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さいたま地方裁判所 平成15年(わ)374号 判決 2003年9月30日

主文

1  被告人を懲役7年及び罰金300万円に処する。

2  未決勾留日数中150日をその懲役刑に算入する。

3  その罰金を完納することができないときは,金5000円を1日に換算した期間被告人を労役場に留置する。

4  押収してある覚せい剤19袋(押収番号省略),覚せい剤1個(カプセルに入ったもの,押収番号省略)及び覚せい剤1本(プラスチック容器入りのもの,押収番号省略)を没収する。

5  被告人から金670万4000円を追徴する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は,

第1  みだりに,

1  営利の目的で,平成11年7月12日ころから同15年2月15日までの間,別表(省略)記載のとおり,前後5回にわたり,埼玉県a市b(番地等略)A方外4箇所において,A外4名に対し,覚せい剤である塩酸フェニルメチルアミノプロパンを含有する結晶状粉末合計約3.4グラムを代金合計6万円及び同結晶状粉末約0.8グラムを代金合計2万円の約束で,覚せい剤様の結晶状粉末約2グラムを覚せい剤として代金3万円でそれぞれ譲り渡したほか,多数回にわたり,同所等において,上記A外多数の者に対し,それぞれ覚せい剤様の結晶状粉末を覚せい剤として有償で譲り渡し,もって,覚せい剤を譲り渡すことを業とし,

2  平成15年2月15日午前10時過ぎころ,同県c市d(番地略)先路上において,覚せい剤である塩酸フェニルメチルアミノプロパンを含有する結晶状粉末約0.248グラム(押収番号省略)を所持するとともに,営利の目的で,覚せい剤である塩酸フェニルメチルアミノプロパンを含有する結晶状粉末約44.839グラム(押収番号証略)を所持し,

第2  法定の除外事由がないのに,同日午前零時30分ころ,e市f(番地等略)前路上に駐車中の普通貨物自動車内において,覚せい剤であるフェニルメチルアミノプロパンの塩類若干量を含有する水溶液を自己の右手に注射し,もって,覚せい剤を使用し

たものである。

(法令の適用)

被告人の判示第1の所為は包括して国際的な協力の下に規制薬物に係る不正行為を助長する行為等の防止を図るための麻薬及び向精神薬取締法等の特例等に関する法律(以下,「麻薬特例法」という。)5条4号に(なお,判示第1の1の所為は麻薬特例法5条4号(8条2項)に,判示第1の2の所為は非営利目的の所持も含め包括して覚せい剤取締法41条の2第2項,1項にそれぞれ該当するが,判示第1の2の所持に係る覚せい剤は判示第1の1の行為の一環として所持していたものであるから,全体につき包括して判示第1の1の罪が成立する。),判示第2の所為は覚せい剤取締法41条の3第1項1号,19条にそれぞれ該当するところ,判示第1の罪につき所定刑中有期懲役刑及び罰金刑を選択し,以上は刑法45条前段の併合罪であるから,懲役刑については同法47条本文,10条により重い判示第1の罪の刑に同法14条の制限内で法定の加重をし,その刑期及び所定金額の範囲内で被告人を懲役7年及び罰金300万円に処し,同法21条を適用して未決勾留日数中150日をその懲役刑に算入し,その罰金を完納することができないときは,同法18条により金5000円を1日に換算した期間被告人を労役場に留置し,押収してある覚せい剤19袋(押収番号省略),同覚せい剤1個(カプセルに入ったもの,押収番号省略)及び同覚せい剤1本(プラスチック容器入りのもの,押収番号省略)は,いずれも判示第1の罪に係る覚せい剤で,犯人の所有するものであるから,覚せい剤取締法41条の8第1項本文によりこれらを没収し,判示第1の犯行により被告人が得た現金670万4000円は,麻薬特例法11条1項1号の薬物犯罪収益に該当するが,既に費消して没収することができないので,同法13条1項前段によりその価額を被告人から追徴することとし,訴訟費用は,刑事訴訟法181条1項ただし書を適用して被告人に負担させないこととする。

(量刑の理由)

本件は,被告人が,営利の目的で覚せい剤を譲り渡すことを業とするとともに,その一環として覚せい剤約45グラムを所持したいわゆる麻薬特例法違反(判示第1の事実)と,覚せい剤を自己使用した(判示第2の事実)事案である。

被告人は,平成4年ころから覚せい剤の使用を始めるようになり,平成6年には覚せい剤所持等の罪で保護観察付き執行猶予の判決を受けたが,約半年後には再び覚せい剤に手を出すようになり,前裁判の勾留中に知り合った暴力団関係者から覚せい剤を入手して使用を続けていたところ,比較的安値で覚せい剤が入手できたことや,仲間から覚せい剤の入手を依頼されたことなどから,平成11年に仕事を辞めてからは,生活費や小遣い稼ぎ,また,自分で使用する覚せい剤の購入資金を得る目的で,上記暴力団関係者からまとまった量の覚せい剤を購入し,その一部を自己使用する傍ら,覚せい剤の密売を業として行っていたものであって,覚せい剤が社会にもたらす害悪を考えることなく,利欲目的で,安易に犯行に及んでおり,動機に酌量すべき余地はない。

譲渡しの態様は,平均して1箇月に約30グラムの覚せい剤を仕入れ,自分で使用する約3グラムを除いた残量を,電子秤等を用いて小分けした上,数人の固定客を相手に,携帯電話で注文を受けては,直接取引したり,宅配便を利用して自宅に送付し,代金を銀行口座に振込送金させるなどして,反復継続して行っていたもので,逮捕当時,被告人が小分けした覚せい剤約45グラムを所持していたことや,覚せい剤取引を記載したメモが存在すること,また,銀行口座の取引状況等に照らすと,犯行の常習性は明らかである。犯行期間も,平成11年7月ころから約3年半と長期に及んでおり,この間,少なくとも670万円余りを利得していることが認められるのであり,犯情は悪質である。これらの点からすると,被告人の刑責は重大である。

そうすると,被告人が,事実を認め,反省の態度を示していること,母親が更生に助力することを誓約していること,てんかんの持病があることなど,被告人のためしん酌し得る事情を十分に考慮してみても,主文掲記の科刑は免れない。

(求刑 懲役8年及び罰金300万円,覚せい剤の没収,670万4000円の追徴)

(裁判長裁判官 川上拓一 裁判官 森浩史 裁判官 岩井佳世子)

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