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さいたま地方裁判所 平成16年(ワ)547号 判決 2005年6月17日

原告

X1

ほか二名

被告

主文

一  被告は原告X1に対し、一億四五八一万七一三四円及びこのうち七五九三万六九六八円に対する平成一三年一〇月一二日から、このうち六九八八万〇一六六円に対する平成一五年一〇月一日から、各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告は、原告X2及び原告X3に対し、それぞれ八五万円及びこれに対する平成一三年一〇月一二日から各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

四  訴訟費用はこれを四分し、その一を原告らの負担とし、その余を被告の負担とする。

五  この判決の主文第一、第二項は、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

一  被告は原告X1に対し、一億九三五四万九七五八円及びこのうち一億〇六五三万三七五八円に対する平成一三年一〇月一二日から、このうち八七〇一万六〇〇〇円に対する平成一五年一〇月一日から、各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告は、原告X2及び原告X3に対し、それぞれ三〇〇万円及びこれに対する平成一三年一〇月一二日から各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、原告X1運転の自動二輪車と被告運転の普通乗用自動車との衝突によって原告X1が負傷した交通事故に関し、原告X1が不法行為又は自動車損害賠償保障法三条に基づき、原告X1の両親である原告X2及び原告X3がそれぞれ不法行為に基づき、被告に対し、当該交通事故によって原告らに生じた損害の賠償金及びこれに対する民法所定の利率による遅延損害金の支払を求めた事案である。

一  争いのない事実等(証拠等によって認定した事実は末尾に認定に供した証拠等を掲記する。その余の事実は当事者間に争いがない。)

(1)  本件事故の発生

以下の交通事故が発生した(以下「本件事故」という。)。

ア 日時 平成一三年一〇月一二日午後七時三〇分ころ

イ 場所 さいたま市<以下省略>先(以下「本件事故現場」という。)(甲第四号証)

ウ 当事者及び運転車両

(ア) 原告X1(昭和○年○月○日生)は、本件事故当時、自動二輪車(<番号省略>、以下「原告二輪車」という。)を運転していた。

(イ) 被告は、本件事故当時、その所有する普通乗用自動車(<番号省略>、以下「被告乗用車」という。)を運転していた。

エ 事故態様

(ア) 本件事故現場は、おおむね南北に通ずる県道岩槻幸手線(以下「本件県道」という。)に、おおむね東西に通ずる幅員約五・六メートルの通路が東側から突き当たる地点である(以下、同通路を「本件通路」という。本件通路が「道路」であるか否か、及び本件県道と本件通路とが交わる部分が「交差点」であるか否かについては争いがある。)。本件県道は、本件事故現場付近において、片側一車線で東西両側に歩道が設置され、アスファルト舖装された平坦な直線道路となっており、また、本件事故当時、路面は乾燥し、東西両側に約四〇メートル間隔で設置された照明灯によって比較的明るい状態であった。

(イ) 原告X1は、原告二輪車を運転して本件県道上を南下し、本件事故現場手前に差し掛かった。他方、被告は、被告乗用車を運転して本件県道上を北上し、本件通路に右折進入すべく本件事故現場手前に差し掛かったが、その際、前方の対向車線上を原告二輪車が前照灯を点灯して進行接近してくるのを認めたものの、原告二輪車が本件事故現場に達するより先に右折進行できるものと判断して、被告乗用車を停止させる措置をとることなく本件通路への右折を開始し、時速約二〇キロメートルの速度で対向車線内に進入したところ、進行してきた原告二輪車が被告乗用車の左側助手席ドアに衝突し、原告X1は衝突地点から約一九・八メートル前方に投げ出され、また、原告二輪車も被告乗用車の上を飛び越えて約三・二メートル先に落下した。

(2)  治療経過

原告X1は、本件事故により、第六頸椎破裂骨折、頸髄損傷、骨盤骨折の傷害を負い、その治療及び後遺障害のリハビリテーションのために、以下のとおり、川口市立医療センター(以下、単に「市立医療センター」という。)及び埼玉県総合リハビリテーションセンター(以下、単に「リハビリテーションセンター」という。)に、合計七一九日間、入院入所した。

ア 市立医療センター

平成一三年一〇月一二日から平成一四年二月一四日まで入院(入退院日を含め一二六日間)

イ リハビリテーションセンター

平成一四年二月一四日から同年六月一二日まで病棟に入院(入退院日を含め一一九日間)

ウ リハビリテーションセンター

同年六月一二日から平成一五年九月三〇日までリハビリテーション施設に入所(入退所日を含め四七六日間)

(甲第一〇、第一三号証の一、二、乙第二、第三号証、弁論の全趣旨)

(3)  被告の責任原因を基礎づける事実

ア 被告は、被告乗用車の運行供用者である。

イ 本件事故につき、被告には右折の際の注意義務に違反した過失がある。

ウ 原告X2及び原告X3は、原告X1の両親である。

二  争点

本件の主たる争点は、<1>本件事故につき、原告X1に過失相殺の原因となる過失があるか否か、あるとすれば、その過失割合はどの程度か(争点一)、<2>原告X1の後遺障害の程度並びに原告X2及び原告X3の固有の慰謝料請求権の有無(争点二)、<3>原告らの損害額(争点三)の三点であり、各争点についての当事者双方の主張の要旨は以下のとおりである。

(1)  争点一(本件事故につき、原告X1に過失相殺の原因となる過失があるか否か、あるとすれば、その過失割合はどの程度か)について

ア 被告の主張

(ア) 本件県道には時速四〇キロメートルの最高速度の指定があったにもかかわらず、原告X1は、その最高速度を超過する時速五二・五ないし六四・二キロメートルで走行していた。

車両等の運転者には道路標識等によりその最高速度が指定されている道路においては、その最高速度を超える速度で進行してはならない注意義務が課せられている(道路交通法二二条一項)ところ、原告X1には、この注意義務を怠り、最高速度を超過したまま漫然と原告二輪車を交差点に進入させた過失がある。

なお、夜間の直線道路を走行する自動車が最高速度を若干上回る速度で走行するのが通例であることは知らない。

(イ) 車両等の運転者には、交差点に入ろうとし、及び交差点内を通行するときは、当該交差点の状況に応じ、反対方向から進行してきて右折する車両等に特に注意し、かつ、できる限り安全な速度と方法で進行しなければならない注意義務が課せられている(同法三六条四項)が、原告X1は、本件事故現場の交差点に入るに際し、この注意義務に違反した。

(ウ) 原告らは、本件通路が道路でないとか、本件事故現場が交差点でないと主張するが、いずれの主張も理由がない。

すなわち、道路交通法上、「交差点」とは、十字路、丁字路その他二以上の道路が交わる場所における当該二以上の道路の交わる部分をいい(同法二条一項五号)、また、「道路」とは、道路法二条一項に規定する道路、道路運送法二条八項に規定する自動車道及び一般交通の用に供するその他の場所をいうものとされている(道路交通法二条一項一号)ところ、この「一般交通の用に供するその他の場所」とは、現実の交通の有無をとらえて道路交通法上の道路とする趣旨であり、事実上道路の体裁をなして交通の用に供されているいわゆる私道や、道路の体裁はなしていないが、広場、大学の構内の道路、公園内の通路というようなところで、それが一般交通の用に供され、しかも客観的にも一般の交通に使用されている場所を含むものである。

したがって、仮に、本件通路が城址岩槻霊園の通路であって、公法上の道路ではないとしても、道路交通法上の道路に当たることは明白であり、そうすると、本件事故現場が交差点に当たることも明らかである。なお、被告に対する刑事事件においても、本件事故現場は一貫して交差点として扱われている。

(エ) したがって、原告X1には本件事故の発生につき過失があり、被告の原告らに対する賠償額の算定に当たっては、これを斟酌すべきである。

イ 原告の主張

(ア) 本件県道に時速四〇キロメートルの最高速度の指定があったことは認めるが、夜間の直線道路を走行する自動車の速度は最高速度を若干上回ることが通例であるから、原告X1がこの最高速度を超過して走行していたとしても、それを危険な運転と評価することはできない。

また、被告は原告二輪車との距離が極めて接近した時点で右折したため、原告X1が最高速度である時速四〇キロメートルで走行していても本件事故を回避することは不可能であったのであるから、原告X1の速度超過を、同人の過失ということはできない。

(イ) 被告は、本件事故現場が交差点であることを前提として、原告X1の注意義務違反を主張するが、本件事故現場は交差点ではないから、被告の主張は失当である。

すなわち、被告が本件県道から右折して進入しようとした本件通路は、城址岩槻霊園の駐車場と通路であり、民有地である。そして、この駐車場と通路について道路位置指定はなされておらず、公法上の道路とは扱われていない。したがって、本件事故現場は、道路と道路が交わる部分ではないから、交差点には当たらない。

仮に本件通路が道路交通法上の「道路」に当たるとしても、本件県道の東西の路端のうち本件通路側(東側)の路端には、ペイントと縁石によって車道部分から区分された歩行者専用の歩道部分が存在するのであるから、本件通路は、本件県道の上記歩道部分と接する地点で終了し、車両等は、この終了地点から上記歩道部分を横断して本件県道に出入りしているのであって、その出入り地点をもって「交差点」ということはできない。このように解さなければ、本件県道と同様に歩道部分を有する道路に沿って工場団地や郊外のショッピング・モール等が連続して存在する箇所については、その車両の出入り口をすべて交差点と解さなければならない不合理な結果となる上、そのような道路を走行する者にとって、交差点が存在することが予測不可能となってしまう。

(2)  争点二(原告X1の後遺障害の程度並びに原告X2及び原告X3の固有の慰謝料請求権の有無)について

ア 原告らの主張

(ア) 原告X1の後遺障害

原告X1は、本件事故により、第六頸椎破裂骨折、頸髄損傷、骨盤骨折の傷害を負い、その後、治療及びリハビリテーションを行ったが、平成一五年九月三〇日に、その症状が固定し、現在、両下肢完全麻痺、両上肢不全麻痺、痙性発作、感覚異常、排便排尿障害等の後遺障害を負っている。原告X1のこのような後遺障害の程度は自動車損害賠償保障法施行令(平成一三年政令第四一九号による改正前のもの、以下同じ)別表の障害等級第一級に相当するものであるが、原告X1の生活障害と社会的ハンディキャップについては、この障害等級でも十分に評価し尽くされているとは言えない。

被告は、原告X1の後遺障害の程度が同表の傷害等級第二級に相当するものであると主張するが、原告X1が入院入所していたリハビリテーションセンターの診療記録に記載された原告X1の身体状況、介護状況によれば、原告X1の後遺障害が第一級に相当することは明らかである。

なお、労災保険の障害等級認定の実務においては、脊髄損傷に起因する両下肢完全麻痺がある場合には、そのことだけをもって第一級の「神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、常に介護を要するもの」を適用する運用を行っている。

(イ) 原告X2及び原告X3の固有の慰謝料請求権の存在

原告X2及び原告X3は、原告X1の両親として同人を養育してきたものであるが、原告X1が負った極めて重篤な後遺障害により、その死亡に匹敵する精神的苦痛を受けたものであるから、被告は、不法行為(民法七一一条)に基づき、原告X2及び原告X3に生じた精神的損害の賠償責任を負う。

イ 被告の主張

(ア) 原告X1の後遺障害について

原告らが主張する原告X1の後遺障害の具体的内容は知らない。

ところで、自動車損害賠償保障法施行令別表と労働者災害補償保険法施行令別表第一とは、介護を要する神経系統の機能又は精神の障害に係る等級について、ともに、「神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、常に介護を要するもの」を第一級、「神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、随時介護を要するもの」を第二級としているところ、労働者災害補償保険法施行令別表第一に係る厚生労働省労働基準局長の解釈通達(昭和五〇年基発第五六五号)は、第一級は「自用を弁ずることができないもの」、第二級は「多少自用を弁ずることができる程度のもの」としており、この解釈は自動車損害賠償保障法施行令別表の障害等級にも当てはまるものというべきである。

しかるところ、原告X1のリハビリテーションセンターの診療録や看護記録等に記載された原告X1の日常生活状況や介護介助状況などに照らせば、原告X1の状況は、「自用を弁ずることができないもの」ではなく、「多少自用を弁ずることができる程度のもの」と評価できるから、その介護レベルは随時介護レベルであって、障害等級第二級に相当するというべきである。

(イ) 原告X2及び原告X3の固有の慰謝料請求権の存在について

原告らの主張は争う。

(3)  争点三(原告らの損害額)について

ア 原告らの主張

(ア) 原告X1の損害

原告X1は、本件事故により以下の損害を被った。

a 医療費等 一九四万四〇〇〇円

原告X1が、本件事故による傷害の治療及び後遺障害のリハビリテーションのために要した医療費等は以下のとおりであり、その合計は一九四万四〇〇〇円(千円未満切捨て)となる。

(a) 市立医療センター 一一五万九四二〇円

(b) リハビリテーションセンター 七三万〇六四二円

(c) 転院時の寝台自動車使用料 五万四一八〇円

b 入院入所雑費 九三万四〇〇〇円

平成一三年一〇月一二日から平成一五年九月三〇日までの入院入所期間(七一九日間)に要した雑費は、一日当たり一三〇〇円とするのが相当であり、合計九三万四〇〇〇円(千円未満切捨て)となる。

c 休業損害及び逸失利益 一億〇二三六万七〇〇〇円

(a) 原告X1は、本件事故による上記の後遺障害により、労働能力を一〇〇パーセント喪失した。

(b) 平成一三年一〇月分から平成一六年九月分まで(三年間)

原告X1は、本件事故直前にアルバイトを始め、平成一三年一〇月一日から本件事故日である同月一二日までの一二日間に五日出勤して、基本給二万三〇八〇円と通勤手当一〇〇〇円の合計二万四〇八〇円の収入を得た。これを年収に換算すると七二万二四〇〇円となる(二万四〇八〇円÷一二日×三〇日×一二か月)。したがって、上記三年間の休業損害及び逸失利益は、この年収額を基礎とし、ライプニッツ方式により中間利息を控除して(三年間のライプニッツ係数二・七二三二)算出した本件事故時の現価額一九六万七二三九円から、同期間に含まれる事故直前の一二日間に現実に得た収入二万四〇八〇円を差し引いた一九四万三〇〇〇円(千円未満切捨て)となる。

(c) 平成一六年一〇月分から平成一七年九月分まで(一年間)

ⅰ 収入額

原告X1は本件事故当時大学一年生であり、本件事故に遭遇しなければ平成一七年三月に大学を卒業し、同年四月から一般企業に就職することができたはずである。

そうすると、原告X1は、在学中の平成一六年一〇月から平成一七年三月まではアルバイトとして稼働し、上記年収換算額七二万二四〇〇円の二分の一である三六万一二〇〇円の収入を、また、卒業後の平成一七年四月から同年九月までは、賃金センサス平成一四年第一巻第一表による産業計・企業規模計・年齢計の大卒男子労働者の「きまって支給する現金給与額」月四二万九四〇〇円の六か月分である二五七万六四〇〇円の収入を、それぞれ得られたはずであって、その合計額は二九三万七六〇〇円となる。

ⅱ 逸失利益の額

原告X1の平成一六年一〇月から平成一七年九月まで一年間分の逸失利益は、上記収入額二九三万七六〇〇円を基礎として算出され、ライプニッツ方式により中間利息を控除して(三年間のライプニッツ係数二・七二三二)得た二四一万六〇〇〇円(千円未満切捨て)が本件事故時の現価額である。

(d) 平成一七年一〇月分から平成六一年九月分まで(四四年間)

原告X1は昭和○年○月○日生まれであるから、六七歳である平成六一年九月まで就労可能であるところ、上記四四年間の逸失利益は、賃金センサス平成一四年第一巻第一表による産業計・企業規模計・年齢計の大卒男子労働者の平均年収額六七四万四七〇〇円を基礎として算出され、ライプニッツ方式により中間利息を控除して(48年年間のライプニッツ係数18.0771-4年間のライプニッツ係数3.5459=14.5312)得た九八〇〇万八〇〇〇円(千円未満切捨て)が本件事故時の現価額である。

d 将来の介護費用 七三五四万六〇〇〇円

(a) 原告X1は、上記の後遺障害により、常時介護なくして生活できない。すなわち、食事を作ること、配膳すること、食器を洗うこと、衣服を着替えること、排尿排便、入浴等のあらゆる日常生活動作について介護を必要とし、屋外の移動についてもスロープのある箇所の移動には介護人が必要である。

そして、原告X1に必要な介護時間は一日当たり少なくとも一四時間であり、それに要する介護費用は、家族介護で日額九〇〇〇円、職業介護で日額一万五〇〇〇円を下らない。

(b) 平均余命を参考にして、原告X1が、後遺障害の症状固定日(平成一五年九月三〇日)以降、七八歳となる平成七一年九月まで生存するとすれば、そのうちの平成一五年一〇月から、原告X1の母親である原告X3が七〇歳となる年である平成三七年の九月まで二二年間は、原告X1は原告X3の介護を受けることになるから、その期間に要する介護費用は、年間三二八万五〇〇〇円(一日九〇〇〇円×三六五日)を基礎として算出され、ライプニッツ方式により中間利息を控除して(二二年間のライプニッツ係数一三・一六三〇)得た四三二四万円(千円未満切捨て)が症状固定時の現価額である。

また、これに引き続く平成三七年一〇月から、平成七一年九月までの三四年間は、原告X1は職業介護を必要とすることになるから、その期間に要する介護費用は、年間五四七万五〇〇〇円(1日1万5000円×365日)を基礎として算出され、ライプニッツ方式により中間利息を控除して(56年間のライプニッツ係数18.6985-22年間のライプニッツ係数13.1630=5.5355)得た三〇三〇万六〇〇〇円(千円未満切捨て)が症状固定時の現価額である。

e 家屋改造費等 一〇〇八万二〇〇〇円

(a) 原告X1は、上記の後遺障害により、既存の原告らの自宅では生活できなかったため、平成一五年九月に、自宅の敷地に身体障害者用居室を新たに増築した。同居室には、原告X1のために、身体障害者用のトイレ、浴室、天井走行リフト、車椅子用段差昇降機(昇降リフト)、電動シャッター、換気扇などの特別な設備が必要であり、これらの設備を設置するための費用として、八四一万九〇〇〇円(千円未満切捨て)を要した。

(b) 将来の交換費用

ⅰ トイレ台座(ウレタン製レザー張り、七万二〇〇〇円)は、耐用年数が最長でも五年程度であるから、原告X1の症状固定日(平成一五年九月三〇日)以降平成七一年九月までの五六年間に、五年ごと一一回の交換が必要であるところ、各交換時に支出する上記製品価格につきライプニッツ方式により中間利息を控除して得た症状固定時の現価額(千円未満切捨て)の合計は、下記のとおり、二三万九〇〇〇円となる。

<省略>

ⅱ 電動シャッター(二八万八〇〇〇円)、天井走行リフト及び車椅子用段差昇降機(二六四万一五〇〇円)並びに換気扇等(九万七〇八〇円)は、いずれも耐用年数が最長でも二〇年程度であるから、上記ⅰと同様の五六年間に、二〇年ごと二回の交換が必要であるところ、各交換時に支出する上記製品価格の合計額三〇二万六五八〇円につきライプニッツ方式により中間利息を控除して得た本件事故時の現価額の合計は、下記のとおり、一四二万四〇〇〇円(千円未満切捨て)となる。

<省略>

f 自動車リフトアップシート 一五一万九〇〇〇円

(a) 原告X1は、自力で車椅子から自動車の助手席に乗り移ることができないから、自動車で移動するためには、その助手席にリフトアップシートを設置することが必要である。

原告X1は、通院に自動車を利用するため、平成一四年六月、原告らの自家用車の助手席にリフトアップシートを設置したが、それに要した費用は四九万八〇〇〇円であった。

(b) 自動車の平均買換え期間は八年であるから、原告X1は、平成一四年から平成七一年までの間、八年ごとの自動車の買換え時期に併せてリフトアップシートを七回購入しなければならないところ、各購入時に支出する上記製品価格四九万八〇〇〇円につきライプニッツ方式により中間利息を控除して得た症状固定時の現価額(千円未満切捨て)の合計は、下記のとおり、一〇二万一〇〇〇円となる。

<省略>

g 障害者用器具等 一八六万九〇〇〇円

原告X1は、車椅子本体、車椅子用品(フレーム、タイヤ)、車椅子用グローブ、介護用ベッド、エアーマットなどの障害者用器具、紙おむつ、ビニール手袋、洗浄綿などの衛生用品をそれぞれ必要とするところ、これらに要する費用は、年間一〇万円を下回らない。

したがって、原告X1の症状固定日(平成一五年九月三〇日)以降平成七一年九月までの五六年間分の費用につき、ライプニッツ方式により中間利息を控除して(五六年間のライプニッツ係数一八・六九八五)得た一八六万九〇〇〇円(千円未満切捨て)が症状固定時の現価額である。

h 自動二輪車取得費用 八四万七〇〇〇円

原告X1は、平成一三年九月一五日に、原告二輪車を八四万七八二〇円(本体価格のほか、ドライブ用品価格、消費税、保険料、重量税を含む。)で取得したが、原告二輪車は、取得後一か月経過しない同年一〇月一二日に、本件事故により全損したため、原告X1は上記取得額相当八四万七〇〇〇円(千円未満切捨て)の損害を被った。

i 原告X1の慰謝料 三三六〇万〇〇〇〇円

(a) 慰謝料算定の基礎となる特段の事情

被告は、本件事故後、本件事故の原因について、原告X1が眼鏡を掛けていなかったためではないかと憶測を述べ、さらに、「原因がどちらにあるか不明」と述べており、全く反省の態度を示していない。また、原告X1が事故から一年間に、被告に実際に会ったのは一回だけであり、その際、被告は、原告X1が半身不随の重篤な状態であることを熟知していながら、原告X1に対し「元気ですか」と無神経な質問を発し、原告X1を傷付けた。加えて、被告は、本件訴訟に先立って原告らからの損害賠償請求書を受領しても、一か月近くこれを放置して損害保険会社にさえ連絡を取らず、不誠実な態度であった。

(b) 原告X1に対し支払われるべき入院入所慰謝料(入院入所期間約二四か月)は、三六〇万円を下回らない。

(c) 原告X1に対し支払われるべき後遺障害慰謝料は、三〇〇〇万円を下回らない。

j 弁護士費用 一七五九万〇〇〇〇円

原告X1は、原告代理人に対し、本件訴訟提起を委任し、相当額の弁護士報酬を支払うことを約しているところ、この弁護士報酬のうち、一七五九万円は、本件事故と因果関係のある損害である。

k 遅延損害金の起算点

上記aないしjの原告X1の各損害のうち、医療費等(上記a)、入院入所雑費(上記b)、休業損害及び逸失利益(上記c)、自動二輪車取得費用(上記h)、慰謝料(上記i)、弁護士費用(上記j)については本件事故日である平成一三年一〇月一二日を、その余の将来の介護費用(上記d)、家屋改造費等(上記e)、自動車リフトアップシート(上記f)、障害者用器具等(上記g)については症状固定日の翌日である平成一五年一〇月一日を、それぞれ遅延損害金の起算日とすべきである。

(イ) 損益相殺

原告X1は、本件事故に起因して、損害保険金(自賠責保険金を含む。)五〇四四万八二四二円の支払を受けた。また、平成一五年一月一七日、被告から見舞金三〇万円を受け取った。

これらの金員については、原告X1の損害のうち、本件事故日から遅延損害金が起算される損害と損益相殺されるべきである。

(ウ) 原告X2及び原告X3の損害

原告X2及び原告X3が被った精神的苦痛に対する慰謝料は各々三〇〇万円を下回らない。

イ 被告の主張

原告らが主張する各損害の内容についてはおおむね不知、その必要性、相当性、金額についてはおおむね争う。

原告らの主張にある損益相殺の基礎となる事実は認める。

第三争点に対する判断

一  争点一(本件事故につき、原告X1に過失相殺の原因となる過失があるか否か、あるとすれば、その過失割合はどの程度か)について

(1)  上記第二の一の争いのない事実等に、甲第四、第六、第四四、第四五号証、原告X1及び被告各本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨を総合すると、本件事故現場付近の状況及び本件事故態様等につき、以下の事実が認められる。

ア 本件県道は、本件事故現場付近において、おおむね南北に通ずるアスファルト舖装された平坦な直線道路であり、幅員約七メートルで、中央線によって上下各一車線に区分された車道部分と、その東西両側において縁石線によってこれと区画された歩道部分とから成り、時速四〇キロメートルの最高速度の指定がある。本件事故当時、路面は乾燥しており、また、道路の東西両側に約四〇メートル間隔で設置された照明灯によって、比較的明るい状態であった。

イ 本件通路は、おおむね東西に通ずる幅員約五・六メートルのアスファルト舖装された通路であり、本件事故現場において、東側から本件県道にほぼ直角に突き当たっている。本件県道から本件通路に進入すると、通路に沿ってその南側に未舖装の駐車場があり、その先(東方)には、城址岩槻霊園並びに被告及び近隣住民の居宅などがあって、被告及び近隣住民並びに上記霊園の墓参者等が、本件通路を日常的に通行している。

ウ 上記アのとおり、本件県道は、車道部分とその東西両側の歩道部分とが、縁石線によって区画されているところ、当該縁石線に係る縁石は、幅及び高さ約二〇センチメートル、長さ数メートルのコンクリート製であって、このような縁石が僅かの隙間を隔てて連続して設置され、上記縁石線を構成しているが、本件県道東側において、本件通路が本件県道に突き当たる部分にあっては、縁石と縁石との間に、本件通路幅に相当する部分を含みその幅員約五・六メートルよりもかなり長い間隙部分があって、当該部分で縁石線が途切れているということができ、かつ、その部分の路面中央側と路肩側との間に段差その他車両の通行を妨げるような障害はなく、本件県道を走行してきた車両が本件通路に、また本件通路を走行してきた車両が本件県道に自由に進入し得る構造となっている。

本件県道東西両側の上記縁石線のやや中央線寄りの路面には、縁石線に沿い、白色ペイントによって、道路法四五条所定の区画線の一つである外側線(道路標識、区画線及び道路標示に関する命令五条、別表第三)が引かれており、これは、本件事故現場の縁石線が途切れている部分についても連続している。

なお、本件事故現場には、信号機など交通整理を行うための設備は設置されていない。

エ 本件事故当時、原告X1は、原告二輪車を運転して本件県道上を南下し、前照灯を点灯させながら、時速約五二・五ないし六四・二キロメートルの速度で進行して、本件事故現場手前に差し掛かった。他方、被告は、さいたま市大宮区所在の勤務先から本件通路の先に所在する自宅に帰るため、被告乗用車を運転して本件県道上を北上し、本件通路に右折進入すべく本件事故現場手前に差し掛かったところ、その際、前方の対向車線上を前照灯を点灯した原告二輪車が進行接近してくるのを認めたものの、原告二輪車が本件事故現場に達するより先に本件通路に右折進入できるものと判断して、被告乗用車を停止させる措置をとることなく右折を開始し、時速約二〇キロメートルの速度で対向車線内に進入した。原告X1は、被告乗用車が、前方で自己の走行する車線に進入したのを認め、危険を感じて急制動措置をとったものの間に合わず、本件事故現場において、原告二輪車が時速約五〇ないし六〇キロメートルの速度で被告乗用車の左側助手席ドアに衝突し、原告X1は、衝突地点から約一九・八メートル前方に投げ出され、また、原告二輪車も、被告乗用車の上を飛び越えて、約三・二メートル先に落下した。

(2)  ところで、原告らは、本件通路が公法上の道路ではなく、本件事故現場が道路交通法上の交差点に当たらないと主張する。

しかしながら、道路交通法上、道路とは、「道路法…第二条第一項に規定する道路、道路運送法…第二条第八項に規定する自動車道及び一般交通の用に供するその他の場所をいう」(道路交通法二条一項一号)ものとされているところ、上記(1)のイの認定事実によれば、本件通路は、いわゆる「道」としての外観を備え、かつ、その東方に居宅を有する被告及びその近隣住民や、城址岩槻霊園の墓参者等が、本件県道と本件通路とを行き来し、これを日常的に通行していることが認められるほか、一般の通行が特に制限されていることを窺わせるような証拠はない。そうすると、仮に、本件通路が道路法上の道路ではなく、あるいはその敷地が民有地であって、道路位置指定がなされていない等の事由によって建築基準法上の道路に当たらないとしても、「一般交通の用に供するその他の場所」として、道路交通法上の道路に当たることは明白であり、その限度で、本件通路が公法上の道路ではないとする原告らの主張は失当である。

また、道路交通法上、交差点とは、「十字路、丁字路その他二以上の道路が交わる場所における当該二以上の道路(歩道と車道の区別のある道路においては、車道)の交わる部分をいう」(同法二条一項五号)ものとされているところ、本件通路が道路交通法上の道路であることは上記のとおりであり、また、本件県道が、道路法二条一項に規定する道路として(同法三条三号参照)道路交通法上の道路に当たることも明らかであるから、上記のとおり、本件通路が東側から本件県道に突き当たっていることを考慮すると、本件県道の、これに突き当たっている本件通路西端面と接する部分が歩道であるとすれば、本件通路と本件県道とは交差点を構成しないが、本件県道の上記本件通路西端面と接する部分が歩道でないとすれば、本件通路と本件県道とは、本件事故現場において交差点を構成することになるものということができる。

そして、道路交通法上、歩道とは、「歩行者の通行の用に供するため縁石線又はさくその他これに類する工作物によって区画された道路の部分をいう」(同法二条一項二号)ものとされているところ、上記(1)のア、ウの各認定事実によれば、本件県道は、その東西両側に、幅及び高さ約二〇センチメートル、長さ数メートルのコンクリート製縁石を連ねて成る縁石線によって車道部分と区画された歩道を有するものの、本件県道東側において本件通路が本件県道に突き当たる部分にあっては、本件通路幅に相当する部分を含みその幅員約五・六メートルよりもかなり長い縁石線の間隙部分があって、当該部分で縁石線が途切れていることが認められるのであるから、当該部分の本件県道東側に歩道が存在するということはできない。したがって、本件県道の本件通路西端面と接する部分は歩道ではなく、本件通路と本件県道とは、本件事故現場において交差点を構成しているものというべきである。

なお、本件県道東西両側の上記縁石線のやや中央線寄りの路面に、縁石線に沿い、白色ペイントによって外側線が引かれており、これは、本件事故現場の縁石線が途切れている部分についても連続していることは、上記(1)のウのとおりであるが、路面に白色ペイントによって引かれた外側線が、「縁石線又はさくその他これに類する工作物」に当たらないことは明白であり、上記事実があるからといって、本件県道の本件通路西端面と接する部分が歩道であるということはできない。

さらに、原告らは、本件県道の本件通路西端面と接する部分が歩道であることを前提として、車両の出入り口をすべて交差点と解さなければならない不合理があるとか、そのような道路を走行する者にとって、交差点が存在することが予測不可能となる等と主張するが、当該主張が、その前提を欠くものであることは上記のとおりである。

(3)  上記(1)、(2)の事実関係に照らすと、本件事故及び原告らの損害は、主として、車両運転者に課せられた、交差点を右折する場合に、反対方向から直進してくる車両の動静に注意して、その進行を妨害してはならない注意義務(道路交通法三七条参照)に違反した被告の過失によって発生したものである(被告に、この注意義務に違反した過失があることは、当事者間に争いがない。)と認められるが、原告X1においても、時速四〇キロメートルの最高速度の指定がある本件県道を、時速五二・五ないし六四・二キロメートルの速度で進行して本件事故現場手前に至ったものであるから、車両運転者に課せられた、最高速度を超える速度で進行してはならない注意義務(同法二二条一項参照)に違反したほか、交差点に入ろうとするときに、当該交差点の状況に応じ、反対方向から進行してきて右折する車両等に特に注意し、かつ、できる限り安全な速度と方法で進行しなければならない注意義務(同法三六条四項)に違反した過失があり、原告X1のかかる過失が、上記被告の過失と相俟って本件事故及び原告らの損害を発生するに至らせたものというべきであって、彼我の過失割合は、被告八五パーセントに対し、原告X1が一五パーセントであると認めるのが相当である。

したがって、本件事故によって生じた原告らの損害については、一五パーセントの過失相殺をすべきである。

(4)  原告らは、夜間の直線道路を走行する自動車の速度は最高速度を若干上回ることが通例であるから、原告X1が、本件県道の時速四〇キロメートルの最高速度を超過して走行していたとしても、それを危険な運転と評価することはできないと主張する。しかしながら、仮に、夜間の直線道路を走行する自動車が、最高速度を超過して走行することが通例であったとしても、それが適法で許される行為であると言うことはできないのであって、損害の公平な分担という趣旨に基づく過失相殺の適用に当たって、原告X1の速度超過の事実を同人の過失と評価することが何ら妨げられるものではない。

また、原告らは、被告が原告二輪車との距離が極めて接近した時点で右折したため、原告X1が最高速度である時速四〇キロメートルで走行していても本件事故を回避することは不可能であったのであるから、原告X1の速度超過を、同人の過失ということはできないと主張する。しかしながら、上記のとおり、車両運転者には、最高速度を超える速度で進行してはならない注意義務があるだけでなく、交差点に入ろうとするときには、当該交差点の状況に応じ、反対方向から進行してきて右折する車両等に特に注意し、かつ、できる限り安全な速度と方法で進行しなければならない注意義務を負っているのであって、原告X1が最高速度である時速四〇キロメートルで走行していれば、それで過失がなかったことになるものではない。のみならず、仮に被告X1が時速四〇キロメートルで走行していたとすれば、原告X1が被告乗用車と衝突した際の衝突速度は、本件事故における実際の衝突速度よりも相当程度小さいものとなり、その結果、被告乗用車との衝突によって原告X1が受けた衝撃の程度、ひいては、その衝突によって原告X1が受けた傷害の程度(したがって、原告らの損害の内容)も相応に軽いものとなった蓋然性の存在を推認することができる。そうすると、原告らの上記主張はいずれにせよ失当として採用することができない。

二  争点二(原告X1の後遺障害の程度並びに原告X2及び原告X3の固有の慰謝料請求権の有無)について

(1)  原告X1の後遺障害の程度

ア 原告X1に生じた後遺障害

甲第一四、第一五、第一六号証及び弁論の全趣旨によれば、原告X1は、本件事故に基づく頸髄損傷等の傷害により、両下肢完全麻痺、両上肢不全麻痺、排便排尿障害等の後遺障害を負ったこと、その後、リハビリテーションに取り組んだが、平成一五年九月三〇日には、その症状が固定したこと、上記後遺障害について、損害保険料率算出機構から自動車損害賠償保障法施行令別表の後遺障害等級第一級三号(神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、常に介護を要するもの)の認定を受けたことが認められる。

イ 原告X1の生活状況及び介護状況

甲第一四、第一五、第四〇号証、乙第二、第三号証、原告X1本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、日常生活上の主な生活動作に関しての、原告X1の生活状況及び同人が受けている介護の状況につき、以下の事実が認められる。

(ア) 移動

原告X1は両下肢完全麻痺の後遺症のために歩行が不可能であるから、移動は車椅子で行わなければならない。しかし、原告X1は、両上肢不全麻痺もあり、腕の力が弱いため、ベッドから自力で車椅子に移乗することが困難であり、移乗のためには、足乗せに介助が必要であるほか、全体につき見守りが必要である。また、手指の巧緻性を欠くため、靴履きに介助を要する。原告X1は、車椅子の通常の運転は自力で可能であるが、腕の力が弱いため、スロープを上ったり、安全にスロープを下ったりすることができず、その際には介助が必要となる。原告X1が自動車を利用する際には、リフトアップ機能の付いた助手席に着座することになるが、この時の車椅子から助手席への移乗にも介助を要する。

(イ) 食事

原告X1はスプーンやフォークを握ることはできないが、指の間に挟んで使用し、食事を摂ることが可能であり、取っ手のあるコップを使用することも可能である。しかし、手指の巧緻性を欠くため、食事の準備(調理、配膳)や片付けには介助が必要である。

(ウ) 更衣

更衣は上下とも困難であるが、上衣については、ゆるいものであれば、体を支える程度の介助があれば、ほぼ自力で更衣できる。下衣については、脱衣は一〇分程度の時間をかけて何とか可能であるが、着衣は介助が必要である。

(エ) 排尿排便

原告X1は、排尿排便障害のため、自然な排尿排便ができない。そこで、排尿についてはカテーテルを用いた導尿が必要である。原告X1は、多くの場合はカテーテルの挿入を自力で行えるが、挿入が困難な場合や適切な挿入に失敗する場合もあり、その場合には導尿や清掃につき介助が必要となる。この導尿は、夜間も含め、一日七回程度行っている。排便については、週二回程度、下剤を用いて排便した後、介助者による摘便を行う。排便の際は、下衣の脱衣、天井走行リフトを用いたベッドからトイレへの移動、摘便、シャワーによる洗浄など全般にわたって介助が必要である。

(オ) 入浴

原告X1は、車椅子に乗って浴室へ移動した後、浴室に設置されたリフトを用いて浴槽に入るが、その全般につき介助が必要である。洗体、洗髪はおおむね自力でも可能であるが、背部の洗体は介助が必要である。原告X1の入浴には一回当たり二時間程度の時間を要する。

(カ) 睡眠時

原告X1は自力で寝返りをうつことができないため、褥瘡予防のために、介助者が三~四時間ごとに体位交換をしなければならない。また、上記(エ)のとおり、定期的な導尿が必要であるため、体位交換時に合わせて、導尿を行っている。

ウ 原告X1の後遺障害の程度

上記ア、イで認定した原告X1の後遺障害の内容、同人の生活状況及び介護状況に照らせば、原告X1は、後遺障害のために自用を弁ずることができず、常時介護を要するものと評価すべきであり、その後遺障害の程度は、自動車損害賠償保障法施行令別表の障害等級に当てはめるとすれば、第一級に相当するものと認められる。

これに対し、被告は、原告X1の介護レベルについて、リハビリテーションセンターの診療録や看護要約(いずれも乙第三号証)の記載等を挙げて、原告X1は「多少自用を弁ずることができる程度のもの」と評価できるから、その介護レベルは随時介護のレベルであり、障害等級第二級に相当すると主張し、Aの意見書(乙第四号証)には、かかる被告の主張に沿う記載部分もある。

確かに、日常生活上の動作を細かく区切って評価すれば、被告が指摘する証拠に記載され、また上記イでも認定したように、原告X1が自力で行える動作があることは明らかである。

しかしながら、ある一つの日常生活動作について、そのうちの一部を自力で行えるからと言って、その日常生活動作につき介護が不要であると評価することはできない。すなわち、上記イのとおり、原告X1は、通常の路面で車椅子を自力で動かすこと、スプーンやフォークを指の間に挟んで使用して食事を摂ること、下衣の脱衣を自力で行うこと、自己導尿を行うこと、入浴中に頭髪や背部以外の体を自分で洗うことなどはおおむね可能であるが、車椅子への移乗の際や車椅子がスロープに差し掛かった場合、食事の準備(調理、配膳)や片付け、下衣の脱衣以外の更衣、自己導尿が困難な場合や失敗した場合、浴室への移動や背部を洗う場合などには、いずれも介助者による介助を必要とするのであり、また実際の介助が不要な場合であっても、原告X1が安全に動作を行うためには、相応の見守りが必要であると解されるのであるから、結局、主要な日常生活動作のうち、原告X1が完全に単独で行えるものはなく、いずれの動作においても相当程度の介護を要するものと言うべきである。

したがって、原告X1が随時介護で足り、障害等級が第二級に相当するとの被告の主張は、これを採用することができない。

(2)  原告X2及び原告X3の固有の慰謝料請求権の有無

上記(1)で認定した原告X1の後遺障害の内容及び程度並びに介護の状況等にかんがみると、原告X1の両親である原告X2及び原告X3は、原告X1が死亡した場合に匹敵する精神的苦痛を受けたものと認めることができ、そうすると、被告は、不法行為(民法七一一条)に基づき、原告X2及び原告X3に生じた精神的損害の賠償責任を負うものというべきである。

三  争点三(原告らの損害額)について

(1)  原告X1の損害

ア 医療費等 一九四万四〇〇〇円

乙第一号証及び弁論の全趣旨によれば、原告X1は、本件事故による傷害の治療及び後遺障害のリハビリテーションのために、医療機関へ支払うべき治療費及び転院の際の寝台自動車使用料として、合計一九四万四〇〇〇円(原告らの主張に従って千円未満を切り捨てる。)を要したことが認められる。

イ 入院入所雑費 九三万四〇〇〇円

上記第二の一の(2)のとおり、原告X1は、平成一三年一〇月一二日から平成一五年九月三〇日までの七一九日間、医療機関に入院入所したところ、その間に要した入院入所雑費は、一日当たり一三〇〇円として、九三万四〇〇〇円(原告らの主張に従って千円未満を切り捨てる。)であったと認めるのが相当である。

ウ 逸失利益(休業損害) 一億〇〇一二万八一八八円

(ア) 上記第二の一の事実に、甲第九号証及び弁論の全趣旨を総合すれば、本件事故当時、原告X1は一九歳の大学一年生であったことが認められ、また、上記二の(1)の認定に係る後遺障害の内容、程度に照らせば、原告X1は、その労働能力を一〇〇パーセント喪失しているものと認められる。

(イ) 原告X1は、本件事故に遭遇しなければ、平成一七年三月に二三歳で、大学を卒業した後、同年四月から六七歳時である平成六一年九月まで就労することができたものと認めるのが相当であるところ、その間の逸失利益は、平成一七年四月から九月までの六か月間分については、賃金センサス平成一四年第一巻第一表による産業計・企業規模計・年齢計の大卒男子労働者の「きまって支給する現金給与額」である月四二万九四〇〇円(六か月で二五七万六四〇〇円)を基礎とし、ライプニッツ方式により中間利息を控除して(四年のライプニッツ係数〇・八二二七)本件事故当時の現価額を算出すべきであって、その額は二一一万九六〇四円となり、また、平成一七年一〇月から平成六一年九月までの四四年間分については、賃金センサス平成一四年第一巻第一表による産業計・企業規模計・年齢計の大卒男子労働者の平均年収額六七四万四七〇〇円を基礎とし、ライプニッツ方式により中間利息を控除して(48年間のライプニッツ係数18.0771-4年間のライプニッツ係数3.5459=14.5312)本件事故当時の現価額を算出すべきであって、その額は九八〇〇万八五八四円となるから、結局、原告X1の本件事故による逸失利益は、これらを合計した一億〇〇一二万八一八八円となる。

(ウ) 原告らは、上記逸失利益以外に、原告X1が大学在学期間中に得られたはずであるとする収入について、休業損害及び逸失利益を請求する。しかし、原告らがその請求の根拠とするのは、原告X1の本件事故直前の一二日間(うち実働は五日)のアルバイト実績(一二日間で二万四〇八〇円の収入。甲第一八号証。)にすぎず、かかる事実だけでは、いまだ、その後の三年半の間についても原告X1が同等の収入を得られたであろう蓋然性を認めることはできないから、原告らの請求のうち、上記アルバイト実績を根拠とする部分は理由がない。

エ 将来の介護費用 六八七四万一九六〇円

(ア) 上記二の(1)のとおり、原告X1は、本件事故による後遺障害のために、日常生活における介護を必要とするところ、その後遺障害の内容程度、必要な介護の内容、程度を総合的に勘案すると、原告X1の介護に要する費用は、家族による介護については一日当たり八〇〇〇円、職業介護人による介護については一日当たり一万五〇〇〇円と認めるのが相当である。

(イ) 平成一五年一〇月一日から平成三七年九月三〇日まで(二二年間)

原告X1の母親である原告X3は昭和○年○月○日生まれであって(甲第三九号証)、原告X1は、症状固定日の翌日である平成一五年一〇月一日から、原告X3が七〇歳となる年の平成三七年九月三〇日までの二二年間は、原告X3の介護を受けることになると認められるから、その期間に要する介護費用は、年間二九二万円(一日当たり八〇〇〇円に三六五日を乗じた額)を基礎とし、ライプニッツ方式により中間利息を控除して(二二年間のライプニッツ係数一三・一六三〇)症状固定時の現価額を算出すべきであり、その額は三八四三万五九六〇円となる。

(ウ) 平成三七年一〇月一日から平成七一年九月三〇日まで(三四年間)

原告X1は、症状固定日である平成一五年九月三〇日の時点で二一歳であったところ、第一八回生命表参考表による二一歳男性の平均余命は五六年であるから、原告X1は平成七一年九月三〇日まで存命し、上記三四年間は職業介護人による介護を必要とすることが認められる。そうすると、当該期間に要する介護費用は、年間五四七万五〇〇〇円(一日当たり一万五〇〇〇円の三六五日を乗じた額)を基礎とし、ライプニッツ方式により中間利息を控除して(56年間のライプニッツ係数18.6985-22年間のライプニッツ係数13.1630=5.5355)症状固定時の現価額を算出すべきであり、その額は三〇三〇万六〇〇〇円(原告らの主張に従って千円未満を切り捨てる。)となる。

オ 家屋改造費等 一〇〇八万二〇〇〇円

(ア) 上記二の(1)で認定した原告X1の後遺障害の内容及び程度に、甲第二〇ないし第二五号証、第四〇号証、原告X1本人尋問の結果及び弁論の全趣旨を総合すれば、原告X1は、上記後遺障害により、原告らの既存の自宅では生活できなかったため、平成一五年九月に、自宅の敷地に身体障害者用居室を新たに増築したこと、その際、同居室に、原告X1のために必要な、身体障害者用のトイレ、浴室、天井走行リフト、車椅子用段差昇降機(昇降リフト)、電動シャッター、換気扇等の換気設備などの特別な設備を設置したこと、これらの設備の設置に要した費用は八四一万九〇〇〇円(原告らの主張に従って千円未満を切り捨てる。)であったことが認められる。

(イ) 将来の交換費用

a 甲第二二、第二五号証及び弁論の全趣旨によれば、上記(ア)の設備のうち、身体障害者用トイレに設置されたウレタン製台座の単価は七万二〇〇〇円であり、これは五年ごとに交換する必要があることが認められる。

そうすると、この台座は、原告X1の症状固定日(平成一五年九月三〇日)以降平成七一年九月までの五六年間に、五年ごと一一回の交換が必要であるところ、各交換時に支出する上記製品単価につきライプニッツ方式により中間利息を控除して得た症状固定時の現価額(原告らの主張に従ってそれぞれの千円未満を切り捨てる。)の合計は、上記第二の二の(3)のアの(ア)のeの(b)のⅰのとおり、二三万九〇〇〇円となる。

b 甲第二二、第二三、第二五号証及び弁論の全趣旨によれば、上記(ア)の設備のうち、電動シャッターの単価は二八万八〇〇〇円、天井走行リフト及び車椅子用段差昇降機の設置費用は二六四万一五〇〇円、換気扇等の換気設備の価格は九万七〇八〇円(合計三〇二万六五八〇円)であって、これらはいずれも二〇年ごとに交換する必要があることが認められる。

そうすると、これらの設備は、上記五六年間に二〇年ごと二回の交換が必要であるところ、各交換時に支出する上記製品単価合計額につきライプニッツ方式により中間利息を控除して得た本件事故時の現価額の合計は、上記第二の二の(3)のアの(ア)のeの(b)のⅱのとおり、一四二万四〇〇〇円(原告らの主張に従って千円未満を切り捨てる。)となる。

カ 自動車リフトアップシート 一五一万九〇〇〇円

上記二の(1)で認定した原告X1の後遺障害の内容及び程度に、甲第二四、第二六、第四〇号証、原告X1本人尋問の結果及び弁論の全趣旨を総合すれば、原告X1は自力で車椅子から自動車の助手席に乗り移ることができず、自動車の乗り降りのためには、自動車の助手席にリフトアップシートを設置することが必要であること、原告X1は、平成一四年六月に、助手席にリフトアップシートを設置した乗用自動車を購入し、その設置のために四九万八〇〇〇円を支出したこと、自動車の耐用年数は八年であるところ、新しい自動車を購入するのに合わせて、新しいリフトアップシートを設置することが必要であることが認められる。

そうすると、原告X1が、リフトアップシートを設置するのに要する費用は、上記の平成一四年六月購入分については四九万八〇〇〇円であり、その後平成七一年九月までの間に、八年ごと七回の買い換えが必要であるところ、各買い替え時に支出する上記単価四九万八〇〇〇円につきライプニッツ方式により中間利息を控除して得た症状固定時の現価額(原告らの主張に従ってそれぞれの千円未満を切り捨てる。)の合計は、上記第二の二の(3)のアの(ア)のfの(b)のとおり、一〇二万一〇〇〇円となる。

キ 障害者用器具等 一八六万九〇〇〇円

上記二の(1)で認定した原告X1の後遺障害の内容及び程度に、甲第二七ないし第三三号証、第四〇号証、原告X1本人尋問の結果及び弁論の全趣旨を総合すれば、原告X1は、車椅子本体、車椅子用品(フレーム、タイヤ)、車椅子用グローブ、介護用ベッド、エアーマットなどの障害者用器具及び紙おむつ、ビニール手袋、洗浄綿などの衛生用品を必要とすること、これらに要する費用は、年間一〇万円を下らないことが認められる。

そうすると、平成一五年一〇月から平成七一年九月までの五六年間分の費用は、一〇万円を基礎とし、ライプニッツ方式により中間利息を控除して(五六年間のライプニッツ係数一八・六九八五)症状固定時の現価額を算出すべきであり、その額は一八六万九〇〇〇円(原告らの主張に従って千円未満を切り捨てる。)となる。

ク 自動二輪車取得費用 八四万七〇〇〇円

甲第一、第三四号証、乙第七号証及び弁論の全趣旨によれば、原告X1は、平成一三年九月一五日に、原告二輪車を八四万七八二〇円(本体価格のほか、ドライブ用品価格、消費税、保険料、重量税を含む。)で取得したこと、原告二輪車は、本件事故により全損したことが認められるから、原告X1は、本件事故により、上記取得金額に相当する八四万七〇〇〇円(原告らの主張に従って千円未満を切り捨てる。)の損害を被ったものと認められる。

ケ 原告X1の慰謝料 二九六〇万〇〇〇〇円

(ア) 入院入所慰謝料

上記第二の一の(2)の原告X1の傷害の内容、程度、入院入所期間などの事情に照らすと、これに対する原告X1の慰謝料は三六〇万円とするのが相当と認められる。

(イ) 後遺症慰謝料

上記二の(1)で認定した原告X1の後遺障害の内容、その程度、原告X1の生活状況、生活上必要な介助の程度、その他本件に顕れた一切の事情を総合して勘案すれば、原告X1の後遺障害についての慰謝料は二六〇〇万円とするのが相当と認める。

コ 小括

上記原告X1の損害を合計すると、その額は二億一五六六万五一四八円となる。なお、原告X1の損害のうち、医療費等(上記ア)、入院入所雑費(上記イ)、逸失利益(上記ウ)、自動二輪車取得費用(上記ク)、慰謝料(上記ケ)の合計一億三三四五万三一八八円及び後記の弁護士費用ついては、本件事故日である平成一三年一〇月一二日から遅延損害金を付するのが相当であると認め、その余の、将来の介護費用(上記エ)、家屋改造費等(上記オ)、自動車リフトアップシート(上記カ)、障害者用器具等(上記キ)の合計八二二一万一九六〇円については、原告らの主張に従い、平成一五年一〇月一日から遅延損害金を付することとする。

(2)  原告X2及び原告X3の損害

原告X2及び原告X3の精神的苦痛を慰謝するための慰謝料は、原告X1の慰謝料額等を斟酌して、各一〇〇万円とするのが相当と認められる。

(3)  過失相殺

上記一の(3)の過失割合に従い、原告らの損害につき、過失相殺を行うと、原告X1については一億八三三一万五三七六円(このうち、本件事故日から遅延損害金を付するものが一億一三四三万五二一〇円、平成一五年一〇月一日から付するものが六九八八万〇一六六円)、原告X2及び原告X3については、各八五万円となる。

(4)  損益相殺

原告X1が、本件事故に起因して、損害保険金(自賠責保険金を含む。)五〇四四万八二四二円の支払を受け、平成一五年一月一七日、被告から見舞金三〇万円を受け取ったことについては、当事者間に争いがない。

これらの金員を、原告X1の損害から控除すると、その控除後の額は一億三二五六万七一三四円となる。なお、この損益相殺は、原告らの主張に従い、原告X1の損害のうち本件事故日から遅延損害金を付するものについて行うこととするので、上記金額の内訳は、本件事故日から遅延損害金を付するものが六二六八万六九六八円、平成一五年一〇月一日から付するものが六九八八万〇一六六円となる。

(5)  原告X1の弁護士費用

上記損害額、本件事案の内容、その他本件に顕れた一切の事情を考慮すれば、本件事故と相当因果関係のある損害となる、原告X1の弁護士費用は、一三二五万円であると認めることができる。

(6)  まとめ

よって、被告が、原告X1に対して賠償すべき額は一億四五八一万七一三四円(このうち、七五九三万六九六八円については本件事故日である平成一三年一〇月一二日から遅延損害金を付し、その余の六九八八万〇一六六円については、本件事故日の後である平成一五年一〇月一日から遅延損害金を付する。)、原告X2及び原告X3に対して賠償すべき額は各八五万円となる。

四  結語

以上によれば、原告らの請求は、不法行為又は自賠法三条に基づき、原告X1については、一億四五八一万七一三四円及びこのうち七五九三万六九六八円に対する不法行為の日である平成一三年一〇月一二日から、このうち六九八八万〇一六六円に対する不法行為の後である平成一五年一〇月一日から、各支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を、原告X2及び原告X3については、各八五万円及びこれに対する不法行為の日である平成一三年一〇月一二日から各支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を、それぞれ請求する限度で理由があるが、その余は理由がない。

よって、訴訟費用の負担について民事訴訟法六四条本文、六五条一項本文、六一条を、仮執行宣言につき同法二五九条一項をそれぞれ適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 石原直樹 近藤昌昭 足立拓人)

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