さいたま地方裁判所 平成16年(レ)24号 判決 2005年9月21日
主文
1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は控訴人の負担とする。
事実及び理由
第1当事者の求めた裁判
1 控訴の趣旨
(1) 原判決を取り消す。
(2) 被控訴人は、控訴人に対し、金17万0850円及びこれに対する平成15年7月16日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(3) 訴訟費用は、第1、第2審とも、被控訴人の負担とする。
2 控訴の趣旨に対する答弁
主文と同旨。
第2事案の概要及び争点
1 事案の概要
本件は、控訴人においては、平成7年から平成14年までの間、被控訴人との間で継続的に金銭消費貸借取引を行っていたところ、支払った利息のうち利息制限法所定の制限を超える金額を元本に充当して計算すると過払金が生じるとして、被控訴人に対し、不当利得返還請求権に基づき、17万0805円及びこれに対する平成15年7月16日から支払済みまで民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
原審は、原告(控訴人)が被告(被控訴人)に対し支払った利息制限法所定の制限利率を超過する部分の利息について、貸金業の規制等に関する法律(以下「法」という。)43条1項のみなし弁済が成立するとして、原告(控訴人)の請求を棄却した。
2 前提事実(争いのない事実のほか、後掲の証拠等による。)
(1) 被控訴人は、法3条所定の登録を受けた貸金業者である(下記(2)のカードローン基本契約当時の登録番号:関東財務局長(4)第00022号、同契約解約当時の登録番号:関東財務局長(7)第00022号)(乙4、乙8〔枝番を含む〕)。
(2) 控訴人は、被控訴人との間で、平成7年3月11日、以下のとおりの約定で被控訴人から繰り返し金銭の借入ができるカードローン基本契約(以下「本件基本契約」という。)を締結し、同日本件基本契約に関して作成された「カードローン基本契約書」(以下「本件基本契約書」という。)の控えを交付された(甲2、乙11)。
ア 借入極度額 30万円
イ 利息 実質年率29.20%
(利息の計算方法=借入残高×0.292÷365日×各回の利用日数)
ウ 遅延損害金 年率36.50%
(遅延損害金の計算方法=借入残高×0.3650÷365日×各回の返済期日後の経過日数)
エ 借入・返済方式 借入金額スライドリボルビング方式(以下「本件リボルビング方式」という。)
オ 各回の返済金額(元利合計金額)
(ア) 借入金額 10万円以下の場合 金4000円以上
(イ) 同 20万円以下の場合 金8000円以上
(ウ) 同 30万円以下の場合 金1万2000円以上
(エ) 以下借入金額が10万円増すごとに金4000円を追加
(追加借入をしたときは、その直前の借入残高と追加借入金額との合計を借入金額とする。)
カ 各回の返済期日
(ア) 初回返済期日 借入日の翌日から起算して35日以内
(イ) 2回目以降 約定返済金の支払いをした日の翌日から起算して35日以内
(上記(ア)、(イ)とも、追加借入〔借入残高がある状態での新たな借入〕した場合は、追加借入日にかかわらず返済期日は変わらないものとする。また、返済期日が被控訴人の休業日にあたる場合は、翌営業日を返済期日とする。)
キ 返済方法 以下のうちいずれかの方法による。
(ア) 被控訴人の店舗への持参による返済
(イ) 被控訴人の現金自動借入返済機(以下「ATM」という。)による返済
(ウ) 被控訴人の指定する金融機関等への送金による返済
ク 返済金の充当順位 立替金・遅延損害金・利息・元金の順
ケ 期限の利益の喪失
控訴人が、本件基本契約に基づく返済を怠ったとき、被控訴人が必要と認める場合は、被控訴人からの通知、催告がなくても、控訴人は、被控訴人に対する一切の債務について、当然期限の利益を失い、残債務全額を直ちに支払うものとする。
(3) 被控訴人は、控訴人に対し、平成7年3月11日から平成14年5月23日までの間に、本件基本契約及び後述の各本件変更契約に基づき、別紙計算書中「取引日」欄記載の年月日に同「貸付金額」欄記載の額の金員を貸し付け、控訴人から同「取引日」欄記載の年月日に同「弁済金額」欄記載の額の金員の弁済を受けた(甲1)(以下控訴人・被控訴人間の上記取引を総称して「本件取引」という。)。
(4) 本件基本契約及び後述の各本件変更契約に基づく貸付及び弁済は、ATMを通じて、あるいは、控訴人が被控訴人の営業店舗(以下「本件営業店舗」という。)へ来店してなされた。そして、被控訴人は、控訴人に対し、本件営業店舗における取引については「明細書」と題された書面(以下「本件窓口明細書」という。)を、ATMを通じての取引については「被控訴人ATM明細書」又は「ATM明細書」と題された書面(以下すべて「本件ATM明細書」という。)を交付していた。被控訴人は、本件窓口明細書についてはその写しを控えとして、また、本件ATM明細書についてはその記載をやや簡略化した「ac card」と題された書面を控えとして保管をしていた(乙3、乙14、乙15、乙21、乙22。それぞれ枝番を含む。)。
ただし、被控訴人作成に係る本件取引の経過表(甲1)によれば、被控訴人は、平成11年11月8日、控訴人から本件営業店舗において金1万5000円の弁済を受けているが、当該弁済につき本件窓口明細書が交付されたことを認めるに足りる証拠はない。
(5) 東京簡易裁判所は、平成14年9月3日、控訴人及び被控訴人間の特定調停事件について、特定調停法22条及び民事調停法17条に基づき、「相手方(被控訴人)は、申立人(控訴人)に対し、申立人が平成7年3月11日付け金銭消費貸借契約に基づき相手方から借り受けた金員について、消費貸借契約上の債務が存在しないことを確認する。」旨の決定をした(【事件番号は省略】)(甲3)。
(6) 本件基本契約は、平成14年9月3日、解約された(甲2)。
(7)ア 本件基本契約書及び後述する本件変更契約書<1>ないし<5>を併せれば、「貸金業者の商号及び住所」(法17条1項1号)、「契約年月日」(同条項2号)、「貸付の利率」(同条項4号)、「返済の方式」(同条項5号)、「貸金業者の登録番号」(同条項9号、法施行規則13条1項1号イ)、「契約の相手方の氏名及び住所」(同施行規則同条項号ロ)、「契約の相手方の借入金返済能力に関する情報を信用情報機関に登録するときは、その旨及びその内容」(同施行規則同条項号ホ)、「利息の計算方法」(同施行規則同条項号ヘ)、「返済の方法及び返済を受ける場所」(同施行規則同条項号ト)、「契約上、返済期日前の返済ができるか否か及び返済ができるときは、その内容」(同施行規則同条項号リ)及び「期限の利益喪失の定めがあるときは、その旨及びその内容」(同施行規則同条項号ヌ)が記載されている(甲4の1ないし2、甲5、甲6の1ないし2、乙23の1)。
イ 被控訴人は日賦貸金業者ではなく、また、本件においては、元本及び利息以外に控訴人が負担する金銭がなく、物的担保が供されておらず、保証契約が締結されておらず、電話金融担保ではないし、従前の貸付の契約に基づく債務の残高を貸付金額とする貸付に係わる契約でもないので、これらに関する事項の記載は不要である(法17条1項8号、同条項9号、法施行規則13条1項1号ニ、同施行規則同条項号ルないしカ)(弁論の全趣旨)。
(8)ア 個別の弁済に係る各本件窓口明細書及び本件ATM明細書には、「貸金業者の商号及び住所」(法18条1項1号)及び「貸金業者の登録番号」(同条項6号、法施行規則15条1項2号)の記載がある(乙2、乙3〔枝番を含む〕、乙15〔枝番を含む〕、乙22〔枝番を含む〕)。
イ 本件では、債務者である控訴人以外の者が債務の弁済をしていないので、法施行規則15条1項4号所定の事項を記載する必要はない(弁論の全趣旨)。
3 争点及び当事者の主張
本件における争点は、法43条1項の適用要件を検討する上で、(1)法17条の定める書面(以下「法17条書面」という。)の交付があったか、(2)法18条の定める書面(以下「法18条書面」という。)の交付があったか、(3)控訴人が「利息として任意に支払った」(法43条1項)か否かの3点であり、これらに関する両当事者の主張は以下のとおりである。
(1) 争点(1)(法17条書面の交付の有無)について
(被控訴人の主張)
ア(ア) 本件基本契約書及び後述する各本件変更契約書と個別の貸付に係る各本件窓口明細書あるいは各本件ATM明細書を併せれば、法17条1項各号に挙げられた記載事項を網羅しているのであるから、本件取引のうち貸付にかかる全ての取引について、法17条書面が交付されている。
(イ)a 包括的な契約を締結したうえで、個別の貸付を行うという本件基本契約の特徴から、法17条書面は複数にならざるを得ない。その契約形態からすると、本件基本契約書と本件窓口明細書及び本件ATM明細書との関係は債務者である控訴人にとって明らかであり、同人も両者の関係を明確に認識したうえで、取引を継続していた。
変更契約を締結した場合には、「変更部分以外の契約内容は、従前の契約のとおりである。」旨の記載があるから、各変更契約と本件基本契約との関係は明らかであるといえる。控訴人も、各変更契約に従って取引を続けていた。
b 本件基本契約書に記載されている契約番号が、個別の貸付に係る各本件窓口明細書及び本件ATM明細書、各変更契約書に記載されていることからも、これらの各書面の関係は明らかである。
イ(ア) 個別の貸付にかかる各本件窓口明細書及び本件ATM明細書において、個別の貸付の金額がその都度記載されている(法17条1項3号)。
(イ)a 本件リボルビング方式による取引は、「返済期間及び返済回数」(法17条1項6号)が特定しないものであり、それらを借り主が自由に決めることができる。従って、特定し得ない事項である「返済期間及び返済回数」を記載する必要はない。
b また、本件基本契約書において、「各回の最低支払金額と新規貸付日ないしは前回返済日の翌日から起算して35日目が支払日になる」旨が記載されており、かかる記載でもって、「返済期間及び返済回数」を記載すべきとした法の趣旨を全うしている。
(ウ) 本件基本契約書表面に、「遅延損害金年率36.5%」との記載がある(法17条1項7号)。
ただし、被控訴人は、自らの判断により、出資法改正以前の平成12年3月27日から、遅延損害金の割合を自主的に年29.20%に引き下げているが、その旨は、同日以降、被控訴人の店頭やATMコーナーにおいて掲示により各債務者に知らせているし、また、契約内容を債務者に有利な内容に変更するものであるから、上記の旨を示した書面を各別に交付しなかったからといって、法17条1項7号に反することにはならない。
(エ)a 本件取引は無担保無保証であり、貸付に関し、被控訴人は、控訴人から受け取る書面はないので、「貸付に関し貸金業者が受け取る書面の内容」(法17条1項9号、法施行規則13条1項1号ハ)を記載する必要はない。
b 被控訴人は、控訴人から、本件基本契約締結時に、控訴人の健康保険証及び同人が通院する整形外科の診察券を提示してもらったうえ、それらの書面の写しをそれぞれ受領したが、それらは、控訴人の本人確認のために必要としたものであって、およそ契約内容に関するものではないし、その内容について控訴人は知悉しているのであるから、当該書面を「貸付に関し貸金業者が受け取る書面の内容」として記載する必要はない。
(オ) 個別の貸付に係る各本件窓口明細書及び各本件ATM明細書に、次回の返済期限と次回の返済金額が記載されており、それでもって「各回の返済期日及び返済金額」(法17条1項9号、法施行規則13条1項1号チ)の記載要件が満たされている。
「返済期間及び返済回数」(法17条1項6号)の記載と同じく、当初からすべての返済期日及び返済金額を具体的に記載することは、本件基本契約のもとでは不可能であるから、それらを記載する必要はない。
(控訴人の主張)
ア(ア) 法定記載事項が複数書面に分散していると、どの書面が法17条書面に該当するのか不明瞭であり、債務者に対し、その債務内容につき正確な認識を得させるという法17条1項の趣旨を損なうので、法17条1項法定記載事項は原則として1通の書面に記載すべきところ、例外的に同事項を複数書面に分散しなければならないとしても、それら複数の書面の相互関係が明確になっていて、債務の内容が正確に理解できるようになっていなければならない。
(イ) 本件取引において、控訴人が、自身の正確な債務内容を認識するには、本件基本契約書及び個別の貸付にかかる本件窓口明細書あるいは各本件ATM明細書だけでなく、後述する本件変更契約書<1>ないし<5>をも併せて見なければならず、このように不必要に法17条書面を複数書面に分散させることは、同条項の趣旨に反するものである。
また、そもそも控訴人は、上記各変更契約書を交付されていない。
イ(ア) 追加借入の法的性質は、「その直前の借入残高(元金残高及び未払利息)についての準消費貸借契約と、追加借入金額についての消費貸借契約とを合わせた混合契約」であるから、追加借入がなされたときに交付される法17条書面に記載すべき貸付金額としては、旧貸付金額と追加貸付金額を明示して初めて、法17条1項3号の「貸付の金額」の記載を満たすものと解すべきところ、被控訴人が、個別の貸付の際に控訴人に交付した書面には、未払利息の記載が欠けており、これでは、正確に「貸付の金額」を記載したものとはいえない。本件では、追加借入の際に交付される明細書に、旧債務についての未払利息の記載がないため、債務者である控訴人は、旧債務についての未払利息の存在及びその金額を認識することができない。
(イ)a 被控訴人が控訴人に対し交付した書面は、本件基本契約書及び本件変更契約書、個別の貸付に係る本件明細書のいずれを見ても、「返済期間及び返済回数」(法17条1項6号)の記載を欠いている。
b 法17条1項は、その6号で「返済期間及び返済回数」の記載を要求するとともに、それとは別個に、同条項9号・法施行規則13条1項1号チで「各回の返済期日及び返済金額」を記載しなければならない旨を規定しているのであるから、後者の記載でもって、前者の記載に代えられるものではない。
c 債務者にとっては、各支払期日とその支払期日における最低金額がわかったとしても、その支払がいつまで続き、あと何回その支払をする必要があるのかがわからない以上は、自己の債務の内容を正確に認識しうるとはいえない。
d 被控訴人は、個別の貸付ごとに、少なくとも、その時点において、それ以降追加借入ができるにもかかわらず追加借入を一切しないで、返済期日以前に返済ができるにもかかわらず返済期日当日にしか返済をしないで、しかも、最低支払金額以上の返済ができるにもかかわらず最低支払金額しか支払わなかったと仮定した場合(以下「本件仮定」という。)の「返済期間及び返済回数」を記載する必要がある。
被控訴人においては、実際に、本件取引の途中から、たとえば、平成11年12月15日付貸付に係る本件窓口明細書に、その時点における本件仮定を前提にしたと思われる「返済期間及び返済回数」として、「最終返済期限 平成19年9月19日、返済回数 81回」といった旨の記載をしているのであるから、本件リボルビング方式による貸付についても、被控訴人において「返済期間及び返済回数」の記載が不可能であったとはいえない。
e 「返済期間及び返済回数」が変動するものであるならば、被控訴人は、債務者である控訴人が約定の返済期限より前に返済したり、又は、約定の返済額を超える金額を返済した場合、その後の返済方法がどのように変動するのか、追加借入がなされた場合にもその後の返済方法がどのように変動するのかをすべてあらかじめ具体的に予測した書面を交付しなければならない。
(ウ)a 被控訴人は、遅延損害金の利率につき、自らの判断で年36.5%から年29.2%に引き下げたと主張するが、このような契約変更がなされた旨を明確に示す書面は、控訴人に交付されていない(法17条1項7号)。
b 債務者に有利な契約内容の変更であっても、契約内容及び債務の内容を正確に知らせるという法の趣旨からすれば、これを明示した書面を交付しなければならない。
(エ)a 控訴人は、被控訴人に対し、健康保険証及び控訴人が通院している整形外科の診察券を本人確認のため提示したうえ、その写しを提出しているにもかかわらず、本件基本契約書には、それら写しを受領した旨の記載がない(法17条1項9号、法施行規則13条1項1号ハ)。
b 同法条項及び同法施行規則条項により記載が要求される「貸付に関し貸金業者が受け取る書面の内容」にいう書面は、契約内容に関する書面に限らず、行政監督上の見地から、後日の紛争を防止するとともに、貸金業者が余計な書面を徴求することを抑制するために記載が必要とされているのであるから、本人確認のためのものであっても、与信審査のためのものであっても、文字通り受領する書面の内容をすべて記載しなければならない。
(オ) 個別の貸付に係る本件明細書には、次回の返済期限と次回の返済金額が記載されているが、それだけではすべての返済期日及び返済金額が記載されていないのであるから、「各回の返済期日及び返済金額」(法17条1項9号、法施行規則13条1項1号チ)を記載したことにはならない。
ウ 以上からすると、本件取引について、法17条書面の交付があったとはいえない。
(2) 争点(2)(法18条書面の交付の有無)について
(被控訴人の主張)
ア 被控訴人は、控訴人に対し、本件基本契約及び後述する本件変更契約<1>ないし<5>に基づく弁済について、その都度直ちに本件窓口明細書あるいは本件ATM明細書を交付しており、同書面には、法18条で要求される事項が全て記載されているので、本件取引のうち弁済にかかる全ての取引について、法18条書面が交付されている。
イ(ア) 法施行規則15条2項の規定に従い、契約番号で「契約年月日」(法18条1項2号)、「貸付の金額」(同条項3号)、「債務者の氏名」(同条項6号、法施行規則15条1項3号)の記載に代えており、個別の弁済に係る各本件窓口明細書及び本件ATM明細書には、それぞれ、被控訴人と控訴人との契約番号が記載されている。
(イ) 個別の弁済がなされた場合、当該弁済に係る各本件窓口明細書及び本件ATM明細書には、それぞれ、「受領金額及びその利息、賠償額の予定に基づく賠償金又は元本への充当額」(法18条1項4号)、「受領年月日」(同条項5号)、「弁済を受けた旨を示す文字」(同条項6号、法施行規則15条1項1号)、及び「当該弁済後の残存債務額」(同条項6号、同施行規則同条項5号)が記載されている。
(控訴人の主張)
ア 本件窓口明細書及び本件ATM明細書あるいはそれらの控えを証拠として提出できない部分については、法17条書面及び法18条書面の交付が認められず、当該取引部分についてはみなし弁済の効果が発生しない。個別の弁済に係る本件明細書は、そのようなみなし弁済の効果が発生しない部分を無視して、本件取引のすべてにおいてみなし弁済の効果が発生するとの前提に立った記載をしているため、不正確な債務の内容を記載しているものであるから、少なくとも当該取引部分以降についてはみなし弁済の効果は発生しない。
イ(ア) 法施行規則15条2項の規定に従い、契約番号の記載をもって、上記記載事項に変えることができるとする見解があるが、法43条1項の適用要件は厳格に解すべきであるから、法施行規則15条2項は、法43条1項の適用要件としてはこれを含めることができない。そのため、法18条書面には、法18条1号1号ないし5号及び6号により定められた法施行規則15条1項1号ないし5号所定のすべてが記載されていることを要すると解すべきところ、個別の弁済に係る各本件明細書は、「契約年月日」(法18条1項2号)及び「貸付金額」(同条項3号)、「債務者の商号、名称又は氏名」(同条項6号、法施行規則15条1項3号)の記載を欠いている。
(イ) 被控訴人が控訴人に対し交付した書面は、みなし弁済の要件が欠け、その適用がない部分についても、みなし弁済の効果が発生するとの前提に立った計算をしているので、法定記載事項のうち、「受領金額及びその利息、賠償額の予定に基づく賠償金又は元本への充当額」(法18条1項4号)及び「当該弁済後の残存債務の額」(同条項6号、法施行規則15条1項5号)について客観的に正しい記載を欠くものである。
(ウ) 被控訴人が法18条書面であると主張する書面には、「お取引年月日」としての日付の記載があることは認められるが、その記載された年月日が書証の発行年月日であるのか、実際に、被控訴人が控訴人からの弁済を受領した年月日であるのか、容易に判断することができない。「受領日」あるいは「領収日」等の明らかに弁済を受けた日付であることが明示されなければ、「受領年月日」(法18条1項5号)の記載があったとはいえない。
(エ) 被控訴人が法18条書面であると主張する書面には、「明細書」といった表題に加え、「入金明細書」あるいは「ご返済」といった副題が記載されているが、そのうち「明細書」及び「入金明細書」との記載は、「弁済を受けた旨を示す文字」(法18条1項6号、法施行規則15条1項1号)とはいえない。
(オ) 個別の弁済に係る各本件窓口明細書には、「上記内訳により支払いし受取証書を受領しました。」との記載があるが、被控訴人が法18条書面であると主張する書面には、「受取証書」との記載は一切見当たらない。そうすると、被控訴人が法18条書面であると主張する書面以外に、「受取証書」と題された書面が存在し、控訴人がその交付を受けたかのようにも考えられるが、控訴人は、そのような書面を一切受け取っていない。
このような誤解を生じさせる記載がある書面は、法18条書面であるとはいえない。
ウ 以上からすると、本件において、法18条書面の交付があったとはいえない。
(3) 争点(3)(「利息として任意に支払った」か否か)について
(被控訴人の主張)
ア 控訴人は、個別の弁済の際、被控訴人の店舗に直接赴いて約定利率によった充当予定額について納得できない旨を告げるような行動には一度も出ておらず、従って、すべて「利息として任意に支払った」ものである。
イ 期限の利益喪失の特約があるとしても、債務者は、利息制限法1条1項に定める利息の制限額にしたがって利息を支払えば期限の利益を喪失することはないから、かかる特約の存在により直ちに上記制限利率を超える約定利息額の支払いが強制されるものでない。
(控訴人の主張)
ア 本件において、控訴人が被控訴人に対し、ATMにより弁済をする場合、被控訴人が一方的に指定する制限超過部分を含む返済金額の充当予定額の内訳に納得せず、「取消」ボタンを押して支払をやめる選択肢はあるが、債務者が「返済金額のうち利息に充当する金額を指定する機能」が設けられていないため、制限利息のみを支払うことが不可能であった。
イ(ア) 本件基本契約書の記載からすれば、債務者が、利息制限法所定の制限利率を超える約定利息を支払期限までに支払わなければ、契約において定められた元本についての期限の利益を失い、残元本及び既経過利息を直ちに一括して支払うとともに、残元金に対する約定の遅延損害金を支払うべき債務を負担することとなってしまう。
(イ) このような期限の利益喪失条項を含む金銭消費貸借契約においては、約定にしたがって利息の制限額を超える利息が支払われた場合であっても、その支払いは、期限の利益の喪失という不利益を避けるために制限超過部分の利息を支払ったものに過ぎない。
ウ 以上のような状況にあっては、控訴人が利息制限法所定の制限利率を超過する部分について「利息として任意に支払った」とはいえない。
第3当裁判所の判断
1 争点(2)(法18条書面の交付の有無)について
控訴人が被控訴人にした各返済に法43条1項が適用されるか否かについては、後述のとおり、法18条書面の交付がなされなかった返済には法43条1項の適用がなされず、そのことによって、当該返済について法43条1項の適用があるとの前提に立った充当関係及び残債務額を記載したそれ以降の取引に関する本件明細書が、不正確な債務内容を記載していることとなり、当該返済以降の取引につき、法17条書面の交付の有無にかかわらず、すべて法43条1項の適用が否定される結果となるので、本件各取引についての法17条書面の交付の有無の争点に先立って、法18条書面の交付の有無の争点について論ずることとする。
(1) 前記前提事実に加え、証拠(甲1、乙2、乙3〔枝番を含む〕、乙15〔枝番を含む〕、乙22〔枝番を含む〕、乙23の8ないし10)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。
ア 被控訴人は、控訴人から、平成11年11月8日、本件営業店舗において金1万5000円の弁済を受けているが、当該弁済に係る本件窓口明細書あるいは同書面の控えが原審及び当審において証拠として提出されておらず、法18条1項各号所定の事項が正確に記載された本件明細書が交付されたことを認めるに足りる証拠がないことは前記前提事実記載のとおりである。
イ 平成11年12月15日以降の個別の弁済に係る各本件窓口明細書及び各本件ATM明細書には、上記平成11年11月8日における弁済についても、みなし弁済が成立しその効果が発生するとの前提に立って算出された返済金の充当内訳及び残債務額が記載されている。
ウ 本件取引のうち最初の弁済である平成7年4月3日における弁済から同11年10月4日における弁済までは、その都度本件窓口明細書あるいは本件ATM明細書が交付され、それら書面には、弁済金のうちのいくらが元金に充当され、いくらが利息に充当されるのかといった入金内訳、受領年月日、「入金明細書」や「ご返済」といった弁済を受けた旨を示す文字、貸付金残高、本件基本契約において控訴人に付された契約番号が記載されている。
(2)ア 上記認定事実を総合すると、本件取引のうち最初の弁済である平成7年4月3日における弁済から同11年10月4日における弁済までについては、その弁済の都度直ちに法18条書面が交付されたことが認められるが、同年11月8日以降平成14年5月23日までは法18条書面の交付があったとは認められない。
イ 被控訴人は、平成11年11月8日における弁済については、本件窓口明細書の交付があったことが認められず、当該弁済についてはみなし弁済が成立せず、その効果が発生しないにもかかわらず、それ以降の取引において、当該弁済についてもみなし弁済が成立し、その効果が発生するとの前提に立って算出した返済金の充当内訳及び残債務額を、個別の弁済に係る各本件窓口明細書及び各本件ATM明細書に記載している。
しかしながら、それらの記載は、みなし弁済の効果が発生しない部分についてもその効果が発生するとの前提に立った記載をしている点で、不正確な債務内容を記載したものであるから、それら不正確な記載をした書面の交付でもって法18条書面の交付があったとは認められない。
(3) 一方、上記見解に反する控訴人の主張につき、以下検討する。
ア 控訴人は、「法43条1項の適用要件を検討するに当たっては、法施行規則15条2項が適用されることはなく、貸金業者は、契約番号等の記載をもって、法18条書面の記載を一部省略することはできず、そのような一部が省略された書面の交付では、法43条1項の適用要件にいう『法18条書面の交付』とはいえない。」旨主張する。
しかしながら、法43条1項2号は「(法)18条1項の規定により」と規定している一方で、法43条1項の適用要件を検討する場合に限って、法施行規則15条2項の適用を除外することを明示した条文はないのであり、また、そのような運用をすべき合理的な理由も存在しないので、控訴人の上記主張は採用しない。
イ 控訴人は、「被控訴人が法18条書面と主張する書面には、日付の記載があるものの、それは、『書証の作成年月日』であるのか、『受領年月日』(法18条1項5号)であるのか判然としない。」旨主張する。
しかしながら、個別の弁済をして、その都度当該弁済に係る明細書が交付される仕組みとなっている本件取引において、当該明細書に記載されている日付が、「書証の作成年月日」はもちろんのこと、「受領年月日」を示すことも社会通念上当然のことである。
従って、控訴人の上記主張は採用しない。
ウ 控訴人は、「『明細書』及び『入金明細書』といった記載では、『弁済を受けた旨を示す文字』(法18条1項6号、法施行規則15条1項1号)の記載があったとはいえない。」旨主張する。
しかしながら、個別の弁済をした際に、「入金明細書」と題された書面を交付されれば、社会通念上、それが弁済を受けた旨を示していることは明らかである。
従って、控訴人の上記主張は採用しない。
エ 控訴人は、「個別の弁済に係る各本件窓口明細書には、『受取証書を受領しました。』との記載があるが、当該記載は、別途『受取証書』なる書面が存在し、それを控訴人が受領したかのような誤解を生じさせる点で、不正確な書面であり、そのような記載がある以上法18条書面であるとはいえない。」旨主張する。
取引を行って書面の交付を受けたときに、その「受取証書」が本件窓口明細書のことを意味していることは、通常の理解力を持ったものであれば容易に理解できるのであるから、控訴人においてもまた同様である。しかも、法18条書面を債務者が受領した旨を記載することまで、法18条1項は要求していないことは明らかであるから、そのような要記載事項以外の事項にやや不正確な記載があったとしても、その意味するところが、通常の理解力を持った人間に理解できる程度の記載であれば、法18条書面の成立及び交付の効果が否定されるものではないことは当然である。
従って、控訴人の上記主張は採用しない。
2 争点(1)(法17条書面の交付の有無)について
前述のとおり、平成11年11月8日の弁済以降の貸付に関する返済については、すべて法43条1項の適用がないことになるので、次に、本件取引の最初である平成7年3月11日から同11年5月13日までの個別の貸付につき、法17条書面の交付があったか否か検討する。
(1) 前記前提事実に加えて、証拠(甲1、甲4の1ないし2、甲5、甲6〔枝番を含む〕、乙5〔枝番を含む〕、乙14〔枝番を含む〕、乙21〔枝番を含む〕、乙23の1ないし7)及び弁論の全趣旨によれば以下の事実が認められる。
ア 控訴人と被控訴人が本件基本契約を締結し、控訴人が本件基本契約書を交付されたこと、個別の貸付に係る各本件窓口明細書及び本件ATM明細書を交付されたことは前記認定事実のとおりである。
イ 控訴人は、以下のとおり、被控訴人との間で本件基本契約を変更する契約を締結し、その旨を記載した書面を交付された。
(ア) 控訴人は、被控訴人との間で、平成7年7月3日、利率を実質年率28.470%に変更する契約(以下「本件変更契約<1>」という。)を締結し、その旨及びそれ以外の事項は本件基本契約のとおりである旨を記載した書面(以下「本件変更契約書<1>」という。)を交付された。
(イ) 控訴人は、被控訴人との間で、同年12月28日、借入極度額を40万円に変更する契約(以下「本件変更契約<2>」という。)を締結し、その旨及びそれ以外の事項は本件基本契約のとおりである旨を記載した書面(以下「本件変更契約書<2>」という。)を交付された。
(ウ) 控訴人は、被控訴人との間で、平成8年12月2日、借入極度額を50万円に変更する契約(以下「本件変更契約<3>」という。)を締結し、その旨及びそれ以外の事項は本件変更契約<2>のとおりである旨を記載した書面(以下「本件変更契約書<3>」という。)を交付された。
(エ) 控訴人は、被控訴人との間で、平成9年6月2日、利率を実質年率27.375%に変更する契約(以下「本件変更契約<4>」という。)を締結し、その旨及びそれ以外の事項は本件変更契約<3>のとおりである旨を記載した書面(以下「本件変更契約書<4>」という。)を交付された。
(オ) 控訴人は、被控訴人との間で、同年11月4日、各回の返済金額(元利合計金額)を次のとおり変更する契約(以下「本件変更契約<5>」という。)を締結し、その旨及びそれ以外の事項は本件変更契約<4>のとおりである旨を記載した書面(以下「本件変更契約書<5>」という。)を交付された。
a 借入金額 10万円以下の場合 金3000円以上
b 同 20万円以下の場合 金6000円以上
c 同 30万円以下の場合 金9000円以上
d 以下借入金額が10万円増すごとに3000円を追加。ただし、利息額に満たないときは、利息額以上とする。
ウ(ア) 本件の取引は、貸付極度額を定める包括的な契約(本件基本契約)が締結された後、当該契約で定められた極度額の範囲内で個別の貸付及び弁済が繰り返し行われる形態の契約に基づき行われている。
(イ) 本件基本契約は、返済金額が借入残高及び利息の合計額に応じて定められている最低支払額以上とされ、かつ、借入極度額の範囲であれば何度でも追加借入が可能で、支払期限が前回支払日の翌日から35日以内とされるような形態であり、最低限度の支払額を各支払期日に支払うという制約以外、具体的な支払日や支払額の決定は債務者である控訴人の任意に委ねられており、債務者の借入及び返済の仕方如何によって「返済期間及び返済回数」並びに「各回の返済期日及び返済金額」が変動するものであり、その最低限度の制約を控訴人が厳守しさえすれば遅延損害金が発生しないという内容となっている。
(ウ) 上記のような契約内容が一義的に読み取れるだけの十分な記載が本件基本契約書になされている。
エ(ア) 控訴人と被控訴人との間には、本件取引が行われている最中、本件取引以外に別途何らかの消費貸借契約が締結されたことはない。(イ)a 本件基本契約書には、契約番号「070002130101」との記載がなされている。
b 本件変更契約書<1>には「変更契約番号0700021301-02、原契約番号0700021301-01」、本件変更契約書<2>には「変更契約番号0700021301-03、原契約番号0700021301-02」、本件変更契約書<3>には「変更契約番号070002130104、原契約番号070002130103」、本件変更契約書<4>には「変更契約番号070002130105、原契約番号070002130104」、本件変更契約書<5>には「変更契約番号070002130106、原契約番号070002130105」との記載がなされている。
c 個別の貸付に係る各本件窓口明細書及び本件ATM明細書には、契約番号として、「0700021301」との記載があり、当該記載に引き続いて、その個別の貸付がなされた時点の変更契約内容に応じて「-01」ないし「-06」との記載がなされている。
オ(ア) 個別の貸付に係る本件窓口明細書及び本件ATM明細書には、それぞれ「貸付金額」(貸付元金及び追加貸付額)が記載されている。
(イ) 本件取引において、「貸付金額」とは、貸付元金及び追加貸付額のことを指し、利息は貸付元金に組み込まれることはなく、それと区別されている。
そして、各返済期日間に、追加借入をしたとしても、本件リボルビング方式によって貸付元金の額に応じて最低返済額が変化するため、利息制限法所定の制限利率に従った場合であれ、同制限利率を超える約定利率に従った場合であれ、いずれにせよ、その貸付元金に応じた最低返済額を各返済期日までに支払えば、その都度未払利息を超える金額が返済され、未払利息はその時点で必ず解消される仕組みとなっている。
(2)ア 法43条1項の適用要件として、法17条書面を相手方に交付しなければならないものとされているところ、貸金業者が、貸金業に係る業務規制として定められた法17条1項等所定の各要件を具備した各書面を交付する義務を遵守したときに限り、適正な業務運営をする貸金業者に対する一種の特典として、利息制限法1条1項の規定にかかわらず、その支払を有効な利息の債務の弁済とみなすとした法の趣旨からすれば、法17条書面には、法17条1項の事項のうち、当該問題となっている取引によって記載が必要とされる事項がすべてが記載されていることが必要であり、その一部が記載されていないときは、法43条1項の適用要件を欠くというべきであって、有効な利息の債務の弁済とみなすことはできない。
イ(ア) 本件の場合、前記前提事実からも明らかなとおり、本件基本契約書及び本件変更契約書<1>ないし<5>、個別の貸付に係る各本件窓口明細書及び本件ATM明細書のいずれにも明確な日時としての「返済期間」及び確定的な数字としての「返済回数」が一切記載されておらず、また、個別の貸付に係る各本件窓口明細書及び本件ATM明細書には次回の返済期日と次回の返済額が記載されているものの、次々回以降最終返済に至るまでの明確な日時としての「各回の返済期日」と次々回以降最終返済に至るまでの具体的な「各回の返済額」が記載されていない。
(イ) しかしながら、上記認定事実のとおり、そもそも、本件取引は最終返済期間が明確に決められているわけではなく、各支払期日に最低返済金額を支払うという最低限のルールを守りさえすれば遅延損害金が発生しないシステムとなっていること、明確な日時としての「返済期間」及び確定的な数字としての「返済回数」があらかじめ定められておらず、具体的な返済期間及び返済回数については債務者である控訴人の任意に委ねられており、債務者の借入及び返済の仕方如何によって「返済期間及び返済回数」並びに「各回の返済期日及び返済金額」が変動するものであることが本件基本契約書の記載内容から一義的に明らかになっているのであるから、これらの契約内容が本件基本契約書に記載されていることでもって「返済期間及び返済回数」(法17条1項6号)の記載を必要とした法の趣旨を全うするものであるといえるし、また、個別の貸付に係る各本件窓口明細書及び本件ATM明細書に次回の返済期日と返済額が記載されていることでもって「各回の返済期日及び返済金額」(法17条1項9号、法施行規則13条1項1号チ)の記載を必要とした法の趣旨をも全うするものであるといえる。
(ウ)a 控訴人は、「被控訴人が控訴人に対し個別の貸付ごとに交付する書面には、少なくとも本件仮定に従った場合の『返済期間及び返済回数』及び『各回の返済期日及び返済金額』を記載する必要があり、その記載がなければ、いつになったら返済が終わるのかがわからず、債務者にその債務内容を正確に知らせることを目的とする法の趣旨に反する。また、『返済期間及び返済回数』等が変動するものであるならば、契約の当初において、その変動内容をすべて予測して具体的に記載しなければならない。」旨主張する。
b 本件取引の場合、平成10年8月3日の貸付に係る本件窓口明細書から、被控訴人においては、本件仮定を前提としたと思われる「返済期間及び返済回数」として、「最終返済期限 平成18年4月3日、返済回数 80回」との記載がされていることが認められる(乙21の6)(ただし、被控訴人は、当該書面について、「返済期間及び返済回数」を記載した書面として主張をするものではなく、あくまで「返済期間及び返済回数」の記載は必要がないと主張するものである。)。
しかしながら、本件仮定に従った場合の「返済期間及び返済回数」及び「各回の返済期日及び返済金額」を各本件窓口明細書あるいは本件ATM明細書に記載したとしても、そのような記載は、本件仮定に忠実に従った返済がなされた場合においてのみ正確な記載として意味がある。しかしながら、契約極度額の範囲内で個別の貸付及び弁済を繰り返すことが初めから予定されている本件基本契約の契約実態及び当該契約に基づく債務内容を正確に示しているとはいえない。従って、前記の仮定的記載は、債務の正確な内容を債務者に知らしめるために「返済期間及び返済回数」等の記載が必要であるとした法の趣旨に合致するものではない。上記認定事実のとおりの本件基本契約の内容が本件基本契約に基づく債務内容を正確に反映しているものであり、法の趣旨に合致するものである。
c 控訴人は、「返済期間及び返済回数」等が債務者の意思及び現実の返済の仕方によって変動するという内容の契約、つまり返済期間及び返済回数は債務者の返済方法次第で無数のパターンに変動するという内容の契約を結んだうえで、その内容を確認し、かつ、理解したという趣旨で本件基本契約書に署名をし、本件基本契約に基づいて継続的に金銭の借入及び返済を繰り返しているのであるから、少なくとも本件仮定に従った場合の「返済期間及び返済回数」の記載がなければ、いつになったら返済が終わるかわからないなどということはない。
(エ)a また、法17条の規定に違反して書面を交付しなかったり、同条に規定する事項を記載しない書面若しくは虚偽の記載をした書面を交付したものは、1年以下の懲役若しくは300万円以下の罰金に処し、又はこれを併科するとされている(法48条4号)ことからすると、罪刑法定主義の観点からは、法17条で定められている記載事項を超えること、あるいは、記載が不可能なことまで貸金業者に書面に記載するように求めることはできないと解される。
b 本件基本契約において、追加貸付、繰上充当及び繰上返済等をすべて予測して、それらの事由が生じた場合の具体的な「返済期間及び返済回数」等の変動をすべてあらかじめ記載することは、前記認定事実のとおりの本件基本契約の内容からすると事実上不可能であると言わざるを得ず、そのような不可能な事項まで法は記載を要求するものではないので、この点に関する控訴人の上記主張は採用することができない。
(オ) 本件基本契約は、具体的な返済期間及び返済回数等を債務者に委ねる性質のものであることから、債務者が返済計画を立てることができなければ、多重債務者となる危険性は一般的にはあるところ、控訴人も、「本件リボルビング方式をはじめ、大手消費者金融会社のリボルビング方式による異常な高金利のもとでの金銭の貸し付けは、多重債務の温床である。」旨主張する。
しかしながら、控訴人が主張するような多重債務に陥る危険性は、本件基本契約に特有のものではなく、リボルビング方式に限らず貸金契約全般に随伴する危険性である。金利についても、法43条1項の厳格な要件をすべて充たしたときに本件の約定利率によって算出される利息が初めて享受できることも明らかなのであるから、本件リボルビング方式、本件の約定利率及び本件基本契約の内容自体が、債務者に一方的に不利益な結果を生じさせるものではない。
従って、控訴人の上記主張は、これを採用しない。
(カ) 本件基本契約においては、実質的に債務者の返済計画立案能力がより重要な事項として問われるところ、控訴人は、「債務者の資力や返済計画立案能力をほとんど実質的に審査することなく、過剰融資を誘発している被控訴人及びその他の大手消費者金融会社に、いわゆる多重債務者問題の原因がある。」旨主張する。
しかしながら、本件の争点である過払金の有無及びみなし弁済の成立の可否を判断するにつき、過剰融資及びそれに伴ういわゆる多重債務問題は、直接的には関連しない事項であるので、控訴人の上記主張は失当である。
(3) 上記認定にかかる本件基本契約の性質からすると、本件基本契約の場合、法17条書面1項所定記載事項のうち、本件基本契約書に当初から記載可能なものは同書面に記載される必要があり、同書面に記載不可能な個別の貸付にかかる貸付金額等は各本件明細書に記載されていれば足りるとされるべきであるから、法17条書面は複数書面に分散せざるを得ない。前記認定事実等を総合すれば、平成7年3月11日から同11年5月13日までの個別の貸付については、本件基本契約書、本件変更契約書<1>ないし<5>及び当該貸付に係る各本件窓口明細書あるいは各本件ATM明細書を併せてみれば、法17条1項所定記載事項のうち本件取引において記載が必要とされる事項がすべて記載されていること、及び、前記認定事実のとおり、控訴人と被控訴人との間には本件取引以外別個に取引関係がなく、上記書面にはすべて契約番号が記載されていたことからすると(場合によって、契約番号の途中でハイフン〔-〕が挿入されたりされなかったりすることがあるが、控訴人と被控訴人との間で本件取引以外に別個の取引がなされていないことを勘案すれば、通常人の理解能力からは、それら書面が同一の取引に関する書面であることは容易に想像がつくものである。)、本件基本契約書が本件取引を行うに際しての包括的な極度額等に関する基本的な契約書面であり、本件変更契約書<1>ないし<5>がその基本的な契約の一部を変更する書面であり、そして個別の貸付に係る各本件窓口明細書及び各本件ATM明細書がその極度額の範囲内で行われる個別の貸付に関する書面という関係となっていることが明らかなことが認められ、法17条書面の交付があったといえる。
(4) 控訴人の各主張につき以下検討する。
ア 控訴人は、「控訴人の健康保険証の写し及び整形外科の診察券の写しを受領したことが記載されておらず、そのような書面では、法17条書面たり得ない(法17条1項9号、法施行規則13条1項1号ハ)。」旨主張する。
被控訴人が、本件貸付を行うにあたり、控訴人に対し、本人確認のため、健康保険証及び整形外科の診察券の提示を要求したこと、そして、それら書面の写しを受領したことは当事者間で争いがない。
この事実からすると、被控訴人の目的は、それら書面の提示を受けて本人確認をすることにあり、それらの写しを受領したことはあくまで被控訴人の会社内部において本人確認をしたことの証左に過ぎない。控訴人は、健康保険証等の原本自体を被控訴人に渡したわけではないのであるから、健康保険証等の提示を受けた旨やそれら書面の写しを受領した旨を書面に記載しなかったとしても、受け取った書面の内容を後日のため明らかにしておくとともに、余計な書面を徴求することを抑制しようという同施行規則同条項号の趣旨に反するものではない。
従って、上記控訴人の主張は採用しない。
イ 控訴人は、「被控訴人が交付する書面では、追加借入の際、未払利息の存在及びその額を知ることが不可能で、未払利息の記載のない書面では、『貸付金額』(法17条1項3号)の記載があったとはいえない。」旨主張する。
しかしながら、本件リボルビング方式における貸付契約の性質如何にかかわらず、本件取引においては、「貸付金額」とは貸付元金及び追加貸付額を意味し、利息と貸付金額とが明確に区別されていることは前記認定事実のとおりであるから、追加借入をしたときに交付される書面に「未払利息」の記載がなかったとしても、貸付残元金と追加貸付金の額がそれぞれ記載してあれば、「貸付金額」の記載としては十分である。
本件取引の場合、追加借入の時点で未払利息が発生するのは、平成7年3月25日における借入だけで、残りの取引においては、控訴人が各個別の弁済をした日と同日に追加借入をしているため未払利息が発生せず、そもそも未払利息を記載する必要がない。そして、上記日時における未払利息についても、本件基本契約の内容から、利息が発生することは通常の理解力を持つ債務者であれば当然理解できるし、その額も容易に計算ができるものである。そのために「利息の計算の方法」(法17条1項9号、法施行規則13条1項1号ヘ)も要記載事項とされているのである。
従って、控訴人の上記主張は採用しない。
3 争点(3)(「利息として任意に支払った」か否か)について
本件取引の最初の弁済である平成7年4月3日の弁済から同11年10月4日までの個別の弁済について、控訴人が、利息制限法所定の制限利率を超える部分の利息についてこれを任意に支払ったか否か検討する。
(1) 前記前提事実に加え、証拠(乙2、乙3〔枝番を含む〕、乙9、乙15〔枝番を含む〕、乙22〔枝番を含む〕)及び弁論の全趣旨によれば以下の事実が認められる。
ア 被控訴人のATMの操作画面においては、<1>まず約定返済金額を返済するか、それとも借り手が指定する金額を返済するかを選択でき、<2>現金を投入口に入れて操作画面上の「読取」の欄に触れると返済金額を確認する画面となり、<3>ここで操作画面上の「確認」の欄に触れると、返済金額が、本件基本契約書記載の約定利息に従った場合、遅延損害金及び利息、元金にどのような内訳で充当されるか、その内訳内容が操作画面に表示され、<4>そこで、操作画面上の「確認」の欄に触れると、返済が完了し、カードと本件明細書がATMから排出され、一方、操作画面上の「取消」の欄に触れると、先ほど投入口に入れた現金が返金される仕組みとなっている。
イ 本件基本契約において、返済方法としてATMによる返済以外に控訴人が被控訴人の店舗へ持参して返済できること等が定められているのは前記のとおりである。
ウ 本件営業店舗における返済について、被控訴人は、控訴人が提示する弁済金額を確認し、受領金額並びに遅延損害金、利息及び元本への充当額が記載されている伝票を控訴人に提示し、その内容を確認した控訴人の署名をもらった後、控訴人に対し、個別の弁済に係る各本件窓口明細書を交付していた。
エ 本件取引のうち平成7年4月3日から同11年10月4日までの個別の弁済において、控訴人がATMを通じて弁済をする際に、本件基本契約書あるいは本件変更契約書<1>や<4>に記載された約定利息に従った場合の充当に不満を持つなどし、本件営業店舗へ直接赴いてその点につき異議を述べたことはなかったし、本件営業店舗において弁済をする際もそのような異議を述べたことはなかった。
(2) 前記認定事実からすると、本件の場合、ATMを介した手続の流れは前記のとおりであるから、それのみからは、実質的に債務者の充当指定権を奪うことにもつながりかねないところではある。
しかしながら、本件の場合、返済方法は、ATMを通じての返済に限定されず、本件営業店舗に直接赴いて返済することも可能であったのであり、それにもかかわらず、控訴人は、同店舗に直接赴いて、ATMの操作画面上に表示される充当の内訳につき異議を述べることもなかったのであり、かつ、ATMの操作画面を見て、支払った金員が約定に基づく利息又は遅延損害金の支払いに充当されることを認識していたものと認められる。また、本件営業店舗における弁済についても、約定に従った場合の返済金額の充当内訳につき異議を述べることもなく、その充当内訳の内容を確認した上で本件窓口明細書に署名をしたものと認められる。
以上の事実を総合すれば、平成7年4月3日から同11年10月4日までの各個別の弁済については、控訴人は、利息制限法所定の制限利率を超過する部分の利息についても、それを利息として任意に支払ったものと認められる。
(3) 控訴人は、「被控訴人の各個別の弁済は、本件基本契約書の期限の利益喪失条項の記載から、利息制限法所定の制限利率を超過する利息までも支払わなければ、債務全額につき期限の利益を失ってしまうとの恐れから支払ったものであり、このような弁済に任意性があるとはいえない。」旨主張する。
前記認定事実のとおり、本件基本契約書には、「本件基本契約に基づく返済を怠ったときは、期限の利益を喪失する。」旨の期限の利益喪失条項についての記載がある。しかしながら、同条項は、「本件基本契約書記載の約定利率による充当内訳に従った返済をしなければ期限の利益を喪失する。」旨のものではなく、当該条項は、「各支払期日に最低支払返済額を返済しなければ期限の利益を喪失する。」趣旨であることは明らかである。従って、本件基本契約書のような期限の利益喪失条項があるからといって、前記任意性がないとはいえない。
よって、控訴人の上記主張は採用しない。
第4結論
以上によれば、本件取引においては、平成7年3月11日の最初の取引から平成11年10月4日の弁済まではみなし弁済が成立し、その効果が発生するが、同年11月8日以降の取引についてはみなし弁済が成立せず、その効果が発生しないので、平成7年3月11日から同11年10月4日までの取引については約定利率に従って、同年11月8日から平成14年5月23日までの取引については、利率及び遅延損害金の割合につき、利息制限法1条1項及び同4条1項の範囲に引き直し計算すると、その結果は別紙計算書のとおりとなるので、本件取引において、控訴人の被控訴人に対する過払金が発生したとは認められない。
よって、原判決は結論において正当であるから、本件控訴はこれを棄却することとし、控訴費用の負担につき民事訴訟法297条、61条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 廣田民生 裁判官 中山幾次郎 裁判官 上田真史)
【別紙省略】