さいたま地方裁判所 平成16年(ワ)2496号 判決 2006年6月09日
原告
甲野花子
同訴訟代理人弁護士
和智薫
被告
埼玉県
同代表者知事
上田清司
同訴訟代理人弁護士
柴崎栄一
同訴訟復代理人弁護士
舘岡一夫
同指定代理人
佐藤敏文
外6名
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1 請求
1 被告は,原告に対し,500万円及びこれに対する平成17年1月17日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
3 仮執行宣言
第2 事案の概要
本件は,原告が,埼玉県警察を設置・運営する被告に対し,埼玉県警察の警察官による捜査の懈怠により前夫から暴力を受ける危険な状態に置かれていたなどとして,国家賠償法1条1項に基づき,慰謝料500万円及びこれに対する訴状送達の日である平成17年1月17日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。
1 前提となる事実(証拠を掲記しない事実は当事者間に争いがない。)
(1) 被告は,埼玉県警察(以下「県警」という。)を設置し,運営する地方自治体である。
(2) 原告は,昭和47年*月*日生まれの女性である(乙12)。原告は,平成11年1月1日,乙原太郎(昭和51年*月*日生まれ,以下「乙原」という。)と婚姻したが,その後,別居し,平成11年11月9日に離婚した。(乙10の1,2)
(3) 乙原は,平成12年1月4日午後9時ころ,原告肩書地のマンション(以下「原告方」という。)を訪れた。乙原は,施錠されている玄関扉を所持していた合いかぎで開け,さらに,玄関扉を強く引っ張って,掛けられていた防犯チェーンを壊した上,原告方に入り,台所にいた原告の左腕をつかみ,玄関の方向に約3メートル引っ張ったが,居合わせた男性に止められて,これを中止した。(以下,この防犯チェーン損壊に係る器物損壊事件及び原告に対する暴行事件を併せて「本件事件」という。)
(4) 本件事件の捜査の経緯
ア 原告方に居合わせた男性は,平成12年1月4日午後9時5分ころ,110番通報した。この通報により,県警朝霞警察署地域課の警察官が原告方に赴き,原告及び乙原から事情を聴取した。当該警察官は,原告から告訴したいとの申出を受け,当直員の応援を要請した。県警朝霞警察署の丙山一男警部補(以下「丙山警部補」という。なお,階級は当時のものである。以下同じ。),丁川二男巡査部長(以下「丁川巡査部長」という。)は,この要請を受けて,同日午後10時15分ころ原告方に赴いた。(乙3)
イ 現場を訪れた丙山警部補と丁川巡査部長は,原告方の実況見分を行った後,原告と乙原を朝霞警察署に同行した。丁川巡査部長は,原告から事情を聴取して,被害届を代書し,供述調書を作成したが(乙4,6),告訴状又は告訴調書は作成されていない。また,丙山警部補は,乙原を取り調べ,供述調書を作成し,取調べの後に乙原を帰宅させた。
ウ 丁川巡査部長は,盗犯係であり,本来,器物損壊及び暴行事件の担当ではなく,当直員として本件事件の捜査を担当していた。丁川巡査部長は,平成13年3月22日,本件事件の捜査を担当である強行犯係長の戊谷三男警部補(以下「戊谷警部補」という。)に引き継いだ。
エ 戊谷警部補は,平成13年7月,原告に電話で連絡をとろうとしたが,連絡がつかず,次に原告方を訪れたが面談できず,原告からも連絡がないまま,同年9月に強行犯係長から県警本部警務部警務課に異動した。
オ 平成13年9月以降,朝霞警察署において,本件事件の捜査は行われていない。本件事件の捜査記録は,何らかの理由により,他の事件の捜査記録に紛れ込んだ。
(5) 本件事件の公訴時効期間は3年間であり(平成16年法律第156号による改正前の刑訴法250条5号),本件事件は,平成15年1月4日の経過をもって公訴時効が完成した。
(6) 本件事件の記録は,平成15年11月17日,他の事件の記録を検討しようとした朝霞警察署の警察官により,発見された。本件事件は,平成15年12月18日,さいたま地方検察庁に送致された。
(7) さいたま地方検察庁は,平成15年12月19日,本件事件について,時効完成により乙原を不起訴処分とした。
2 争点
(1) 県警が本件事件の捜査を遅滞したり,乙原の監視を行わなかったりしたこと等が違法となるか。(争点(1))
(2) 県警が本件事件の公訴時効期間を看過して送致したことが違法となるか。(争点(2))
(3) 原告の損害額はいくらか。(争点(3))
3 争点に関する当事者の主張
(1) 争点(1)(捜査の懈怠等)について
(原告の主張)
ア 警察は,個人の生命,身体及び財産の保護に任じ,犯罪の予防,鎮圧及び捜査等に当たることをもって,その責務とする(警察法2条1項)。したがって,警察は,個人の生命,身体及び財産に危険が生じているとき,与えられた捜査権限等を行使してそのような危険が現実化することを防止する義務がある。警察が,このような義務に違反して,その権限を行使しないことは,個人の人格権又は財産権に危険を生じさせる不作為であり,国家賠償法上,違法の評価を受ける。
イ 本件において,下記事情からすれば,平成12年1月4日,乙原が原告に対して暴力を加える危険性があったことは明らかであり,警察官はこの危険性の存在を認識することができた。したがって,県警には,乙原を逮捕して身柄を拘束するか,乙原の行動を監視するなどして,乙原が原告に対し暴力を加えることを防止すべき義務があった。
(ア) 乙原は,原告と交際を始めて約1年が経過した平成10年ころから,原告に対し,暴力を加えるようになった。乙原は,原告と婚姻した平成11年1月以降,暴力の度を強め,部屋の壁を壊したり,原告をたたいたり,蹴ったりした。乙原は,平成11年4月ころ,原告に対し,その全身を殴打するなどの暴行を加え,さらに,内臓破裂寸前でやめておいたなどと言った。原告は,その日,病院に駆け込んだ。
(イ) 乙原は,平成12年1月4日,原告方の玄関扉の防犯チェーンを損壊し,原告の腕をつかんで引きずる暴行を加えるという本件事件を起こした。
(ウ) 丁川巡査部長及び丙山警部補は,平成12年1月4日,通報を受け,原告方に臨場した時,原告方の室内を見分し,壁に穴が開いているなど荒れた状態にあったことを認め,本件事件が単なる男女関係のもめ事でないことを了知した。
(エ) 丙山警部補は,平成12年1月4日夜,朝霞警察署において,乙原を取り調べた際,乙原から,原告との婚姻中,部屋の壁を殴って穴を開けたり,原告に暴力を振るったりしたことを聴取した。
(オ) 平成12年1月4日当時,本件の捜査に当たっていた丁川巡査部長及び丙山警部補は,原告が婚姻中に乙原から受けた暴力行為について,何ら取調べをしなかった。丁川巡査部長又は丙山警部補が,原告に対し,婚姻中に乙原から受けた暴力行為について尋ねれば,上記乙原の暴力行為について知ることができた。
ウ しかし,警察官は,乙原の取調べ後,帰宅させ,その後も乙原を監視するなどしなかった。
エ まとめ
以上のとおり,警察官は,原告が乙原から暴力を受ける危険や恐怖にさらされていたことを防止するため,乙原の身柄を拘束するかあるいは監視するかするなどして,これらの危険から守るべき義務があるのに,これらを怠っており,国家賠償法上違法である。
(被告の主張)
ア 警察官に付与されている捜査権限は,刑事訴訟法に基づく司法警察職員としての権限であり,その目的は既に発生した犯罪の捜査にあり,個人の生命,身体及び財産に対する危険を防止することではない。警察官の刑事訴訟法に基づく司法警察職員としての職務権限が直ちに原告の生命,身体を保護すべき義務を生じさせるものではない。
イ 乙原の身柄を拘束するか否かは,罪証隠滅又は逃亡のおそれがあるか否かによって判断され,原告の生命,身体を保護することを目的としてされるわけではない。原告の生命,身体を保護することを目的として,乙原の身柄の拘束を求める原告の主張は,それ自体失当である。
ウ 次に,乙原が,本件事件後,原告に対し,身体的危害を加える差し迫った危険はなく,これを具体的に予測すべき事情はなかった。
すなわち,原告は,本件事件後,警察官が到着するまでの間に,乙原に対し,修理代を出してくれるなら訴えないと述べた。乙原も,平成12年1月4日,丙山警部補による取調べの際,二度と原告には近づかないし,連絡もとらないと述べた。また,原告は本件事件後に何らかの被害申告をしていないし,丁川巡査部長が平成13年3月に原告に電話を掛け,最近乙原が来ていないかと尋ねたところ,原告はその後乙原は来ていないと答えており,乙原が原告に対し身体的危害を加える差し迫った危険はなかった。
エ 以上のとおり,警察官の不作為が,原告に対する関係で国家賠償法上違法の評価を受けることはない。
(2) 争点(2)(公訴時効期間の看過)について
(原告の主張)
ア 警察官の事件送致義務
司法警察員たる警察官は,犯罪の捜査をしたときは,速やかに書類及び証拠物とともに事件を検察官に送致しなければならない(刑訴法246条)。警察官は,犯罪を知ったときは,その犯罪の性質,規模,態様等に応じて,捜査を遂げた上で,事件を検察官に送致すべき義務を負っている。
上記の事件送致義務に違反することは,次のとおり,被害者の法律上保護される利益を侵害する不作為であるから,国家賠償法上も違法となる。
(ア) 精神面を含めた被害回復を図る利益の侵害
犯罪被害者等基本法が制定され,犯罪被害者の救済が喫緊の課題となっている現状に照らせば,犯罪の捜査及び加害者の刑事処分を通じて精神面を含めた犯罪被害の回復を図る利益は,それ自体が法律上保護される利益である。上記義務に違反して,公訴時効期間内に事件を検察官に送致しないことは,上記の被害回復等を妨げ,ひいては精神的平穏を害する結果をもたらす不作為として,国家賠償法上違法である。
(イ) 手続に関与する権利の侵害
告訴人ないし犯罪被害者は,刑事手続法上,検察官から告訴人に対する結果通知,検察審査会への審査請求,上級検察庁への不服申立て等の手続に関与する権利を保障されている。司法警察員が事件送致義務に違反して,公訴時効期間内に事件を検察官に送致しないことは,上記権利の実効性を失わせる不作為として,国家賠償法上違法となる。以下,詳述する。
あ 検察官は,告訴のあった事件について公訴を提起しない処分をしたときは,速やかにその旨を告訴人に通知しなければならない(刑訴法260条)。検察官は,告訴のあった事件について公訴を提起しない処分をした場合において,告訴人の請求があるときは,速やかに告訴人にその理由を告げなければならない(同法261条)。そして,告訴人が,検察官の公訴を提起しない処分に不服があるときは,検察審査会にその処分の当否の審査の申立てをすることができ(検察審査会法30条),一定の犯罪については,管轄地方裁判所に対し事件を裁判所の審判に付することを請求することができる(刑訴法262条)。
上記告訴人の地位は,単に公益及び公の安寧秩序に資するために付与されたものではなく,告訴人の告訴権行使を十全とし,その利益を図るために設けられており,告訴人ないしは犯罪被害者の手続に関与する権利である。
い 犯罪被害者等基本法は,「すべて犯罪被害者等は,個人の尊厳が重んぜられ,その尊厳にふさわしい処遇を保障される権利を有する。(同法3条)」,「国及び地方公共団体は,犯罪被害者等がその被害にかかる刑事に関する手続に適切に関与することができるようにするため,刑事に関する手続の進捗状況等に関する情報の提供,刑事に関する手続への参加の機会を拡充するための制度の整備等必要な施策を講ずるものとする。(同法18条)」と規定しており,前記告訴人の地位を,被害者の手続に関与する権利とすることが法の趣旨にかなう。
う 警察官が公訴時効期間内に事件を検察官に送致しなかったときは,検察官は公訴時効完成を理由として不起訴処分とするほかなく,上記の手続に関与する権利は全うされないのであるから,この警察官の不作為は,国家賠償法上違法である。
イ 本件における事件送致義務違反
(ア) 原告は,平成12年1月4日,乙原から,原告方の玄関扉の防犯チェーンを損壊され,腕をつかんで引きずられる暴行を受けた(本件事件)。原告は,同日,丁川巡査部長の事情聴取の際,本件事件について,乙原を告訴した。
また,被告は,丁川巡査部長において,原告に対し,玄関扉の防犯チェーンの修理について見積書を提出するように求めたところ,その後提出されなかったと弁明するが,丁川巡査部長から見積書を提出するよう求められたことはない。
(イ) 丁川巡査部長及び丙山警部補は,平成12年1月4日,本件について,原告と乙原の取調べ,本件事件が発生した原告方の実況見分などを行い,乙原が本件事件の被疑者であることを把握しており,本件事件について,捜査を遂げた上で本件事件を検察官に送致することができた。
県警の警察官は,本件事件について,平成12年1月5日以降,特段の捜査を行わず,公訴時効の完成日である平成15年1月4日までに,本件事件を検察官に送致しなかった。
(ウ) 以上によれば,県警の警察官は,本件事件について,捜査を遂げた上で本件事件を検察官に送致すべき義務を負っていたにもかかわらず,これを看過した。
ウ 小括
県警の警察官が,平成12年1月5日以降,特段の捜査を行わず,公訴時効期間内に,本件事件を検察官に送致しなかった結果,乙原に対する刑事処分がなされなかったことにより,① 原告の被害回復が妨げられ,恐怖心が増大し,② 原告が有する検察官の処分結果の通知,理由の通知,検察審査会への不服申立てという一連の手続に関与する権利が実質的に失われており,県警の警察官が公訴時効期間内に本件事件を検察官に送致しなかったことは,国家賠償法上,違法の評価を受ける。
(被告の主張)
ア 警察官の事件送致義務について
警察官の事件送致義務は,検察官に対する公法上の義務であり,告訴人ないし被害者に対する法的義務ではない。また,これに関連して,原告が法律上保護される利益と主張するものは,いずれも,公益上の見地に立って行われる捜査により反射的にもたらされる利益であり,法律上保護される利益に当たらない。
(ア) 精神面を含めた被害回復を図る利益の侵害について
被害者が捜査によって受ける利益自体は,公益上の見地に立って行われる捜査によって反射的にもたらされる事実上の利益に過ぎず,法律上保護される利益とはいえない。犯罪の捜査は,国家及び社会の秩序維持という公益を図るために行われており,犯罪被害者の損害の回復を目的としていないからである。
(イ) 手続に関与する権利の侵害について
原告は,警察官の不作為により,告訴人ないしは被害者としての手続に関与する機会(検察官から告訴人への通知,検察審査会への審査請求,上級検察庁への不服申立て等)が奪われたと主張する。しかし,これらの制度は国家刑罰権行使の端緒にすぎず,被害者に具体的な権利を付与していない。(なお,不起訴処分通知は検察官の権限であり,県警の不作為を違法とする根拠にはなり得ないし,現在においても,検察審査会への審査請求,上級検察庁への不服申立ては可能であって原告の権利は奪われていない。)
原告は,犯罪被害者等基本法も援用するが,そもそも同法は本件事件の時効完成後である平成16年12月8日に成立した法律であるし,同法には司法警察員の事件送致義務を定めた規定や,犯罪被害者に対し新たな刑事手続上の具体的権利を付与する規定はない。
したがって,原告の主張する告訴人ないし被害者として手続に関与する機会は,個人に与えられた権利ないし法律上保護される利益とはいえない。
イ 本件における事件送致義務違反について
県警が,本件事件について,平成12年1月5日以降,特段の捜査を行わず,公訴時効の完成日である平成15年1月4日までに,本件事件を検察官に送致しなかったこと,公訴時効が完成する前に,本件事件を検察官に送致すべきであったことは認める。
しかし,前記のとおり,原告には,捜査が行われなかったこと及び公訴時効が完成したことについて,法律上保護される利益を有しないから,県警の不作為が国家賠償法上違法の評価を受けることはない。
本件事件について,警察官は,乙原と原告がもと夫婦であったことから民事上での解決も予測されることから,乙原において再度同様の犯行に及ぶ可能性があるか否かを見極めた上で,事件の捜査方針及び検察官送致の時期を決定すべきであると判断した。そもそも,本件において事件送致が遅れたのは,原告が転居した後,警察官に転居先や連絡方法を知らせず,また,原告から連絡を取ろうともしなかったので,警察官が被告と連絡をとることができなかったためであり,したがって,事件送致が遅れた一因は原告にもある。
ウ 以上のとおり県警の警察官が公訴時効期間内に本件事件を検察官に送致しなかったことは,国家賠償法上違法には当たらない。
(3) 争点(3)(損害額)について
(原告の主張)
原告は,① 県警が乙原を逮捕又は監視する等しなかったことにより,乙原からいつ暴力を受けるかもしれないという危険な状態におかれており,② 県警が公訴時効期間内に本件事件を検察官に送致しなかったことにより,原告の被害回復は妨げられ,恐怖心も増大した。
これらの精神的苦痛を評価すると500万円を下らない。
(被告の主張)
争う。
第3 争点に対する判断
1 前記前提となる事実及び当該認定箇所に挙げた証拠によって認められる事実は次のとおりである。
(1) 原告と乙原は,平成9年ころ,交際を始めた。原告は,当時,交際した男性と別れて一人暮らしをしていた。予備校生であった乙原は,平成9年10月1日ころまでに,原告方に荷物を運び込み原告と同居を始めた。乙原は,平成10年ころから,原告に対し,体をたたくなどの暴行を加えたり,居室の壁や物を壊すなどの暴力を振るったりするようになった。原告と乙原は,乙原が別の女性と交際を持ったため,いったん交際をやめたが,よりを戻し,平成11年1月1日に婚姻した(前記前提事実第2の1(2),甲9,10,原告本人)。
(2) 乙原は,原告との婚姻後も度々,原告に対し殴る蹴るの暴行を加え,居室の壁を殴って壁に穴を開けるなどの暴力を振るった。原告は,平成11年8月4日には,乙原から暴行を受け,頚部打撲,腹部打撲の傷害を負い,通院したこともあった。乙原は,平成11年8月ころ,原告方を出て別の女性宅で生活するようになり,原告との同居を解消した。乙原は,別居した後も原告方を訪れては,原告に対し,暴力を振るった。(甲3,6,9,原告本人)。
(3) 原告は,平成11年11月ころ,別の男性との交際を始めた。
原告と乙原は,平成11年11月9日,離婚した。乙原は,離婚後,原告方を訪れたり,夜間バルコニー越しに窓から侵入し原告と無理やり肉体関係を持つなどして原告につきまとった。このため,原告は,精神的に不安定になり,医師から精神安定剤の処方を受けるなどしていた。しかし,原告は,警察にはこのことを通報せず,乙原が合いかぎを持っていたにも拘わらず,新しい錠に交換しなかった。(前記前提事実第2の1(2),甲3,9,原告本人)
(4) 本件事件当日の経緯について
ア 乙原は,平成12年1月4日午後9時ころ,突然,原告方を訪れ,本件事件に及んだ。すなわち,乙原は,施錠されている玄関扉を所持していた合いかぎで開け,防犯チェーンが掛けられている玄関扉を強く引っ張って,玄関扉の防犯チェーンを破断して損壊し,原告方に立ち入った。乙原は,台所付近にいた原告の腕をつかんで,玄関の方向に3メートルほど引っ張った。
原告は,このとき,男性と女性の友人二人を呼んで食事をしており,男性の友人が原告と乙原との間に割って入り,乙原は,原告に対し暴行を加えるのをやめた。(前記前提事実第2の1(3),甲6,7,9,原告本人)
イ 同日午後9時5分ころ,居合わせた男性の友人が110番通報した。臨場した警察官は原告と乙原に対し示談するように勧めた。しかし,原告が,乙原を告訴したいと述べたため,臨場した警察官は応援を要請し,丙山警部補と丁川巡査部長が原告方に赴いた。当日午後10時15分ころ,現場に到着した丙山警部補と丁川巡査部長は,原告方の実況見分を行った後,原告と乙原を朝霞警察署に同行した。(前記前提事実第2の1(4)ア及びイ,乙3,5)
ウ 原告は,朝霞警察署において,被害届を丁川巡査部長に代書してもらい,また,丁川巡査部長の取調べを受け,供述調書1通に署名押印した。
原告は,上記丁川巡査部長による取調べの際,「本件事件は前夫の犯行であるが,いまは離婚しており,このようなことを続けていれば,どうなるか分かってほしい気持ちから今回きちんと届出をすることにした,乙原を厳しく処罰してほしい。」旨供述し,乙原を告訴した。この際,原告は,離婚した後から本件事件までの間,乙原からつきまとわれ,夜間バルコニー越しに窓から侵入し原告と肉体関係を強要された等の事実については申し出ていない。(前記前提事実第2の1(4)イ,甲7,乙4)
エ 乙原は,丙山警部補の取調べに対し,原告との婚姻中に原告に対し暴力を振るったこと,原告から平成12年1月1日に電話でよりを戻したいと言われて同年1月4日に会う約束をしていたこと,本件事件の内容について供述した上,今後は原告に近づいたり絶対に連絡を取ったりしないと誓約すると述べた。また,乙原は,警察官に対してこのような事件を起こし迷惑を掛けたことについて謝罪するなどした。(前記前提事実第2の1(4)イ,甲6,7,9,原告本人,証人丁川)
オ 丁川巡査部長及び丙山警部補は,原告及び乙原の取調べ中,示談の意思があるか確認したが,原告が示談を拒絶しており成立しなかった。丁川巡査部長は,原告に対し,防犯チェーンの修理費用の見積書ができたら提出するように伝えて,帰宅させた。丙山警部補も乙原を帰宅させた。(前記前提事実第2の1(4)イ,甲6,7,9,原告本人,証人丁川)
(5) 本件事件後の原告の対応
ア 原告は,平成12年1月4日以降,玄関扉の錠を交換し,防犯チェーンを新たに設置しており,これに要した費用約2万円についての見積書を提出できた。しかし,原告は,警察官から見積書の提出を求められていたにもかかわらず,これを提出しなかった。(乙8,9,原告本人,証人丁川,証人戊谷)
イ 乙原は,本件事件の翌日,原告に電話を掛け,取調べにおける警察官とのやり取りの内容などを話した。乙原は,その後も度々,原告に対し電話を掛けて会話を交わしており,その回数は10回から20回くらいに及んだ。また,乙原は,原告方を数回訪問し,原告に対し,乙原が現在交際している女性の話などをした。乙原が,この間,原告に対し暴行を加えるなどした事実はない。原告は,警察官に対し,乙原から電話があったこと,乙原が原告方を訪れたことについて,何ら報告していない。(甲9,原告本人)。
ウ 原告は,平成12年2月ころ,東京都板橋区<以下略>所在の両親方(以下「実家」という。)に生活の本拠を事実上移しており,時に原告方に戻るという暮らしぶりであった。このように実家に生活の本拠を移していた原告が,乙原と数回にわたって面談したことからみて,原告も乙原との面談を拒むことなく,連絡を受けて面談に応じたものと推測される。
原告は,平成13年8月17日になって初めて,両親方に住民登録を移した。(甲9,10,乙11,原告本人)
エ 原告は,平成13年9月25日,平成11年11月ころから交際していた男性とともに,東京都板橋区<以下略>所在のマンションに転居して,同居を始めた。原告とその男性は,原告の父親の病気で,平成14年4月1日から,実家で両親とともに同居した。原告は,その後,上記男性との交際をやめ,平成16年8月1日単身で原告方に転居した。(甲10,乙11,原告本人)
オ 原告は,警察官に対し,上記各転居先を伝えておらず,また,原告は携帯電話を所持していたが,その番号(この間,数回にわたり変更した。)を伝えていなかった。原告は,本件事件後,自ら県警の警察官に連絡をとろうと試みたり,捜査の進捗状況を問い合わせたりしたことはなかった(原告本人,弁論の全趣旨)。
(6) 本件事件の捜査
ア 丁川巡査部長は,平成12年1月12日までの間に,実況見分調書及び捜査報告書を作成し,上司の決裁を受けた(乙3から7まで)。
イ 丁川巡査部長は,平成13年3月ころ,原告に対し電話をかけ,乙原が来たり,会ったりしていないか尋ねた。原告は,その後乙原は来ていないし,会ってもいないと事実とは異なる虚偽の回答をした。丁川巡査部長は,平成13年3月22日,本件事件の捜査を戊谷警部補に引き継いだ。丁川巡査部長において,本件事件について上記原告に対する問い合わせのほかに何らかの補充捜査を行った事実はない。(乙9,証人戊谷,原告本人)
ウ 戊谷警部補は,平成13年7月以降,原告と面会しようと原告方を訪れたり,電話をかけたりするなどしたが,原告と連絡をとることはできなかった。この折り,原告は,原告方のマンション管理人から連絡を受けて戊谷警部補が訪ねてきたことを知ったが,自ら朝霞警察署に連絡を取ったり,問い合わせたりしなかった。戊谷警部補は,同年9月,県警本部に異動となり,本件事件の担当から外れることとなった。(証人丁川,証人戊谷,原告本人)
エ 平成13年9月以降,朝霞警察署において,本件事件の捜査は行われていない。本件事件の捜査記録は,他の事件の捜査記録に紛れ込んだまま,放置されていた。(前記前提事実(4)エ及びオ)
オ 本件事件の公訴時効期間は3年間であり(平成16年法律第156号による改正前の刑訴法250条5号),本件事件は,平成15年1月4日の経過をもって公訴時効が完成した。(前記前提事実(5))
カ 本件事件の記録は,平成15年11月17日,他の事件の記録を検討しようとした朝霞警察署の警察官により,発見された。本件事件は,平成15年12月18日,さいたま地方検察庁に送致された。(前記前提事実(6))
キ さいたま地方検察庁は,平成15年12月19日,本件事件について,時効完成により乙原を不起訴処分とした。(前記前提事実(7))
(7) 本訴に至る経緯等
ア 県警朝霞警察署の己岡四男警部らは,平成15年11月22日,原告方を訪問し,本件事件について公訴時効が完成した経緯を報告するとともに,口頭で謝罪した。(乙1)
イ 県警監察官室は,平成16年3月までに,本件事件の捜査について事実関係の調査を行い,戊谷警部補を口頭で注意した。(甲4の1から5まで)
ウ 原告は,上記謝罪を受け入れることなく,平成16年6月20日,原告代理人である和智薫弁護士を通じて,事実関係の調査及び書面による報告を求めた(甲1)。
エ 県警朝霞警察署は,平成16年7月21日,上記原告代理人に対し,事実関係の報告と事件管理の不徹底により公訴の時効を迎えたことについて深くおわびする旨を記載したてん末書を送付した。(甲2)
オ 原告は,平成16年12月21日,本訴を提起したが,本訴の提起に当たり,警察が同じ過ちを犯さないように,今後警察の職務怠慢による被害者を増やさないために裁判を起こした旨陳述している。(甲5)
以上の事実が認められる。
2 争点(1)(捜査の遅滞等)について
(1) 前記認定事実によれば,次の事実が指摘できる。
ア 乙原が配偶者等に対する暴力的性癖を有すること,現に原告に対し繰り返し暴行に及んでいること,本件事件をみると,乙原は玄関扉の防犯チェーンを損壊して原告方に立ち入っており,住居侵入の罪にも問える態様であり,軽微とはいえないことが認められる。次に,警察官が原告と乙原から事情を聴取した結果によっても,本件事件が発生した平成12年1月4日に原告と乙原が会う約束をしていたか,離婚後も生活費を原告に渡していたか等について双方の供述内容に食い違いがあり,乙原が虚偽の供述をしている疑いがある(前記認定事実第3の1(4))。
これらの事情からすれば,本件事件直後の時点において,乙原が原告に対して再度暴力を振るうおそれがあったといえなくもない。
イ しかし,① 乙原が本件事件後警察官が原告方に到着するまでの間に逃亡せず,警察官に謝罪の意思を表明し,今後は原告に近づいたり絶対に連絡を取ったりしない旨誓約し,その旨の供述調書も作成されていること,② 乙原と原告は,本件事件当時,共に20歳代で,離婚後間もなく,夫婦関係の解消に伴う清算の問題として,本件事件も含めて民事上の解決が図られることも十分考えられたこと,③ ちなみに,原告は,本件事件後,原告方において乙原と数回会っており,その際暴行を受けた事実はなく,このほか乙原から現実の暴力の危険にさらされたという事実はないこと,④ 原告は,本件事件後,乙原から電話を受けたり,面談したりしたにもかかわらず,この事実を警察官に告げていないのみならず,警察官から乙原との接触の有無について尋ねられた際,乙原から何の連絡もないし会ってもいない旨虚偽の報告をしたことがそれぞれ認められる。
上記イで指摘した事情に照らせば,上記アの事情をもってしても,平成12年1月4日及び同日以降,乙原が原告に対して暴行等を加える具体的な差し迫った危険があったとまでは認められず,ほかにこれを認めるに足りる証拠はない。
(2) 警察官は,合理的かつ妥当な手段を用いて犯罪の予防に当たる権限を有していると解されるが(警察法2条1項,警察官職務執行法5条),その権限行使は警察官の裁量にゆだねられており,上記のとおり乙原が原告に対して暴行を加える具体的な差し迫った危険があったとまでは認められない本件においては,警察官において,平成12年1月4日の時点で,将来生ずべき乙原の原告に対する暴行を予防するため,乙原に対し,注意したり,乙原の行動を監視したりしなかったこと,その後もこのような措置をとらなかったことについて,裁量権の逸脱があるとは認められない。したがって,乙原の原告に対する暴行事件等の発生を予防することについての警察官の不作為を理由とする損害賠償請求については理由がない。
3 争点(2)(公訴時効期間の看過)について
(1) 被害回復を図る利益について
原告は,警察官が検察官に対し公訴時効期間内に本件事件を送致しなかったという不作為により,被害回復を図る利益等が侵害されており,前記不作為は違法であると主張する。
しかし,犯罪の捜査は,国家及び社会の秩序維持という公益を図るために行われ,犯罪被害者の被害又は損害の回復を直接の目的として行われるものではないから,犯罪被害者が捜査によって受ける利益自体は,公益上の見地に立って行われる捜査によって反射的にもたらされる事実上の利益に過ぎず,法律上保護される利益とはいえない。したがって,前記原告主張は,それ自体失当と言わざるをえない。
(2) 手続に関与する権利の侵害について
ア 次に,手続に関与する権利の侵害について検討するに,前記認定事実によれば,次の事実が認められる。
(ア) 原告は平成12年1月4日本件事件について乙原を告訴したが,警察官は公訴時効完成後の平成15年12月18日本件事件を検察官に送致した。
検察官は,平成15年12月19日,公訴時効完成を理由に乙原を不起訴処分とした。上記の経緯によれば,仮に原告において検察審査会に対して不起訴処分等に対する審査申立てをしたとしても,公訴時効完成を理由として不起訴処分相当との議決に至るものと見込まれる。したがって,原告が告訴人ないし被害者として本件事件の刑事手続に関与する機会は,公訴時効の完成によって事実上失われているものと言わざるをえない。
(イ) 本件事件は,原告の前夫である乙原が原告方を訪れ,玄関扉の防犯チェーンを損壊し,玄関先から室内に立ち入り,原告を引っ張るなどの暴行を加えたという器物損壊及び暴行事件である。原告は,乙原を告訴した一方で,丁川巡査部長に対し,前夫の犯行であるが,このようなことを続ければどうなるか分かってほしい気持ちから今回きちんと届出をすることにした旨述べた。
しかし,原告は本件事件後,乙原と10ないし20回にわたって電話で話しをした上,乙原と連絡を取った上で原告方で数回にわたって面談し,離婚後の乙原の女性との交際について相談に乗っている(原告本人)ばかりか,これらの事実について,警察官からの問い合わせには乙原との接触はない旨虚偽の事実を回答した。
このほか,① 原告は,本件事件後,原告方の玄関扉の防犯チェーンを修理したが,その見積書等を警察官に届けていない,② その後,原告は新たに交際した男性と同居するに伴い転居したが,その間,警察官に対し,連絡先を知らせていない,③ 平成13年7月ころ,原告は,原告方のマンション管理人から警察官が訪問したことを知らされたにもかかわらず,警察官に対し何ら連絡をとっていないし,捜査の進捗状況等についても問い合わせをしていない。以上指摘した諸事情に照らせば,原告自ら本件事件を刑事事件として立件し,乙原に対して厳しい刑事処分を求める意思があったこととは,到底相いれない行動に及んでいるというほかない。
(ウ) 警察の捜査についてみると,前記認定のとおり,平成12年1月12日ころまでに,本件事件が発生した原告方の実況見分調書,原告及び乙原の供述調書,原告の被害届,認知状況に関する捜査報告書等が作成されており,それぞれ,上司の決裁が済んでいた。一方で,器物損壊事件は親告罪であるから,本来であれば原告の告訴状又は告訴調書を作成しなければならないが,いまだ作成されておらず,被害額を確定するための証拠資料も原告から提出されない状況であった。丁川巡査部長及び戊谷警部補は,本件事件後,原告と連絡をとろうと試みたが,原告が原告方に不在であり,携帯電話等確実な連絡先も知らない状況であり,連絡がとれず,原告からも連絡がなかった。
本件事件においては,そもそも離婚した元夫婦間のいさかいに端を発していること,本件事件後の事情聴取の際に,原告から,警察官に対し,乙原が離婚後も原告につきまとっている,離婚後にも原告方に夜間窓から侵入して無理やり肉体関係を持たれた等の申出はされていないこと,原告から防犯チェーンの修理に係る見積書が提出されなかったことが指摘でき,これらの事情のほか,原告が上記(イ)に掲げた乙原を告訴していることと相いれない行動に及んでいることなどを併せ考えれば,本件事件を検察官に送致するに際し,警察官においては,被害額に関する証拠資料を収集し,原告が本件事件,殊に器物損壊事件について告訴意思をいまだ維持しているかどうかについて再度確認する等の捜査を遂げた上で送致する必要があると判断することも許されよう。
(エ) 前記認定事実によれば,警察官が本件事件を検察官に公訴時効期間内に送致しなかったのは,本件事件に関する捜査記録の管理や担当警察官の異動に伴う引継ぎがいずれも不十分であったことにある。一方,被害者ないし告訴人である原告においても,本件事件の被害額に関する証拠を速やかに提出したり,少なくとも転居の際には連絡先等を連絡したりするなどしてできる限り捜査に対する協力をすることが望まれ,その協力さえあれば,このような事態は招来していなかったのではないかとも推測される。
イ 犯罪被害者は,刑事訴訟法上の告訴権を有しており,検察審査会法により検察審査会への審査申立権を有するなど,単なる関係人や一般国民とは異なる取扱いを受けている。そして,犯罪被害者は加害者に対する刑事手続の帰すうに強い関心を抱き,自らの意見を刑事手続に反映させることを望んでおり,このような期待は,犯罪が個人の生命,身体及び財産など個人の尊厳とかかわっている以上,十分尊重に値する。刑事訴訟法及び検察審査会法は,犯罪被害者の手続に関与する期待に配慮して,一定の限度で手続に関与する権限を付与したものと解される。
もっとも,法はこれらの手続に関与する権限を犯罪被害者の告訴ないし申立てに係らせており,かつ,公訴提起に関する最終的な処分については検察官の専権判断にゆだねている。
これらの点を踏まえると,少なくとも,犯罪被害者が告訴をするなどして刑事手続への参加を積極的に希望し,その旨を捜査機関に表明しているような場合には,捜査機関においても,徒に時効期間を看過するなどして,犯罪被害者が刑事手続に関与する権限を事実上行使できる機会を失うことのないよう配慮すべき義務を負っているものと解すべきである。そして,この配慮義務に反した場合には,被害者ないし告訴人自らが,処罰を望んでいないことが明らかになったり,関心を全く寄せない等の格別な事情が認められない限り,国家賠償法1条1項の違法と評価されるべきものである。
これを本件についてみるに,上記アで指摘したとおり,本件において,平成13年7月までは本件事件についての捜査が継続していたこと,この時点においては,原告が警察官に対し,本件事件後,乙原との電話での話合いや面談がない旨虚偽の事実を述べたり,被害額を証明する見積書等を提出しなかったりしていることなどからして,本件事件について原告がいまだ告訴する意思を維持しているかどうかを見極めるための捜査を遂げた上で検察官に事件を送致する必要があると判断することもその裁量の範囲内であること,その後,警察内部の記録の管理や異動に伴う引継ぎの不十分に原告の協力が得られなかったことも相まって,公訴時効が徒過したものであること,本件の事案の内容,原告の受けた被害の程度及び内容,その後の原告と乙原との交際状況等本件にあらわれた一切の事情を考慮すると,本件においては,前記に述べたところの格別な事情があるものと認められ,警察官が本件事件を検察官に公訴時効期間を徒過して送致したことにより,原告の刑事手続に関与する機会が事実上失われたことをもって国家賠償法1条1項の違法があるとは認められない。
第4 結語
よって,その余の点について判断するまでもなく,原告の請求は理由がないから,これを棄却することとし,訴訟費用の負担について民訴法61条を適用して,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官・小島浩,裁判官・岩坪朗彦,裁判官・小野寺健太)