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さいたま地方裁判所 平成15年(ワ)806号 判決 2004年8月23日

原告

被告

主文

一  被告は、原告に対し、三九二〇万四八四三円及びこれに対する平成一〇年一二月二七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、これを一〇分し、その三を被告の負担とし、その余を原告の負担とする。

四  この判決の第一項は、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

被告は、原告に対し、一億二八一〇万三五七四円及びこれに対する平成一〇年一二月二七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、被告が、普通乗用自動車(以下「加害車両」という。)を運転して交差点を直進中、右折してきた原告運転の自家用原動機付自転車(以下「被害車両」という。)に衝突した事故につき、原告が、加害車両の運転者である被告に対し、民法七〇九条及び自賠法三条に基づき、損害賠償を求めた事案である。

一  争いのない事実等

(1)  交通事故の発生

原告は、以下の交通事故(以下「本件事故」という。)により負傷した。

ア 日時 平成一〇年一二月二七日午前一時一五分頃

イ 場所 さいたま市北区(事故当時大宮市)<以下省略>

ウ 被害車両 自家用原動機付自転車(<番号省略>)

同運転者 原告

エ 加害車両 普通乗用自動車(<番号省略>)

同運転者 被告

オ 態様 上記発生場所所在の道路上の交差点(以下「本件交差点」という。)にて、原告運転の被害車両が右折しようとしていたところ、被告運転の加害車両が対向車線から直進して上記交差点に進入し、被害車両に衝突した。

カ 結果 原告は、本件事故の衝撃により、左下腿骨折、左下腿切断、左膝拘縮の傷害を負った。

(2)  原告は、本件事故により、以下のとおり、入院及び通院して治療を受けたが、左膝関節から一〇センチメートルの部分の切断による欠損障害、左膝関節機能障害、左下肢変形障害、左下肢の醜状障害の各後遺障害を負い、現在は、義足で生活している。

ア 大宮赤十字病院

入院 平成一〇年一二月二七日から平成一一年五月三日まで 一二八日間

イ 北里研究所メディカルセンター病院

通院 平成一一年五月六日から同年一一月一九日まで 実通院日数八七日

ウ 埼玉県総合リハビリテーションセンター

入院 平成一二年一月一七日から平成一二年一月二三日まで 七日間

平成一二年二月三日から平成一二年三月七日まで 三四日間

平成一二年七月一二日から平成一二年七月一八日まで 七日間

通院 平成一一年一〇月四日から平成一二年九月三〇日まで 実通院日数七二日

二  争点

本件の争点は、本件事故発生についての原告と被告の責任(過失)の割合(争点一)、及び原告の損害の発生及びその額(争点二)である。

(1)  争点一(本件事故発生についての過失割合)について

(原告の主張)

ア 被告は、加害車両を運転して、本件交差点を直進するにあたり、法定制限速度(時速四〇キロメートル)を遵守し、対面信号の表示に従って運転する義務があるのにこれを怠り、前方不注視のまま赤信号を無視し、本件交差点に時速六三キロメートルで進入し、折から、右折のため青信号で本件交差点に進入し、信号が黄色から赤信号に変わったときに右折を開始した原告運転の被害車両の側面に加害車両全部を衝突させた。

イ 原告が、本件事故前に飲酒したのは、サワー一杯に過ぎず、原告は、浦和にある居酒屋を出た後、約一〇キロメートルほど被害車両を運転し、コンビニエンスストアに立ち寄った後に、本件事故に遭ったものであり、本件事故時点で飲酒の影響があったとは到底考えられない。

ウ よって、本件事故の発生は、被告の前方注意義務違反、及び信号無視による過失、並びに、加害車両の進路の制限指定速度は時速四〇キロメートルであるところ、被告の該制限速度を超過して時速六三キロメートルで進行した過失に基づくものであり、本件事故の責任(過失)の割合は、原告が二〇で、被告が八〇である。

(被告の主張)

ア 被告は、本件事故当時、本件交差点のかなり手前で青信号を確認し、制限速度を超過する速度で同交差点を通過しようとし、その際、対向車線を走行する被害車両の前照灯を認めたが、直進車優先であり、原告からも加害車両の前照灯は視認できたはずであったことから、そのまま同交差点に進入した。ところが、この時、原告運転の被害車両が右折を開始してきたため、被告は危険を感じ、咄嗟にハンドルを右に切りながら急制動をかけたが、間に合わず、加害車両の左フロント部分が原告運転の被害車両に衝突した。

イ また、本件事故当時原告は未成年であったにもかかわらず、直前に飲酒をしていた。

ウ 本件事故は、双方青信号の交差点において、直進する加害車両と右折中の被害車両との衝突事故であり、双方の責任(過失)の基本割合は、原告が六〇パーセントで、被告が四〇パーセントである。次に、被告には、過失の修正要素として、制限時速四〇キロを二〇キロ超過する時速六〇キロくらいで走行していたことによる一〇パーセントの過失加算要素があり、これに対し、原告には、過失の修正要素として、早回り右折と酒気帯び運転によるそれぞれ一〇パーセントずつの過失加算要素があり、最終的には原告が七〇パーセント、被告が三〇パーセントの過失割合が妥当である。

(2)  争点二(原告における損害の発生及びその額)について

(原告の主張)

ア 原告は、本件事故により、以下のとおり、合計一億三二二五万二六五六円の損害を被った。

(ア) 人身損害

<1> 付添看護費 一〇五万六〇〇〇円

6000円×176日(入院日数)

原告の入院中、近親者の付添を要し、その間の付添看護料は一日当たり六〇〇〇円が相当である。

<2> 入通院交通費等 三万二四〇〇円

450円(1往復分)×72日(通院日数)

原告の実家(埼玉県北本市<以下省略>)から埼玉県総合リハビリセンター(埼玉県上尾市<以下省略>)までの往復ガソリン代 往復走行距離三〇km 一km=一五円 三〇km=四五〇円

<3> 入院雑費 二六万四〇〇〇円

1500円×176日

<4> 休業損害 二八七万四八八〇円

月額一三万四七七〇円 日割り(三〇日)四四九二円

4492円×640日(休業期間)症状固定時まで

<5> 傷害慰謝料 三〇四万円

<6> 義足代 四六万三二一六円

<7> 将来の義足代 一五六万一八二五円

46万3216円×3.3717(0.7835+0.6139+0.4810+0.3768+0.2953+0.2313+0.1812+0.1420+0.1112+0.0872+0.0683)

義足の耐用年数は五年程度であるので、平均余命までの五五年間の五年毎の原価ライプニッツ係数を乗じた計算による。

人身損害合計 九二九万二三二一円

(イ) 後遺障害

原告は、左膝関節と足関節との間を切断しており(欠損傷害として五級五号該当)、膝関節の運動可能領域が、二分の一以下に制限されており、三大関節中の一関節の機能に著しい障害を残し(一〇級一一号)、左下肢の長管骨に変形を残し(一二級八号)、左下肢の露出面に手のひらの大きさを超える疵痕が残っている。

原告は、理容師として稼働しているが、一日中立ち仕事であり、本件事故による左下肢欠損および左膝機能障害の後遺症のため、甚大な影響を受けている。原告は、本件事故による負傷により、膝関節が残存していても三〇度程度しか屈伸できず、膝は機能不全状態となっている。本件においては、原告が立ち仕事が中心の理容師であること、欠損傷害の他に機能障害、左下肢変形障害および左下肢醜状障害があることを考慮すれば、後遺障害等級は四級が相当である。

症状固定日 平成一二年九月六日

<1> 逸失利益 九二七三万七三六七円

560万6000円(平成12年賃金センサス男性労働者、男子労働者、全年齢、学歴計)×0.92(労働能力喪失率、第4級)×17.981(20歳から67歳までの47年のライプニッツ係数)

<2> 後遺障害慰謝料 一八〇〇万円

後遺障害合計 一億一〇七三万七三六七円

(ウ) 物損

<1> バイク代 一〇万円

<2> ヘルメット、服、靴、時計 一〇万円

物損合計 二〇万円

(エ) 弁護士費用 一二〇二万二九六八円

損害額の一割相当額

イ 原告は、株式会社損害保険ジャパンから、以下のとおり合計四一四万九〇八二円の支払を受けた。

内訳 (ア) 治療費 三五九万九二〇〇円

(イ) 訓練用義足代 四万九八八二円

(ウ) 休業損害 五〇万円

合計 四一四万九〇八二円

ウ 差引後の損害請求額 一億二八一〇万三五七四円

(被告の主張)

ア 人身損害について

(ア) 付添看護費は否認する。医学的に家族看護の必要性はなかった。仮に、実際に近親者が付き添ったとしても、それは家族の愛情からであり、法的賠償の対象外である。

(イ) 入通院交通費等も否認する。自宅と病院の距離が不明であり、一往復のガソリン代四五〇円の根拠は明らかでない。

(ウ) 入院雑費二六万四〇〇〇円は認める。

(エ) 休業損害の基準単価四四九二円は認めるが、休業期間は否認する。休業期間としては、勤務先発行の休業損害証明書により欠勤日数とされた事故日から平成一一年二月二八日までの四九日を認めれば足りる。

(オ) 傷害慰謝料、義足代、将来の義足代は、いずれも不知。

イ 後遺障害について

(ア) 自賠責事前認定の結果が五級相当であったことは認め、原告の四級相当の主張は否認する。

(イ) 基礎収入は原告が若年者であることから、賃金センサスに依拠してよいが、男子学歴計全年齢平均賃金ではなく、学歴別の賃金によるべきである。平成一二年男子高卒全年齢平均賃金は五一九万三三〇〇円である。

(ウ) 後遺障害慰謝料は、五級相当の一四〇〇万円が相当である。

ウ 物損については、不知。

エ 弁護士費用については、争う。

オ 既払金については、認める。

第三争点に対する判断

一  争点(1)(本件事故発生についての過失割合)について

(1)  証拠(甲二、一〇、乙二の一ないし五、六の一ないし一〇、七の一ないし五、八、九、一二、一三、原告、被告)によれば、以下の事実が認められる。

ア 本件事故が発生した現場は、さいたま市北区(事故当時大宮市)<以下省略>先に所在する県道大宮・桶川・鴻巣線(旧中山道)の信号機の設置された宮原中学校西交差点であり、本件事故当時の天候は晴れであり、道路状況は片側一車線づつの直線道路であり、平坦なアスファルト舖装の乾燥路面であった。

原告運転の被害車両は、上記道路を埼玉県さいたま市方面から同県上尾市方面に向かって進行し、本件交差点にて右折しようとしていたものであり、被告運転の加害車両は、上記道路を被害車両と対向してさいたま市方面へと直進していた。なお、上記道路は、制限指定速度時速四〇キロメートルの交通規制が設けられている。

イ 原告運転の被害車両が対面信号表示が青色であるのを認めて交差点に進入し右折を開始した折り、対向車線から被告運転の加害車両が直進して本件交差点に進入し、両車両は衝突して本件事故に至った。

上記衝突地点は、交差点手前の横断歩道の交差点内側の線から被害車両がおよそ六メートルほど進出した位置であり、同横断歩道の交差点内側の線と本件交差点の中心との距離のほぼ真ん中付近である。

ウ 被告は、本件交差点の約五五メートル手前で対面信号が青色であることを確認し、そのまま本件交差点を直進するべく、時速約六〇キロメートルにて進行し、交差点手前約二五メートル付近にて左方向を確認しながら進行し、その際対向車線を反対方向から走行してきた原告運転の被害車両には気が付かないまま、本件交差点に進入した。

エ 被告は、同交差点に進入して初めて前方の横断歩道付近に被害車両がいるのを発見し、直ちにブレーキをかけたが間に合わず、上記衝突地点において、原告運転の被害車両の後部に加害車両の左前部を衝突させた。加害車両は、衝突地点から約一七・三メートル走行して停止し、路上には、加害車両のスリップ痕が、右前側二一・二メートル、左前側一七・九メートル残った。

オ また、原告は、本件事故の前日(平成一〇年一二月二六日)の夜一〇時過ぎから一二時過ぎ頃まで、浦和の居酒屋で高校時代の友人達と飲酒をしていた。原告は、本件事故発生(翌二七日午前一時一五分頃)後、大宮赤十字病院に搬送されたが、午前一時四〇分頃に診察した同病院の医師は、原告にアルコール臭を確認した。

(2)  以上の事実関係に照らすと、本件事故は、被告が、制限指定速度をおよそ時速二〇キロメートルほど超過して上記道路を進行していたところ、本件交差点の約五五メートル手前で前方の本件交差点の対面信号表示が青色であることを確認したことから、スピードを減速することなく時速約六〇キロメートルのまま本件交差点を通過しようとしたこと、また被告が、対向車線を進行してくる車両に注意を払うことなく、前方の交差点の左側を見ながら進行したことから、対向車線を進行してきた被害車両には気が付かずに本件交差点に進入し、そこで初めて同交差点を右折してくる被害車両を発見し、急制動の措置を取ったが間に合わず衝突するに至ったこと、一方、原告は、本来の右折方法である交差点の中心付近まで進行した後、その直近を右折するという方法を取らずに、交差点の中心のかなり手前で、右折進行したことにより発生したものであることが認められる。

(3)  また、原告は、本件事故当時、相当程度アルコールを摂取していたことが認められる。この点につき、原告は、サワー一杯しか飲んでいない旨、陳述書及び本人尋問において述べるが、証拠上、特段、原告がアルコールが飲めないという体質であったものとは認められないところ、忘年会シーズンであった平成一〇年一二月二六日に高校時代の友人達と夜一〇時過ぎから一二時過ぎまで居酒屋にいて、原告がサワー一杯しか飲まなかったというのは極めて不自然であること、翌二七日の午前一時四〇分頃に診察した医師が、原告につきアルコール臭を確認していることから、原告の上記供述部分は信用できず、二時間程度居酒屋にいて高校時代の友人達と飲酒していたことから、原告は、本件事故当時相当程度体内にアルコールを保有する状態であったものと認められる。

(4)  これによれば、本件事故は、被告が前方不注視により右折車両の確認を怠り、また本件交差点の手前でスピードを減速することなく、制限速度を時速約二〇キロ超過して、本件交差点に進入した過失と、原告が直前に相当程度のアルコールを摂取し、その影響もあり、直進車両の動静について十分な注意をしないまま、本件交差点を本来の右折方法によらずに早回りをすれば右折できるものと軽信して右折を開始した過失に基づくものであるということができ、これらの双方の過失の程度を総合勘案すれば、本件事故発生における原被告の過失割合は、原告が六〇パーセントであり、被告が四〇パーセントであるとするのが相当である。

二  争点(2)(原告における損害の発生及びその額)について

(1)  争いのない事実等及び証拠(甲三、四、五の一ないし二〇、六)によれば、原告は、本件事故により、大宮赤十字病院に平成一〇年一二月二七日から平成一一年五月三日まで、一二八日間入院し、北里研究所メディカルセンター病院に平成一一年五月六日から同年一一月一九日まで(実通院日数八七日間)通院し、埼玉県総合リハビリテーションセンターに平成一二年一月一七日から平成一二年一月二三日まで(七日間)、平成一二年二月三日から平成一二年三月七日まで(三四日間)、平成一二年七月一二日から平成一二年七月一八日まで(七日間)、それぞれ入院し、同病院に平成一一年一〇月四日から平成一二年九月三〇日まで(実通院日数七二日間)通院したことが認められ、また原告は、左膝関節から一〇センチメートルの部分の切断による欠損障害、左膝関節機能障害、左下肢変形障害、左下肢の醜状障害の各後遺障害を負い、現在は、義足で生活していることが認められる。

(2)  争いのない事実等、証拠並びに弁論の全趣旨によれば、原告に発生した損害は、以下のとおりであると認められる。

ア 治療費 三五九万九二〇〇円(争いがない事実等)

イ 訓練用義足代 四万九八八二円(争いがない事実等)

ウ 付添看護費 一七万五〇〇〇円

原告に付添を要することにつき、医学的観点からの必要性、相当性を裏付ける具体的事情等を認めるに足りる証拠はないが、原告は、上記(1)のとおり、左膝関節から一〇センチメートルの部分を切断する手術を受け、相当期間の自分で身の回りのことができない状態であったことが推認できるところ、原告の入院期間中の一定期間、親族らが原告の着替えを手伝い又は洗濯物等の日用品を届けたりする必要があることが認められる。そして、原告の障害の程度からして、三五日間について、一日当たり五〇〇〇円の付添看護費を認めるのが相当である。

エ 入通院交通費等 三万二四〇〇円

原告が、埼玉県総合リハビリセンターに七二日間、通院したことは当事者間に争いがなく、弁論の全趣旨によれば、原告の実家から埼玉県総合リハビリセンターまでは、約三〇キロメートル離れており、その交通費としてのガソリン代としては、一回約四五〇円程度を要するものと認められる。

オ 入院雑費 二六万四〇〇〇円(争いがない事実等)

カ 休業損害 二七九万八五一六円

4492円×623日(休業期間)症状固定日(平成12年9月6日)まで

証拠(甲九、一一)及び弁論の全趣旨によれば、原告は、本件事故当時、理容師として埼玉県岩槻市所在の有限会社サロン姿に勤務し、手取り月額一三万四七七〇円の給与を得ていたこと、原告は本件事故による受傷により、休業したこと、原告は、同勤務先に平成一二年一二月一〇日まで勤務していたことが認められる。これによれば、原告は、症状固定日(平成一二年九月六日)までの間、日額四四九二円の割合で現実の収入を失ったものと認められる。

キ 傷害慰謝料 二七二万円

原告は、上記(1)のとおり、本件事故にて受傷し、入院一七六日、実通院日数一五九日間に及ぶ治療を要したところ、この入通院期間を基礎として、傷害の程度、部位を勘案すれば、障害慰謝料としては、二七二万円が相当である。

ク 義足代 四六万三二一六円

原告は、上記(1)のとおり、本件事故にて受傷し、左下肢を膝関節から下一〇センチメートルの部分にて切断したところ、証拠(甲八)によれば、義足代として四六万三二一六円が必要であることが認められる。

ケ 将来の義足代 一五六万一八二五円

上記クのとおり、原告には、義足が必要であるところ、これは、原告が生存中は約五年程度で作り直す必要のあることは自明であり、平均余命までの五五年間の原告の計算による将来の義足代は理由がある。

コ 逸失利益 七三七七万〇七七四円

(ア) 後遺障害について

争いのない事実等及び証拠(甲六)によれば、原告は、左膝関節と足関節との間を切断したことが認められるから、一下肢を足関節以上で失ったものとして、後遺障害等級別表第二の第五級五号に該当し、また、原告は、膝関節の運動可能領域が、二分の一以下に制限されているものと認められ、一下肢の三大関節中の一関節の機能に著しい障害を残すものとして、上記等級別表第二の第一〇級一一号に該当し、さらに、大腿骨骨折に起因する変形障害が認められ、左下肢の長管骨に変形を残すものとして、上記等級別表第二の第一二級八号に該当し、また、左下肢の露出面に手のひらの大きさを超える瘢痕が残り、特に著しい醜状といえることから、自賠法施行令別表備考六を適用し、上記等級別表第二の第一二級に該当するものと認められる。

原告には、以上のとおり、欠損傷害の他に機能障害、左下肢変形障害および左下肢醜状障害があること、立ち仕事が中心の理容師であることを考慮しても、一下肢の膝関節以上の欠損による後遺障害等級第四級五号よりも軽いと言わざるを得ないから、原告の後遺障害等級としては、上記等級別表第二の第五級が相当というべきである。

(イ) 基礎収入について

原告が、本件事故当時一九歳の若年者であること、大学には進学せずに、既に理容師として働いていたことからすれば、男子高卒全年齢平均賃金によるべきであり、症状固定時である平成一二年の男子高卒全年齢平均賃金は五一九万三三〇〇円であるから、これを原告の基礎収入とすべきである。

519万3300円×0.79(労働能力喪失率、第5級)×17.981(就労可能期間47年のライプニッツ係数)=7377万0774円

サ 後遺障害慰謝料 一四〇〇万円

原告については、後遺障害等級別表第二の第五級該当として、後遺障害慰謝料として、上記金額が相当である。

シ 物損 二〇万円

乙六の八ないし一〇によれば、本件事故により、原告の運転していた被害車両(原動機付き自転車)が損壊したことが認められ、またこの損害状況及び上記一(1)に認定した本件事故の発生状況からして、事故当時、原告が着用していたヘルメット、服、靴、時計が損壊したことが推認される。

(ア) バイク代 一〇万円(乙六の八ないし一〇、弁論の全趣旨)

(イ) ヘルメット、服、靴、時計 一〇万円(弁論の全趣旨)

ス 以上の損害合計 九九六三万四八一三円

三  以上の原告の損害額九九六三万四八一三円から原告の過失割合(六〇パーセント)を差し引くと三九八五万三九二五円となり、ここから既払い金合計額四一四万九〇八二円(当事者間に争いがない。)を差し引くと三五七〇万四八四三円となる。そして、原告は、本訴の提起につき訴訟代理人として弁護士を委任しているところ、この弁護士費用は、上記金額の約一割である三五〇万円が相当である。

四  以上によれば、原告の本訴請求は、三九二〇万四八四三円及びこれに対する遅延損害金を求める限度で理由があり、その余の請求は理由がないから棄却することとする。

五  よって、主文のとおり判決する。

(裁判官 柴田秀)

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