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さいたま地方裁判所 平成15年(行ウ)25号 判決 2004年1月28日

原告

被告

北本市長 石津賢治

同訴訟代理人弁護士

伊藤一枝

主文

1  原告の平成15年5月1日付け「A氏が作成した録音テープ反訳に対する反論または作成して北本市情報公開・個人情報保護審査会に提出した反論の控」の公開請求に対し、被告が平成15年5月12日付けでした公文書公開決定(実質は非公開決定)を取り消す。

2  訴訟費用は、被告の負担とする。

事実及び理由

第3 当裁判所の判断

1  本件公開請求の前段文書について

原告が請求を求めた前段の文書は「A氏が作成した録音テープ反訳に対する反論」であり、Aが作成した反論文書を求めていると解されるところ、被告はその請求に対し、本件処分において、「録音テープについては内容を聞いておりませんので反論は控えさせていただきました。」とする備考欄に記載したのみで明確な応答をせず、結果的に公開しなかったものである。

開示請求文書が行政機関に存在しない場合の取扱いについては、本件条例には明確な規定は存在しない。

しかしながら、情報公開法9条2項では行政文書を保有していないことを理由とする非開示を通常の理由による非開示と同一に扱っており、本件条例の下でも、一般の理由による不開示と不存在を理由とする非開示の場合とで取扱いを異にする合理的理由はない。しかも、〔証拠略〕によれば、被告は、これまでに公開請求に係る公文書が存在しない場合には、「公文書不存在通知書」と題する書面を作成し、「不存在の理由」欄にその理由を記載し、上記通知に請求人から行政不服審査法の規定に基づく不服申立てがあったときは、本件条例12条により北本市情報公開・個人情報保護審査会への諮問を行っていることが認められるから、本件条例の下でも、不存在を理由とする非公開決定をするときは、明確に不存在であることや不存在により公開できない旨を通知し、かつ、本件条例9条4項に基づきその理由を伴せて通知しなければならないと解される。

そして、一般に、法令(条例を含む。)が行政処分に理由を付記すべきものとしている場合に、どの程度の記載をすべきかは、処分の性質と理由付記を命じた各法令の趣旨・目的に照らしてこれを決定すべきであるが(最高裁昭和38年5月31日判決・民集17巻4号617頁参照。)、その求められている趣旨に適った理由付記がなされていない場合は、その行政処分は、手続上の瑕疵がある処分として取消しを免れないと解される。ところで、本件条例に基づく公文書の公開請求制度は、市民の市政への参加を促進し、公正な市政の執行と市政に対する市民の信頼を確保しようとするものであり(本件条例1条、3条参照)、非公開決定の際に理由を付記すべきとする趣旨は、非公開理由の有無について実施機関の判断の慎重と公正妥当を担保してその恣意を抑制するとともに、非公開の理由を公開請求者に知らせることによって、その不服申立てに便宜を与えることにあると解されていることに照らすと、本件のような文書が不存在であるとして公開を拒否する場合であっても、単に不存在である旨だけではなく、請求に係る文書が作成されていなかったのか、文書が作成されたが破棄又は紛失してしまったため現存していないのか、文書それ自体は存在するが公開請求対象文書に当たらないとするのか、それぞれ根拠を示して説明することが必要と解される。すなわち、文書不存在であるとして公開を拒否する場合に付記する理由としては、文書が存在しないとする理由とその態様について請求者が了知し得るものでなければならず、単に不存在であることを記するのみでは本条例の要求する理由付記としては十分とはいえない(最高裁平成4年12月10日判決・判例時報1453号116頁参照)。

これを本件についてみるに、本件処分では本件請求の前段の文書については、備考欄で「録音テープについては、内容を聞いておりませんので反論は控えさせていただきました。」としているのみであり、そもそも決定の主文に当たる部分が不明確である。これを実質的に不存在を理由とする非公開処分とみるとしても、上記備考欄の記載は、Aが反論文書を作成するのを控えた(文書自体が存在しない)とする意味であるのか、文書は存在するが被告が録音テープの内容を聞いていないから公開することはできないとしている意味であるのかその趣旨が不明確で理由の記載として十分でない。

したがって、原告が本件請求の前段で「A氏が作成した録音テープ反訳に対する反論」なる文書の公開を請求したのに対し、被告が、明確な応答をせず、備考欄に「録音テープについては内容を聞いておりませんので反論は控えさせていただきました。」と記載したのみで、実質的に公開を拒否した本件処分は理由付記を定めた本件条例9条4項に違反するものであり、取消しを免れない。

2  本件公開請求の後段文書について

(1)  原告が請求した本件後段の文書は、「作成して北本市情報公開・個人情報保護審査会に提出した反論の控」というものであるが、前段の「A氏が」とする主語が後段にもかかるとみるのが文法的にも自然であり、作成者については本件前段文書と同様にAであると解される。したがって、本件後段文書は「A氏が作成して北本市情報公開・個人情報保護審査会に提出した反論の控」であると解するのが相当である。これに対して被告は、被告作成の「原告が提出した『文書不存在理由説明書に対する意見書』に対する意見書」を公開したのであるが、結果的に被告は、原告が請求した本件公開請求の後段文書と全く別の文書を公開したことになる。

このように、請求した文書と別の文書を公開するという処分がなされた場合には、請求対象文書が公開されなかった上に、非公開とする際に本件条例9条4項により要求される理由の付記もなされない結果となるのであるから、実質的には、何らの理由を付記することなく公開を拒否したものと同様であると考えられる。とすれば、前述のような本件条例が非公開処分をする際に理由を付記することを要求した趣旨を潜脱する結果となるのであるから、違法と解すべきであり、本件処分中被告が本件公開請求の後段文書の公開をせず、被告作成意見書を公開するとした部分も取消しを免れない。

(2)  なお、この点について、被告は、本件請求の後段文書の作成者を被告と解釈した上で本件処分を行っているとも思われる。しかし、一般に公開請求書の対象文書の内容は、原則として請求書の記載内容から判断すべきであり、補充的に請求者の請求に至った経緯等から請求者の意図を推認して解釈することができないわけではないが、本件の場合は、前段文書及び後段文書にかかるものとして「A氏が作成し」と記載されているから、A氏作成の文書と理解すべきことは明らかであり、作成者として記載されているわけではない被告を作成者と読みとることは文言上無理というほかない。まして本件公開に係る被告作成の意見書は、かつて原告が公開決定を受けた文書と同一の文書なのであるから、原告が再びそのような文書を請求しているとみる余地はない。

3  結論

したがって、被告が本件請求の前段及び後段の各文書につきいずれも実質的に非公開とした本件処分は違法であって、取消しを免れない。

よって、原告の請求は、理由があるので認容することとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 豊田建夫 裁判官 都築民枝 松村一成)

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