さいたま地方裁判所 平成15年(ワ)2801号 判決 2004年7月27日
原告
X1
ほか一名
被告
有限会社矢作商事
主文
一 被告は、原告X1に対し金二六五五万五五八四円、原告X2に対し金二五三三万三〇八四円及びこれらに対する平成一五年二月五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 原告らのその余の請求をいずれも棄却する。
三 訴訟費用はこれを五分し、その四を被告の負担とし、その余を原告らの負担とする。
四 この判決は、第一項に限り仮に執行することができる。
事実及び理由
第一請求
被告は、原告X1に対し金三四〇〇万四二三九円、原告X2に対し金二九三七万六二八九円及びこれらに対する平成一五年二月五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
第二事案の概要
本件は、住宅街の道路上においてAが運転する普通貨物自動車と衝突し死亡したBの相続人である原告らが、加害車両の保有者であり、かつAの使用者である被告に対し、自動車損害賠償保障法(以下「自賠法」という。)三条、民法七一五条、七〇九条に基づく損害賠償金及び不法行為の日からの遅延損害金を求めた事案である。
本件の主な争点は、<1>過失相殺、<2>損害である。
一 争いのない事実等
(1) 交通事故(以下「本件事故」という。)の発生
<1> 事故日時 平成一五年二月五日午後三時三〇分頃
<2> 事故発生場所 埼玉県川口市<以下省略>先路上
<3> 被害者 B(平成○年○月○日生、死亡当時五歳一か月)
<4> 加害車両 自家用普通貨物自動車(<番号省略>、バキュームカー)
<5> 加害者 A(加害車両運転)
<6> 事故態様 Aは加害車両を運転し、時速約二五キロメートルの速度で住宅街の道路を進行中、徐行をしていなかったことから、左方路地から進出してきたBに気づくのが遅れ、急制動の措置を講じたが間に合わず、同児に自車左前部を衝突させ、転倒させた上、自車左前輪で同児を狭圧したまま五・九メートル引きずった結果、同児は、肝破裂、両肺挫傷等の傷害を受け、同日午後五時二〇分頃死亡した。
(2) 被告の責任原因
Aは加害車両を運転し、民家が建ち並ぶ住宅街を進行するのであるから、予め徐行し、左右路地から進出してくる歩行者等の有無及びその安全を十分確認しつつ進行すべき業務上の注意義務があるにもかかわらず、これを怠り、左方路地から進行してくる歩行者の有無及びその安全を確認しないまま漫然時速約二五キロメートルで進行した過失により、Bに自車を衝突させ、引きずり死亡させたものであるが、被告は被告車両の保有者であるから自賠法三条により、また、被告はAの使用者であり、本件事故はAが被告の業務に従事中生ぜしめたものであるから、民法七一五条により、原告らに生じた損害を賠償すべき責任がある。
(3) 相続
原告X1はBの父で、原告X2はその母であり、Bの相続人であるから、同児の死亡により、同児の損害賠償請求権を法定相続分である各二分の一の割合で相続した。
(4) 損害の填補
ア 原告らは、Bの死亡により、自動車損害賠償責任保険より二九〇万円の仮払を受けたので、原告らの損害額からそれぞれ一四五万円を控除する。
イ 原告X1は、東京都小型コンピュータソフトウェア産業健康保険組合より、埋葬料二七万七五〇〇円の支払を受けた。
ウ 原告X1は、後記治療費六一万八九一〇円をその損害額から控除する。
(5) 治療費
Bは、本件事故により、平成一五年二月五日川口市立医療センターで治療を受けたが、被告は同治療費六一万八九一〇円を支払った。(乙五ないし七)
二 争点についての当事者の主張
(1) 争点<1>(過失相殺)について
ア 被告の主張
(ア) Bの過失
Bは、本件事故当時五歳一か月であり事理弁識能力があったから、本件事故現場に進入するに際し、交差道路の左右から進入してくる自動車等の有無を十分に確認しつつ進入すべきであるにもかかわらず、これを怠り、原告ら自宅の前の駐車車両(いすゞエルフ二トン車(電気工事作業車))の陰から飛び出したので、被害者の過失を斟酌すべきである。
(イ) 原告らの過失
幼児の被害者に事理弁識能力を認めても、別途親である原告らの監督義務違反を認め、被害者側の過失を斟酌すべきである。
原告らにも、以下の過失があり、B及び原告両名の過失を併せ考慮したとき、被害者側の過失は四割を下らない。
a 原告らは、Bの親権者として、身分関係上及び生活関係上、同児の生命等を保護するため同児を十分に監督すべき注意義務があるのに、これを怠った。
b 原告X2は、Bが一人で外出した場合には同児が交通事故等によりその生命等を害する危険に遭遇することの予見が充分に可能であり、かつ、同児の生命等を保護することも十分に可能であったにもかかわらず、同児が原告らの自宅から約二五〇メートル程度離れた理容「みちのく」へ出掛けることを承知して、漫然と同児を一人で外出させた。
c 原告X1は、普段からBに対する生活上の注意を与え、さらに、自ら不在の際には妻である原告X2を通じてこの義務を尽くすべきであり、同居している家族間においてこの義務を尽くすことは可能であったにもかかわらず、漫然と同児を一人で外出させた。
イ 原告の主張
(ア) Bについて
Bは道路上に立っていたか、あるいは、衝突地点から西に向かって歩こうとしていたのであって、本件事故現場に飛び出してはいないから、同児の過失はない。
仮に、Bの飛び出しがあったとしても、本件事故現場は、すぐ隣に公園の出入り口があり、また、小学校の通学路でもあり、児童や幼児が多く通行する住宅街の道路であった上、Aには本件事故当時時速約二五キロメートルで走行し徐行しなかったという徐行義務違反があったこと、五・五メートル手前になるまでBの存在に気がつかなかったという前方注視義務違反があったこと、及び、Bを発見後ハンドルを右に切らなかったという安全運転違反があったことからすれば、同児の過失割合は零である。
(イ) 原告らについて
a Bに事理弁識能力を認めた場合、別途親の監督義務違反を認めて、被害者側の過失を二重に評価すべきでない。
b 仮に、Bの事理弁識能力を認め、別途親に監督義務を認めたとしても、原告らは、Bに基本的な交通ルールを教えており、その上同児を一人で外出させる範囲も原告ら自宅隣の児童公園か、原告ら自宅から二五〇メートル離れた理容「みちのく」に限っていた。本件東西道路の車両の通行量は二〇分で七台程度であり、五歳の子供が歩くのに危険とはいえず、原告らがBを一人で外出させたことに監督義務違反は認められない。
(2) 争点<2>(損害)について
ア 原告らの主張
(ア) Bに発生した損害
a 逸失利益 二六六五万二五七八円
Bは、本件事故当時五歳であり、全労働者の全年齢平均賃金額五〇二万九五〇〇円を基礎収入額、生活費控除率を四五パーセント、ライプニッツ係数(九・六三五)として、Bの逸失利益を算定すると二六六五万二五七八円(円未満切り捨て)となる。
(算式502万9500×(1-0.45)×9.635)
b 慰謝料 二〇〇〇万円
Bは、幸せな家庭に出生し、輝かしい未来が約束されていたにもかかわらず、本件事故のためわずか五歳で死亡したこと、しかも運転手の不注意で惹起された本件事故において、トラックの前輪に狭圧されたまま五・五メートル引きずられて窒息し、肝破裂、両肺挫傷等により死亡したことにかんがみれば、Bに対する慰謝料は二〇〇〇万円が相当である。
(イ) 原告X1固有の損害
a 葬儀費用 一五〇万円
原告X1は、葬儀費用として二二四万三八〇八円を支払ったが、そのうち本件事故と相当因果関係ある葬儀費用としては一五〇万円が相当である。
b 墓碑建立費 三一二万七九五〇円
原告X1が建立した墓碑は、ハム太郎とりぼんちゃんの像がついたものであって、墓が幼くして命を奪われた娘の霊を慰めるために建立された特別のものであり、余命を全うしても建立されるような通常墓碑ではないから、同墓碑建立費は本件事故と相当因果関係がある損害である。
c 治療費 六一万八九一〇円
d 慰謝料 五〇〇万円
原告X1は本件事故により大切に育んできた娘を突然失い、また、本件事故態様によれば、原告らはBの死亡によって筆舌に尽くし難い精神的苦痛を受けたことにかんがみれば、原告X1に対する慰謝料は五〇〇万円が相当である。
(ウ) 原告X2固有の損害
a 慰謝料 五〇〇万円
原告X2は、原告X1と同様大切に育んできた娘を突然失い、また、本件事故態様によれば原告らはBの死亡によって筆舌に尽くし難い精神的苦痛を受けた。さらに、母親である原告X2は、家の前で血塗れで倒れている娘を抱き上げた時の衝撃から立ち直ることができず、苦痛に苛まされているから、原告X2に対する慰謝料は五〇〇万円が相当である。
(エ) 弁護士費用 各二五〇万円
原告らは弁護士費用として各二五〇万円ずつ支払うことを約した。
(オ) 合計
前記(ア)の合計額を原告らの法定相続分に従って計算し、原告X1につき一〇二四万六八六〇円を、原告X2につき五〇〇万円を加え、原告X1につき前記争いのない事実等(4)ウの損害の填補額を控除し、それぞれにつき同ア記載の損害の填補額を控除し、弁護士費用を加算すると、原告X1の損害は三四〇〇万四二三九円、原告X2の損害は二九三七万六二八九円となる。
よって、被告に対し、原告X1は三四〇〇万四二三九円、原告X2は二九三七万六二八九円及びこれらに対する不法行為の日である平成一五年二月五日から支払済みまで年五分の割合による金員の支払を求める。
イ 被告の主張
原告ら主張の損害は争う。
女児の逸失利益の算定の基礎収入としては、女子労働者の全年齢平均賃金が採用されるべきである。
第三争点に対する判断
一 争点<1>(過失相殺)について
(1) 前記争いのない事実等に証拠(甲七の五ないし九・一一・一二・一四ないし一七)及び弁論の全趣旨を総合すると、次の事実が認められる。
ア 本件事故現場は、埼玉県川口市<以下省略>にある原告ら自宅先路上の信号機の設置されていない、道路脇に民家が建ち並ぶ住宅街にある十字路の交差点(以下「本件交差点」という。)である。加害車両の進行した東西に通じる川口市道(以下「川口市道」という。)は、幅員五メートルで車道と歩道の区別はなく、前方の見通しは約六〇メートルあるが、本件交差点手前左方には高さ二・二メートルのブロック塀、右方にもブロック塀があり、左右の見通しは悪かった。南北に通じる道路は、幅員三・五メートルであり、南方に向かって一〇〇分の一九(距離二・六メートル、高さ〇・五メートル)の下り坂になっていた。また、本件交差点北入口には電気工事作業車である普通貨物自動車(いすゞエルフ二トン車)が南北に通じる道路の東側一・二メートル空けて交差点入口から八〇センチメートル北側に停車していた。
本件交差点から北東のところに原告らの自宅があり、原告ら自宅の東隣には野島児童公園があって、本件交差点の東方約一〇メートルの地点に野島児童公園南側出入り口がある。また、本件事故現場の東北東方約四〇〇メートルの地点に川口市立芝東小学校があり、本件事故現場の川口市道は同小学校の通学路となっていた。本件事故当時、道路は乾燥しており、小学校の下校時間帯のため歩行者の交通量は多かった(通常の交通量は歩行者は普通、車両は少ない。)。
イ Aは、約二五年前に被告に入社して以来、同じ地区でのし尿のくみ取りの仕事を担当し、本件事故現場である川口市道は、し尿処理車を運転して二日に一回は通行しており、本件事故現場の周囲の状況をよく知っていた。
Aは、平成一五年二月五日午後三時三〇分頃、加害車両を運転して東西に通じる川口市道を西方(川口市大字芝方面)から東方(川口市柳根町方面)に向かって時速約二五キロメートルで進行してきた。Aは、Bが後記のとおり前記停車中の車の陰から交差点に進入した状態であっても、本件交差点手前一四・八メートルでBを発見することが可能であったが見落とし、同児との距離が五・五メートルに至って初めて同児に気づき、急ブレーキをかけたが間に合わず、同児に自車左前部を衝突させ、転倒させた上、自車左前輪でBを狭圧したまま、五・九メートル引きずった。衝突の際、Aは、ハンドルを右に切る等の衝突回避行為をとらなかった。
ウ 他方、Bは、赤いトレーナーを着ており、原告らの家から西方に二五〇メートル程離れ、同児の友達の自宅であった「理容みちのく」に遊びに行くために、一人で原告ら自宅を出た後、本件交差点南北に通じる道路を南に進み、本件交差点を右(西方向)に曲がって川口市道を西方向に進むため本件交差点に進入した。交差点北入口には電気工事作業車である普通貨物自動車が停車していたため、Bは、同車の陰から交差点に進入した。Bは、本件交差点の北端から一・七メートル南の位置で加害車両と衝突した。
(2) 上記認定によれば、本件事故の原因は、本件交差点が住宅街にあり、しかも、本件交差点の北東には児童公園があって、小学校の通学路でもあり、本件事故発生当時小学校の下校時間帯で歩行者の交通量は多かったこと、及び、川口市道は左右の見通しが悪く、本件交差点の北入口には停車車両があり左方路地の見通しが殊更困難であったことから、Aは、自動車運転者として徐行し左右の安全に配慮する義務があったというべきところ、漫然時速約二五キロメートルで左右の安全を十分確認しないまま走行し、自車をBに衝突させたというAの一方的な過失にあるというべきである。
(3) 被告は、Bは、本件事故当時五歳一か月であったので事理弁識能力があったところ、原告ら自宅の前の駐車車両の陰から飛び出したのであるから、本件事故現場に進入するに際し、交差道路の左右から進入してくる自動車等の有無を十分に確認しつつ進入すべき注意義務違反がある旨主張するので検討する。
前記争いのない事実等によると、Bは本件事故当時五歳一か月であったから、基本的交通ルールを理解でき、交通整理が行われていない交差点に進入するに当たり、車両の往来に注意する義務を有すると期待してよいといえ、事理弁識能力はあったと認められる。
ところで、証拠(甲七の四、現行犯人逮捕手続書)には、Aは本件事故当日警察官に対し、「道路左側の家の前から子供が飛び出してきた」と説明した記載がある。しかし、同日付け司法警察員に対する供述調書(甲七の一四)には「相手の子供が歩いて出たか、駆け足だったのか突然だったのではっきり見ていません」との記載があり、検察官に対する供述調書(甲七の一五)には「相手の女の子がすっという感じで左側から出てくる姿を初めて見つけました。」「私が、<ア>の女の子に気づいた時、ほんの一瞬のことでしたので、その子が駆けていたのか歩いていたのかなどについてはわかりませんでした。」との記載があり、Aの陳述等は一貫しない上、AはBが本件交差点に進入してきた状況を具体体的に目撃していたわけではないから、甲七の四はにわかに措信することができず、他にBの飛び出しを認めるに足りる的確な証拠はない。したがって、Bに飛び出しの過失は認められない。
また、被告は、原告らの過失について主張するが、原告らは車両等に対する一般的注意を平常よりBに与えていたことから(甲八)、五歳のBに、小学生の下校時間であり歩行者の交通量が多い時間に、小学生の通学路となっている川口市道を一人で歩行して、自宅から約二五〇メートル離れた友達の家に遊びに行くことを許し、特別の監視をしなかったとしても、被害者の親権者として、特に過失があったものということはできない。そして、他に原告らの過失を認めるに足りる証拠はない。
したがって、B及び原告らには、過失相殺すべき過失は認められず、被告の過失相殺の主張は理由がない。
二 争点<2>(損害)について
(1) Bの逸失利益
ア Bは、死亡当時五歳であったから、本件事故に遭わなければ一八歳から六七歳までの四九年間稼働して収入を得ることができたと認められる。
イ Bの逸失利益の算定に当たっては、原告らは、全労働者の全年齢平均賃金をその基礎収入とすべきと主張し、被告は、女子労働者の全年齢平均賃金をその基礎収入とすべきと主張するので、判断する。
年少者の逸失利益の算定に当たっては、対象者の性別に応じ、賃金センサスによる男女別の平均賃金をその基礎収入とするのが従来の裁判実務の大勢であり、賃金センサスによる平均賃金には男女間で相当の格差が存在していることも公知の事実であるが、このような格差が生じている主な原因は、男女の役割分担についての従来の社会通念の下に、女子にあっては、家事労働(出産、育児を含む。)との関係から、結果的に、就労期間や労働時間あるいは職務内容が制約された状態にある者の割合が男子に比べて相対的に多い現状の反映と考えられるところ、本来有する労働能力については、個人による差はあっても、性別に由来する差は存在しないことはいうまでもない。しかも、就労可能年齢にいまだ達しない年少者の場合、現に就労可能年齢に達している者とは異なり、多様な就労可能性を有しているのであり、また、法制度や社会環境、社会の意識等女子の就労環境をめぐる近時の動向も勘案すると、将来の就労可能性の幅に男女差は存在しないに等しい状況にあると考えられる。すなわち、女子においても、従来の社会通念にとらわれず、その意思によりさほどの困難なく男子と同じ職種や就労形態を選択し、その有する労働能力を就労の場において発揮することも可能な状況にあり、現にそのような就労形態を選択する女子が増加しているのである。そもそも、性別は個々の年少者の備える多くの属性のうちの一つにすぎないのであって、性別以外にも、例えば、知能その他の能力の差、親の経済的能力の差その他諸々の属性が現実の社会においては将来の所得格差をもたらし得るのである。それにもかかわらず、他の属性をすべて無視して、統計的数値の得られやすい性別という属性のみを採り上げることは、収入という点での年少者の将来の可能性を予測する方法として合理的であるとは考え難い。年少者の逸失利益を算定するのに、性別以外の属性は無視せざるを得ないというのであれば、性別という属性も無視すべき筋合いである。したがって、少なくとも義務教育を修了するまでの女子年少者については、逸失利益算定の基礎収入として賃金センサスの女子労働者の全年齢平均賃金を用いることは合理性を欠くものといわざるを得ず、男女を併せた全労働者の全年齢平均賃金を用いるのが合理的というべきである。そこで、Bの死亡の場合の逸失利益算定の基礎収入は、男女を併せた全労働者の全年齢平均賃金を用いると、平成一五年賃金センサス第一巻第一表の産業計・企業規模計・学歴計による全労働者の全年齢平均年収四八八万一一〇〇円を用いるのが合理的である。Bは本件事故に遭わなければ、高校卒業後一八歳から六七歳まで四九年間就労することができ、その間上記平均賃金である一か年四八八万一一〇〇円を下回らない収入を得ることができたはずであると推認することができ、また、生活費控除率も男女同一とすることが上記の趣旨にかない合理的であり、Bの生活費控除率は四五パーセントと認めるのが相当であるから、ライプニッツ方式により年五分の割合による中間利息を控除して、その現価を算定すると、Bの逸失利益は二五八六万六一六九円(円未満切り捨て、以下同じ。(算式488万1100×(1-0.45)×9.635)となる。
(2) Bの慰謝料
本件事故の態様、Bの年齢、生活状況その他本件記録に現れた諸般の事情を考慮すると、Bの慰謝料としては二〇〇〇万円を相当と認める。
(3) Bの治療費とその填補
Bは、本件事故により、平成一五年二月五日川口市立医療センターで治療を受けたが、同治療費六一万八九一〇円である。しかし、被告がすでに同治療費を病院に支出した。
(4) Bの損害賠償請求権の相続
原告らは、各二分の一の割合でBの損害賠償請求権を相続したので、原告らの相続した損害賠償請求権は各二二九三万三〇八四円となる。
(5) 原告らの慰謝料
本件事故の態様、Bの年齢、生活状況その他本件記録に現れた諸般の事情を考慮すると、原告らの慰謝料としては各一五〇万円を相当と認める。
(6) 原告X1に生じた葬儀費用
証拠(甲三)によると、原告X1はBの死亡による葬儀に関し二二四万三八〇八円を支払ったことが認められる。しかしながら、Bの年齢、原告らの年齢、家族構成(甲二)等に照らすと、本件交通事故と相当因果関係にある葬儀費用は一五〇万円を認めるのが相当である。
(7) 原告X1に生じた墓碑建立費
証拠(甲四、五の一・二、六)によると、原告X1は、墓所工事代金として、同原告主張の費用を支払ったこと及び原告X1の建立した墓碑にはハム太郎とりぼんちゃんの像がついていることが認められる。しかしながら、原告らの家族構成及び墓石に彫られた文字はX1家(甲六)となっており、今後複数名の戒名が彫られる余地のある墓碑が建立されていること等に照らすと、原告X1の支払った墓碑建立費は、本件事故と相当因果関係のある損害とは認められない。
(8) 小計
前記(5)(6)(7)により、原告X1固有の損害額は三〇〇万円、原告X2固有の損害額は一五〇万円となり、(4)の相続分と合計すると、原告X1の損害額は二五九三万三〇八四円、原告X2の損害額は二四四三万三〇八四円となる。
(9) 過失相殺と損害の填補
前記のとおり被害者側の過失は零である。原告らは、自動車損害賠償責任保険より二九〇万円の仮払を受けたので、原告らの損害額から各一四五万円を控除する。また、原告X1は、東京都小型コンピュータソフトウェア産業健康保険組合より、埋葬料二七万七五〇〇円の支払を受けたのでそれを控除する。そうすると、原告X1の損害額は二四二〇万五五八四円、原告X2の損害額は二二九八万三〇八四円となる。
(10) 弁護士費用
本件事案の内容、本件訴訟の審理経過、本件の認容額等を考慮すると、本件事故と相当因果関係のある弁護士費用としては、原告ら各二三五万円をもって相当と認める。
三 結論
よって、原告らの請求は、原告X1が被告に対し二六五五万五五八四円及びこれに対する本件不法行為の日である平成一五年二月五日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金、原告X2が被告に対し二五三三万三〇八四円及びこれに対する本件不法行為の日である平成一五年二月五日から支払い済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから認容し、原告らのその余の請求は失当として棄却することとし、主文のとおり判決する。
(裁判官 都築民枝)