大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

さいたま地方裁判所 平成15年(行ウ)18号 判決 2003年9月03日

原告

被告

吉川市長 戸張胤茂

同訴訟代理人弁護士

真木吉夫

主文

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は、原告の負担とする。

事実及び理由

第3 当裁判所の判断

1  普通地方公共団体の長又は執行機関が、当該普通地方公共団体の事務を遂行し対外的折衝等を行う過程において、社会通念上儀礼の範囲にとどまる程度の接遇や交際を行うことは、当該普通地方公共団体も社会的実体を有するものとして活動している以上、上記事務に随伴するものとして、許容されるものというべきである。しかし、それが公共的存在である普通地方公共団体により行われるものであることに思いを致すと、事務遂行の過程や対外的折衝等をする際に行われた接遇や交際であっても、社会通念上儀礼の範囲を逸脱したものである場合には、当該接遇ないし交際は普通地方公共団体の事務に当然伴うものとはいえず、これに要した費用を公金により支出することは許されないというべきである(最高裁平成元年9月5日判決、判例時報1337号43頁参照)。

この理は、地方公共団体の長が、当該地方公共団体の議会の議員、選挙管理委員会等各種委員会の委員、自治会役員、住民等との懇談会等各種会合に出席する場合も同様であって、地方公共団体の長は、その職責上、これら自治体関係者、住民等と普段から十分な意見交換や意思疎通を図るべき必要があり、これらの会合において長の側から祝意等を表し、あるいは飲食が伴う場合参加費として相当費用を交際費から支出することは、それらの会合の趣旨、目的、内容、費用等に照らし、社会通念上不相当と認められない限り、円滑な市政の執行に寄与するものとして法律上許容されるものと解するのが相当である。

2  これを本件についてみるに、〔証拠略〕によれば、本件新年会は、吉川市選挙管理委員相互の会談の機会が少ないため、年1回は、同委員相互の率直な話し合いができる機会を設けるために開催されたものであること、戸張は、吉川市選挙管理委員会から市長として本件新年会に招待されたが、被告と同委員会とは、それぞれ独立した執行機関であり、職務及び権限はそれぞれ異なるが、円滑な職務執行のために、信頼関係を維持することや意思の疎通を図ることは必要であると考え、出席することとしたが、その際、本件新年会の会費は1万円であることを伝えられていたこと、現に、被告は、平成14年1月18日に吉川市の料亭で開催された本件新年会に出席したが、その際、同会合が飲食を伴うものであったことから、その実費相当分として1万円を市長交際費として支払ったことが認められる。

そうすると、戸張が、被告の地位に基づき、同会合に出席した経緯及び目的は、前記認定のとおり、吉川市選挙管理委員会から吉川市長として招待されたことを受けたものであり、その招待に対して、戸張は、被告として同委員会との間で意見交換や意思疎通を行うことを目的として出席したものであって、もっぱら私人として他の参加者との個人的な親交を深めたり、酒宴を行うこと自体を目的としたものではなく、公務というべきものであること、その際に支出した金額も、事前に吉川市選挙管理委員会から会費として伝えられていた金額であり、社会通念上の儀礼の範囲にとどまる程度の額であって、特に高額なものとはいえないこと、本件新年会のような、吉川市選挙管理委員の会合が開催される機会も少ないことなどからすれば、本件公金支出は、市長交際費の支出として、許容される範囲のものということができる。

したがって、本件公金支出が、市長交際費として資金前途された趣旨を逸脱するものとして違法であるということはできない。

3  これに対し、原告は、地方公共団体における交際費は、対外的に活動する地方公共団体の長その他の執行機関が、その行政執行のために外部との交際を要する場合の経費であるところ、市選挙管理委員会は市の外部機関ではないから、市長と市の一組織である市選挙管理委員会との会合において、交際費を支出することは許されない旨主張する。しかし、普通地方公共団体の長と選挙管理委員は、同一の普通地方公共団体内部関係者ではあるが、選挙管理委員会等のいわゆる行政委員会は、地方公共団体の長から独立した権限をもつ執行機関であり、その行使に対して長の指揮監督権は及ばない(地方自治法138条の2、同条の3第1項、同条の4第1項参照)。また、行政委員会等の執行機関は、普通地方公共団体の長の所轄の下に、執行機関相互の連絡を図り、すべて一体として、行政機能を発揮するようにしなければならず(地方自治法138条の3第2項)、他方、普通地方公共団体の長は、当該普通地方公共団体の執行機関相互の間にその権限につき疑義が生じたときは、これを調整するよう努めなければならないのであり(同条の3第3項)、更に、行政委員会等の執行機関の多元化による縦割行政の弊害等を防止するためにも、普通地方公共団体内部での統合を維持・強化を図る必要もある。以上によれば、普通地方公共団体の長が、行政委員会の委員と意見交換や意思疎通を行い、その際にできるだけ率直な話合いが可能となるよう、社会通念上の儀礼の範囲にとどまる程度の飲食相当費用を交際費から支出することは、長の職務に関連するものとして許容されるというべきである〔なお、吉川市の市長交際費の取り扱い基準(〔証拠略〕)において、市長交際費の目的を、対外的に地方公共団体の長が行政執行のために必要な外部との交渉上要する経費としているが、同基準では、交際の内容を調整交渉的交際(行政事務及び事業の円滑、適正な遂行を図るために行う調整、交渉、懇談等に要する経費。(情報収集、意見交換))と儀礼的交際(慶弔、見舞等に関するもの。各種団体、各地区の行事等への参加に関するもの。その他)としており、本件のような会合参加がその範囲外とは断じ難いし、同基準においても、市議会議員、三役、市職員に対する香料等が市長交際費とされるなど、地方公共団体内部の者に対する市長交際費の支出が予定されていることからすれば、同基準に照らしても、原告の主張を採用することはできない。〕。

4  結論

以上の次第で、原告の請求は理由がないから、棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 豊田建夫 裁判官 都築民枝 菱山泰男)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例