在任するとの定め(合併特例法7条1項1号)も国会の立法裁量を超えてはいないというべきであって、これらを理由として合併特例法が所論の地方自治法の規定に違反すると解する余地がないことは勿論、原告指摘の憲法及び条約の各規定にも違反すると解することもできない。これに反する原告の前記主張は、採用することができない。
(2) 本件公金支出の適用違憲について
原告は、前記アの(イ)のとおり主張するが、いずれも合併特例法に基づく運用の不当を論じるものに過ぎず、前記の説示に照らし、これらが違憲違法となる事由を見い出し難く、これらの主張も採用できない。
(3) 本件公金支出の根拠である本件報酬条例の制定手続違反について
ア 原告は、前記アの(ウ)のとおり主張するところ、本件報酬条例が平成13年5月1日、さいたま市特別職報酬等審議会への諮間を経ることなく成立したことについては当事者間に争いがない。
イ 乙1号証、3号証、4号証、8号証、9号証及び弁論の全趣旨によると、本件合併前の旧浦和市及び旧大宮市の市議等の報酬等は全く同一額であり、各報酬等は、それぞれ、旧市の特別職報酬等審議会条例2条の規定に従い、各審議会の意見を経て、各報酬条例により定められていたものであるところ、本件報酬条例により定められたさいたま市議の前記報酬等は、この旧大宮市議及び旧浦和市議の報酬等と全く同一額であること、そして、弁論の全趣旨に照らすと、本件報酬条例は、平成13年5月1日のさいたま市議会において本件審議会条例に先立って成立したものであることを、それぞれ認めることができる。
ウ 以上の事実関係によると、本件報酬条例の制定に先立ち、同条例案につき本件審議会の諮問を経ることは事実上不可能であったことは明らかであり、かつ、旧大宮市議の報酬に関しては、本件報酬条例は、従前の金額を踏襲したものであること、そして、本来、市議会は、諮問機関の意見に拘束されるものでないことを総合すると、本件報酬条例が本件審議会の諮問を経ることなく成立したからといって、その効力が妨げられるものということはできないものと解するのが相当である。
エ そうすると、本件報酬条例に基づいてされた本件公金支出を違法ということはできないから、原告の主張を採用することはできない。
(4) 期末手当加算分の支給について
原告は、前記アの(エ)のとおり主張するが、報酬、期末手当及び費用弁償のほかに原告主張の期末手当加算措置なるものが独立の項目として支給されていることを認めるに足りる証拠はない。
むしろ、原告が上記文言で指摘するところのものは、前記のとおり本件報酬条例により、報酬月額に加えて報酬月額の100分の20を乗じて得た額を基準として、期末手当を算定することを指しているものと解される。
しかしながら、地方自治法203条4項は、「普通地方公共団体は、条例で、その議会の議員に対し、期末手当を支給することができる。」と規定しているのであるから、本件報酬条例の定めに従い、期末手当の算定に当たって、上記の加算をしたとしても、それは法律上の根拠に基づくものと評価できるのであって、これを違法とすることはできない。
原告の前記主張は、採用できない。
(5) 費用弁償の支給について
原告は、前記アの(オ)のとおり主張するが、本件報酬条例6条の費用弁償は、地方自治法203条5項にいう費用弁償として支給されるものであることは、その規定に照らし明らかであって、報酬との重複の問題は生じないものというべきである。
原告の前記主張は、採用できない。
3 以上によれば、被告市長がこれまでした旧大宮市議に対する本件公金支出及び今後されるであろう本件公金支出を違法ということはできないから、これを前提とする原告野坂を除くその余の原告らの被告さいたま市長に対する差止請求及び被告相川に対する損害賠償請求は、いずれも理由がないものというべきである。
第4 結論
以上の次第で、原告野坂の本性訴えをいずれも却下し、その余の原告らの請求をいずれも棄却することとして、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 田中壯太 裁判官 松田浩養 菱山泰男)