さいたま地方裁判所 平成15年(行ウ)15号 判決 2004年1月14日
原告
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同訴訟代理人弁護士
木下良平
河本仁之
被告
さいたま市長 相川宗一
同訴訟代理人弁護士
早坂八郎
主文
1 本件訴えをいずれも却下する。
2 訴訟費用は、原告の負担とする。
事実及び理由
第3 当裁判所の判断
1 争点1について
(1) 条例は、地方公共団体の議会の議決によって成立し(地方自治法96条1項1号)、地方公共団体の長が公布することによって効力を生じるものである(同法16条2項、3項)が、条例の公布行為は、地方公共団体の議会が条例の制定を議決したことによって既に成立した条例を外部に表示する付随的な行為にすぎないから、それ自体で国民の具体的な権利義務ないし法的地位に影響を及ぼすものではなく、一般には抗告訴訟の対象となる処分ということはできない。
もっとも、条例の公布行為を争う場合であっても、条例自体の違法性を争う趣旨と解される場合もある。すなわちそのような条例の内容や制定手続が違法であるため、違法な条例の公布行為もまた無効であり、取り消されるべきであるとした訴訟を提起する場合があり、本件もそのように善解し得ないではない。
(2) 原告は、本件各訴えによって、「さいたま市区の設置等に関する条例」の公布のうち、2条中「本市の区域を分けて次の区を設ける。…見沼区…」とする部分を対象として、市議会の議決の前提にある選定委員会の答申が、設置要綱4条3項の手続に違反し、また、市民投票の結果を無視して住民自治の原則に著しく反すると主張して、見沼区内に居住する住民としての立場で、主位的にその無効確認を、予備的にその取消しを求めている。
しかし、区名は住民の日常生活にとって密接な関係を持つものであるが、元来、単なる地名特定のための名称であるにとどまり、個人が特定の区名を自己の居住地の表示に用いることによる利益・不利益は、通常、当該区域に現にその特定の名称が付されていることから生ずる事実上のものであるにすぎない。そして原告の主張にかかる選定委員会の答申の手続や住民自治の原則なるものは、住民の有する一般的利益にほかならず、抗告訴訟により救済を求めるような具体的な法的利益であると解することもできないし、さらに、本件のような区名決定につき民衆訴訟を提起しうることを定めた規定も存しない。そうすると、原告の、本件各訴えは、いずれも訴えの利益を欠く不適法な訴えであるから、却下を免れないというべきである(なお、最高判昭和48年1月19日判決・民集27巻1号1頁参照。)。
2 なお、事実に鑑み、本案の争点2につき判断する。
本件条例は選定委員会が、審議し、選定した区名案を被告に答申し、被告が本件条例の議案をさいたま市議会に提案し、議会がこれを議決したものである。
この点につき、原告は、選定委員会の議決について手続的な違法があった旨主張するが、設置要綱4条3項には議事は出席委員の過半数で決し、可否同数のときは、議長の決するところによるとされているところ、乙8によれば、区名選定をした第4回選定委員会会議は平成14年9月30日に開催され、出席した委員は議長1名を含めて35名であったところ、D区の区名を「見沼」とすることに挙手したものが議長を除くと出席委員の半数の17名であったため、議長はD区の区名を「見沼」とすることに決したと認められる。
本件では、34名のうちD区の名称を「見沼」とすることに挙手したのが17名であるから、設置要綱4条3項にいう可否同数に当たり、同項によれば可否同数の場合には議長の決するところによるとされているのであるから、議長が見沼区にすると発言したことにより決したといえ、その議決手続に違法があるとはいえない。
3 結論
以上のとおりであって、本件条例の違法性を判断するまでもなく、原告の被告に対する本件条例の公布の無効及び取消しを求める訴えは、いずれも訴えの利益を欠き不適法な訴えとして却下を免れないので、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 豊田建夫 裁判官 都築民枝 松村一成)